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通訳残留 13

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匿名ユーザー

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【最後から一つ前の章  新ジャンル 『現実に触れて困惑する』存在不適合者】
 
もしもあなたが新ジャンル学園に行きたいとする。
するとまずあなたは、学園の最寄り駅を目指すことになる。
地方のターミナル駅くらいの路線数―――大体10番線くらいまであるうちの一つに降りたったあなたは、停車中の車両に添って歩く。
目指すは改札口に通じるホーム下の連絡通路。乗降する忙しない人の流れに気を遣いながら、やがて下り階段にたどりつく。
階段を降りると、そこが連絡通路で、両脇に各種テナントを見送りながら、あなたはひたすらに進む。
連絡通路なんて、大概は色気のない淡白な色調と造りだし、テナントだって飲食店とか雑貨屋とかいろいろあると見せかけて、実際はありきたりで他でも見られる没個性的なものばかり。
そういう延々と同じ場所を歩いてるような気分にさせる通路をしばらく歩いて、改札に到着する。
改札の向こう側で、待ち合わせしてる人達が寄りかかる柱には、駅と半分繋がってるデパートの化粧品店なんかが広告を出してたりする。
他にも、まあそれなりに整って、けどやっぱりゴチャゴチャとしたいろんな広告が見えると思う。
或いはあなたに注意力があれば、広告に埋もれて意識の外に締め出された、駅そのものの装飾が見つかるかもしれない。
その筋では有名だけど、一般人にはピンとこないような作家が彫ったレリーフが、出入口の上部に大きくあったり無かったり。
まあ、そんなの、どうでもいい事ね。別に駅を見に来たわけじゃないだろうし。
 
改札に切符を通して・・・Suica?PASMO?へえ。まあいいわ。SuicaとかPASMOを通してあなたは改札を通り、そのまま外に出る。
夏なんかは急に照りつけられて目が眩むかもしれなけど、今くらいの時期なら直射日光はむしろありがいたかも知れない。 
陽の当たる広場があって―――出入口の脇にシュークリーム屋さんがあるけど、お金があるなら買ってもいいと思う。おいしいから。
で、その先には結構広めのバスロータリー。
円形のバスロータリーは背の高い建物――ビルが多いのはオフィス街とかの方で、方向によっては昭和っぽいモダンでくすんだ建物もいっぱいあるから。奥の方なんかは蔓草に一面覆われた・・・・・・
え?ああ・・・そうね。ごめんなさい。ともかくバスロータリーの周囲は高い建物で囲まれてる。
けど、まあ、当然の話だけど。全部囲まれてるってわけじゃなくて、半分くらいの空間は通りがあって建物はないわ。
駅前大通りっていうのがそれ。
ここであなたは学園行きのバスに乗り込んで、いくつかある駅前大通りのうちの一つを行く。
しばらくはいろいろとお店が並んでて、歩道を歩いてる人も多いけど、通りを抜けたらすぐに普通の街並に変わるはず。
人によっては田舎って言うかもしれないわね。
でもそれは駅前の方がいろいろと栄えてるってだけ。
ガラっと変わる風景は街が調子を切り替えたんだってことを伝えてる。そもそも学校の周りって静かな方がいいし。
 
ただ、あなたには、学園行きバスの停車場に並ぶ前に少し寄り道をしてほしい。
 
駅入口前の広場。
そこに立って右から左に見渡して、一番最後に目につく大通り。
他と比べると単純な直線で構成されてて、つき出た看板も宙に何本も線を引く電線も見当たらない。
空が道の先に向かって収束しているように見える程、人間的な雑然さが感じられないオフィス街。そこを行ってほしい。
旅行者や一般人には面白みのない、会社ばかりが並ぶ通りだけど、我慢して進んでみて。ちょっと行くと左に曲がる道があるから。
そこを曲がって――――そこから先は入り組んでるから説明は省くけど、駅前の騒音が聞こえなくなる方へ進めば大丈夫。
ちょうど駅前繁華街の周りに広がる住宅街へ向かう感じ。
ああ。そう言えば、一つ。
あんまり近くそびえ立ったビルに囲まれてると、たまに変な気分になるから気をつけて。
大通りのオフィス街くらいの近さでも危険だし、もっと狭い、ああいう入り組んだ路地なんかは特に気をつけた方が良い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・そう。ならいいわ。訳が分からないくらいの感性を持ってた方があそこは安全。
別に・・・脅してはいない。ただ、今私がいる古本屋の店主さんが前にそんな事を言ってたから。
何でか、なんて口では上手く説明できないけど、それなりに納得できた話だったんでこうやって受け売りを言ってみただけ。
・・・・・・・・・・・・そう。ええ。そうね。
その先にある、古本屋に私はいる。
なんでこんな所に喫茶店や定食屋があるんだって思うような場所。
道路を挟んだ反対側は、あなたが抜けていったオフィスビルが一面に並んでる。そこにある古本屋さん。
・・・・・・・・・・・・・・
そうね。
別に私がそこにいるからって、あなたが立ち寄る理由にはならないわね。
ごめんなさい。さようなら。
 
   ◇
床に積み上げられた本が、狭い店内を余計狭くしている古本屋。現在そこの客層は、リピーターに限定されていた。
 
切れ長の目と色白の肌をした、肩の上くらいの長さの髪の少女。
彼女は一年ほど前にこの店に現れてから、ちょくちょく顔を出している。
大体週に一度から月に数度現れる感じで、大抵は一時間ほど立ち読みをし、ときたま100円本を買っていったりする。
ごくたまに物好きな女店主さんに誘われて、奥の居住スペースに上がりお茶をよばれていたりした。
買っていく100円本の種類は、節操がなく、前回純文学を買っていったかと思うと、今度はバブル時代の古い女性誌を買っていくことも。
好みが良く分からない少女だったりする。ただそれも、あまり物事に固執しない性格ゆえなのだろう。
何度も会話を交わしているうちに分かった、そんな彼女の性格を、店主はそれなりに好ましく思っていた。
今は店の真ん中にある本棚の前で大人しく本を読んでいる。たまに髪をかきあげるが、しぐさが整っていて美しい。
 
そんな彼女から少し奥の方。
切れ長の瞳の少女が向かっているのとは反対側。
店の壁面に立つ本棚で品定めをしている少年は、夏ごろからこの店に通うようになっていた。
実際には少年というより青年と言った方がしっくりくる顔立ちの彼も、斜め後ろの少女と同じくらいの頻度でやってくる。
どうも受験生らしく、この店に来た理由も古い参考書を探しての様であった。
ただ最近定位置が変わった事から、店主は彼の受験が終わったのだと考えていた。
取り立てて特徴のない容姿の彼をしかし、店主が奥にあげる事はあまりない。
彼がリピーターになった経緯故か。単純に男と女という関係のため、少女に対するほどの気安さがないからなのか。
まあ男女の隔たりと言うのなら、彼女の店にもっとも頻繁に出入りしている客が男性なのだから、あまり関係ないのかもしれないが。
 
それから、カウンターからは死角になっている、切れ長の少女の立つ棚の裏側。
旅行関連の本のスペースのうちの一つ。
比較的最近のガイドブックや旅行雑誌が並べられたそのスペースには現在、虚ろな瞳をした少女がいるはずである。
彼女はリピーターと言っても、つい最近出入りするようになったばかりだった。
初めて来店した際にお茶菓子を振舞われているが、それ以上は特に何もない。
女店主が話しかけるのは、いつも、ではないが興に乗っていればよくある事だったから、それが理由という訳でもないだろう。
 
結局、この、駅前繁華街から締め出されたような位置にある本屋に、何度も来たいと思う理由なんて、聞かないと解らない事であった。
よく見かける間柄であっても、古本屋と言う半ば没交渉な場では、こんなにも意思が伝わりにくいのだ。
そもそも、最も頻繁に来店していて交わす会話も多い、半ば従業員のような扱いを受けている常連の青年からして、何故来ているかの理由はあやふやであった。
各々がこの場にいる理由は、各々だけが真に理解していれば良い事だし、本人でさえ解っていなくとも、それはそれでおかしな事だとは店主は思わない。
人間とは、明確な意思を持って行動することの方が稀で、大半は何か正体の良く分からないモノに流された結果なのだから。
おそらくは常連やリピーターになることそのものが、『気が付いたら』なっていた場合が大半なのだろう。
 
やる気のない古本屋の女店主は、そんな風に心中で締めくくると、灰皿や週刊誌なんかが散乱したカウンターに頬杖をついた。
と、散乱した小物の中に未開封の煙草の箱があるのに気付く。
手にとってみれば「MILD」のMがWになったマイルドセブンのコピー商品だった。
女店主は小さく鼻を鳴らす。
タバコはいつだったか、常連の青年に買わせたものだった。
今となっては良く覚えていないが、記憶では確か、戯れに負けた方が勝った方の言うことを聞くと言うルールでオセロか将棋をさし、その褒賞として青年を使いっぱしりにした時の事だった。
丁度タバコをが切れていたので、『一丁駅前大通りまで言って買ってこいっ』と指図したのがいけなかった。
いや、むしろその際に、あれこれと細かく指示を与えたのが問題の本質なのだろう。
頼みの品とは似ても似つかぬ奇妙な一品を持ってきた青年に彼女が問いただすと、『店主さんの言ったようなモノなんてっ、ありませんでしたよっ』なんて返されてしまった。
憮然とした口調からすると、彼女が『有りもしない物を要求して、駅前を駆けずりまわせて笑いものにしようとしている』 と誤解したのかもしれない。
店主からすれば、心外な話であった。
この世に存在しないものを要求したわけでもない。ちょっと外国産なだけなのに、プリプリされても困るのだ。
それでも、以来、この女店主は、LARKとかピースみたいな一般的な国産のタバコにも手をつけるようになっていた。
あるいはこの事がきっかけで、彼女には珍しく、少しは世間に合わせようという気になったのかもしれない。
 
「はん。ワイルドセブンて、、、昔の警察アクション漫画かい」
箱を指先で弄びながら、店主は呟いた。
やがておもむろに薄いプラスチックの包装を開けると、シガレットを取り出しくわえる。
火をつけるべくポケットをまさぐりキョロキョロとあたりを見回していたが、やがてカウンター上の遠く離れた位置にジッポライターを見出した。
『ほっ、と』
そんな年寄りめいた掛け声とともに、体全体を思いきりのぼしてライターを捕まえると、煙草に火をつけた。
途端、なんとも言えない奇妙な味と香り、それから煙がわき起こる。
普段吸っているモノとは似ても似つかぬのは確かであったが、不味い、と断じ切れる程ではない。
が、逆にそれが店主を、煙草を吸っている筈なのに、酷く落ち着かない気分にさせる。
きっと紫煙に微かに混じる、鼻をつくエキゾチックな香辛料の香りのせいでもあるのだろう。
彼女はすぐさまタバコを山盛りの灰皿の中に突っ込んだ。くすぶっていた煙が名残惜しそうにブスリと消える。
気分を反映した名状しがたい変な顔で、今しがた開けたばかりの箱を手にした。見ると、製産国は『中華民国』となっている。
「なんだいこりゃ?アイツ本当どこで買ってきた?」
そんな風にぼやきながら、店主は常連の青年の事を意識の上にのぼらせた。
かつて、この煙草を買ってきた常連の青年であるが、珍しいことにこの日はまだ一度も顔を出していない。
ほとんど毎日来ているし、彼が来ない時は普通他のお客さんだって来ないものなのに。
今は青年を欠いた店内に、常連ではないが一見でもない客が数人いるだけである。
『珍しい事もあるもんだ。』
そうひとりごちる。
別に常連の彼がいようがいまいがどうでも良いのが実際だったが、奇妙なタバコを買ってきた『報いと報償』をすぐさま与えてやれない、というのは居心地が悪かった。
そもそも青年が彼女の店にやってきたのは、一年以上前。
雨が降っていた日だったか、晴れていた日だったのか。暑かったのか寒かったのか。
天候や季節の記憶も定かではないが、酷く陰鬱な日であったのは確かである。
鬱っぽい気分が印象的だったその日、彼女が久しぶりに棚整理をしようかと考え、カウンター内の椅子から立ち上がると、唐突に出入り口の扉が開き
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               ◇◇◇◇◇―――――おっと・・・◇◇◇◇◇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
◇◇◇◇◇こいつはまた別の話だったね。どっちにしろ今は語るつもりはねえから◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇さて、と。◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇で、どうだった?お客さん◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇あんたは彼女の物語にここまで付き合ってきたわけだけど、それも次の章で終わりだよ?◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇感慨を求める訳じゃないけどさ。お姉さん、あんたにお別れの準備くらいはさせてあげようと思ってね◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇この先彼女と出会う事があっても、今回ほどその心を覗くことなんて、そうそう無いだろうから、ね◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇ああ、そうそう。お別れの準備は、彼女が最後に私の店に立ち寄った章の事を思い出すのが一番のオススメだよ?◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇ま、強制はしねーけど◇◇◇◇◇
 
        ◇
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                                               
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
        ◇
 
なんて事があったので、彼女も久しぶりに棚整理でもする気になったのか、椅子から腰を浮かせる。
 と、店の扉が勢いよく開けられたかと思うと、数人の少年達がなだれ込むようにして店に入ってきた。
 しじまは、彼等の会話でいとも簡単に塗りつぶされる。先客のリピーター三人は、それぞれ微妙に違う動きではあったが、一様に入口の方に目をやった。
 
「ここだっけ?通訳が言ってたトコって」
「っつかさみーよ。おいこら男ぉ、てめえ外何時間歩かせんだよ、サイゼリ屋さんでパスタおごれラーメンは不可死ね」
「俺に言うなよ・・・通訳が指定したんだからさ。それから何時間って俺達、一時間も歩いてないだろ?」
「あのな?俺がさ、オメーみてーなフェロモン発生装置と女の子に同じような態度取れるわけねーだろお?よってこの罪はお前に帰するんだよティラミス(笑)」
「あいあい・・・・じゃあワリカンでご勘弁を。ネコミミ、こいつになんか言ってくれ・・・・」
「ノーコメでご勘弁を。男友とは長い付き合いだけど、極力スルーの方向で。」
「へへっ、てめえ、隙を見せやがってw」
「あっ、ちょ、頭の布取るなうわ耳がっ、耳があああっ!」
「そして俺は目がああああああっ!!
 でも大丈夫。何故なら、寒空の下迷路のような路地裏を、体感時間的に数時間にも及ぶ強行軍した俺のテンションがあるかr―――――オウ、ガッ!デミッ!」
「どしたー?」
「ごめん帰る」
「うえっ、ちょ、まだ来たばっかだよwお前は何を言ってるんだwwww」
「都市がいる・・・」
「は?」
「都市伝説の奴だよ!なんでここにいんだよお!!」
「―――――それより男友、耳から白い糸が出てるよ?」
「ひいっ!!!!!」
「おい、お前らこんな所で何やってんだ?
―――――それより男友、耳から白い糸が出てんぞ?抜いてやるよ。みっともねーから。」
「あ、都市。やあ。・・・・・・って男友うるさいっ。
俺達さ、ほら。この前旅行行くって話になったよね?それでガイドブックとか探しててさ。」
「・・・・・そうか・・・・・・ん?ガイドブック?なら古本屋より新書店の方が良くないか?」
「いや、男の知り合いがさ、ここに良いのがイロイロとあるって言ってるらしくて・・・・・・・先に来てるはずなんだけど・・・えーっと、あっちの棚の裏かな?」
「裏じゃないか?いるっぽい―――ああ、いたいた。お~い。通訳~」
 
新しい来客は、和気あいあいといった様子で、リピーターの虚ろな瞳少女がいるであろう棚の裏側へと歩いて行く。
いきなり集団で来られる事なんて滅多にないのだろう。
椅子から腰を浮かせた体勢で店主は僅かに顔をしかめていたが、すぐさま営業用の貌を取り繕う。
とりあえず『いらっしゃい。』と目の前を通り過ぎる少年達に声をかけ、彼等が本を持ってくるのに備え、散らかったカウンターを整理し始めた。
そうしてしばらくは、カウンターからは死角になっている本棚の向こう側から、
『うはっwww狭いwww』『確かに本格的な古本屋っぽいな。ブックオフとは感じ違うぜ』『神保町の古本屋とかこんな感じだよ。俺行ったことあるけど。』
といった興奮した話声が聞こえていた。
それらも少し経つと、小さなボソボソと言った会話になる。
僅かに活気を帯びながらも、再び静けさに包まれる店内。
やがて数分程して本棚の裏側から、二人、店主のいるカウンターにやってきた。
 
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「あいよ。」
「今、横浜と鎌倉のガイドブックとか紀行文を探してるんですけど、あそこの棚以外にもありますか?」
目の前に立つ二人のうち片方の言葉に、店主は少し目を丸くした。
何故か驚きの表情を向けられ、戸惑いの色をにじませる相手の前で、少しずつ。
少しずつ、店主の顔が笑いの表情を形成しはじめる。
さざ波のように瞳の中に愉快な感情が広がり、それらが顔全体の筋肉に波及するように、口元が曲線を描いていった
とうとう堪えきれなくなったのか、店主は顔をうつ向け『ククッ』と漏らす。
「あの・・・・」
「・・・・・クククッ、なるほどなるほど・・・」
「あの、、、どうしました?大丈夫ですか?」
「ん?ああ、ダイジョブダイジョブw
それで、紀行文だっけ?丁度今、良いのが入ってるよ。少し待ってな。」
 
心底愉快そうに。
店主は店内から本を取りに、カウンターの椅子から立ち上がる。
すれ違いざま二人の顔を見やった。
一人は虚ろな瞳をした髪の長い少女。先程からこの店にいるリピーターである。
もう片方は―――眉間に皺の跡がうかがえる、気難しい表情の少年だった。
 
いろいろと他人の事情に想いを馳せながら一人、店内を行く女店主の口元は、明らかにほころんでいる。
「クク、、『現実に触れて困惑する存在不適合者』ねえ、、ははっ、
ははん。いいね。若いってのは。」
 
そんな独り言を洩らす女店主の背中に、切れ長の瞳の淡白少女が視線を送った。
埃っぽい店内は蛍光灯に照らされてはいたが、それ以上に出入口とその付近の窓から差し込む光が強かった。
明るい店内は人の気配に満たされて。
窓から見える、正面のオフィスビルの寒色が、快晴の空のように見えたのは言うまでもなかった。

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