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「コーヒーを飲むか、紅茶を飲むか」(2015/07/08 (水) 23:19:44) の最新版変更点
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#contents
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*****登場人物
リン・カンサグラ:
主人公。女学生。母親が女子寮を営んでいて、そこで住みながら学校に通っている。
友達とカフェに行きたいという願望がある。
エルザ:
リンの友人。基本的にテンションが高い。甘味好き一号。考えてることが顔に出やすい性格。
実は隠れ紅茶マニア。
オリゼ:
リンの友人。お嬢様っぽい口調で話すが、悪い人ではない、多分。甘味好き二号。とても頭がいい。
自分で焼いたクッキーをリンの寮に持ち込み、コーヒーを飲みながら皆で食べるのが楽しみ。
-----
*****プロローグ 少女の悩み
リン・カンザクラは考える。
すでに日が落ちて暗くなった自室で、明かりを灯すこともなく、彼女は冴え渡る頭脳をぐるぐるとまわし、考えに考えている。
(やはりここは紅茶か……?)
コーヒーを飲むか、紅茶を飲むか。
何の変哲もない二択であるが、彼女にとってはそれがただならぬ問題であるらしかった。
彼女の苦悩を理解するには幾ばくかの時間を遡(さかのぼ)らなければならない。
ことの始まりはそう……
*****第一章 突然のお誘い
「リンー、今日暇ー?」
甲高い声が、唐突に私にかけられる
嫌な予感を感じ、ゲッソリしてる私に、彼女は容赦なく言葉を続ける
「あのねー、今日、一緒に紅茶飲まない?」
「…はい?」
彼女、エルザは、学年でも一二を争う甘味好きで有名であったが、
彼女がそれ以外のもので人を誘うことなんて珍しく、
それゆえ、私は思わずすっとんきょうな声を上げてしまっていた
私の返答ともいえない反応に、エルザは説明の必要を感じたのか、更に言葉を重ねた。
「甘いものには紅茶が合うでしょー?」
「はぁ…」
エルザは甘党ではあったけれど、わざわざ紅茶を飲もうなどと迂遠な誘い方をする子だっただろうか? などと考えていたせいか、私の返事はひどい生返事になっていた。
「とにかく、私と紅茶を飲みましょう!」
エルザは私の反応にじれたのか、そう言い残してひらりと立ち去ってしまった。
いまいち状況がつかめないまま取り残される形になった私は、まぁ暇は暇だしいいかと思いながら振り返った。
「あら、リン」
そこでハスキーな声で話しかけてきたのはどういう因果か、学年で一二を争う甘味好きなオリゼだった。
私はまたしても嫌な予感を感じて思わず身構えたが、構わず彼女は言葉を続けた。
「今夜私とコーヒーを飲みません?」
「・・・はい?」
*****第二章 らしくない彼女
「ですから、私とコーヒーを飲みましょうと言っているのです」
聞こえませんでしたか?と言いながら、長く伸ばした髪の端を弄るオリゼ
彼女は確かに、ケーキやクッキーと一緒にコーヒーを飲むのが好きなたちなのだが、
私にコーヒーを飲みましょうと誘ったことは無い
「突然のことでビックリしてしまいまして。貴方からコーヒーを一緒に飲もうなどと誘われたのは初めてですから」
「あら、そうでしたか? てっきり何度も誘ったことがあると思っていましたのに」
そういうオリゼの言葉に、ほんの少しの嘘を感じ取る
彼女は、成績では並のレベルである私が言うのもどうかとは思うが、
とても聡明で、頭のいい女性だ
(なのに、忘れていた・・・というのは、どこか彼女らしくない気がする)
そう思ったものの、口に出すのはどうかと思い、
引き続き喋ろうとしている彼女の話を、黙って聞くことにする
「これが初めてなら、なおさらお誘いしなければなりませんね。」
そういってにっこりと笑ったオリゼの表情には、どこか裏を感じさせる影があった。
(これは安易に返事をしないほうがいいのかもしれない)
「お誘いはうれしいのですけど、実は先ほど……」
「エルザさんに誘われたんですの?」
私が全てを言い切るまえに、オリゼは言った。
「…え、えぇ」
まるで最初から知っていたかのようなオリゼの発言に、私はまたまた生返事を返すことになった。
オリゼはすこしの間目を伏せると、いたずらがばれた子どものような表情で私にこう言った。
*****第三章 説明タイム
「あの子も抜け目が無いですわね。まぁ、当然と言えば当然でしょうが」
あの子があちら側に行ってしまったのは、本当に残念ですわ・・・と、独り言をつぶやくエルザ
一方、私の方は全く話の流れが見えない
「あの、オリゼさん?」
「あら、どうしました、リン? そんな他人行儀な呼び方しなくてもいいですのに」
「話が読めないのですが・・・」
そう言われてキョトンとした顔をするオリゼ
「あら、エルザさんから誘われたのではないのですか?」
「えぇ、誘われましたけど・・・ちゃんとした説明はしてくれませんでしたし」
「なるほど・・・あの子も人が悪いですわねぇ」
何か納得した表情のオリゼ
一方の私は、さらに話が見えなくなってきている
「リンは休んでたから知らないのでしょうけど、実は昨日、食堂に新しくカフェが増設されることが決まりまして」
「あら、それは良いことではないですか」
その話が事実なら、私にとっても朗報である
女子寮住まいの私にとって、学校の最寄り駅まで行かないとカフェが無いこの環境は、
充実しているこの学生生活の中で足りないものの一つであった
「そこで、新しいカフェのコンセプトについて、生徒会の方でいろいろ話し合われていたのですが」
状況を整理している私に構うことなく、オリゼは話を続ける
「コーヒーをメインにする派と紅茶をメインにする派で見事に分かれてしまいまして」
「あぁ、それで今朝、皆さん様子がおかしかったのですね」
どうやら、事態は思った以上に大きな話であったようだ
紅茶メインの場合とコーヒーメインの場合では、お菓子のメニューも変わってくるだろうし、
当然ドリンクの品ぞろえも変わって来るだろう
「そこで、生徒会が下した結論が、明日・・・つまり、今日ですわね、から3日間、
コーヒーと紅茶を販売してみて、売り上げが多かった方をメインにしましょう、と」
「なるほど」
つまり、手っ取り早い話、これはこの学校のカフェの未来を決める、生徒による投票のようなものだ
そして、エルザは紅茶を、オリゼはコーヒーを推している
(・・・思った以上に面倒なことに巻き込まれたのかもしれないですね)
結局、オリゼとも明確な約束をすることなく別れ、私はなんとも中途半端な状態で紅茶派とコーヒー派の間に浮かぶことになってしまった。
偶然通りかかった人に話を聞くと、どうやらこの話(カフェの未来を決める話)はけっこう有名というか、もはや知らない人の方が珍しいような有様の話題のようで、すぐに色々な噂を聞くことができた。
紅茶派とコーヒー派はとくにいがみ合っているというわけではなく、紅茶を飲んでいたと思ったらコーヒーを注文したなんて人もいるとか。
中には緑茶派やココア派などの少数派もいるらしく、どうにか売り上げを伸ばして二大派に食い込もうとしているとか。
エルザさんの好物はさくらもちだから緑茶派のはずとか。
真偽はともかく、つらつらとでてくる噂の数々に、今一番ホットな話題であるらしいことは十分に察することが出来た。
(どちらも飲むにしても、どちらを先にするかは考えないといけないかもしれません…)
少なくとも、下手なことをすると奇妙な噂を立てられかねない状況であるのは間違いなかった。
*****第四章 悩ましい二択
「ふぅ、レポート終わりっと」
他に誰も居ない自室で、一人つぶやく
結局どうするか決めきれないまま悩んでいたら、あの後の授業で運よくレポート提出の課題が出たので、
それを口実に二人に断りを入れた
「それにしても、どうしましょうか・・・」
やるべきことから解放されると、やはりそのことに考えが巡ってしまう
多分、明日も明後日も、彼女たちは私を誘いに来るのだろう
正直なところ私は、ちゃんと学内にカフェができるのであれば、何がメインであってもかまわない
ただ、今の学内の状況を考えると、周りはそうは見てくれそうにない
エルザと先に紅茶を飲みに行けば「紅茶派」に、
オリゼと先にコーヒーを飲みに行けば「コーヒー派」に分類されてしまうのだろう
「どうしたものでしょうねぇ・・・」
そして時間は冒頭に戻る。
「・・・でもコーヒーもやっぱり捨てがたい・・・」
(ううん、ちょっと整理してみましょうか・・・)
(紅茶・・・甘いものを食べつつも、その甘さを邪魔しない。それに香りを楽しむもよし、喉を潤すもよし。お喋りをしながら優雅なひとときを過ごせるだろう)
(コーヒー・・・紅茶とは逆に程よい苦味が甘さを際立たせる。美味しいお菓子をより美味しく。あるいは1人で気分転換したいときにもいいだろう)
どちらも欲しいがどちらかは諦めなくてはならない。
無論、仮にコーヒーがメインになったとして紅茶が完全になくなるわけではないだろう。
しかし、メインに選ばれなかった側はおそらくこれからも選ぶことはそうないだろう。
なにより今後エルザとオリゼとの関係に影響を与えるかもしれない。そしてそれに付随する噂も。
「・・・これ、もしかしなくても正解なんてないんじゃ・・・」
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-----------
-----
「朝よー。いい加減起きなさーい。」
朝。普段は目覚ましと同時に目を覚ます私だが結局悩んでいる内に夜更かししてしまったのだろう。
母に起こされる羽目になってしまった。
「いまいく-」
階段を降りてみれば既に朝食の準備は整っていた。
*****第五章 思わぬ大ヒント
「紅茶にする? それともコーヒー?」
「・・・えっ?」
突然の母からの問いかけに、私は心底驚いた。
まさかこんなところまでカフェの噂は広がっているのだろうかと思ったのだ。
「なに、なにかあったの?」
母の訝しげな視線に、私は自分の勘違いに気付く。学校のカフェのメインを決めるのに、母が関与してくる道理はなにもなかった。
(ちょっと神経質になってたかも・・・)
「ふぅ・・・」
私が思わず吐いたため息を聞いて、母は何を勘違いしたのかこういった。
「なに、まさか両方飲みたいなんてことないわよね?」
そこにはおもむろにカップを二つ用意する母が居た。
「そっか、その手があった!」
思い立ち、電話をするために、2階の自分の部屋へ走る
先に朝ご飯を食べていた先輩や母がキョトンとした顔をしているが、気にしない
鞄の上に置いてある携帯電話を手に取り、約束を取り付ける
用事を済ませ、再び食堂に戻ったら、呆れたような顔で母が待っていた
「あなた、面倒なことに巻き込まれたのねぇ・・・」
私が電話している間に、食堂に居た先輩からいろいろ聞いたらしい
ご飯中に席を立ったことを怒られるかな、と思ったけど、怒ったりはしていないらしい
「で、一晩悩んだ甲斐はあったの?」
「うん、何とかなると思う」
「そう」と相槌をうち、「じゃ、頑張りなさい」という言葉だけ残して、キッチンに向かう母
その背中に小さな声で「ありがと」と返し、私は少し冷めた朝ご飯を食べることにした
*****第六章 これが私の最適解
いつものように学校に登校しいつものように授業を受ける。
しかし、放課後はいつもと違う時間となった。
「さて、これはどういうことか教えてもらえる?」
「リン。もしかして、そういうこと?」
前者はエルザ、後者はオリゼの言葉である。
どうやらエルザと違いオリゼは大体の状況を察している様子。もしかするとエルザも把握した上での言葉かもしれない。
「どういうこともなにも、私は紅茶もコーヒーも飲む気分だったというだけなのだけど?」
私の言葉にエルザは頬を膨らませ、オリゼは小さく嘆息する。
「どちらも美味しいのだからどちらも楽しむのが筋というものでしょう?」
「でもそれじゃっ・・・むぅー。」
私の言葉に一瞬反論しようとするエルザだったが、エルザの目論見が私には関係ないこと。
「それ以上言うとリンは私と二人でコーヒーを飲むことになるわよ?
エルザも往生際の悪いことを言わないで諦めた方がいいのではないかしらね」
「うー、分かってるわよー。」
そして、私自身は結果に全く拘っていないことに思い至ったのだろう、仕方ない、といった様子で納得したようだ。
「それじゃ、二人のお薦めの組み合わせを楽しませて貰おうかしらね?」
私は笑顔で三人でのお茶会の開始を宣言したのだった。
*****エピローグ 新たな悩み
リン・カンザクラは考える。
すでに日が落ちて暗くなった自室で、明かりを灯すこともなく、彼女は冴え渡る頭脳をぐるぐるとまわし、考えに考えている。
(やはりここは紅茶か……?)
コーヒーを飲むか、紅茶を飲むか。
何の変哲もない二択であるが、彼女にとってはそれがただならぬ問題であるらしかった。
新しくオープンしたカフェは、結局メインを決めることなく、紅茶もコーヒーも緑茶も、果ては抹茶やそば茶なんかもメニューにならぶことになった。だが、その豊富なメニューを支えるために、経費を増やすことはできなかった。
そこで、カフェは特殊な注文システムを採用することになったのだ。注文は前日に行い、翌日に渡されるシステム。つまりは食券を前日に買うというシステムである。
(カフェに着くまでには決めないと……・)
豊富なメニューは今日も彼女を悩ませるのだった。
<<あとがき>>
久々のリレーSS!
読んでくださった皆さん、楽しんでいただけましたでしょうか?
いやしかし、こういうシンプルなテーマの日常系はいいですよなー
どんどんネタが湧いて出てきますしー
・・・そして、なかなか終わらなくなってしまうのは、もはや自分の物書きの仕様・・・
予想外の展開や設定に悪戦苦闘しつつ、楽しんで書けたので、満足満足
さぁ、皆もどんどんリレーSSやろうぜっ!
by.サイアン
飛び入り初参加のリレーSSでした。
おっかなびっくり、でも楽しく書かせて頂きましたです。
無茶ぶりじゃないですけど、皆で書いてると物語の方向を決定づける部分を書くのは勇気がいりました。どきどき。
作者にして読者、書いてるのに続きもわくわくなリレーSS、皆さんの参加もお待ちしてるのです!
機会があれば、あるいは呼んでもらえれば、リインもまた参加するですよー!
by.リインフォースⅡ
せっかくクリエイターに仕官したならSSでしょ! と思って無茶振りしたリレーSSだったけど、続きを書いて、みんなで完結させられてうれしかった!
プロローグとエピローグを私が担当するという偶然に運命的なものを感じてしまったよ。
どんどんふくらむ設定と予想外の展開に、自分だけでは作れない物語のたのしさを感じたよ! また機会があったら参加するよ!(アッカリーン)
by.赤座あかり
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*****登場人物
リン・カンサグラ:
主人公。女学生。母親が女子寮を営んでいて、そこで住みながら学校に通っている。
友達とカフェに行きたいという願望がある。
エルザ:
リンの友人。基本的にテンションが高い。甘味好き一号。考えてることが顔に出やすい性格。
実は隠れ紅茶マニア。
オリゼ:
リンの友人。お嬢様っぽい口調で話すが、悪い人ではない、多分。甘味好き二号。とても頭がいい。
自分で焼いたクッキーをリンの寮に持ち込み、コーヒーを飲みながら皆で食べるのが楽しみ。
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*****プロローグ 少女の悩み
リン・カンザクラは考える。
すでに日が落ちて暗くなった自室で、明かりを灯すこともなく、彼女は冴え渡る頭脳をぐるぐるとまわし、考えに考えている。
(やはりここは紅茶か……?)
コーヒーを飲むか、紅茶を飲むか。
何の変哲もない二択であるが、彼女にとってはそれがただならぬ問題であるらしかった。
彼女の苦悩を理解するには幾ばくかの時間を遡(さかのぼ)らなければならない。
ことの始まりはそう……
*****第一章 突然のお誘い
「リンー、今日暇ー?」
甲高い声が、唐突に私にかけられる
嫌な予感を感じ、ゲッソリしてる私に、彼女は容赦なく言葉を続ける
「あのねー、今日、一緒に紅茶飲まない?」
「…はい?」
彼女、エルザは、学年でも一二を争う甘味好きで有名であったが、
彼女がそれ以外のもので人を誘うことなんて珍しく、
それゆえ、私は思わずすっとんきょうな声を上げてしまっていた
私の返答ともいえない反応に、エルザは説明の必要を感じたのか、更に言葉を重ねた。
「甘いものには紅茶が合うでしょー?」
「はぁ…」
エルザは甘党ではあったけれど、わざわざ紅茶を飲もうなどと迂遠な誘い方をする子だっただろうか? などと考えていたせいか、私の返事はひどい生返事になっていた。
「とにかく、私と紅茶を飲みましょう!」
エルザは私の反応にじれたのか、そう言い残してひらりと立ち去ってしまった。
いまいち状況がつかめないまま取り残される形になった私は、まぁ暇は暇だしいいかと思いながら振り返った。
「あら、リン」
そこでハスキーな声で話しかけてきたのはどういう因果か、学年で一二を争う甘味好きなオリゼだった。
私はまたしても嫌な予感を感じて思わず身構えたが、構わず彼女は言葉を続けた。
「今夜私とコーヒーを飲みません?」
「・・・はい?」
*****第二章 らしくない彼女
「ですから、私とコーヒーを飲みましょうと言っているのです」
聞こえませんでしたか?と言いながら、長く伸ばした髪の端を弄るオリゼ
彼女は確かに、ケーキやクッキーと一緒にコーヒーを飲むのが好きなたちなのだが、
私にコーヒーを飲みましょうと誘ったことは無い
「突然のことでビックリしてしまいまして。貴方からコーヒーを一緒に飲もうなどと誘われたのは初めてですから」
「あら、そうでしたか? てっきり何度も誘ったことがあると思っていましたのに」
そういうオリゼの言葉に、ほんの少しの嘘を感じ取る
彼女は、成績では並のレベルである私が言うのもどうかとは思うが、
とても聡明で、頭のいい女性だ
(なのに、忘れていた・・・というのは、どこか彼女らしくない気がする)
そう思ったものの、口に出すのはどうかと思い、
引き続き喋ろうとしている彼女の話を、黙って聞くことにする
「これが初めてなら、なおさらお誘いしなければなりませんね。」
そういってにっこりと笑ったオリゼの表情には、どこか裏を感じさせる影があった。
(これは安易に返事をしないほうがいいのかもしれない)
「お誘いはうれしいのですけど、実は先ほど……」
「エルザさんに誘われたんですの?」
私が全てを言い切るまえに、オリゼは言った。
「…え、えぇ」
まるで最初から知っていたかのようなオリゼの発言に、私はまたまた生返事を返すことになった。
オリゼはすこしの間目を伏せると、いたずらがばれた子どものような表情で私にこう言った。
*****第三章 説明タイム
「あの子も抜け目が無いですわね。まぁ、当然と言えば当然でしょうが」
あの子があちら側に行ってしまったのは、本当に残念ですわ・・・と、独り言をつぶやくエルザ
一方、私の方は全く話の流れが見えない
「あの、オリゼさん?」
「あら、どうしました、リン? そんな他人行儀な呼び方しなくてもいいですのに」
「話が読めないのですが・・・」
そう言われてキョトンとした顔をするオリゼ
「あら、エルザさんから誘われたのではないのですか?」
「えぇ、誘われましたけど・・・ちゃんとした説明はしてくれませんでしたし」
「なるほど・・・あの子も人が悪いですわねぇ」
何か納得した表情のオリゼ
一方の私は、さらに話が見えなくなってきている
「リンは休んでたから知らないのでしょうけど、実は昨日、食堂に新しくカフェが増設されることが決まりまして」
「あら、それは良いことではないですか」
その話が事実なら、私にとっても朗報である
女子寮住まいの私にとって、学校の最寄り駅まで行かないとカフェが無いこの環境は、
充実しているこの学生生活の中で足りないものの一つであった
「そこで、新しいカフェのコンセプトについて、生徒会の方でいろいろ話し合われていたのですが」
状況を整理している私に構うことなく、オリゼは話を続ける
「コーヒーをメインにする派と紅茶をメインにする派で見事に分かれてしまいまして」
「あぁ、それで今朝、皆さん様子がおかしかったのですね」
どうやら、事態は思った以上に大きな話であったようだ
紅茶メインの場合とコーヒーメインの場合では、お菓子のメニューも変わってくるだろうし、
当然ドリンクの品ぞろえも変わって来るだろう
「そこで、生徒会が下した結論が、明日・・・つまり、今日ですわね、から3日間、
コーヒーと紅茶を販売してみて、売り上げが多かった方をメインにしましょう、と」
「なるほど」
つまり、手っ取り早い話、これはこの学校のカフェの未来を決める、生徒による投票のようなものだ
そして、エルザは紅茶を、オリゼはコーヒーを推している
(・・・思った以上に面倒なことに巻き込まれたのかもしれないですね)
結局、オリゼとも明確な約束をすることなく別れ、私はなんとも中途半端な状態で紅茶派とコーヒー派の間に浮かぶことになってしまった。
偶然通りかかった人に話を聞くと、どうやらこの話(カフェの未来を決める話)はけっこう有名というか、もはや知らない人の方が珍しいような有様の話題のようで、すぐに色々な噂を聞くことができた。
紅茶派とコーヒー派はとくにいがみ合っているというわけではなく、紅茶を飲んでいたと思ったらコーヒーを注文したなんて人もいるとか。
中には緑茶派やココア派などの少数派もいるらしく、どうにか売り上げを伸ばして二大派に食い込もうとしているとか。
エルザさんの好物はさくらもちだから緑茶派のはずとか。
真偽はともかく、つらつらとでてくる噂の数々に、今一番ホットな話題であるらしいことは十分に察することが出来た。
(どちらも飲むにしても、どちらを先にするかは考えないといけないかもしれません…)
少なくとも、下手なことをすると奇妙な噂を立てられかねない状況であるのは間違いなかった。
*****第四章 悩ましい二択
「ふぅ、レポート終わりっと」
他に誰も居ない自室で、一人つぶやく
結局どうするか決めきれないまま悩んでいたら、あの後の授業で運よくレポート提出の課題が出たので、
それを口実に二人に断りを入れた
「それにしても、どうしましょうか・・・」
やるべきことから解放されると、やはりそのことに考えが巡ってしまう
多分、明日も明後日も、彼女たちは私を誘いに来るのだろう
正直なところ私は、ちゃんと学内にカフェができるのであれば、何がメインであってもかまわない
ただ、今の学内の状況を考えると、周りはそうは見てくれそうにない
エルザと先に紅茶を飲みに行けば「紅茶派」に、
オリゼと先にコーヒーを飲みに行けば「コーヒー派」に分類されてしまうのだろう
「どうしたものでしょうねぇ・・・」
そして時間は冒頭に戻る。
「・・・でもコーヒーもやっぱり捨てがたい・・・」
(ううん、ちょっと整理してみましょうか・・・)
(紅茶・・・甘いものを食べつつも、その甘さを邪魔しない。それに香りを楽しむもよし、喉を潤すもよし。お喋りをしながら優雅なひとときを過ごせるだろう)
(コーヒー・・・紅茶とは逆に程よい苦味が甘さを際立たせる。美味しいお菓子をより美味しく。あるいは1人で気分転換したいときにもいいだろう)
どちらも欲しいがどちらかは諦めなくてはならない。
無論、仮にコーヒーがメインになったとして紅茶が完全になくなるわけではないだろう。
しかし、メインに選ばれなかった側はおそらくこれからも選ぶことはそうないだろう。
なにより今後エルザとオリゼとの関係に影響を与えるかもしれない。そしてそれに付随する噂も。
「・・・これ、もしかしなくても正解なんてないんじゃ・・・」
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「朝よー。いい加減起きなさーい。」
朝。普段は目覚ましと同時に目を覚ます私だが結局悩んでいる内に夜更かししてしまったのだろう。
母に起こされる羽目になってしまった。
「いまいく-」
階段を降りてみれば既に朝食の準備は整っていた。
*****第五章 思わぬ大ヒント
「紅茶にする? それともコーヒー?」
「・・・えっ?」
突然の母からの問いかけに、私は心底驚いた。
まさかこんなところまでカフェの噂は広がっているのだろうかと思ったのだ。
「なに、なにかあったの?」
母の訝しげな視線に、私は自分の勘違いに気付く。学校のカフェのメインを決めるのに、母が関与してくる道理はなにもなかった。
(ちょっと神経質になってたかも・・・)
「ふぅ・・・」
私が思わず吐いたため息を聞いて、母は何を勘違いしたのかこういった。
「なに、まさか両方飲みたいなんてことないわよね?」
そこにはおもむろにカップを二つ用意する母が居た。
「そっか、その手があった!」
思い立ち、電話をするために、2階の自分の部屋へ走る
先に朝ご飯を食べていた先輩や母がキョトンとした顔をしているが、気にしない
鞄の上に置いてある携帯電話を手に取り、約束を取り付ける
用事を済ませ、再び食堂に戻ったら、呆れたような顔で母が待っていた
「あなた、面倒なことに巻き込まれたのねぇ・・・」
私が電話している間に、食堂に居た先輩からいろいろ聞いたらしい
ご飯中に席を立ったことを怒られるかな、と思ったけど、怒ったりはしていないらしい
「で、一晩悩んだ甲斐はあったの?」
「うん、何とかなると思う」
「そう」と相槌をうち、「じゃ、頑張りなさい」という言葉だけ残して、キッチンに向かう母
その背中に小さな声で「ありがと」と返し、私は少し冷めた朝ご飯を食べることにした
*****第六章 これが私の最適解
いつものように学校に登校しいつものように授業を受ける。
しかし、放課後はいつもと違う時間となった。
「さて、これはどういうことか教えてもらえる?」
「リン。もしかして、そういうこと?」
前者はエルザ、後者はオリゼの言葉である。
どうやらエルザと違いオリゼは大体の状況を察している様子。もしかするとエルザも把握した上での言葉かもしれない。
「どういうこともなにも、私は紅茶もコーヒーも飲む気分だったというだけなのだけど?」
私の言葉にエルザは頬を膨らませ、オリゼは小さく嘆息する。
「どちらも美味しいのだからどちらも楽しむのが筋というものでしょう?」
「でもそれじゃっ・・・むぅー。」
私の言葉に一瞬反論しようとするエルザだったが、エルザの目論見が私には関係ないこと。
「それ以上言うとリンは私と二人でコーヒーを飲むことになるわよ?
エルザも往生際の悪いことを言わないで諦めた方がいいのではないかしらね」
「うー、分かってるわよー。」
そして、私自身は結果に全く拘っていないことに思い至ったのだろう、仕方ない、といった様子で納得したようだ。
「それじゃ、二人のお薦めの組み合わせを楽しませて貰おうかしらね?」
私は笑顔で三人でのお茶会の開始を宣言したのだった。
*****エピローグ 新たな悩み
リン・カンザクラは考える。
すでに日が落ちて暗くなった自室で、明かりを灯すこともなく、彼女は冴え渡る頭脳をぐるぐるとまわし、考えに考えている。
(やはりここは紅茶か……?)
コーヒーを飲むか、紅茶を飲むか。
何の変哲もない二択であるが、彼女にとってはそれがただならぬ問題であるらしかった。
新しくオープンしたカフェは、結局メインを決めることなく、紅茶もコーヒーも緑茶も、果ては抹茶やそば茶なんかもメニューにならぶことになった。だが、その豊富なメニューを支えるために、経費を増やすことはできなかった。
そこで、カフェは特殊な注文システムを採用することになったのだ。注文は前日に行い、翌日に渡されるシステム。つまりは食券を前日に買うというシステムである。
(カフェに着くまでには決めないと……・)
豊富なメニューは今日も彼女を悩ませるのだった。
<<あとがき>>
久々のリレーSS!
読んでくださった皆さん、楽しんでいただけましたでしょうか?
いやしかし、こういうシンプルなテーマの日常系はいいですよなー
どんどんネタが湧いて出てきますしー
そして、なかなか終わらなくなってしまうのは、もはや自分の物書きの仕様・・・
予想外の展開や設定に悪戦苦闘しつつ、楽しんで書けたので、満足満足
さぁ、皆もどんどんリレーSSやろうぜっ!
by.サイアン
飛び入り初参加のリレーSSでした。
おっかなびっくり、でも楽しく書かせて頂きましたです。
無茶ぶりじゃないですけど、皆で書いてると物語の方向を決定づける部分を書くのは勇気がいりました。どきどき。
作者にして読者、書いてるのに続きもわくわくなリレーSS、皆さんの参加もお待ちしてるのです!
機会があれば、あるいは呼んでもらえれば、リインもまた参加するですよー!
by.リインフォースⅡ
せっかくクリエイターに仕官したならSSでしょ! と思って無茶振りしたリレーSSだったけど、続きを書いて、みんなで完結させられてうれしかった!
プロローグとエピローグを私が担当するという偶然に運命的なものを感じてしまったよ。
どんどんふくらむ設定と予想外の展開に、自分だけでは作れない物語のたのしさを感じたよ! また機会があったら参加するよ!(アッカリーン)
by.赤座あかり