限定イベントテキストまとめ2

六月の花嫁

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:六月の花嫁』を発見しました
六月の花嫁間で行われる契約の一つに、婚姻というものがある。
 それを指して墓場といった者もいるが、執り行う場所が教会であるならば、それもさもありなんといったところだろう。
 来週、アンブライダルド教会では盛大な結婚式が開かれる予定である。
 
 マルシアーノファミリーのボス、サルヴァトーレ・マルシアーノ。
 その一人娘サマンサと、若き副官"ボスの子犬"ペレス・フラペチーノ。
 両者の結婚式はただの結婚式ではない。
 ファミリーの未来、それそのものなのである。
 
 だからこそ、この結婚式はつつがなく執り行われなければならない。
 何一つ、異論も邪魔者も挟み込む余地があってはならない。
 アンブライダルド教会は当日、マルシアーノファミリーが取り囲み強固な守りを敷く。
 だが、ネズミ一匹通す穴がないとは言い難い。
 ネズミというものは、元来穴を探すのが得意な生き物である。
 
 マルシアーノファミリーにここらで一つ恩を売っておきたいもの。
 あるいはその一派へと組み入れられたいもの。
 
 動機は構わない。重要なのは、この結婚式を無事終わらせることである。
 めっきり梅雨と言うことで外は雨だが。
 血の雨で、純白のウェディングドレスを赤く染めるわけにはいかない。
 
 サマンサを守り抜くのだ。
『マップ:アンブライダルド教会』を発見しました
  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
アンブライダルド教会
 ぱぱぱぱーーん。
 ぱぱぱぱーーん。
 ぱぱぱぱーんぱぱぱぱーんぱぱぱぱーんぱぱぱぱーん。
 あーいらーーーびゅーーーー…………
 結婚行進曲が流れる中、入場してくる新郎新婦。
 純白のタキシードとウェディングドレスに身を包み、我が物顔でバージンロードを闊歩する。
 新郎は顔を上げ、晴れやかに。
 新婦の顔はヴェールに隠され、その表情は見えなかった。
 白いバージンロードを足で穢しながら、二人は聖壇の前まで歩みを進めてきた。
 そこで、黒服の神父が待ち受ける。
 なぜだか知らないが片言で、
「アーナターハー、カーミヲー、シンジマースカー」
 今更な台詞を吐きながら、神父はなんとなく信用できない満面の笑みを浮かべていた。
アンブライダルド教会
「ヤメールトーキモー、スコヤーカナルトーキモー……」
 妙なアクセントで、結婚する二人の前で神父が言葉を吐き出す。
 式は厳かに、順調に進んでいた。
 
「トメールトキモー、ビンボーデーモー、アイーシツヅケールトー」
「チカーイマスカー?」
 新郎へと問いかける。
 ペレス・フラペチーノは口を開き、頷きながら、
「はい、誓いま――」
 どがごーーーーーーーーん!!!!
 爆音と共に、あらゆるものをかき消して扉が破られる。
 聖壇の二人に集中していた全員の視線が後ろを向き、全員がそれを目撃した。
 
 体当たりで扉を突き破り、その勢いのままバージンロードを駆け上がる。
 それは、そこそこ大きめのマイクロバスだった。
  • 当日昼(戦闘開始前)
邪魔者の多い教会
 扉を押し破ったことでハンドルを取られ、バージンロードをフラフラと蛇行する。
 左右に並んだ長椅子に車の側面を派手にぶつけながら、最終的には思い切りハンドルを切って車体が真横を向き、そのまま聖壇に突っ込んだ。
 
 その直前に、新郎は右に、新婦は左に、神父は上にそれぞれ飛んでいた。
 ギリギリのタイミングで、マイクロバスが無人の聖壇を粉々に破壊する。
 そこでようやく、客席を中心に止まっていたいくつかの時間が動き出した。
「撃ち殺せぇっ!!!」
 その声は右の座席側、新婦の父親であるサルヴァトーレ・マルシアーノのものだった。
 慌てて取り巻き達が立ち上がり、銃を抜く。
 幾十という銃口がマイクロバスに向けられ、真上に飛んだ神父がバスの屋根にドシンと着地したのをきっかけに引き金が一斉に引かれた。
 
 炸裂音と神父の悲鳴が鳴り響く。
 防弾仕様のバスに銃弾が撃ち込まれ、側面に大量の凹みができる。
 だが、穴は一つも空くことはなかった。
 マイクロバスの反対側のドアが開き、中から複数人の男が現れる。
 サングラスをした喪服の男達。全員、手にはマシンガンを構えていた。
「カサノヴァ・サンチェスからの結婚祝いだ! 受け取れマルシアーノ!」
 車の陰から、客席に向かって弾丸の雨を降らせるサンチェスファミリー。
 武器で勝る彼らと、数で勝るマルシアーノファミリーとの銃撃戦が始まっていた。
 そして、
「君を忘れるなんて無理だよサマンサ!」
「ペレース! あんたねぇ、結婚なんてあたしゃ認めないよ!」
 吹き飛んだ扉から、金髪の若い男と、子連れの女性が並んで入場してくる。
 
「ふふふ。さあ。この隙にボクと一緒に逃げようよ。うふふ」
 飛び退いていまだ床に蹲っている新婦を助け起こそうとするモヤシのような男。
 
「てめえが次のボスなんて、誰が認めるかよ……」
 サルヴァトーレの後ろで、新郎に向かって銃を構えながら小さい声で呟く男。
 
 教会は大混乱の様相を呈していた。

  • 当日昼(戦闘終了後)
アンブライダルド教会
 六月に結婚した花嫁は女神の祝福を受け、必ず幸せになれるという。
 それは一つの夢物語だが、いつまでも夢見ていられれば、それは現実になり得るかも知れなかった。
 
 銃弾飛び交う教会。
 すでに無事なガラスは一枚もなく、割れたステンドグラスが床を綺麗に彩っている。
 最初から一般客がいなかったのは救いか。
 さほど、ひどい惨劇にはなっていなかった。
「サマンサ!」
 新婦の元に、一人の男が駆けつける。
 迫っていた男を殴りつけ、へたり込んでいた彼女の側に膝を突きその手を取った。
「……レオン?」
 信じられないものを見た、震える声でサマンサは男の名を呼ぶ。
 彼は新郎ではなく、レオン・ディルドナードという名の青年だった。
「ここに来るべきではないと分かっていたんだ。でも、無理だった」
 彼女の手を握るレオン。反対の手をポケットに突っ込み、何かを掴んで取り出す。
 それは銀色の、何の装飾もない指輪だった。
 
「遅くなってすまなかった。結婚してくれ、サマンサ」
 震える手で、彼女の指へと指輪を通す。
 サマンサは呆然と、自身の薬指に指輪がはめられていく初めての光景を見ていた。
 第二関節のところで引っかかって指輪が止まる。
 彼女はそこで手を胸に引き寄せ、自分の意志で、最後の一押しを押した。
イベントマップ『アンブライダルド教会』をクリア!
 クリアボーナス
 (PC名)はステータスボーナスを□得た

六月の花嫁
「サマンサ!」
「レオン!」
 怒号飛び交う教会で、抱き合う二人は違う世界を作り出す。
 その光景に最初に気付いたのは、新郎であるペレス・フラペチーノだった。
「腹決めるのが遅すぎるぜ、レオン……」
 新婦と抱き合う男に向かって、なぜか男前の顔で呟く新郎。
「ペレス……」
 その声に気付いたレオンが、サマンサを抱いたまま立ち上がる。
 二人は覚悟を決めた、そんな表情をしていた。
 
「行くぞ、レオン」
 そんな二人の表情を見て思わず笑みが漏れるペレスが、二人を促す。
 だが彼らは意味が分からず、その場を動けないでいた。
「車盗むのは、ガキの頃からの俺たちの得意技だったろうがよ」
「俺たち悪ガキの、最後のイタズラさ」
 ようやく理解したレオンは、サマンサの元を離れてペレスの横に並び。
 聖堂に突っ込んで止まっているマイクロバスに向かって走っていった。
 運転席にレオン、助手席の足下にサマンサを乗せ、マイクロバスが発進する。
 
「逃がすな!」
 気付いたサルヴァトーレ・マルシアーノが叫ぶ。
 部下達の銃口がバスへと向けられる。
「あれはサマンサだ! 敵はサンチェスの野郎どもだろうが! 間違えんな!」
 ペレスが叫びながら、派手にサンチェスファミリーへと銃弾を撃ち込む。
 彼の言葉にファミリーが疑念を抱くはずもなく、その銃口はあっさりとサンチェスファミリーへと向けられた。
 
 再び始まる銃撃戦。
 ペレスは振り返り、去っていくマイクロバスの背中に向かい、
「幸せにな、サミー」
 呟いた小さな声は、激しく鳴り響く銃撃音に掻き消された。
ミッション『』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た

特別ボーナス
(PC名)は魂片:『ユノ』を手に入れた

イベント
  • 当日夜(休息処理後に表示)
六月の花嫁
今回のイベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『カエル』が修得可能になった

海よ開け

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:海よ開け』を発見しました
海よ開け
 夏の訪れと共に、海が開かれる。
 何の意味があるのか、我先にと海へと飛び込んでいく水着姿の老若男女。
 とはいえまだ夏本番というわけではないので、波打ち際で半身を濡らす程度であるが。
 
 だが、この海の本来の支配者は、水着の人々ではない。
 金鯱と名付けられたリーダー率いる、シャチの群れである。
 海のギャングとも呼ばれる彼らはその名にふさわしく、誰彼構わず牙を剥く悪党である。
 この辺りを縄張りにしている彼らだが、例年、春が暮れる頃には冷たい海域へと移動する。
 そして秋が深まったあたりにまた帰ってきて、春までここで過ごすのだ。
 つまり、夏の間だけは彼らから人へとこの海の支配権が移されてきたのである。
 
 去年までは。
 今年、まず最初に海に飛び込んだのはコンブ屋の昆兵衛だった。
 海に入って自分のすね毛をむしり。
『うわあ、コンブやーおもたら、わしのすね毛やったみゃー』を得意とする昆兵衛である。
 
 そんな彼がいつものように海ですね毛をむしったところ、海が赤く染まった。
 やり過ぎた、とうとうアイツはやり過ぎた、と誰もが思ったが、昆兵衛がその直後に宙を舞っているのを見てみな考えを変えた。
 ドサリ、と砂浜に頭から落下する。
 逆さに砂に埋まった昆兵衛の足には、噛み痕が深々と刻まれていた。
 波が引いて、海面から頭を見せる。
 それは白と黒の斑模様の魚類、シャチの姿であった。
 
 口を開いて、超音波のような高音でケケケと笑う。
 そこに覗く牙は、昆兵衛の足に噛みついて投げ飛ばし、その男の血で染まっていた。
 なぜか海域の移動をせず、このビーチに残ったシャチの群れ。
 彼らがいては、海開きができない。
 
 金鯱率いるシャチの群れ、そしてそれに与する海の生物たち。
 やつらから海を取り戻すのだ!
『マップ:しゃちほこ海岸』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
しゃちほこ海岸
 かつてこの辺りはエビの大産地だった。
 網一つ持って海に入れば、子供でも好きなだけ掬って獲ることができた。
 
 その話をどこから嗅ぎつけたのか。
 沖合にシャチの群れが現れ、あっという間にほとんどのエビは食い尽くされた。
 大型のエビは完全に姿を消し、小型のものが細々と隠れ生きるのみである。
 エビはいなくなったが、それでも良質な漁場であることに変わりはなく。
 と言うよりもむしろバランスよく生態系が組み直され、シャチたちは居着いてしまった。
 彼らからしてみれば暑すぎる夏場を除いて。
 
 だがそれも、去年までのお話である。
 例年であれば海開きとなるこの季節には完全に姿を消しているはずだったのだが。
 今年は何故か、この砂浜付近を周遊しては海に近づくものを襲っていた。
しゃちほこ海岸
 水深から言えば、ぎりぎりか、あるいは腹を擦りながらだろう。
 海を見やると、威嚇するように黒い背びれを海面から突きだして泳ぐ複数の姿があった。
 
 その背びれの大きさから、全体像を何となく想像できる。
 人間ぐらいなら、大人子供関係なくあっさりと一呑みにしてしまえるだろう。
 梅干し大ほどの脳みそしかなさそうな水鳥が一羽。
 何も考えずに海へと降りてきた。
 波に揺れながら海面に頭を突っ込み、しばらくして魚を咥えて顔を出す。
 漁の成功に得意げな顔を見せながら、再び飛び立つために翼を広げた。
 
 だが、それはこの海の支配者の逆鱗に触れてしまった。
 この海の生き物は全て彼らのものであり、それを横から掠め取るなど許されないのだ。
 広げた翼を水鳥が羽ばたかせることができたのは、僅か1回だけだった。
 当然、それでは海から足を出すことすらできない。
 
 背後でいきなり大きな波が生まれ、なすすべなく水鳥を飲み込んでいく。
 一度の羽ばたきによって空に舞った羽根一枚だけ残し、波にのまれて消えてしまった。
 その波も消えて、唯一、それだけが残る。
 
 そこにいたのは、想像を上回る大きさの一頭のシャチだった。

  • 当日昼(戦闘開始前)
金鯱
 白と黒の斑模様。
 それは他のシャチと何ら変わらない。
 違うのは大きさと、そして、
「ケケケ……」
 と、高音で笑う、その時に開いた口から覗く牙が全て金色に輝いていた。
 浅瀬に乗り上げて、総金歯の金鯱は体の半分以上が海面に出てきてしまっていた。
 いかにそれが強力であれ、陸に上がった魚に生きる術はない。
 
 だが、まるで彼の意に沿うかのように。
 潮が満ちてきて、一気にその体を海面下へと押し隠していった。
 
 黒い背びれだけを残して海に沈むのに、さほどの時間は掛からなかった。
 そこに、他のシャチたちも背びれを立てて集まってくる。
 砂浜にいたはずのみゅらたちの足も、いつの間にか海に浸かっていた。
 膝の辺りまで一気に水かさが増え、それでもまだ海面は上がろうとしている。
 
 満ち潮によって、シャチたちの間に遮るものはすでにない。
 彼らのテリトリーに、無理矢理足を踏み入れさせられていたのだ。

  • 当日昼(戦闘終了後)
しゃちほこ海岸
 一斉に潮が引いていく。
 それは彼らが海に見限られたことを示していた。
 もはやこの海の支配者は金鯱ではない。
 人の手に再び戻ったのである。
 潮の流れに乗って沖へと逃げ帰ったものもいたが。
 いくつかは逃げ遅れ、水たまりのようになった海の残骸の上でピチャピチャ跳ねていた。
 
 この巨体で陸に上がれば、シャチたちはもはやどうすることもできない。
 勝敗はすでに決していた。
 金鯱もまた同じような状況だった。
 いや、他の個体よりも大きい分、被害も甚大だった。
 
 自重に耐えることすら難しく、身じろぎ一つできない。
 海に見放されては生きてはいけない。
 それは海に生きるものの、超えられない限界だった。
 イベントマップ『しゃちほこ海岸』をクリア!
  クリアボーナス
  (PC名)はステータスボーナスを□得た

海よ開け
 首吊り台のような強大な装置に、フックを上唇にかけて金鯱が吊り下げられている。
 さんさんと照りつける太陽に、輝く金歯がいやに眩しい。
 
 子供がその金歯を盗もうと一生懸命手を伸ばしてジャンプしていたが。
 とても届く距離ではないので、放っておくことにした。
 ぱしゃり。ぱしゃり。
 吊り下げられた金鯱の横に立ち、水着姿の海水浴客が順に記念写真を撮っていく。
 海のギャングとて、陸に上がればこのような扱いである。
 
 無事に海開きが行われ、砂浜は海水浴客で溢れていた。
 海にも数名いるにはいるが、圧倒的に数は少ない。
 
 想像以上に海水が冷たかったのだ。
 きちんと海水浴を楽しむには、まだ少し水温が足りなかった。
 我慢大会のような海中をよそに、砂浜は大いに盛り上がっていた。
 採り放題だった大量の魚介類がバーベキューにされている。
 焦げた醤油の匂いが漂い、乱暴に胃を刺激していた。
 
 この金鯱もいずれ、そこに混ざることになるのだろう。
 今はまだ、記念撮影中だが。
 吊り下げられた金鯱を見上げると、牙が一本掛けていた。
 子供に盗まれたわけではない。彼は今も頑張っている。
 
 その欠片は菓子好きな狙撃兵たちの手にあった。戦いの中で欠け落ちたものである。
 その輝きは、彼自身がこうなってしまった今も色褪せない。
 
 いつまでも、金色に輝いていた。

 ミッション『海よ開け』をクリア!
 クリアボーナス
 (PC名)は魂塵を△△Ash得た

 特別ボーナス
 (PC名)は魂片:『金鯱の牙』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
 海よ開け
 今回のイベントは終了しました
 現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
 イベント挑戦ボーナス
 (PC名)はコスチューム『シャチ』が修得可能になった

リアルお化け屋敷

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:リアルお化け屋敷』を発見しました
リアルお化け屋敷
 猛暑の続く夏。
 人々は涼を求めていた。
 サモンデモン遊園地では様々な納涼イベントが用意されていた。
 敷地中にミストを撒き散らし、足湯ならぬ足氷水を準備。
 夜には花火を打ち上げ、そして、昼にはお化け屋敷が客達の肝を冷やした。
 
 だが、目玉だったはずのお化け屋敷がうまく行かなかった。
 客入りがいまいちだったのである。
「目玉企画、ってことで、目玉フェアーをしたんですが」
「それが行けなかったんですかねえ?」
 と、反省の弁を述べるのは、遊園地の園長であるサンデロ氏である。
 
「大目玉転がしとか、目玉入れとか、子供達が喜ぶと思って」
「主婦にもちゃんと、目玉の袋詰めサービスもやったんですよ。好きでしょ、袋詰め」
 
「1万個も用意した眼球が、在庫の山ですよ」
 と、重たいため息を吐き出す。
 右手にクルミのように握った二個の眼球を、指を器用に動かしてコリコリ転がしていた。
 そこで、もう遅いかも知れないが。
 起死回生の一手と言うことで、お化け屋敷のリニューアルを計画している。
 
 その名も、リアルお化け屋敷、である。
 本物のお化けを放し飼いにすることで、リアルな恐怖を味わってもらおうという企画だ。
 用意したのは、掃除機を改造して作ったお化け吸引器。
 こいつがあれば、お化けを大量に捕獲することが可能である。
 
 そして、ロケーションは投身岬とも呼ばれるデッドロック岬。
 お化けなどウヨウヨしているはずだ。
 
「この遊園地の命運が、リアルお化け屋敷にかかっているのです」
「なのでどうか、活きのいいお化けを捕まえて来ていただきたい!」
 と、暑苦しい顔で、園長は頭を下げた。
 右手では眼球がコリコリ鳴っていた。
『マップ:彷徨うデッドロック岬』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
彷徨うデッドロック岬
 岬の先端部から下をのぞき見れば、そこに巨大な岩が見えた。
 海からの体当たりを受けてもびくともせず、悠然と立ち塞がっている。
 その天井部は赤黒く染まり、それは波を受けても洗い流されることはなかった。
 夏だというのに、凍えるほどに冷たい風が吹く。
 それは海側からのものだったが、そこからもたらされたとは思えなかった。

 どこか別の場所。別の世界。
 まるで空気の違う、そのどこかから吹きつけられた風。
 それを感じて、(PC名)たちは身震いした。

彷徨うデッドロック岬
 ぐしゃり。
 岩に何かが叩きつけられ、赤い泡のようになった血が宙へと舞い上がる。

 それは現実のものではなかった。
 岬には(PC名)たちがおり、そこから誰も飛び降りていないことは分かっている。
 だから、それはかつてそうなったものが見えているに過ぎなかった。
 そして、岬は冷たい風が運んできた霧に包まれていた。
 崖の境目が全く分からなくなり、後ろへ下がる以外、身動きが取れなくなる。
 霧はどんどん濃くなってきていた。

 一つ北の岬に建っていた灯台に火が灯る。
 霧の向こうにぼんやりと淡い光が見え、それでなんとか方角だけは分かった。
 だからといって、何も解決はしなかったが。
 霧の向こうを光が通る。
 灯台のものではない。炎のような赤い光だった。

 それらが一つ二つと増えていき、取り囲まれる。
 もはや下がることもできそうになかった。

  • 当日昼(戦闘終了後)
彷徨うデッドロック岬
 円盤型の機械がふわりと浮かび上がる。
 それは遊園地の園長から、お化け集めにと渡されたものだった。
 空へと上がりながら、その下部に取り付けられたスクリューが勢いよく回り始める。
 浮かぶために空気を吐き出すのではなく、逆に思いっきり吸い込んでいた。

 頭より少し高いぐらいの位置で止まり、全開になったモーターが激しい駆動音を響かせた。
 立ち籠めていた霧ごと、周囲に溢れていたお化けを吸い込んでいく。
 モーターが煙を上げて止まってしまう頃にはすっかり霧は晴れていた。
 お化けの方も姿を消し、来たときに見た海の景色が広がっている。

 スクリューの止まった円盤機械が、ゆっくりと地面に降りてくる。
 その側面に取り付けられた赤ランプが点滅し、お化け袋の交換をお知らせしていた。

 イベントマップ『彷徨うデッドロック岬』をクリア!
  クリアボーナス
  (PC名)はステータスボーナスを□得た


リアルお化け屋敷
 キャー
 ワー
 ギャー
 アー
 リアルお化け屋敷で悲鳴が響く。
 出口から走って出て行くお客さんの姿と、それを追って走り去っていく鬼頭の巨大蜘蛛。

 スタッフが一名逃げ出したようだが、お化け屋敷はおおむね好評のようだった。
 お化けが満タンに入ったお化け吸引器のフタを屋敷の中で解き放ち、小一時間。
 少し密度が高すぎたようで、満員電車のようになってしまっていたが。
 時間とともになぜだか数が減っていき、オープンする頃にはちょうどいい具合になっていた。

「こんな活きのいいお化けが山のように。夢みたいだ」
 悲鳴やら喧騒やらに包まれたリアルお化け屋敷の前に立つサンデロ園長。
 感慨深げに、たっぷりと情感を込めて言葉を吐き出す。

 また一人、叫びながら出口から飛び出していく客の背中に手を振って、
「またのお越しをお待ちしておりますー」
 と、満面の笑みを浮かべていた。
「今回は本当に助かりました」
「あれほどまでにすばらしいお化けを集めてくださるなんて」
 がさごそ、とポケットに手を入れて、取り出した眼球を頭の上に掲げる。
 二つの目でこちらを見下ろさせながら、
「なんと、お目がたかーい!」
 と、ご機嫌極まった声を上げた。

「これをこの遊園地の目玉あいさつにしていこうと思っています」
「みなさま、お目がたかーい!」
 リアルお化け屋敷の前で順番待ちをしている客たちに眼球を向けて。
 園長は、使い所の難しいあいさつを目玉にするべく、奮闘していた。

ミッション『リアルお化け屋敷』をクリア!
 クリアボーナス
 (PC名)は魂塵を△△Ash得た

 特別ボーナス
 (PC名)は魂片:『ゴーストバスター』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
 リアルお化け屋敷
 今回のイベントは終了しました
 現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました

闘兎観戦

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:闘兎観戦』を発見しました
闘兎観戦
 月は満ち、欠ける。
 それは日ごと行われる営みである。
 
 その日は一年で、もっとも月が美しく輝くと言われている。
 まったく欠けることなく、完全に満ちた正円を作り出す。
 煌々と輝く月は夜に力を与え、光は地上へと降り注ぐのである。
 闘兎場、通称うさぎ小屋。
 二本の前歯を武器にウサギたちが鎬を削り、それを楽しむ娯楽施設である。
 
 闘兎は満月の夜に行われる。
 それはウサギたちがもっとも闘争本能を高ぶらせる瞬間だからだ。
 そして次の満月は一年でも特別な日であるため、それはもう盛大な闘兎が開催されるはずだった。
 だが、今回のそれは特別過ぎたのかもしれない。
 満月の日を迎えるまでに、日に日にウサギたちは精神を鋭敏にさせていった。
 そして、ついには制御が難しい状態になり、寝床でもある檻の中に封じることとなった。
 
 彼らは檻の中で暴れ続け、満月の日が近づくにつれてより激しいものとなっていった。
 このままでは、ピークを迎える満月の夜には檻を破られてしまうだろう。
 その時、鍛え上げられた闘兎たちがどのような蛮行に及ぶか。
 それはもはや想像しただけで震えが止まらない。
 これは武者震いだろうか。
 武者震いかな、と思った人は、ぜひ次の満月の夜に闘兎場へとお越しください。
 今世紀最大のリアル闘兎が見れるかもしれません。
 
 なお、巻き込まれて怪我などされても当社は一切責任を負いません。
『マップ:月下のうさぎ小屋』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
月下のうさぎ小屋
 闘兎場。通称うさぎ小屋。
 要は賭場であり、その対象がウサギ同士の決闘となる。
 昼間は家族向けのうさぎ牧場として、子供たちに親しまれている。
 放し飼いにされたうさぎを自由に触れると、大変好評である。
 
 だがそれは昼間の話である。
 しかも、この特別な夜のため、ここ数週間は昼間の営業は行われていない。
 うさぎたちのコンディションが、完全に家族向けではなくなっていた。
 ウサギたちのコンディションが整い、ついに今夜がやってきた。
 今日は特別な夜であるが故、通常の賭けは行われない。
 "今夜を生き残るウサギは何羽か"
 シンプルに、ただそれだけである。
 オッズはゼロが一番低く、多くのものが全滅を祈っていた。

  • 当日夜(戦闘開始前)
檻の中の狂威
 太陽が沈み、満月が昇り、夜は狂い始めた。
 檻に閉じこめられた兎たちがその動きを強める。
 
 軋む金属音。
 それは悲鳴だった。
 そしてついに、全てのものが望む形で。
 
 檻が破られた。

闘兎観戦
 真っ赤な瞳に映るのは狂気か怒りか。あるいは歓喜か陶酔か。
 すり鉢状の闘兎場に、ぞろぞろと檻を破ったウサギたちが姿を見せた。
 その光景に、観客たちから一斉に歓声が上がる。
 闘兎場の中央へと向けられる大音響に、彼らには何の反応もなかった。
 
 値踏みするように、ゆっくりと周囲を見渡す。
 その中に(PC名)の姿もあったが、それにもやはり興味を示さなかった。
 頭上で輝く真円の月。
 ウサギたちは遠い故郷を眺めるようなもの悲しい目でそれを見上げ。
 届くはずのない月へと向かって一斉に、うさー、と吠えた。

  • 当日夜(戦闘終了後)
月下のうさぎ小屋
 歓声に包まれて。
 月下の決闘が終焉を迎える。
 月に踊らされた狂乱はただただ死によって静まっていった。
 
 賭としてはもっともつまらない結果に終わったが、それでも観客たちは満足しているようだった。
 彼らにとって、それはおまけのようなものでしかなかったのだろう。
 うさぎ小屋の真ん中で。
 空を見上げると、今も月が輝いていた。
イベントマップ『月下のうさぎ小屋』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを□得た

闘兎観戦
 空に輝く月。
 全く欠けることない完全なる円を描き、それ以上満ちもしない。
 完成された、自然の芸術である。
 それは夢か、もしくは幻だったのだろう。
 まるで雪のように、淡い光の粒が空から降り注いでいた。
 所々が赤く染まった地面に落ちて、染みこむように消えていく。
 
 けして積もりはしない。
 今この瞬間、それを過ぎれば全て消えてしまう。
 全ては夢で、幻である。
 "うさぎ小屋"から人が消えていく。
 今夜のメインイベントはすでに終わっていた。
 狂騒の夜は更け、朝までの短い時間、静寂の中で光の雪は降り続く。
 
 今夜のイベンターの男は"うさぎ小屋"の隅に机を置いて、月見団子を並べていた。
 それにも光の粒が落ちて、染みこんでいく。
 ピラミッドのように積まれた団子から一つ取って、軽くかじって月を見る。
 
 何の変哲もない団子であるが、甘くもなく、僅かに苦い味がした。

ミッション『闘兎観戦』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『月見団子』を手に入れた

闘兎観戦
今回のイベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『ウサギ』を手に入れた

トリックオアトリート強盗

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:トリックオアトリート強盗』を発見しました
トリックオアトリート強盗
 その村の全ての家に、一枚の封筒が届けられた。
 真っ黒な封筒に消印はなく、送り主の名も宛名もない。
 全てポストに直接放り込まれたものだった。
 カボチャの絵が刻まれた封蝋を破いて開ける。
 中にはやや分厚いカードが一枚だけ入っていた。
 
 これまた黒い紙に、白い文字で。
 
『トリックオアトリート!!!』
『ハロウィンの夜までに、山吹色のお菓子を用意しろ』
『もし用意できなければ、人質の命はない』
『もちろん、人質とはお前達自身のことだ』

『用意できなければ殺す。少なくても殺す。不味くても殺す』
『殺人的イタズラが恐ければ、おとなしく山吹色のお菓子を用意することだ』
 
 追伸。
 山吹色のお菓子というのは、本当にお菓子ではなく、山吹色のアレのことだ。
 間違えないように。間違えても殺す。
 以上。トリックオアトリート!!!
 
 彼らは人質を取る前にご丁寧に犯行予告を送りつけて来たので。
 村人達はハロウィンの夜を前に、一時的に村を離れたらしい。
 
 だが、村一番の金持ち、チャールズ・エド・カールストンは村に一人残った。
 彼は逃げず、強盗たちと闘うことを決めたのだ。
 何しろ彼には金がある。
 元いた村人の数を超えるほどの用心棒を集め、屋敷どころか村中に配した。
 
 そして彼は言った。
 私は必ず、ハロウィンの夜にバーベキューパーティを開くのだ、と。
 庭に広げられたバーベキューセット。
 パーティの準備は着々と進められている。
 
 いよいよやってくるハロウィンの夜、ハロウィン強盗団から村を守り抜くのだ。
『マップ:カールストン家』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
カールストン家
 村は閑散としていた。
 人懐っこい野良犬が数匹、物欲しげな目で近寄ってきただけで。
 人の姿は一つとしてなかった。
 夜逃げならぬ昼逃げによってゴーストタウンと化した村。
 商店もあったようだが、売り物はほとんど残っていなかった。
 一番多く残っているのは、床に散らばっている緊急閉店セールと書かれた紙である。
 
 その中に一枚、他と比べて一回り大きい紙が混ざって落ちていた。
 拾って見れば、それはカールストン家で行われるバーベキューパーティのチラシだった。
 村の全体図に、会場はココ! と目印の付けられたカールストン家。
 本来は村人を集めてのバーベキューパーティらしい。
 チラシの一番下には、切り取り線を挟んで『食べ飲み放題引換券』がくっついていた。

  • 当日夕方
カールストン家
 (衣装)の格好をした(PC名)。
 カールストン家の庭にて、(PC名)は仮装していた。
 ハロウィンパーティとは仮装パーティであり、常人は立ち入りを許されない。
 この世ならざるもの、それでなければここに存在することはできないのだ。
 
 それはこの屋敷の主や、使用人たちも同じである。
 ここにマトモなものはいない。皆が皆、それぞれに何かしらに扮していた。
 庭にはバーベキューセットが置かれ、パーティの準備が進められていた。
 日が落ちればハロウィンパーティが始まる。
 それに間に合わせるべく、使用人たちは忙しそうにしていた。
 
 大きく育ったお化けカボチャ、その中身をくり抜いてランタンが作られている。
 それらを庭に並べ、中に大きめのロウソクを入れていった。
 夜になり、火が灯されれば庭を照らし出すことだろう。
 
 その時は、けして遠くはない。

  • 当日夜(戦闘開始前)
トリックオアトリート強盗
 屋敷の照明は全て落とされ、明かりは庭に置かれたカボチャのランタンのみ。
 加えて言うなら、明かり目的ではないがバーベキューの炎ぐらいである。
 
 バーベキュー用のコンロの前に陣取ったチャールズ・エド・カールストン氏。
 炎に照らされて赤く染まっているのは、頑固じじいを絵に描いたような顔である。
 しかめた顔に刻まれた皺が、炎によって深い陰影を作っている。
 赤々と燃える炎を見つめながら、串に刺さった肉や野菜を自らの手でひっくり返していた。
「トリィィィィィィク、オアァァァァァァァ、トリィィィィィィィィィィトォッ!」
 静寂を破る、乱暴者の声。
 それは予告通り、とても素直に正面からやって来た。
 
「山吹色のお菓子は準備できてるだろうなぁぁぁぁ!」
 カボチャを頭から被った男。首から下は裸にオーバーオールという出で立ちである。
 サビサビの手斧を持ち、背後にずらっと様々な扮装をした部下を従えていた。
 ざわざわと、庭にいた使用人達の間に動揺が走る。
 主人の命令によりここに残っていたが、いざとなれば浮き足立っていた。
 
 そのざわつき、浮つきが水を打ったように消えた。
 彼らの主人、チャールズ・エド・カールストンが立ち上がったのだ。
 手にした串を口元にやり、やや生焼けの肉にかじりついた。
 首を振って肉を食いちぎり、口の端から赤い肉汁がたれる。
 
 その串の先を強盗団へと突きつけ、
「よくもワシのささやかな楽しみを奪ってくれたな」
 禿げ上がった頭に装着したネコミミがピンと逆立つ。
「村人どもに差を見せつける、年に一度の大イベントを。この腐れ外道どもが」
 噛んでいた肉を、台詞を言い終えると同時に噛みきれないままゴクンと飲み干した。
 
「皆殺しだあああああああああああ!!!!」
 血気盛んな老人の叫び声が、静かな村中に響き渡っていた。

  • 当日夜(戦闘終了後)
イベントマップ『カールストン家』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを14得た

トリックオアトリート強盗
 棒。
 かなり深めに地面に突き刺して、それでも五メートル以上は外に出ている。
 その先っぽに、ぐったりしたカボチャ頭の男が縛り付けられていた。
 そんな棒がずらりと庭に並ぶ。
 カボチャ頭、狼男、吸血鬼、魔女、ネズミ男、ネズミ女、緑の一つ目、青い毛むくじゃら。
 強盗団は捕縛され、使用人達の手で一人ずつ庭に吊されていた。
 
「がっはっは。愉快愉快!」
 山賊か海賊みたいなノリで、チャールズ・エド・カールストンが哄笑している。
 
 彼は強盗団の先頭にいたカボチャ頭の男が吊された棒の前まで歩いて行き。
 ビールが半分ほど入ったジョッキを、頭上につるし上げられた男に向かって掲げる。
 
「ハロウィンの夜が終われば帰してやる! それまではお前らも楽しむがいい!」
 と、手にしていたジョッキを傾け、棒の根本にどばどばとビールをかけていた。
「今年は串刺し公に変更じゃな」
 棒に背を向けて、バーベキュー用のコンロの近くまで戻ってくる。
 そこでは使用人達が忙しなく動き、盛大なパーティの準備を進めていた。
 
「おい! ロベルト!」
 老人は近くにいた使用人の一人に声をかけ、禿頭に乗っけていたネコミミカチューシャを外して渡した。
 今度は胸ポケットから丸メガネと口ヒゲを取り出し、代わりに装着する。
 
 そして、別の使用人が持ってきたいかにも高そうな布地の黒マントを肩にかけた。
 ジョッキから持ち替えたグラスに赤ワインを注ぎ。
「朝までに村の奴らを呼び戻せ。パーティを始めるぞ」
 そのワイン越しに月を見上げながら、チャールズ老はにやりと口端を吊り上げた。
 
 意識を取り戻した幾人かが漏らすか弱いうめき声に包まれながら。
 毎年よりも盛大なパーティが、カールストン家の庭にて執り行われようとしていた。

ミッション『トリックオアトリート強盗』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を3150Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『ハロウィンパンプキン』を手に入れた

特別ボーナス
(PC名)は魂片:『パンプキンランタン』を手に入れた

トリックオアトリート強盗
今回のイベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)のコスチューム『かぼちゃ』系のステータス補正値が強化されました
(PC名)はコスチューム『かぼちゃ』が習得可能になった
※かぼちゃを獲得していたキャラは上段が、獲得していなかったキャラは下段が表示される。

紅葉狩りの季節

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:紅葉狩りの季節』を発見しました
紅葉狩りの季節
 樹齢数万年と言われる巨大なカエデの樹。
 秋の深まったこの季節、その身に纏った数千枚の葉を真っ赤に染め上げる。
 冬の訪れまでのけして長くはない期間、自らを彩り輝きを放つのだった。
 だがそれは、何の犠牲も払わないで得られるものではない。
 周囲の植物を枯らし、その命を奪うことで自身のみが鮮やかに色づくのである。
 
 だからこそ、それは美しいのだ。
 カエデの樹は小高い丘の上にあり、その丘の上の植物を丸ごと枯らすほどだった。
 だが、色づいた葉はいずれ散って地面に降り積もり、新たな命を育む。
 そうやって命の循環は行われてきた。
 
 だが、その命を奪う範囲が年々拡がってきているのも事実だった。
 すでに丘を越えてしまっている。
 去年はついに、樹に最も近い位置にある、村の嫌われ者ゴズリングの大根畑が枯れてしまったのだ。
 
 そして、その紅葉の恩恵は丘の上にしかない。
 先日、この一年でなんとか畑を甦らせようと頑張ったゴズリングの畑は今年も枯れた。
 
 だが、カエデの樹の紅葉具合はまだ七分といったところ。
 次に犠牲となるのは、村のお調子者メイボマーの人参畑だろう。
 その畑と、次に控える村一番の色男レイザハールのドラゴンフルーツ畑も、まあいい。
 
 だが、その後には村のアイドル、みんなのユメリアのイチゴ畑があるではないか。
 ユメリアの涙は見たくない。
 
 それ以外誰の血反吐を見たとしても、彼女の涙だけは流させてはいけないのである。
 このままでは、カエデが村全体を蝕む日も遠くはないだろう。
 だから、その前に食い止めなければならない。
 
 ユメリアのイチゴ畑が食い荒らされる、その前に。
 あの悪魔の樹を、打ち倒さねばならないのだ!
『マップ:紅葉する楓の丘』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
紅葉する楓の丘
 一面黄色の絨毯が敷き詰められた丘。
 それらは命を吸い取られて枯れてしまった草花たちだった。
 その上にぱらぱらと、赤く色づいた葉が舞い落ちる。
 
 燃えるように真っ赤に染まったカエデの樹が丘に立ち。
 民に餌を与える王のように、勿体ぶった態度で自らの葉を散らしていた。
 リーダモニックは総面積の8割ほどを畑が占める農村である。
 楓の丘はその村の中にあった。
 
 丘に一番近い場所に畑を持っていたのがゴズリングという若者である。
 ちなみにだが、丘は一応彼の土地ということになっている。
 そのせいで彼が嫌われ者になっているわけではなく、単に美醜の問題である。
 畑にはビニール製の案山子が立っているが、そいつが守るべき作物はすでにない。
 葉は枯れ、根はカラカラにやせ細り、実はそもそもなっていない。
 水分すら奪われたように、土も乾燥してあちこちひび割れていた。
 
 もはや悲しみぐらいしか残っていないゴズリングの畑を抜けて、楓の丘へと向かう。
 そこには先客がいた。

  • 当日昼(戦闘開始前)
彼女のために
 斧を手にした村人、ゴリアーテ・ゴリヴァール。
 その後ろにも、鎌やら鍬やらを持った男達が続いている。
 彼らは丘で、カエデの樹と対峙していた。
「丘は貴様の土地だ! どうしようが貴様の好きにするがいい!」
 斧を持ったゴリアーテが、色づくカエデの樹に向かって吠える。
「この先の畑も、3つまでは欲しければくれてやる! だが、そこまでだ!」
「ユメちゃんのイチゴ畑には、その根を一歩たりとも踏み入れさせるわけにはいかん!」
 斧を両手に構え、振り上げる。
 連なる男たちもそれぞれに持ち寄った武器を握り直した。
 
「神木コノハナカエデ、覚悟!」
 自らを鼓舞する最後の叫びを放ち、男たちは一斉に走り出した。
 その、数歩先の落ち葉が僅かに浮いた。
 風が吹いたわけではない。男たちの勢いに押されたわけでもけしてない。
 
 落ち葉を下から持ち上げたそれは自らを研ぎ澄ませ、先頭を走る男の首元を狙って伸びてきた。
 それは偶然でしかなかった。
 走りながら振り回していた斧の刃先が当たり、軌道がずれる。
「ぬはああああ」
 その衝撃に斧は弾け飛び、男は仰け反って滑り込むようにして倒れ込んだ。
 
 男を襲ったもの、それはカエデの樹の根だった。
 地面から突き出した根は一本だけではなかった。
 幾本もの根が落ち葉を蹴散らし、その先が地面から出てきていた。
 
 カエデの樹が身震いし、葉がざわつく。紅葉した葉が色めき立っていた。
 地面から出てきた根がぐねぐねと揺れながら、形を変えていく。
 風に巻き上げられた葉っぱも巻き込み、一本の根は自らを別の種類の樹に変えていた。
 
 他の根も、別の樹や生き物に姿を変化させる。
 
 それはこのカエデの樹が奪ってきた命、それらの姿だった。

神木コノハナカエデの精に遭遇した!

  • 当日昼(戦闘終了後)
紅葉する楓の丘
「全員離れろ!!」
 野太いがよく通る男の声が、背後から聞こえてくる。
 振り向いて、彼が構えるものを目にしたその場にいた者は全て言葉に従った。
 ガスマスクのようなもので顔を隠した男と樹を繋ぐ直線上、その場から全員が退避する。

 それを確認して、彼は人差し指に力を込めた。
 背負ったタンクから燃料が吹き込まれ、ノズルから巨大な炎が吹き出す。
 それは火炎放射器だった。
 生み出された巨大な炎はすぐにタンクの中の燃料を食い尽くす。
 それは生木でもある巨木を燃やし尽くすには充分ではなかったように思う。

 だが、カエデの樹は途中からすでに枯れ始めていた。
 吸い上げた命を根で形作り、それが傷を受け失う度に。急速に自らの命を削っていた。
 落ち葉によっても炎は大きくなり、神木は燃えていった。

イベントマップ『紅葉する楓の丘』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを□得た

紅葉狩りの季節
 甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
 それはどこか心躍る、懐かしい匂いだった。
「もうすぐ焼け上がるよー」
 ある程度まで燃えたところで切り倒されたカエデの樹。
 まだ火がくすぶっている木の下辺りを火箸で突きながら、おばちゃんが皆に声をかける。
 カエデの樹のなくなった丘には、村人のほとんどが集まってきていた。
 
 近くの畑から持ち込まれた大量のサツマイモが焼け上がり、村人たちの胃袋に消えていく。
 (PC名)の分も焼け上がりを待っていた。
「村の御神木を焼いたんだ。さぞや美味いだろうな」
 嫌味な台詞を吐いて、男が現れる。
 それは火炎放射器をぶっ放した男だった。
 彼はまだ、なぜか軍用のガスマスクのような大げさなもので顔を覆ったままだった。
 
「夏の間にちゃんと手入れしてれば、ここまで酷くはならないんだ」
「でも、うちの爺さんが死んで誰も手入れしなくなったからな」
「俺はもちろんやらんし、村のやつらもやるわけない。結果これだよ」
 マスクの向こうで見えないが、おそらくは冷たい目で焼き芋を食っている村人を見やる。
 彼はマスクをしたままなので、焼き芋に手は付けていないようだった。
「こんなところにいたんだ、ゴウ君」
 また新たに登場人物がやってくる。
 今度はマスクで顔を覆ってなどいない。
 日焼けした顔にそばかすがやや目立つ、美人ではなかったがかわいらしい顔をした少女だった。
 
「……イチゴは無事か、ユメちゃん」
 マスクの男、嫌われ者のゴズリングは振り向かないままに小さく呟いた。
「うん。なんともないよ」
 その背中に、少女は笑顔で簡潔に応えた。
「食べよ、焼き芋、おいしいよ」
 少女は両手に、それぞれ焼き芋を持っていた。
 左手に持った方を、自身の口に運んで先っぽを少しかじって食べる。
「村の御神木を焼いたんだから。おいしいに決まってるんだから。ね」
 ほんの少し、間を置いて。ゴズリングはゆっくりと振り向いた。
 
「はい、どうぞ」
 少女は右手に持った焼き芋を男の顔に近づけた。
 レンコンみたいなマスクの口の部分に、ほくほくに焼き上がったサツマイモを押しつける。
 力強く。ぎゅうーっと。中の口に届くまで、力強く押し続けた。
「おいしい?」
 もはや少し恐い、変わらない笑顔のままで。
 その少女にマスクの男は、焼き芋を味わえたのかどうかは分からないが。
「美味しいに決まってるよ、ユメちゃん」
 少女が喜びそうなセリフを選んで発した声は、完全に出口をなくしてマスクの中に籠もっていた。

ミッション『紅葉狩りの季節』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『焼き芋』を手に入れた
特別ボーナス
(PC名)は魂片:『神木コノハナカエデ』を手に入れた

聖夜のホワイトクリスマス

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:聖夜のホワイトクリスマス』を発見しました
聖夜のホワイトクリスマス
 世界は白く染め上げられ、恋人達が白々しくはしゃぎ始める。
 それはクリスマスにのみ許された、甘ったるい夜の儀式。
 無関係な人間にはまったくもって迷惑なだけの、雪降る夜である。
 雪降り積もる、ホワイトクリマス。
 知恵の樹とも呼ばれるが、知性のかけらも見当たらないイルミネーションの施されたもみの木が白く彩られる。
 だが、時間とともに様相が少し変わってくる。雪が降りすぎった。
 
 際限なく降る雪に交通網は麻痺し、路上で暮らす者は寒さに耐えかね駅に向かった。
 家に帰れない者たちと、集まってきたそもそも家を持たない連中で駅が溢れかえる。
 
 そして、彼らの一部が帰るべき家は、屋根に積もった雪の重みで次々と倒壊していた。
 世界が白で埋め尽くされる。
 
 その原因は、街の人工降雪装置にあった。
 何者かの手によって人工降雪装置が操られ、暴走させられていたのだ。
 
 装置が置かれた施設は市の中心、街の端から端まで見渡せる街で最も高い商業ビル。
 その屋上である。
 何者か、その正体は分かっていない。
 赤い服を着ていたとか、白い髭を長く垂らしていたとか。
 目撃情報はいくつかあるが、判然とはしない。
 
 ともかく、このままでは街がホワイトアウト必至である。
 全てが手遅れになってしまう前に。
 
 恋人達の聖なる夜を取り戻して欲しい。
『マップ:セフィロトタワー』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
セフィロトタワー
 恋人達の街、ディセンバーシティ。
 競うように作られた十二棟の超高層ビルが、空を支えるように聳え立っている。
 その中で最も空に近い場所まで積み上げたのが、街の中央にあるセフィロトタワーである。
 街は雪に埋もれていた。
 数メートルに及ぶ積雪は、街のあらゆる機能を奪うには充分である。
 足を奪われ家に帰れない者たちが、だが街に溢れることもできず。
 帰宅を諦め、十二棟あるビルに続々と集まっていた。
 
 そのうちの一つ、セフィロトタワーへと(PC名)は駅から出ているシャトルバスで向かう。
 タワーまでの道は地下に作られ、雪の影響はなかった。
 とは言えこのまま降り続ければ、いつかは問題が発生するだろう。
 最悪、重みによって埋没の危険性もあった。
 奇しくも、開業以来もっとも多くの客を集めた商業ビル、セフィロトタワー。
 
 屋上が何者かに占拠されいるというのに、人がやたら多いということを除けば。
 通常通りの営業に、人々はショッピングを楽しんでいた。

  • 当日夕方
スカイエレベーター
「9階、紳士服売り場です。上へ参ります」
 エレベーターガール。ガールという歳でもないような気もするが。
 妙齢の女性が操作盤の上で指を滑らせ、エレベーターを上へと向かわせる。
 
 満員のエレベーターがほぼ各駅停車で、人を吐き出しては新たに乗せるを繰り返す。
 階段を歩いて上がるのとほとんど変わらない速度で、のんびりと屋上へと向かっていた。
「最上階、スカイラウンジです」
 そこに至ったとき、客は(PC名)のみだった。
 最上階はバーのある展望フロアで、屋上へは階段で上がるしかない。
 
 こちらに背を向けたまま黙って『開』ボタンを押し続けるエレベーターガールの横を通り抜ける。
 その瞬間。
「西側非常口から屋上に上がれます。ご健闘を」
 小さい声援が背中にかけられる。
 
 振り向く前に扉は閉まり始め、彼女の表情を見ることはできなかった。
  • 当日夜(戦闘開始前)
ダストクリスマス
 西側の非常口から外へと出る。
 雪の交じった冷たい風が、待ってましたとばかりに襲いかかってきた。
 
 ビルの中ではよく分からなかった高度から街を見下ろせる。
 完全なる白の世界がそこには広がっていた。
 屋上への階段を登る。
 その先にあった格子状の鉄扉に巻き付けられていたチェーンは外され、足下に捨てられていた。
 何の抵抗もなく扉を押し開き、ようやく(PC名)は屋上へと辿り着いた。
 
 そこで待つのはテロリスト集団。
 『ダストクリスマス』の連中だった。
「ゴミどもに埋め尽くされてた街が浄化されていくのを見るがいい」
 ビルの縁に立ち、街を見下ろす男。
 真っ赤なロングコートと足下近くまで垂らした白いマフラーが風にひらめく。
 そこにあったのは『ダストクリスマス』を率いる若きリーダー、ダスティ・オーウェンの姿だった。
 
「全てが雪で埋め尽くされ、最後にここだけが地上に残る」
「あいつの力でな」
 ダスティ・オーウェンが振り返る。
 今にも噛みつきそうな敵意剥き出しの表情でこちらを見やる、その視線の先に人工降雪機があった。
 空に向かって白い息を吐き出す人工降雪機。
 それがこの街の端から端まで、雪を降らせ続けていた。
 
「せっかく来たんだ。選ばせてやるよ」
 やや顔を斜め上にあげて無理矢理こちらを見下ろす形を作り、
「ここで街が埋まっていくのを眺めるか、街と一緒に埋もれるか」
「どっちがお好みだ?」
 にやり、と不敵な笑みを浮かべる。
 人工降雪機の陰からぞろぞろと現れる仲間たちもまた、同じような表情を作っていた。
 
 ダストクリスマスに遭遇した!

  • 当日夜(戦闘終了後)
セフィロトタワー
 セフィロトタワーの屋上で爆音が響く。
 それは人工降雪機が上げた悲鳴だった。
 戦闘に巻き込まれた人工降雪機のエンジンが焼き付き、黒煙を吐き出す。
 それでも無理矢理タービンを回し、頭に響くような高音を上げ始めた。
「くそっ。弱音を吐くんじゃねえ! てめえはまだやれるだろうが!」
 『ダストクリスマス』のリーダー、ダスティが人工降雪機に向かって吠える。
 それに応えたのか、タービンは回転数を上げ悲鳴がさらに高くなる。
 
 そしてついに、エンジンが爆発した。
 黒煙混じりの雪を弱々しく吐き出す人工降雪機。
 辛うじて息をしている、そんな状態だった。
 
 そして、街に黒い雪が降る。
 それはなんとなく、世界の終わりのような光景だった。
「……ここまで、だな」
 相棒の限界を、男が静かに告げる。
 その言葉は仲間たちに瞬時に伝わった。
 次々と、ビルの屋上から迷いなくダイブしていく。
 
 それは狂ったような光景だったが、別段覚悟を決めたわけではなかった。
 この場から逃亡する、その決断をしただけの話である。
 それぞれに背負ったバッグから巨大な布が飛び出す。
 それは空中で瞬時に広がり、パラグライダーへと変化した。
 黒い粉雪舞い降る中、暗い夜空に消えていく。
 
「黒い雪ってのも、呪われたみたいでいいじゃねえか」
 最後に一人残ったリーダーの男。
 それなりに、この結果には満足したらしい。
「今年はこれぐらいで勘弁してやるよ」
 やってやった、みたいな顔で笑っていた。
 またエンジンが爆音を上げ、新たに黒煙を吐き出す。
 完全にエンジンが停止するにはまだ少しかかりそうだった。
 
「じゃあな!」
 そちらに気を取られた瞬間、男が飛び降りる。
 彼はバッグを背負っていなかった。コートとマフラーを棚引かせて真っ逆さまに落ちていく。
 それを空中で受け止めたのは、翼の生えたトナカイだった。
 ダスティのマフラーを上手い具合に口でキャッチして、翼を羽ばたかせて空へと舞い上がる。
 
「来年、また俺たちがクリスマスを台無しにしに来てやるからな!」
「はぁーっはっはっはっはっ………」
 高笑いが遠ざかっていく。
 未だ降り止まない黒雪の中、その声はしばらくの間響いていた。

イベントマップ『セフィロトタワー』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを□得た

聖夜のホワイトクリスマス
 チーン。
「最上階、スカイラウンジです」
 到着したエレベーターの扉が開き、エレベーターガールが無機質な台詞を吐く。
 降りてくる客はなく、彼女以外は空のエレベータに(PC名)は乗り込んだ。
「これより二十階層はホテルフロアとなっております」
 扉が閉まり、最下層へ向けて動き始めたエレベーター。
 行きにはなかったフロア案内が、エレベーターガールの口から発せられる。
 
「ホテルフロア通過中、当エレベーターは揺れることがございます。ご注意ください」
 こちらに背を向けているため表情は読めないが。
 どういう顔をしてそのセリフを吐いているのかは、少しだけ興味があった。
 チーン。
「地下5階、シャトルバス乗り場です」
 最下層まで無言のまま、到着する。
 何故かは分からないが、その間どこの階層にも止まることなく新たな客が乗り込んでくることはなかった。
 
 扉が開き、エレベーターガールの横を通り過ぎる。
 何となく横を向いてみたが、彼女はすっと反対側を向いて顔を隠した。
 結局彼女の顔を見れないまま、(PC名)はエレベーターを降りた。その背中に。
「あと30分で上がりなので、家に帰れそうで安心しました」
「彼氏が待っていますので。どうも申し訳ございません」
 顔のない会話を背中越しに受けながら、扉が閉まる。
 上下の往復をひたすら繰り返すエレベーターは、再び最上階へ向けてのんびりと各駅停車で上がって行った。
 雪がいくら降り積もろうが、黒い雪が降ろうが。
 全く構わず楽しんでいる人々をビルに残し。
 (PC名)は他に客のいないシャトルバスに乗り込み、運行再開を望みながら駅へと向かった。

ミッション『聖夜のホワイトクリスマス』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『クリスマスケーキ』を手に入れた
特別ボーナス
(PC名)は魂片:『聖夜の黒雪精』を手に入れた
聖夜のホワイトクリスマス
今回のイベントは終了しました

トナカイ屋オープン記念
 クリスマス限定、トナカイ屋がオープンしました。
 商品はトナカイ全般です。トナカイを色々して、商売しています。
 今回はオープン記念ということで。
 クリスマスプレゼントとして、トナカイを一頭お送りいたします。
 
 トナカイは色々と使い道がございますが、今回我々は服飾品をお勧めしております。
 軽いのに暖かい、そんなトナカイコーデはいかがでしょう。
 なお、加工もトナカイ屋で受け付けております。
 どしどしオーダーメイドしてください。うちのシェフも捌く気満々で待っております。
 
クリスマスプレゼントが届きました。
トナカイを用いて防具へ加工することができます。
加工の登録は『基本登録』で行ってください。

チョコレートダンス

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
『ミッション:チョコレートダンス』を発見しました
チョコレートダンス
 想いを伝えるために、愛する者へと贈られる。
 劇的な甘さと少しの苦み、それは恋の味である。
 チョコレート工場は一年で最も忙しい一日を迎えようとしていた。
 入荷したチョコレートを溶かし、型に入れて固め直す。
 最新型チョコレート製造器『ディスコ・クイーン』は大忙しである。
 
 バレンタインデーに向けて、今日も急ピッチでチョコレート作りが行われていた。
 大量に入荷済みの、大手チョコレートメーカーの美味しいチョコレート。
 溶かしては固め、溶かしては固め。
 ベルトコンベアーは唸り声を上げ、その回転数を上げ続ける。
 
 だが、その時、『ディスコ・クイーン』の足下で金属音が響いた。
 それはネジ。こめかみの辺りから落ちた、大事な大事なネジだった。
 跳ねて、転がり、工場の隅に消えていく。
 
 飛び出す目。回る頭。噴き出す蒸気。響き渡る警告音。
 『ディスコ・クイーン』は要約すれば、壊れてしまったのだ。
 目に付くものを手当たり次第にチョココーティングしていく『ディスコ・クイーン』。
 生み出されるチョコレートの彫像たち。
 工場作業員たちが次々と犠牲になっていく。
 
 このままでは、前衛芸術のパーティ会場のようになってしまう。
 チョコレートの彫像をなぎ倒し、『ディスコ・クイーン』のコンセントを引っこ抜くのだ!
『マップ:チョコレート工場』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
チョコレート工場
 ベルトコンベアーを流れて行く、1mほどの立方体のチョコレートの塊。
 その道の途中で、チョコレート製造器が待ち構えていた。
 
 チョコレート製造器、通称『ディスコ・クイーン』。
 肩に担いだラジカセ型外部スピーカーから大音量でダンスミュージックを響かせ。
 背中から突きだした、金管楽器のような複数の金属管から蒸気を噴き出していた。
 人を象った上半身が、ベルトコンベアーに沿うように直接台座に取り付けられている。
 とは言ったものの、体は四角い箱であり、その上にバケツを逆さにしたような頭が乗せられて。
 箱の横からホースが2本、左右それぞれ1本ずつ生えているだけである。
 
 確かに人を象っていると言えばそうだが、小学生の夏休みの工作レベルの造形だった。
 
 
 ベルトコンベアーをチョコレートが流れてくる。
 コップのような形状になった両手の先、コンベアーの上手に当たる右手の器でそのチョコレートを受け取った。
 その器を口元に近づける。
 『ディスコ・クイーン』のバケツのような頭の口がぱかっと開き、器に向かって炎が吐き出された。
 
 バーナーのように吹き付けられる炎で、器が真っ赤に熱される。
 中のチョコは当然だが、ドロドロに溶けていた。
 
 
 液体状になったそれを左手の器に、こぼさないように丁寧に移す。
 冷却機能が付いているらしく、チョコレートはすぐに冷えて固まっていた。
 器の内壁の型どおりに形を変えて、またベルトコンベアーに戻されて反対側に流れて行く。
 
 それが通常の、今までの『ディスコ・クイーン』の製造工程だった。
 だが、すでにこのチョコレート固め直し機は壊れてしまっている。
 頭のネジがぶっ飛んだ、前衛芸術乱造機である。

チョコレート工場
 工場内は、『ディスコ・クイーン』が吐き出す炎と蒸気でかなりの高温になっていた。
 作り出したチョコレート像は一部が溶け始め、なにやらゾンビのようにも見える。
 『ディスコ・クイーン』には移動手段がない。
 その手が届く範囲に入らなければ危険はなかった。
 だが、その範囲内にあるものは、まさに手当たり次第に捕まっている。
 
 捕まり、溶かしたチョコレートでコーティングされる。
 そして、ふらふらと、それらは動き始めた。
 それこそゾンビのように、何かを求めて彷徨い歩く。
 高温多湿に、甘ったるいチョコレートの香り。
 眠気なのか怠さなのかよく分からない感覚に包まれながら。
 (PC名)は邪魔なチョコレート像の撤去を開始した。

  • 当日昼(戦闘終了後)
チョコレート工場
 近づいた(PC名)に、『ディスコ・クイーン』の洗濯機の排水パイプのような腕が伸びる。
 それをあっさり躱すと、逆の方向から溶けた液体チョコレートを浴びせかけてきた。
 それまたひらりと通り抜け、懐へと飛び込む。
 
 この機械はチョコレートを溶かして固め直すのが目的である。
 器用に腕を動かし立ち回るようには、そもそもできていなかった。
 長すぎる腕をかいくぐり、その背後へと回り込む。
 そして、足下に垂れ下がり埃を被っているコードを乱暴に引っ掴んだ。
 それは『ディスコ・クイーン』の電源ケーブルだった。
 
 台座に繋がっているケーブルを、力任せに無理矢理引っこ抜く。
 千切れた電源ケーブルの剥き出しになった銅線の部分から、バチバチと火花が飛び散った。
 エネルギー供給を絶たれ、沈黙する『ディスコ・クイーン』。
 彼女はもう、それ以上踊ることはできなかった。

イベントマップ『チョコレート工場』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを□得た

チョコレートダンス
 チョコレートの香りが工場を満たす。
 そこら中に茶色い液体がぶちまけられ、何とも言えない状況になっていた。
 沈黙し、うなだれる『ディスコ・クイーン』。
 彼女への送電は絶たれたが、他とは独立しているらしく。
 ベルトコンベアーは今も稼働し続け、無加工のチョコレート塊がそのまま流れていた。
 
 その流れゆく下流から、おそらく工場長と思われる男性が歩いてくる。
 頭からつま先までチョコレートを被り、綺麗にコーティングされていた。
 歩いてきた茶色い工場長が『ディスコ・クイーン』の前に立つ。
「ネジ1本でこんなことになるような、精密機械じゃないんだけどなあ、お前」
 ため息混じりに、がつんがつんと台座をつま先で軽く蹴りつける。
 
 四発目の蹴りが入った時に、『ディスコ・クイーン』の頭部から何から転がり落ちた。
 それは1本のネジ。
 取れてしまった大事なネジの、その対になるもう一つの大切なネジだった。
 ころんからんころん。
 静まりかえった工場に、ネジが床を跳ねる音だけが響く。
 
 二本目のネジを失って、電力が絶たれたはずの『ディスコ・クイーン』の頭が動いた。
 がこん、と縦に一度揺れる。
 その顔が、鉄でできている頬が赤く染まっていた。
 頬を染めたまま、左手を茶色い工場長にゆっくりと伸ばしていく。
 胸の前で、その先に付いているコップを傾けた。
 そこには固まったチョコレートが収められていた。
 
 理解しないまま差し出した工場長の腕の中に、できあがった手作りチョコが落ちる。
 それは、彼女がずっと作り続けてきた、不細工なキャラクターに加工されたチョコレートだった。
 『ディスコ・クイーン』の顔が真っ赤に染まる。
 燃えそうなぐらいに赤く、そしてそのまま頭部が溶け出した。
 溶けてできた隙間から炎が漏れ出る。
 
 彼女を動かす最後の命の炎は自らを溶かし。
 頭部が全て無くなる前に、工場長に差し出していた左手ががくんと落ちた。
「壊れてるのに最後まで仕事をするなんて、労働者の鑑のようなヤツだなあ」
 受け取った彼女の最後の製品をチェックしながら、心の底から呟く工場長。
 欠けも割れもなく、それはそもそもの不細工な造形を無視すれば素晴らしい出来だった。
 
「では、これはどうぞ」
 と、そのチョコレートをこちらに差し出してくる。
「あいつの最後の商品です。仕事は完璧ですから、もらってやってください」
 自社の商品を、自信満々に勧めてくる。
 それをもらうのはお門違いな気もするが、断りづらくもあり。
 
 ちらりと『ディスコ・クイーン』を横目で見ながら、そのチョコレートを受け取った。

ミッション『チョコレートダンス』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『手作りチョコ』を手に入れた

特別ボーナス
(PC名)は魂片:『ディスコクイーンチョコ』を手に入れた

チョコレートダンス
今回のイベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『チョコレート』が修得可能になった

大人への階段

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:大人への階段』を発見しました
大人への階段
 リーゼロッテ初等学院。
 穢れを知らない無垢な少年少女たちが、穢れた世界へと巣立っていく。
 通過儀礼を経て、大人へと落ちていく。
 学院では本年度の卒業式を間近に控え、その準備に追われていた。
 式典は体育館で行われるため、シートを敷いて椅子を並べる。
 当日は様々な賓客が招かれ、豪華に、だが厳かに式は執り行われる予定である。
 
 失敗は許されない。
 子供たちだけではなく、これは学院にとっての晴れ舞台である。
 だが、それを台無しにするべく、あるものが学院に届けられた。
 それは脅迫状である。
『我々は、『卒業させられた大人の会』である』
『我々には卒業しない自由と権利がある』
『画一的に、まるでベルトコンベアーに乗せられた商品のように卒業していくのは間違っている』
 
『卒業式を中止せよ』
『この要求が聞き入れられない場合、こちらには実力を行使する用意がある』
 
『我々は卒業しない権利を子供たちに行使させるため、この卒業式を阻止するものである』
 卒業式は数日後である。
 今更延期も中止もできない。
 賓客は来るし、この後には新たな子供たちの入学式も控えているのだ。
 
 卒業式は中止しない。阻止もされない。
 校門より一歩たりとも立ち入らせず、その一歩手前で守り抜いて欲しい。
 
 子供たちの涙と笑顔を守れるのは、あなただけなのだ。
『マップ:リーゼロッテ初等学院』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
リーゼロッテ初等学院
 リーゼロッテ初等学院。
 カラフルなランドセルを背負った少年少女たちが元気に校門を駆け抜けていく。
 今日ここに集まったのは、卒業生たちだけではない。
 彼らを送り出すべく、多くの在校生たちも体育館に足を向けていた。
 
 そして、来賓や卒業生の家族など、大人たちもまた学院を目指し。
 一人、また一人と卒業式会場に姿を見せ始めていた。
 きーんこーんかーんこーん。
 学院内の至る所に取り付けられたスピーカーから、鐘の音が響き渡る。
 体育館に集まった卒業生と、それを祝う人々。
 今まさに、卒業式が始まろうとしていた。
 
 だが、(PC名)はその晴れ舞台には立っていない。
 確かに場所としては学院の表にあるが、ここは裏舞台である。
 通すべきものは全て通し終えた校門前に立ち、来る戦いに身構えていた。

  • 当日昼(戦闘直前)
卒業式を阻止するもの
 ざっざっざっざっざっ。
 わずかなズレもない行進の足音は、規律に整えられた軍隊のそれに似ていた。
 校門の前を通る道路を、彼らは堂々と歩いてきた。
 テカテカと光るビニール製のぴっちりとしたスーツで頭からつま先まで全身を包み。
 ガスマスクのようなもので、全員が顔を隠していた。
 
 それらが数十、数百人と列を作り、学院に向けて行進していた。
「ぜんたーい、とまれぇーい!」
 先頭を歩いていた男が号令をかけて行進が止まる。
 そのタイミングにも、ロボットのように全くの乱れもなかった。
 
 行進を止めた男はその場でくるりとターンして皆に振り返り、
「本日、この学院にて卒業式が執り行われている!」
 体育館にも聞こえそうな音量で、最後列まで十分届くように男は声を張り上げた。
「再三の我々の警告にかかわらず、とんでもない蛮行である!」
 拳を固め、空へと掲げる。
 後ろに続く戦闘員たちも、彼に見習って拳を天に向けた。
 
「警告はした! ならば次に我々がすることは一つ!」
「卒業式を破壊する!」
 おおー、という野太い声が、確実に学院中に響き渡っていた。

  • 当日昼(戦闘勝利後)
リーゼロッテ初等学院
「卒業証書を授与される者……」
 壇上に学長が上がり、生徒たちの名前を順に読み上げていく。
 泣いている子、人ごとのように関心のない子、それよりも隣の友達と遊ぶことに夢中の子。
 それぞれにそれぞれの反応見せながら、共通点はといえば皆賢く椅子に座っていた。
 
 体育館の後列に陣取った保護者たちの反応は子供たちと違い、ほとんど同じである。
 鼻をすすったりハンカチを握りしめたり、皆一様に泣いていた。
 体育館の中から歌声が聞こえてくる。
 卒業式の定番曲であり、プログラムとしては最終盤。
 つつがなく、式は終了を迎えようとしていた。
 
「卒業式だと言うけれど、何を卒業するのだろう、な……」
 ジューダス・ミリオンバレットを名乗る、敵軍を率いていた男。
 彼は閉じた校門にぼろ布のように掛けられたまま、かすれる声でつぶやいていた。
「善いことをした、とでも思っているんだろう」
「だが、それは間違いだ」
 顔を隠していたガスマスクがずれて、地面に落ちる。
 そこには無精髭を生やした、30歳ほどの男の顔があった。

イベントマップ『リーゼロッテ初等学院』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを□得た

大人への階段
「なぜだ。なぜみな卒業していく…」
 男はうちひしがれ、そうつぶやく。
 その視線の先には体育館があった。
 
 すでに卒業式は終わり、保護者が外に出てきて花道を作っている。
 そこを通り抜けることで、儀式は全て終わる。
 少年たちは大人になる。その、第一歩を歩み始める。
「俺は今年も留年だ。また別れねばならない。一年など、早すぎる」
「出会い、別れ。この繰り返しは悲劇だ」
 卒業生たちが体育館を出てくる。
 彼らの親たちが作る花道をくぐり、拍手に包まれ、笑顔と涙に表情を歪めていた。
 
「なぜ九九ができないと卒業できないんだ…」
 その姿を羨望のまなざしで見つめながら、男は涙を地面に落とした。
 教諭の一人が走ってきて、校門の門扉を開ける。
「うぐっ」
 その上に覆い被さっていた男の体はドサリと地面に落ちて転がった。
 
 その横を卒業生たちが通って学院を出て行く。
 転がる男に向かって、
「じゃあね、おじさん。来年もがんばってね」
「6の段まで行けたんだから、あとちょっとだよ」
「教室の金魚、来年もよろしくね」
 などと、お別れの言葉をそれぞれに掛けて去っていった。
 がらがらがら、と門扉が閉じられる。
 男の体は門のすぐ外に転がっていた。
 大の字になって、空を見上げている。門扉越しに、彼の担任教師が立っていた。
 
「来年も、私が6年生を担当します。よろしくお願いします」
 まだ若い、男よりもいくつも年下の女性だった。
「来年こそ、ぜったい卒業しましょうね」
 彼女の目はやる気にあふれていた。
 
 男は空を見上げたまま、
「7の段は無理だろ。どう考えても…」
 力なく、ため息を引き連れた言葉を吐き出していた。

ミッション『大人への階段』をクリア!
クリアボーナス
 (PC名)は魂塵を△△Ash得た
 (PC名)はSPを1得た
  • 当日夜(休息処理後に表示)
ある梅雨の日に
 
今回のイベントは終了しました
 
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『学生』が修得可能になった

蠢くイースターエッグ

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:蠢くエースターエッグ』を発見しました
蠢くエースターエッグ
 海鳥たちが集まるリングリッジ島。
 海の民が作ったイーストヴィレッジは、その島の東部の海岸沿いにある。
 村人の大半は漁師であり、村は漁によって成り立っている。
 自然相手の商売であり、また命の危険も伴う。
 そんな彼らであるので、神頼み、というものは何かと必要となってくるのである。
 
 信仰対象となる御神体は、村の奥にまつられていた。
 社はない。
 その巨大さゆえ、囲うことがそもそも難しかったのかもしれない。
 高台の上、御神体は木で組まれた台座の上に乗せられ、太陽の光を反射してキラリと輝いていた。
 
 白くてツヤツヤの御神体。
 卵形の、というよりは、それはどうみても巨大な卵そのものだった。
 それは大昔からそこにあり、村の信仰の対象となっていた。
 それがなんなのかを知るものはいない。
 まあ、だからこその信仰でもあるのだろうが。
 
 とにかくそれに祈り、漁が無事に終える。
 重要なのはそれだけであり、それの正体などは二の次なのである。
 
 だが、それも、ある事象により変化を余儀なくされてしまう。
 御神体が動き始めたのだ。
 地震が起こったわけではない。
 地面は揺れていない。揺れているのは御神体だけだった。
 
 身震いするように、時折揺れる御神体。
 その律動は日に日に増しており、台座がきしむ音が村中に響くほどだった。
 卵形の、卵のような何か。
 もしもそれが本当に卵なのだとしたら。
 
 その中には何がいるのか。何が出てこようとしているのか。
 それを確かめるには、御神体の前に行くしかないだろう。
『マップ:イーストヴィレッジ』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
イーストヴィレッジ
 リングリッジ島のイーストヴィレッジ。
 桟橋に係留された船の数と村の規模を考えれば、村における漁業への依存度が伺える。
 嵐などでそれが絶たれれば、村はほんの数日で音を上げるだろう。
 
 だからこそ、効果のあるなしに関わらず、精神安定剤としても村は祈りの力を必要としていた。
 御神体としてまつられた、卵型の巨大な置物。
 見上げるほどの大きなそれは高台に置かれている。
 方法は不明だが木材を組み上げた低い台座の上に乗せられ、まさに村の守り神として村全体を見下ろしていた。
 
 その存在感はなかなかのモノである。
 白くツルツルとした表面は岩の類ではなく、それはやはり卵に見える。
 あまりに滑らかな曲線は人工物を思わせ、少なくとも岩が風によって削られてできあがるような代物には思えなかった。
「長老たちは不吉だなんだ言って近づきゃしねえし」
「俺たちを守ってもらわにゃならんのに、不幸振りまいてもらっちゃ困るんだけどな」
 御神体に毒を吐きながら、その体を地面から届く範囲のみデッキブラシでごしごしと洗っている。
 
 体つきはまだ少年で、海に出て仕事をしているような筋肉の付き方はしていなかった。
 少年はデッキブラシを握る手を止めて振り返り、
「あんたらみたいなのもゾロゾロと島に集まってくるし」
「まったく、喧しいったらありゃしねえぜ」
 こちらをにらむ目つきに、歓迎の意はくみ取れなかった。

  • 当日昼(戦闘直前)
復活祭
 ごしごしと、甲板掃除のように力を込めて御神体をデッキブラシで磨く。
 毎日ではないが定期的に掃除はしているため、さほど汚れはない。
 だからといって力を抜くことはせず、少年はいつものようにブラシで擦っていた。
 
 そうして鍛えられた力がこの日この瞬間に覚醒した。わけではないが。
 彼がぐいと力を込めた瞬間、その方向に御神体がぐらりと揺れた。
「うおわ」
 ぐっと込めた力が返ってくることなくそのまま抜けて、少年は前につんのめる。
 
 彼の力とは全く関係ない。地震でもない。
 卵型の御神体、それ自らが自身の巨体を揺らし始めていた。
 揺れとともに、木製の台座が軋む。
 悲痛な悲鳴は限界を訴えていた。
 
「綺麗に洗ってやってんだから大人しくしやがれ!」
「てめえがそんなだから、爺婆どもが怖がってんじゃねえかよ!」
 叫び、デッキブラシを振り上げる。
 それは御神体に対しても、ましてやタマゴに対してはけしてやるべきではなかった。
 
 少年は叫びながらデッキブラシを頭上に掲げ。
 どんどん揺れが大きくなってきていた御神体の土手っ腹へと振り下ろしていた。
 台座が最後の悲鳴を上げる。
 御神体は台座を押しつぶし、ケツをしたたかに地面に打ち付けた。
 
 (PC名)が御神体に致命傷を与えた少年の首根っこを引っつかみ、一気に距離をとったその刹那。
 御神体、巨大なタマゴの殻にヒビが入った。
 ヒビは全身へと一気に広がる。そうなれば全ては加速していく。

 台座を破壊して地面に叩きつけられた勢いで上がった土煙が御神体の姿を隠す。
 その中で、タマゴの殻はぽろぽろとはがれ落ちていった。
 
 タマゴが卵型を維持する、その限界が訪れる。
 まるで内側から爆発したかのように、タマゴの殻が四方八方に弾け飛んだ。
 
 それは劇的な、誕生の瞬間である。
 タマゴが割れて、中から飛び出してきたモノは、またも卵だった。
 それはたとえばマトリョーシカ人形のようなものではなく。
 小さな、と言っても直径が1メートルを超えるようなモノもあったが、そのような卵が大量に飛び出した。
 よくみれば、卵ではないウサギのような生き物も混ざっていたが。
 
「い、いっぱい出てきたぞ!」
 少年が悲鳴を上げる。
 
 タマゴから生まれた新たな卵。それらは卵であって卵ではなかった。
 鶏卵、その内側ではなく表面から直接手足が生え、手にはステッキを持ち頭にはシルクハット。
 そういった、卵の形をした別の何か。
 
 それらがあふれ出し、高台を埋め尽くそうとしていた。
(PT名)は『戦闘』を選択しました (行動ポイント-3 / 残り2ポイント)
イースターエッグに遭遇した!

  • 当日昼(戦闘勝利後)
イーストヴィレッジ
 割れた卵。
 零れ出た中身は黄身と白身であり、希望でも絶望でもない。
 それは卵以外のなにものでもなかった。
 卵と言っても、殻付きのものばかりではない。
 柔らかいものはそのまま、残念な形で地面にぶちまけられていた。
 
「うええ。気持ち悪ぃなあ」
 足の踏み場もないほど地面の上に広がったカエルと思しき卵に、露骨に顔をしかめる少年。
 わざわざ地面に少し顔を近づけて、
「うわ臭っ。生臭っ。気持ち悪っ」
 思ったことをそのまま口にしていた。

イベントマップ『イーストヴィレッジ』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを17得た

蠢くイースターエッグ
 高台で起こった異変に、漁に出ていなかった村人たちがぞろぞろと集まりだしていた。
 完全に御神体を破壊した犯人扱いされ、その都度誤解を解いていく。
 
 あの少年の一撃が1%程度は破壊につながったかもしれないが、それは伏せておいた。
 彼もまたわざわざしゃべる気もないらしく、いきなり壊れて中からこれが出てきた、と説明していた。
「いろんなやつの卵が一個ずつ収まってた、ってことか」
「中には一個じゃないやつもいるみたいだけどな。1セット? みたいな?」
「しっかし、見事に全部壊したんだな」
 集まった村人たちが、それぞれに近くの人間と話し込んでいた。
 
 皆あまり近づきたくはないらしく。
 卵の残骸で地面が埋まっていない、ある程度離れたところから遠巻きに眺めている。
 おおむね、最初に少年が見せたような、露骨にいやがるような表情をしていた。
 残骸の内側にいるのは、そもそもそこにいた(PC名)だけである。
 そこには、例の少年。トラバスも含まれる。
 
 トラバスはひぃひぃ言いながらも卵をグチャグチャと踏みつけ、あたりを歩き回っていた。
 その成果と言っていいのかどうか。
「おい! こっちに割れてない卵があるぞ!」
 宝探しゲームで宝物を発見した子供のように、興奮した声をこちらに向けてあげた。
 すくっ、と立ち上がる。

 ダチョウの卵より少し大きいぐらいの白い卵、ただし手足が生えていた。
 そいつは膝、に当たるであろう棒のような足の中央あたりをぱんぱんと払い、後ろ側に手を回して背を反らす。
 定番のストレッチを終え、少年のこともこちらのこともまったく気にする様子もなく。
 
 卵散らばる地面の上を、大股で歩き始めた。
 目的地は決まっている、そんな歩き方だった。
 そしてその通りに、あるところでぴたっと止まった。
 そこはその周辺にあって唯一、卵の惨劇から逃れて綺麗な地面が剥き出しになっている。
 
 手足の生えた卵はそこに腰を下ろし、あぐらをかいた。
 ちょうどその位置は、台座がなくなってしまっていたが、壊れる前の御神体が鎮座していた場所だった。
 
 そこであぐらをかく、その足の色が変わり木目のような模様ができ、木へと変化していく。
 それは小さかったが、自身の体を支える台座のようだった。
 それきり、手足の生えた卵は動かなくなった。
 手に関して言えば腕組みをしていたが、腕の長さと胴回りの関係上、指先を軽く絡めるのが精一杯だった。
 
 誰が言い出したわけでもないのだろう。
 村人たちは卵の後片付けを始めていた。
 この、腕組みしてあぐらをかく卵、その周りから丁寧に。
 
 もう彼らの表情からも、いやがるような素振りはなくなっていた。
 新たな御神体の周囲の清掃。それに皆、新たな使命感を燃やしていた。

ミッション『蠢くイースターエッグ』をクリア!
クリアボーナス
 (PC名)は魂塵を△△Ash得た
 (PC名)はSPを1得た
 (PC名)は『卵かけご飯』を手に入れた
 特別ボーナス
 (PC名)は魂片:『イースターエッグ』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
蠢くイースターエッグ
 
今回のイベントは終了しました
 
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました


ストロベリーフィールドの騎士

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:ストロベリーフィールドの騎士』を発見しました
ストロベリーフィールドの騎士
 多くの孤児を受け入れてきた教会ストロベリーフィールド。
 シスターと子供たちが世話をする農園で採れた野菜やフルーツは大変評判で。
 中でも、この時期に最盛期を迎えるイチゴは、教会で行われるバザーなどですぐになくなってしまう人気商品である。
 今年も多くのイチゴが実り、来週末に行われるバザーを子供たちは楽しみにしていたと言う。
 ケーキやジャム、そしてもちろんそのままのイチゴも。
 イチゴ尽くしのバザーは大いに盛り上がるだろうと期待された。
 
 だが、シスターディアナの悲鳴がストロベリーフィールドに響き渡った瞬間。
 全ては変わってしまった。
 うら若き純潔のシスターディアナ。
 彼女の美しい声で歌われた悲鳴は、教会を越えて近隣の村まで聞こえたという。
 
 彼女の上げた悲鳴、それはイチゴ畑で見つけた蛇に対してのものだった。
 それは毒もなく、大きさもたいしたことなく、凶暴でもなければ火を噴くわけでもない。
 
 問題は、その蛇が口にくわえているものだった。
 それは蛇たちが好んで食べるヘビイチゴの実だったのだ。
 このイチゴ畑では、毎年様々な品種のイチゴの苗が植えられる。
 どうもその中にヘビイチゴも混ざっていたらしく、それが赤々とした実をつけていたのだ。
 
 そして、そのヘビイチゴの品種が最悪だった。
 『へびおう』と名付けられた、ヘビイチゴの中のヘビイチゴ。
 あらゆる蛇を惹きつける魔力を持つ、悪魔のヘビイチゴである。
 現れた蛇が口にしていたように、すでに『へびおう』は収穫の時を迎えていた。
 その甘い匂いを嗅ぎつけた蛇たちは、続々とここに集まってきているだろう。
 
 今更『へびおう』を処分したところで、その足が止まることはない。
 間違いなく、このイチゴ畑は彼らによって蹂躙される。
 その時現れる蛇が、今目の前にいる何の害もない蛇とは限らないのだ。
 
 海を飲み干す世界蛇とて、『へびおう』の魔力には勝てないのだから。
 もはや残された道は二つ。
 逃げるか、受けて立つか。それしかない。
 
 シスターたちは素早く決断した。武器を手に取り、戦うことを。
 その戦いに手を貸す気があるのならば、今すぐストロベリーフィールドに向かうのだ。
『マップ:ストロベリーフィールド』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
ストロベリーフィールド
 開かれた教会は、物々しい雰囲気を全身に纏っていた。
 木を格子状に組み上げ、それにさらに有刺鉄線を巻き付けたバリケード。
 自らも傷つける諸刃の盾で敷地を囲い、拒絶の意志をはっきりと示していた。
 
 いつもは聞こえる、子供たちの無邪気に遊び回る声も。
 今では静寂の中にナイフのように響く、カラスの鳴き声に変わってしまっていた。
「山」
 バリケードに囲まれた教会、ストロベリーフィールド。
 無理矢理ではなく、正規の方法で中に入るには正面からしかない。
 そこにはバリケードに切れ目があり、動かせば中に入れるようになっていた。
 
「山」
 そしてそこに、まるで国境を守る兵士のように。
 サブマシンガンを腰に構えたシスターが立ち、同じ言葉を繰り返していた。
「やーまーやーまーやーまー」
 こちらに銃口を向け、苛立った様子でその呪文を何度もつぶやく。
 何の気なしに『川』と答えてみると、
「よし!」
 と、銃口を下ろしてバリケードを開き、(PC名)を中に招き入れた。
 すぐにバリケードを閉じて、周囲に銃を向けながら威嚇する。
 
「……ヘビの姿はなし。つけられてはないようだね」
 安全を確認し、ようやくその目を(PC名)に向けた。
「あたしはシスターディアナ。金色夜叉のディアナさん、って子供たちには呼ばれてる」
「よく来てくれた。歓迎するよ」
 絹糸のような髪は日の光を受けて金色に輝き、風にさらさらと揺れている。
 
 やや青みがかった修道服、そして肩から提げたサブマシンガン。
 確かにシスターだが、祈ると言うよりもやや攻撃的なシスターだった。
  • 当日昼(戦闘直前)
ナイトオブストロベリーフィールド
 教会の外にはシスターディアナの姿しかなく、子供たちも他のシスターもいない。
 彼女以外全員、教会の中に避難しているとのことである。
 
「教壇を退かしたら、その床下に地下室があってね。みんなはそこに隠れてるよ」
「逃げるのが一番いいんだろうけど、行き場なんてないやつばっかだからね」
 言いながら、教会を眺め見る。
 
 そこには横断幕が掲げられていた。
 拙い字で書かれた『がんばれシスターディアナ』の文字を目に焼き付け、覚悟を決める。
「おしゃべりはここまでだね。来たようだよ」
 横断幕に背を預け、ディアナはバリケードの向こう側へと意識を向けた。
 地平線の彼方、蜃気楼のように景色が歪む。
 それはもうもうと立ち上る土煙だった。
 
 そして徐々に近づいてくる。
 土煙と、それを巻き上げるモノたち。
 それは地面を這いながら、ただこの教会だけを目指して突き進んでいた。
「来やがれってんだ。人間様には手も足も出ないってことを教えてやるよ」
 サブマシンガンを構えながら、ディアナの頬を汗が伝う。
 緊張と恐怖。
 明らかに、それらが彼女を表情を支配していた。
 
「ヘビなんか、だいっ嫌いだああああああああ!!!!」
 シスターディアナは吠え猛り。
 バリケードをこちらから破壊する勢いで、サブマシンガンを辺り構わず乱射していた。
(PT名)は『戦闘』を選択しました (行動ポイント-3 / 残り2ポイント)
ヘビに遭遇した!

  • 当日昼(戦闘勝利後)
ストロベリーフィールド
 真っ赤に実った、甘くて酸っぱいイチゴ。
 子供たちの笑顔は、教会が無事だったからかイチゴが甘いからか。
 今現在で言えば、口の中を支配するイチゴのせいだろう。
 
 祝勝会の前菜として振る舞われた、採れたてイチゴを頬張りながら。
 シスターと子供たちの笑顔が教会に花を咲かせていた。
 庭に机をいくつもつなげて並べ、その上に白いシーツを敷いただけのパーティ会場。
 その上にはイチゴしかないが、彼女らにはそれで充分なようだった。
 
「さあ! メインディッシュの登場だよ!」
 大皿を両手に掲げるようにして持ったシスターマリアとシスターアンジュ。
 厨房のある教会から出てきて、やや乱暴に机の上にどんと大皿を置く。
 
 皿の上に盛りつけられていたのは、ヘビの蒲焼きだった。
「大地の恵みに感謝して」
『いただきます!』
 シスターマリアのかけ声に、子供たちが手を合わせた。
 そして、誰もが一番乗りを賭けて箸を伸ばす。
 
 誰よりも先んじて蒲焼きを掴み口に運んだのは、金色夜叉のシスターディアナだった。
「ヘビ野郎! このっ! 喰らいやがれ!」
 恨みというか怒りというか、とにかく負の感情をぶつけながら。
 けして美味しいものを食べている表情を見せることなく、ディアナは蛇の蒲焼きに噛みついていた。

イベントマップ『ストロベリーフィールド』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを得た

ストロベリーフィールドの騎士
「神父様かい?」
 教会には必ずいるというものではないが。
 姿が見えず、何とはなしに聞いてみた。
 
 蛇を食い散らかす祝勝会が一段落し、シスターディアナと一緒にイチゴ畑に向かう途中である。
「あんたも地下室に隠れてろって言ったんだけどね」
「神父様が、俺も出るってうるさくって」
 と、おかしそうにくっくと笑う。
 
「あんたがやられちゃ話にならないし、そもそも邪魔だし」
「ふん縛って教会に吊してあるから、興味あったら見て来なよ。おもしろいよ」
 その吊された姿をもう一度思い出してか、やはり彼女は笑っていた。
 
 あれからずっと、祝勝会が終わった今もずっと吊されている姿を想像すると。
 あまり、気持ちよく笑う気にはなれなかったが。
 イチゴ畑には、さきほどかなりの量を収穫したにもかかわらず。
 まだまだ熟したイチゴがたくさん残っていた。
 そのうちの一つをディアナがもいで口に運び、
「んー。うまい。あんたも食べなよ」
 次いでいくつかもぎ取り、後ろを歩く(PC名)に投げてよこした。
 
「ヘビイチゴはこの奥だよ」
 食べ歩きながら、イチゴ畑を抜けて奥へと。
 そのあたりからはイチゴとは違う独特な、気怠さを伴うような甘い匂いが漂ってきていた。
「ここの畑は全部焼き払う。残念だけどね」
「だからさっきのは、お別れ会でもあるのさ。今年のイチゴたちとのね」
 イチゴ畑とヘビイチゴ畑との間に境界のようなものはない。
 だが実を見れば、すぐに分かった。それらは全く違うものだった。
 
「こいつが『へびおう』だ。見たことあるかい?」
 野球のボールのような実を握り、茎を足で踏みつけ強めに引っ張る。
 それでもなかなか取れなかったが、そこにさらにひねりをくわえてようやく茎が千切れた。
 
 彼女が手にした『へびおう』は、ややきつめの赤色をしており。
 つるつるとした表面に、イチゴと同じように小さな黒い実がいくつも埋め込まれている。
 ヘタは大きく、葉先は棘のように鋭くとがっていた。
「見たことないなら、食ったこともないだろ」
 持っていた『へびおう』を(PC名)に投げてよこし、自身はもう一つ新たに実をもいだ。
 それを迷うことなく口元に寄せ、大きく口を開けてかじりついた。
 
 口に入れた『へびおう』を軽く二三度咀嚼して、
「うげ。げろまずっ」
 おっさんが道端に痰を吐き出すように、『へびおう』を地面に叩きつけた。
 口に残った分もぺっぺと吐き出し、
「やっぱ蛇って意味わかんないわ……」
 ディアナはあまりのまずさに、顔を思い切り歪めていた。

ミッション『ストロベリーフィールドの騎士』をクリア!
クリアボーナス
 (PC名)は魂塵を△△Ash得た
 (PC名)はSPを1得た
 (PC名)は『へびおう』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
ストロベリーフィールドの騎士
 
今回のイベントは終了しました
 
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
 
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『ヘビ』が修得可能になった

目指せ町内一

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
『ミッション:目指せ町内一』を発見しました
目指せ町内一
 太陽とサンバの街リオ・ジャ・ネイヨ。
 元々無駄に暑いこの街が、今さらなる熱気に包まれている。
 
 それは町を挙げての一大スポーツイベント――サッカー町内カップである。
 
 四年に一度の開催とは言え、ただのスポーツの祭典に過ぎない。
 しかしそれは街の全ての人々に愛され、同時に彼らを狂わせていた。
 サッカーというのは、11人対11人で行う球技である。
 牛革で作られたヤシの実ほどの大きさのボールを蹴り合い、ゴールに入れれば得点。
 もちろん、より多くの得点を奪ったチームの勝利となる。
 
 ルールも結果もともに、実にシンプルにできている。
 とにかく得点を、ゴールを相手より一点でも多く入れれば勝ちなのだ。
 
 ボールを手で触れてはならない。この唯一にして絶対なるルールさえ守りさえすれば。
 武器の使用すら、このスポーツでは許されている。
 町内カップの会場である、エルカナンスタジアム。
 そこはサッカーの聖地と呼ばれ、その芝は多くの名選手たちの血と汗と涙を吸ってきた。
 
 予選から決勝戦まで二週間ほどで行われる大会は中盤を過ぎ、スタジアムの盛り上がりは徐々に上がってきている。
 熱気の中に殺気が混ざり初め、純粋な声援は失われつつあった。
 
 エルカナンスタジアムに詰めかけた観客たちは、さらなる血を求めていた。
 消防団員によって構成されたチーム・フレイムレインは弱小チームである。
 事前予想では一回戦負けが濃厚で、優勝オッズは100倍を超えていた。
 
 そんな彼らが一回戦で当たった相手がチーム・キラーマウス。警官チームである。
 長年のライバル関係にある彼らの試合は白熱を通り越し、戦争状態となった。
 銃弾と放水の飛び交う中、複数のけが人とゴールを生み出す結果となった。
 
 90分の試合時間が終わった瞬間、ピッチに立っていたのは両チーム併せて7人。
 そしてスコアは7-6。消防団員のチーム・フレイムレインの勝利であった。
 負傷者を無理矢理ピッチに戻した二回戦。
 相手は女子小学生チームという幸運に恵まれ、腕力にものを言わせて突破を果たす。
 しかし、チーム内で徹底して足を狙う殺人タックルにより、さらに負傷者は増えてしまった。
 
 もはや完全に人員不足。このままでは、三回戦以降を戦うことは不可能である。
 幸いにも、大会ルールとして欠員の補充が認められている。
 本大会未出場でさえあれば、いくらでも追加登録可能な仕組みとなっているのだ。
 
 そこで、チームフレイムレインは追加メンバーを募集している。
 消防団員である事は問わない。
 水が好きな人、火が好きな人、放水車が好きな人、野次馬。
 薄くともなんらかの関係を示してもらえれば、それだけで充分である。
 チームフレイムレインは弱小チームである。
 奇跡を起こすために、ともに戦ってくれるメンバーを募集している。
 
 町内カップのトロフィーを、我々と一緒に掲げようではないか。
『マップ:エルカナンスタジアム』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
エルカナンスタジアム
 リオ・ジャ・ネイヨのエルカナンスタジアム。
 サッカーの聖地と呼ばれ、多くの名選手を生み出してきた。
 千足観音メシア・ライオネル。
 反則王ケーブロック。
 指揮者ピエロ・アンダンテ。
 守護神オリヴェイラ・ゴリ・ゴーリ。
 名を挙げれば、それこそ枚挙にいとまがない。
 それほどに、この場所には歴史と伝統が息づいていた。
 
 連綿と続いてきた大会が作り出す伝説。
 今年もまた、新たなレジェンド候補たちが産声を上げようとしていた。

  • 当日昼
町内カップ 三回戦
 二回戦を突破したチーム・フレイムレイン。
 消防団員によって構成されたチームは六人にまで減り、ぎりぎり半数を維持している状態だった。
 
 (PC名)を含む新メンバーを加えても、ベンチを埋めるには至らない。
 ピッチ上に頭数をそろえるだけで精一杯だった。
 三回戦。
 相手は仮出所者で作られた、チーム・セルフコントロール。
 こちらと同じく多くの負傷者を出していたが、メンバー補充が間に合わず。
 七人での試合開始となり、前半終了が近づく頃にはその半数がピッチを去っていた。
 
 ハーフタイムを迎えたところで、相手はリタイアとなった。
 いよいよベスト8。準々決勝である。
 次はチーム・赤い旅団。医者と看護師の混成チームだった。
 
 薬物や手術道具が飛び交うピッチ。
 何よりやっかいなのは、負傷者をすぐに回復させてしまう医療技術だった。
 三回戦までのような消耗戦は期待できない。
 サッカーで打ち勝つ必要があった。
 
 そして、最終スコアは5-0。
 普通に、サッカーが下手だった。

  • 当日夕(戦闘直前)
町内カップ 準決勝
 準決勝の相手はチーム・ビリオンパワー。
 町長をキャプテンとする、町議会議員チームである。
 
 白熱する言葉の応酬。
 頬を打つ札束に、消防団員の魂に火が付いた。
 この炎は、彼ら自身でさえ消火できない。
 点を奪い合う試合展開に、会場すらも熱く燃え上がっていた。
 
 勝敗を決したのは、結局のところチームワークだった。
 ゴール前でフリーになっていた野党議員がパスを要求する中、無理なシュートを打つ町長。
 当然ながらボールは高く浮いて、枠を大きく外した。
 しかし、集まってくる与党議員は口々に町長を褒め称え、ヨイショを繰り返す。
 業を煮やした野党議員が発した暴言が、亀裂を完全なものとした。
 
 仲違いを始めたチームは、もはやチームと呼べるものではなくなっていた。
 紛糾するピッチ、飛び交う罵声。
 崩壊した敵チームを尻目に、チーム・フレイムレインは冷静に追加点を決めて試合に勝利した。
 ついに訪れた決勝の舞台。
 そこで待っていたのは、今期の町内プロリーグ優勝チーム。
 FCギャラクティカマグナムだった。
 
 彼らの白いユニフォームは、この決勝までの戦いにおいて泥一つ付いていない。
 町内カップにおける、押しも押されもしない大本命である。
(PT)は『戦闘』を選択しました (行動ポイント-3 / 残り2ポイント)
銀河系軍団に遭遇した!

  • 当日夕(戦闘勝利後)
エルカナンスタジアム
 準決勝からチーム・フレイムレインに加入した、ペルーサ・ロンゴリア。
 ずんぐりむっくりな体に、加入当初はまったく期待されていなかった。
 
 だが、この決勝戦を支配していたのは間違いなく彼だった。
 2-2で迎えた後半ロスタイム。
 センターサークル付近でボールを受けたペルーサがドリブルを開始した。
 敵のディフェンスを、まるでマント一つで戦う闘牛士のようにかわしていく。
 
 一人、また一人。
 足を狙ったスライディングも、ユニフォームを掴みに来る手も、彼には何一つかすりもしない。
 酸の雨をくぐり抜け、地雷原を飛び越えて、ついにGKと対峙した。
 黒装束で全身を隠したGKが、袖に隠していたクナイをペルーサに投げつける。
 クナイは彼の足下、ボールへと向かっていた。
 切っ先がボールへと突き刺さる。
 だが、ペルーサは全く動じることなく、その右足を振り抜いていた。
 
 彼の放ったシュートがゴールの隅へと向かう。
 GKはそれに慌てて飛びつく、ということはなかった。
 ゴールの真ん中に仁王立ちのまま、右手を前に突き出す。
 すると何かの力に惹かれるように、ゴールの右隅へと向かっていたボールが急に方向を変えていた。
 太陽の光で、何かがキラリと光る。
 細いワイヤーのようなものが、ボールに刺さったクナイとGKの腕とをつないでいた。
 
 ワイヤーに引っ張られ、GKの手に吸い込まれていくボール。
 観客たちの悲鳴と歓声が爆発する。
 その中で動いていたのはボールと、そしてペルーサだけだった。
 ゴールへと走り込んでいたペルーサ。
 GKに向かって飛んでいくボールに追いつき、彼はなぜか右腕を振りかぶっていた。
 
 右の拳を思い切りボールへと叩きつける。
 それは本来、反則のはずだった。だが、拳が打ち込まれたのはボールではなかった。
 ボールに突き刺さったクナイ。
 神の拳はクナイを殴り、ボールには1mmたりとも触れてはいなかった。
 
 ボールがゴールとの間に立ちふさがっていたGKの顔面に突き刺さる。
 そのまま、ペルーサは拳を振り抜いた。
 後方へと吹き飛ぶGK。
 そしてボールはコロコロと、転がりながらゴールネットをかすかに揺らしていた。
 
 その瞬間、ホイッスルが鳴り、試合が終わった。
イベントマップ『エルカナンスタジアム』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを得た

目指せ町内一
 号砲とともに撃ち出された青と白の紙吹雪が、エルカナンスタジアムに舞う。
 優勝はチーム・フレイムレイン。
 出場24度目の初優勝であった。
 優勝セレモニーはそのまま、スタジアムで行われていた。
 ピッチ上に作られた仮説のステージで、選手たち一人一人に金色に輝くメダルが渡される。
 全ての選手にメダルが配られた後、トロフィーがキャプテンの手に渡されることになる。
 
 その作業が半分ほど終わったところで、キャプテンが持っていた無線のスイッチが入った。
「どうした?」
 キャプテンの表情が、消防団員のそれへと一瞬で切り替わる。
 
『――四丁目三番にて、ランクBの火災発生――』
 肩に付けた無線機から、オペレーターの声が流れてくる。
「フォーゲル班了解。現場が近いから、このまま直行して初期消火を行う」
「早いところ車を回してくれ」
 話しながら、指と目線とで周囲の隊員に指示を行う。
 彼らも隊長に少し遅れてだが、完全にスイッチが切り替わっていた。
『了解しました――リンガー班が消防車で出動します』
『非番のところ申し訳ありません、隊長』
 最後に、少しだけ声に感情を含ませるオペレーター。
「ああ、まったくだ。とっとと火ぃ消して、非番の続きに戻らせてもらうさ」
 笑いながら答えて、無線機のスイッチを切る。
 
「よーし、お前ら準備できたな! 出発だ!」
「はい!」
 今日を戦い抜いた隊員たちが力強い言葉を返す。
 そしてベンチから、負傷で下がっていた隊員たちが立ち上がり。
 それぞれに肩を貸しあって、歩き始める姿が目に映った。
 簡易ステージ上で雄叫びが上がる。
 見ると、決勝戦MVPのペルーサが優勝トロフィーを頭上に掲げていた。
 
 確かに彼の手柄であるので、そうする権利はあるのだが。
 何かすっきりとしないものがあった。
ミッション『目指せ町内一』をクリア!
クリアボーナス
 (PC名)は魂塵を△△Ash得た
 (PC名)はSPを1得た
 (PC名)は『シュラスコ』を手に入れた

特別ボーナス
(PC名)は魂片:『優勝トロフィー』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
目指せ町内一
 
今回のイベントは終了しました
 
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました

灼熱の北国

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:灼熱の北国』を発見しました
灼熱の北国
 その街は雪と氷に囲まれた極寒の地にある。
 一年のほとんどを分厚い雲が空を覆い、太陽を拝める時間はほんのわずか。
 地面には雪が積もり光は限られ、作物の育成は非常に困難である。
 
 寒さと飢えは、この街ブルーリングにおいては日常だった。
 そんな暮らしを大きく変えたのが、ヒートアイランドシステムだった。
 当時の市長ウィリアム・コックスが導入した、街全体に広がる中央管理型の全市暖房システムである。
 
 熱を逃がさないために空気でできた遮熱膜で街を覆い、街そのものを暖める。
 雪や風は膜を通り抜けるが、雪などは膜に触れた瞬間雨に変わり街を濡らしていた。
 
 地面に埋められたパイプには熱湯が流れ、凍り付いていた大地にぬくもりを与え。
 流れ出した水と熱により、さまざまな作物の育成も可能となっていた。
 システムが導入されて数十年。
 郊外には田畑が作られ、中心部では街路樹が緑を作る。
 今では、シャツ一枚で通りを歩くこともできるようになっていた。
 
 それら光景が当たり前となっていた夏の初め。
 人々の口からある言葉が漏れるようになっていた。
 
 今年の夏はいやに暑い、と。
 ヒートアイランドシステムを司る中央管理棟。
 街の住人には知らされることなく、そこは大きな混乱の中にあった。
 
 管理システムに異常が出始めたのは春先のことである。
 例年よりも温度が上がりすぎ、桜の開花は速まりそしてすぐに散っていった。
 そして夏へ向けて徐々に気温が上がっていくはずが、温度上昇は抑えが全く効かずにさらに加速していったのだ。
 
 システムは完全に、管理していた市職員の制御下から離れてしまっていた。
 制御を失い、暴走し始めたヒートアイランドシステム。
 街の気温は上昇を続け、ついに一週間連続での猛暑を記録した。
 
 住人たちの一部も、システムの異常に気づき始めている。
 中央管理棟の破壊を企む集団も出てきているという噂もある。
 確かに、中央管理棟を破壊してしまえばこの気温上昇は止められるだろう。
 
 が、そうなればまた街は雪と氷に閉ざされる。
 あの頃の、寒さと飢えに震えていたあの闇の時代に戻ってしまうのだ。
 灼熱の街ブルーリングの中心である中央管理棟は、熱を生み出す魔物と化した。
 その怒りを静めなければならない。
 システムを破壊することなく、暴走を止めねばならない。
 
 高熱をまき散らす中央管理棟へと突入し、その炉心暴走を止めるのだ。
『マップ:中央管理棟』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
中央管理棟
 改めて、不思議な光景だった。
 シャボン玉のような透明な皮膜に街全体が覆われ、その外側は一面に銀世界が広がっている。
 周囲には未だに雪山が厳然と存在し、そこでは猛吹雪が渦巻いていた。
 
 しかし、薄い、というより境界線としての意味合いしかない空気の壁を一枚隔てた内側では。
 Tシャツなどのラフな服装の人々が、汗をかきながら街を歩いていた。
 街を包む遮熱膜を通り抜けることは難しく。
 中に入るには、東西南北のいずれかのゲートを通らなければならない。
 とはいえ何か特別な審査等があるわけではなく、すんなり入ることができた。
 
 審査官は親切な男だったが、おしゃべりでもあった。
 手続き中にペラペラと話し続けた内容は、この猛暑に対する陰謀論である。
 ヒートアイランドシステムを使って気温を上昇させ、作物の価格操作をしているだの。
 システム構築を行い未だ根強い人気を誇る元市長への市民からの批判を狙った、次の選挙が近づく現市長派の策略であるだの。
 
 夏の暑さにやられた脳が思いつきそうなストーリーだった。
 陰謀好きの審査官に別れを告げ、東ゲートからまっすぐに街の中心部へと向かう。
 南北のゲートと東西のゲートをそれぞれ結ぶ大動脈の交差点、そこが完全なる街の中心である。
 その辺りに建てられた市庁舎や議事堂などに並ぶように、中央管理棟は建っていた。
 
 街全体がサウナのようになっている状態にあって、そこはまた一段と暑かった。
 明らかにそれが原因であると分かるほど、熱波をまき散らしている。
 この街では銀行よりも警備が厳重なはずの中央管理棟だが、入り口周辺は見る限り無人だった。
 
 この熱さでは、その前に立って守り続けることなど不可能なのだろう。
 もしかしたら彼ら自身、これが破壊されてしまうことを望んでいるのかも知れなかった。

中央管理棟
 昼間であれ深夜であれ、基本的に人通りというものがなくなることがない中心部。
 しかしこの状況ではみな郊外、あるいは建物内に非難してしまっていた。
 
 建物には個別に冷房設備が付いているらしく。
 街を暖め建物を冷やすという、なんとも贅沢な暮らし方を住民は行っていた。
 もちろん、全員が全員、というわけではないが。
 おかげで誰に咎められることもなく、中央管理棟の前に到着していた。
 熱でひびが入ってしまったガラス戸の自動ドアが、こちらを感知してすっと開く。
 
 その瞬間、外の暑さとはまた違う熱気が建物内から流れ出していた。
 炎に包まれれて一気に体が燃え上がる。そんな錯覚に頭の中が満たされる。
 もし息を吸い込んでいたら、体の内側から焼かれていたかも知れなかった。
 
 思考を刈り取られて沸騰する頭に、背後からいきなり何かをかぶせられる。
 それは頭から足下まですっぽりと覆ってしまえるほどの、大きな布だった。
「そのままでは干涸らびてしまうぞ、一般市民よ」
 布越しに掛けられた声は、少し嗄れた老いた男性のものだった。
 
「このマントは街を覆う遮熱膜、あれと似たようなものだ」
「中は快適だろう? 少し落ち着いたら、顔を出すといい」
 涼しい、というわけではけしてないが。
 少なくとも体温よりは低い温度らしく、また外の熱が入り込んで来るようなこともない。
 
 しばらくそうして頭が落ち着いてから、ルシエはマントを体に巻いたまま頭だけを出した。
 途端、熱気が一気に顔にまとわりついてくる。
「フードをかぶりたまえ。それだけでもずいぶんと違うはずだ」
 言われて、すぐさま首の後ろ側に垂れ下がっていたフードで頭を覆い隠す。
 鼻の少し上辺りから顎までは外に出たままだったが。
 先ほどまでのように、強烈な熱気に包まれることはなくなっていた。

  • 当日昼
老精霊使い
「私はウィリアム・コックス。ここのヒートアイランドシステムの設計者だ」
 ルシエと同じマントをつけた老人が自身の名を名乗る。
 
 彼の後ろにはやはりマント姿の人間が二人。
 一人は綺麗な顔立ちの小柄な女性で、マントの下で手に持ったマイクを口元に当てている。
 もう一人の性別は不明で、フードをかぶった隙間からはカメラのようなもののレンズだけが飛び出していた。
「彼らはただのカメラクルーだから気にしなくていい」
 後ろの二人を見るこちらの視線が気になったのか、老人がそちらの紹介も軽く済ませる。
 
「女性は君も見たことがあるだろう?」
「BRSの看板アナウンサー、メリッサ・ウォールデン君だ。サインは後にしたまえよ」
 フードから顔の半分ほどを出した女性が、柔らかい笑顔で会釈をする。
 もちろん見たことはなかった。
「さて。一緒に来るかね」
 返答を待たずして、老人は進み出した。
 その足は中央管理棟、熱気を吐き出すドアの中へと向いていた。
 
「私の精霊炉を見せてあげよう。もちろん、正常に戻った姿をね」
 軽く振り向いて、その台詞を読み上げる。
 視線はルシエへ向けてではなく――きっちりと、カメラ目線だった。

  • 当日夕(戦闘直前)
炎の精霊炉
 中央管理棟の地下、エレベーターを使って少し歩く。
 案内板にも書かれているとおり迷うこともなく、すぐに精霊炉のある発熱室に辿り着いた。
 
 そのドアは開ける必要もなく、周囲の壁ごと内側から溶けてしまっている。
 そこから生み出される熱は、この街全体を酷暑へと導くほどの強烈なものだった。
「君たちは部屋には入らない方が良さそうだ」
 と、アナウンサーとカメラマンに顔を向ける。
 
 その言葉はこちらには向いていないらしく。
「気合いを入れたまえ。マント越しでも、この中はなかなかの地獄だよ」
 完全に仲間気分で声を掛け、ウィリアムは先行して溶けたドアを跨いで部屋へと入っていった。
「精霊というのはね、意志を持ったエネルギーのことなんだよ」
 部屋の奥に設置された精霊炉の炉心。
 巨大な円筒形の容器に、いくつもの金属製のパイプがつながっている。
 それら全てが燃えるように、というよりも実際燃えて、真っ赤に染まっていた。
 
「だからエネルギーが弱まれば、同時に意志も弱まる」
「折れない心、なんて殊勝なものは彼らにはないんだよ」
 部屋に入って少し歩いたところで、老人は足を止める。
 
「彼らの心は折れるべき時に折れる。とても単純で、分かりやすくね」
 そして、横に二歩ほど移動してルシエの前を空けた。
「説明は分かったかな? もちろん、そのつもりで来たわけだろう?」
 にやり、と笑ってみせるウィリアム。
 
 燃えさかる精霊炉から炎が吹き上がり、その塊がいきなりルシエに襲いかかった。
 炎の塊が空中で姿を変える。
 それはトカゲのような形に変化していた。
 
「エネルギーは当然、消費されれば弱まる」
「ある程度まで弱まれば、後は引き継ごう。それまでは頼んだよ」
 そこ立ったまま動こうとしない老人。
 炉心はさらなる炎を吹き出し始め、その矛先はなぜか、全てこちらに向けられていた。
(PT名)は『戦闘』を選択しました (行動ポイント-3 / 残り2ポイント)
炎精霊の化身に遭遇した!

  • 当日夕(戦闘勝利後)
中央管理棟
 形を作る炎。その形を破壊すれば、炎は霧散する。
 そうすれば炉心は新たな炎を生み出さねばならず、それによって力は消費されていた。
 
 地道な作業だが、効果は覿面だった。
「メリッサ! そろそろ中に入っても大丈夫だよ!」
 ここまで一切手伝うことをしなかったウィリアムが、部屋の外にいる二人に声を掛ける。
 マイクを持った女性アナウンサーとカメラマン。
 二人は恐る恐る中の様子を確かめながら部屋に入り、カメラを老人に向けた。
 
「さあ、ようやく出番だ。女王様」
 そのカメラレンズに一度しっかりと視線を送ってから。
 ウィリアムはマントから右手を突き出し、広げた手のひらを精霊炉に向けていた。
 老人の振り上げた右手を中心に、白い小さな氷が空気中を舞い始める。
 それらは彼の周囲を渦巻き始めた風に乗って、小さな吹雪を作り出していた。
 
「馬だけでは、ただ闇雲に走るだけだ。そこに騎手がいなくてはね」
「時に手綱を引き、時に鞭を打つ。それが分かっていないから、こんなことになる」
 渦巻く吹雪が少しずつ勢いを増していく。
 部屋の温度が一気に下がり、少し肌寒いぐらいにまでなっていた。
 
「氷雪の女王シヴァ。あの暴れ馬を頼むよ」
 老人の周囲を渦巻いていた吹雪が、精霊炉へと向かっていく。
 その吹雪は炎と同じように、真っ白な肌と髪を持つ美しい女王へとその姿を変えていた。
 さらなる炎を生み出そうと、吠え猛る精霊炉。
 氷の精霊はそのまま炉心に突っ込み、容器の激突した辺りを凍り付かせた。
 
 そして、瞬時に精霊炉の温度が下がっていく。
 高熱で真っ赤になっていた容器はゆっくりと元の白色へ戻っていった。
 
 老人は満足そうに笑い、マントを脱いで自身の腕に掛ける。
「一時的に少し寒くなるだろうが、数日たてば元に戻る。いつもの、適度に暑い夏にね」
 その笑顔と台詞は、やはりカメラに向けられていた。
イベントマップ『中央管理棟』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを得た

灼熱の北国
「調子はどうだい、シヴァ」
 精霊炉に近づき、ウィリアムがその容器を軽くノックをする。
 
 すると容器の周囲に弱い吹雪が生まれ、精霊炉の前で女性の姿が形作られた。
 半分ほど透き通ったような白い肌の女性は、その小さな胸の前で両手をあわせ。
 その手の上に、赤い羽根を持つ雀ほどの大きさの鳥が眠っていた。
「よく眠っているようだね。起きたら、きりきり働かせてくれよ」
 老人の言葉に、黙って笑顔で頷く氷の女王。
 そしてその姿が吹雪の中にとけていく。小さな鳥は小さな炎に姿を変えて。
 
 ともに、精霊炉の中へと消えていった。
「やはり、ロメスに任せてはおけないようだ」
 落ち着いた精霊炉に背を向けて。
 つまり、ウィリアムはカメラに顔を向けて。
 
 女性アナウンサーもすでにマントを脱ぎ、スーツ姿になっていた。
 先ほどから丁寧にスーツのしわを伸ばし髪を整えていたので、ぴしっと決まっている。
 ウィリアムの隣に移動してカメラの中に同じように収まり、マイクを彼へと向けた。
「この街の生命線である精霊炉すら満足に制御できない」
「そんな市長に、あなた方は市政を任せていていいのだろうか」
 カメラに向かい、その先の市民に向けての演説が始まった。
 
 女性アナウンサーが自身にマイクを戻し、
「この精霊炉に危険性はないのでしょうか?」
 カメラ目線で質問をして、そしてまたマイクをウィリアムに向ける。
「まったくない、とは言わない。今回のような事を引き起こしてしまってはね」
「しかし、精霊炉抜きにこの街が成立し得ないのもまた事実」
 ヒートアップしてきたウィリアムはマイクを奪い取り、カメラへと近づいていった。
 
「これはどちらを取るかという選択肢なんだよ」
「外の世界の危険を取るか、内の世界の危険を取るか」
「どちらもいやだというのが本音だろうが、現実はそんな夢物語ではない」
 鼻先がレンズにくっつくほどに近づいて、
「一週間後の市長選。どちらを取るか、その選択だ」
「ウィリアム・コックスに清き一票を。生き残りたいならば、選択肢は一つのはずだ」
 そこで生中継が終わる。
 選挙戦を一週間前に控えた今、最高のパフォーマンスを終えて。
 
 ウィリアムは満足げに、うっとりとした目で彼を見つめる女性アナウンサーと熱い抱擁を交わしていた。
 一週間後。
 暑い熱い、選挙の夏がやってくる。
ミッション『灼熱の北国』をクリア!
クリアボーナス
 (PC名)は魂塵を△△Ash得た
 (PC名)はSPを1得た
 (PC名)は『エビノミックスジュース』を手に入れた

特別ボーナス
(PC名)は魂片:『熱血精霊』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
目指せ町内一
 
今回のイベントは終了しました
 
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
 

一撃必殺スイカ割り

  • 発生(前日夜、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:一撃必殺スイカ割り』を発見しました
一撃必殺スイカ割り
 
 事件の始まりは、数年前の夏に海岸で見つかった死体だった。
 死因は頭部外傷。
 鈍器で頭頂部を殴られ、ぱっかりと脳天をかち割られていた。
 
 被害者は男性で水着を着ていたことから、この海岸に泳ぎに来ていたと思われる。
 聞き込みによる男性の目撃証言もあり、身元はすぐに判明した。
 
 しかし、懸命の捜査も虚しく犯人は見つからず、事件は迷宮へと入れられた。
 この事件が全ての始まりだったが、このときはただ一つの殺人事件として処理された。
 殺害方法も状況も特殊性はなく、言ってしまえば在り来たりのものだったためである。
 ここから続くいくつかの事件も、単発の事件として見過ごされることになる。
 
 その中で犯行はエスカレートしていき、昨年夏にまた別の海岸で死体が見つかった。
 やはり鈍器で頭頂部を一撃されており、被害者は海水浴客だった。
 これまでの犯行との違いは、死体の置かれていた状況である。
 
 死体は砂浜に掘られた穴に縦に埋められ、首から上だけを地表に出した状態で放置されていた。
 ここで初めて、在り来たりの犯行ではなくなり、事件に名前がつけられることになる。
 夏の砂浜、頭部以外を埋められた状態、頭を鈍器で一撃。
 これらから付けられた名前は、『スイカ割り殺人事件』である。
 
 捜査は数年前までさかのぼり、夏の海岸付近で起こった頭部殴打事件が関連づけられた。
 それら全てをつなげて精査していく中、容疑者がついに浮かび上がる。
 
 容疑者の名前はディロン・ウォーター。スイカ農園を営む四十代の男である。
 妻であるカーネリアは亡くなっており、彼女の死は関連づけられた最初の事件の半年前だった。
 地元警察はスイカ農園に踏み込んだ。
 この地域では歴史上最も大きな事件として、総勢十六名による大がかりな突入班である。
 
 犯人は中年の男一人と、油断があったのかも知れない。
 もしくは突入を察知して罠が張られていたのか。
 何があったのかは分からない。
 
 なにせ突入隊は全滅し、報告すべき者が誰一人戻らなかったのだ。
 警察署に残ったのは署長以下数名の幹部と、留守番として残された新人刑事一人。
 当然の流れとして、新人刑事が単独で偵察を任されることとなった。
 
 十六名による突入が失敗した以上、新人一人で犯人確保は不可能。
 任務は偵察、状況把握である。
 あるいは幹部会議の間の時間稼ぎ、結論先延ばしへの人身御供、ということだった。
 死地へと赴く新人刑事。
 その心中たるや、察するに余りあるものがある。
 
 重い足取りを少しでも軽くする、その手伝いを買って出る気があるならば。
 集合場所はスイカ農園。遅刻は厳禁である。
 
『マップ:スイカ農園』を発見しました

  • 当日朝(食事およびマップ移動処理後)
スイカ農園
 美しい海と白い砂浜が自慢の街、イズトゥリス。
 『スイカ割り殺人事件』によって人気のなくなっていたビーチも、すでに封鎖テープが解かれ。
 ちょっとした肝試しのネタになどされながら、少しずつ活気を取り戻しつつあった。
 そんなイズトゥリスの街から、北に5キロほどパトカーを走らせる。
 一応は急いでいたのでサイレンを鳴らすこともできたのだが。
 その間に追い抜いたりすれ違ったりした車が合計三台では、それに意味があるとは思えなかった。
 新人刑事、アリサ・リーズ。
 彼女はこの春に刑事課に配属されたばかりだった。
 ともに過ごした期間は数ヶ月で、正直言ってさほど濃密な人間関係があったわけではない。
 この重要な作戦に、一人留守番をさせられるぐらいである。
 
 彼女が今日任された仕事は、今夜の打ち上げのセッティングだった。
 この署始まって以来の大事件の犯人を挙げ、彼らはそれをみんなで祝うつもりだった。
 知らずハンドルにこもっていた力を、震える息を吐き出しながら抜く。
 仇討ちなどといった感情はない。
 さっきも言ったことだが、そこまでの関係ではなかった。
 
 それでもこの数ヶ月、何もなかったわけでもない。
 現場に出たこともあるし、手錠を掛けたこともあった。
 飲みにも行ったし、課長の家で奥さんの手料理をご馳走になったこともある。
 
 全てはこれからだった。信頼を築き上げ、現場で背中を任される――
 その関係を作り上げる前に、未来は唐突に終わってしまったのだった。
「こちら3号車、リーズ巡査。現場に到着します」
 無線機のスイッチを入れて、いつものように報告を入れる。
 
 だが、スイッチを切っていくら待っても、いつものように帰ってくる声はなかった。

スイカ農園
 スイカ農園と名乗ってはいるが、植えられている農作物はスイカだけではない。
 確かにスイカが主だったものではあるが、メロンやキュウリなども植えられている。
 
 それらの多くは弾けそうなほど大きく実り、まさに収穫時期を迎えていた。
 男はスイカ畑にいた。
 ディロン・ウォーター。今では彼が、この広い農園を一人で切り盛りしている。
 
 畑には等間隔にスイカが並んでいた。
 今年は正直なところ出来の方はイマイチだが、数で言えばここ数年では一番だろう。
 農業とは相手が自然であるので、あれもこれもうまく行くなどと言うことは少ない。
 数と質のバランス。これが重要で、難しいことだった。

  • 当日昼(戦闘直前)
突入 スイカ農場
 手前でパトカーを止めて、気づかれないように最後は徒歩で近づくべきか。
 そのままスピード重視で、しかも奇襲にもなるため直接パトカーで乗り込むべきか。
 
 どちらが正しいのか。彼女はまだ、それを誰からも習ってはいなかった。
 結局のところ、どうするべきか迷っている間にアリサは農場に着いていた。
 こうなればもう選択肢はない。
 覚悟を決める、それだけだ。
 
 しかも遠目ではあるが、農場内に人の姿を確認していた。
 畑の中に立つ男。あれは資料で見た、ディロン・ウォーターに間違いなかった。
 アリサは男のいる畑の少し手前でブレーキと同時にハンドルを切り、横に滑らせながらパトカーを止めた。
 そしてすぐさま、彼とは逆側のドアから頭を低くして飛び降りる。
 
 パトカーのタイヤに体を隠して、車の下から向こう側を覗く。
 膝から下の辺りまでしか見えないが、男は最初にいた位置から動いていなかった。
 
 彼を確認してから、腰に下げたホルスターから銃を抜く。
 支給された拳銃。大口径ではないが、男の頭を吹っ飛ばすには充分だった。
「警察です、ディロン・ウォーター! 両手を見えるところに上げなさい!」
 男に向かって叫び、意を決して少しだけ車の陰から顔を出す。
 ディロンは何事か全く理解していない様子で、微動だにできずに呆然としていた。
 
「……警察の人、ですか? どうしたんですか、いったい」
 なんとか、それだけの台詞を絞り出す。
 困惑と恐怖、そのような感情が彼の頭の中と表情を支配していた。
 
 いかにも気の弱そうな眼鏡の優男。
 彼女が見た男の、それが第一印象だった。
「ディロン・ウォーターさんですね? 私は警察です。聞きたいことがあります」
 彼女は銃を構え、その照準に男を捕らえる。
 人差し指をトリガーに掛けたまま、立ち上がって車の陰から身を出した。
 
「昨日、うちの署員がここに来たはずなんですが。ご存じないでしょうか?」
 銃口を向ける、その男は銃口から視線を外すこともできず、
「あ、はい。来られました。話をして……しばらくしたら、帰りましたよ」
 それは嘘だ。口から出そうになるセリフに歯を食いしばる。
 帰るわけがない。お前を捕まえに来たのだ。お前を。お前を!
 怒りが思考を妨げ、意識が男に向きすぎる。
 そうなれば外への意識が分散される。攻撃に気づくのに、遅れると言うことである。
 
 何か気配に気づいて、アリサは視線を横に振った。
 滑るように、銃を構えた腕がそれを追いかけていく。
 
 そして、この状況を照準に捉えたところで、彼女は引き金を引いていた。
 その瞬間、彼女から五メートルほど離れた空中で、よく熟れたメロン玉が破裂していた。
「ひどいじゃないですか。せっかく苦労して、育てたのに」
 男が喋る。その雰囲気は先ほどまでとはまるで違っていた。
 
 ディロンは眼鏡を外し、ポケットから出した布きれでレンズを丁寧に拭き始めた。
「私と妻の、かわいい子供たちです。退屈しているようなんで、遊んでもらえますか」
 こちらに向けていた眼鏡を通さない冷たい瞳を、すっと優しいものに変えて視線をずらす。
 
 そこにはカボチャが二つ縦に重なった、雪だるまのようなフォルムをしたものが立っていた。
「そちらの方も、どうぞ。うちの子は人見知りしないので」
「まあ、手加減も知りませんがね。なにせ、子供なものでね」
 男の視線の先に、アリサのものが遅れて向かう。
 そこには遅れて到着した(PC名)の姿があった。
「さて。みなさんが子供たちと遊んでくれてるうちに、私は仕事に戻らせてもらいますよ」
 言って、足下に落ちていた棒きれを拾い上げた。
 そして、ぶんぶんと2,3度確かめるように素振りをする。
 
「今年は数が多いのでね。ちょっと、大変だな」
 乾いたような笑いを見せながら。
 その棒の先を、足下のスイカに突きつける。
 
 だがそのスイカは、スイカではなかった。
 彼が立つスイカ畑。
 そこには、緑に黒の縞模様、いわゆるスイカ模様に色づけされた……
 人の頭部が、ずらりと16個綺麗に並んでいた。
(PT)は『戦闘』を選択しました (行動ポイント-3 / 残り2ポイント)
ウリ科植物に遭遇した!

  • 当日昼(戦闘勝利後)
スイカ農園
「手を上げろぉ! ディロン・ウォーター!」
 メロンパン頭の緑色の妙な生き物を撃ち抜いた銃口を、今一度男へと向ける。
 
「手に持ってるものを捨てなさい!」
 男はその手に、長い木の棒を持っていた。
 それは何でもない、鍬や鋤の金属部分を取り去った柄だけのような、ただの棒である。
 
 ただ、その穂先が乾いた血でどす黒く染まっていることだけが、ただの棒とは違ってしまっていた。
「今年のスイカはね、出来がよくなかったんですよ」
「数が多すぎたせいでしょうね。栄養が分散してしまったんだ」
 突きつけられた銃口を見ようともせず。
 男はその手にした棒に力を込め、強く握り込んだ。
 
「スイカは妻に、彼女に任せっきりだったから、勝手が分からなくてね」
「これはもう、棄てないと。これじゃ、売り物にはならない」
 棒を振り上げる。
 目隠しをしないスイカ割り。それはただの殺戮だった。
 スイカ畑にならぶ人の頭部。
 それらはペンキか何かでスイカ模様に塗られていた。
 
 初めそれは頭部だけかと思ったが、よく見ると首から下を畑に埋められているようだった。
 それは昨年砂浜で見つかった死体。
 『スイカ割り殺人事件』の死体と同じ状況である。
 
 ただし、こちらはまだ頭を割られていない。希望はある。
 少なくとも、彼女、アリサはそう思っていた。
「武器を棄てなさい。それはスイカじゃないし、出来だって悪くない」
 銃口を彼に向ける。
 彼女の放つ言葉は男に届いているのか。視線一つさえ、彼はこちらに向けようとはしなかった。
 
「私はスイカが嫌いだ。嫌いなんだよ。ずっと言えなかったけど」
「君が作ったものも、私が作ったものも、やっぱりまずい。食えたもんじゃない」
 棒を振り上げる、右腕の筋肉がわずかに盛り上がる。
 投げ捨てるために力を込めているようにはとても思えなかった。
「水っぽいし、青臭いし、ザラザラしてるし。そのくせ妙に甘い」
「なあ、カーネリア、聞いてくれ。スイカはまずい。私は、スイカが嫌いだ」
 足下のスイカ――スイカ頭にされた刑事課の課長へとそう宣言して。
 男はついに、その手の武器を振り下ろした。
 
「やめなさい!」
 最後の警告。そして、一拍の間を置いて発砲。
 発砲音は二発。そのどちらもが、男の体を貫いていた。
 
 狙いは胴体の真ん中だった。そこであれば、多少狙いを外しても対象にはヒットする。
 そして、撃ち込むのは2発か3発。
 それは彼女が、スイカ頭の彼らから教わったことだった。
 
イベントマップ『スイカ農園』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを得た

一撃必殺スイカ割り
 アリサの連絡で、駆けつけた救急車とレスキュー隊。
 彼らを引き連れてやってきた署長や副所長たちからの適当な賛美を受け流し。
 
 彼女はある担架の横に、ぼけっと座っていた。
「あのど変態め。ふざけたことしやがって」
 担架に横になる、刑事課課長ゴードン・ウェディントンが毒づく。
 顔は適当に洗っただけなので、緑と黒が混じって所々にいまだ残っていた。
 
 レスキュー隊によって畑が掘り返され、一人ずつ刑事たちが救出されていった。
 そのうちの一人であるゴードンは救急搬送を拒否し、ここでこうして担架の上に寝転んでいた。
 
「被害者はここで頭割られて、よそに棄てられてたんだな」
「となると、他に被害者がいてもここで死体は出そうにねえな」
 ゴードンが話し続ける。アリサはそれを黙って、ただ聞き流していた。
「課長」
 しばらくしてようやく一息ついた彼の話の間隙を縫い。
 彼女は会話を止め、お皿を一つ彼に向かって差し出した。
 
「……なんだぁ?」
 お皿と、その上に乗っかっているものを見てゴードンが声を上げる。
 それが何か分からなかったわけではない。
 分かった上での、疑問だった。
「スイカ、ですけど」
 彼女の言うとおり。皿の上にあったのは小さくカットされたスイカだった。
 
「隣の畑はちゃんとしたスイカ畑だったので。一つ証拠採取を」
 そのうちの一つを手に取り、かじるアリサ。
 もしゃもしゃと口を動かして、三つほど種を地面に吐き出す。
「ちゃんとおいしい、ですけどね」
 甘くて水っぽくて、皮の方は青臭い。そういう、美味しいスイカだった。
「まあ、ザラザラしてるのは、確かに私も好きじゃないかな」
 スイカに見立てた人の頭をかち割るほど、ではないが。
 
「よく食えるな、お前、そんなの」
 人外を見るような目でにらんでくる課長。
 その視界にスイカののったお皿を見せつけながら。
「スイカに罪はないですから。課長もどうぞ」
 もう一口かじって、種を吐き出して。
 
 課長がいやそうな顔をしているのを心の中でにやつきながら。
 アリサは3切れほど、美味しくできたスイカをゴードンの目の前で食べきった。
 
ミッション『一撃必殺スイカ割り』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『かち割りスイカ』を手に入れた  

  • 当日夜(休息処理後に表示)
一撃必殺スイカ割り
 
今回のイベントは終了しました
 
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『小玉スイカ』が修得可能になった
 

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最終更新:2014年09月02日 17:16