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ドラゴンライド2」(2005/08/12 (金) 12:49:24) の最新版変更点

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ロスト共和国の特別大使、ミリィたちが向かう浮陸「テイル」はみどり豊かな浮陸である。その森、草原、田園の中心には陸の名前と同じ、テイルという首都が あり、さらにその中心には、円形競技場のような「竜の駅」があった。その駅に、今まさに真っ赤な竜が猛スピードで突っ込んできた。<br> 「速急便だぁ! 用意しろぉ!」<br>  竜の駅の見張り番が叫ぶ。<br> 「どいたどいた、どいたぁぁ!」<br>  ストッパーと呼ばれる、いかつい男達が茶色に薄汚れた制動布を広げる。人なら四、五人分の幅に。<br>  真紅の流星が竜の駅に落ちる。<br>  キシャァァァァ!<br>  雄叫びを上げる紅い肌の竜。背中の人間を花弁で保護したまま、速度を緩めようとしない。<br> 「くるぞぉぉ! オータ! オータ!」<br> 『体が砕けても止めろ』という意味の掛け声が竜の駅に響いた。<br>  空気が暴れる。派手な砂埃。着陸のために伸ばした竜の足から、地面へ細く鍵爪の跡が残る。六枚の羽を広げたまま、竜は男達の広げた布に突っ込んだ。<br> 「おおおおおおっったぁ!!」<br>  幾重にも張られた制動布がもみくちゃにされた。<br>  もうもうと霞んだ視界の中に短い静けさが訪れた。その中で花弁が開く。窮屈そうに操竜鞍に座った男が、ゴーグルはそのままでマフラーをずり下げた。<br>  <br> 「ぷふぅぅぅ」<br>  埃の中で、まばらに生えた無精ひげがニカッと笑みを浮かべる。<br> 「ありがとさん、今日も無事停まれたぜ」<br>  その男――竜乗りの言葉に、ストッパーたちが太い腕を振り上げて抗議する。<br> 「「「「無茶しすぎだあ! ウィル!! この命知らず!!!」」」」<br>  ウィルと呼ばれた男は、鐙をはずすのももどかしいように、竜から降りた。<br> 「まあそういうなって。お前らどうせ退屈してんだろ。さってと、そいじゃあ勘定だ」<br>  ウィルはそういいならストッパーたちの前まできて、両手のひらを仰向けに突き出した。<br>  今まで赤い顔で悪態をついていた男たちが青ざめる。<br> 「お、その~。配達料は事務所だぜ……」<br>  青ざめた面々の中でも鼻だけは赤いままの、一番大柄なストッパーが言った。<br> 「大将、とぼけんじゃねえっての。ユルグまで4日で往復したんだぜ。賭けは俺たちの勝ちだ」<br>  ウィルの口元がさらに、ニイッと歯を見せた。<br> 「俺たち? 俺たちって言ったな。ウィル、てめえは一人で往復するって言ったぜ」<br>  横から背の低いストッパーが太い指を突き出しながら言った。<br>  ウィルはそのストッパーを見ながら、ヘルメットを脱ぎ、ゴーグルを額にずりあげた。にやけた表情が似合う、青年と中年のはざまに差し掛かった顔があらわれた。<br> 「いちゃもんなら、お門違いだぜぇ。俺はハイビーとふたりでって言ったんだ」<br>  あくまでも涼やかに人をからかうウィルが親指を立てて、後方の愛竜を指し示すと、聞いていたかのように、ハイビーが鳴きながらウィルのほうを見た。<br> 「キシャアアゥゥルル」<br>  龍の小さな頭がぐるり、と旋回して、ストッパーたちのほうを向くと、轡をつけたまま、カハァッと牙をむき出した。<br> 「わーかった、わかったよ。ほれ、おめえらも出せ」<br> 「はぁあ」<br> 「今度こそ勝ったと思ったんだけどな」<br> 「普通行ってこれるわけねえっての」<br>  ストッパーたちは自分たちのつなぎのポケットから、ぶつくさ言いながら、しわくちゃになった札や銀貨をウィルの手のひらに載せていく。<br> 「毎度ありー」<br>  ウィルは手袋の上であふれ返っている賭け金を見た。そこには札ではないものが混ざっていた。<br> 「おいおい、だれだよ、チラシなんぞ入れた奴は」<br> 「いけねえ、俺だ、姫様ァン」<br>  小柄でひげを生やしたストッパーが手を伸ばして引ったくり、そのまま広げてしわを伸ばした。<br> “ミリィ姫様ご到来!!!”<br>  はねっかえるような文字で、書かれていたのは、王族の中でも人気のある姫が「テイル」を訪問するという号外記事だった。<br> 「おめえ、そんなモンきりぬいてんのか。ここにいりゃあ、真近に見られんだろに」<br> 「そうなんすよねー。なあ、ウィル。おめえだって、姫様見たいから、間に合わせて帰ってきたんだろ」<br> 「ん? おれは、いいや」<br>  ウィルは賭け金をポケットに突っ込んで、手首に絡ませておいた手綱でハイビーを引っ張っりながら竜舎へと歩き始めた。その背中に小柄なストッパーが声をかける。<br> 「へえ? だって、おめえ確か元竜騎……」<br>  ゴイン。<br>  途中までしゃべりかけて、親方の拳骨が頭に命中した。<br> 「余計なことくっちゃべってんじゃねえ! 次の竜が来るぞ、急ぎやがれ!」<br> 「「「「「「へえい! 親方!」」」」」<br>  散り散りになって仕事に戻るストッパーたちを眺めてから、ストッパーの親方はウィルの後姿を見て呟いた。<br> 「元竜騎士だから、見たくねえのかもしんねえだろ」<br> <br> <div align="center"><a href="../../w_nishiki/pages/5.html" title= "ドラゴンライド1 (4h)">ドラゴンライド1</a>< ><a href= "../../w_nishiki/pages/11.html" title= "ドラゴンライド3 (23h)">ドラゴンライド3</a></div>
ロスト共和国の特別大使、ミリィたちが向かう浮陸「テイル」はみどり豊かな浮陸である。その森、草原、田園の中心には陸の名前と同じ、テイルという首都が あり、さらにその中心には、円形競技場のような「竜の駅」があった。その駅に、今まさに真っ赤な竜が猛スピードで突っ込んできた。<br> 「速急便だぁ! 用意しろぉ!」<br>  竜の駅の見張り番が叫ぶ。<br> 「どいたどいた、どいたぁぁ!」<br>  ストッパーと呼ばれる、いかつい男達が茶色に薄汚れた制動布を広げる。人なら四、五人分の幅に。<br>  真紅の流星が竜の駅に落ちる。<br>  キシャァァァァ!<br>  雄叫びを上げる紅い肌の竜。背中の人間を花弁で保護したまま、速度を緩めようとしない。<br> 「くるぞぉぉ! オータ! オータ!」<br> 『体が砕けても止めろ』という意味の掛け声が竜の駅に響いた。<br>  空気が暴れる。派手な砂埃。着陸のために伸ばした竜の足から、地面へ細く鍵爪の跡が残る。六枚の羽を広げたまま、竜は男達の広げた布に突っ込んだ。<br> 「おおおおおおっったぁ!!」<br>  幾重にも張られた制動布がもみくちゃにされた。<br>  もうもうと霞んだ視界の中に短い静けさが訪れた。その中で花弁が開く。窮屈そうに操竜鞍に座った男が、ゴーグルはそのままでマフラーをずり下げた。<br>  <br> 「ぷふぅぅぅ」<br>  埃の中で、まばらに生えた無精ひげがニカッと笑みを浮かべる。<br> 「ありがとさん、今日も無事停まれたぜ」<br>  その男――竜乗りの言葉に、ストッパーたちが太い腕を振り上げて抗議する。<br> 「「「「無茶しすぎだあ! ウィル!! この命知らず!!!」」」」<br>  ウィルと呼ばれた男は、鐙をはずすのももどかしいように、竜から降りた。<br> 「まあそういうなって。お前らどうせ退屈してんだろ。さってと、そいじゃあ勘定だ」<br>  ウィルはそういいならストッパーたちの前まできて、両手のひらを仰向けに突き出した。<br>  今まで赤い顔で悪態をついていた男たちが青ざめる。<br> 「お、その~。配達料は事務所だぜ……」<br>  青ざめた面々の中でも鼻だけは赤いままの、一番大柄なストッパーが言った。<br> 「大将、とぼけんじゃねえっての。ユルグまで4日で往復したんだぜ。賭けは俺たちの勝ちだ」<br>  ウィルの口元がさらに、ニイッと歯を見せた。<br> 「俺たち? 俺たちって言ったな。ウィル、てめえは一人で往復するって言ったぜ」<br>  横から背の低いストッパーが太い指を突き出しながら言った。<br>  ウィルはそのストッパーを見ながら、ヘルメットを脱ぎ、ゴーグルを額にずりあげた。にやけた表情が似合う、青年と中年のはざまに差し掛かった顔があらわれた。<br> 「いちゃもんなら、お門違いだぜぇ。俺はハイビーとふたりでって言ったんだ」<br>  あくまでも涼やかに人をからかうウィルが親指を立てて、後方の愛竜を指し示すと、聞いていたかのように、ハイビーが鳴きながらウィルのほうを見た。<br> 「キシャアアゥゥルル」<br>  龍の小さな頭がぐるり、と旋回して、ストッパーたちのほうを向くと、轡をつけたまま、カハァッと牙をむき出した。<br> 「わーかった、わかったよ。ほれ、おめえらも出せ」<br> 「はぁあ」<br> 「今度こそ勝ったと思ったんだけどな」<br> 「普通行ってこれるわけねえっての」<br>  ストッパーたちは自分たちのつなぎのポケットから、ぶつくさ言いながら、しわくちゃになった札や銀貨をウィルの手のひらに載せていく。<br> 「毎度ありー」<br>  ウィルは手袋の上であふれ返っている賭け金を見た。そこには札ではないものが混ざっていた。<br> 「おいおい、だれだよ、チラシなんぞ入れた奴は」<br> 「いけねえ、俺だ、姫様ァン」<br>  小柄でひげを生やしたストッパーが手を伸ばして引ったくり、そのまま広げてしわを伸ばした。<br> “ミリィ姫様ご到来!!!”<br>  はねっかえるような文字で、書かれていたのは、王族の中でも人気のある姫が「テイル」を訪問するという号外記事だった。<br> 「おめえ、そんなモンきりぬいてんのか。ここにいりゃあ、真近に見られんだろに」<br> 「そうなんすよねー。なあ、ウィル。おめえだって、姫様見たいから、間に合わせて帰ってきたんだろ」<br> 「ん? おれは、いいや」<br>  ウィルは賭け金をポケットに突っ込んで、手首に絡ませておいた手綱でハイビーを引っ張っりながら竜舎へと歩き始めた。その背中に小柄なストッパーが声をかける。<br> 「へえ? だって、おめえ確か元竜騎……」<br>  ゴイン。<br>  途中までしゃべりかけて、親方の拳骨が頭に命中した。<br> 「余計なことくっちゃべってんじゃねえ! 次の竜が来るぞ、急ぎやがれ!」<br> 「「「「「「へえい! 親方!」」」」」<br>  散り散りになって仕事に戻るストッパーたちを眺めてから、ストッパーの親方はウィルの後姿を見て呟いた。<br> 「元竜騎士だから、見たくねえのかもしんねえだろ」<br> <br> <div align="center"><a href="../../w_nishiki/pages/5.html" title= "ドラゴンライド1 (4h)">ドラゴンライド1</a>< ><a href= "../../w_nishiki/pages/14.html" title= "ドラゴンライド3 (6s)">ドラゴンライド3</a></div>

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