[設楽かが美のかぐらレポート　（その３）]の変更点 - かぐら@Wiki

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はぁ。気が重い。すみません。でも、御影先生にダメな子だと思われていたらと思うと……いえ、御影先生はそんな、すぐに生徒を見捨てるような人では。でも、迷惑をかけてしまったのは確かだし……。き、気を取り直して。それでは、御影先生のところへ行くついでに職員室のご案内をしましょう。教職員は基本的に、男性は神主装束、女性は巫女服の着用を奨励されています。とは言っても、正式な衣装は着付けにも時間がかかりますし、動きづらいので、学生服と同様、簡易なデザインのものがあります。にもかかわらず、その決まりにちゃんと従っている教員が少ない！ 「お、設楽か？　どうした？　あ、紗月ンとこか」 「こんにちは、鈴置先生。Ｔシャツ、ジャージ姿でどちらへ？　部活の指導ですか？」 「ん？　これは別に意味はないけど？」 風紀委員長を勤めた私からすれば、教師がこの為体というのは実に嘆かわしい状況。スカート丈の長さと同じで、範囲が決められているからと言って、必ずその下限に目標を合わせる事はないのです。そう言った点でも御影先生は見本となる方です。常にきっちりと巫女服を着用しています。風紀委員の顧問を務めるだけあって、素晴らしい心がけです。 「紗月なら自席にいるから。んじゃ」 「はい、失礼します」 　私は、鈴置先生と入れ替わるように職員室に入りました。職員室も特に一般の学校と違いがあるとは思いません。……中学からこの学校で生活している私たちが何をもって「一般の学校」という基準にしているのかは分かりませんが。ただ、先生方の机の上にある授業の道具や、背後の本棚に入っている本は、きっと普通ではないのでしょう。 「御影先生、失礼します」 　御影先生は手書きでの書類作成に没頭していました。別に筆書きが奨励されているわけではありません。他の先生方は普通にパソコンやワープロを使って書類を作成します。御影先生は機械に対してセンスがない人なのです。 「あ、設楽さん。こんにちは。何か御用？」 「はい、部の来年度予算についてなんですけど」 　その言葉を聞いて、御影先生は軽く眼をつぶりました。 「設楽さん、そこに座って。あ、鳳は今いないから大丈夫よ」 　古くからの友人だからといって、今は同僚である鈴置先生を生徒の前でも下の名前で呼んでしまうのは、御影先生の数少ない欠点だと思います。私は御影先生の隣の机から椅子を引き出して座りました。 「先生……もうしわけありませんでした」 　私は椅子に座ると、深々と頭を下げました。さすがに御影先生も驚いたようです。 「どうしたの、いきなり」 「私が余計な手出しをしてしまったために後輩達に迷惑をかけてしまったようで……」 　私は自分の膝のあたりを見つめていました。涙こそ見せなかったものの、顔を上げることが出来なかったのです。そんな私に御影先生は優しく声をかけてくれました。 「そんなに思いつめちゃダメよ、設楽さん」 「でも、私、自分がいつまでも現役のつもりで。後輩のために頑張らなきゃって言いながら、全然回りが見えてなくて、でしゃばって、結局、みんなに迷惑をかけて。ダメな先輩なんです。私はいったい何を学んできたのか……」 「設楽さん」 　顔を上げた私の眼を、御影先生は正面から見つめてくれました。なんて澄んだ瞳。しかし、次の瞬間、御影先生の眼鏡が不思議な光を放ち、その眼の表情を読み取れなくなりました。俗に言う「ご指導モード」というものでしょうか？　私は初めて見ました。 「はい」 「設楽さんは後輩達のために良かれと思ってやったのですね？」 「もちろんです！」 「ならば、その点については胸を張るべきです。良いことなのですから」 「はい」 「問題はその善意の結果が芳しくなかった事でしょう？　何故そうなってしまったのかを良く考えて、どう解決するかをまずは考えることが大事じゃないかしら。そして、より良い結果を得るために、その時どうしていれば良かったのかを考えるのが順序ではないのですか？」 「はい、そのとおりだと思います」 「今回は、善意が必ずしも良い結果を生まないということをお勉強できたと思いましょう。あまりくよくよと考えていても事態は良くならないわ。工夫と努力以外に困難に立ち向かう術はないのよ。あなたは今までそれが出来ていたでしょ？」 「改めて言われると、自信はありませんが……」 　御影先生の眼鏡は元に戻り、その下から優しい瞳が私を見つめていました。 「大丈夫よ、設楽さん。私が保証するわ」 「御影先生……ありがとうございます。努力してみます」 　嬉しさのあまり、つい涙が出そうになりましたが、御影先生に甘えるわけには行かないので必死でこらえました。御影先生はそんな私を懐かしそうに見つめていました。そして、一息入れてから恥ずかしそうに口を開きました。 「実は私もね、会議前にこの件について相月会長と話をしたの」 「え？　御影先生もですか？」 「ええ。今回はやり込められちゃったけど。只でさえ前部長が過保護な設楽なんだから、顧問の紗月ちゃんまでおんなじことしてたら家庭科部に未来はない。次にあんたたちクラスの鉄の女が来るまでこのままで待つのか？　もう少し人材を育てることを考えなさい！　ですって」 　相月ったら、先生にまでそんなこと言えるんだ。 「相月らしい言い方ですね」 「彼女も普段は放言の多い子だけど、筋が通った考え方をしているわ。立派な生徒会長よ……生徒をかまい過ぎてると婚期を逃すとか口にする所が余計なんだけど」 　一瞬、視線を外した御影先生の頭に怒りマークが点灯したのを見逃しませんでした。 「同級として、きつく言い聞かせておきます」 「あ、あら、ごめんなさい。こっちの話よ」 　恥ずかしそうに笑う御影先生の笑顔とそれにつられた私の笑顔がシンクロする。不意に御影先生が私の手を握る。あ、先生、何を……。 「では、一緒に引継ぎについて考えましょう、ね」 「は、はい……」 　御影先生の言葉は音としてしか私の耳に届きませんでした。私の頬はみるみるうちに紅潮し、体温が上がるのが自分でも分かりました。沸騰した頭の中でかろうじて思った事は、御影先生の手が思ったより細くて冷たくて、でもすごく柔かくて、このままいつまでも握っていて欲しいということでした。フワフワした頭の片隅で「それはいけない」と言ってくれる何かがいて、それにによってかろうじて現実に踏みとどまっている感じです。 その時、私の背後に人影が立ちました。いい所だったのに……違う！　私は急に現実に戻って、慌てて手を離しました。御影先生はそれに少し驚いたようです。 「あら、鳳、戻ったのね。どうしたの？」 　御影先生に言われて後ろを振りかえると、そこには鈴置先生が立っていました。表情が冴えないようです。 「あ、す、すみません。すぐにどきます」 「いや、いいんだ。取り込み中だろ？　気にしないで座っててくれ」 　慌てて立ち上がろうとした私の肩を、鈴置先生が強引に押さえつけました。本人は手加減したつもりなのでしょうが、少し力が入りすぎで痛いぐらいでした。 「はぁぁ」 「どうしたのよ、ため息なんかついて？」 「なぁ、聞いてくれよ、紗月ィ！」 鈴置先生は涙目で訴え始めました。 「さっきさ、運動部の予算に不公平があるんじゃないかって生徒会室に言いに行ってやったのさ。そしたらさぁ、生徒会の連中、理屈ばっかり捏ね回しやがって人の話しを聞かないんだよ。特に会長のおーみ。あいつ、あたしのこと絶対バカにしてるって！　人が口げんか弱いの知ってて、わざとやってるんだよ。ああ、腹立つ！　なぁ、設楽、お前、おーみとおんなじクラスだよな？　あいつの弱点とか知らないか？　一回、いわせてやんないと気が済まないよぉ！」 　本気で口惜しそうな鈴置先生。御影先生は、バカいわないの、とか言ってますが、分かりますよ、その気持ち。相月には甘い顔をしていけません。 　とまぁ、この学校の先生には良い人が多い、ということでまとめておきましょう。 　少し時間は飛んで、夜のかぐら女子寮です。夕食は6時頃ケースに用意されているので、各自棚から取り出して暖めたりして食べます。炊夫さんは食事を用意し終えた時点で業務を終了し、お帰りになられます。炊夫さんと寮母は別です。寮母の役目は先生方が交代にやってくれます。御影先生、鈴置先生、あと保健を担当している凰先生等の寮OGが中心となっているようです。先生方もさすがに泊り込みまではしません。２２時までにはお帰りになられます。もっとも、官舎は近いのですぐに連絡は出来ますし、担当は寮ＯＧばかりなので何かあってもすぐに来てくれます。そのために独身の方を担当に選ぶそうです。 　そして、この寮の最大の憩いの場はここ。お風呂です。銭湯とまでは行きませんが、かなりの広さで、寮生が一度に10人は入れます。かぐら学園にあるすべての学生寮の中でも、かぐら女子寮のお風呂が一番広いそうです。時折OGや教師の姿を見かけるのはそのためです。基本的には部外者には入浴を許可しないのですが、OGでは断れない面もありまして、その代わり、入浴料を置いていってもらっています。中の様子ですが……この時間は入浴中の寮生も多く、お見せできないのが残念です。私も今のうちに入らせていただきましょう。 　はぁ、さっぱりしました。ちょっと失礼して牛乳をいただきます。あ、食堂には１台大きな冷蔵庫がありまして、これは共用となっており、自由に使えます。みんな自分の買ってきた食材に名前を書いたりして入れています。 　だれか食堂に来たようですが。あの小さな体は……。 「……こんばんは」 　この頭に間が入るしゃべり方。１年生の武蔵野玄麻さんです。私、この子はあまり得意ではないのです。 「こんばんは、武蔵野さん。どうしたの？」 「……先輩。……お水、取りに来ました」 　彼女はあまり他人の名前を覚えないようで、寮長であるさらなやささな、比較的仲の良い留学生のトリー・コーウェンさんくらいしか名前を言ってくれません。まぁ、それはそれでよいのですが。 「あら、そうなの。ちょっと待ってね。えーと……ハイ、これでしょ？」 　私は自分の牛乳をしまうついでに彼女の水入りペットボトルを取ってあげました。 「……ありがとうございます」 　口ではそう言っていますが、武蔵野さんはどうにも表情が乏しくて、いまいちコミュニケーションがとりづらいです。これでも少しはお話をするようになってくれただけでもマシなのかしら？ 「どういたしまして」 　ボトルを手渡して立ち去ろうとした私に、武蔵野さんが声をかけてきました。 「……あの、先輩。……か、かが美先輩」 　私は耳を疑いました。あの武蔵野さんが私の名前を呼ぶなんて。あまりに驚いて、彼女の顔をまじまじと見つめてしまったら、彼女は萎縮してしまったようです。 「……ごめんなさい、下の名前で呼んでしまって」 　武蔵野さんは、両手で握り締めたペットボトルのふたあたりに視線を落としました。 「い、いえ、いいのよ。ごめんなさい。ちょっと驚いちゃったけど、気にしないで。だ、だって、武蔵野さん、今まで私の名前、その、呼んでくれていなかったから」 「……先輩の苗字、読めなくて。ずっと、聞こうと思ってました」 「え、ええ？　あ、そうよね。普通だと難しいかもね。えーと、私の苗字は、したらよ。し・た・ら・か・が・美」 「……したら、先輩」 　私は感動で震えてしまいそうでした。入寮当時から無口でとっつきにくいと思っていた後輩が声をかけてきてくれたのです。しかも、名前を覚えていてくれた。絶望的だと思っていたのに。 「武蔵野さん、もしも言いにくかったら、かが美先輩でいいわよ」 「……はい、かが美先輩。……失礼します。おやすみなさい」 　武蔵野さんは急に恥ずかしそうに振り返ると、パタパタと小さな音を立てながら食堂から出ていきました。 　私は部屋に戻って、少し幸せな気分に浸りました。今は、今日あったいろいろなことを日記にしたためています。 ちなみに、かぐら寮は２２時に必要な灯り以外が消灯となります。トイレや非常階段は必要な灯りとして点けておきます。あと学生の自室についても基本的には２２時就寝が奨励されていますが、点検まではされません。私も予習復習に手間取って遅くまで起きていることもあるので、他人のことは言えません。時間の使い方は個人の自由でしょうし。 さて、今日は疲れたので、少し早いですが就寝します。ではこの辺りで設楽かが美のかぐらレポートを終させていただきます。それではみなさま、おやすみなさい。<?xml:namespace prefix = o ns = "urn:schemas-microsoft-com:office:office" />

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