ウィルは店を出た。
昔を思い出したついでに、久しぶりにある場所へと向かう気が起きた。
お祭り騒ぎの雑踏を抜け、街の中の礼拝所……墓地へ向かう。
ある墓石の前で止まった。子供の背くらいの墓石が多い中で、小さな小さな石板だった。華美な作りではない白い石板の墓は荒れていた。そこにはさらに小さく「W.ギブソン ここに眠る」と彫られていた。
自分の墓をウィルは見下ろした。
過去の自分と決別するため作ったものだったが、結局、形が残ることで、未練がましい感傷も残った。
風が吹いた。
青と白の空から降りてくる波。ウィルはそれが見えている。肌で感じられる。竜乗りとして、風を読むことができるのは、当然だった。その感覚に浸っていると、普通の感覚を忘れることがある。例えば今は、目の前からやってくる人影が目に入っていない。
ふと気が付くと、向こうから、少女がやってきた。
少女は小さな花束を手に持っている。
後ろには少女の保護者らしい女性と墓所の管理人がついてきている。
髪の毛が短く、眼鏡をかけた少女は、その質素な身なりとはどこかちぐはぐな、ゆっくりとした歩みで近寄ってきた。
少女は、ウィルの立っているところで、小さく頭を下げた。ウィルも、頭を下げながら、この少女が自分の墓参りに来たことを悟った。
「ギブソン様の、お知り合いの方ですか」
そう尋ねる少女。
「そんなところだ」
自分の声が硬い。
「花を供えさせていただきますが、よろしいですか」
ウィルは奇妙な気分で頷いた。まさか自分の墓に花が供えられるところが見られるとは.
少女は花束を供え、墓石に向かってそっと手を合わせた。
ウィルは、それをじっと見ていた。
(似ている)
よく知っている少女に。この街に来ている少女に。
しかし、今目の前にいる少女の目は、赤い瞳だった。
ウィルの知っている少女、ミリィ・クーマ・ロストはすみれ色の瞳のはずだった。
「ありがとうございました」
少女はそういうと、振り向いた。
華奢な背中。
ウィルは、呼び止めたい衝動に駆られた。
だが、どうしよう。
(ちょっと、お茶でも)
これじゃナンパだ。
(ありがとう、俺の墓に花を供えてくれて)
何を言い出すつもりだ。
(あのう、どちら様ですか)
うん、間抜けだが、これで行こう。
そして一歩踏み出したとたん。
少女に、墓石の列の影から飛び出してきた男が二人、抱きついて、自由を奪った。
「てめえら動くんじゃねえ!」
ドラゴンライド3<