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紗月、蘭、ささな  秋の夕暮れ

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秋の夕暮れ。部屋の真ん中で横ずわりをし、夕陽を見つめている紗月。

不意に部屋のチャイムが鳴った。

紗月 「誰かしら。あら、蘭」

蘭  「うん。隣、いい?」

紗月 「どうぞ」

蘭は、紗月の隣に座った。二人はしばらく黙って夕陽を見つめていた。

外からは早くも虫の声が聞こえ始めていた。

紗月 「…………」

蘭  「…………」

先に口を開いたのは蘭だった。

蘭  「……あの、さ、鳳、なんだけど」

紗月 「旦那さんのお仕事の関係で海外に行くんです

   ってね」

蘭  「知ってたんだ」

紗月 「大変よね、プロのスポーツ選手のお嫁さんで

   すもの」

蘭  「旦那さん、年齢的にも重要な時期だし。一緒

   に居てあげたいんだって。それにしても、急だ

   よね」

紗月 「一番大事な人のためですもの。私たちも、わ

   かってあげなきゃ」

蘭  「うん」

 また二人はしばらく無言になる。

蘭  「あのさ、あたし……」

紗月 「どうしたの? 早く言いなさいな。大丈夫

   よ。何を言われても驚かないように、心の準備

   だけはしてあるから」

蘭  「そう。あのね、あたしも学校辞めようと思っ

   てるんだ」

紗月 「……そう」

蘭  「これも、読めてた?」

紗月 「なんとなく、そんな気がしてた」

 そう言いながら、紗月は寂しげなため息を小さく一つ吐き出した。

蘭  「ごめん」

紗月 「いいのよ。蘭には蘭の都合もあるでしょ? 

   旦那さんのお仕事とか」

蘭  「あいつの事は関係ないわよ。これは、あたし

   たちの問題なの」

 否定する蘭の頬は心なしか赤くなっていた。

紗月 「そう、あなたも感じてたのね。私たち二人が

   一緒だと、鳳が抜けた空間が余計にはっきり感

   じられてしまうこと……」

蘭  「……やっぱりさ、三人じゃないと、なんかつ

   まんないのよね」

紗月 「ここ何年か、ちょっと楽しすぎたかもしれな 

   いわね。子供の頃から一緒だった心許せる友達 

   と、再び刺激の多い日々を送ることが出来て」

蘭  「うん。お別れ、つらいかも」

紗月 「すぐに慣れるわ。それぞれの新しい生活が始

   まれば」

蘭  「はぁ。卒業のときと一緒か。あん時だって、

   もう二度と一緒に生活できるなんて思わなかっ

   たもんね。アンコールとしては十分か」

紗月 「でも、今度はあの時より不安は少ないでしょ。お互いの想いが強ければ、絶対にまた会えるって確信が持てるもの」

蘭  「そうね。今回はなかなくてもすみそう。それに、とりあえず、もう一回は確実に集まるあてもあるし、ね」

 蘭は紗月の顔を見てニヘラと笑った。紗月はその意図を感じてまた一つため息をついた。

紗月 「まだ当面、そういう予定はありませんから

   ね」

蘭  「あんましすぐじゃつまんないから。後1,2

   年はゆっくりしてくださって結構よ」

紗月 「……。そのときはよろしくね」

蘭  「お安いごようよ。鳳と二人、なにがあろうと、必ずその日だけは、紗月の目の前に座っててあげるからね」

紗月 「ありがとう。素敵なお式をお見せしてさしあ

   げますわ」

蘭  「こちらこそ。楽しみにして、お待ちしており

   ますわん」

 その時、扉からささなが顔を出した。

ささな「あの、お姉さま、お邪魔してよろしいでしょ

   うか? あ、蘭先生も。こんばんは」

紗月 「こんばんは。今日もお勉強?」

ささな「はい。追い込みですから、また教わりに来ま

   した」

蘭  「こんばんは、子犬ちゃん。あーん、いつ見て

   も清楚で、かっわいいわねー」

ささな「……その呼び方、まだたまに出ますね。別に

   いいですけど」

 ジト目で見るささなに、いたずらっぽい笑顔を見せ

て蘭は立ち上がる。

蘭  「怒んないでよ。勉強の邪魔はしないから。さて、あたしはもう帰んなきゃ。あのバカの餌作りが待ってるんだから。まったく。なんで面倒くさい料理なんてしなきゃなんないかな?」

紗月 「でも、毎晩してあげてるんでしょ?」

蘭  「ちょっとぉ、いくらあたしが新婚だからって、毎晩してあげてるなんてぇ。いやぁーん、紗月ちゃんのえっちぃ。欲求ふまんー!」

紗月 「な、お、お料理の事です!」

蘭  「わかってるわよ。いちいち怒るんだから」

紗月 「……でも、あなたが苦手なお料理をするようになるんだから、変わったわよね。彼、愛されてるんだ」

蘭  「バァッカなことお言いじゃないですわよ。二人じゃね、生活がキッツキツなの。独身時代と違うんだから、どっちかやれる方が料理ぐらいしなきゃ、やってけないんですぅ!」

ささな「わぁ、珍しい、蘭先生、お顔まっかっか! 

   照れてるんですね。うふ、かわいい!」

蘭  「ぐ、屈辱。あのささなにまでこんな言い方さ

   れるなんて。覚えてらっしゃい!」

 蘭は笑顔で外へ駆け出して行った。残された二人はその姿を見てしばらく笑っていた。

紗月 「うふふふふ」

ささな「うふふふふ。ところで、お姉さま」

紗月 「なに? ささな」

ささな「蘭先生、どうしていらっしゃってたんです

   か?」

紗月 「蘭ね、学校を辞めるんですって」

ささな「エーッ! 蘭先生、辞めちゃうんですか?」

紗月 「そう」

ささな「なんで、なんでですか?」

紗月 「蘭も、色々と考える事があったのよ」

ささな「結婚のせい、ですか?」

紗月 「それだけじゃないわ。あの子なりに色々と考 

   えた結果よ。色々とね」

ささな「ふーん。そうですか」

 紗月は立ち上がりお湯を沸かし始めた。

紗月 「お茶が入ったら、お勉強にしましょうか」

ささな「はい」

紗月 「毎晩、精が出るわね。お姉さま、感心しちゃ

   うわ」

ささな「そ、そんな。私はお姉さまと同じ学園大に入りたいだけですよ。ただ、思ったより難しくて。勉強不足だったな」

紗月 「みんな直前はそう感じるものよ。私だって一回は失敗してるんですから。おおらかに構えてお勉強なさいな」

ささな「はい」

紗月 「ところで、さらなは?」

ささな「それが、さらな、まだ、進路に迷ってるみた

   いなんです」

紗月 「そう……」

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