皆さま、はじめまして。私、設楽かが美と申します。私の事をご存知ないという方も多いのではないでしょうか? 「誰だっけ、それ」と思われた方、無理もありません。「耳巫女学園☆かぐらへようこそ」本編ではほぼ唯一の一般人として何度か出演させていただいただけですものね。こんな脇役中の脇役な私ですが、今日は主要登場人物以外の人間が見たかぐら学園の日常をお伝えさせていただこうと思います。
それでは、まず最初にレポーターを勤めさせていただきます私、設楽かが美という人物について、僭越ながらご紹介させていただきます。
私、設楽かが美はかぐら学園中等部の3年生です。現在かぐら寮で生活し、2年生のときは、かぐら寮副寮長と生徒会の風紀委員長を兼任させていただきました。一応、学校では成績優秀、品行方正、いわゆる優等生と言われております。
「あん? よっく言うわよ。すごいわねー、自分のことそういう風に紹介できる?」
相月、あなたは黙ってなさい。あとで出番はあるから。
こほん、気を取り直して。イメージしやすいように外見的な特徴を申し上げますと、ショートカットで、大きなメガネをかけております。ええ、視力は弱い方です。
基本的に優等生で、メガネをかけていることから、学園の国語教師、御影紗月先生に似ていると言われます。口の悪い学生からは「1/2スケール御影紗月」とか「御影14(フォーティーン)」なんて呼ばれてます。ちなみに14というのは御影先生の年齢の半分という意味もあるそうです。失礼ですね。でも、良いんです。私、両親の次か同じくらいに御影先生のことを尊敬していますから。
以上のことを頭に入れて読んでいただけると幸いです。
さて、まずはかぐら寮生の朝をご紹介させていただきましょう。かぐら寮では日曜日を除き、朝、晩の食事を炊夫のおばさんたちが用意してくれます。お昼は学校で給食が出ますので、平日はありません。土曜日は朝昼晩の三食が出ますが、逆に日曜、祭日は食事が出ません。その代わりに炊事室が開放されます。ここと寮内に一箇所だけ用意されている小さな炊事場を使って各々料理をします。中には、部屋にカセットコンロを持ち込んでいる寮生もいるようです。本来なら部屋では火気厳禁。私としては許しがたいのですが、一応、寮生の間では「最低限の火力」ということでやむを得ず黙認されているのが現状です。
夕食はある程度バラバラの時間に取ることになりますが、朝は学校がありますので、ほぼ全員揃って食事となります。
「「あ、おはようございます、設楽先輩!」」
御影さらな、ささなの双子姉妹です。この元気な挨拶からもわかるように、二人とも礼儀正しくてとてもいい子です。それもそのはず、この二人は私の尊敬する御影先生の従姉妹なのです。二人は現在、寮長と副寮長としてがんばっています。昨年、二人が一年生だった時は副寮長を務めておりまして、二人には私が先頭に立ってかぐら寮生としての心得を教えました。今でも慕ってくれていると思っています。多分。
「さらな、ささな。おはよう。今日もいい天気ね」
「はい。設楽さん。相変わらず、朝早いですね」
「設楽さん、いつも夜遅くまでお勉強してるのに。お疲れにならないんですか?」
「大丈夫よ。これでも適度に休んでいるから。心配してくれてありがとう」
なんていい子たちなんでしょう。この子たちなら立派にかぐら寮を引っ張ってくれるでしょう。
「……あの、設楽さん?」
「急に拳なんか握って、どうしたんですか?」
「え、あ、ああ。なんでもないのよ」
おっと。感動のあまり一人の世界に浸かってしまったわ。気をつけなきゃ。
「なんか、設楽さん見てると、紗月お姉さまを思い出しますね」
「本当。1/2スケール御影紗月って呼ばれるの、解る気がするわ」
キラン!御影紗月?
「ねぇ、二人とも、私ってやっぱり御影先生に似てる?」
その名前を聞いておもわず乗り出してしまった私を見て、二人が驚いている。やりすぎたかしら? でも、そこ重要なの。
「うう、設楽さん、そんなに乗り出さなくても」
「ごめんなさい」
「そうですね。全部ってワケではないですけど、似ている所はいっぱいあると思いますよ。ねぇ、さらな?」
「う、うん。まぁ、容姿は似てると思いますよ。昔の紗月姉さんに」
「そうか、二人は昔の御影先生を知ってるんだ……うらやましい」
「は?」
「え、いや、こっちのこと。それ以外には?」
「紗月お姉さまも学生時代はいつもお勉強一番だったって。設楽さんもそうですよね」
「ええ。一応、学年トップは譲った事無いけど」
「すごいです。なかなか出来ないですよ」
「そ、そうかな」
「そうですよ。姉さんも言ってましたよ。設楽さんは頑張っていて、えらいって」
「本当に!」
「ええ、本当です。ところで設楽さん、時間なんですけど」
「そ、そうね。学校、遅れちゃうもんね。おばさん、おはようございます。三年の設楽かが美です。朝ごはん、お願いします」
うふふ。朝からいいこと聞いちゃった。御影先生、私のこと褒めてくれてたんだ。うふ、うふふふ。今日はいいことありそう。
「いただきます」
ところで……さらなたちは何をこそこそしゃべってるのかしら?
「うーん。さらな、設楽さん、凄い笑顔だね。そんなにお姉さまに似てるって言われるの、嬉しいのかな?」
「仕方ないわよ。自他共に認める御影紗月信者の設楽先輩だもの」
「でも設楽さん、やっぱりお姉さまに似てるよね。褒めると扱いやすくなる所とかも、お姉さまそっくり」
「それは言えてる。って、あんた姉さんのことそういう風に見てたんだ……。ま、いい所だけお姉さまに似れば良いんだけど」
「まったく一緒だと、それはそれで問題アリかもね」
「ささな、意外ときついわね」
次に、かぐら学園校内の風景について説明いたします。かぐら学園は中高一貫の男女共学校です。昔は巫女養成学校として女子のみを受け入れていたそうですが、現在は神主コースがあり男子も入学してきます。私としては、女子校時代のかぐら学園の方に憧れを感じますが、そこは仕方ないと思っています。ちなみに、かぐら男子寮は旧かぐら女子寮を使っているらしいので、結構ボロイです。建物が新しくなっただけでも男女共学になっていて良かったかな、と思います。
男女共学になったとは言え、人材の需要というのもありますので、クラスは一学年で100人前後、2~3クラスです。中等部へ入学したが最後、ほとんどの生徒が顔見知りのままつきあっていくことになるのです。ですから、こういうことにもなります。
「あら、おはよう、設楽。相変わらず朝からご機嫌うるわしくないみたいねぇ」
「おはようさん、かが美。おーみ、朝からそういうこと言うなて」
「……おはよう、相月、宮樹さん」
絶対支配生徒会長・相月おーみと、その副心、木刀の麗人・宮樹沙羽さんの極道生徒会コンビは、私、設楽かが美と同じクラスなのです。
「い、いいのよ、宮樹さん。私も相月のそう言うところ、いいかげん慣れてるから」
とりあえず自分の席にカバンを置いて準備をする私に、おーみの声が飛んできます。
「そうよ。いいかげん三年も一緒にいるんだから慣れてもらわなきゃ困るわよね。生徒会の会議でも散々叩いてやったんだから、少しは懲りてるでしょ」
カチン。そう、私たちは三年間同じクラスだったのです。その上、二年生の時、私はかぐら寮副寮長兼風紀委員長兼文化部代表として、生徒会執行部である相月及び宮樹さんと会議で対峙して来ました。でも。
「相月、一方的にやりこめたみたいな言い方は心外ね。私、これでも他の人たちに比べれば生徒会に対して意見を述べた方だと思うけど」
「これは失敬。確かに設楽との意見交換はなかなか歯ごたえがあって面白かったわ。でも、意見の反映度で言ったら、五分って事はないわよね」
「それは決定権があなたがたにあったからでしょう? こちらはあなたの横暴な提案に少しでも良識の歯止めをかけようと思って……」
クラスメートの、またやってるよあの二人という視線を感じます。痛い。周りを見回したら、もうこれ以上は言えません。相月の方はそんな視線ですら快感に感じるほどの目立ちたがりだから良いけど、私みたいに良識ある人間には耐えられない。
「どったの? 設楽」
「周りを見ぃや。みんなあきれとるで」
黙って下を向いている私の気持ちを、宮樹さんが代弁してくれました。
「ほらぁ、見せもんじゃないわよー。ジロジロ見るならお金取るからね!」
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかります。なのに、どうして当事者の相月は平然としてられるのでしょうか?
「なぁ、かが美」
黙ってうつむく私に、宮樹さんが声をかけてきました。相月が引っ掻き回して、宮樹さんがフォローする。これがいつものこの二人の手です。
「な、なんです、宮樹さん」
「ま、かが美も分かってるやろうけども、おーみはいつもこんな感じやし、只でさえ勝ち気のかが美がまともにやりおうたら、体壊してまうよ」
「わ、わかってます」
「おーみ、あれでもかが美のことは気に入ってるみたいよ。なかなか同学年の子と話さへんのに、かが美には自分から声かけんねん。ほとんどが挑発やから、かが美は大変やろうけどね」
「それも少しは分かってます。ところで……やっぱり、私って負けず嫌いに見える?」
「そうにしか見えへん」
宮樹さんがニッコリとほほ笑むと、私は、自分がその笑顔にすっかり懐柔されてしまったのを感じました。ふだんはとても厳しい表情してる人なのに。
「う、うん、わかったわ。ごめんなさい、朝からこんな醜い争いを見せてしまって」
「謝る事ないて。仲良く行こうな。一緒に苦労した仲やない?」
私にはその手の趣味は無いはずだけど、こういうとき、後輩達が宮樹さんのファンクラブを作っちゃったりする気持ちが少し理解できたりします。
「沙羽の言うとおり! これからだって下手すればもう三年間一緒になる可能性があるんだから、楽しみましょうね、お互いに!」
気楽な。また少しイライラしてしまいます。
「でもね、相月。私たちももう三年生なんだし、色々と考えないといけないでしょ。高等部に行けば、進路のこととかもあるし……」
初級の巫女、神主の資格は高校卒業時にもらえます。また、上級へのステップアップは働きながらでも出来ますので、かぐら学園大学に進学する人間はこの中でも三分の一程度に減ってしまいます。大学の方は本当に研究所的な性質が強く、この道を極めたい人間しか行かないようになっています。もっとも、内部進学とは思えないほどテストが厳しいので、進学したくても出来ないということもあるようですが。
そもそも、かぐら学園の卒業生全員が、最終的に巫女や神主になるとは限りません。先ほど申しあげたとおり、人材の需要というものがありますので。
なお、巫女資格を持っている人は、一般の教員免許を取れば神学関係の教員にもなれます。普通の大学や専門学校へ進学する事自体は不都合にはならないのです。逆に言うと、せっかくこの学校に入ってもいずれ人並みに進路に悩まなければいけないとも言えます。
「そんな先のこと、わかんないわよ。設楽はもう少し足元を見た方が良いわね」
「では、あなた、高等部での生活をどう考えてるの?」
「そうねぇ……全校制圧まで一週間って見てるわ」
私は軽い頭痛を覚え、額を抑えました。宮樹さんもさすがに呆れ顔です。
「相月、あなたって人は……」
「おーみ、本気やってんな」
「そうよー。みなさぁん、その時は応援よろしくねぇ!」
わざとらしくクラスメートに向かって手を振る相月。しかしみんなは意識的に眼を合わせません。普段の行いが行いなので、全校制圧という言葉が冗談に思えないのです。
「しーたーらぁ。あんたも当然応援してくれるわよね」
相月は私に向かって軽くウィンクをしてほほ笑みかけてきます。一見すると可愛らしい、お人形のような小悪魔のほほ笑み。
「……その時、考えます」
でも私は結局、相月と宮樹さんに逆らえないでしょう。なぜなら、一年生の時、この二人に悪霊を払ってもらうという「借り」を作ってしまったから……。はぁ。
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