設楽かが美のかぐらレポート (その2)

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 さて授業ですが、当然のことながら、通常のカリキュラムとは別に巫女・神主専門科目があります。これらの時間は、普通の学校で行われている体育、美術、音楽等の授業の時間を一部振り替えたり、授業内容を圧縮したりして時間を作っています。かぐら学園に入学する生徒はそれなりに優秀な生徒ばかりですので、多少授業の速度が速くてもついて行けるのです。もっとも、補習授業のメニューも異様に充実しておりますが。

「またミニテスト満点やね、かが美は」

 宮樹さん、背が高いから仕方ないとは言え、後ろから人のテストを覗き込むのは趣味悪いですよ。

「ええ。私はちゃんと頑張ってますから」

 そう言いつつ、もう一人の満点獲得者である相月の顔を見てみた。向こうもそれに気付いたようでニヤリと笑いかけてきます。

「刺のある言い方ねぇ。なんでこいつまでって、顔に書いてあるわよ」

「そうですね。あまり熱心に勉強しているようには見えないのに良い成績が取れることについては、いつも不思議に思っています」

 これは本音です。相月は学校が終わると生徒会室に入り浸って怪しげな事ばかりしているのに、常に成績二位を取るのです。まだ負けていないのは幸いですが。

「ハハ。かが美、今日はえらい直球やな」

「失礼このうえないわ。一応ね、あたしなりに勉強はしてんのよ。わっかんないかな?」

「それなら、もう少し努力すれば、一位だって簡単に取れるんじゃないですか?」

 これも本音。私はいつもかなりの努力をして学年一位をキープしているのに、もしも相月が本気を出したら簡単に抜かれるんじゃないかと思ってしまうのです。

「そうねぇ。出来が違うといいたいところなんだけど、人間、完璧なんてものはありえないのよ。このあたしでも」

 相月がため息をつきながら首を振る。

「どういうことですか?」

「ズバリ、あたしには努力という才能が欠如している!」

 自信満々な相月の態度に、私は思わずメガネをずり落としてしまいました。

「なんかね、もう、コツコツ努力って言うのがどーっしても出来ないのよ。苦労すんのが何より嫌い! とりあえず最初のひとつかみで出来る範囲しかやりたくないの」

「な、なにを偉そうに言ってるんですか」

 私は呆れながらずれたメガネを直しました。

「で、あたしには無縁なその努力というアビリティに限っては設楽、あんたこの学年で一番凄いわよ。認めるわ。だいたい、並の奴が並の努力したって、努力が大嫌いなあたしに全然勝てないのよ? でもあんたは、まぁ人間は並かもしんないけど、類まれなる努力の力でこのあたしの能力をねじ伏せてるんだから。つまりあんたは、取るべくして学年一位を取ってるってこと。もっと安心して自分の能力を信じなさい!」

 ……相月、それって。

「へぇ、珍しい。おーみが他人のことそないな風に言うなんて。設楽のことそんなに買ってたんや」

「やっぱり、褒めてくれてるのよね。相月、ありがとう」

「ふん。事実を認めてるってだけよ。勝手に都合よく解釈してなさい。でも、ま、学校の試験が全ての判断基準ってのが設楽の限界よね。それじゃあ、あんたがあたしに勝てる日なんて一生来ないわよん♪ おほほほ」

 ガクン。少しいい人かなと思うと、すぐこれだ。


 時間は飛びまして、放課後です。世間から見れば特殊な学校と見られるかぐら学園ですが、その生活自体はほとんど普通の学生と変わらないと思います。学校が終われば部活動にいそしむ学生がほとんどです。ちなみに、私も家庭科部に所属し、二年の時は部長を務めておりました。(……実力の方は、ほとんど付きませんでしたが)

この学校の特徴として、生徒の自治運営を重視するという傾向があります。中等部の頃から生徒会の権限は強く、生徒同士が直接会議をして様々な案件を処理します。同じ理由から、中等部の学生寮であるかぐら寮にも、学生だけで寮の活動を決められる「自治権」がかなりの部分で認められています。

 また、この学校で中心となるのは常に二年生です。生徒会長、部長、寮長、全て基本的には二年生がすることになっています。一年生では未熟ですし、三年生では経験者から批判されない、だから二年生に職務を経験させるという考え方だそうです。相月たち現生徒会執行部のように三年生になってまで居座るのは例外中の例外と言えます。本人にそれを聞いた事がありますが、以下のような回答が帰って来ました。

「三年生がやっちゃいけない、とも規約には書いてないわよね。別にいいのよ、あたしのことを言い負かせる下級生がいれば喜んで席を譲るわ。でも、立会演説会で私に泣かされてるようじゃ、安心して任せられないわよね」

 相月は二年前期で立候補して以来、得意の話術でじつに七人の対立候補を壇上で泣かせ、投票を辞退させています。なんて横暴な人なのでしょうか?

ちなみに、生徒会の会議には生徒会執行部と各委員長の他に、運動部・文化部それぞれの正副代表者、かぐら寮寮長及び副寮長の出席が認められています。

 今、私は、その相月に話をしなければならないことがあって「かぐら寮最大の伏魔殿」と化している生徒会室に向かっています。先ほどクラスの方で散々やりあった上に、放課後まで顔をあわせるのは正直嫌なのですが。

「入るわよ」

 ガラガラ、ピシャン!

「あ、かが美。珍しいやん」

 ……宮樹さんはなんでいつも生徒会室で木刀の素振りをしているのだろう。ちゃんと剣道部に所属すればいいのに。

「んー、設楽が来たの? なんか用?」

 と言いつつ、相月はこちらを一度も見ないで妖しげなノートパソコンの画面を見つめている。少しはこっちを見なさいよ!

「話があるんだけど、ちょっといいかしら?」

「……かけて」

 相月はノートパソコンを閉じて着席を促しました。私は言われるままにその対面に座りました。宮樹さんも汗を拭きながら相月の後ろに腰掛けました。

「それで、要件は何?」

 相月は普段からは想像もつかないほど静かで冷静に聞いてきます。相月はたしかに横暴な性格ではありますが、トップとしての能力はあると思います。……生徒会長という職にはどうかと思いますが。

「家庭科部の来年度予算についてだけど、今年の半分というのはどういうことなの? 説明願いたいんだけど」

「説明ね。悪いけど、お断りするわ」

 来年度の予算要望書を見せながら質問する私に、相月は信じられないほど冷たい口調で言いました。

「なぜですか?」

「それは設楽、あなたがもう文化部代表でも、家庭科部の部長でもないからよ」

 普段なら相月の言動に対してフォロー役に回る事が多い宮樹さんも、眼を瞑ったまま黙ってその言葉に頷いています。

「でも、まだ私も家庭科部の部員です。納得いかないことは聞く権利があるでしょ?」

「……生徒会は生徒会なりの考えがあって予算をきめてるわ」

「それは当たり前の話ですね」

「その上で、家庭科部にはその予算しか出せないと判断した。それだけよ」

 怒らないと決めていた私の心に、相月の事務的な態度が容赦なく突き刺さって来ました。

「相月、分からないわけじゃないわよね? 私はその生徒会なりの考えというのを聞きたくてここに来てるの」

 声のトーンが自然と上がってしまった私の質問に、相月は一つため息をついてから答えました。その声はいつもの調子に戻っていました。

「設楽、いい加減、三年生があれこれ口出しするのはやめた方がいいわよ。もう、いなくなっちゃう身なんだから」

「え?」

 相月の言葉に、私は頭から冷水をかけられたような感覚に襲われました。相月が何を言いたいか分かったからです。さらにここで、今まで黙っていた宮樹さんが口を開きました。

「その予算書、かが美が作ってあげたものなんちゃう? いや、直接、手ぇ貸さへんかったとしても、良くて去年の丸写しってとこやな」

 宮樹さんは気を使ってくれたけれど、たしかに私が作ってあげたものでした。

「現部長も副部長も、予算書に対するこちらの質問にほとんどまともに答えられなかったわよ。それじゃ予算書どおりってわけにはいかないわよね?」

 相月の言うとおりです。私はうつむくしかありませんでした。

「だから、その子たちがちゃんと説明できたところだけ、予算、つけといたから」

「そう。そうなの。二人が何を言いたかったかはわかりました。それでは仕方ありませんね。無理言ってごめんなさい」

 私は少しやりすぎてしまっていたようです。良かれと思って私がしていた行為が、かえって後輩達のためにならなかった。でも……。

「……ちゃんとやってくれてると思ったのに」

私なりに後輩達には期待をしていました。でも、期待は裏切られて。でもその原因が自分のでしゃばりだったなんて認められず、口惜しくて、情けなくて、つい本音を口にしてしまいました。

「仕方ないじゃない、あんただって良かれと思ってやったんだし。泣かないでよ」

「泣いてなんかいません!」

「かわいくないわね。そういうときは少し弱ぶったほうが女は得よ。ま、あたしも人の事は言えないけどね。時に沙羽、来週の議題って何だっけ?」

 突然、相月が宮樹さんにそう聞きました。宮樹さんはクスッと笑ってから勤めて冷静にその問いに答えました。

「来週ね。来週は、各部代表の対応があまりに悪いのでもう一度予算会議をすることになってるわ。明日通達するから、本決まりはそれからやね」

 わざとらしい。そう思いましたが、私は二人に感謝しました。

「そ、そうなの。早速あの子たちにも教えてあげよう。きっと喜ぶわ。今度はしっかりしなさいって言っとかなきゃ。それじゃ、失礼するわね」

「あ、そうそう。来年も顧問であろう紗月ちゃんには、予算の事、全部話してあるから。引継ぎの仕方とかしっかり相談してきなさい」

 席を立った私に、ノートパソコンを開きながら相月が言いました。

「分かりました。ところで相月、先生のことをちゃん付けで呼ぶの、いい加減やめた方がいいんじゃない?」

「自分は、ささなみたいにお姉さまって呼びたいくせに」

 キシシシと笑う相月をキッと睨みつけて、私は生徒会室を後にしました。

「おお、怖い。ったく、あのマニア女は。素直じゃないんだから。ありがとうの一言がどうして出ないかな」

「しゃあないんちゃう? 無茶ぶりもええとこやったから、合わしてくれたんちゃう?」

「う。ま、いいでしょう。しっかし度が過ぎるのよね、設楽は。かぐら寮副寮長、家庭科部部長、風紀委員長って、紗月ちゃん顧問の団体全部で役員やってんだもの。ゴッドマザーが常に二人もいてちゃ、人材が育たないわ」

「ははは。ま、あたしは後輩思いで世話好きなんは、かが美のええとこやと思うけどな」

「一部は認めましょう。あいつの損得勘定抜きで後輩の面倒見られるところは美徳でしょうね。あたしにはそこが全然理解できないんだけど。でも、過保護はダメよ、過保護は」

「ま、それは言えてるわ。なにごとも行き過ぎは毒でございます~ぅ、ほどほどが一番でございます~ぅ、ってね」

「沙羽……なんの真似?」

「気にせんといて」


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