湯けむりかぐら女子寮 ~トシマイザー3、襲来編~ (その3)

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 不満を訴える寮生たちに頭を下げなければならない二人の心境など露知らず、教師三人は広いお風呂を満喫していた。

「あー、足が伸ばせるっていいねー」

 最初に湯船に入った鳳が大きく伸びをしながら、心底気持ち良さそうに言った。

「はぁぁぁ。ババ臭いけど、疲れた体にはしみるわ」

 蘭も弛緩しきったため息を吐いた。

「この広さを今のうちに堪能しとこう」

 鳳は急に湯船に潜り、腹ばいになってお湯の底を移動した。そんな鳳を避けながら蘭が叫んだ。

「ちょーっとぉ。いい歳して湯船で泳がないでよ!」

「えへへ。冗談だよ」

「本気でやってたじゃない、今さっき!」

遅れて入ってきた紗月だけは、まだ髪の手入れをしていた。何を思ったのか、その後ろ姿を蘭がジーっと見つめだした。

「おい、紗月の裸なんて凝視して、なんか楽しいか、蘭? 別に見慣れてるとは言わんが、そう珍しいものでもないだろうに」

 蘭の様子に気がついた鳳が、薄目をあけて見ながら呆れたように聞いた。

「え? ちょ、ちょっと、どうしたのよ、蘭? いくらあなたでもそんなにジロジロ見られたら恥ずかしいわ」

 振り返った紗月は嘗め回すような蘭の視線に頬を赤らめて、少し身を縮めた。

「んー、いや、紗月ってあらためて見るとさ、肌白いなーって思って」

 蘭は妙に真面目な表情で、まるで品定めをするように紗月の体に視線を這わせた。

「もともとアウトドアな人じゃないってのもあるんだろうけど、栄養がいいのかな。色白いだけじゃなくて肌がきれい。全体的に細いんだけど、特に腕なんかほっそりしてて、いかにも華奢な感じがいいわ」

 紗月は徹底的に無視を決め込み、髪の手入れに没頭していた。調子に乗ったのか、蘭は紗月の腰のあたりで無遠慮に視線を止めた。

「細いなりにも、おしりだけは結構丸くてしっかりしてるのよね。さすが日本人体型」

 髪を洗い終えた紗月が湯船に入ろうと正面を向くと、今度は蘭の視線がその胸元にまで上がった。

「残念ながら、胸が真っ平らのつるっつるなのよね。実に惜しいわ!」

 少しムッとした顔の紗月が片手で胸元を隠した。すると蘭は手のひらをあわせてお湯に沈め、紗月の胸元に向かって水鉄砲を発射した。

「あらーん、きれいにお湯が流れちゃった。いよ、水も滴るつるぺた女!」

 それでも紗月は黙って湯船につかった。全身の力が抜けたような甘い安堵のため息をつき、しばらく眼を閉じていた紗月だったが、急に眼を開き、蘭のことを睨みつけた。

「蘭、あなたね、いくら友だちでもそうやって人の裸を露骨に論評するのはどうかと思うわよ。それに、女性の胸に向かってお湯鉄砲なんて、失礼だと思わないの?」

 努めて冷静に説教をしようとする紗月だったが、口調の端々に腹立たしさがにじみ出ていた。聞いている蘭の方はまったく気に掛ける様子はなかった。

「あはは。ごめんごめん。ちょっと実験してみたくなったのよ」

「何の実験ですか!?」

「いや、どんだけ平らかなって」

「そんなことで胸が平たんかどうかなんてわからないでしょ? それに……」

 紗月はそこで一旦言葉を切ると、急に真っ赤になった。

「平ら平らって。悪いけど、そこまで言われるほど小さくはないと思うわ……」

 真っ赤になって口までお湯に沈んだ紗月を見て、蘭は余計にはしゃいだ。

「かっわいいー! 携帯もってたらその表情、いただいとくとこなのに!」

 紗月は怒ったようにぶくぶくと泡を立てた。それを見て鳳が少し大げさに驚いた。

「しかし、意外だね~」

「鳳。あなたも蘭に何か言ってやってよ……」

 紗月はジトっとした視線で鳳を見た

「ごめん。でもさ、やっぱし、紗月でも胸が小さいのは気になるんだね。普段は、そうは見えないんだけどなー」

「別に、これが女性の魅力の全てだとは思っていないけど、ここまで言われたら、そりゃ私だってさすがに気にしますよ」

「そっかー。ま、小さいのは事実だから仕方ないって……おっと」

 紗月の目が釣りあがったのに気付いた鳳は、舌を出して目線を上に外した。そして、慌てて会話の相手を変えた。

「紗月のことはそのくらいにしてだ。蘭は、確かに女のあたしたちが見ても綺麗だからな」

 鳳の褒め言葉にも、蘭は涼しい顔をしていた。

「あら、思ったより喜ばないのね」

「だって、そんなの当然の事だもん!」

 不思議そうな顔の紗月に、蘭はさも当然のように言ってのけた。

「悔しいが美人だし、胸も大きすぎず小さすぎずで、形も悪くない。なんつーか、全体のラインが女性らしい魅力に溢れてるんだよな」

「美の女神と呼んでいただいて結構よ!」

 それまで蘭を褒めていた鳳が呆れた表情を見せた。

「たいした自信だね。でもだな……」

 次の瞬間、めいっぱい格好をつけていた蘭の表情が急変した。

「が! な、なにすんのよ!」

「最近、この辺が油断しすぎなんじゃないか? 今はまぁ、まだこの程度だけど、そろそろ手を打っとかんと手遅れになるぞ」

鳳は斜めの体制で足を伸ばし、蘭のわき腹の肉を足の親指で掴んでいた。

「こらー! あんた、なに人の脇のお肉をニギニギしてんのよ。しかも、足の指でってどういうことよ!」 

 必死で逃れようとする蘭だったが鳳は器用に空いた部分をつねる。

「やめなさいってば、気持ち悪い!」

「他人の裸をバカにした罰だよ。紗月もやってみな。変な感触で、面白いよ」

「あら、そう? それじゃ、覚悟しなさい。エイ! エイ!」

 鳳に促され、紗月も足を延ばした。

「紗月まで何やってんのよ! は、はしたないわよ!」

「なにを言われても結構。人のこと散々つるぺた扱いして。少しはお返ししないと気がすまないわ。うりゃ!うりゃ!」

「そうだ、そうだ。少しは反省しろ! んにゃろ!」

鳳と紗月に挟み撃ちにされた蘭はなす術もなく、ついに音をあげた。

「あーん、もう、ごめんてばぁ。あたしが悪かったですゥ! もうこれ以上醜い現実を見せないでぇ!」

 
ほっそりとした指が伸びて、扉に貼られた紙をはがした。

「あー、いいお湯だったわぁ」

 すっかり茹で上がったトシマイザー3は、一見、旅館用に見える浴衣に羽織と言う姿で食堂に現れた。たまたま食事を取っている学生が居なかったので、三人はテーブルを囲んで一休みした。

「はぁぁ。いいお湯でした。本当、ここを使わせてもらえて良かったわ」

 紗月は給湯器のお湯を使ってお茶を入れ、蘭と鳳に差し出した。

「本当だね。サンキュ。また入りにこようかな?」

「そうしよ、そうしよ。そんときはまたよろしくね、紗月」

「これはもうやめましょう。やっぱり気が引けるわ……」

 三人はそれぞれの表情で余韻に浸っていた。

「でも、やるわね、紗月。こんなものまで用意するなんて」

 蘭が浴衣の袖をひらひらさせた。

「なんか、本当に温泉とか健康センターに来たみたいだ。しかし……」

 テーブルにほっぺたをつけていた鳳は、急に不安そうな表情で顔を上げた。

「紗月、こんなのどうやって用意したんだ? まさか、前行ったとこでパクったのか?」

 紗月はちょっとイラッと来た顔でうなじのあたりを掻いた。風呂上りのその頭はある種の巻貝のようになっていた。

「そんなわけないでしょ! ちゃんと私が作りました。こんなこともあろうかと、ね」

「さ、さすがは紗月さんだぁ!」

「でも、まさか寮のお風呂で使うことになるとは思わなかったでしょうけど、ね」

「……二人とも、なんのまね?」

「ところで、これって、くれるの?」

「あげません」

 三人が楽しそうに雑談をしていると、風呂道具を抱えた小さな影がちょこちょこと食堂に入ってきた。

「……先生方。……こんばんは」

 玄麻だった。かわいらしいピンク色のパジャマを着て、顔の割りに大きな黒縁メガネをかけた玄麻は、学校での仏頂面や部屋での黒魔女姿とは違った年齢相応の少女の顔を見せていた。

「あら、玄麻ちゃん。これからお風呂?」

「ごめんなさい、長い間占拠してしまって」

「でもラッキーだな。今なら一人でつかえるぜ」

 玄麻は立ち止まり、三人の教師を見つめていた。そして、おもむろに口を開いた。

「……さらなさん、怒ってたみたいですよ」

 玄麻の呟くような小さな言葉に、教師たちの表情は固まった。

「あら、そうなの? ささなから使って良いって聞いてたんだけどなー? あは、あはは」

「ま、まぁでも、さらなにも一言言っておくべきだったかもしれないわね。あとで私から謝っておくわ、おほ、おほほほ」

 蘭と紗月は動揺を隠せず、おおげさに笑ったふりをして誤魔化そうとした。

「ま、まぁ、そんなに悪いことした訳じゃないだろ。今日は勘弁してくれよ、な」

 最後に、謝るような仕草を見せた鳳に対して玄麻は静かな視線を向けた。

「……鳳先生」

「な、なんだい?」

 玄麻の、見つめているようにも外しているようにも感じる不思議な視線に鳳はたじろいだ。

「……泳いでましたね……お風呂で」

 玄麻の唐突な一撃に鳳の表情が引きつって固まった。鳳を黙らせた玄麻は次に紗月を見つめる。

「……水も滴る……つるぺた」

 玄麻の視線の照準がどこにあるか気付いた紗月は顔を真っ赤にして胸を抑えた。

「……油断大敵……お肉一生」

 玄麻は仕上げとばかりに蘭のわき腹に照準を合わせた。蘭はなす術もなく立ち尽くした。

「……先生たち、声、大きすぎ。……さらなさん、それも怒ってましたよ」

 三人の教師を撃沈させた駆逐艦、武蔵野玄麻はゆっくりとお風呂に向かって歩いて行くと、扉の手前で立ち止まり、振り向いた。

「……気をつけたほうが、いいですよ」

 玄麻は一瞬クスリと笑ったように見えた。そして、脱衣所に消えていった。

 残された紗月、鳳、蘭は無言で顔を見合わせ、お互いの放心したような表情を確認しあった。

「……それでは、そろそろかえりましょうか」

「……ばんごはん、どうする」

「……あたしがくるまだすよ」

「「「はぁぁぁ」」」

 棒読みのセリフの後で、三人は同時にため息を一つついた。そして、魂が抜けたようなフラフラとした足取りで食堂を出て行った。


(おしまい)

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