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|432 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:28:28 ID:44ZkbhoT0|
川 ゚ -゚)「8-2.5=5.5か。 5.5-2=3.5。 うぅん……」
喫茶店wktkは、バーボンハウスに隣接する形で作られているが、
ゲームの雑多な音で店の雰囲気が壊されるようなことはなかった。
もしかしたら扉一枚向こうがゲームセンターだと知らない客も
この中にはいるかもしれない。
川 ゚ -゚)「いや、2で9の方がどう考えても強いな……
やはりこっちを使うべき、か」
その店内にあるカウンター席の隅っこで、何やら思案中の女性が一人。
クセのない、すらりと伸ばした綺麗な黒髪に似合う整えられた顔つきは、
少し無表情なところを保持しつつも美しさを忘れていない。
街を歩けば世の中の男共は必ず彼女の姿を目で追ってしまうだろう。
しかしそんな彼女の眉間が寄ってしまうのも今は仕方のないことだった。
それは彼女に起こったつい数十分前の出来事が原因だ。
|435 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:42:04 ID:44ZkbhoT0|
川 ゚ -゚)「ここから逆転、厳しいか……!」
バーボンハウス内の一角にてクーは三国志大戦3の真っ最中だった。
彼女は今日もお気に入りの武将をデッキに入れて全国対戦に挑んでいた。
だが今回は対戦相手としてSR呂蒙を中心にした通称麻痺矢デッキに当たり、
なおかつクー側の城ゲージは半分ほど一方的に削られ、苦戦していた。
試合の残りカウントは20C。
この最後の攻撃が敵城まで届かなければクーの負けだ。
川 ゚ -゚)「士気は12溜まっているが、軍師は互いに使用済み。
部隊の動かし方で上回らなければ!」
壊れかけの柵に重なるようにして出ている敵の槍部隊に
騎馬が迎撃を受けないようにクーはカードを動かそうとする。
だが一瞬、計略をロックしようとスタートボタンを押した時に
彼女の騎馬隊が無敵槍に触れて迎撃をもらってしまった。
川 ゚ -゚)「しまっ――」
後悔する間もなく麻痺矢の大号令を打たれ、クーは負けを覚悟した。
ここから柵を壊して、
相手の弓攻撃と場内ローテーションをくぐり抜け、
さらに城ゲージを逆転する兵力を、
もう数カウントもしない内に失うのは目で見るよりも明らかだった。
|436 :一行目空けたらダメなのね:2008/03/14(金) 23:44:02 ID:44ZkbhoT0|
川 ゚ -゚)「むむむ……」
少し三国志に詳しい者が近くにいたらある言葉を必ず返されるであろう、
その独特のうなり方をしてクーは勝つことを諦めた。
後は惰性でカードを動かし、計略ボタンを叩くことしかしなかった。
そうこうしている内に試合は終了した。
クーの勝ちである。
川 ゚ -゚)(……?)
画面に表示された勝利の文字の向こうで自軍の兵士たちが喜んでいたが、
クーにはそれが受け入れられなかった。
飛び跳ねているのは敵の兵士だと思ったくらいだ。
それでもコンテニュー画面を見せつけられれば、
自身が勝利したことを認めざるを得なかった。
川 ゚ -゚)「……なぜだ……なぜ勝ったんだ~!!」
理不尽さを訴えたその叫びはバーボンハウス内に響き渡った、
と後世に伝えられている。
|437 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:46:12 ID:44ZkbhoT0|
(´・ω・`)「やぁ、いらっしゃい」
そんな訳でクーはいったん落ち着いてからデッキ構成から見直そうと、
この喫茶店wktkへやって来たのだ。
仕事があったのか、クーより遅れてwktkに入ってきたショボン店長が
彼女の顔を見かけて挨拶をしてくれた。
川 ゚ -゚)「やぁマスター。お疲れ様」
(´・ω・`)「僕が疲れるのは強い相手と戦った時だけさ」
そう言って三国志大戦のカードを動かす真似をしてみせる店長。
仕事で疲れることはない。
全国対戦で運悪く強ランカーたちと戦うことになる方が疲れる、
という意味なのだろう。
川 ゚ -゚)「なら一仕事頼んでもいいかな?」
それが分かったクーだから、
空になったグラスを傾けて氷がたてる音を店長に聞かせた。
(´・ω・`)「かしこまりました」
店長が少しだけ笑いながら飲み物の準備に取りかかる。
注文はいつも店長のお任せにしてあった。
それで口に合わないものが出てきたことは今まで一度もない。
|439 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:48:08 ID:44ZkbhoT0|
川 ゚ -゚)「さて、どうしたものか」
彼女の前にはグラスとは別に、二枚のカードが置かれていた。
一枚は旧SR関羽、もう一枚はUC関羽だ。
三国志大戦3で使うことのできる関羽カードは実質この二枚であり、
彼女はこの関羽という武将が大好きなのだ。
いや、それどころか尊敬さえしているのだから、
関羽をデッキに入れない手はないとクーは思っている。
だが先ほどの試合で彼女の思考は揺らいでしまった。
士気12からの忠義2発であっさりと敵をを封殺してしまったことに
向こうのミスがなかったとは言えないが、
こちらはそれ以上に重大なミスを犯してしまっていたのだ。
加えて最後の場面で気を抜いてさえいたのである。
それでも逆転できたのはひとえに関羽のおかげなのだが、
あまりに強すぎる気がしたのだ。
いやゲーム内でも関羽が強いということは、
関羽の実力を表しているようでとても嬉しいのだが、
下手な試合内容で勝ったことがそれを素直に喜べなくしていた。
だから彼女はSR関羽ではなくUC関羽の使用を検討し始めたのだが、
喫茶店で一息ついてもなかなかデッキが決まることはなかった。
|440 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:50:16 ID:44ZkbhoT0|
(´・ω・`)「どうぞ」
川 ゚ -゚)「ありがとう、いただきます」
店長が差し出したグラスを持ち、
その透明色と香りを確認してからクーは一口つけた。
何も混ぜていない、酒の純粋な味が広がる。
川 ゚ -゚)「これはグレイグースか」
(´・ω・`)「さすがだね」
プレミアムウォッカと称される銘柄の一つを一発で当ててみせるクー。
相変わらず違いの分かる女である。
(´・ω・`)「ところで、関羽で悩んでるのかい?」
川 ゚ -゚)「そうだな……実は」
クーは店長に事情を聞かせた。
負けた試合に勝ってしまったこと。
SR関羽を使うことで簡単に勝ててしまうのはどうにも納得できないこと。
しばらくUC関羽を使ってみようかと考えていたこと。
(´・ω・`)「確かに今の忠義は強いからねぇ」
川 ゚ -゚)「私は関羽が好きだ。
だが、このカードを使うのはいささか卑怯なのではないか、とね」
(´・ω・`)「卑怯か、ふふ」
愉快そうに笑う店長の心が読めなくてクーは少し戸惑う。
ただ、馬鹿にされたのではないとは分かるが。
|442 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:52:21 ID:44ZkbhoT0|
(´・ω・`)「以前クー君は言ったね。ウォッカに混ぜ物は禁止だと」
川 ゚ -゚)「あぁ」
以前にご馳走になった時の話だ。
(´・ω・`)「ならそれが普段の君だ」
クーの持つグラスを指しながら謎めいた言葉を口にした後、
店長はもう一つグラスを差し出した。
(´・ω・`)「雪国です」
スノースタイルに彩られたグラスに沈められたミントチェリーの色が鮮やかだ。
(´・ω・`)「これが今の君、といったところかな」
川 ゚ -゚)「今の私と普段の私、か……」
クーはいったん店長の意図するところを探るのをやめ、
甘みと酸味がほどよく入り混じったカクテルの味に身を委ねた。
さすがショボン店長、良い腕をしている。
だけどその意味は何なのかと、目で問いかけた。
|444 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:54:03 ID:44ZkbhoT0|
(´・ω・`)「その昔、酒に混ぜ物をするのは管理の目から逃れるためだったんだ。
見た目だけならジュースだと言い張れるからね。
でもカクテルだって立派な酒だ。
それを他のものだと偽るのは良くないし、
その酒にも失礼だと思わないかい?」
川 ゚ -゚)「それはそうだな。
自分がクーではない、と他人に言うことはできないしな」
手中のグラスの底で、淡いグリーンが揺れる。
(´・ω・`)「まぁそのようにしなくてはいけない当時の状況もあったんだろうけどね」
店長は少しだけ遠い目をして続きを語った。
暴虐を使って頂点へと限りなく近づいたことがあるからこそ言える言葉を。
(´・ω・`)「強カードを使うことが卑怯なんじゃない。
本当に卑怯なのは、カードの力に頼って相手を見下したり、
そのカードの使用者をむやみに蔑んだりすることだ。
君は目標を見失わなければ、忠義を無くさなければいい。
大事なのはそれだけのことさ。
何かに惑わされて君の忠義を偽ってはいけないよ」
いつわりのない真実の心を持つ普段のクーはグレイグース。
そこによこしまなものを混ぜれば全く別なものになってしまう。
|445 :ゲームセンター名無し:2008/03/14(金) 23:56:13 ID:44ZkbhoT0|
川 ゚ -゚)「私の忠義、か」
(´・ω・`)「君はずっと関羽を使ってきた。
なら今はその強さに甘えればいいじゃないか。
クー君ならどんな内容の試合からでも学べるでしょう?
なぁに、勝利に溺れることさえしなければ天下が遠ざかることはないさ」
なるほど、とクーは思う。
目先の勝ち負けではなく、試合の中から何かを得ようという姿勢。
そして何よりも自分を偽らないこと。
未熟な自分にとってそれが一番大事なことなのだ。
圧倒的な力を前にしてそれを忘れていた。
川 ゚ -゚)「ありがとう店長、気分が晴れたよ。
関羽、私はこれからも君に忠義を尽くそう」
関羽を使い続けることを改めて決心したクー。
その表情はいつもの端麗さに輝きが加わり、より美しかった。
川 ゚ -゚)「しかしこの雪国、初めて口にしたが美味しいものだな」
(´・ω・`)「そうだね、たまには混ぜ物もいいもんでしょう。
今回の例えに雪国を使うのはちょっと不適切だったかも。
だって悩んでたその姿も君の色の一つなんだから」
川 ゚ -゚)「店長の口説き文句wwwwうぇwwwwwwwww」
(´・ω・`)「ちょwwwwおまwwwwww」
|448 :ゲームセンター名無し:2008/03/15(土) 00:00:13 ID:44ZkbhoT0|
川 ゚ -゚)「マスター、以前は仕事を奪うような発言をしてすまなかった」
(´・ω・`)「いえ、お気になさらずに」
クーは少し手を上げて店長に分かれを告げた。
ショボンも柔らかく微笑んでクーを見送る。
(´・ω・`)(僕の仕事はシェイカーを振ってカクテルを作ることじゃない。
店に来てくれた人にできる限り満足してもらいたいだけなんだ。
だから混ぜ物をするなと言われても僕の仕事を奪うことにはならないさ)
そんなことよりも、と店長はグラスを片付けながら思う。
(´・ω・`)(クー君はこれがホワイトデーのお返しだって気付いてくれたのかなぁ?)