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不朽の英語学習法:松本亨先生の教え

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はじめに

松本亨という英語の達人をご存知だろうか。戦前、戦中と14年間アメリカに留学し、戦後NHK「ラジオ英会話」講師を22年間も努めた人である。

私も世代が違うので、松本先生の講座を聞いたことはもちろんない(先生は1979年に逝去された)。しかし、高校時代に先生の「新しい英語の学び方」(講談社現代新書)という今から40年も前(1965年)に出版された本に出会って以来、15年以上にわたって私淑している。私はこれまで数多くの英語の学習法や上達法に関する本を読んできたが、いまだにこの「新しい英語の学び方」を超える本は現れていないと思う。

先生の語り口は平易で、あたたかい。しかし、英語学習に関する真実をズバリと言い当てており、何度読んでも、そのたびに励まされ、決意を新たにさせられる思いがする。ここでは「英語の新しい学び方」の最終章「英語をマスターしたいあなたへ」の中から、先生の教えを紹介したい。

英語マスターのカギは、量である

とかく効率を求めがちな現代人にとって重要なメッセージは、英語は「量」が重要であるという点である。松本先生は、社会人の読者に対して、このように勧めている。

1日に少なくとも、まとめて3時間は英語を読んでください。

「少なくとも」「まとめて」というあたりから、1日3時間英語を読むくらいは英語をマスターしたいなら当然だよ、という気持ちが伝わってくる。何はともあれ、手あたりしだい多読速読しなさい、というお勧めである。

つぎに書くことです。書くことを怠っては、とうてい英語の力はつきません。このほうは、1日に1時間でけっこうです。いちばんやりやすく、しかも効果のあるのは、きょう読んだことについて書くことです。大意をつかみ、報告的な文章を書く。または、批判を書く。事件や社説に対する意見を書く。

3時間まとめて英語を読んだ後に、1時間英語を書け、というのだからびっくりである。しかも1時間「でけっこうです」というのだから、本当なら1時間でも少ないのだが、社会人は忙しいのを考慮して少なくしてあげるんだよ、という調子である。

書くことを怠ってはとうてい英語の力はつかない、というアドバイスも耳が痛い。英語に時間をかけている人も、どれだけの人がライティングに力を入れているだろうか。つい楽なほうに、つまりリーディングとリスニングに流れていないだろうか。多読多聴とライティングのバランスをとらないと、日本人に多い、そこそこ読めて聞け、TOEICの点数も高いけど話せないという英語人になってしまう。(私もその傾向にある。TOEIC970だが、とてもそれに見合うアウトプット力があるとは思えない。)

聞くことも怠るわけにはいきません。英語放送は1時間ぐらいかけっぱなしにして聞いてください。

松本先生の時代に比べて大きく進歩したのが、英語のリスニング環境だろう。リスニング教材は豊富、CNN、FOXなど衛星放送で視聴できるし、最近はインターネットラジオも有力な選択肢の一つになった。英語を1時間掛けっぱなしにして聞く、というのだけは多くの人がクリアできる項目ではないか。

そのほか、同志を募って英語会を結成し、英語を話す場を作れというアドバイスもある。それを別にすれば、1日に3時間リーディング、1時間ライティング、1時間リスニング、合計5時間英語を勉強しなさい、と言っているわけである。忙しい社会人に出来るだろうか。いや、本気で英語をマスターしたいなら、このくらいやらなければダメなのだ、と。

残念ながら、私は1日5時間の勉強を続けられたことがない。それでも、量は半分にしても、この割合(読・書・聴が3対1対1)で勉強するように努力している。インプットとアウトプットのバランスのよい、英語学習の黄金率ではないかと思う。

英語マスターのカギは、スピードである

松本先生は、続いて大学生へのアドバイスの中で、具体的に目標にすべき数字を挙げている。この数字は、全てスピードに関するものである。(ちなみに大学生向けのアドバイスの中に学習時間に関するものはもはや出てこない。大学生は、その持てる時間の全てを英語マスターにつぎ込みなさいというのである。)

現在1時間に何ページ読めますか、と質問した後で、松本先生はこういっている。

小説の類なら1時間に50ページ読めるようになるまでがんばる意志がありますか。学究的な原書なら、1時間に少なくとも30ページは読めなければなりません。

ページと文字の大きさにもよるが、小説の場合、ペーパーバックで1ページに250~350語だとして、1分間に250語以上は読めなければならない、ということになる。学究的な書物は、版形が大きく1ページの語数が多いから、1時間のページ数が半分になるのは当然だろう。

しかし、速読の大切さはいろいろな人が説いており、1分間に250語程度なら、特に変わったところはない。では、次のアドバイスはどうだろうか。

今、1時間にどのくらい書けますか。500語ですか。それとも600語ですか。書くほうは、1時間に2000語が目標です。(中略)そんなに書くことはありません、とはいわせません。一日にしたことをつづるだけでも、2000語ぐらいは必要です。苦しまなければだめです。

社会人向けのアドバイスとあわせて読むと、1日1時間、2000語書け、ということになる。この「速書」のアドバイスは松本先生の専売特許みたいなもの、先生以外にほとんど聞いたことがない。やってみると、まさに苦行といった感じで、ここに書いてあるとおりのことが言いたくなる。ネタは尽きてしまうし、1時間英語を出し続けるのは苦しみである。しかし、効果もまた絶大である。速書を実践しているときは、英語が出やすい状態になり、スピーキングが楽になるのが実感できる。私は1時間に1500語くらいなら書けるようになった。30分ライティングする場合は、750語ほど書く。

1時間に2000語なんて速すぎる、そんなに書けるわけがない、と疑う人たちのために、先生は自分の経験を述べている。

わたしは旧制の専門学校の2年(今の大学の1年)のとき、50分授業の英作の時間に、わら半紙5枚、約1500語書いていました。

先生は後にアメリカにわたり、14年も滞在するのだが、すでにその前に相当の英語力を身につけていたことがこのことから分かる。

先生が速読、速書の目標としてあげた数字を私はまだクリアしていない。速読については、文体や内容によるが、ほぼ達成しつつあるとしても、速書については、まだまだ手が届かない。何とか達成したいものである。

松本亨先生の超人的な英語力

松本先生は、「英語の新しい学び方」の第2章で自身の英語力・英語体験について率直に語り、英語をやる人の目標にしてもらっていいとおっしゃっている。そこで、松本先生の英語力・英語体験がどのようなものか、少し紹介してみたい。

  • 読書スピードについて先生は、Pearl S. Buckの小説「The Living Reed」(478ページ)は、10時間たっぷりかかった、しかしNoel F. Buschの伝記「Adlai E. Stevenson of Illiois」(236ページ)は、1時間半ですんだ、と述べている。後者を基準にすれば、1時間に約160ページ、1分間に2ページと3分の2、1ページの語数を250語だと少なく見積もっても、1分間に670語を読んだ計算になる。
  • 先生は、51歳の執筆当時までに、2000冊の英語の本を読んだ、と述べている。日本の学生時代、留学時代、太平洋戦争当初のアメリカでの抑留時代に一番よく英書を読み、1日1冊をノルマにしていた。
  • アメリカで仕事についていたときは、1時間に30通の手紙を秘書に口述して書いていた。
  • 1935年から1949年までのアメリカ滞在中、太平洋戦争の初期を除き、毎週どこかで講演をしており、当時のアメリカ48州中47州で話をした。講演・演説の数は合計1000回を超える。

これを読むと、気が遠くなる。先生のアドバイスは、これだけの量をこなしてきた先生の経験に裏付けられているのである。私はこれまで何冊の英書を読んできたか。TIMEなどの英文雑誌1冊を英書1冊と数えてもいいことにしても、せいぜい200冊から300冊の間ではないか。これから先、先生の年(当時51歳)までに、2000冊を達成できるであろうか。そのためには、毎年100冊読むことを目標にしなければならない。

英語演説1000回にいたっては、永遠に追いつくことなど出来ない。私はToastmasters Clubというスピーチクラブに入っており、1ヶ月に1,2度スピーチをする機会があるが、5~7分ほどの短いものである。先生の講演は、短いものでも20分はあっただろう。松本先生ほど英語でスピーチをした日本人は、かつていなかったし、これからも出ないといっても過言ではないだろう。

おわりに

松本亨先生は、戦後の英語教育界に大きな足跡を残した英語の巨人である。日本人の英語力として、前人未到の境地に達しており、すべて英語の達人・名人を目指そうとするものにとってエベレストのようなものである。私も何合目まで登れるかは分からないが、頂上(先生の後姿)を目指して、歩み続けていきたい。

最後にもう一度、先生の英語学習に対する日々のアドバイスを載せる。
  • 1日に少なくとも英語を3時間読み、1時間書き、1時間聴きなさい。
  • 読むほうは1時間に50ページ、書くほうは1時間に2000語を目標にがんばりなさい。

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