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ja
2006-02-05T02:08:12+09:00
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テンプレ
https://w.atwiki.jp/yukiusa/pages/3.html
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2006-02-05T02:08:12+09:00
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ベア・司 純愛物④
https://w.atwiki.jp/yukiusa/pages/7.html
司に遅れることしばらく、風呂から出たベアはつらそうにこめかみを押さえた。<br>
頭がぼうっとする。<br>
理由はおそらくふたつ――まず第一に長く浸かり過ぎた。<br>
もうひとつは、司だ。<br>
もっというなら、先ほどの司の――――いや、やめておこう。<br>
言葉にすれば先ほどの光景を思い出してしまいそうだから。<br>
若い娘の考えることは、オッサンには刺激的過ぎる。<br>
振り払うように無意識的に頭を振ってすぐさま己の馬鹿さ加減をのろった。<br>
血が上りきった頭には大打撃で、くらくらとよろめいたベアはそのまま倒れそうになる身体を壁にもたせかけてなんとか事なきを得た。<br>
……ように思えたが。<br>
急激に視界がブラックアウトし、背中に当たる壁の感触も曖昧になっていく――――。<br>
<br>
<br>
<br>
次に目を開けると、心配そうな司の顔のアップがあった。<br>
「!!」<br>
がばりと身を起こすと途端にセカンドインパクトが脳天に直撃した。<br>
「……大丈夫?」<br>
大丈夫じゃないかもしれない。<br>
少しの吐き気と頭痛があり、もう少し横になっていたかった。<br>
「はい、お水」<br>
「ああ、ありがとう」<br>
コップを受けとったベアは深く考えずに一気に中身を飲み干した。<br>
水じゃなかった。酒だった。<br>
一気に心拍数が跳ね上がり、アルコールを全身に運ぶ。<br>
眩暈がして、再びベッドに背中から逆戻りした。<br>
「つ、司……、これ……」<br>
「うん、実はお酒なんだ。ごめんねベア、でもこうでもしないと駄目かなって思って」<br>
<br>
いったいぜんたい今何がおきてこういうことになっているんだ。<br>
ベアは目だけ動かしてできるだけ現状を把握しようとした。<br>
ここは……どうやら俺の部屋らしい。<br>
ベッドに寝かせられているようだった。<br>
すぐ横には司がいて、覗き込むように自分を見ている。<br>
――――下着<br>
あー、ええと。<br>
落ち着け、まず落ち着け。<br>
ようやく復帰した頭の中のコンピューターは急ぎ先ほどからの状況を反芻している。<br>
どうやら自分はのぼせて倒れたらしい。<br>
それを司がベッドまで運んで寝かせた。<br>
心配してずっとついていてくれたのだろう。<br>
そこまでは理解できるのだが。<br>
だめだ。酔いの回りが速く考えがなかなかまとまらなかった。<br>
なんのために自分に酒なんか飲ませたのか?<br>
なんで彼女は服を着ていないのか?<br>
なにが駄目なのだ?<br>
彼女の目的はいったいなんだ?<br>
うんしょ、とベッドの上に司が乗る。<br>
スプリングがきしみ、手を突いた箇所のシーツにしわがよる。<br>
視界に水色がちらついて、ベアは、司が身に着けているのが先ほど背中を流したときに着ていたブラジャーではないことに気づく。<br>
当たり前か、風呂に入ったのだから。<br>
「僕、考えたんだけど」<br>
ああ、教えてくれ。<br>
何を考えているのか。<br>
「女としてみてもらうには、まずエッチかなって」<br>
思考回路は停止を通り越してスパークした。<br>
「司……、冗談がきつすぎるぞ」<br>
「僕、本気だもん。ベアだって覚悟しておくって言ったくせに」<br>
ぎしり、とベッドの上の重みが移動する音。<br>
「わかってるのか? 自分がどういうこと言ってるのか」<br>
「ちゃんとわかってるよ」<br>
視界に影がかかって暗くなる。<br>
被さってくる体の、なんと柔らかそうなことか!<br>
「俺がその気になったらどうするんだ」<br>
「その気にさせるためにやってるんじゃん」<br>
「やめてくれ、どうなってもしらんぞ」<br>
「別に平気だってば」<br>
「俺だって男なんだ、理性が切れたらもし嫌だと言っても途中でやめることはできないんだぞ」<br>
「嫌なんて言わないし、やめなくっていいよ」<br>
風呂上りの水とシャンプーとボディソープのにおいがする。<br>
断ち切るようにベアは怒鳴った。<br>
「お前になにをするかわからないんだぞ!!」<br>
「なにかしてくれたほうが嬉しいよ!!」<br>
司も怒鳴った。<br>
「何がいけないの!? 僕はベアにならいいのに!!」<br>
泣きそうになりながら、司はベアの胸に倒れこんだ。<br>
ベアはゆっくり息を吐いた。<br>
天井がとても高く見える。<br>
長年のタバコの煙で薄汚れた天井。<br>
「いいんだな?」<br>
「そんなに何度も言わせないでよ……」<br>
そっと自分の背に回された手を感じて、司は目を閉じた。<br>
ホックをはずそうと、ベアの手が背中を探っている。<br>
下着一枚で湯冷めしたのか、司の身体はひんやりとしていて、それが彼の火照った身体には心地よかった。<br>
「……?」<br>
ホックが――――ない。<br>
あせるベアだったが、くすくすと司の肩が震えているのに気づいた。<br>
「フロントホックだよ、これ……あはは」<br>
「ああ、どうりで……」<br>
司はベアの手をホックに届きやすくするために上半身を起こした。<br>
男の無骨な指が、華奢なレースの下着のホックにかかり、ぷちんとそれをはずす。<br>
ブラジャーが左右に……割れる、といった表現がしっくり来るだろう。<br>
まるで、外側を覆っていた殻が割れて、中から白桃に似た実が弾け出るかのようだった。<br>
セックスなんて久しぶりだった。<br>
もうどうにでもなれ、という気もしていた。<br>
酒の勢いも手伝った。<br>
だから、溺れた。<br>
夢中になった。<br>
ベアは思うさま、司の胸に顔をうずめた。<br>
若い肌はみずみずしくきめ細やかだった。<br>
司の腕が彼の頭を抱え込み、乾ききらず湿った髪をかき乱した。<br>
「あん……あっ、はっ……ふ、ふぁぁああんっ」<br>
果実のような胸をむさぼるうちに、ベアはうっかり歯を立ててしまった。<br>
「いっ……」<br>
「! 悪い!」<br>
「ううん、平気……」<br>
司の顔が、笑っていたのに――それでもどこか寂しそうに見えたのは、気のせいなどではなかった。<br>
「乱暴にしたければ、してもいいよ? ……僕、痛いのは……慣れてるから……」<br>
不審に思った。<br>
いや、以前から疑っていたことが確信になった。<br>
ベアは司を寝かせ、その足から下着を引き抜いた。<br>
「ひゃっ……ベ、ベア?」<br>
ベアはじっと、司の性器とその周りを凝視していた。<br>
太ももの内側にうっすらとだが赤い痕がある。<br>
おそらくはやけどの……あと。<br>
一気に酔いがさめた気分だった。<br>
「タバコか?」<br>
その単語にびくり、と司が反応した。<br>
「やられたのか、父親に」<br>
一瞬にして司の顔から表情が消えうせる。<br>
「……司?」<br>
「……てるときに」<br>
「え?」<br>
「挿れてるときに……押し当てると、僕が痛みで緊張するから……中がしまって……きつくなって、気持ちいいんだって……父さんが……」<br>
「なんてことを」<br>
「ほんとかどうかなんてわからないけど……痛がるのが嬉しかっただけかも、しれないし」<br>
性的虐待。<br>
あの父親を見て、その可能性を考えなかったわけではなかった。<br>
なのに、自分は今いったい何をやっている!?<br>
頭から冷水をざばっと浴びせられたような感じがしていた。<br>
これでは自分も、司の父親と同じだ。<br>
こんな気持ちで彼女を抱く自分は。<br>
何も変わらない。<br>
最低な行為を司にしようとしていた。<br>
「……やめよう」<br>
「ベア?」<br>
今度は司が驚く番だった。<br>
「なんで? 僕、汚い……? 実の父親とやってるような子だから……気持ち悪くて、抱く気なんかしない……?」<br>
「そうじゃない」<br>
「じゃあ、どうして?」<br>
司の目にみるみる涙が盛り上がっていく。<br>
「やっぱり、女として見れないってこと?」<br>
「違う、俺が言いたいのは、もっと自分を大事にしろってことなんだ」<br>
「わかんないよ、そんなの! 僕は、ベアならいいって……そう、言ったじゃないか!」<br>
「司、聞け」<br>
「もういいよ、ベアの馬鹿あっ!!」<br>
司は手近にあった枕をつかむと、思い切りベアの顔に投げつけた。<br>
「うっ!」<br>
視界がふさがった瞬間に、司がベッドから飛び降りた。<br>
ばたばたと部屋から出て行く司を呆然と、ベアは枕を抱えたまま見送ることしかできなかった。<br>
半開きのドアの隙間から、バン、司の部屋のドアが閉まった音が聞こえて、続いてしゃくりあげるような声がかすかに流れてくる。<br>
今はそっとしておこうとベアは思い、布団をひっぱり上げてかぶった。<br>
眠りに落ちるまでずっとその泣き声が聞こえていた気がする。<br>
<br>
<br>
<br>
……次の朝、部屋にも、キッチンにも、どこにも司はいなかった。
2005-12-17T22:25:56+09:00
1134825956
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ベア・司 純愛物③
https://w.atwiki.jp/yukiusa/pages/6.html
ベアはペンを握り、首を振ってため息をつき、耳の後ろを掻いてまた机に向かう、といった動作をずっと繰り返していた。<br>
もちろん原稿はまったく進んでいない。<br>
ふと気づくといつのまにか窓の外は暗くなっていた。<br>
なんだかコーヒーが飲みたくなったので椅子から立ち上がり、キッチンへ行った。<br>
(どういうつもりなんだ)<br>
と彼が思うのはもちろん司のことだった。<br>
冗談にしてはたちが悪い。<br>
だいたいその手の冗談を言うような子だとも思えなかった。<br>
ここのところ――特にこの間買い物に行った後あたりから――なんとなく様子がおかしいことには気づいていたが、特に思い当たる理由もなく、わざわざ訊くのもためらわれていたのだったが。<br>
(ひょっとして本気なのか……?)<br>
司が自分をそういう風に、つまり父親ではなく一人の男としてみていたと、そういうのか。本当に?<br>
コーヒーの香りが辺りに漂う。<br>
司は今何をしているのだろう。<br>
彼女は帰ってきていきなりのあの告白をしてからすぐに自分の部屋へとこもってしまっていた。<br>
カップを少し持ち上げて黒い液体をのどに流し込む。<br>
いろいろと考えるべきことはある気がしたが、同時に、それは考えてもせんのないことだという気もした。<br>
とりあえず向こうの出方を伺ってみようか、とベアは決め、そうすると幾分気が楽になった。<br>
そもそも覚悟しろ、といわれたからとて、自分に何ができるというわけでもなかった。<br>
司が何を思ってこんな行動に出たのか、これからどんな行動に出るのかわからない以上受身で待つしかない。<br>
「風呂にでも入るか」<br>
このときのベアはまだ司を甘く見ていたといっていい。<br>
直後彼は激しくそれを後悔することになる。<br>
風呂場に入ったとたん、コンコン、と風呂場のドアをたたく音がした。<br>
「……」<br>
いや、空耳だろう、おそらく。<br>
まさかそんなことがあるわけないのだから。<br>
しかし彼の耳は今度こそはっきりとした声を聞いてしまった。<br>
「……ベア? 入るよ」<br>
「つ、司っ!?」<br>
自分でも情けないほど声がひっくり返ったと思う。<br>
しかも風呂場なので声が反響してますます情けなかった。<br>
「背中流してあげようと思って」<br>
「っ、いい、必要ない!」<br>
「遠慮しなくていいって。僕うまいんだから、まかせて」<br>
遠慮しているわけではない。<br>
<br>
彼女はすでにTシャツに短パンで準備万端だった。<br>
生足も二の腕も惜しげもなく晒している。<br>
彼女はすでにタオルにボディーソープをつけて泡立てていた。<br>
あっという間に大量の泡が生まれていく。<br>
彼女はすでにベアの後ろに座り込んでいた。<br>
有無を言わせる暇も作ってはもらえずベアはただ流されるままになっている。<br>
<br>
あまりにも手際がよかった、初めてとは思えないほど。<br>
ベアはもんのすごく嫌な予感がした。<br>
……まさか。<br>
「司」<br>
「んーもう、だから気にしなくっていいってば!」<br>
「いや、その」<br>
やっぱこういうのは間違っていると思うぞ。<br>
「それとも信用してないの? 僕、背中流すの得意だよ、よくやってたし」<br>
あのオヤジ……娘になんてことやらせてやがる!!<br>
こぶしを握ったベアの後ろに一瞬稲妻(ベタフラ)の幻が見えた。<br>
そんな背景効果をものともせず司はタオルでベアの背中を洗い始めた。<br>
ここまでくるとベアは完全に止めるタイミングを失ってしまった。<br>
「気持ちいい?」<br>
「あ……ああ」<br>
「でしょ、だから言ったじゃない」<br>
確かに気持ちいい、気持ちいいのだが……<br>
だが、これはなんというか……<br>
昔、編集に無理やり連れて行かれたその手の泡の店のような気分になるのだが。<br>
「ふう」<br>
司が額にかかった髪をかきあげると泡が前髪にくっついた。<br>
「もういいよ」<br>
「まだだよ、ほら次前」<br>
そこまでやらせてたのかあのオヤジは!!<br>
「いや……いいから」<br>
ここは良識ある大人として丁重にお断り申し上げておこうと思う。<br>
「え」<br>
「前はいいから」<br>
「えー、そう?」<br>
司はどうも腑に落ちないらしく渋っていたがようやく諦めてくれたようで、ベアはひとまず息をついた。<br>
「じゃあ……流すね」<br>
「いや自分でできるから」<br>
「もー、ベアは遠慮しすぎ」<br>
だから遠慮じゃないって。<br>
だが、とりあえずこれで危機は乗り切った(なんの危機だか)。<br>
しかし安心した熊さんは自らの手で落とし穴を掘り。<br>
ざば、と自分の体の泡を流したつもりが後ろにいた司にもかけてしまった。<br>
「すまん司、かかったか」<br>
「あ、ほんとだ。びしょびしょになっちゃった」<br>
自らの手で掘った落とし穴にはまり。<br>
「風邪を引かないうちに着替えるんだぞ」<br>
「あ、じゃあちょうどいいから僕も一緒に入る!」<br>
その上から石を投げ落とされるのであった。<br>
「風邪引かないようにあったまれるし、着替えもできるし、一石二鳥だよね」<br>
合掌。<br>
「駄目だ!」<br>
「なんで?」<br>
「なんでって……」<br>
うっ、とベアは言葉に詰まった。<br>
司のTシャツは水に濡れてぴったりと身体に張り付き女性的なラインをくっきりさせ、肌や下着の色も透けて見える。<br>
まともに見てしまったベアは慌てて視線をそらし、水滴のついたタイルの壁を眺めながらなんとか言葉をひねり出そうと試みた。<br>
「司、お前は女の子なんだから、やっぱりこういうのはまずいだろう?」<br>
「好きな人とお風呂はいるのってそんなにいけないこと?」<br>
「あのなぁ、司」<br>
「どうしても……駄目?」<br>
その声があんまりにも悲しげだったので、ついベアは司のほうを見てしまった。<br>
「!!」<br>
司は身体をベアの側によせ、ほとんどくっつくようにして彼に迫った。<br>
つまり彼はまたしても、しかもさっきよりかなりの至近距離で見てしまったわけで。<br>
おまけに余計なこと――このブラジャーは色からしてこの間一緒に出かけたときに買ったやつだ、などということ――までわかってしまったわけで。<br>
この状況でそれでも冷静でいられるほど彼は達観の境地に達してはいなかった。<br>
「ねえ、駄目……?」<br>
「つ、司っ、わかった、わかったから!」<br>
「ほんと!?」<br>
とたんにぱあっと顔を輝かせる司を見て、はめられた、という気がしないでもなかった。<br>
「ただし!」<br>
「ただし?」<br>
「水着を着なさい」<br>
「水着?」<br>
それならまあ、そうおかしいことでもないだろうとベアは考えたのだった。<br>
これは彼にとっての精一杯の妥協案だった。<br>
「それなら入ってもいい」<br>
そう言うベアの条件を司も呑んでくれたようで、<br>
「水着……中学校のならあったと思うけど」<br>
そのとき、ベアのくしゃみが風呂場に響き渡った。<br>
「あ、ベアも風邪引いちゃうよ! 先にお湯につかってて。僕もすぐ着替えてくるから」<br>
あたふたと自分の心配をし、それから慌てて風呂場を出た司を見届けてから、ベアはおもいっきり脱力することになった。<br>
<br>
ベアは湯船につかって一息ついていた。<br>
換気扇が次々に湯気を吸い込んでいくのをぼんやりと眺めていると、<br>
「うぅ~きっついよ……」<br>
しばらくして戻ってきた司の姿を見てベアは衝撃を受けた。<br>
紺色のスクール水着。<br>
それ自体に問題はない、ただ……<br>
サイズだ。<br>
小さいのか、かなりぴちぴちであちこちつっぱっている。<br>
特に、胸回りと、足と足の間が……。<br>
「つ、司? それ――」<br>
「あ、うん……学校のだけど、結構昔に買ったのだからもうだいぶちっちゃいんだよね」<br>
ベアは心の中で叫んだ。<br>
(イメクラかここは!!)<br>
これではさっきより余計にそういうプレイっぽくて妙な雰囲気ではないか。<br>
司はお湯の温度を確かめてからシャワーで身体を流し始めた。<br>
「……♪」<br>
小さく口ずさんでいるそのメロディはなんの曲だったか。<br>
「先に頭洗っちゃおうっと」<br>
シャンプーを手に取り、髪になじませる。<br>
わしゃわしゃとかきまわすように洗っていく、その間も湯気の間に少女の透明な歌声がかすかに流れている。<br>
ベアは極力司のほうを見ないようにしながらも、歌声に耳を傾けていた。<br>
「ねえベア」<br>
突然話しかけられたのでそちらを向くと、司の水着の横から白い乳房が見えて、ベアはぱっとまたあさっての方向を向いて答えた。<br>
「なんだ?」<br>
シャンプーの泡をシャワーですべて流すと、ぷはっと息を吐いて、<br>
「僕も入ろっと」<br>
司は浴槽のふちに足をかけた。<br>
そろそろ学習すればいいもののベアはまたばっちり、つれた水着の、ぱっつんぱっつんな股部分を目にしてしまった。<br>
健全な男の精神衛生上きわめてよろしくないシチュエーションであることは間違いないだろう。<br>
「あの……あのね、僕の気持ち」<br>
ちゃぷんと湯に身体を沈め、窮屈そうに膝を抱えて司は言った。<br>
「ひょっとして、迷惑……だったりとか」<br>
身体が触れないように、ベアは自分もできるだけ端によった。<br>
もともと一人で暮らしていた家の浴槽は大して広くないので、二人分の身体でいっぱいになってしまう。<br>
もちろん自分の大事な部分が司の目に触れないようさりげなく、かつきちんと隠すことも忘れない。<br>
司は自分の足の指をじっと見ている。<br>
「嫌だったり、とか、する……?」<br>
「若くて可愛い女の子に好意を持たれて嫌な気分のするオヤジなんていないさ」<br>
「そういうこと、言ってるんじゃないよ……」<br>
ちゃぷん、と水音がはねた。<br>
「ききたいのはベア個人としての気持ちなのに」<br>
そんな言葉が聞きたいんじゃない。<br>
自分が欲しいのは、そんなことじゃない。<br>
「そうやってごまかすってことは、僕が言ったこと、やっぱり困ってるんだ?」<br>
ベアは答えずに、代わりに問いかけた。<br>
「一人称が“僕”に戻ってるな」<br>
司は隣り合ったベアの肩に自分の肩をわずかにぶつけた。<br>
だって、司も僕だから。<br>
僕は司だから。司は僕だから。<br>
自分を変えるきっかけをくれたものだから。<br>
きちんと、僕を見て欲しいから。<br>
けれどそれも叶わないのだろうか。<br>
彼にとっての自分はいつまでもただの子供でしかないのだろうか?<br>
濡れた髪から水滴が落ちる。<br>
顎の線から首を伝って、水面に到達する。<br>
「僕、ただ好きなだけなのに」<br>
「……」<br>
湯気の昇る先の天井から、雫が一滴、ちょうどベアと司の身体の間に落ちて波紋をおこした。<br>
<br>
ぴちゃん――――<br>
<br>
「つか……」<br>
うつむいてしまった司を気遣うように声をかけようとしたが、ベアの言葉は続かなかった。<br>
司がおもむろに顔を上げたからである。<br>
「よし! 決めた!」<br>
……何を。<br>
「僕頑張るから! ベアが今は僕のこと子供見たいって思ってるんなら、“娘”からちゃんと“一人前の女”として見てもらえるように」<br>
どうやら少女は、具体的にどう頑張るのかきくのがとても怖い決意をしてしまったらしい。<br>
「遠慮しないって言った以上はそうやすやすと諦めないからね」<br>
「……わかった、俺の負けだ。覚悟しておく」<br>
ベアは素直に白旗をあげることにし、司はそれを聞いて嬉しそうににっこり笑うと、<br>
「ところで水着の肩紐のねじれ、直してもらえる? さっきから気持ち悪かったんだけど、自分じゃ上手く治せなくって」<br>
そう言って背中のほうに腕を回し捩れた紐をぴんとつまんだ。<br>
「仕方ないな」<br>
ベアは司の肩にかかったきつそうな紐へと手を伸ばした。<br>
強めに引っ張らないとやりにくそうだな、と考えてそれに従う。<br>
ふと、濡れた髪とその下のうなじ、首筋、それから背中の色が思っていたよりもずっと白い色をしていることに気づいて手元が狂った。<br>
<br>
ぴしり。<br>
<br>
「っ」<br>
紐がゴムで引っ張られて、司の肩をわずかに打った。<br>
「あ、すまん!」<br>
「いいよ、別に。……それより、色気とか感じた?」<br>
「……さあな」<br>
図星だったことは言わないでおこうと思った。<br>
司はくすりと笑った。<br>
「じゃあ僕そろそろあがるね」<br>
もうあがるのなら水着の紐を直す必要などなかったじゃないか、とベアが再びはめられた気分でいた間に、司はざば、と浴槽のふちに手をかけて腰を上げた。<br>
もはやお約束のようにベアの視界に入ってくるその姿。<br>
ぷりりとしたお尻の肉に、ぐいっと水着が食い込んでいる。<br>
浴槽から出るために足をあげたせいで余計にひっぱられて、ぎりぎりのラインが今にも見えてしまいそうだった。<br>
今度、新しい水着でも買いに行ったほうがいいかもしれない、とベアはのぼせかけながら思った。<br>
2005-07-17T01:26:26+09:00
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ベア・司 純愛物②
https://w.atwiki.jp/yukiusa/pages/5.html
自動ドアを通るとちょうど一階にエレベーターが到着したところだった。<br>
次々と人が乗り込んでいくのを見て司は慌ててベアの手を引っ張った。<br>
「ベア、早く早く! いっちゃうよ!」<br>
「その呼び方はやめてくれって」<br>
「だって呼びやすいんだもん」<br>
司は頬を膨らませた。<br>
「あーあ、もたもたしてるから行っちゃった」<br>
「すまん」<br>
「それにベアだってぼ……私のことよく司って呼ぶじゃない」<br>
「すまん」<br>
なかなかこないエレベーターを待ちながら司は言った。<br>
「なんか、さ」<br>
「ん?」<br>
「実感わかないんだ」<br>
「ここが、The Worldの中じゃないってことか?」<br>
「それもちょっとあるけど……こんなに幸せでいいのかなって。<br>
夢だったり、それこそゲームの続きなんじゃないかって」<br>
うつむく寂しそうな横顔にかつての『司』の孤独が垣間見えて、ベアは司にどう声をかけたものか考えた。<br>
「司」<br>
結局うまい言葉が見つからず、仕方なしに彼は司の髪をくしゃりと乱した。<br>
語る言葉のない小説家はただのしがない40男でしかなく、ベアは己の未熟を再認識した。<br>
司はなおもうつむいたまま、黙ってベアの手を受け入れていた。<br>
その頬がうっすらと色を変えていく。<br>
二人の間にいつもとわずかに密度の違う空気が流れたそのとき、ようやくエレベーターの到着を示す電子音がなった。<br>
降りる人の波が去るのを待って乗り込む。<br>
同乗者数人のために「開」ボタンを押してやりながら、ベアは司にたずねた。<br>
「何階だ?」<br>
「えーっと……3階」<br>
全員乗り込んだのを確認して離した指を3階のボタンにのばす。<br>
3階……何売り場だったかな。<br>
そんなことを考えながら周囲に目をやる。<br>
ベビーカーを押している夫婦。<br>
友人同士であろう、中学生くらいの少女三人組み。<br>
腕を組んだ若いカップル。<br>
<br>
じゃあ、自分たちは?<br>
どうなのだろう。どういう風に見えるのだろう。<br>
休日に一緒に買い物に来た仲のよい父親と娘?<br>
『父親』か。<br>
その単語は少しの苦味をベアの心にもたらした。<br>
自分は父親としても夫としても失格したのだ。<br>
<br>
「何ぼうっとしてるの? 着いたよベア」<br>
司に袖を引かれてベアはわれに返った。<br>
またしても司が彼をゲーム内の名で呼んだために、一緒に乗っていた人間たちの怪訝そうな顔が横目に見えた。<br>
「あ、ああ」<br>
だが彼はそのことで司をとがめたりはせず、促されるまま鉄の箱から降りた。<br>
<br>
「何考えてたの?」<br>
「ン――たいしたことじゃない」<br>
「たいしたことじゃないなら教えてくれたっていいじゃない?」<br>
司は頬を膨らませた。<br>
その子供っぽい仕草に、ベアは苦笑しながらも素直に告白する。<br>
「そうだな……俺たちは親子に見えるのかなと考えてたのさ」<br>
その言葉で司の頬は急速にしぼんだ。<br>
「どうした? 何か気に障ることでも言ったか?」<br>
「なんでもない」<br>
そう言って司は笑顔をベアに向けた。<br>
「なら、いいが」<br>
立ち並ぶマネキンの群れをぬって二人は歩いた。<br>
そしてベアは気づいたのだ、前方に見える売り場の名称が何なのか。<br>
ピンクのリボンやら純白のフリルやらが主張するそこは、『下着売り場』だった。<br>
<br>
胴体だけのほの白く光るマネキンが形状記憶合金ワイヤー入りのブラジャーの宣伝のために燦然と自己主張している。<br>
いや、ここはデパートであり、その物を売るという目的上商品のディスプレイに力を入れるのは至極当然で、その軽くて硬い無機物の群像がひときわ目に付くのも当然だ、当然なのだが……<br>
なぜこんなにも自分はうろたえているのだろう。<br>
齢40も越えた、それなりに人生の経験値も稼いできた、それなりに感情のコントロールもできる自分が。<br>
下着売り場自体が恥ずかしいのではない、と思う。<br>
溢れる色の洪水が目に痛いのは認めるし、自分の容貌があまりにもこの場所にそぐわないことも認める。<br>
だがそれは今抱えているどこかいたたまれない気持ちの理由ではない。<br>
「うわー、すごいビラビラしてる」<br>
そんなベアの葛藤をよそに、司は白いワゴンに山と積まれた上下ペアで1000円セールの真っ赤なやつを手にとって眺めている。<br>
「派手すぎ。誰が買うんだろこんなの」<br>
しげしげと見てからワゴンに戻すと、司は今度は黒いレースのパンティーに興味を持ったらしく細かい模様を数え始めた。<br>
「もっとふつーのないのかな」<br>
ね? と無邪気に見上げてくる顔にどう返せばいいのか。<br>
ベアは頬の筋肉に力を入れた。<br>
レジの女性のなんてことのない視線が、今の彼には酷く突き刺さって痛い。<br>
売り子担当であろう清楚なロングヘアーの女性がにこにこと営業スマイルで近寄ってくる。<br>
流石に手馴れたもので、彼女は早速司にいくつかブラジャーを見立てている。<br>
<br>
―― サイズはいくつ?<br>
測ったこと無い……<br>
あら、そう? じゃあ測ってみますか?<br>
え、ここで?<br>
はい。今できますよ。――<br>
<br>
こんな会話を目の前でされた。<br>
……どうしろというのだ。<br>
ベアは完全に蚊帳の外に追いやられた男の身である自分を持て余していた。<br>
そうして視線をその辺にさまよわせているうちに、いつのまにか話はまとまったらしい。<br>
司はベアをちらりと見ると、「待っててね」と言い残して店員と試着室に行ってしまった。<br>
ベアは再び思った。<br>
どうしろというのだ。<br>
この位置ではときおり試着室の中の会話の断片が聞こえてくるではないか。<br>
スポーツブラをもっぱら愛用していたとか、ワイヤーが気持ち悪くて慣れるまで苦手だったとか。<br>
ベアは行き場の無い気持ちのままにそれとなく視線を移すと、レジの女性と目が合ってしまった。<br>
あわてて顔を元の位置に戻す。<br>
やはり彼女も俺を司の父親だと思っているのだろうか。<br>
その場合、彼女の想像はおそらく離婚家庭にたどり着くのだろう。<br>
普通はこういったところへは母親とくるものであり、男親とふたりでくる客は滅多にいないだろうから。<br>
カーテンのジャッと開く音でベアはそちらを向いた。<br>
「B65だって」<br>
「……」<br>
彼は沈黙で返すことしかできない。<br>
「あのね、トップとアンダーの差が13ぐらいだとBなんだって」<br>
「……そうか」<br>
今度ははっきりと店員のくすくす笑う声が聞こえた。<br>
司はなおもベアに話しかけようとして気づいた。<br>
……ひょっとして、照れてる?<br>
「15だとCなんだけど。2センチしか違わないのに」<br>
「……ああ」<br>
「はやくおっきくなんないかなぁ。今度から家で定期的に測ってみようかな」<br>
「……」<br>
「ねえ、メジャーって置いてある?」<br>
「確かあったと思うが」<br>
「こう、下から少し持ち上げて測るのが正しい測り方なんだって、店員さんが教えてくれたんだ。<br>
ベアは知ってた?」<br>
「……いや」<br>
「そうだよね、だいたいの男の人は知らないよね。<br>
でね、二人で測るんだって。だからベア、測るときは手伝ってくれる?」<br>
<br>
絶句。<br>
<br>
そうする以外に彼に何ができただろう?<br>
硬直しているベアの耳に届いた麻痺治しの呪文は、司の噴出す音だった。<br>
「あはは! ベアってば顔固まってるよー」<br>
司はそういってぺろりと舌を出した。<br>
それでようやくベアも思い至った。<br>
「……からかったな」<br>
「えー、なんのこと?」<br>
こいつめ。<br>
ベアはらしくもなく狼狽した自分を恥じ……、というよりは呆れ、同時に司の微妙な変化を好ましくも思った。<br>
それはおそらく昴やミミルといった同年代の少女たちに与えられた力のおかげ。<br>
そういった意味では、THE WORLDをプレイしたことは司にとって良かったのかもしれない。<br>
司は屈託無く笑う。<br>
その姿には、かつてゲームの中で見せたなにもかもをあきらめたような、なげやりな暗い影はない。<br>
ベアは気づかなかった。<br>
その影に光を投じ、司の目に輝きを取り戻させた出会いの中に、自分も含まれているということを。<br>
だからこそ司は、嬉しいと感じるのと同じスピードで、実は傷ついているのだ。<br>
それは司が、彼にしてみれば自分を引き取ったのは『父親』としての贖罪の意味しかないと知っているから。<br>
自分の役割は『娘』でなければいけない。彼の『子供』でなければ。<br>
気づかれてはいけないのだ。<br>
彼が自分を引き取るといってくれてからほのかに芽生え始め、しかし確実にふくらみ続けてきたこの胸の花に。<br>
けれど同時に――――いっそ、気づいてくれたら良いのに――――とも、思ってしまうのも事実だった。<br>
そうすればわずかにでも、このつらさも払拭されるような気がするのだ。<br>
もちろん本心では、そんなことはないのもちゃんとわかっている。<br>
きっとそんなことになればもう今のような関係ではいられない、<br>
あの家にある微妙な雰囲気は崩壊し、ただ気まずさだけを残して司はまたひとつの痛みを得るのみだ。<br>
……言えないよ。<br>
やっと手に入れた居場所を失うということは、たった一言に対して負うにしては大きすぎるリスクだった。<br>
<br>
司は水色のブラジャーとショーツを手に取ると、<br>
「色がきれいだし、これがいいなぁ。どう思う?」<br>
などと、ベアがまた面食らうだろうことを予想したうえで意見を求めてみる。<br>
小首をかしげた上目遣いのおまけ付。<br>
「こういうの好き? 嫌い?」<br>
私のこと好き? それとも――嫌い?<br>
はっきりそうとは問えないから。<br>
「…………」<br>
一方ベアはそんなふうなことを訊かれても返答に窮するわけで。<br>
だってそうだろう。<br>
そりゃあ自分も男だ。<br>
40を過ぎ、妻とは別れたとはいえ枯れるにはまだ早い年齢だ。<br>
女性の下着を好きか嫌いかと問われれば、まあ嫌いではない。<br>
しかし。<br>
しかしだ。<br>
<br>
自分は男でしかも少女とは30ほども歳が離れていて、<br>
先ほどから挙動不審気味に少女に翻弄されていて、<br>
今の状況は『休日に買い物に来た父と娘』ではなく、『援助交際のパパと女学生』に見えるのではないかと。<br>
思い至ってしまった彼は体に余計な力が入って硬直した。<br>
「……」<br>
「……?」<br>
あれ? ベアの様子、へん。<br>
石になってしまった小説家を救うべく、司は小悪魔な追及をぴたと止めた。<br>
<br>
司が突然ベアをからかうのをやめたのも。<br>
ベアがいらぬ心配をして少々普段の彼らしくなかったのも。<br>
そんな二人がどういうふうに販売員の目に映っていたのかということも。<br>
それら全てが偶然絡まりあってその事態は生まれてしまった。<br>
いってみればタイミングが悪かった。悪すぎた。<br>
悪すぎて、だから……、――――後悔しても遅かったけれど。<br>
「娘さんと仲がよろしいんですね」と笑顔で言った店のお姉さんには悪気なんてこれっぽっちもなくて、なかったのに、<br>
それなのに司の胸が痛んだのは、続くベアの一言のせいだった。<br>
「あ……はは、そうなんですよ」<br>
なんで。<br>
……なんで?<br>
(僕、ベアの娘じゃないよ!!)<br>
そう叫んで泣き出して、その場から走り去ってしまえたらどんなにか良かっただろうに。<br>
つらいよ。<br>
どうしてこんなにつらいんだろ。<br>
ああ、そっか。<br>
僕、やっぱり、ベアのこと……。<br>
司は『僕』であったころの『司』に戻ったかのように、傷ついた身体を小さく丸めてうずくまってしまっていた。<br>
「司?」<br>
「……」<br>
きゅうにしゃがんでしまった司を気遣うようにベアが声をかける。<br>
「疲れたのか?」<br>
「……うん」<br>
「そうか。じゃあ今日はもうやめにして帰ろう……家で休め」<br>
「……うん」<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
次の休み。<br>
司はファーストキッチン、通称ファッキン(なんとも物騒な略語だ)にいた。<br>
テーブルの上には季節限定デザートのイチゴミルフィーユパフェが載ったトレーがふたつ。<br>
その向かいには制服の女子高生。<br>
ミミルはスプーンで上のアイスクリームをすくうとぱくりと一口食べた。<br>
「くぅ~、おいし」<br>
司は彼女があんまりおいしそうに食べるのでつられて笑顔になり、自分もスプーンを口に運んだ。<br>
「でぇ、どうよ司」<br>
「どうって何が?」<br>
興味津々、といったふうに目をきらきらさせて身を乗り出してくるミミルに司は若干たじろいで言葉を返した。<br>
「決まってんじゃん。新しい生活よ、ベアとの。もう慣れた? あのおっさんに変なことされたりしてない?」<br>
「……ああ」<br>
いっそ変なことでもしてくれればこっちは嬉しいのに。<br>
「よくしてくれるよ、すごく……」<br>
父親として。<br>
「へえ、そっかぁ。安心した」<br>
「ありがとミミル、心配、してくれて」<br>
「いえいえ」<br>
ミミルのパフェはもうほとんどなくなってしまっていた。<br>
司はふと、思いついたようにミミルにたずねた。<br>
「ねぇ、ミミル」<br>
「ん?」<br>
「ミミルってさあ、彼氏……いる?」<br>
「な、なに言ってんのよー! い、いないよそんなの」<br>
「そうなんだ、じゃあ、好きな人は?」<br>
「う? うー、う~ん……ちょっちいいかなぁって思ってる人は、まぁ」<br>
「ふーん……」<br>
司のパフェもだいぶ食べ終わってきた。<br>
下のほうのコーンフレークがスプーンに触れてさくさくと音を立てる。<br>
「あたしのことより、司のほうこそどうなの?」<br>
「え?」<br>
「好きなヒト。いないの?」<br>
「うん……いる、と思う」<br>
さくり。<br>
「えっ! どんな人!?」<br>
先ほどより身をずずずいっと乗り出してミミルは司に迫った。<br>
「かっこいい? どんなタイプ? 誰に似てるの?」<br>
「ベア」<br>
「……へ?」<br>
ミミルの目が点になった。<br>
「へ、へー。ベアに似てるんだ。渋好みなんだねぇ司……」<br>
「ううん、そうじゃなくて。ベアに似てるんじゃなくて、ベアなの」<br>
そう言うと司は最後の一口を口に入れると席を立った。<br>
「ごめんミミル、僕もうそろそろいかないと」<br>
「あ、うん」<br>
「じゃあまたね、今日はありがと」<br>
司が階段を降りていってしまっても、ミミルはまだ夢でも見ているかのようにぼーっとしていた。<br>
「え?」<br>
今司はなんて言った。<br>
「……え?」<br>
司が。<br>
ベアを。<br>
「…………え?」<br>
<br>
――好き。<br>
<br>
「なんですとぉ~っ!?」<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
<br>
階段を上りながら、司はあのゲームの中を思い出す。<br>
<br>
さわさわ、さわさわ。<br>
髪が風になぶられて。<br>
二人は肩を寄せ合って座っていた。<br>
風の清々しさも、ぶつかる肩の温かさも、ゲームの中のことなのに、自分にとっては現実で。<br>
でも、彼女の体温を感じていられるなら、この特殊な状況はそんなに悪いことばかりでもなかったと、ちらり思った。<br>
<br>
(必要なのは、“勇気”です)<br>
――勇気?<br>
(人からの受け売りなのですが……)<br>
――ああ、クリム? いかにも言いそうだね、そういうこと。<br>
(けれど、私はその言葉のおかげで自分が為すべき事を為せたのだと思います)<br>
――昴。<br>
(一歩踏み出せる勇気さえあれば、さっきとは少し違った景色を見ることができる。<br>
リアルでは自分の足で踏み出すことの出来なかった私が言うのもなんですが……)<br>
――違った景色……。<br>
(司。あなたは強い。ただ、自分の中にある勇気に気づいていないだけ――)<br>
――僕の中にあるかな。こんな僕の中にも、勇気が。<br>
(あります。だって、私には見えるから。あなたの心に触れたとき、私にはわかったんです)<br>
<br>
ありがとう、昴。<br>
必要なのは勇気。<br>
今のままじゃだめなんだ。<br>
玄関を開けて、今の景色を変えるために、一歩。<br>
心臓がものすごくばくばくいっていたけれど、司はためらったりしなかった。<br>
「ああ、司。おかえり」<br>
「ただいま。あ、そうだベア、ミミルがよろしくって」<br>
「ミミルか。元気だったか?」<br>
「うん、『ちょー元気』だって」<br>
「ははは、そうか」<br>
「でね、僕」<br>
息を吸って、精一杯踏み出す告白を、した。<br>
「ベアが好きだって、ミミルに言っちゃった」<br>
「……なんだって?」<br>
ベアは信じられないものを聞いた、といった顔をした。<br>
「僕、ベアが好きなの。もう遠慮しないから、覚悟してね」<br>
ご丁寧に指まで突きつけて、宣戦布告をする。<br>
勝負はこれからだった。
2005-07-17T01:25:56+09:00
1121531156
-
メニュー
https://w.atwiki.jp/yukiusa/pages/2.html
[[テンプレ]]
SS保管庫
-.hack//sign
[[ベア・司 純愛物①]] 水色時計
[[ベア・司 純愛物②]]
[[ベア・司 純愛物③]]
[[ベア・司 純愛物④]]
[[ベア・司 純愛物⑤]]
[[ベア・司 純愛物⑥]]
[[ベア・司 純愛物⑦]]
[[ベア・司 純愛物⑧]]
[[ベア・司 純愛物⑨]]
2005-07-17T01:18:06+09:00
1121530686
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ベア・司 純愛物①
https://w.atwiki.jp/yukiusa/pages/4.html
<p>第1話</p>
<p>
覚醒と同時に、まだ見慣れぬ天井が真っ先に目に映った。<br>
「あふ……ん、んんん~…」<br>
手を真上に思い切りあげて、まるで猫のようにうんと背伸びをする。<br>
枕元の小さな小さな天使の羽のついた目覚まし時計は、少女の『同居人』が、ここに来た初めの日に一緒に大型デパートに買い物に行ったときに可愛くてじっと見ていたら買ってくれたものだった。<br>
「昴の羽に似てるな」<br>
そう言って、遠慮する自分の頭を優しく撫でて、山と積まれた商品を前に忙しそうなレジに、「これも」と一緒に出してくれた。<br>
なんだかとってもくすぐったかった。<br>
「女の子だから色々必要だろうが、生憎今日はこれ以上荷物を持てそうに無い。すまないな、当分暮らし辛いかも知れない」<br>
両手いっぱいに買い物袋やら、箱やらを抱えて同居人は言う。<br>
「そんな……そんなことない! とっても嬉しい!」<br>
自分でも少し荷物を持ちながら、少女は今どれだけ嬉しいか伝えようと、首をふるふると振った。<br>
「ありがとう、ベア」<br>
以前の『司』だったら、こんなに素直にお礼なんて言えなかっただろう。<br>
でも今は、若干の照れはあるものの、きちんと表現できる。<br>
「……その呼び方はちょっと」<br>
「あ、ごめんなさい。でもなんか慣れちゃって」<br>
ついうっかり、THE WORLD内での呼称が口をつく。<br>
現実世界に戻ってきてからもまだ感覚が抜け切らないのは、それだけあの世界の存在感が生々しかったからだ。</p>
<p>ここにいるのが本当のボク……ううん、わたし。</p>
<p>
柔らかな布団にお別れを告げて、少女――『司』はベッドから降りた。<br>
部屋の壁にかかっている服を着た黒いハンガーをとり、オレンジのチェックのパジャマのボタンを上からひとつずつはずして、服に袖を通す。<br>
この部屋に越してきたあの日、『ベア』にここが今日から君の城だと言われた。<br>
あのときは気障な言い方だったとお互い笑ったものの、今は司自身本当にこの場所を自分の城のように思っていた。</p>
<p>今日は日曜日、学校は休みだ。<br>
窓のカーテンを開けて天気を確認する。<br>
この間の買い物の続きをすることになっていた。<br>
あの家から持ってきた荷物もあるにはあったが、生活するには圧倒的に足りなかった。<br>
それは、成長期の少女などはあちこちのサイズがすぐ変わるのに、司の父親がそういった配慮など最初からしていなかったせいもある。</p>
<p>リビングを覗くと、ベアはいなかった。<br>
まだ寝てるのかな。<br>
半分本に埋まったような彼の部屋は古臭いようなどこか懐かしい独特の香りに包まれていて、司は好ましく思っていた。<br>
そっとドアを開けると、案の定彼は寝ていたが、それはベッドではなく書きかけの紙が開いてある机のほうだった。<br>
突っ伏したまま眠る彼に司は近づいて、一瞬起こそうかどうか迷ったが、ベッドの上から毛布を一枚取ると彼の肩にそっとかけた。</p>
<p>
もう充分、こんなによくしてもらっているんだから、ぼ……わたしのためにこれ以上迷惑をかけることなんて無い。</p>
<p>きっとベアも疲れてるんだ。<br>
じゃあ、今日はわたしがご飯作ってあげよう。<br>
司はベアの部屋を出るとキッチンへ向かった。<br>
冷蔵庫から卵を取り出したり、鍋をガスコンロにかけたり、朝食の支度をはじめた。<br>
とんとんと野菜を切る音が部屋に響く。<br>
「なんか、新婚さんみたい」<br>
ふとそう思ってなにげなく口に出したのだが、言ってから自分で気づいて赤くなる。<br>
味噌汁の香が漂い始めた。<br>
沸騰しかけたそれの火を慌てて止める。<br>
ご飯は昨日炊いたものをレンジで温めた。<br>
それら全てをテーブルに並べてしまってから、もう一度司はベアを起こしに行った。</p>
<br>
<p>一方ベアは鼻腔をくすぐる匂いで目を覚ました。<br>
妻と別れてからは寝ているときに嗅いだことなど無かったはずの匂いだ。<br>
「ん……あ? あ――」<br>
額を抑えて頭を軽く降る。<br>
はめっぱなしの腕時計を確認すると、針はすでに9時をだいぶ回っていた。<br>
10時半には出かけると言っていたのに。<br>
「まずい寝過ごした!」<br>
慌てて椅子から立ち上がると、肩にかかっていた毛布がぱさりと落ちた。<br>
ベアはそのとき初めて自分が毛布をかぶっていたことに気づいた。<br>
「あ、起きた?」<br>
折しもその毛布を彼にかけた少女がドアの向こうから顔を覗かせる。<br>
「ちょうど良かった」<br>
はにかむように笑うその顔を見ながらベアは言った。<br>
「すまん、急いで支度する」<br>
「ゆっくりでいいよ?」<br>
「そういうわけにはいかない」<br>
ベアは服を取り出そうとクローゼットを開けたが、気まずそうに司のほうを見た。<br>
「その……着替えるから、出てくれないか」<br>
司は一瞬きょとんとした表情を見せたが、<br>
「えっ? あ、ああ! わかった、待ってるね」<br>
パタンとドアが閉まってから、小さな息とともにベアはつぶやいた。<br>
「どうもやりにくいなこういうのは……」</p>
<br>
<p>「うん、美味いよ」<br>
「ほんと!」<br>
冷めかけの味噌汁をすする。<br>
期待と不安に胸膨らませる少女、という風の司にベアが感想を告げると司の顔がぱっと輝いた。<br>
「へへ、良かったぁー」<br>
ベアはその顔に一瞬どきりとさせられたが、そんな自分を隠しいつもの冷静な大人の顔を取り戻す。<br>
「やっぱり娘はいいな」<br>
誉めたつもりだったが、途端に司は顔をわずかだが曇らせた。<br>
食卓の白米は時間を経て温もりを失っていた。<br>
「娘……か」<br>
おや、とベアは少し引っかかったが話題を変えた。<br>
「やはり少し予定より遅れそうだな。すまん」<br>
「ううん、気にしないで! 疲れてるんだからしょうがないよ」<br>
司は手を振ると、玉子焼きに箸をつけた。<br>
(ちょっと焦げちゃったかな……)<br>
炎が強すぎたのだ。<br>
燃える火は、加減が難しいものだから――。</p>
2005-07-17T01:12:16+09:00
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2005-07-17T00:37:07+09:00
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