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ベア・司 純愛物③

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
ベアはペンを握り、首を振ってため息をつき、耳の後ろを掻いてまた机に向かう、といった動作をずっと繰り返していた。
もちろん原稿はまったく進んでいない。
ふと気づくといつのまにか窓の外は暗くなっていた。
なんだかコーヒーが飲みたくなったので椅子から立ち上がり、キッチンへ行った。
(どういうつもりなんだ)
と彼が思うのはもちろん司のことだった。
冗談にしてはたちが悪い。
だいたいその手の冗談を言うような子だとも思えなかった。
ここのところ――特にこの間買い物に行った後あたりから――なんとなく様子がおかしいことには気づいていたが、特に思い当たる理由もなく、わざわざ訊くのもためらわれていたのだったが。
(ひょっとして本気なのか……?)
司が自分をそういう風に、つまり父親ではなく一人の男としてみていたと、そういうのか。本当に?
コーヒーの香りが辺りに漂う。
司は今何をしているのだろう。
彼女は帰ってきていきなりのあの告白をしてからすぐに自分の部屋へとこもってしまっていた。
カップを少し持ち上げて黒い液体をのどに流し込む。
いろいろと考えるべきことはある気がしたが、同時に、それは考えてもせんのないことだという気もした。
とりあえず向こうの出方を伺ってみようか、とベアは決め、そうすると幾分気が楽になった。
そもそも覚悟しろ、といわれたからとて、自分に何ができるというわけでもなかった。
司が何を思ってこんな行動に出たのか、これからどんな行動に出るのかわからない以上受身で待つしかない。
「風呂にでも入るか」
このときのベアはまだ司を甘く見ていたといっていい。
直後彼は激しくそれを後悔することになる。
風呂場に入ったとたん、コンコン、と風呂場のドアをたたく音がした。
「……」
いや、空耳だろう、おそらく。
まさかそんなことがあるわけないのだから。
しかし彼の耳は今度こそはっきりとした声を聞いてしまった。
「……ベア? 入るよ」
「つ、司っ!?」
自分でも情けないほど声がひっくり返ったと思う。
しかも風呂場なので声が反響してますます情けなかった。
「背中流してあげようと思って」
「っ、いい、必要ない!」
「遠慮しなくていいって。僕うまいんだから、まかせて」
遠慮しているわけではない。

彼女はすでにTシャツに短パンで準備万端だった。
生足も二の腕も惜しげもなく晒している。
彼女はすでにタオルにボディーソープをつけて泡立てていた。
あっという間に大量の泡が生まれていく。
彼女はすでにベアの後ろに座り込んでいた。
有無を言わせる暇も作ってはもらえずベアはただ流されるままになっている。

あまりにも手際がよかった、初めてとは思えないほど。
ベアはもんのすごく嫌な予感がした。
……まさか。
「司」
「んーもう、だから気にしなくっていいってば!」
「いや、その」
やっぱこういうのは間違っていると思うぞ。
「それとも信用してないの? 僕、背中流すの得意だよ、よくやってたし」
あのオヤジ……娘になんてことやらせてやがる!!
こぶしを握ったベアの後ろに一瞬稲妻(ベタフラ)の幻が見えた。
そんな背景効果をものともせず司はタオルでベアの背中を洗い始めた。
ここまでくるとベアは完全に止めるタイミングを失ってしまった。
「気持ちいい?」
「あ……ああ」
「でしょ、だから言ったじゃない」
確かに気持ちいい、気持ちいいのだが……
だが、これはなんというか……
昔、編集に無理やり連れて行かれたその手の泡の店のような気分になるのだが。
「ふう」
司が額にかかった髪をかきあげると泡が前髪にくっついた。
「もういいよ」
「まだだよ、ほら次前」
そこまでやらせてたのかあのオヤジは!!
「いや……いいから」
ここは良識ある大人として丁重にお断り申し上げておこうと思う。
「え」
「前はいいから」
「えー、そう?」
司はどうも腑に落ちないらしく渋っていたがようやく諦めてくれたようで、ベアはひとまず息をついた。
「じゃあ……流すね」
「いや自分でできるから」
「もー、ベアは遠慮しすぎ」
だから遠慮じゃないって。
だが、とりあえずこれで危機は乗り切った(なんの危機だか)。
しかし安心した熊さんは自らの手で落とし穴を掘り。
ざば、と自分の体の泡を流したつもりが後ろにいた司にもかけてしまった。
「すまん司、かかったか」
「あ、ほんとだ。びしょびしょになっちゃった」
自らの手で掘った落とし穴にはまり。
「風邪を引かないうちに着替えるんだぞ」
「あ、じゃあちょうどいいから僕も一緒に入る!」
その上から石を投げ落とされるのであった。
「風邪引かないようにあったまれるし、着替えもできるし、一石二鳥だよね」
合掌。
「駄目だ!」
「なんで?」
「なんでって……」
うっ、とベアは言葉に詰まった。
司のTシャツは水に濡れてぴったりと身体に張り付き女性的なラインをくっきりさせ、肌や下着の色も透けて見える。
まともに見てしまったベアは慌てて視線をそらし、水滴のついたタイルの壁を眺めながらなんとか言葉をひねり出そうと試みた。
「司、お前は女の子なんだから、やっぱりこういうのはまずいだろう?」
「好きな人とお風呂はいるのってそんなにいけないこと?」
「あのなぁ、司」
「どうしても……駄目?」
その声があんまりにも悲しげだったので、ついベアは司のほうを見てしまった。
「!!」
司は身体をベアの側によせ、ほとんどくっつくようにして彼に迫った。
つまり彼はまたしても、しかもさっきよりかなりの至近距離で見てしまったわけで。
おまけに余計なこと――このブラジャーは色からしてこの間一緒に出かけたときに買ったやつだ、などということ――までわかってしまったわけで。
この状況でそれでも冷静でいられるほど彼は達観の境地に達してはいなかった。
「ねえ、駄目……?」
「つ、司っ、わかった、わかったから!」
「ほんと!?」
とたんにぱあっと顔を輝かせる司を見て、はめられた、という気がしないでもなかった。
「ただし!」
「ただし?」
「水着を着なさい」
「水着?」
それならまあ、そうおかしいことでもないだろうとベアは考えたのだった。
これは彼にとっての精一杯の妥協案だった。
「それなら入ってもいい」
そう言うベアの条件を司も呑んでくれたようで、
「水着……中学校のならあったと思うけど」
そのとき、ベアのくしゃみが風呂場に響き渡った。
「あ、ベアも風邪引いちゃうよ! 先にお湯につかってて。僕もすぐ着替えてくるから」
あたふたと自分の心配をし、それから慌てて風呂場を出た司を見届けてから、ベアはおもいっきり脱力することになった。

ベアは湯船につかって一息ついていた。
換気扇が次々に湯気を吸い込んでいくのをぼんやりと眺めていると、
「うぅ~きっついよ……」
しばらくして戻ってきた司の姿を見てベアは衝撃を受けた。
紺色のスクール水着。
それ自体に問題はない、ただ……
サイズだ。
小さいのか、かなりぴちぴちであちこちつっぱっている。
特に、胸回りと、足と足の間が……。
「つ、司? それ――」
「あ、うん……学校のだけど、結構昔に買ったのだからもうだいぶちっちゃいんだよね」
ベアは心の中で叫んだ。
(イメクラかここは!!)
これではさっきより余計にそういうプレイっぽくて妙な雰囲気ではないか。
司はお湯の温度を確かめてからシャワーで身体を流し始めた。
「……♪」
小さく口ずさんでいるそのメロディはなんの曲だったか。
「先に頭洗っちゃおうっと」
シャンプーを手に取り、髪になじませる。
わしゃわしゃとかきまわすように洗っていく、その間も湯気の間に少女の透明な歌声がかすかに流れている。
ベアは極力司のほうを見ないようにしながらも、歌声に耳を傾けていた。
「ねえベア」
突然話しかけられたのでそちらを向くと、司の水着の横から白い乳房が見えて、ベアはぱっとまたあさっての方向を向いて答えた。
「なんだ?」
シャンプーの泡をシャワーですべて流すと、ぷはっと息を吐いて、
「僕も入ろっと」
司は浴槽のふちに足をかけた。
そろそろ学習すればいいもののベアはまたばっちり、つれた水着の、ぱっつんぱっつんな股部分を目にしてしまった。
健全な男の精神衛生上きわめてよろしくないシチュエーションであることは間違いないだろう。
「あの……あのね、僕の気持ち」
ちゃぷんと湯に身体を沈め、窮屈そうに膝を抱えて司は言った。
「ひょっとして、迷惑……だったりとか」
身体が触れないように、ベアは自分もできるだけ端によった。
もともと一人で暮らしていた家の浴槽は大して広くないので、二人分の身体でいっぱいになってしまう。
もちろん自分の大事な部分が司の目に触れないようさりげなく、かつきちんと隠すことも忘れない。
司は自分の足の指をじっと見ている。
「嫌だったり、とか、する……?」
「若くて可愛い女の子に好意を持たれて嫌な気分のするオヤジなんていないさ」
「そういうこと、言ってるんじゃないよ……」
ちゃぷん、と水音がはねた。
「ききたいのはベア個人としての気持ちなのに」
そんな言葉が聞きたいんじゃない。
自分が欲しいのは、そんなことじゃない。
「そうやってごまかすってことは、僕が言ったこと、やっぱり困ってるんだ?」
ベアは答えずに、代わりに問いかけた。
「一人称が“僕”に戻ってるな」
司は隣り合ったベアの肩に自分の肩をわずかにぶつけた。
だって、司も僕だから。
僕は司だから。司は僕だから。
自分を変えるきっかけをくれたものだから。
きちんと、僕を見て欲しいから。
けれどそれも叶わないのだろうか。
彼にとっての自分はいつまでもただの子供でしかないのだろうか?
濡れた髪から水滴が落ちる。
顎の線から首を伝って、水面に到達する。
「僕、ただ好きなだけなのに」
「……」
湯気の昇る先の天井から、雫が一滴、ちょうどベアと司の身体の間に落ちて波紋をおこした。

ぴちゃん――――

「つか……」
うつむいてしまった司を気遣うように声をかけようとしたが、ベアの言葉は続かなかった。
司がおもむろに顔を上げたからである。
「よし! 決めた!」
……何を。
「僕頑張るから! ベアが今は僕のこと子供見たいって思ってるんなら、“娘”からちゃんと“一人前の女”として見てもらえるように」
どうやら少女は、具体的にどう頑張るのかきくのがとても怖い決意をしてしまったらしい。
「遠慮しないって言った以上はそうやすやすと諦めないからね」
「……わかった、俺の負けだ。覚悟しておく」
ベアは素直に白旗をあげることにし、司はそれを聞いて嬉しそうににっこり笑うと、
「ところで水着の肩紐のねじれ、直してもらえる? さっきから気持ち悪かったんだけど、自分じゃ上手く治せなくって」
そう言って背中のほうに腕を回し捩れた紐をぴんとつまんだ。
「仕方ないな」
ベアは司の肩にかかったきつそうな紐へと手を伸ばした。
強めに引っ張らないとやりにくそうだな、と考えてそれに従う。
ふと、濡れた髪とその下のうなじ、首筋、それから背中の色が思っていたよりもずっと白い色をしていることに気づいて手元が狂った。

ぴしり。

「っ」
紐がゴムで引っ張られて、司の肩をわずかに打った。
「あ、すまん!」
「いいよ、別に。……それより、色気とか感じた?」
「……さあな」
図星だったことは言わないでおこうと思った。
司はくすりと笑った。
「じゃあ僕そろそろあがるね」
もうあがるのなら水着の紐を直す必要などなかったじゃないか、とベアが再びはめられた気分でいた間に、司はざば、と浴槽のふちに手をかけて腰を上げた。
もはやお約束のようにベアの視界に入ってくるその姿。
ぷりりとしたお尻の肉に、ぐいっと水着が食い込んでいる。
浴槽から出るために足をあげたせいで余計にひっぱられて、ぎりぎりのラインが今にも見えてしまいそうだった。
今度、新しい水着でも買いに行ったほうがいいかもしれない、とベアはのぼせかけながら思った。

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