hanrei @Wiki H17. 7.28 広島高等裁判所 平成16年(う)第183号 広島市暴走族追放条例違反被告事件



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判示事項の要旨:
広島市暴走族追放条例違反被告事件について,同条例19条,17条,16条1項1号の各規定は,憲法31条,21条1項に違反しているため,無効であるから,被告人に対して本件各規定を適用した原判決には,判決に及ぼす法令適用の誤りがあるとした被告人からの控訴に対して,同条例の上記各規定は憲法21条1項,31条に違反するとはいえないとして控訴を棄却した事案


                    主           文
        本件控訴を棄却する。
               理        由
第1 控訴趣意及び答弁
   本件控訴の趣意は,弁護人田中千秋作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官尾知山明作成の答弁書に,それぞ れ記載されたとおりであるから,これらを引用する。
   論旨は,広島市暴走族追放条例(平成14年条例第39号。以下「本条例」という。)19条,17条,16条1項1号 の各規定(以下「本件各規定」という。)は,憲法31条,21条1項に違反しているため,無効であるから,被告人に対して本件各規定を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りがある,というのである。
   そこで,記録を精査して,判断を加えることとする。
第2 本条例制定の経緯等,本条例の規定内容及び本件犯行状況等
 1 本条例制定の経緯等
  (1) 広島市中区内の繁華街をいわゆる歩行者天国にして行われていた広島市の三大祭りの一つとされる胡子神社の大祭「えびす講」の最終日である平成11年11月20日午後8時ころから,同区内の中央通り周辺の公園等に100人以上のいわゆる暴走族集団が現れ,その周囲に数百人の野次馬が集まり,午後9時過ぎには,車両の通行が禁止されている中央通り交差点を旗を持つ等した暴走族集団が占拠して円陣を組む等したため,警戒中の広島県警察本部(以下「県警」という。)側が拡声器を使用して現場から退去するように警告したところ,暴走族集団から瓶や缶が投げ付けられたため,これを規制しようとした県警機動隊隊員らともみ合いとなり,午後10時過ぎに,県警において,中央通りの車両通行止めを解除し,混乱を収拾しようとした際,付近にいた暴走族集団が暴徒化し,投げられた瓶が飛び交うなどして混乱が拡大化した結果,3人が負傷して救急車で搬送され,約80人が逮捕される事態となり,このことは全国的にも広く報道された。
  (2) このような事態の発生を受けて,同年12月21日,広島県暴走族追放の促進に関する条例(平成11年条例第39号。以下「県条例」という。)が制定され,平成12年4月1日施行されたが,県条例9条において,「公園,駐車場,空き地その他の場所で,暴走族が暴走行為をする際に常習的に集合する場所の管理者は,暴走族の集合を禁じる旨を掲示するなど暴走族を集合させないための措置を講じるよう努めるものとする。」と規定したものの,県条例には,暴走族のい集,集会自体を禁止したり,刑罰を科す規定は設けられなかった。なお,県条例11条は,暴走族追放の促進のため,県に基本方針の策定を義務づけているところ,「暴走族の追放の促進に関する基本方針」(平成12年6月26日付け広島県告示第650号)は,「本県の暴走族は,平成11年の胡子大祭における傍若無人な行動に象徴されるように,凶悪化・粗暴化が進行し,その背後には暴力団が存在するなど,大きな社会問題となっている。」として,上記(1)記載の事件を契機として,県条例が制定されたことを明らかとしている。
  (3) しかし,広島市,大竹市,廿日市市,佐伯郡大野町,安芸郡府中町,海田町等の広島市域の暴走族は,県条例が施行された後も,毎週土曜日の夜,暴走族集団に属する者特有の服装であるいわゆる特攻服を着用して,広島市中区新天地8番広島市西新天地公共広場(通称アリスガーデン。以下「本件広場」という。)のほか,同区内の袋町公園等に集まり,旗を掲げて円陣を組み,大声を出して自己紹介を行い,これに呼応して参加者全員が大声を出す,「声出し」と称する行為を繰り返しており,平成13年2月ころからは,同区内の広島市平和記念公園内の原爆慰霊碑周辺においても,同様の集まりを行うようになった。さらに,広島市の三大祭りとされる5月のフラワーフェスティバル,6月のとうかさん大祭,11月の胡子大祭の際には,特攻服を着用して,会場内を示威行進することを繰り返しており,例えば,3日間に及ぶ胡子大祭に際しては,平成12年が延べ70グループ,746人,平成13年が延べ64グループ,632人の暴走族集団が,本件広場や袋町公園に集まり,特攻服のほか,覆面等を着用して,18歳に達した者の「引退式」と称する集まりを行い,平成13年の3日間のフラワーフェスティバルに際しては,延べ53グループ,418人の暴走族集団が6年ぶりに特攻服を着用して現れ,上記原爆記念碑前の芝生内で旗を中心に円陣を組んだり,会場内を示威行進し,3日間に及ぶとうかさん大祭に際しては,平成12年が延べ44グループ,390人,平成13年が延べ72グループ,649人の暴走族集団が特攻服を着用して,会場となる中央通りに近い本件広場,袋町公園等に集まるなどしていた。
  (4) 本件広場は,広島市中区内の繁華街に位置しており,道路を挟んで,広島市名物のお好み焼きを提供する「お好み村」と称する飲食店の集まりがあるほか,その周囲には多数の飲食店や商店があるため,観光客を含む多数の人々が訪れ,通行する場所であって,広島市が管理している。そして,本条例施行前は,毎週土曜日の午後9時過ぎころから,刺繍入りの派手な特攻服を着用した数十人ないしは140人もの暴走族集団が,本件広場内において,暴走族集団名の入った旗を押し立てて,一部の者は覆面をした状態で,円陣を組んで座り込む等したり,「声出し」を行っており,一般の通行人が円陣の中を通り抜けようとすると,「中を通るな。」と怒号が発せられることがあったほか,付近には「チーマー」と称する非行少年グループも集まり,そのような暴走族集団等から受ける威圧感,恐怖感のため,一般の通行人が本件広場内に立ち入ることができないだけではなく,本件広場付近に近づくこともできない状態となっていた。そのため,「お好み村」の飲食店においては,土曜日の夜は来客の減少により売上げが落ち込み,また,付近のホテルにおいては,修学旅行の宿泊予定先として視察に来た教員から,本件広場に多数の暴走族集団が集まっていることを理由に,修学旅行生の宿泊先として適当ではないと判断されて,宿泊を断られる等の事態に直面していた。
    しかも,暴走族集団は,各グループ間だけではなく,チーマーとの間にも喧嘩騒ぎ等を起こしており,これに介入した暴力団組員から解決を図る対償として金員を要求され,次第に暴力団の支配下に置かれるようになり,ついには,「面倒見」と称する特定の暴力団組員やその配下の者に対して定期的に金員を供与するようになり,また,当該暴力団の縄張内に集まるように指示されるほか,その現場に現れた面倒見に対して整列して大きな声で挨拶等をさせられ,集まりの終了時まで面倒見から各種指示を受けるため,付近を歩行する一般市民に対して恐怖感を与えるようになった。そして,上記金員支払いに窮した暴走族に所属する少年の中には,窃盗等の犯罪を敢行する者も出てくる等,その弊害も顕著となってきた上,地元住民等からも暴走族集団の集まり等に対する取締りの要望が出されるようになった。
  (5) ところで,広島市公園条例(昭和39年条例第18号)5条7号は,「公園の利用者に迷惑を及ぼすような行為をすること。」を禁止し,同条例19条はその違反者に5万円以下の過料を科する旨規定しており,広島市西新天地公共広場条例(平成6年条例第14号)1条は,「市民に多様な憩いとふれあいの場を提供し,都市における市民相互の交流及び魅力ある空間の形成を図るため」本件広場を設置すると規定し,同条例3条7号において,「広場の利用者に迷惑を及ぼすような行為をすること。」を禁止しているほか,同条例6条において,「市長は,広場に関する工事のためやむを得ないと認められる場合,広場の保全又は公衆の広場の利用に著しい支障が生じた場合その他管理上又は公益上必要があると認められる場合においては,広場の利用を禁止し,又は制限することができる。」と規定するが,同条例3条7号の違反者に対する罰則等は規定されていない。
    そこで,広島市においては,「暴走族の暴走行為,い集,集会等が市民に不安感,恐怖感を与え,市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず,国際平和文化都市の印象を著しく傷つけていることから,暴走族問題を早急に解決する必要があるため,暴走族のい集,集会等の規制を盛り込んだ条例を新たに制定する」べく,平成14年3月1日,本条例案を広島市議会に提出し,同市議会予算特別委員会に付託され,本条例16条1項の「何人も」とあるのを「暴走族の構成員は」と修正する等の修正案が提出されたものの否決されて,本条例案がそのまま可決され,同月27日,同市議会定例会において,全員一致により,原案どおり可決されて本条例が成立し,罰則規定の本条例19条以外は同年4月1日から施行され,罰則規定の本条例19条については同年5月1日から施行された。
  (6) 本条例が施行された当初は,本件広場において,暴走族集団が円陣を組む等の行動に出たことはあったが,それまでに比して,参加人数も著しく減少した上,市職員らから警告を受ける等すると,間もなく解散するようになり,また,平成14年の広島市の三大祭りであるフラワーフェスティバル,とうかさん大祭,胡子大祭の際にも,本件広場に暴走族集団が現れることはなかった。
  2 本条例の規定内容
   本条例1条は,「この条例は,暴走族による暴走行為,い集,集会及び祭礼等における示威行為が,市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず,国際平和文化都市の印象を著しく傷つけていることから,暴走族追放に関し,本市,市民,事業者等の責務を明らかにするとともに,暴走族のい集,集会及び示威行為,暴走行為をあおる行為等を規制することにより,市民生活の安全と安心が確保される地域社会の実現を図ることを目的とする。」とし,本条例2条において,公共の場所とは,「道路,公園,広場,駅,空港,桟橋,駐車場,興行場,飲食店その他の公衆が通行し,又は出入りすることができる場所をいう。」,暴走行為とは,道路交通法「68条の規定に違反する行為又は自動車等を運転して集団を形成し」,道路交通法7条等の諸規定に違反する行為,示威行為とは,「多数の者が威力を示して行進又は整列をすることをいう。」,暴走族とは,「暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で,い集,集会若しくは示威行為を行う集団をいう。」,暴走族追放とは,「暴走族による暴走行為等の防止,暴走族への加入の防止,暴走族からの離脱の促進等を図ることにより,暴走族のいない社会を築くことをいう。」等と定義し,本条例3条は,「本市は,第12条の規定による基本計画に基づき,暴走族追放に関する総合的かつ広域的な施策を策定し,これを実施する責務を有する。」とし,本条例12条は,「本市は,暴走族追放のため,次に掲げる
事項を内容とする基本計画を策定するものとする。」として,暴走族追放に関する諸種の基本計画を挙げ,本条例16条1項は,「何人も,次に掲げる行為をしてはならない。」として,同項1号は,「公共の場所において,当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。」,同項2号は,「公共の場所における祭礼,興行その他の娯楽的催物に際し,当該催物の主催者の承諾を得ないで,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集,集会又は示威行為を行うこと。」,同項3号は,「現に暴走行為を行っている者に対し,当該暴走行為を助長する目的で,声援,拍手,手振り,身振り又は旗,鉄パイプその他これらに類するものを振ることにより暴走行為をあおること。」,同項4号は,「公共の場所において,正当な理由なく,自動車等を乗り入れ,急発進させ,急転回させる等により運転し,又は空ぶかしさせること。」とし,本条例17条は,「前条第1項第1号の行為が,本市の管理する公共の場所において,特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは,市長は,当該行為者に対し,当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。」とした上,本条例19条は,「17条の規定による市長の命令に違反した者は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」と各規定している。
 3 本件犯行状況等
 (1) 被告人は,神奈川県小田原市の出身であるが,平成12年11月の胡子大祭の期間中,広島市に赴いた際,暴走族集団が特攻服を着用して本件広場で円陣を組んで集会を行っているところを見て,広島市の暴走族集団の活動にあこがれ,平成13年春,広島市に移り住んだ上,指定暴力団であるA会B組の影響下にある暴走族「C」に加入し,同年秋には,上記暴走族集団から引退したものの,暴走族の面倒見をしたいと考え,平成14年8月ころ,上記B組関係者に頼み込んで,上記B組組員から上記暴走族「C」の面倒見の地位を引き継いだ。
 (2) そして,被告人は,同年11月18日から同月20日までの胡子大祭において,上記暴走族「C」の引退式を挙行しようと考えていたところ,直前になって,上記B組組員から,「祭りは3日とも特攻服を着て出れんようになった。私服で3人以上でつるんで歩くのもいけん。とにかく祭りでは目立たんように。」と指示されたため,胡子大祭の期間中の引退式の実施を断念したものの,かねてより,本条例に反発していたこともあって,上記B組組員の承諾を得ないで,胡子大祭の直後の土曜日である同月23日に,本件広場で「引退式」を挙行することとした。
 (3) そこで,被告人は,同月19日ころ,上記暴走族「C」の構成員に対して,「明日の最終日に引退式を開くのが無理になった。その代わり今週末の集会のときに引退式をやる。場所はまだ決めてない。」と伝えたほか,被告人の影響下にあった暴走族「D」の構成員に対し,「お前ら今週末引退式やれえ。Cも今週やるし,引退式じゃけえ,普段よりは派手にやれえや。」と指示し,さらに,暴走族「E」の構成員に対し,「お前ら引退式したんか。わしら今週引退式やるけえ,まだしてないんならお前らも来いや。」と声を掛けたほか,暴走族「F」構成員の友人に対し,「今週末に引退式やるけえ,G前に来ればええ。」と伝えて,その旨の暴走族「F」構成員への連絡を依頼した。
 (4) 被告人は,同月23日,本件広場付近のゲームセンター「G」前に赴き,特攻服を着用した暴走族集団約40名が集結しているのを確認し,同日午後10時25分ころ,各暴走族の代表者に対し,「今からアリスで円陣組むけえのう。今日はとことん派手にやるけえ,そのことをみんなに伝ええ。チームは違うけど,DやFのように3人しかおらんチームもあるけえ,何かあったら助けちゃれえのう。」と指示した上,同日午後10時30分ころ,「よっしゃこれから行くでえ。」と命じて,自ら先頭に立ち,本件広場内に入った。その後,「円陣組めや。」,「今回は引退式じゃなくて,先に集会始めるけえ。集会で声出し始めえや。」などと指示し,本件広場内での集会を開始した。
 (5) 広島市職員Hは,広島市職務権限規程に基づき,本条例17条の中止命令等を発することのできる広島市長の権限を代行する地位にあり,同日午後10時31分ころ,特攻服を着用し,一部の者はタオル様のもので覆面をした暴走族集団とともに本件広場に入ってきた被告人らに対し,「特攻服でアリスガーデンに入っては駄目だ。条例違反になるから,特攻服を脱ぐか,すぐに退去しなさい。」などと1回目の注意をしたが,被告人らがこれを無視して本件広場内に入ってきたため,同日午後10時33分ころ,拡声器を使用して,「退去しなさい。出て行きなさい。特攻服で広場内に入っては駄目です。」などと2回にわたって注意をしたものの,被告人の指示を受けた暴走族集団が本件広場の中央部一杯に円陣を組むなどしたことから,被告人に対して,「このままでは命令を出すよ。」と警告を与えた。ところが,被告人から,「出してみいやあ。何が条例やあ。怖ないんじゃ。」などと反発されたほか,円陣中央部に「C」という大きな旗を立て,「広島最強。16代目C。よろしく。」などと暴走族「C」の構成員が大声を上げ,他の暴走族集団が呼応して,「よろしく。」と大声で応答を始めたので,同日午後10時35分ころ,円陣内に入り込んで,「この公園を管理する広島市です。第1回目の命令を行います。退去命令。この集会は,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるものであり,広島市暴走族追放条例第16条第1項第1号の禁止行為に当たり,更に,威勢を示すことにより行われているので,同条例第17条の退去命令等の対象となります。この広場からの退去を命令します。なお,この命令に違反した場合は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます。」と拡声器を用いて退去命令を出したにもかかわらず,依然として暴走族集団からの声出しが続いたため,同日午後10時38分ころ,同日午後10時40分ころの2回にわたって,上記と同一の退去命令を出し,被告人の指示を受けた上記暴走族集団がこれを無視して円陣を組んだままであったことから,被告人は,同日午後10時41分,警察官から本条例違反の現行犯人として逮捕された。
第3 控訴趣意に対する判断
 1 文面上の違憲主張
   所論は,(1)本条例16条1項1号にいう「い集又は集会」は,規制対象が不明であるし,その意味を一般人が理解することは困難であるから,あいまいかつ不明確である,(2)同号にいう「公衆に不安又は恐怖を覚えさせるような」というのは,人間の主観的,内面的な感情あるいは精神状態を指しており,外部から客観的に判断することは困難であって,そのような文言を使用して集会等を規制するのは,条例執行者の主観的判断に委ねることになり,表現の自由を恣意的に規制することになるから,本条例16条1項1号は,不明確の故に憲法21条1項が保障する集会の自由を侵害し,刑事実体法の規定が明確であることを要求する憲法31条にも違反するものである旨主張する。
   しかしながら,(1)の点について検討すると,原判決が説示するとおり,「い集」とは多数の者が一時的に寄り集まることをいい,「集会」とは多数の者がある共通の目的のために集まることをいうことが明らかであって,文言上の意味はそれ自体明確である上,「い集」が「集会」を含む上位概念であるから規制対象が不明であるとする所論は,到底理解することができず,所論には賛同することができない。さらに,「い集」及び「集会」の意味するところは,既述のとおり,明白であるから,これがあいまいかつ不明確などとする非難は明らかに当を得ていない。また,「い集」の意味を一般人が理解することができないなどと主張するが,「い集」の意味を理解することが困難であるとはいえない上,そのことと文言上のあいまいかつ不明確さとは全く異なる問題であって,いずれにしても所論に賛同することはできない。
   次に,(2)の点について検討すると,本条例2条は,暴走族とは,「暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で,い集,集会若しくは示威行為を行う集団をいう。」と規定するほか,本条例16条1項1号が禁止行為として,「公共の場所において,当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。」とするとともに,本条例17条が,「前条第1項第1号の行為が,本市の管理する公共の場所において,特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは,市長は,当該行為者に対し,当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。」とした上,本条例19条が,「第17条の規定による市長の命令に違反した者は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」と規定していることにかんがみると,本条例が処罰対象とするのは,単に「公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。」ではなく,それが,暴走族集団に見られる「特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われた」際に,市長から中止命令,退去命令を出すことが可能となり,市長からの上記中止命令,退去命令に違反した場合に初めて処罰対象となるというのである。そうすると,「公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。」とは,外部から客観的に判断することが特に困難であるとまではいえないし,まして,条例執行者の主観的判断に委ねることになるともいえず,本条例16条1項1号が不明確であるなどとはいえないのであるから,憲法21条1項及び31条に違反するとの所論は,その前提に明らかに誤りがあり,失当である。
   そうすると,本条例の処罰規定等に文面上不明確な点等はなく,本条例が憲法21条1項,31条に違反するとはいえない。
   したがって,文面上の違憲の主張に関する論旨は,いずれも理由がない。
 2 内容上の違憲主張
   所論は,集会の自由を含む表現の自由は,憲法上優越的地位にあるとされており,その表現が価値のあるものか,危険なものかについては,表現者と受け手の判断に委ねるという「思想の自由市場論」からは,公権力が無価値で危険なものとして制約を加えようとする場合,受け手が思想の自由市場で判断する機会が奪われ,公権力による恣意的制約が加えられる危険があるとされているところ,本条例は,暴走族集団の「い集又は集会」が無価値で危険なものとして規制しようとするものであるが,暴走族構成員等にも表現の自由は保障されているから,暴走族集団の「い集又は集会」を規制するのは,表現内容に中立的な規制ではなく,表現内容自体に対する規制であって,本条例の憲法適合性の判断に際しては,明白かつ現在の危険の基準によるべきであるにもかかわらず,(1)本条例17条は,「特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたとき」としか規定しておらず,明白かつ現在の危険の存在を一切考慮していないので,憲法21条1項に違反して,不当に集会の自由を制限している,(2)本件時,通行人や付近住民の生命,身体又は財産が侵害されるような状況はなかったのであるから,明白かつ現在の危険が存在していなかったのに,広島市が本条例17条に基づいて退去命令を出したのであり,かかる退去命令は憲法21条1項に違反した無効なものであり,かかる無効な退去命令に基づいて刑罰を加えることはできない,というのである。
   そこで,以下,検討を加える。
   集会の自由を含む精神的自由権が,他の経済的自由権に比して優越的地位にあることは,所論が指摘するとおりであって,その規制の合憲性判断に当たっては慎重な検討を要することはいうまでもない。
   ところで,本件広場は,広島市の中心部の繁華街に位置しており,「市民に多様な憩いとふれあいの場を提供し,都市における市民相互の交流及び魅力ある空間の形成を図るため」(上記広島市西新天地公共広場条例1条)に設置されたものであるから,不特定多数の者が同時に利用することを想定していることが明らかであり,設置者である広島市には上記目的にそうように本件広場を管理すべき責務があることになる(同条例6条)。しかるに,本条例制定前は,既述のとおり,特攻服を着用した多数の暴走族集団が本件広場を占拠し,暴走族集団名の記載された旗を押し立て,一部が覆面をした状態で,円陣を組んで座り込み,大声を出すなどしていたものであって,そのような行為による威圧感,恐怖感を受けた一般市民や観光客等が本件広場に自由に立ち入ることができなくなっていたため,付近の店舗経営者等からは,そのような暴走族集団による集まりに対する規制を求める声があがっていた。そのような声を受けた広島市は,暴走族を追放する等の目的のため,本条例を制定するに至ったのであるが(本条例1条),広島市が管理する公園等の公共の場所において,その許可を受けないで,暴走族特有の特異な服装等をした者が,円陣を組み,旗を立てる等の威勢を示して,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行った場合には,市長がその中止や上記公共の場所からの退去を命じることができ(本条例16条1項1号,17条),これに違反した者を6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する(本条例19条)旨規定しているのである。
   このような本条例制定の趣旨及び経緯等に照らすと,本条例の制定目的には十分な合理性,必要性が認められる上,上記のような暴走族集団による広島市の管理する公共の場所使用を規制するについては,他に採り得る方法,手段等は事実上想定し難く,さらに,その規制の態様等も必要最小限度にとどまるものと評価することができる。
   所論は,本条例が暴走族集団の「い集又は集会」を禁止することを目的として制定されており,暴走族集団の「い集又は集会」を価値のない危険なものとして規制しており,暴走族集団に属する者に対する表現規制を行うものであるから,表現内容に中立的な規制ではなく,表現内容自体に対する規制である等として本条例による規制の違憲性を指摘して論難するが,本条例は,暴走族集団の「い集又は集会」自体を規制したものでないことは,規定上明白であるから,所論の前提自体に疑問があり,また,本条例の内容等に照らすと,暴走族集団の構成員であること自体に着目した規制ではなく,当該構成員か否かを問わず,暴走族集団特有の特異な服装等をした上,円陣を組む等の方法により,公衆に不安若しくは恐怖を感じさせる態様で,広島市が管理する公園等でのい集等に及んで,市長から命じられた退去命令等に従わなかった者を処罰するというものであるから,いわゆる表現内容中立的制約と考える余地もないではない上,既述のとおり,その規制内容等は合理的かつ必要最小限度にとどまるものであって,しかも,既述のとおり,暴走族集団に属する者の表現内容自体を直接的に規制するものとはいい難く,所論には直ちに賛同することはできない。
      また,所論は,最高裁平成7年3月7日第3小法廷判決・民集49巻3号687頁が,市民会館の使用不許可の事由として条例が定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは,「本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも,本件会館で集会が開かれることによって,人の生命,身体又は財産が侵害され,公共の安全が損なわれる危険を回避し,防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり,その危険性の程度としては,単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず,明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である」と判示して,合憲性判断の基準としては「明白かつ現在の危険の基準」を採用しているにもかかわらず,本条例17条は,「特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたとき」としか規定しておらず,明白かつ現在の危険の存在について一切考慮していないから,憲法21条1項に違反する旨主張する。しかしながら,上記市民会館の使用の許否は,集会開催の許否に直結するところ,本条例は,集会それ自体を禁止したり規制するものではないこと,市民会館の使用の際には,同一場所を複数の集団が使用することは想定されておらず,他人の自由を侵害すること自体が考え難いのに対して,本件広場は,元来多数の人々や複数の集団が利用することを前提としており,本条例が想定する処罰対象としての暴走族集団に特徴的に認められるその集まりは,他の人々や他の集団による本件広場の使用を事実上排除するものであるから,いわば他人の自由を侵害する態様のものに限定されており,その意味では,他人の自由を侵害する具体的な危険が予見されるものといえないでもないこと等を総合すると,本条例違反の事案と上記最高裁判決の事案とは,規制の趣旨,対象等が全く異なっているというべきであるから,所論は失当というほかはない。
   次に,所論は,本件時,暴走族集団において,暴力的衝突が発生するおそれがなく,通行人や付近住民の生命,身体又は財産が侵害されるような事態を生ずることが客観的,具体的に予見できる状況にはなかったから,明白かつ現在の危険が存在していなかったにもかかわらず,広島市が本件退去命令を出したのは,憲法21条1項に違反しており,このような無効な退去命令に基づいて刑罰を加えることはできない旨主張する。しかしながら,既述のとおり,本件退去命令がなされた際の状況は,被告人の指示を受けた暴走族集団が本件広場を事実上全面的に占拠しており,他の人々や他の集団が本件広場に立ち入ることを阻害していたのであり,そのような状況を現認した広島市担当者において,被告人及び暴走族集団に対して,繰り返し本件広場からの退去の警告,命令を行ったにもかかわらず,被告人らがこれに応じなかったのであるから,本件広場の被告人及び暴走族集団以外の者による使用が阻害されていたことは明白であって,上記退去命令の適法性に疑問とすべき余地はなく,所論はその前提自体に誤りがあることに帰する。
   そうすると,本条例が憲法21条1項に違反するとはいえない。
   したがって,内容上の違憲の主張に関する論旨は,いずれも理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
  平成17年8月22日
     広島高等裁判所第1部

        裁判長裁判官     大   渕   敏   和


            裁判官    森   脇   淳   一


            裁判官     芦   高       源