hanrei @Wiki H17. 9. 2 札幌地方裁判所 平成16年(わ)第1481号 加重収賄被告事件



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判示事項の要旨:
元支庁長に加重収賄罪の成立を認めて実刑に処した事案


主 文
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中90日を刑に算入する。
被告人から金300万円を追徴する。
理 由
(犯罪事実)
被告人は,平成12年4月1日から平成15年5月31日までの間,A支庁長として,同支庁が所掌する介護保険法に基づく指定介護老人福祉施設及び指定居宅サービス事業者の指定及びその取消し,同施設及び同事業者に対する指導監督等の事務を掌理していたもの,Bは,平成8年4月1日から平成16年3月16日までの間,C市内等で指定介護老人福祉施設,指定居宅サービス事業等を営む社会福祉法人Dの理事長であったものである。
1 被告人は,別紙一覧表1記載のとおり,平成12年11月中旬ころから平成13年12月中旬ころまでの間,C市E区北F条西G丁目F番地Hビル地下F階飲食店「I」,同市J区北FK条西M丁目GF番地Fうなぎ店「L」又はその周辺で,前後14回にわたり,前記Bから,前記Dの経営する施設及び事業に対する指定,指導監督等に関し,有利な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金合計140万円の供与を受け,もってその職務に関し賄賂を収受した。
2 被告人は,同月20日ころ,同市E区北N条西O丁目S番地Y庁別館ZビルS階A支庁長室で,同区南F条西O丁目FG番地PビルF階前記D理事長室から電話をかけてきた前記Bから,同会が経営する介護老人福祉施設Q,Qデイサービスセンター等がA支庁職員らによる実地指導を受けた際,同会が過去に過剰に受給していた介護給付費約3000万円を返還するよう指導されたことに関し,その返還を免れることができるよう今後の指導監督に手心を加えられたい旨の請託を受け,別紙一覧表2記載のとおり,平成14年1月下旬ころから同年10月下旬ころまでの間,前記「I」,前記「L」,同区北F条西GO丁目N番F号うなぎ店「R」,同区南S条西T丁目F0FT番地とんかつ店「U」又はその周辺で,前後10回にわたり,前記Bから,前同様の趣旨及び前記請託に従った寛大な取り計らいをされたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金合計100万円の供与を受け,もってその職務に関し請託を受けて賄賂を収受し,その結果,A支庁職員らが前記Q等に対する2度目の実地指導を実施した同年4月26日ころから,その結果の通知を発した同年10月30日ころまでの間,介護保険施設等運営指導実施要綱等の規定に基づき,前記Q等に対する監査を実施するなどして,前記Dが過剰に受給した前記介護給付費の全額を返還するよう同会を厳格に指導監督しなければならなかったのに,これを行わず,もって職務上相当の行為をしなかった。
3 被告人は,別紙一覧表3記載のとおり,同年11月中旬ころから平成15年4月下旬ころまでの間,前記「I」,前記「L」,前記「R」,前記「U」又はその周辺で,前後6回にわたり,前記Bから,前記2記載の職務上相当の行為をしなかったことに対する謝礼及び今後も同様に前記指定,指導監督等に関し有利,寛大な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金合計60万円の供与を受け,もって職務上相当の行為をしなかったことに関し賄賂を収受した。
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,Bによる請託の事実はなく,被告人に加重収賄を構成する職責違反及びこれに関係する限度での賄賂性の認識もなかったから,被告人には単純収賄罪が成立するにとどまる旨主張する。
2 関係各証拠により本件の背景事情や推移等を争点に即して見ると,被告人は,D理事長Bから,V福祉局長就任を契機に手厚い接待を受け続け,A支庁長就任後の平成12年11月中旬ころからは毎月現金10万円の賄賂を収受するようにもなり,A支庁総務部社会福祉課(以下「福祉課」という。)がD開設のQ等関連施設による平成12年度及び翌13年度の介護給付費の過剰受給額約3000万円の返還を実地指導した直後の平成13年12月20日には,これに関してBから電話で相談され,直ちに,担当の福祉課主査Wに説明を求めて過剰性の検討を指示し,WからY厚生局に問い合わせた結果によっても返還指導が適正であると説明されても納得せず,Dが福祉課からの過剰性の根拠を明示されての折衝や平成14年4月26日の再度の実地指導にも屈しない状況下で,着任して間もない福祉課長Xに解決の糸口を模索するように指示し,これを受けたXが従前の担当者であったWらの動きを封じながら調査を遂げた後の同年5月8日には,Xから自主返還という形で円満解決を図りたいとの報告を受け,これに一旦は同意したが,同年6月12日ころ,Xから解決策として示された4つの案のうち,平成12年度の過剰受給分のみを返還させる旨のいわゆる第3案で法令上の根拠のないものを採用し,その案で妥協したDから同年10月18日付けA支庁長宛て改善状況報告書が提出され,福祉課から同月30日付けD宛ての指摘事項なしなどと記載した再度の実地指導の結果が通知されたが,その間及びその後もBから毎月10万円の賄賂を収受し続けたことが客観的事実として認められる。
3 そして,監査の選定基準について定める介護保険施設等運営指導実施要綱によれば,「介護報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき」には監査を行うこととされていて,かつ,監査制度の趣旨は,介護保険施設等による介護保険事業運営の健全性等の確保のために,事実関係を的確に把握し,公正かつ適切な措置を採ることにあると解されるから,前記要件の該当性の判断に当たっては,介護報酬請求絡みの施設等運営の健全性に関する事情,すなわち,過剰請求の額,態様のほか,その請求の経緯,発覚後の対応等をも加味して検討すべきであるところ,本件過剰請求額が約3000万円と巨額であるのみならず,その請求経緯も当初から疑う余地なく解明されていたわけではなく,Dが福祉課から過剰請求について明確な根拠を示されて説明を受けながらも半年以上にわたって返還拒否を続けるなど事後対応も不誠実極まるものであったことなどを総合すると,前記監査事由が生じていたと優に認めることができるから,被告人は,A支庁長として,不正の有無を含めて全容を解明するためにD関連施設に対する監査を実施するなどして本件過剰受給額の全額を返還するようDを厳格に指導監督すべき職務上の義務があったといえる。
4 さらに,Bは,平成13年12月20日,介護給付費の過剰受給分が数千万円になることを知り,その返還をしないで済むように被告人に指導監督に手心を加えてほしいと考えて被告人に電話し,返還指導について「何とかならないでしょうか。」と伝え,この関係もあって,その後の10万円の賄賂を供与する際にも「よろしくお願いします。」と言って渡し,平成14年6月中旬ころ,A支庁長室で被告人から平成12年度の過剰受給分のみを返還すればよい旨を聞かされ,そのまま昼食に行った上,被告人に「大変ありがとうございました。」と礼を述べて10万円の賄賂も渡した旨,Xは,一旦は過剰受給分の全額を自主返還させることに同意した被告人から,全額返さない方法はないかと尋ねられ,それは無理だと伝えたところ,何とか落としどころを作るようにと指示され,A支庁トップの指示と受け止めたことから,被告人に4つの案を示して前記第3案の採用を決定してもらった旨,それぞれ供述しているのであって,その両供述は,いずれも,前記2の客観的事実と無理なく整合して自然かつ合理的であり,具体的で迫真性に富む上,自らの贈賄の事実自体を認めることになるBや旧知の被告人の部下であったXがあえて被告人に不利益な虚偽の供述をする理由も窺われないほか,殊更任意性を疑わせる事情が窺われない状況下でなされた被告人の捜査段階の供述とも整合しているなど十分に信用できる。
5 以上を総合すると,被告人は,福祉課指導の本件過剰受給額返還の免脱に向けて今後の指導監督に手心を加えられたいとの趣旨のBからの請託を受け,再度の実地指導のころからその結果の通知がなされたころまでの間,前記要綱等の規定に基づき,D関連施設に対する監査を実施するなどの職務上相当の行為をすることを含め,本件過剰受給額の全額返還を実現するように同会を厳格に指導監督しなければならなかったのにこれを行わず,その謝礼の意味も含めて同年11月中旬ころからは毎月10万円を賄賂として収受し続けていたものと合理的に推認できる。
なお,弁護人は,Wが最初の実地指導の際に「もしそれに従っていただけない場合には,こちらとしても次の段階を検討しなければいけませんので,よろしくお願いします。」と発言したことについて,指定取消に関する権限を行使する意思がないのに指定取消に関する権限を行使し得る旨を殊更示しており,Y手続条例32条に違反する違法な行政指導であるから,Bがその調査や相談を求めることは請託に当たらない旨主張するが,B自身が実地指導をそのように受け止めた形跡は全く窺われないのみならず,そもそもDに本件過剰受給額約3000万円の返還義務があったことは明らかであり,これが善処されない限り,介護保険施設等運営指導実施要綱により指定取消等も念頭に置いて監査に移行せざるを得なかったという客観的状況等に照らすと,Wの前記発言は,前記要綱による発展的手続を漠然と示唆しただけであって,法的義務のないことを事実上強制するために濫用的に権限行使を強調するような行政指導ではないから,これが同条に違反するとはいえず,請託の存在に関する前記推認に何ら影響しない。
6 他方,弁護人の主張に沿う被告人の弁解は,要するに,Bからの漠然とした相談を請託の趣旨には受け止めず,むしろ,定期的に賄賂を収受していたことから関係したくないとの思いが強く,その結果が重要だと思っていたところにXから示された書面中の全面解決という表示に目を奪われて中身を確認せずにいわゆる第3案を選定してしまい,その後も単に常態化の一環として賄賂収受を続けたに過ぎないというのであるが,前記認定の被告人とBとの濃密な親交関係,被告人と当初担当の福祉課職員との峻烈な意見対立状況,本件過剰受給の決着内容等のほか,Xから示された4つの案は書面に簡潔に記載されていて一瞥程度で内容の把握が容易であったことなどの客観的事実と対比しただけでも不自然かつ不合理極まるものであり,前記信用性の高いB及びXの両供述をも総合すると,到底信用できない。
7 よって,犯罪事実を優に認定できるから,弁護人の主張は採用できない。
(量刑の理由)
本件は,A支庁長であった被告人が,社会福祉法人Dの理事長から,約2年半の間,前後30回にわたり合計300万円の賄賂を収受し,その間,理事長から請託を受けて職務上相当な行為を行わなかったという加重収賄の事案である。
被告人は,A支庁長として率先して法令を遵守しつつ地方行政を遂行すべき立場にありながら,長年にわたり理事長から飲食やゴルフ等の接待を受け,その延長として本件に及び,理事長のために便宜を図ったものである。その利己的かつ反社会的な動機に酌量の余地は全くなく,賄賂の総額は本件起訴にかかる分だけでも多額である。犯行態様も,長期かつ多数回にわたって癒着的に賄賂を収受し,その見返りとして,A支庁職員らが,D経営の施設等に対し実地指導を行い,介護給付費約3000万円の過剰受給を指摘し,その返還をするよう指導したのに対し,理事長より返還を免れられるよう依頼を受け,A支庁長としての絶大な権力を背景に,全額返還に向けてDを厳格に指導監督することなく,むしろ,自ら介入して過剰受給分のうち約1500万円の返還を事実上免れさせた上,その謝礼の趣旨も含めて賄賂を受け取っていたものであって,公務員の職務の公正を著しく歪め,地方行政に対する地域住民の信頼のみならず公務全般に対する国民の信頼を失墜させたものである。
そうすると,Dが遅ればせながらも本件過剰受給額の過誤調整に誠実に対処したこと,被告人が,単純収賄の限度で起訴事実を認め,反省の情を示していること,地方公務員を懲戒免職になるなど一定の社会的制裁を受けていること,Dに対し本件後も理事長から受領していた金員の相当額の寄附をしたこと,前科前歴がないこと,これまで長年にわたり公務員として地方行政に尽くしてきたこと,実兄及び知人がそれぞれ公判廷で,被告人の今後の指導監督又は更生への協力をする旨述べていること,多くの嘆願書が提出されていること,その他被告人の年齢,保釈までの身柄拘束期間等被告人のために酌むべき事情を考慮しても,被告人に対し,主文掲記の実刑を科すのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役3年,追徴300万円)
平成17年9月2日
札幌地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官   遠   藤   和   正

裁判官   川   田   宏   一

裁判官   清   水       光


別紙一覧表省略