hanrei @Wiki H17. 9.29 富山地方裁判所 平成17年(ワ)第73号 損害賠償請求事件



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判示事項の要旨:
貸金業者が,債務者の代理人弁護士から民事再生手続開始申立てを行った旨を知らされた後,債務者に対して行った給与債権の差押えが違法であるとして,債務者からの慰謝料請求が認められた事例


平成17年9月29日判決言渡 
平成17年(ワ)第73号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成17年8月25日
主文
1 被告は,原告に対し,7万5000円及びこれに対する平成17年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その1を被告の負担とする。
4 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。
          事実及び理由  
第1 請求の趣旨
  被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成17年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告訴訟代理人からの民事再生手続開始申立ての受任通知後に,被告が行った給与債権の差押えが違法であるとして,原告が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料120万円及び弁護士費用30万円並びにこれらに対する不法行為の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 当事者間に争いのない事実
(1) 原告は,平成16年8月,被告から,金銭を借り入れ,その後,被告に対して返済をしていた。
(2) 原告は,多額の負債により支払不能になり,平成16年11月,原告訴訟代理人に対し,民事再生手続開始の申立てを委任した。原告訴訟代理人は,同年11月2日ころ,被告を含む全債権者に対し,受任通知を発送した。
(3) 被告は,同年11月5日,原告を相手として,富山簡易裁判所に対し,貸金請求の訴えを提起した。原告訴訟代理人は,上記訴訟の口頭弁論期日において,被告に対し,民事再生手続の中で弁済を受けて欲しい旨を述べた。上記訴訟は,平成17年1月31日,民事訴訟法275条の2による決定(以下「本件決定」という。)により終了した。本件決定においては,原告は,被告に対し,貸金残元金9万7770円,未払利息1490円及び残元金に対する平成16年11月2日からの遅延損害金を,平成17年2月末日限り支払う旨が定められた。
(4) 原告訴訟代理人は,同年2月7日,富山地方裁判所魚津支部に対し,原告の民事再生手続開始の申立てをした。原告訴訟代理人は,同年2月下旬,被告から,原告の民事再生手続の状況に関する照会を電話で受けたので,民事再生事件の事件番号を告げて,既に申立済みであることを説明し,債権の弁済は民事再生手続の中で受けて欲しい旨を述べた。
(5) 被告は,同年3月2日,富山地方裁判所魚津支部に対し,本件決定に基づき,原告のA社(以下「勤務先」という。)に対する給与債権の差押えを申立て(以下「本件差押申立て」という。),同日,同裁判所による差押命令が発令された。
3 本件の争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 被告の本件差押申立ての違法性
   (原告の主張)
 弁護士から民事再生手続開始申立ての受任通知を受けた場合には,貸金業者は,これに対し誠実に応対すべき義務があり,民事再生手続の進行を無視して,強制執行を行うことは,不法行為になると解すべきである。
 被告は,原告が既に民事再生手続開始の申立てをしたことを知りながら,本件差押申立てを行ったものであり,敢えて給与債権の差押をしなければならない合理的理由があったとはいえず,本件差押申立てが不法行為となることは明らかである。原告は,本件決定に対して異議申立てをしていないが,その理由は,被告に対する債務の内容自体は争いがなく,異議申立ての理由がないことに加え,民事再生手続の開始決定が間近であったことから,異議申立ての実益もないと考えたためである。
   (被告の主張)
 原告は,被告に借入申込みをした際,他社借入1件と虚偽の申告をしており,1回返済したのみで,民事再生手続開始の申立てをした。原告は,既に多重債務に陥っていたのであれば,被告から借入をすべきではなかった。
 被告は,原告が申し立てた民事再生手続に強制的に参加させられるものではなく,本件決定に基づく強制執行をすることはできる。原告訴訟代理人としては,被告と交渉するか,本件決定に対して異議申立てをすることによって,被告から本件決定に基づく強制執行を受けることを防止できたのである。
(2) 原告の損害の有無
(原告の主張)
 原告は,勤務先において契約社員として働いており,正社員に登用されるよう励んでいた最中に,差押えを受けた。このため,原告は,勤務先において信頼を失い,将来の正社員への登用又は昇給に多大の悪影響を受けた。
(被告の主張)
 原告の勤務先においては,正社員は当初から正社員として採用しており,契約社員から正社員に登用されることはない。原告は,現在も勤務先で働いており,本件差押申立てによって何らかの不利益を受けたとは認められない。
第3 当裁判所の判断
1 被告の本件差押申立ての違法性について判断する。
(1) 債権者は,権利を行使するため,訴訟を提起し,判決又はこれと同様の効力を有するものに基づき強制執行をすることができるが,権利の行使は,社会通念上相当な態様と方法で行うべきものである。多重債務者の経済的更生を図ることは社会の要請であり,その手段の1つとして,民事再生手続が利用されていることを考慮すると,債務者の依頼を受けた弁護士から民事再生手続開始申立ての受任通知を受けた場合には,貸金業者は,これに対し誠実に応対すべき義務がある。そうすると,債務者の依頼を受けた弁護士から既に民事再生手続開始申立てをした旨を通知された場合には,貸金業者は,その申立てが濫用的なものである等の正当な理由がない限り,強制執行を自制すべき義務を負っていると解すべきである。
(2) 本件において,被告は,原告訴訟代理人から民事再生手続開始申立ての受任通知を受け,民事訴訟を提起して本件決定を得た後,本件決定における支払期限の到来前に,原告訴訟代理人から,既に原告が民事再生手続開始の申立てを行ったことを事件番号とともに告げられ,民事再生手続の中で債権の弁済を受けるよう要請されたにもかかわらず,本件決定における支払期限の2日後に本件差押申立てを行ったものである。
  被告は,原告が本件決定に対して異議申立てをすれば,本件差押申立てを防止することができたと主張する。しかし,原告は,被告に対する債務内容に争いがないから,異議申立てをする理由はないし,原告において,異議申立期間の満了前に民事再生手続開始の申立てをした以上,被告には強制執行を自制すべき義務があるから,異議申立てをすべきであったとはいえない。
(3) また,被告において,強制執行を自制すべき義務に反して本件差押申立てをしなければならない正当な理由があったとは認められない。したがって,被告の本件差押申立ては違法であり,被告は,原告に対し,不法行為による損害賠償責任を負うものである。
2 原告の損害について判断する。
(1) 甲4号証によれば,原告は,勤務先において契約社員として働いているが,本件差押申立てを受け,平成17年3月3日ころ差押命令が勤務先に送達されたことによって,勤務先から事情を尋ねられ,多額の債務を負っており,民事再生手続開始の申立てをしたことを説明せざるを得なくなり,勤務先における信用を失墜したことが認められる。
(2) もっとも,甲4号証によれば,原告は,平成17年3月9日,民事再生手続開始決定を受けたため,給与債権の差押えは短期間で終了したこと,現在のところ,減収等の具体的不利益は受けていないことが認められる。また,原告が,将来正社員に登用されるかどうか,それに本件差押えが影響するのかどうかは,現在のところ不明確である。
(3) これらの事情を考慮すると,原告の精神的損害に対する慰謝料は,6万円が相当である。また,相当因果関係のある弁護士費用としては,1万5000円が相当である。
3 以上によれば,原告の本訴請求は,損害賠償として,7万5000円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成17年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において,理由がある。
4 よって,原告の本訴請求を,上記限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却して,主文のとおり判決する。
      富山地方裁判所民事部
     裁判官    永   野   圧   彦