H17. 8.31 名古屋地方裁判所 平成17年(行ウ)第5号 消費税等更正処分取消請求事件

判示事項の要旨:
 原告が,預託金返還請求訴訟の裁判外で,ゴルフ会員権を第三者に譲渡するとの和解を成立させたところ,被告から,これが資産の譲渡に当たるとして,消費税等の更正処分等を受けたことから,上記譲渡は,実質的には預託金の返還であるとして,処分の取消しを求めた抗告訴訟であり,本件譲渡が虚偽表示により無効であるとはいえず,その法形式どおり,本件会員権の売買契約と評価されるべきものであるとして,請求を棄却した事案


平成17年8月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成17年(行ウ)第5号 消費税等更正処分取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年7月27日
判決
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の請求
被告が平成15年6月30日付けでした原告の平成12年6月1日から平成13年5月31日までの課税期間における消費税及び地方消費税の更正処分のうち,消費税額1090万4400円,地方消費税額272万8300円を超える部分,並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,ゴルフクラブ会員となっているゴルフ場を経営する会社を相手に預託金返還請求訴訟を提起し,同社との間で,原告のゴルフクラブ会員権を第三者に譲渡し,その譲渡代金の支払を受ける内容の裁判外の和解を成立させたところ,被告から,これが資産の譲渡に当たることを理由に,消費税及び地方消費税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたことから,上記和解に基づくゴルフクラブ会員権の譲渡は,実質的には消費税の課税の対象とならない預託金の返還であると主張して,上記各処分の取消しを求めた抗告訴訟である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠により容易に認定し得る事実)
(1) 本件和解に至る経緯
ア 原告は,平成元年12月29日,株式会社A(以下「A」という。)に入会預託金1150万円を預託し(以下「本件預託金」という。),Aが経営するBゴルフクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)に入会した(以下,これにより取得した地位を「本件会員権」という。)(原告代表者)。
イ 原告は,平成12年2月2日,Aに対し,本件ゴルフクラブを退会するとの意思表示をし,同時に10年間の据置期間が経過した本件預託金を返還するよう求めた。
ウ 原告は,Aが本件預託金を返還しなかったため,平成12年2月21日,名古屋地方裁判所に対し,同社を被告とする預託金返還請求訴訟を提起した(以下「別件訴訟」という。)。
これに対し,Aは,本件ゴルフクラブの理事会において,預託金の据置期間を10年間延長する旨の決議がなされたことなどを理由に,原告の請求を争う姿勢を見せた。
エ 原告は,平成12年5月8日,Aの代理人弁護士から,本件会員権の預託金証書と引換えに和解金800万円を支払う旨の和解案の提示を受けたが,これを拒絶したところ,さらに,同弁護士から,和解金を900万円とする旨打診されたため,これを受け入れることとしたところ,同年7月31日付けで,文書にて,本件会員権をゴルフ会員権取引業者であるC株式会社(以下「C」という。)に対し,900万円で譲渡することなどを内容とした和解案の提示を受けた(原告代表者)。
オ 原告は,平成12年8月7日,上記和解案を承諾し,Cとの間で,ゴルフ会員権譲受売買契約を締結し,預託金証書等と引換えに900万円を受領した(以下,原告とCとの間のかかる取引を「本件取引」という。)。
これに伴い,原告は,別件訴訟の取下書をCに交付した。
Cは,同日,Aに対し,本件会員権を譲渡し,名義が移転された。
(2) 原告による確定申告
原告は,平成13年7月31日,平成12年6月1日から平成13年5月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)分の消費税及び地方消費税について,納付すべき消費税額を1090万4400円,納付すべき地方消費税額を272万8300円とする確定申告をした。
(3) 被告による課税処分
被告は,平成15年6月30日,原告が,本件取引によってCにゴルフ会員権を900万円で譲渡したことは,消費税法2条1項9号にいう課税資産の譲渡等に該当するとして,納付すべき消費税額を1124万7300円,納付すべき地方消費税を281万4100円とする更正処分をし,併せて過少申告加算税の額を4万2000円とする過少申告加算税賦課決定処分をした(以下,これらを「本件各処分」と総称する。)。
(4) 原告による不服申立て
ア 原告は,平成15年8月28日,本件各処分について異議申立てをしたところ,被告は,同年11月27日付けで,同申立てを棄却した。
イ 原告は,平成15年12月24日,審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成16年11月2日付けで,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(5) 本訴の提起
原告は,平成17年1月31日,当庁に本訴を提起した。
2 本件の争点
本件取引は,本件会員権の譲渡の形式を仮装した通謀虚偽表示であり,実質は本件預託金の返還にすぎないものとして,課税資産の譲渡に該当しないといえるか。
3 争点に対する当事者の主張
(被告の主張)
(1) 課税要件の認定方法について
所得に対する課税は,私法上の行為によって現実に発生している経済効果に即して行われるものであるから,第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われる。消費税法上の課税資産の「譲渡」についていえば,その意義は,私法上で用いられる譲渡と区別すべき理由がないから,私法上,当事者間で所有権の移転を目的とする経済取引があったと認められれば,これによって所有権が移転し(すなわち譲渡がなされ),消費税法上も譲渡がなされたものと認めるのが当然である。この認定においては,まず当事者がいかなる法形式を選択したか,すなわち当事者の表示行為が認定の手掛かり,重要な要素となる。
ただし,その経済取引の意義内容を判断するに当たっては,当事者の合意の単なる表面的,形式的な意味のみによるのではなく,私法上の真実の法律関係に立ち入って判断すべきであって,このような事実認定の結果,課税庁において,納税者側の主張と異なる課税要件該当事実を認定し,課税を行うこともある。
一方,所得概念の経済実質的な把握あるいは行為の経済的効果に対する税法的評価を行ういわゆる経済的実質主義による否認は,所得税法157条や法人税法132条などのように明文規定がない限りは,租税法律主義に反し許されない。このように,経済的実質主義による否認は原則として許されないから,形式ないし表面上の法形式と異なる課税要件を認定して課税を行うためには,私法上,形式ないし表面上の法律関係が否定されるような場合でなければならない。
(2) 本件取引の契約類型について
これを本件取引についてみるに,以下のとおり,法形式においても,実体としても,消費税法上の課税資産の「譲渡」に当たるというべきである。
ア 本件会員権は,ゴルフ場施設の優先的利用権,預託金返還請求権等の経済的価値を有する契約上の地位であって,消費税法上の資産に該当することが明らかであるところ,原告は,900万円の金員を受領する目的で,Cとの間の売買契約書に記名押印し,その内容に基づいて,本件会員権が譲渡され,預託金証書の交付及び代金決済が行われている。
イ 原告は,本件ゴルフクラブあての退会申請書の退会理由欄に,「譲渡」と記載し,また,本件事業年度に係る総勘定元帳の東海銀行上飯田支店当座預金勘定中の平成12年8月7日付け900万円の預入れの摘要欄に,本件会員権の「売渡金」と記載している。
ウ Cは,Aとの間で本件会員権の売買契約を締結し,これに基づいて,本件会員権が譲渡され,代金決済が行われている。
エ Aは,本件会員権に係る経理処理を,消費税の課税対象となる会員権の買取りとしており,預託金の返還としての処理を行っていない。
(3) 本件取引が通謀虚偽表示に基づくものであるかについて
ア 前記のとおり,本件取引が本件会員権の売買契約ではないとの認定をするためには,私法上,Cと原告との間に締結された売買契約にかかる法律関係が否定される場合でなければならないところ,原告は,本件取引が,①本件預託金の返還を求めた別件訴訟を解決するためにされたものであること,②売買価格の相場より高額な価格で本件会員権を買い取ることは通常あり得ないことを理由として,原告とCとの間の通謀虚偽表示により無効であると主張する。確かに,経験則上,大多数の売買は相当な代価をもってなされるものであるから,不相当な代価をもってなされた売買の場合,特段の事情がない限り,仮装の売買であるとか,売買の形式を借用した担保その他の異種の法律関係が存在するとの推測が働き得る。したがって,売買代金が不相当であることは,当該売買契約が仮装であることを示す重要な間接事実となり得ることは否定しない。
イ しかし,仮に売買代金が不相当であると判断される場合であっても,売買契約の当事者間においては,それが不相当ではない特段の事情があれば,当該売買が仮装であるとか,他の法律関係が存在するとは認められない。すなわち,売買代金が単に市場価格ないし時価との比較において不相当であるように見えても,当該契約関係における事情を総合的に勘案すれば,当該売買契約が仮装等であるとは認められないことも十分にあり得るところである。そして,本件会員権のように,預託金会員制のゴルフ会員権にあっては,ゴルフ会員権自体を市場価格にて換価した場合の価値と,預託金の返還を求めた場合の価値(据置期間が満了して初めて同請求権が行使し得ることから,価値が具体化する時期が限定される。)の2面性を有するから,会員は,会員権を他に譲渡するか,預託金返還請求権を行使するかによって投下資本の回収を図ることができ,市場での取引価格が預託金額より低いゴルフ会員権において,預託金の据置期間が満了した場合には,その価値は市場価格よりも高いものとして評価することが可能となる。したがって,預託金の据置期間が満了した段階にあるゴルフ会員権の市場価格が預託金額よりも低額であった場合に,市場価格よりも高額な預託金額に近い価格で取引されたとしても,これをもって売買価格が不相当であると評価することはできず,むしろ合理的であるといえる。
本件取引は,原告が預託金返還請求権を行使した後に行われており,その際の価額が預託金額に近いものと評価されても何ら不合理ではない。したがって,本件会員権が900万円で取引されたとしても何ら不相当な点はない。また,Cにとっても,本件会員権の買取り後に預託金返還請求権を行使して預託金の返還を受けることができたのであるから,900万円という価格で購入することは何ら不合理ではなく,加えて,CとAとの間で,本件取引の直後にAが904万5000円で本件会員権を買い取るとの約束が成立していたことをも考えると,本件取引の当事者間においては,等価交換の原則を逸脱するものではない。
ウ また,本件取引における当事者の認識としても,Cは,Aから依頼され,本件取引により本件会員権を購入したものと認められるところ,このような事情の下においては,Cが売買契約という表示行為と異なる内心的効果意思を有していたとは認められない。Aは,本件取引の当事者ではないが,原告との間の別件訴訟を解決するため,原告が金員を受け取るという点で預託金返還と同様の経済的効果を有する方法での和解を行ったことはそのとおりであるとしても,預託金の返還という方法をとり得なかったため,預託金の返還とは異なる会員権の売買という方法によったものであって,本件取引を預託金の返還であると認識していたとは認められない。さらに,原告としても,預託金の返還という名目には必ずしもこだわるものではなく,預託金相当額の金員を受領できればよいとの認識であったということができ,売買契約という表示行為と内心的効果意思との間に不一致があるとは認められない。
エ さらに,本件ゴルフクラブの会員権について,本件取引における代金と同様に預託金額ないしこれに近い金額で取引(譲渡)がなされた事例が存在している。このように,本件取引とほぼ同じ条件下において,本件取引と同様,預託金額と同額ないしこれに近い金額で取引が行われた事例があることは,預託金額に近い売買価格が合理的なものであったことを示すものである。
(原告の主張)
(1) 本件取引の実体について
原告とCとの間の本件取引は,預託金の返還を求める別件訴訟の係属中に,これを解決する手段としてされたものであり,しかも,その代金はAが用立てたものであり,本件取引に伴う名義変更料等は一切発生せず,本件取引の当日に直ちにCからAに名義変更され,本件取引の成立の条件として,原告が,別件訴訟の取下書を作成・交付することをも内容としていることからすれば,本件取引は,売買の形式を取るものの,その実体は預託金の返還であり,原告もそのように認識していたものである。
原告とCは,上記のような事情から,本件取引を預託金の返還であると了解しており,Aもそのことを熟知していたのであって,本件取引は,通謀虚偽表示に基づいてされたものとして無効であり,Aが民法94条2項の「第三者」に該当することもない。
したがって,本件取引は,売買契約ではなく預託金の返還なのであって,消費税及び地方消費税の課税の対象とすべきではない。
(2) 本件取引における代金の不合理性について
本件ゴルフクラブの会員権は,平成12年8月当時,380万円から400万円にすぎなかった。現に,同月9日の売買事例では380万円で取引され,同年9月8日の売買事例では436万5000円で取引されているが,これらは,本件取引と同様,預託金については,10年間の据置期間が経過した会員権の通常の売買価格である。
したがって,特別な事情がなければ,これを代金900万円で売買するとの契約を締結することはあり得なかったものであり,このことも,本件取引が通謀虚偽表示によるものであり,実質が預託金の返還にあったことを示すというべきである。
(3) 実質課税の原則について
前記のとおり,本件取引は,預託金の返還のために形式的になされたものであり,実質的には,本件取引の代金900万円は預託金の返還にほかならないから,実質課税の原則及び課税の公平性の観点からは,消費税等の課税対象とすべきものではない。
万が一,本件取引が売買契約という法形式を利用したことで,上記代金が売買代金と認定されるとしても,実質課税の原則からは,当時の市場価格のみを消費税等の課税対象とすべきであり,これを超える額については,実質的に預託金の返還にほかならないから,課税対象とすべきものではない。
第3 当裁判所の判断
1 課税要件充足の判断の在り方
(1) 国民が一定の経済的目的を達成しようとする場合,私法上は複数の手段,形式が考えられることがあるが,私的自治の原則ないし契約自由の原則が存在する以上,当該国民は,どのような法的手段,法的形式を用いるかについて,選択の自由を有するというべきである。このように,国民が,その判断によって特定の法的手段,法的形式を選択した以上,課税要件が充足されるか否かの判断も,当該手段,形式に即して行われるべきことは当然である。
もっとも,当事者が自由に選択した結果であっても,特段の合理的理由がないのに,ある法的・経済的目的を達成するための法的形式としては著しく迂遠,複雑なものであって,社会通念上,到底その合理性を是認できないと客観的に判断される場合には,その有効性が問題となり得るが,その場合であっても,当該法律行為が無効とされるのは,租税法にその旨の規定がある場合か,当該表示行為に対応する内心的効果意思を欠くものとして,民法93条ただし書ないし同法94条1項の適用が肯定される場合に限られるというべきである。
そして,その成否については,当該法律行為を行った当事者の目的,それに至る経緯,これによって享受することとなった効果などを総合して,判断されなければならない。
(2) この点につき,原告は,実質課税の原則ないし課税の公平性の観点から,形式ではなく実質に即して課税要件の充足を考えるべき旨主張する。
実質課税の原則は,一般に,租税賦課の根拠となるべき法令すなわち租税法規を解釈するに当たり,必ずしもその文言にとらわれず,その経済的意義を重視すべきことを内容とするといわれているが,このような解釈手法が,憲法84条の定める租税法律主義と整合しないことはいうまでもない。
また,実質課税の原則を具現するものとして,収益の帰属者とされる者が単なる名義人にすぎない場合には,これを享受する者に帰属するものとして扱う旨定めた所得税法12条(法人税法11条,地方税法24条の2等も同旨)が挙げられることが多いが,その意義は,課税物件の法律上の帰属につき,その形式と実体がかい離している場合には,後者に即して帰属を判定すべきことを定めたものであって,経済的な帰属に準拠すべきことを定めたものではないと解するのが相当である。したがって,上記原則が,課税要件充足の判断に当たり,当事者の選択した法的手段,法的形式がその基準とされるべきであるとの前記判断を覆すものとはいえない。
2 消費税法2条1項8号所定の「資産の譲渡」の意義
消費税法において,課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的な利益の額とし,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)であると規定されているところ(28条1項),資産の譲渡等とは,事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいうとされている(2条1項8号)。
ここでいう「資産」とは,取引の客体となり得る経済的価値を有するもの一切を指し,有体物に限られず,無形の財産権を含む。また,「譲渡」とは,上記資産につきその同一性を保持しつつ,他人に移転させることと解される(消費税法基本通達5-2-1参照)ところ,その典型例は,売買による所有権の移転である。
3 本件取引における通謀虚偽表示の成否
(1) 本件取引は,前記前提事実(1)オのとおり,資産に当たることの明らかな本件会員権の売買契約という法形式によってなされているから,その表示行為による限り,その対価が消費税の課税標準となることは疑問の余地がない。
この点について,原告は,本件取引は売買契約を仮装したもので,当事者の真意は,預託金の返還にあった旨主張するので,これについて検討するに,前記前提事実に証拠(甲6ないし16,18の2,19,20の各1・2,乙1ないし7,9の1ないし4,10,11,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア 原告は,平成元年12月29日,1250万円を支払って本件会員権を取得し,Aから入会保証申込金預り証書(甲7)の交付を受けた。その後,上記金員のうち1150万円が預託金に振り替えられることとなり,平成4年6月29日ころ,入会保証申込金預り証書との差替えにより,Aから預託金預り証の交付を受けた。同預り証には,預託金の償還は払込みの日から10年間据え置かれる旨の記載があった。
イ 原告は,平成12年2月2日,代理人(弁護士)を通じて,Aに対し,本件ゴルフクラブを退会する旨の意思表示をするとともに,本件預託金1150万円を7日以内に返還するよう求めた。ところが,Aは,上記の要求に応ずることがなかったので,原告は,同月21日,Aを被告として,本件預託金の返還及び遅延損害金の支払を求める別件訴訟を名古屋地方裁判所に提起した。
これに対し,Aは,本件ゴルフクラブの理事会が,平成11年6月21日,預託金の据置期間を10年間延長する旨の決議をしていること,一定数以上の会員に預託金の償還を行えば,償還を求める会員が殺到し,クラブの運営が不可能となることなどを主張し,原告の請求を争うとの応訴態度を明らかにした。
ウ Aは,上記のとおり,別件訴訟に応訴する一方で,原告に対し,代理人(弁護士)を通じて和解を働きかけることとし,平成12年5月8日,800万円を預託金証書と引換えに1か月以内に支払うとの提案を行ったが,原告は,これを拒絶した。
そこで,Aは,上記和解金を900万円に値上げすることを原告に伝え,原告がこれを受諾する意向を示したことから,同年7月31日,文書にて原告が本件会員権を900万円でCに譲渡し(譲渡に伴う名義書換料,業者手数料はなし。),原告は本件ゴルフクラブを退会する旨提案したところ,原告は,これを受諾することとし,同年8月7日,原告とCとの間で,「ゴルフ会員権譲受売買契約書」(甲14)が作成され,直ちに900万円が支払われた。その際,原告から,「譲渡」を理由とする本件ゴルフクラブの退会申請書と共に,別件訴訟の取下書が交付され,後日,裁判所に提出された。
なお,原告は,上記金員を「売渡金」として会計処理した。
エ Cは,本件取引の直後,Aに本件会員権を900万円で売買する旨の契約を締結し,同金額に手数料4万5000円を加えた904万5000円の支払を受けた。
オ 本件ゴルフクラブの会員権は,平成12年7,8月当時,ゴルフ会員権の市場では,380万円ないし400万円で取引されており,この金額は,預託金の据置期間(当初の10年間)が経過していた会員権であっても,同様であった。
他方,預託金の返還を求めて訴訟等の法的手段を講じた本件ゴルフクラブの会員については,本件取引と同様,Cへの売却という形式を取ることによって紛争解決に至った事例があるが,この場合の譲渡金額は,850万円,855万円,900万円,920万円,1150万円などであった。
(2) 上記認定事実によれば,本件取引は,預託金の返還を求めた別件訴訟の係属中に,被告であるAから提案された和解案に起因するものであり,原告が当初の800万円の返還による和解案を拒絶した結果,金額を900万円に増額する代償として,Cとの売買契約の形式を取ることにしたものである。このような法形式を採用した主たる背景には,預託金の返還という形式を取ると,他の会員からの預託金返還請求が殺到し,本件ゴルフクラブの経営が危機に瀕しかねないとのAの判断があったと推認されるが,他方で,原告としても,投下資本をできる限り多く回収したいとの意図があり,そのためには,法形式としては預託金返還にこだわらず,第三者への売買であってもかまわないとの判断があったことは否定し難いというべきである。そうだとすると,原告及びC(及びその背後にあって,Cに本件取引の相手方となることを依頼したと推測できるA)において,売買契約という表示行為に対応した内心的効果意思が存在しなかったと認めることはできない。現に,原告自身,収受した金員については,売買を前提とした会計処理を行っているし,Cにおいても,Aとの関係で,本件取引が売買であることを前提とした事後措置を講じていることは,上記認定事実のとおりである。
(3) これに対し,原告は,①本件取引の実体は本件預託金の返還を求める別件訴訟を解決するためにされたものであること,②本件取引における代金額は,当時の市場価格と比較して不合理なものであることなどを理由に,売買契約の形式を取る本件取引は通謀虚偽表示によって無効であり,当事者の真意は預託金の返還にあった旨主張する。
なるほど,上記のとおり,本件取引は,預託金の返還を求めた別件訴訟の係属中に,被告であるAから提案された和解案に起因するものである。しかし,最終的に,原告とCとの間で本件会員権を売買することによって,Aとの間の紛争を終了させることで当事者は合意している(当事者による売買契約の選択)以上,預託金の返還請求は,単なる契機としての意味しか持ち得ないというべきである。
また,本件取引における代金額が市場価格よりも高額な点についても,据置期間が10年間延長される旨の本件ゴルフクラブの理事会決議がなされたことを前提として形成される価格と,上記決議の有効性を否定して裁判手続に訴えた事情を反映した価格との間でかい離を生ずることは何ら不合理なこととはいえない。現に,裁判手続を経て,本件取引と同様の解決方法を選択したいくつかの事例においては,本件取引における代金額と同額ないし近似した価格でもって譲渡されていることは前記認定事実のとおりである。
したがって,原告の主張に係る①,②のような事実があったからといって,本件取引が通謀虚偽表示によって無効であると認めることはできない。
4 本件各処分の適法性
前記判断のとおり,本件取引は,その法形式どおり,本件会員権の売買契約と評価されるべきものであるから,これの対価たる代金は消費税の課税標準とされるべきところ,原告の確定申告に係る消費税等の課税標準額に上記代金額を加えて,関係法条を適用して納付すべき消費税等を算出すると,本件各処分によるそれらと同額になる。
また,本件においては,原告について,国税通則法65条4項に定める正当な理由が存在するとは認められないから,過少申告加算税賦課決定も適法というべきである。
5 結論
  以上の次第で,原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

    名古屋地方裁判所民事第9部


          裁判長裁判官   加藤幸雄


             裁判官   舟橋恭子


             裁判官   片山博仁

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最終更新:2005年10月19日 10:35
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