hanrei @Wiki H17. 7.13 名古屋高等裁判所 平成14年(行コ)第47号 損害賠償等請求控訴事件



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主 文
      1 原判決を次のとおり変更する。
      2 被控訴人らの訴えのうち,控訴人らに対し5640万円及びこれに対する平成11年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分をいずれも却下する。
      3 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
      4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
  事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人A
  (1) 原判決中控訴人Aの敗訴部分を取り消す。
  (2) 上記控訴人A敗訴部分のうち,同控訴人に1375万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分の訴えをいずれも却下する。
  (3) 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
(4) 訴訟費用は第1,2審を通じて被控訴人らの負担とする。
 2 控訴人会社
主文同旨
 3 被控訴人ら
  (1) 本件控訴をいずれも棄却する。
  (2) 訴訟費用は控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 1(1) 本件は,蒲郡市が,蒲郡情報ネットワークセンター・生命の海科学館(以下「本件科学館」という。)の開設準備のために,博物館等の企画制作を業とする控訴人会社との間で締結した化石標本類の購入契約(①平成9年9月25日締結の原判決別表1記載の化石標本類284点を代金総額7000万円で購入する旨の購入契約,②平成10年6月17日締結の原判決別表2記載の化石標本類85点を代金総額1億7745万円で購入する旨の購入契約。以下「本件各購入契約」という。)が,随意契約の方式で契約を締結するに際して遵守すべき蒲郡市契約規則に反し,あるいはその代金の約定が,目的を達成するために必要かつ最少の限度を超える経費の支出をしてはならない旨定める地方自治法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)2条13項(現同条14項),地方財政法4条1項に反するものであり,同市は支払われた代金額から適正金額を控除した金額の損害ないし損失を被ったとして,同市の住民である被控訴人らが,同市に代位し,上記契約締結及び代金の支出命令を行った同市の市長である控訴人A個人に対して,地方自治法138条の2の定める執行機関の誠実執行義務違反(不法行為)に基づく損害賠償として,また契約の相手方である控訴人会社に対して,上記各購入契約のうちの一部(各契約で購入された原判決別表1のNo.1ないし3,同別表2のNo.4,6,8ないし11,13,15,17記載の12品目(以下,個別には,そのNo.で表し,総称して「本件化石類」という。なお,これら12品目を含め上記各購入契約の対象たる化石類及び隕石類を総称する場合には「本件化石類等」という。)についての部分)に関する上記適正金額を超える約定代金部分について,地方自治法2条13項,地方財政法4条1項の趣旨に著しく反し,公序良俗に反するもので私法上も無効であるとして,不当利得返還請求に基づき,連帯して,同市に対し,上記適正金額との差額である1億5409万円及びこれに対する訴状送達の日の後である平成11年1月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めた住民訴訟である。
(2) 控訴人らは,①被控訴人らの請求のうち平成9年の購入契約に係る部分は,監査請求期間が遵守されておらず不適法である(本案前の抗弁),②本件化石類はいずれも貴重かつ稀少で,他の方法では入手不可能なものであり,相見積りを徴求すべき前提を欠くから,被控訴人らが主張する随意契約締結の際の手続の違法(蒲郡市契約規則22条に定める相見積りの徴求による適正価格の確認不履行)はない,③本件化石類についての約定代金はいずれも適正であって,被控訴人らの主張するような違法はない,などとして争った。
 2 原審は,本件化石類の代金約定は,契約締結担当者の裁量権を考慮してもなお上記各法条の趣旨に著しく反し,明らかに違法であり,社会通念上も著しく妥当性を欠くと認められ,本件化石類のうちNo.2,4,8ないし11,13及び17について,鑑定による最高評価額に1.5を乗じた金額又は判明している輸入申告価格に3を乗じた金額のうちより高い金額を超える部分(合計6568万円)については,私法上もまた無効というべきであるとして,控訴人らに対し,不当利得ないし損害賠償として,連帯して6568万円及びこれに対する平成11年1月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,控訴人らの請求を認容した。
そこで,これを不服とする控訴人らが本件控訴に及んだ。
なお,1審原告のうち1審原告B及び同Cは,当審において訴えを取り下げた。
 3 本件の前提となる事実(争いのない事実等),争点,争点に関する当事者双方の主張は,当審における当事者の主張に従って,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるからこれを引用する。なお,以下,略称等は原判決に準じて用いることとする。
  (1) 原判決3頁16行目冒頭から同4頁6行目末尾までを次のとおり改める。
   「(3) 蒲郡市は,控訴人会社との間で,本件科学館の開設準備のため,以下のとおり業務委託契約や化石標本類購入契約(本件各購入契約。以下,冠せられた丸囲み数字を付して,「①契約」などという。)を締結し,その代金等を支払った。
ア 平成9年4月1日  ①プロデュース業務委託契約(委託料2500万円)及び②資料収集委託契約(委託料1000万円)の各締結
イ 同年7月31日   ①契約の委託料内金2000万円の支払
ウ 同年9月25日   ③原判決別表1記載の化石標本類284点の購入契約(代金総額7000万円)の締結
エ 同年10月2日   ③についての支出命令
オ 同年10月20日  ③契約の代金7000万円の支払
カ 平成10年4月1日 ④プロデュース業務委託契約(委託料2500万円)及び⑤資料収集委託契約(委託料2992万5000円)の各締結
キ 同年4月15日   ①契約の委託料残金500万円及び②契約の委託料1000万円の各支払
ク 同年6月17日   ⑥原判決別表2記載の化石標本類85点の購入契約(代金総額1億7745万円)の締結
ケ 同年9月25日   ⑥契約の代金1億7745万円の支払
コ 平成11年4月23日  ⑤契約の委託料2992万5000円の支払」
  (2) 同4頁14行目の「監査請求」の次に「(以下「本件監査請求」という。)」を付加する。
(3) 同4頁23行目冒頭から5頁24頁末尾までを次のとおり改める。
   「(1) 監査請求期間の遵守の有無(本案前の争点)
    (控訴人Aの主張)
ア 本件訴えのうち,控訴人らに対して前記1(3)オ(引用に係る付加訂正後の原判決)の7000万円から被控訴人らが適正金額と主張する1360万円を控除した5640万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分は,適法な監査請求を欠き不適法であるところ,原判決において,上記7000万円のうち5625万円については既に請求棄却の本案判決がされていることから,7000万円から5625万円を控除した1375万円(及び遅延損害金)の支払を求める部分について,訴えが却下されるべきである。(なお,仮に上記抗弁が認められない場合には,請求棄却の判決を求める趣旨である。)
イ すなわち,まず第一に,契約に基づいて支出命令が出され,支出がなされる事例のように,財務会計上の行為が一連の手続によって構成される場合においては,各行為が財務会計行為としては一応別個のものと観念され,それぞれが独立して監査請求及び住民訴訟の対象となり得るものであるとしても,支出行為を対象とする監査請求が,支出行為固有の違法事由を主張するのではなく,契約締結に違法事由があることを理由とするのであれば,地方自治法242条2項本文所定の監査請求の期間は当該契約締結時から起算すべきものである。そのように解さなければ,当該契約に基づく支払行為が続く限りは支払行為に固有の違法事由がなくとも契約締結行為の違法を主張して監査請求を行うことができることになり,監査請求期間を定めた法の趣旨を没却することになる。
原判決は,この点に関し,被控訴人らの主張は,③契約と⑥契約の一部無効をいうものであるから,同無効部分に係る履行義務のない債務について弁済名下に公金の支出命令を発したという固有の違法性主張を内包していると解すべきであるとして,監査請求期間の遵守に欠けるところはない旨判示しているが,被控訴人らの主張は,要は契約の一部無効をいうのみであってそのような主張は含まれておらず,支出命令に固有の違法を主張するものではない。
本件で被控訴人らが控訴人らに対して求めている損害賠償等の請求のうち,平成9年10月20日に支払われた7000万円の代金は,③契約に基づくものであり,この契約は原告らによる監査請求より1年以上前に締結されたものであるから,結局適法な監査請求を経ていないことに帰するというべきである。
ウ また,仮に,被控訴人らの主張に上記のような主張が含まれているとしても,市長が行うのは支出命令までであり,支払行為は収入役によって行われるところ,本件③契約に係る支出命令は,平成9年10月2日に行われているから,これに対する監査請求は同日を起算日として1年以内になされなければならないことになる。平成10年10月19日にされた本件監査請求はこれを徒過しており,いずれにせよ不適法である。
なお,本件支出命令については,蒲郡市の決裁規定により,市長の補助職員である主管部長である企画部長が専決処分をしている。したがって,本件支出命令について地方自治法242条の2第1項4号に基づき市長が負うべき責任の原因は,専決させた補助職員に対する指揮監督責任ということになる。
いずれにせよ,被控訴人らの本件訴えのうち,③契約に基づく代金支払額とこれについて被控訴人らが適正金額と主張する金額との差額等の支払を求める部分は,適法な監査請求を経ておらず,不適法である。
エ これに対し,被控訴人らは,地方自治法242条2項ただし書に定める正当理由がある旨主張するが,失当である。③契約については,平成9年3月の市議会で購入予算が,また同年9月の市議会で購入契約締結議案が,それぞれ公開の下で審議・議決されていたのであり,監査請求人団の一人は市議会議員の妻であったこと,蒲郡市内の全戸に配布された「がまごおり議会だより」の平成9年11月1日号に,同年9月の定例市議会で,同市が控訴人会社から,本件科学館に展示される化石として,オーストラリア産のエディアカラ動物群化石,中国産の澄江動物群化石,カナダ産のバージェス動物群化石の合計284点を代金7000万円で随意契約により購入する旨の議案が審議され,可決された旨の記事が掲載されていること,また同じく同市内の全戸に配布された「広報がまごおり」平成10年2月1日号には,平成9年度に購入した上記化石の説明が写真入りで掲載されていたことからすると,遅くとも平成9年度末(平成10年3月末日)までには,被控訴人らにおいて相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に③契約及びこれに係る支出命令の存在及び内容を知ることができたものというべきである。したがって,その日から6か月以上を経過した同年10月19日にされた本件監査請求は相当の期間内に監査請求をしたものとは解されず,正当な理由があるということはできない。
仮にそうでないとしても,平成9年度の本件化石類の購入については,平成10年度の本件化石類の購入と併せて新聞及び週刊誌によって大きく報道され,遅くとも平成10年7月3日ころには被控訴人らにおいて相当の注意力をもって調査すれば,客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に③契約の締結及びこれに係る支出命令の存在及び内容を知ることができたというべきである。したがって,その日から3か月半以上経過した同年10月19日にされた本件監査請求は相当の期間内に監査請求をしたものとは認められず,正当な理由があるということはできないと言うべきである。
オ 被控訴人らは,本件監査請求は,対象事実として,控訴人らに対する不法行為による損害賠償請求を怠る事実も含むものである旨主張するが,財務会計上の怠る事実についてであれば常に監査請求の期間制限が及ばないと解すべきではないし,そもそも本件監査請求において,そのような怠る事実に係る請求がされたとみることはできない。被控訴人らが引用する最高裁判決は,本件とは事案を異にするものである。
    (控訴人会社の主張)
ア 本件訴えのうち,控訴人らに対して前記1(3)オ(引用に係る付加訂正後の原判決)の7000万円から被控訴人らが適正金額と主張する1360万円を控除した5640万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分は,適法な監査請求を欠き不適法であるから,訴えが却下されるべきである。
イ 公金の支出は,支出負担行為,支出命令及び狭義の支出から成るところ,前二者は地方公共団体の長の権限に属するのに対し,後者は出納長又は収入役の権限に属するものであり,各行為に適用される実体的,手続上の法規も異なるのであるから,そのいずれを監査請求の対象とするかにより,違法事由も監査内容も異なることになる。したがって,監査請求の対象が狭義の支出である場合でも,支出行為固有の違法事由を主張するのではなく,契約締結に違法事由があることを理由とする場合には,監査請求の期間の起算日は当該契約締結日と解すべきである。 
ウ さらに,被控訴人らの本訴請求は,当時の蒲郡市長である控訴人Aの行為の違法に基づくものであるから,監査請求期間は,支出負担行為(契約締結)の日である平成9年9月25日ないし支出命令の日である同年10月2日であるところ,本件監査請求はそのいずれから起算しても1年以上を経過した後に行われていることは明らかであるから,いずれにせよ本件訴えのうち上記部分は不適法として却下を免れない(最高裁平成14年7月16日判決参照)。
(被控訴人らの主張)
ア 控訴人らの主張は争う。
イ 契約の締結行為とその履行行為(支出命令,支出行為)とは,財務会計行為としては別個のものであり,それぞれが独立して監査請求及び住民訴訟の対象となり得ることはいうまでもなく,したがって,監査請求期間も各行為ごとに起算されるべきである。
そして,本件のように,市長による契約締結とこれに基づく支出命令とが,同一の行政機関によって行われた財務会計行為である場合,契約締結に違法事由が存すれば,支出命令にも承継されるのは当然である。
ウ 本件では,支出命令がなされたのは平成9年10月2日であり,本件監査請求より1年以上前であるが,支出命令は,現実の支出によって,財務会計上の行為として現実化し,外部的に完成され,その適否及びそれによる地方公共団体の損害の発生の有無を客観的に判断することが可能になるのであるから,現実の支出と一体の行為と解するべきであり,監査請求の期間は,現実の支出の日から起算すべきである。
また,支出命令の権限を有する者の責任の観点からみても,同権限を有する者は,支出命令を行うに当たってその適否を検討べきであることはもちろん,同命令の発出後においても現実の支出が行われるまでは,支出命令の適否を検討し,違法事由があると判断した場合にはその行為を取り消すべき義務があるのであり,支出命令が監査請求より1年以上前にされているからといって,その責任を免れ得るものではない。
エ 本件監査請求は,適法であり,蒲郡市の監査委員においても適法なものとして取り扱われている。被控訴人らは,従前の証拠関係に鑑み,原審最終口頭弁論期日において収入役に対する請求を取り下げたが,これによって本件監査請求が遡及的に不適法となるものではない。
オ 仮に,本件監査請求が,原則として本件支出命令の日から1年以内にされなければならなかったとしても,本件監査請求は,地方自治法242条2項ただし書きにいう「正当な理由」を有するものとして適法である。すなわち,上記正当な理由の有無は,特段の事情がない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたか否か,また知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求を行ったか否かによって判断されるべきところ(最高裁平成14年9月12日判決,同年9月17日判決),被控訴人らは,この支出命令がいつなされたかは知らず,また知ることができなかったのであり,かつ,平成10年10月19日に本件監査請求をしているのであるから,上記正当な理由があるというべきである。
カ 仮に,被控訴人らの上記主張が是認されないとしても,本件監査請求は,要するに,本件化石類等の購入価格が暴利,すなわち社会通念に反する程度に著しく高価であり,その購入契約が公序良俗に違反する無効なものであるとして,控訴人らに対する損害賠償請求を行うべきことを対象としてなされたものである。したがって,本件監査請求は,控訴人らによる本件各購入契約の締結等自体のほか,控訴人らが,上記公序良俗に反する無効な契約に基づき本来蒲郡市が支払うべき必要のない代金を支払わせたことに基づき,蒲郡市が控訴人らに対して有する損害賠償請求権の行使を怠っていることをも,その対象として含んでいるものと解すべきである。そして上記損害賠償請求権は,本件各購入契約が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて生ずるものではなく,その成否は,控訴人会社と蒲郡市との間の本件各購入契約の締結が公序良俗に反する違法なものとの評価を受け,これに加担した控訴人らの行為が不法行為であるとの評価を受けること,これにより蒲郡市に損害が生じたこと等を確定すれば明らかになる(本件各購入契約が財務会計法規に違反する違法なものであったか否かについて検討する必要がない)のであるから,同請求権の行使を怠る事実について地方自治法242条2項本文の監査請求期間の制限が及ばないとしても,財務会計行為について上記期間制限を設けた同規定の趣旨を没却することにはならない(最高裁平成14年7月2日判決,同10月3日判決等参照)。
  したがって,本件監査請求については,上記監査請求期間の制限は及ばず,本件は適法に監査請求を経たものというべきである。」
(4) 同7頁25行目末尾に行を改め,次のとおり付加する。
 「以上のとおり,本件科学館には同館のコンセプトに適合した特別の一点を展示する必要があったところ,これを期間内に調達・納入することができる能力を有した者は控訴人会社以外になかったのであるから,相見積りを取ることは不可能であって,被控訴人らの主張はその前提を欠くというべきである。」
(5) 同9頁4行目末尾に次のとおり付加する。
「また,控訴人らは,Dとの人脈形成の重要性について強調し,そのための費用を本件売買代金の積算根拠として挙げるが,失当である。控訴人らの主張する費用は,本件澄江動物群化石の標本自体の価格とは何ら関係のないものであることは明らかである。」
(6) 同9頁25行目「(No.4)は,」の後に次のとおり付加する。
「輸入申告価格によれば,1454万3637円であり,また」
(7) 同10頁1行目末尾に次のとおり付加する。
「本件標本の輸入申告価格が,1454万3637円に過ぎないことからしても,価格が不適切であることは明らかである。」
(8) 同11頁17行目冒頭から16頁13行目末尾までを次のとおり改める。
「( 控訴人らの主張 )
被控訴人らの主張は否認ないし争う。
ア 本件化石類の約定代金額の相当性
被控訴人らの主張する適正金額は,誤った前提に基づくものか,具体的な根拠を欠くものである。以下のとおり,本件化石類の約定代金額は相当である。
(ア) 考慮されるべき要素
控訴人会社は,企画と標本収集・展示とをパッケージとして提案する業務形態をとってきており,本件科学館に関する企画案を提案する時点において,既に同展示の核となり得る入手困難な標本をある程度確保していたし,各標本の専門分野の国内外の一流の学者との広範なネットワークを有していた。このような事情も考慮されて,蒲郡市が平成8年度から平成10年度の事業として検討していた構想(蒲郡市の高度情報化計画及び海洋情報センターの建設)の具体化・推進について同市の委嘱を受けて検討していた蒲郡市新世代高度情報化計画委員会の答申で,控訴人会社の本件科学館に関する企画案が採用されることとなった。この経緯をふまえ,展示用標本の選定収集及び価格の設定は,控訴人会社において以下のように行われた。
展示用標本の選定収集については,上記答申を踏まえて,本件科学館が,①観光施設としての機能,②教育施設としての機能,③研究施設としての機能を有するべく,①との関係では,大きいこと,世界一であること,日本一であること等分かりやすい驚きの要素を取り入れること,②との関係では,地球史,生命史の中で,新しい地球観,生命観を提案するについて必要なポイントとなる標本を1つずつ取り入れること,③との関係では,本件科学館に科学者が集まり,新たな研究の素材となり得るような標本を集めることを基本方針とすることとし,蒲郡市の概ねの予算が明らかになった時点で,控訴人会社において具体的に選定の上,必要な標本を購入したものである。購入に際しては,国内外の学者の見解を参考としつつ,必要かつ良質な標本が市場に出る前に探し出す作業を行い,収集した。また,展示標本としては,出自が明確で,適法・適正に入手されたものであることが必要であり,また郵政省の補助事業としての制約から,全ての標本類は,事業年度内(平成8年度から10年度)に購入・納入される必要があった(さらに関係資料の整備期間を考慮すれば,平成10年度中には納品の必要があった。)。
本件各購入契約における本件化石類等の価格設定については,控訴人会社の社員であったEが,①同人自身購入に携わり,購入価格・実費等が明らかなものについては,その購入価格及び実費を基準として価格を決定し,②既に購入されていたものや珪化木のように取引の過程で入手できたために,購入価格や実費が明らかでないものについては,通常の市場価格や寡少性(入手困難性)等を勘案して価格を決定した。この際,上記の経過を踏まえ,既に確保済みであった標本群を補完すべき標本を決定する知的作業をしたことも各標本の価格設定について按分加算したが,これは,通常企画料または管理費ともいうべき実質を有する費用であるところ,蒲郡市との契約が収集委託という形ではなく,物品購入という名目で行われたために,代金額として折り込むべきこととなったものである。このほか,実際に各標本を購入した価格に加えて,標本によっては,展示用に切断したり,磨いたりした加工費,標本の品質を現地で確認したり,当該標本が正規に採取されたものであるかや提示された書類の正確性を別途確認するために要した費用も加算されている。また,本来,上記のような趣旨で本件化石類等を一括して随意契約で購入するという方法を採らざるを得なかったものであるから,購入価格の妥当性は,一品ごとの価格の比較検討ではなく,購入品全体についての代金総額の妥当性の問題として検討されるべきである。
化石は,一つ一つが全く別物であり,同一の物は存在しない上,その価格は,貴重性・稀少性,出自,大きさ,数量,品質,保存状態等により大きく左右される。そして,本件化石類等は,大学や研究者らが対象とする科学的価値と,博物館や科学館において基準となる展示的価値の双方を兼ね備えたミュージアムクオリティを有する,貴重かつ稀少で学術的価値の高いものであるから,いわゆる一般の化石業界においては流通しないものが多く含まれている。控訴人会社が採用した上記価格設定の方法は,そのような場合における価格設定方法として合理的なものというべきである。
    (イ) 本件鑑定結果(原審鑑定嘱託に基づくもの。以下「本件鑑定」といい,これに関連して当審において尋問した鑑定嘱託先の法人代表者を「鑑定人」という。)等について
        被控訴人らは,化石標本類を取り扱う業者らによる本件鑑定を根拠として,本件約定代金額が著しく高額である旨主張する。
        しかし,鑑定人たる上記業者らはいずれも,海外の標本店やミネラルショーでの購入が主たる取引先であり,学者等に直接標本の収集を委託したりするような取引業態はとっていないのに対して,控訴人会社は,前記のとおり,各標本の専門分野で一流の国内外の学者との間で広範なネットワークを有し,これに基づき,自ら本件科学館のコンセプトに合った標本の収集を行い,標本の収集過程において,直接学者に収集委託や鑑定依頼をすることを通じて,これら一流の学者を本件科学館における展示や活動に結びつけるネットワークを構築する等,企画,標本収集・展示をパッケージとして提案するような業務形態をとっている。したがって,鑑定人らの価格設定は,控訴人会社における価格設定とまったく前提を異にするものであって,比較の対象とはなり得ないというべきである。
また,株式会社Fの鑑定書によれば,輸入申告価格ないし購入先からの送り状記載の価格を基準とした算定方法が採られているようであるが,同社の取引先は上記のとおり海外の標本店等であり,控訴人会社のように学者等が相手である場合とは,その金額の持つ意味が異なるのであるから,控訴人会社に当てはまるものではない。
(ウ) 被控訴人らが,代金額が著しく高すぎると主張する本件化石類(12品目)についての個別的反論は以下のとおりである。
a 澄江動物群化石(№1,15)
カナダのバージェス動物群化石より1000万年ほど前の化石で,現在知られる最古の脊椎動物が含まれているという意味で学術的に極めて有用であり,総数269個の標本群は日本国内において他に類を見ない。本件科学館の研究施設としての機能上,重要な標本である。澄江研究の第一人者であるD教授とのネットワークを確立する役割も果たした。
被控訴人らは,1個約3万円で入手した実例があると主張するが,何らの根拠もない。控訴人会社は,これを納入するに当たり,原判決別表3-1記載のとおり,取得原価997万6853円と,同別表3-2中右欄に「①」と記載した出金項目のとおり(ただし,左欄の乙号証枝番14及び同15の列を削除し,平成10年6月10日の各出金項目に「Dに会うための出張(澄江)」とあるのを「資料収集のためのニューヨーク滞在費用の一部」とそれぞれ改める。また,これに伴って,同別表3-1の右欄に「別表3-2の①参照」とある列の「仕入に要した費用」欄記載の「\13,887,559」を「\11,287,559」と改める。),本標本の鑑定を依頼したD教授との連絡等に要した費用や鑑定費用1128万7559円を実費として出捐している。これに,一般の人件費・経費をも加算すべきことを考えれば,3425万円の代金は適正である。
本件鑑定において示された販売実績価格等は,いずれも前提となる販売数が限られているほか,ミネラルショー等での購入を前提とするものであったり,その出自や品等が不明である等,本件について何ら参考になるものではない。
b エディアカラ動物群化石(№2)
         国内には,国立科学博物館に古い資料が1点あるのみで,一般にオーストラリア政府によって,国家遺産(自然遺産)として輸出が禁止されているのみならず,採取も禁じられているため,市場に出回ることはほとんどない。正規に輸出するためには,自然遺産の専門委員会の審査を受ける必要があるが,この審査は極めて厳しいものであって,申請が認められることは稀である。本標本は,輸出許可を得て日本に持ち込まれたものであり,その希少性は明らかである。
         本標本は,控訴人会社がG県立生命の星・地球博物館(以下「G県立博物館」という。)に納入予定だった6個のうちの4個であり,収集委託がキャンセルとなった際にG県に返却した金額2878万7000円の3分の2に当たる1800万円を基準として定めたものであり,1600万円の代金は適正である。
         本件鑑定において示された価格等は,正規の輸出証明が添付されたものではなく,鑑定人尋問(当審)においても,鑑定人らはその入手が困難であることを認めており,何ら参考となるものではない。
       c バージェス動物群化石(№3)
上記bと同様,一般の業者では入手できないものであり,当然にその価格は高額にならざるを得ない。特に,81点もの標本を一つの科学館が所蔵することは極めて珍しく,国内における本件科学館の地位を高めるに十分である。
なお,この標本を取得するについては,原判決別表4記載のように合計2359万0610円の経費を要している。控訴人会社は,取得した標本の中から,ミュージアムクオリティを備えた81点を本件科学館に納入し,手元に18点を残しているが,良質の81点を入手するための費用として,上記金額全部が必要であったと考えるべきである。本来は一般的な人件費等を加算する必要があるが,蒲郡市の予算の制約に鑑み,ほとんど利益を乗せることなく販売価格を2700万円としたものであり,適正な価格である。
本件鑑定において示された価格等は,81点ものまとまったコレクションの調達は不能とした上での数値であり,何ら参考になるものではない。
       d 古代クジラ骨格化石(№4)
本標本は,残存率が約95パーセントと高い上,開口した状態で特徴的なヒゲ状の歯列をよく観察することができる世界的にも極めて希少性の高い標本である。
国内には,4900万円で購入された同種の標本がH県立自然史博物館に存在する程度であるが,状態は本件科学館に納入された標本の方が優れている。また,アメリカ合衆国の化石発掘で有名なブラックヒルズ研究所が取り扱った比較的サイズ・品質の近似した同時代のクジラの化石があるが(「BALA」),その全長が7.5メートルであるのに対し,本標本は,全長が8.3メートルと大きい上,開口している点で,大きさ,品質ともに,当時公立博物館における展示標本の中では世界一と言い得るものである。そこで,「BALA」の価格(25万米ドル)の2倍に当たる50万米ドル(5500万円)を基本として,これにアメリカからの梱包費用50万円,保険費用60万円,輸送費用60万円として加算して(総額5672万円),販売価格(5395万円)を決定した。
輸入申告書記載の金額は,控訴人会社とアメリカのディーラーとの間で,従前控訴人会社がいくつかの化石の売買があり,手付金を交付したにもかかわらず買い受けできなかった案件等があり,その清算を本標本と桂化木の代金額で調整したものであり,実態を反映した価格ではない。
本件鑑定等において示された価格等は,実際の取引事例に基づくものではなく,恐竜等との対比に基づく推計に過ぎないから,全く参考になるものではない。
       e マーチソン隕石(№6)
これは,太陽系の平均的化学組成と一致し,その原料物質と考えられている。相当量の水分や有機物を含むという特性を有するが,落下直後からの保管状態によって大きく影響を受けるところ,本標本は,落下直後から研究資料として質を維持するべくアルミ箔等で酸素を遮断して保管されたために極めて保管状態が良く,入手困難な資料である。
控訴人会社は,本標本とアエンデ隕石(№5)外2点を取得するため7万4500ドル(924万円)を支払ったが,うち1点は抱き合わせで買わされたほとんど無価値なものであり,他の1点は100万円相当であったため,結局,本標本とアエンデ隕石の取得費用として824万円を出捐していることになる。そこで,本標本とアエンデ隕石(No.5)をそれぞれ619万円,714万円と評価の上,合計1333万円で蒲郡市に売却した。人件費等の一般経費を考慮すれば適正な金額であることが明らかである。
本件鑑定等において示された価格等は,真空保管を前提としないものであり,何ら参考になるものではない。
       f テクタイト(№8)
テクタイトは,隕石が地上に激突した際に地中のガラス質の物質が圧力と熱で溶かされて結晶化し,激突の衝撃で大気中に飛散したものであるため,一般市場に出回っているものは,通常長さ数センチメートル,重さ100グラムから150グラムの小さな水滴状またはすりこぎ状のものばかりであり,本件のように大きくて(3キログラム)不定形のものは極めて稀少である。
控訴人会社の取得金額は180万円であったが,蒲郡市との取引上の制約を考慮して,販売価格を156万円としたもので,控訴人会社としては赤字である。上記金額は,同じ産出地(東南アジア)の市場価格を参考に,これを本標本の大きさに引き直した金額を24万円と割り出し,希少性や諸経費を考慮して120万円を購入原価相当分とした上,梱包,輸送,保険費用5万円を加算し,利益を見込んで算出したものである。
本件鑑定等は,1社が販売実績に基づく回答をしているが,その形状や大きさは不明であり,2社が形状や大きさの違いを理由に算定不能と回答していることからしても,参考にならないことは明らかである。
       g 珪化木(№9)
本件のような全長約9メートルの標本は,アメリカ自然史博物館,スミソニアン自然史博物館,ロンドン自然史博物館,オーストラリア自然史博物館でも展示されておらず,世界的にみても極めて稀少である。同等のものといえるのは,アメリカ合衆国・アリゾナ州の珪化木自然博物館に自然の状態で公開されているもののみであり,将来的にも入手は困難である。
そのため直接参考となる類似のものが見当たらず,価格の算定は,市場に出回る機会の多いスライス状の標本のうち産出地・時代・直径が近似するものを9メートル分に換算することによって行った。アメリカの化石・岩石・隕石などのオークション会社であるフィリップスで出品されたスライス状の標本(最長部82.55センチメートル,最短部61センチメートル,厚さ3センチメートル)の落札価格(3250米ドル=33万7500円)を参考とし,標本両面の切断費用を2万円,各面の研磨費用を5万円として換算すると,総額8095万円((337,500-70,000)×300+20,000×10+50,000×10)となり,本件標本の方が,参考標本よりも断面の美しさの点で優れていたが,蒲郡市の予算上の制約から,3分の1を減じ,5400万円と試算した。これに,アメリカから日本への輸送費用として,梱包費用30万円,保険料67万円,輸送費用50万円を加算し,総額5547万円となったが,全体予算との関係でさらに1000万円を減じ,最終価格を4500万円としたものである。
控訴人会社は,元々,T-Rexという恐竜化石の購入代金として相当額を送金したが,同化石をアメリカの大手企業が購入した結果,控訴人会社はこれを入手できなくなったため,代物弁済のような形でこの珪化木を取得することになった。したがって,その取得費用は,T-Rexのために出捐した5294万9454円となるから,4456万円の代金は適正である。なお,輸入申告書記載の金額は実態を反映していない(古代クジラに同じ。)。
本件鑑定における価格等は,算定不能とするもののほか,いずれも具体的可能性を前提としない推計に過ぎないことを鑑定人自身自認するものであり,何ら参考となるものではない。
       h イスア礫岩(№10),アミツォークナイス(№11)
これらは,標本業界の一般市場では流通していない極めて希少性の高いものである。
このため,G県立博物館に納入した際に採取に要した経費を価格決定の基準価格とした。実際に要した経費は,本標本を採掘するためにのみ要した費用ではないが,何度も調査と採掘を重ねる必要があり,グリーンランドにおける標本採取の実費は5000万円以上に上る。かかる実費額を基準とすると高額にならざるを得ないことから,各標本を採取する場合を想定して経費を積算すると,別紙1ないし3記載のとおりであり,代金合計1229万円は合理的な額というべきである。
原審鑑定は,いずれも算定不能としている。
       i ストロマトライト(№13)
未解明の部分が多く,カナダのスレイブ湖周辺で採取されたものは化石年代上重要な意味を持ち,したがって価値も高い。
控訴人会社は,市場で流通していないため,G県立博物館に納入する際に採取にかかった経費を価格決定のための基準価格とした。これを取得するために控訴人会社は559万0084円を出捐しており,また上記hと同様の推計によっても,635万円の代金は適正である。
本件鑑定における価格等については,上記のとおりカナダ産の重要性から,ボリビア産のものと比較するのは誤りであるし,ボリビア産も購入不可能であることを鑑定人自身自認しているから,何ら参考にならない。
       j シーラカンス化石(№17)
本標本は,シーラカンス類の進化上ごく初期のもので,状態もよく稀少価値の高いものである。
本標本の購入価格は12万円であったが,正規の採掘化石であることの証明のため,アメリカのディーラーの代表者に直接採取者に確認してもらう必要があったことから,そのための費用として35万円程度を要した。したがって,代金68万円は適正でないとはいえない。
本件鑑定における価格等からしても,妥当な価格ということができる。
イ 蒲郡市における価格設定の適否等に関する検討
   蒲郡市は,原判決別表1記載の化石標本類については,品質を学者の鑑定により,価格を国内の博物館との意見交換(学芸員による調査)によって得た情報等により,その正当性,妥当性を判断した上で,市議会の議決を経たものである。また,同別表2記載の化石標本類については,地学,地質学,地球惑星学,博物館学等の自然科学の第一人者である学者らを委員とする蒲郡海洋情報センター標本評価委員会(以下「本件評価委員会」という。)に,真贋,本件科学館のコンセプトへの適否及び価格の妥当性について評価を依頼し,その答申(価格の適正については,やや高価なもの,安価なものもあるが,全体的には妥当で入手すべき価格と考えられるというもの)に基づいて,市議会で具体的に審議の上,議決を経たものであり(なお,同評価委員会は,当時既に納入済みであった平成9年購入分についても審議している。),適正な手続を経て定められているというべきである。
    原判決は,本件化石類等の購入価格の適正について,取得に要した費用を基礎として,一般経費,特別経費を加え,さらに適正な利益を上乗せする方法で算出した金額と対比することにより,検証することが可能であり,かつ検証すべきであるとするが,このような内容は売買契約の売主にとって企業秘密に属することであって,当然にその提示を求めることができるものではない。そして,本件のように対象が稀少,貴重で,一般にその取得原価や諸経費の算定を行うことが困難な場合は,かかる検証は困難なのであって,原判決は,控訴人Aに不可能を強いるもので,その意味でも失当である。」
(9) 同17頁2行目「反するものであり,」の後に「社会通念上も著しく妥当性を欠き,」を付加する。
同17頁11行目末尾に行を改め,次のとおり付加する。
(10) 「ウ(当審において追加された予備的請求)
また,蒲郡市は,控訴人らに対する上記損害賠償債権ないし不当 利得返還請求権の行使を怠るものであるから,被控訴人らは,地方 自治法242条の2第1項4号に基づき,怠る事実の相手方である 控訴人らに対し,蒲郡市に代位して,予備的に同額の損害賠償を求 める。」
(11) 同17頁12行目冒頭から22行目末尾までを次のとおり改める。
「(控訴人らの主張)
ア 被控訴人らの主張は争う。
イ 随意契約については,地方公共団体の長及び契約担当者には広範な裁量が認められるところ,前記のとおり本件各購入契約に係る本件化石類等については,その品質,価格等について,本件評価委員会等における適切な審議・承認を受け,高い評価を得ているものであり,議会においても実質的な審議の上で本件各購入契約の了承を得て行われているものである。したがって,本件各購入契約の締結について,何らの瑕疵も認められない。
ウ 仮に何らかの瑕疵が認められるとしても,行政法上の瑕疵によって直ちに随意契約の私法上の無効を来すことはなく,随意契約によることができる場合に該当しないことが何人の目にも明らかである場合や,契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り,又は知り得べかりし場合のように,当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法及び令の規定の趣旨を没却させる結果となる特段の事情が認められる場合に限り,私法上無効となり得る(最高裁昭和62年5月19日判決)のみである。随意契約における契約価格の適正が問題となる場合でも,上記のとおり随意契約については広範な裁量が認められる以上,契約の相手方が不測の損害を被ることがないよう,その効力を否定するについては,さらに格段の違法性がある場合に限られるというべきであり,ことさらに売主の利益を図ったり,当該資産と代金額との間に対価性が認められないほどの著しい不均衡がある等の特段の事情がない限り,契約が無効とされることはないというべきである。   
エ また,地方自治法2条13項,地方財政法4条1項は,地方公共団体がその事務を処理するに当たって準拠すべき指針を一般的,抽象的に示したものに過ぎず,私法上の効力規定ではないから,上記のとおり対価的な不均衡が著しい場合に公序良俗に違反するものとして全部無効をもたらすことはあり得ても,代金の約定が一部無効を来すことはないというべきである。
原判決は,本件の売買代金の約定について一部無効として売買代金を減縮し,控訴人会社に減縮部分に相当する金額の返還を命じたが,これは,裁判所が本件売買契約における代金を決定したことになり,私的自治の原則や契約締結自由の原則に反し,許されないことである。売買契約が可分で,その一部が無効とされても,無効とされた代金相当額と対価的均衡に立つ目的物の返還が認められる場合は別論,それ以外の場合には,売買契約の一部無効は認められるべきではない。仮に原判決のいうように,当事者の合理的意思が残部だけでも効力を維持することにあると考えられる場合には,なお一部無効を認める余地があるとしても,本件において,控訴人会社は本件化石類を原判決が判示したような金額で蒲郡市に売却する意思はない。したがって,本件について一部無効を認める余地はない。
なお,仮に一部無効を来すとする原判決が支持され得るとしても,その無効となる「不当な部分」とは,著しく高額な部分を超える部分に限られると解すべきである(控訴人A)。」
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所は,被控訴人らの本件請求のうち,控訴人らに対し5640万円及びこれに対する平成11年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分は,不適法であるからこれをいずれも却下し,その余の請求は理由がないから,これをいずれも棄却すべきものと判断するが,その理由は,以下のとおりである。
(1) 監査請求期間(③契約関係)の遵守の有無(本案前の争点)について
ア 証拠(甲1,2,丙7,16の1,2及び17)に前記当事者間に争いのない事実等を総合すると,次のとおり認められる。
(ア) 控訴人Aは,平成9年9月25日に,③契約についての債務負担行為を,同年10月2日に,同契約についての支出命令をそれぞれ行い,同年10月20日に,収入役がその支払を行った。
(イ) 被控訴人らは,平成10年10月19日,蒲郡市監査委員会に対し,控訴人A及び収入役が行った,③契約の締結,代金の支出命令及び支出について,a同契約には随意契約によることのできる場合に該当しない違法がある,b購入価格が輸入価格の数倍から1万倍という暴利行為に当たり,民法90条により無効であるなどとして,控訴人A及び収入役に対し,控訴人会社に違法に支出した金員相当額の損害賠償,支出を予定している金員の支出の差止めの勧告を含む適正な措置をとるよう請求(本件監査請求)した。
(ウ) ③契約については,平成9年9月12日,蒲郡市議会総務常任委員会において,同契約の締結決議案が審議され,9月定例会において議決された。がまごおり議会だより平成9年11月1日号には,同契約について,本件科学館に展示される化石として,控訴人会社から,オーストラリア産のエディアカラ動物群化石,中国産の澄江動物群化石,カナダ産のバージェス動物群化石の合計284点を7000万円で随意契約により購入する議案が審議され,可決された旨の記事が掲載されるとともに,上記総務委員会での主な質疑として,購入先を一社見積もりとした理由についての答弁等が紹介されている。また,広報がまごおり平成10年2月1日号には,平成9年度に購入した上記化石の説明が掲載されている。
(エ) 被控訴人らは,原審において当初収入役であったIに対しても訴えを提起していたが,平成14年6月7日,同訴えを取り下げた(裁判所に顕著)。
イ 公金の支出は,具体的には,支出負担行為及び支出命令がされた上で,狭義の支出がされることによって行われるものである(地方自治法232条の3,232条の4第1項)が,このうち支出負担行為及び支出命令は当該地方公共団体の長の権限に属するのに対し,狭義の支出は出納長又は収入役の権限に属する。しかもこれらの者から他の職員に委任等により各別に権限が委譲されることがあり,これらの行為に適用される実体上,手続上の財務会計法規の内容も同一ではないのであって,各行為は,公金支出のために行われる一連の行為ではあるが,互いに独立した財務会計上の行為というべきものである。公金の支出の違法又は不当を問題とする監査請求においては,これらの行為のいずれを対象とするかにより,監査すべき内容も異なることになるから,これらの行為はそれぞれ独立して監査請求の対象事項となるのであり,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間も,それぞれの行為のあった日から各別に計算すべきものと解すべきである(最高裁平成14年7月16日第三小法廷判決・民集56巻6号1339頁)。
     本件は,③契約に係る支出負担行為及び支出命令をした職員である控訴人Aに対し損害賠償請求を行う住民訴訟であるから,これに前置すべき監査請求は,それぞれ支出負担行為及び支出命令のあった日から1年以内にされていなければならないところ,前記事実関係によれば,被控訴人らは,いずれの日からも1年を経過した後に本件監査請求をしたものであることは明らかである。そうすると,本件監査請求は,請求期間を経過した後にされたものというほかない。
そして,地方自治法242条ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたか否かによって判断されるべきところ(最高裁平成14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁),前記認定事実によれば,遅くとも平成10年3月末日までには,被控訴人らにおいて相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解することができるから,その日から相当な期間内に監査請求をすることが必要であるところ,実際には,被控訴人らはその日から6か月以上経過した後に本件監査請求をしたというのであるから,上記正当な理由は認められないといわざるを得ない。
ウ この点について,被控訴人らは,本件監査請求は,要するに,本件化石類等の購入価格が暴利,すなわち社会通念に反する程度に著しく高価であり,その購入契約が公序良俗に違反する無効なものであるとして,控訴人らに対する損害賠償請求を行うべきことを対象としてなされたものであるから,③契約の締結行為についての監査のほか,控訴人らが,上記公序良俗に反する無効な契約に基づき,蒲郡市に本来支払うべき必要のない代金を支払わせたことによる損害賠償請求権の行使を蒲郡市が怠っていることをも,その対象として含んでいるものと解すべきである旨主張し,かかる怠る事実に係る監査請求については期間の制限はないから,本件訴えはすべて適法であるとする。
 しかしながら,上記認定事実に照らし,本件監査請求に,被控訴人らの主張するような請求が含まれていたと解するのは困難と言わざるを得ないし,仮にこれが含まれると解し得るとしても,被控訴人らが行使を怠るものとして主張する債権は,要するに財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権であるから,その行使を怠る事実に係る住民監査請求については,当該行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用すべきである(最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁)から,いずれにせよ,上記と同様の帰結となる。
 この点について,被控訴人らはさらに,最高裁平成14年7月2日第三小法廷判決(民集56巻6号1049頁)をも引用して,本件監査請求において被控訴人らが主張する債権は,上記のとおり,本件購入契約が公序良俗に違反する無効なものであることに基づく損害賠償請求権であるところ,同請求権については,監査委員が当該行為が違法か否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係には立たないから,怠る事実に係る監査請求一般についての原則に戻って,監査請求に係る期間制限をすべきでない旨主張する。
 しかしながら,本件訴訟において無効原因として被控訴人らが主張するところは,結局地方自治法2条13項,地方財政法4条1項に違反し,その趣旨を没却させるような違法が存するか否かであり,その実質は,まさに財務会計上の行為の違法,無効に基づく損害賠償請求権であるというべきであるから,これに係る監査請求について上記と別異に解することはできないというべきである。
エ 以上の次第で,③契約に係る被控訴人らの請求は,いずれも適法な監査請求を経ておらず,不適法であることに帰すると言わざるを得ないから,該当部分の訴えをいずれも却下すべきである。
(2) 随意契約の方式によって契約した際の手続違反の有無について
以下のとおり原判決を付加訂正するほか,原判決第3「当裁判所の判断」の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決25頁23行目「かつ」から同26頁4行目「であろう。)。」を次のとおり改める。
「かつ,化石標本類の購入についても,どのようなものをどれだけ購入するかという課題は,上記の基本構想に密接に関わるものであり,また前示のとおり,本件科学館の建設が,平成8年度ないし平成10年度の3事業年度にわたる補助事業として採択され,したがって,基本的に同事業年度内の開業が可能となるように全ての化石標本類の調達,納品を完了する必要があったところ,そのような時間的制約の中で,本件科学館の構想に合致した品目について,出自の適法性等が適切に確保された一定の化石標本類を収集・調達する必要があったことに鑑みると,随意契約という方式を採り,その相手方を,かかる構想を十全に理解し,条件に合致した化石標本類を期間内に確実に収集・調達する能力を有すること等について合理的な信頼を与えることができた控訴人会社を選定したことについては,その性質又は目的が競争入札に適しない場合に当たり(地方自治法施行令167条の2第1項2号),合理的な裁量権の範囲内であったと考えることができる(ただし,その具体的方法については,後記のとおり,購入対象物件の客観的価値(市場価格)が必ずしも明らかではなく,しかも性質上相見積りの徴求等,公共財の支出・消費を伴う契約としての内容の公正・適正を担保する手段を採ることが困難な本件のような場合は,違法の問題を生じないとしてもなお,地方公共団体の財政の透明化確保の観点から,改善の余地があり得るというべきであろう。)。」
イ 同26頁14行目「もっとも」から18行目「考えられる。」までを次のとおり改める。
「また,同種の化石標本類で,大きさや重量,品質等が類似