hanrei @Wiki H17. 8.10 名古屋地方裁判所 平成15年(ワ)第434号 損害賠償請求事件



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 円建他社株式転換特約付債券(EB)を購入した原告が,適合性原則違反,説明義務違反等を理由として起こした損害賠償請求について,その一部を認容した事案


平成15年(ワ)第434号損害賠償請求事件
判決
主文
1 被告は,原告に対し,177万8439円及び内38万1984円に対する平成12年8月9日から,内5万9815円に対する同年9月18日から,内113万6640円に対する平成13年2月9日から,内20万円に対する同年3月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,主文1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 被告は,原告に対し,887万8098円及び内95万4960円に対する平成12年8月9日から,内14万9538円に対する同年9月18日から,内284万1600円に対する平成13年2月9日から,内493万2000円に対する同年3月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が被告から,円建他社株式転換特約付債券(以下「EB」という。)を購入した(以下「本件取引」という。)ところ,対象となる株式(転換対象株式)の株価が予定された価格よりも下落したため,払い込んだ金額の代わりに転換対象株式が返還されることとなり,しかも転換対象株式の株券が返還されることを説明されていなかったため株券返還請求をするのが遅れ売却時期を逃したことにより,下落した転換対象株式を取得することとなり合計887万8098円の損失を被ったとして,適合性原則違反及び説明義務違反等を理由として,被告に対し,民法415条,709条または715条に基づいて損害賠償(償還日までに生じた損害の遅延損害金につき償還日から,株券返還日までに生じた損害及び弁護士費用について株券返還日である平成13年3月1日から起算)の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠上容易に認められる。)
(1) 当事者等
原告は,本件取引当時69歳(昭和5年12月4日生)の女性で,本件取引以前に,国債,外債等の債券を購入したことはあるものの株式取引の経験は全くなかった。原告は,夫が設立し,その後は,息子が社長を務める運送会社の常務取締役副社長を務めていたが,本件取引当時には,解職されていた。
被告は,証券取引法に基づき証券取引の仲介等を行う会社である。
Aは,本件取引当時,被告名古屋支店で営業に従事していた従業員であり,原告に対して,本件取引を勧誘した。
(2) 原告が購入したEB(以下「本件各EB」という。)の内容
ア 本件各EBは,「発行体」が発行する社債であり,他社発行の普通株式を「転換対象株式」とし,当該転換対象株式の株価動向により,債券額面額の金銭または転換対象株式で償還されることになっている。
本件各EBの購入者は,償還日において転換対象株式または現金の償還を受け,それとは別に約定利率による金員(クーポン)を受け取ることができる。
本件各EBを購入者が途中売却することはできない。
原告が購入した本件各EBは次のとおりである。
イ スウェーデン輸出信用銀行 円建他社株式転換特約付コーラブル債券(以下「京セラEB」という。)
2000年8月9日満期 6か月債
発行体     :スウェーデン輸出信用銀行
売出価格の総額 :70億円
条件確定    :平成12年2月7日午前11時すぎ
転換株価    :1万9200円
発行日     :平成12年2月9日
期限前償還判定日:平成12年4月27日
計算日     :平成12年7月26日
償還日     :平成12年8月9日
利率      :平成12年5月9日まで年利11%,以降同年8月9日まで年利2%
償還条件    :① 期限前償還判定日の取引時間中に転換対象株式の株価が一度でも転換株価以上になれば,現金で償還する。
② ①に該当しない場合で,計算日における転換対象株式の最終株価が転換株価の90%以上105%以下であれば現金で償還し,それ以外は転換対象株式で償還される。
転換対象株式  :京セラ
ウ スウェーデン輸出信用銀行 円建他社株式転換特約付コーラブル債券(以下「ドコモEB」という。)
2001年2月9日満期 1年債
発行体     :スウェーデン輸出信用銀行
売出価格の総額 :70億円
条件確定    :平成12年2月7日午前11時すぎ
転換株価    :382万円
発行日     :平成12年2月9日
期限前償還判定日:平成12年8月2日
計算日     :平成13年1月26日
償還日     :平成13年2月9日
利率      :平成12年8月9日まで年利13%,以降平成13年2月9日まで年利2%
償還条件    :① 期限前償還判定日の取引時間中に一度でも転換対象株式の株価が転換株価以上になれば,現金が償還される。
② ①以外の場合,計算日における転換対象株式の最終株価が転換株価の90%以上105%以下であれば現金が償還され,それ以外は転換対象株式で償還される。
転換対象株式  :NTTドコモ
エ スウェーデン輸出信用銀行 円建他社株式転換特約付債券(ボーナスクーポン型)(以下「ソニーEB」という。)
  2000年9月18日満期 6か月2日債
発行体     :スウェーデン輸出信用銀行
売出価格の総額 :120億円
条件確定    :平成12年3月14日午前11時過ぎ
転換株価    :1万2400円
発行日     :平成12年3月16日
参照株価    :平成12年9月8日におけるソニーの東証終値
償還日     :平成12年9月18日
利率      :平成12年9月18日まで年利8%。参照株価が,転換株価の100%以上105%未満の間なら年利5%,105%以上110%未満の間なら年利20%,110%以上なら年利22%の利率がそれぞれ上乗せされる。
償還条件    :参照株価が転換株価未満の場合,株式で償還され,上回れば現金で償還される。
転換対象株式  :ソニー
(3) 本件各EBの購入
原告は,被告から,平成12年2月8日,京セラEBを576万円,ドコモEBを764万円で購入し,同年3月14日,ソニーEBを744万円で購入した。
(4) 本件各EBの条件確定
ア 京セラEBについて
平成12年2月7日,京セラの東京証券取引所前場の出来高加重平均株価は1万9184円83銭となったため,100円未満を四捨五入し,転換株価は1万9200円と確定された(乙25)。
イ ドコモEBについて
平成12年2月7日,NTTドコモの東京証券取引所前場の出来高加重平均株価は382万2284円95銭となったため,1万円未満を四捨五入し,転換株価は382万円と確定された(乙24)。

ウ ソニーEBについて
平成12年3月14日(乙28によると,平成12年4月25日とされているが誤記と思われる。),ソニーの東京証券取引所前場の出来高加重平均株価は2万4702円44銭となったため,その50%相当額の100円未満を四捨五入し,転換株価は1万2400円と確定された(ソニーは平成11年12月27日取締役会で平成12年5月19日付で1:2の株式分割を行うことを決定したため,株式分割を前提に転換株価を確定した)(乙28,弁論の全趣旨)。
(5) 本件各EBの償還
ア 京セラEB
 期限前償還判定日に京セラの株価が転換株価を上回ることがなく,計算日における京セラの最終株価は1万6900円で,転換株価(1万9200円)の90%(1万7280円)を下回ったため,京セラ株300株での償還となった。償還日における京セラ株の株価は1万5940円であった。原告は,平成13年3月1日,京セラ株300株の株券を受け取り,同月10日,京セラEBの利息2万3040円を受け取った(甲1の1,乙29,弁論の全趣旨)。
イ ドコモEB
 期限前償還判定日にNTTドコモの株価が転換株価を上回ることがなく,計算日におけるNTTドコモの最終株価は230万円で,転換株価(382万円)の90%(343万8000円)を下回ったため,NTTドコモ株2株での償還となった。償還日におけるNTTドコモ株の株価は217万円であった。原告は,平成13年3月8日,NTTドコモ株2株の株券を受け取り,NTTドコモEBの利息として平成12年8月10日,39万7280円,平成13年2月13日,6万1120円,計45万8400円を受け取った(甲1の2,乙31,弁論の全趣旨)。
ウ ソニーEB
 平成12年9月8日のソニーの東証終値は1万1680円で,転換株価(1万2400円)を下回ったため,ソニー株600株での償還となった。償還日におけるソニー株の株価は1万1750円であった。原告は,平成13年3月1日,ソニー株600株の株券を受け取り,同年9月19日,ソニーEBの利息24万0462円を受け取った(甲1の3,乙30,弁論の全趣旨)。
3 争点
(1) EBの構造上の特質
(2) 適合性原則違反
(3) 説明義務違反
(4) 誤解表示による勧誘
(5) 損害額
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(EBの構造上の特質)について
(原告の主張)
ア EB取引の全体的構造
EB取引は,全体的には次のような構造を有している。
① アレンジャーと呼ばれる外国証券会社が,EBを企画・設計する。
② アレンジャーは,その信用と知名度を利用するため発行体(外国金融機関)にEBを発行してもらう。発行体は,資金調達目的でEBを発行するのではなく,プレミアムの差益やアレンジャーによるデルタヘッジ取引の運用益の分与を得るのを目的としている。デルタヘッジ取引とは,当初一定数量の株式を購入して株価が上昇すれば徐々に株式を売却して売却益を確保し,株価が下落すれば当該株式を購入して株式保有率を高める取引である。
③ 日本の証券会社が,EBを日本の一般投資者へ販売する。
④ 一般投資者は,社債元金額を払い込んでEBを購入し,これと同時に発行体に対してプットオプションを売却する。EBには流通性がないから,一般投資者はこれを証券会社に買い取らせたり他人に転売することなく,自ら保有したまま償還を待つ。
⑤ 発行体はアレンジャーに対し,プットオプションを売却し差益を得る。
アレンジャーはプットオプションを保有するか,または機関投資家に対しプットオプションを売却し,差益を得る。
⑥ オプションの売却とは別個に,発行体はアレンジャーに対しEBの社債元金を貸し付ける。アレンジャーは,社債元金を元手にしてデルタヘッジ取引を行い,運用益を上げる。
⑦ 償還時において,転換対象株式の株価が,事前に定められた株価より上がった場合,社債元金がアレンジャーから発行体へ,発行体から一般投資者へと支払われ,下がった場合,株式がアレンジャーから発行体へ,発行体から一般投資者へと支払われる。
イ EBは,社債と株式プットオプションの売りを組み合わせた商品であり,一般投資家が行うには不適合な商品であること
① オプション取引とは
オプションとは,ある商品を将来のある期日(満期日)までに,そのときの市場価格に関係なく,あらかじめ定められた特定の価格(権利行使価格)で買う権利,又は売る権利をいう。
買う権利をコールオプションといい,売る権利をプットオプションという。通常,EBで組み込まれているのは,満期日にのみ権利行使できるヨーロピアン・タイプのオプションである。
オプション取引は,プットオプションの買い,プットオプションの売り,コールオプションの買い,コールオプションの売りの4種類がある。
② 株式のプットオプション取引の特質
株式のプットオプションが売買されると,株価が権利行使価格よりも下落している場面において買主が権利行使すると,買主は株式を時価よりも高い価格で売主に売りつける権利を有し,売主は時価よりも高い価格で株式を購入する義務を負うこととなる。
株式のプットオプション取引の買主は,将来の株価が下落するという予想のもとで,株価上昇によるリスクをオプションの対価であるプレミアムの支払いですませることができる。
他方で,株式のプットオプションの売主は,株価が上昇するという予想のもとにプレミアムを受け取るが,将来株価が下落した場合には,株価下落の損失を被るという危険を引き受ける。
上記プレミアムは,行使価格と市場価格の差額と満期までの価格の変動の大きさ(ボラティリティという。)との合成により算定され,代表的な公式としてはバイノミアルモデルやブラック・ショールズ・モデルがある。
③ 一般投資家がプットオプションの売主となることの不適合性
株式のプットオプションの売主は,株価下落による損失の危険を引き受けるところ,投資に関する知識,経験,判断力,資力からして,将来の緩やかな株価上昇を予想し,かつ,予測される株価下落のリスクの程度に照らして自己のメリットと認める高額のプレミアムを受け取ることができ,しかも,株価下落のリスクが現実化しないように自らリスクヘッジ取引に参加し(再ヘッジ),プレミアムを運用して運用益を上げることができる場合には,合理性が認められる。しかしながら,一般の投資者は,その知識,経験,判断力,資力,取引量が高くないことから,①株価下落に関し高度で予測困難なリスクにさらされ,②株価下落のリスクの程度に照らし自分の受け取るプレミアムに対価的相当性があるかどうか判断できない,③オプションを売却後,再ヘッジによるリスク管理ができないという問題点が残る。
④ EBが,誤解を招きやすい商品であること
EBは,社債と対象銘柄株式のプットオプションの売りを組み合わせた商品である。一般投資者にとっては株式のプットオプションの売りというデリバティブ取引の法律関係や経済的意味を理解し,適宜の投資行為をすること自体が容易ではないのに,さらに社債が組み合わせられているため,自分がどのような法律関係に立たされ,経済的にどのような利害得失の状況にあるのか理解することは不可能である。
ところが,EBは,社債であるといわれ,株式のプットオプションのプレミアムを「クーポン」という社債利息であるかのような名称で呼び,高利回りの社債であるとして販売されており,一般投資者もそのように理解している。
ウ EBが株式のプットオプションの売りであることの問題点
(ア) リスクの高さ
EBの経済的本質は,株式のプットオプションの売りであり,株価下落の幅とその確率が大きいほど,受け取る「クーポン」は高くなる。クーポンが高ければ高いほど,一般投資家は高額,高確率のリスクを負わされていることになる
(イ) リスクに関する情報開示がなく,予測が困難であること
リスクの高さは株価下落の幅とその確率によるのであり,本来投資するにあたっては,転換対象株式に関する情報開示を受け,将来の株価下落の幅とその確率がどの程度であるのかを理解することが本質的である。しかし,一般投資者は,対象となる株式に関する情報開示を受けておらず,独自に株価変動の要因となる情報を収集する能力はなく,自ら株価変動の程度及びその確率を計算することは困難であるため,自分がどの程度のリスクにさらされているかの理解をすることは困難である。
(ウ) 株価予測と利害の相反関係
株式のプットオプション取引において,買主は株価が下がると予想し,売主は上昇すると予想しており,買主と売主の株価予測の利害が相反している。したがって,株式のプットオプションの取引は,リスクを負担する売主が,株価予測と利害の相反関係について十分理解した上で,買主と同等の能力をもって取引を行う場合に合理性が認められるものであるが,EBを一般投資者が購入することは,一般投資者がアレンジャーというプロを相手に取引をするもので妥当でない。
エ EBは,株式プットオプションの売買と同様の経済的実体が存在する
仮にEBが,オプション取引ではないとしても,社会的にはプットオプションが組み込まれた債券であると認識されており,行政当局及び証券会社においてもデリバティブ商品であるとの位置づけをしている。また,EBのクーポンは,通常の社債に比べてかなり高額であるが,これはEB購入者が下落株式での償還というリスクを負っているからに他ならない。EBの購入者がプットオプションの売主と同様の地位にあると評価しうる。
オ リスクとリターンが非対称,不均衡であること
(ア) EBの購入者は,株式のプットオプションの売主と同様の地位に立ち,その代償としてプレミアム(クーポン)を受け取っている。プレミアム(クーポン)はリスクの対価であり,EBのリスクとリターンの不均衡性は,プレミアム(クーポン)の価格の妥当性にある。
(イ) 一般論として,プレミアムはブラックショールズモデルないしこれと実質的に同様な数理解析モデルによって計算される。かかる計算上のプレミアムをEBの購入者が受け取っていればよいが,実際は被告らの手数料等が引かれて極めて少額になっており,EB購入者の受け取るクーポンが,EB購入者が負担するリスクとつり合っていない。
カ 転換対象株式の株価が転換株価以下に下落した場合の損失を回避することが不可能であること
EBは,一般投資者が証券会社の店頭にて購入する相対取引の商品であるが,これを証券会社に買い戻してもらったり,第三者に転売して換価することができない。EBの購入者は,株価が現に下落していても満期までEBの保有を余儀なくされ損失が拡大するのを座視するしかない。
キ EB購入者とアレンジャーとの間に構造的利害相反関係があること
(ア) デルタヘッジ取引による株価下落圧力
アレンジャーはデルタヘッジ取引を行っており,株価が上昇を始めると保有株式を売却して売却益を出そうとするため,株価を下落させる要因となる。
(イ) ボーナスクーポン支払回避のための作為的相場形成
本件でもソニーEBのように,転換対象株式が一定の価格を上回ると追加利息(ボーナスクーポン)を支払う商品が販売されている。アレンジャーはボーナスクーポンの支払を回避するため,意図的に転換対象株式を大量に売却する等の危険性がある。
(ウ) 以上のように,デルタヘッジ取引や,ボーナスクーポンの支払についてアレンジャーとEB購入者のとの間には構造的な利害相反関係が生じているのであり,適正な金融商品とは言いがたい。
(被告の反論)
ア EB取引の全体構造について
発行体は,EBを起債し,日本の証券会社を通じて日本の一般投資者に販売する。発行体は,投資銀行またはそのグループ証券会社(アレンジャー)との間で通貨交換(スワップ)契約を締結し,EBの販売により得た円資金をドル資金等に交換するとともに,EBの利払いや償還に備え,利払いや償還に関する契約を締結する。アレンジャーは,株式市場においてデルタヘッジ取引を行う。
 EB取引の全体構造は,上記のとおりであり,EBは外国法人が発行する社債である。プットオプションの売買は行われておらず,プットオプションの売買を前提とする原告の主張は全て失当である。
イ EBが,株式のプットオプションの売主と同様の危険を負担すると評価されていることについて
EBの購入者が株式のプットオプションの売主と同様の危険を負担しているとしても,それは転換対象株式の下落のリスクを引き受けているという限度であり,EB購入者がかかる危険を負担することは被告も争うものではない。
ウ EBのリスクとリターンが非対象,不均衡であるとの主張について
原告は,リスクとリターンが非対象かつ不均衡で,その適正さを検証することは困難と主張するが,京セラEBもドコモEBも,株価が上昇した場合には株券が償還される。ソニーEBについては,株価が110%を大きく超えて上昇した場合にその上昇分のリターンを得られないという点で認められそうであるが,ソニーの株価がそこまで上昇しない場合もあるし,ソニーの株式に投資した者が買付時から20~30%も上昇するまで利益確定の売付を行わないと確実にいえるわけでもない。
 なお,EBの発行体は,転換対象株式の株価下落を予想してEBを発行するものではなく,転換対象株式の株価変動率からどの程度の利払いが可能であるかを予想して,発行条件を決めている。
 EBが一般的に,原告の主張するようなリスクとリターンの非対象性,不均衡性を有するわけではない。
エ EB購入者とアレンジャーとの間に構造的利害相反関係があるとの主張について
(ア) EBに関して作為的相場形成を行った場合や経済的合理性を欠くEBを漫然と販売した証券会社が処分を受けていることはあるが,EBを一般投資者に販売することが一般的に適合性原則違反であるというわけではない。
(イ) 確かに,ボーナスクーポン型のEBでは,ボーナスクーポンの支払回避のために計算代理人と当事者の利益が相反する可能性が高かったが,ボーナスクーポン型のEBを販売すること自体が問題なのではなく,ボーナスクーポンの支払回避のために作為的相場形成を行ったことが問題とされたものである。
(ウ) デルタヘッジ取引では,株価が上昇したときにアレンジャーが株式の売付を行うことは確かであるが,逆に株価が下落したときには株式を買い増しして相場を下支えしている。デルタヘッジ取引は,転換対象株式の株価変動を抑えて,償還期日における転換対象株式の株価が転換株価と同一価格になる方向に向かう取引である。
(エ) EBにおいては,アレンジャーがデルタヘッジ取引により利益をあげ,EBの購入者も高いクーポンを得ることを目的としており,両者の利害が相反しているわけではない。
(2) 争点(2)(適合性原則違反)について
(原告の主張)
ア 原告は本件取引当時69歳と高齢であり,主婦業の傍ら夫が設立した会社の経理等を担当していた。
原告は,Aの勧めに従い国債,外債を購入した経験がある程度で,株式投資の経験を始めとする投資経験は全くなかった。原告は,株式取引が危険であると認識しており,安全な商品を購入したいという投資意向を持っていた。また,国債等の購入に際しても,購入銘柄の選別はAの判断に委ねてきた。
原告は,Aの勧めるものであれば,安全なものであると考え,Aも元本の減らない安全なものと考えたものを勧めていた。
イ 本件各EBの購入に投入された資金は,原告が老後の生活費を稼ぐために有していたマンション建設資金であり,原告の運用方針は安全確実なものへの投資であった。
EBは,構造が複雑であり,かつ相当のリスクを内包する商品であり,原告の年齢,投資経験,資金の性質,投資意向に照らすと,原告には,適合しない。
ウ 特に,本件においてEBの購入に投入された資金は,老後の生活費を捻出するためのマンション建設資金であり,建設資金が必要となるまでのごく短期間,極めて安全に運用する必要があったにもかかわらず,EBのように相当のリスクを内包する商品をすすめ,2084万円もの資金を投入させることは適合性の原則に反する。
エ 被告は,原告が株式の下落リスクについて理解していたことを理由に,EBの株価下落リスクについても,説明を受ければ理解可能であったとして適合性原則違反はないかのような主張をしている。しかし,株式の株価下落リスクは,株式の評価損の理解に止まるが,EBの株価下落リスクは,現金で償還されるか株式で償還されるかという点の理解が必要となり,EBの商品の仕組みについての理解が必要である。債券しか購入したことがない者が,債券としてEBを販売された場合,発行体の信用リスクについて一定程度理解できたとしても,発行体とは別の他社の株価の変動が商品のリスクになっていることをたやすく理解できるものではない。株式投資の経験がなく,株式を取得したくないという投資意向を持つ者が,EBの商品の仕組みを理解することができるとはいえず,EBを販売することは適合性原則に反する。
(被告の主張)
ア 原告は,B株式会社の常務取締役副社長を務めていた者であり,同社の経理を担当していたほか,建設資材のリース業を行うクリエイティブリンクスの取締役として経理を担当していた。
イ 原告は,B株式会社の経営を行う以前は昭和43年から昭和58年ころまでレストランを経営していた。
ウ 原告は,平成元年に名古屋市a区b町所在の100坪の土地を約5000万円で購入したほか,自宅及びそれに隣接する2筆の土地の所有権を有していた。
エ 原告は平成6年8月10日,被告C支店に取引口座を設定して証券取引を開始している。取引口座を開設する際,原告は,B株式会社の常務取締役副社長であること,年収は1000万円以上3000万円未満であること,資金の性格は余裕資金であることを申告した。
オ 原告は平成6年8月から平成8年1月にかけて4500万円以上の資金をもって長期国債ファンド,タイ王国円貨債,世界銀行債,オーストラリア国債等の売買を行った。原告は,これらの取引を行うにあたり,牧から個別に投資勧誘を受け,投資金額を決定していた。
カ 原告は外国債券についてはリスクが伴うことを,牧から説明を受けており,平成8年1月には自らの指示で外国債等を売却した際には損失が発生した。
キ 原告は,株式取引には投機性があり,場合によっては投資金額全額が失われるほどのリスクがあることを認識していた。
ク 以上のような原告の経歴,資産状況,さらに後述するような牧が原告に行った説明からすると適合性原則違反の違法な勧誘が行われた事実はない。
(3) 争点(3)(説明義務違反)について
(原告の主張)
ア EBの販売にあたっては,そのリスクを説明する必要があり,リスクの説明としては,抽象的に元本が保証されていないことを述べるのでは足りず,購入者の属性を考慮に入れて,その者が投資の適否について的確な判断をできるだけの情報が提供されていなければならない。EBの販売にあたっては,購入者に対し,次のような内容を説明する必要がある。
(ア) EB購入者は,転換対象株式の株価が評価日において,転換株価を下回った場合,転換対象株式を引き受ける義務があり,その結果,額面金額と償還日における転換対象株式の株価の差額分の損失を被ること。
(イ) EBの購入者は,株式がいかに上昇しても,EBの額面金額の元本とクーポンを得られるだけで,株価上昇による利益をすべて享受できるわけではないこと。
(ウ) クーポンの高さは転換対象株式の株価変動率(ボラティリティ),行使価格の設定水準,残存期間の長さに応じて設定されるもので,リスクの高さとクーポンの高さは連動しており,利率の高いEBは元本欠損の危険が高いこと。
(エ) EB購入者は,EBを途中売却できないので,単に株式を購入する場合と異なり評価損を回避する手段がないこと。
(オ) 証券会社と顧客の間に利害相反が生じる可能性があること
イ 本件で,Aはリーフレットに沿って,抽象的にEBの仕組みを説明しただけで説明義務を果たしたとはいえない。
(被告の主張)
ア EB購入者に対する説明義務の内容としては,EBが償還まで原則として売却できないものであること,EBは株価下落リスクを有することを説明すれば足りるところ,上記(2)の(被告の主張)に記載の原告の経歴及び資産状況を前提にして,Aが本件各EBに関して行った説明内容及び下記イないしキの事実からすれば,本件各EBについて株式償還,原則途中売却できないこと等が伏せられていた事実はない。
イ 中日新聞の広告について
(ア) 原告は,平成12年1月28日の中日新聞朝刊に掲載されたドコモEB及び京セラEBの新聞広告を参照した。同新聞広告によると,ドコモEBが2001年2月9日満期の1年債であることが大書され,ドコモEBと京セラEBがNTTドコモ及び京セラの株価により株式償還される場合があることや原則途中売却できないことが明記されていた。
(イ) ソニーEBについては,平成12年3月3日の中日新聞朝刊に全面広告が掲載され,ソニーの同年9月8日の株価終値が転換株価未満になったときに株式償還されることが大書され,原則途中売却できないことが明記されていた。
ウ 確認書への署名捺印
原告は,ドコモEB,京セラEB及びソニーEBについて目論見書の内容を確認した上で取得の申込を行うとの確認書に署名捺印した。
エ 本件各EBの償還と報告内容
(ア) 京セラEBは,平成12年8月9日株式償還となり,原告には京セラ300株の償還がされ,原告の受取金額はゼロ,償還差損益はマイナス97万8000円であることが報告された。
(イ) ソニーEBは,平成12年9月18日株式償還となり,原告にはソニー600株の償還がされ,原告の受取金額はゼロ,償還差損益はマイナス39万円であることが報告された。
(ウ) ドコモEBは,平成13年2月9日株式償還となり,原告にはNTTドコモ2株の償還がされ,原告の受取金額はゼロ,償還差損益はマイナス330万円であることが報告された。
オ 原告は,平成12年9月5日,実質株主の報告に関する届出書兼実質株主名義人印鑑届を作成提出した。
カ 月次報告書
原告のもとには,京セラEB及びソニーEBの株式償還の翌月に,月次報告書が送付され,原告の預託証券として,京セラ300株及びソニー600株の記載がされていた。
キ 株券の出庫
原告は,名義書換を行ったうえ,平成13年3月1日,京セラ300株及びソニー600株を出庫し,同月8日,NTTドコモ2株を出庫した。
ク 原告の主張に対する反論
 原告は,EBの投資勧誘に当たり,EBのクーポンの高さは,転換対象株式の株価変動利率(ボラティリティ),行使価格の設定水準,残存期間の長さに応じて設定されるもので,リスクの高さとクーポンの高さが連動しており,利率の高いEBは,元本欠損の危険が高いことを示すものであることの説明義務があると主張するが,その説明義務の前提とするEBの特質についての理解が誤っているのであるから,いずれも根拠がない。
(4) 争点(4)(誤解表示による勧誘)について
(原告の主張)
 牧は,京セラEBの勧誘に際し,対象となる京セラの株価が低落傾向にあり,条件設定後販売時まで,株価が下落していたにもかかわらず,条件を変更しなかったため,販売時点では顧客に不利な条件になっていたにもかかわらず,その事実を告げず,単に定期預金よりも利回りの良い商品であるといって販売した。かかる行為は,「有価証券の売買その他の取引に関し,重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」(証券取引法42条1項9号,行為規制府令4条1号)に該当し,違法である。
(被告の主張)
原告は,京セラEBについて,条件設定後販売時まで株価が下落したにも関わらず条件を変更しなかったので,販売時点では顧客に不利な条件になっていたと主張するが,京セラEBが,株式償還となるのは株価が1万7280円未満となる場合であり,条件設定日である平成12年2月7日から販売時の同月9日までの間に京セラの株価が1万7280円を下回ったことはなく,原告の主張は失当である。
(5) 争点(5)(原告の被った損害額)について
(原告の主張)
ア 原告は,本件各EBが償還日において払込金額の返還を受けられず,株式で償還を受けたことから,払込金額及び受け取った利息から償還日における株式総額を引いた金額について損害を被った。
さらに,Aは,原告に対し,株式で償還された事実を秘したため,実際に株券が返還された時期は償還日からかなり後になっており,原告は株式を売却する機会を失った。かかるAの説明義務違反により原告が売却機会を逸して被った損害についても,被告は賠償する責めに任ずる。
イ 京セラEB
(ア) 払込金額                   576万円
償還日の株価               1万5940円
株式数                     300株
受け取った金利              2万3040円
株券取得日における株価          1万0200円
(イ) 原告に生じた損害
① 欠損額〔払込金額-受領額(償還日の株価×取得した株式数+受け取った金利)〕               95万4960円
② 償還日から株券取得日までの値下がり総額 172万2000円
③ 合計(①+②)             267万6960円
ウ NTTドコモEB
(ア) 払込金額                   764万円
償還日の株価                 217万円
株式数                       2株
受け取った金利             45万8400円
株券取得日における株価            203万円
(イ) 原告に生じた損害
① 欠損額〔払込金額額-受領額(償還日の株価×取得した株式数+受け取った金利)〕             284万1600円
② 償還日から株券取得日までの値下がり総額  28万円
③ 合計(①+②)             312万1600円
エ ソニーEB
(ア) 払込金額                   744万円
償還日の株価               1万1750円
株式数                     600株
受け取った金利             24万0462円
株券取得日における株価            8200円
(イ) 原告に生じた損害
① 欠損額〔払込金額-受領額(償還日の株価×取得した株式数+受け取った金利)〕               14万9538円
② 償還日から株券取得日までの値下がり総額 213万円
③ 合計(①+②)             227万9538円
オ 弁護士費用 80万円
カ 損害合計 887万8098円
(被告の主張)
ア 払込金額,償還日の株価,受け取った金利,株券取得日(平成13年3月1日)の株価終値についていずれも認める(但し,ソニーの平成13年3月1日の株価終値は8220円である。)。また,NTTドコモの株券が出庫されたのは平成13年3月8日である。
イ Aが,原告に対し,EBが株式で償還された事実を秘したことはなく,株式の償還時期が遅れたことにより原告に損害が生じたとの主張は争う。
ウ 原告に生じた損害額については争う。
エ 仮に損害が認められるとしても,応分の過失相殺がされるべきである。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(EBの構造上の特質)について
(1) EBの全体構造
証拠(乙15,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア EBの全体構造
(ア) 本件各EBの発行体は,本件各EBを起債し,被告を通じて日本の一
般投資者に販売する。発行体は,投資銀行またはそのグループ証券会社(アレンジャー)との間で通貨交換(スワップ)契約を締結し,EBの販売により得た円資金をドル資金等に交換するとともに,EBの利払いや償還に備え,利払いや償還に関する契約も締結する。
(イ) アレンジャーは,株式市場においてデルタヘッジ取引を行い,利益を得る。
イ 発行体とアレンジャーとの間のスワップ契約の内容
(ア) 京セラEBとドコモEBについて,発行体とアレンジャーとの間で通貨交換契約(スワップ契約)が締結されているが,同契約はEBの償還に備えるものである。
京セラEB,ドコモEBについて,クーポンが算定される要素としては,転換対象株式の予想される株価変動率(ボラティリティ),転換株価等の転換条件,発行体の信用力,発行直近の金利水準,発行コスト等,様々な要素を勘案して決定されたものであり,一義的な計算根拠があるわけではない。
(イ) ソニーEBについて,発行体とアレンジャーとの間で締結されたスワップ契約は,プットオプション,ボーナスクーポンに関わるオプション及び変動金利と固定金利の交換を行う金利スワップを含むパッケージ取引である。
ソニーEBについて,スワップ契約の条件決定に関する計算要素の記録は,当時のシステムにデータを保存する機能がなかったため残っていない。なお,現在のシステムでは1日に1回データを保存しているが,計算要素は日中でも変動しており,個々の取引の記録は残っていない。
ウ 株式のプットオプションの取引が含まれているか
 京セラEB,ドコモEBについては,発行体とGeneral Re Financial Securities Limitedとの間で通貨交換(スワップ契約)を行っているが,株式のプットオプションの売買を行ったと認めるに足りる証拠はない。ソニーEBについては,発行体とパリバ銀行パリ支店との間でプットオプションを含めたスワップ取引がなされたことが認められるが,発行体が一般投資家である原告から買い取った株式のプットオプションを転売しているということを認めるに足りる証拠はない。
エ なお,甲2,4,5,21,27及び30の文献には,EBは株式のプットオプションの売りと社債を組み合わせた商品であるとの説明がされている。しかしながら,いずれも本件各EBについて説明したものではないし,甲2でも,EBはプットオプションの取引であると断言しているのではなく,そのように解されると推測しているに過ぎない。
(2) EBについて,社債と株式プットオプションの売りが組み合わされた商品といえるか
ア 上記のとおり,本件各EBについて,EBの購入者から発行体に株式のプットオプションが売却された事実は認められない。
ソニーEBでは,発行体とアレンジャーとの間でプットオプションの売買も含めたスワップ契約が締結されていることは認められるが,このプットオプションがEBの購入者から買い取ったプットオプションであるとは認められない。
イ いずれにしても,本件各EBについてEBの購入者から発行体に株式のプットオプションが売却された事実は認められず,これを前提とする原告の主張はいずれも採用することはできない。
(3) リスクとリターンの非対称あるいは不均衡について
ア 京セラEB,ドコモEBは,株価が大幅に上昇した場合にも株式で償還されるが,ソニーEBは,株価が110%を大きく超えて上昇した場合でも株式で償還されない(前提事実)。
 かかる事実からすると,京セラEB,ドコモEBについては,転換対象株式の株価が大幅に上昇したときにも,対象株式の返還を受けられることになっていること,ソニーEBについても,株価が110%以上を大きく超えて上昇しても転換対象株式の返還を受けられないという面はあるものの,高額のクーポンが得られるという面もあり,直ちにリスクとリターンが非対称であるとか不均衡であるとまではいえない。
イ 本件各EBについて,利率(クーポン)が算定される要素としては,転換対象株式の予想される株価変動率(ボラティリティ),転換株価等の転換条件,発行体の信用力,発行直近の金利水準,発行コスト等,様々な要素を勘案して決定されたものであり,一義的な計算根拠があるわけではないことは上記のとおりである。
ウ したがって,本件各EBについて,原告が主張するようなリスクとリターンの非対称性,不均衡性があると認めることはできない。
(4) EB購入者とアレンジャーとの間に構造的利害相反関係があるか
ア 証拠(乙15,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(ア) デルタヘッジ取引を行うアレンジャーは,転換対象株式の株価が上昇したときに転換対象株式の売付を行い,逆に株価が下落したときには株式を買い増しして相場を下支えする。デルタヘッジ取引は,転換対象株式の株価変動を抑えて,償還期日における転換対象株式の株価が転換株価と同一価格になる方向に向かう取引であり,一般的にEB購入者とアレンジャーとの間に構造的利害相反関係があるとは認められない。
なお,デルタヘッジ取引を行うアレンジャーが,現金償還となった場合,親会社である発行体が株式償還に備えて保有している転換対象株式の保有リスクを回避するため,償還日直前に株式を大量に売却して株価を下落させたとして,行政処分がされた事例があることが認められる(甲23,28の1・2)。しかし,本件各EBについてアレンジャーが,発行体のためにかかる取引をしたと認めるに足りる証拠はない。
(イ) ボーナスクーポン型のEB(ソニーEB)においても,アレンジャーはデルタヘッジ取引で利益を得ることを目的とし,EB購入者はクーポンを得ることを目的としているが,両者の利害が一般的に対立するものではなく,ボーナスクーポン型のEBを販売すること自体が利害相反に当たるとは認められない。
なお,ボーナスクーポンの支払回避のために転換対象株式を意図的に大量売却する等の作為的相場形成を行えば,利害相反になるといえ,実際にかかる取引がされたとして,証券取引等監視委員会が内閣総理大臣や金融庁に対し,行政処分等の適切な措置をとるよう勧告がされた事実は認められる(甲22,25)。しかしながら,ソニーEBは,株式で償還されており,ボーナスクーポンの支払を免れるためにかかる取引を行った事実は認められない。
イ 以上のとおり,本件各EBにおいて,アレンジャーは,デルタヘッジ取引により利益をあげることを目的とし,EBの購入者も高いクーポンを得ることを目的としており,両者の利害が構造的に相反しているとは認められないし,ボーナスクーポン型であるソニーEBについてボーナスクーポンの支払を免れるために意図的に相場形成をした事実も認められない。
(5) なお,EBの特質として,EBは下落した株価の下で転換対象株式が償還されるいうリスクを伴っており,その限度で,株式プットオプションの売買と同様の経済的実体が存在すること,またEBは,償還日前に転換対象株式の株価が転換株価以下となり,さらに下落を続けている場合でも,被告に買い戻してもらったり,第三者に転売して換価することができないことが認められる(弁論の全趣旨)。
2 争点(2)(適合性原則違反)について
ア 前提事実に加えて証拠(甲35,乙19,証人A,原告本人,後掲証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告は,本件取引当時69歳の女性であった。
原告は,平成6年8月10日,被告との間で取引口座を開設した。その当時,原告は,夫が設立しその後,息子が社長を務める運送会社であるB株式会社の常務取締役副社長を務め,主に経理を担当するかたわら,建築資材のリース業を営むクリエイティブリンクスという会社の経理担当取締役も務めていたが,平成9年3月頃,それぞれの会社から解職され,本件取引当時は特に職に就いていなかった。
(イ) 原告は,平成6年8月10日,被告において取引口座を開設した際,勤め先はB株式会社,役職は常務取締役副社長,職業は非上場会社役員,年収は1000万円から3000万円程度,投資する資金の性格は余裕資金と申告した(乙1)。もっとも,平成9年3月に解職された後は年金以外にさしたる収入はなく,自宅の敷地を含む数筆の土地を所有する他,老後の生活費を稼ぐためマンションを建設するために用意していた資金2800万円を保有していた。
(ウ) 原告は,本件取引を開始する前,平成6年8月10日から平成8年1月までの間,牧の勧めに従い,長期国債ファンド,タイ王国円貨債,世界銀行債,日本国債,オーストラリア国債等を購入し,総額4500万円の取引をし,45万円の利益をあげた(乙4)。
(エ) 原告は,娘婿から「Dという会社の株式を持っていたところ,紙切れ同然になった,株式取引は危険である。」との話を聞いており,株式取引は投機性があり,場合によっては投資金額全額が失われるほどのリスクがあることを認識していた。
(オ) 本件取引を開始した当時,Aは,原告が上記運輸会社の取締役等を解職されていた事実を知らず,原告もそのような話をしたことはなかった。また,原告はAに対し,EB購入資金の出所がマンション建設用資金として保有していたものであることは特に伝えていなかった(この点に関して,原告は,Aに,本件各EBの購入資金はマンション建設資金であり,少なくとも半年後には必要な資金であることを告げた旨供述する。しかしながら,原告が購入したドコモEBは,期限前償還になれば6か月で償還されることになるが,そうでなければ,償還されるのは購入時から1年後であり,いわゆる一年債として,原告が参照したドコモEBの新聞広告[乙23]にも大書されていること,また,ソニーEBは,京セラEB,ドコモEBを購入した時期から1か月後の平成12年3月に購入し,償還されるのは6か月後の同年9月とされているのであり,本件各EBの償還時期に照らすと,原告の上記供述を信用することはできない。)。
(カ) Aは,EBには株式返還のリスクがあるものの,本件各EBを売り出す前のEBが現金で償還されていたことから,本件各EBも現金償還される可能性が高いと認識し,比較的安全性の高い商品であると認識していた。もっとも,Aは,担当する顧客の中で株式取引をしたことがない者には,基本的にEBの購入を勧めていなかった。
イ 以上のとおり,本件取引当時,原告は,年金以外にさしたる収入源をもっていなかったが,自宅の敷地を含む数筆の土地を所有する他,上記マンション建設用資金に予定していた2800万円を保有していたのであり,しかも,平成9年3月まで2つの会社で経理を担当する取締役の地位にあり,株式には,下落して場合によっては投資金額全額が失われるほどのリスクがあることを認識し,平成8年1月までに外国債等の債券取引に総額4500万円を投資するという経験も有していたことが認められ,このような原告の職歴,資産,投資経験等に照らすと,Aが原告に本件各EBの購入を勧誘したことが,適合性原則に反し違法性を有するものと断ずることはできない。
ウ なるほど,Aは本件取引の開始にあたって,原告の経済状況等について特に尋ねたりはしていないが,前回の取引終了後も2,3度,原告に電話であいさつをしてきたものの特に変わった様子が見られなかったというのである(証人A)から,牧が,原告の資力について新たに調査しなかったとしても顧客を調査すべき義務に反するとはいえない。
 また,原告は,本件取引を開始するまで,国債や外債等の購入経験があるのみで,株式取引の経験はなかったこと,投資意向としては安全確実な商品を望んでいたこと,Aも,原告が,比較的安全な商品という投資意向を有していることを認識していたことからすると,原告にEBを勧誘することは,その投資意向に適合するか疑問の余地がないわけではない。しかし,原告は株取引に下落リスクがあることは認識し,本件取引以前に購入した外債等にも,下落リスクがあり,その中には損をした取引も経験していることからすると,原告の投資意向に照らしても,適合性原則に反するということはできない。
3 争点(3)(説明義務違反)について
ア 前提事実に加えて証拠(甲35,乙19,証人A,原告本人,後掲証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 平成12年1月27日頃,Aは原告に対し,電話で,「利率の良い外債の広告が出るから見て欲しい。」と言って,京セラEBとドコモEBの購入を勧めた。翌28日,Aは再び原告に電話し,中日新聞朝刊の京セラEB及びドコモEBの広告(乙23)が掲載されていることを知らせ,その広告に沿って京セラEBとドコモEBについて説明した(なお,Aは1月27日の電話で,約40分間にわたり,リーフレット[乙5,8]に従い京セラEBとドコモEBの内容について詳しく説明した旨供述するけれども,それまで取引の途絶えていた原告に対し,EBという新しい金融商品についてリーフレットに従ったところで,電話だけでは,株式投資の経験のない原告が理解できるように説明しえたとは考えられず,40分間も原告がその説明を聞いていたとも考えがたく,そうであるからこそ,牧は原告に対して,詳しくは明日掲載される新聞広告を見るように伝えたとみるのが自然であり,この点に関する証人Aの証言部分[乙19も同旨]は信用することができない。)。
(イ) Aは,原告がドコモEB,京セラEBをある程度購入するとの意思であったため,原告にドコモEB,京セラEBの目論見書,リーフレット及び確認書(乙5ないし10)を郵送した。
(ウ) 上記新聞広告中,ドコモEBについては,1年債であること,利率が2000年8月9日まで13%,2001年2月9日まで2%,転換対象株式がNTTドコモであることが大書されており,京セラEBについては,6か月債であること,利率が2000年5月9日まで11%,2000年8月9日まで2%,転換対象株式が京セラであること大書されている。両広告の大書部分の下方にポイントを落とした字で,EBが株式で償還される可能性があること,原則途中売却できないこと等が記載されている。
(エ) 京セラEBのリーフレットは,別紙1のとおりであり,新聞広告と同様に,6か月債であること,利率,転換対象株式の銘柄が大書されており,下方にポイントを落とした字で株式償還される可能性のあること,原則途中売却できないことが記載されている。
  ドコモEBのリーフレットは,別紙2のとおりであり,新聞広告と同様に,1年債であること,利率,転換対象株式の銘柄が大書されており,下方にポイントを落とした字で株式償還される可能性のあること,原則途中売却できないことが記載されている。
(オ) 平成12年2月2日,原告は,被告C支店を訪れ,原告の署名押印のある確認書(乙7,10)を提出したが,目論見書の内容についてAから特に説明を受けたことはなく,自分で内容を確認したこともなかった。その際,Aは,原告から説明を求められたため,リーフレット(乙5,8)に沿って,京セラEBとドコモEBの説明をした。説明の内容としては,ドコモEBは1年債,京セラEBは6か月債であること,円建ての他社株式転換特約付きの債券であること,利率,償還条件を説明した。
(カ) A自身,本件各EBを勧める際,100%ではないにしても現金で償還される可能性が高いと認識しており,転換対象株式であるNTTドコモや京セラについては,株価の値動きの予想等は伝えなかったものの,株価の状態が良いことだけを伝えた。
(キ) 平成12年2月7日,Aは,原告に電話して,ドコモEBと京セラEBの転換株価が決定したことを告げ,ドコモEBを2単位,京セラEBを3単位買うなら1340万円が必要であることを告げた。
(ク) 平成12年3月1,2日頃,Aは原告に電話して,ソニーEBの購入を勧めた。具体的には,ソニーEBが,ボーナスクーポン型で株価の上昇により利率が上がること,株価下落により株式償還の可能性もあることを説明した。同月3日の中日新聞に新聞広告が出ることを伝え,リーフレット,目論見書,確認書(乙11ないし13)を郵送し,同月10日に原告から,原告の署名押印のある確認書(乙13)を返送してもらった(乙27)。
(ケ) ソニーEBの上記新聞広告には,利率が2000年9月18日まで8%,参照株価が転換株価の110%以上の場合償還時最大30%の利率が付くこと,参照株価が転換株価未満の場合,株式と8%の利息がつくこと,転換対象株式がソニーであること大書されており,下方にポイントを落とした字で株式償還される可能性のあること,原則途中売却できないことが記載されている。
ソニーEBのリーフレットは,別紙3のとおりであり,利率,ボーナスクーポンの内容,参照株価が転換株価未満の場合,株式と8%の利率が付くことが大書され,下方にポイントを落とした字で株式償還される可能性のあること,原則途中売却できないことが記載されている。
(コ) 平成12年3月14日,牧は,原告に電話して,ソニーEBの転換株価が決定したことを告げ,744万円の買付け注文を受けた。
(サ) 京セラEBは,平成12年7月26日株式償還されることが決まり,同年8月9日の満期において,京セラ300株の償還がされること,原告の受取金額はゼロ,償還差損益はマイナス97万8000円であることが報告された(乙29)。
 ソニーEBは,平成12年9月8日株式償還されることが決まり,同年9月18日の満期において,ソニー600株の償還がされること,原告の受取金額はゼロ,償還差損益はマイナス39万円であることが報告された(乙30)。
 ドコモEBは,平成13年1月26日株式償還されることが決まり,同年2月9日の満期において,NTTドコモ2株の償還がさ