hanrei @Wiki H17. 7.14 札幌地方裁判所 平成16年(ワ)第1257号 授業料請求事件



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判示事項の要旨:
原告が経営する人材派遣会社に雇用された労働者が締結した,原告運営に係る学校への入学契約が,上記会社の業務研修目的のもので,労働者にその授業料を支払わせることは公序良俗に反するとして,原告から当該労働者に対する授業料請求及び連帯保証人に対する保証債務金請求が棄却された事例


主文
1 原告の各請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告らは,各自,原告に対し,57万円及びこれに対する平成16年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は,原告の経営するC学院(以下「学院」という。)に入学し,授業料等を支払う旨契約(以下「本件契約」という。)した被告Aに対し,原告が,授業料残金57万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年1月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金,連帯保証人である被告Bに対し,これに相当する連帯保証債務金の各自支払を求めたところ,被告らが,本件契約は,原告の経営する株式会社D(以下「D社」という。)と被告Aとの間の雇用契約に付随し,本来D社が負担すべき業務研修費用を従業員である被告Aに負担させるもので,公序良俗に反する無効の意思表示によるものである等と主張して争った事案である。
1 基本的事実(争いのない事実以外は証拠等を併記)
(1)原告は,足裏マッサージ等の反射療法(いわゆるリフレクソロジー)及び経絡経穴の知識・技術等を講義や実技指導により提供する学校である学院及び人材派遣等を目的とし,有限会社東洋プロジェクトが経営するリフレックスケアサロンに人材を派遣する株式会社アジア・ベンチャーコーポレーションを経営している。(甲13,乙2,3)
(2)被告Aは,平成15年7月14日,D社に雇用された。
(3)被告Aは,同日,学院に入学し,原告との間で,原告が講義と実技指導を提供し,被告Aが,プロフェッショナルコース入学金及び教材費10万5000円並びに授業料63万円合計73万5000円を支払う旨契約した(本件契約)。
(4)被告Bは,原告との間で,被告Aの本件契約に基づく上記債務につき連帯して保証する旨契約した。
(5)被告Aは,同日,上記教材費を原告に支払った。(弁論の全趣旨)
(6)被告Aは,平成15年8月ないし同年10月までの間,授業料として毎月2万円(合計6万円)を支払った。(弁論の全趣旨)
(7)被告Aは,平成15年11月15日,D社を退職した。
(8)被告Aは,平成16年7月8日の本件第3回口頭弁論期日で陳述した答弁書により,原告に対し,詐欺を理由として,本件契約に係る意思表示を取り消す旨意思表示した。
(9)被告Aは,平成16年10月28日の本件第3回弁論準備手続期日で陳述した同日付け準備書面により,原告に対し,消費者契約法4条1項1号に基づき,本件契約を取り消す旨意思表示した。
2 争点
(1)本件契約が公序良俗違反で無効となるか。
(2)本件契約が詐欺によるものか。
(3)本件契約が消費者契約法違反となるか。
3 争点についての当事者の主張
(1)争点(1)(公序良俗違反性の有無)について
ア 被告ら
 被告Aは,D社に雇用される際,本件契約を締結して学院に入学することが採用条件であるといわれ,収入を得たいため,同契約を締結した。しかし,同被告ら従業員は,D社においてマッサージの仕事をしながら,原告の講義を聞いたり,先輩の従業員から実技の指導を受けたもので,カリキュラムに基づいて予め定められた日程と時間の講義や実技指導を受けたものではない。このように,学院における授業の実態は,D社の従業員として労務を提供するため,時間的に拘束された下で行われた業務研修である。使用者が,労働者に対し,業務研修について,授業料の名目で金員を支払わせることは,労働者が定められた時間に労務を提供し,これに使用者が賃金を支払うという雇用契約の趣旨に反するものである。したがって,本件契約に係る意思表示は,公序良俗に違反し無効である。
イ 原告
 被告らの主張は争う。D社の代表取締役である原告は,同社の採用面接に訪れた被告Aにリフレクソロジー等の知識・経験がないことを知り,D社で働くには,技術を学ぶ必要があること,そのためには,他の機関でリフレクソロジーを学んで来る方法と,同社と提携している学院に入学して働きながら学ぶ方法があることを告げ,後者の方法であれば時間及び費用の面で有利な特待生制度が利用できる旨告げた。被告Aは,上記の説明を受け,学院への入学を希望して,本件契約を締結した。このように,原告が,被告AをD社に雇用する際,本件契約の締結を採用条件としたことはなく,学院の授業の実態が,D社のための業務研修であるということもない。
(2)争点(2)(詐欺の有無)について
ア 被告ら
 学院は,特定の校舎や教室を有せず,時間割に沿った講義や実技指導を行っていない。その実態は,被告Aら数名のD社の従業員に対し,勤務時間中の客のいないときに,原告が1回30分程度の講義で,マッサージの方法を数回話したり,上司の従業員がマッサージの指導をする程度のものであった。
 原告は,このように,学院が学校としての実態を有せず,授業内容も,専門的資格を取得するために資格を有する者が教える実態がないにもかかわらず,あたかもそれらを具備しているかのように,本件契約締結に当たり,被告Aに対し,学院に独立した施設があり,予め決められたカリキュラムによる時間割に基づいて授業が行われるかのような虚偽の説明をした。また,原告は,被告Aに対し,授業を受講することで,高収入が保障される,専門的資格を取得して将来独立できる,学院で取得した資格は他店でも通用する等の虚偽の説明をした。また,原告は,そのような事実がないのに,学院が厚生労働省の認可を受けている,原告は鍼灸の資格を有すると虚偽の事実を申し述べた。
 以上の欺罔行為により,被告Aは,その旨誤信して,原告に本件契約の申込みの意思表示をした。
イ 原告
 学院は,足裏マッサージ等の反射療法(いわゆるリフレクソロジー)及び経絡経穴の知識・技術等を講義や実技指導により提供する学校である。学院における講義及び実技指導の授業は,原告及び学院のマスタープロフェッショナルコースを終了したインストラクターにより行われている。
 講義は,学院が借りているEデパート4階の会議室で,水曜日の午後5時30分から8時まで及び土曜日の午前10時から12時までの間に実施され,生徒には講義の内容を筆記させ,レポートとして提出させている。被告Aは,平成15年7月28日から同年10月31日までの4か月間にわたり,延べ7日,原告の講義を受けた。
 実技指導は,原告又はインストラクターが生徒にマンツーマン方式で実施しており,勤務の始まる前である午前9時から10時まで,あるいは終業後の午後9時以降に1ないし2時間かけて実施されている。被告Aは,平成15年7月16日から同年11月13日までの4か月間にわたり,延べ42日,原告の実技指導を受けた。
 これらの授業は,被告Aら特待生は主に土曜日の出勤前に授業を受け,勤務時間内にされることはない。なお,特待生は,サロンの客がいない時間に,自主的にトレーニングをすることが許されており,その際に,インストラクターが助言等をすることがあるが,これは学院の授業にはあたらない。
 学院には特定の校舎はなく,講義は学院が講義室として借りているEデパート4階の会議室で行われ,実技指導は,D社が経営するサロンで行われているが,これは,技術の修得を早めるためである。また,学院の授業には時間割はないが,それは,(1)通年開講しており,生徒の入学時期が異なること,(2)生徒個々人の修得までのスピードが異なること等による。
 このように,原告と被告Aとの間で本件契約が締結されるに際し,原告は,被告Aに対し,虚偽の説明をしたことはないのはもちろん,十分な情報を提供している。また,原告が,学院で取得した資格は他店でも通用するとか,学院が厚生労働省の認可を受けている,原告が鍼灸の資格を有すると述べたことはない。
(3)争点(3)(消費者契約法違反の有無)について
ア 被告ら
 本件契約においては,講義・実技指導の時期,回数,時間数,共に受講する生徒数等は消費者契約法4条1項1号の重要事項であるが,実際は,学院が被告Aを含む生徒に行う講義・実技指導は勤務時間中に15分から30分程度のものであり,共に受講する生徒は,多くて5名程度であった。
 しかるに,原告は,被告Aの採用面接にあたり,学院は厚生労働省の認可を受けている,通常の学校のように独立した施設が存在して,生徒も多数在籍し,講義や実技指導は予め決められたカリキュラムによる時間割に基づいて行われるという,事実と異なることを告げた。
 被告Aは,この告げられた事実内容が事実であると誤認して,本件契約につき申込みの意思表示をした。
イ 原告
 被告らの主張は否認する。学院における授業の形態及び場所は,前記(2)イのとおりであり,原告は,本件契約締結の際,この点につき,被告Aに説明した。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(公序良俗違反性の有無)について
(1)証拠(甲5の1ないし3,甲9の1ないし15,乙8,被告A本人)によれば,被告Aは,平成15年7月11日,D社において,原告の採用面接を受けたこと,その際,原告から,「お店で働くには,まず学院に入学してもらう。」旨言われ,本件契約を締結したこと,D社に雇用された後,被告Aは,「F」,「G」,「H」の店舗に派遣され,受付や,ビラ配り等の仕事をしながら,原告の講義を聞いたり,先輩の従業員から実技の指導を受けたこと,その回数は,平成15年11月15日に退職するまで,講義が7回,実技指導が42回であったこと,その時間は,ほとんどが,業務時間内の来客のない時間帯であったこと,被告Aは,中途からは,自ら客に台湾式リフレクソロジー等を施術するようになったこと,月2万円の授業料は,D社の賃金から引き去られたこと,学院を卒業すると,「ARSマスタープロフェッショナルリフレクソロジスト」等の資格が得られるが,これは民間資格で,全国的に通用するものではないことが認められる。
(2)これに対し,原告は,D社での採用にあたって,学院への入学を条件としたことはない,講義及び実技指導の授業は全て業務時間外に行っていたと主張し,証拠(甲13,C証人,原告本人)中にも,これに副う部分があるが,反対の趣旨を述べる証拠(D証人,被告A本人)に照らし,採用できない。
(3)このようなD社の業務との関係及び学院の授業の実態に照らすと,学院における授業は,少なくとも被告Aに関する限り,D社の業務命令に基づき,客にリフレクソロジーを施術すること等の労務提供のための能力を取得させることを目的として,時間的に拘束された下で行われた業務研修というべきである。そのような業務研修費用は,本来,使用者において負担すべきであり,使用者が,労働者に対し,業務研修について,授業料の名目で金員を支払わせることは,賃金を不当に減額するもので,公序良俗に反する。したがって,そのような内容を目的とする本件契約に係る意思表示は,無効である。
2 まとめ
 そうすると,原告は,被告Aに対し,本件契約に基づいて,授業料を請求することができず,被告Bに対しても,連帯保証債務金を請求することはできない。
第4 結論
 以上によれば,原告の各請求は失当であるから,これを棄却することとする。
札幌地方裁判所民事第1部

裁判官  原 啓一郎