hanrei @Wiki H17. 9.14 神戸地方裁判所 平成15年(わ)第1436号 覚せい剤取締法違反被告事件



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無罪主張(排斥)


主文
被告人を懲役7年6月及び罰金200万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,営利の目的で,みだりに,平成15年3月24日ころ,大阪府A市Ba丁目b番c号所在のC方において,フエニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶粉末約50.356グラム及びフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶粉末約120.82グラムを所持した。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
 省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人及び被告人は,判示事実は事実無根であり,被告人は無罪であると主張するが,当裁判所は,判示事実が優に認められると判断したので,その理由を補足説明する。
2 関係各証拠によれば,以下の前提的な事実が認められる。
 (1) 被告人は,暴力団甲組系列の乙会の相談役として活動していたところ,同会会長であるDの紹介により,平成14年12月ころ,同会顧問として活動していたEと知り合った。
 (2) Eは,平成15年4月5日,密売のために所持していた覚せい剤の一部を携帯していたところ,交通事故を起こしたことから,警察官に上記一部の覚せい剤の所持が発覚して逮捕された。
 (3) Eは,覚せい剤の残部(以下「E宅の覚せい剤」といい,これと上記(2)で述べた覚せい剤とを合わせて「本件覚せい剤」という。)を自宅の金庫の中に保管していたところ,Eの当時の内縁の妻であるFは,Eが逮捕されたことを知り,同日ころE宅の覚せい剤を取り出した上,知人に依頼して密売しようとしたが,その知人も,それを所持していたところを警察官に逮捕されたため,密売するには至らなかった。
 (4) 被告人は,同月7日Eが逮捕されたことを察知し,鍵屋に頼んでE宅の鍵を開錠させた上,同人宅にあった金庫や絵画等を持ち出し,さらに,親戚の自動車修理業者に依頼して金庫を開錠したが,E宅の覚せい剤については,既にFが持ち出した後であった。
3 さらに,Fは,Eが逮捕された後に被告人から覚せい剤の在りかについて詰問されたこと,E宅から持ち出した覚せい剤を被告人に売ったことなどを証言しているところ,その証言は,同女と被告人との間にかかわり合いが生じて以降,その経緯などを記帳していたノートに基づいて記憶を喚起しつつ,個々の出来事の状況や日時などについて詳細に述べたもので,具体的かつ自然な内容となっている上,Fが殊更事実に反する供述をして被告人を陥れるような理由も見当たらないから,十分にこれを信用することができる。そして,被告人がE宅から金庫を持ち出して開錠したことなど,上記2(4)で指摘した事実をも併せ考慮すれば,被告人がE宅の覚せい剤に強い関心を有していたことを推認することができる。
4 以上を前提として,判示事実を認定する根拠となるE証言及びそれを補完するG証言の信用性について検討する。
 (1) Eは,本件犯行当日,C宅において,被告人から本件覚せい剤を受け取ったと証言している。弁護人が指摘するように,被告人がE宅に侵入して絵画等を運び出していることからすると,同人が被告人に対しえん恨の情を有していた可能性もあるので,その証言の信用性については慎重な検討を要する。そこで検討するに,まず,Eは,被告人の服役中に差し入れをすることなどを条件に,被告人が覚せい剤を仕入れて密売客を紹介し,それにEが密売するようになり,これまで5,6回被告人から覚せい剤を仕入れて密売をしたことなど,被告人と共同して覚せい剤の密売を行っていた経緯及び密売の状況,覚せい剤の仕入れ先であるHとトラブルになり被告人が東京までその交渉に行ったこと,本件犯行当日,被告人と食事をした後にC宅において被告人からその取り分を除いた覚せい剤を受け取った状況等について,詳細かつ具体的で臨場感ある内容を証言している。その根幹部分は後記のG証言と互いによく符合しており,信用性を相互に補完している上,被告人がE宅の覚せい剤に強い関心を有していたことを合理的に説明できる内容となっており,反対尋問にも何ら動揺していない。さらに,Eは本件覚せい剤の所持により実刑判決を受けて既に服役中であるから,自己の刑責の軽減を図って虚偽の供述をする動機はない上,当初は被告人をかばっていたが,被告人がE宅から絵画等を持ち出したことなどを聞くに及び,被告人がそんなことをするのであれば本当のことを話そうと思ったなどと,被告人の関与を認める供述をするに至った経緯について供述するところも,被告人とEとの従前からの関係等に照らし,十分に納得できるものといえる。なお,Eは,本件により逮捕勾留され,裁判を受けていたのであるから,Gと口裏合わせをしていたようなふしもうかがわれない。
 (2) また,G証言は,上記のように,その主要部分においてE証言と合致するほか,被告人のカード等を窃取したことなど,自己に不利益な事実についても供述している上,その供述内容には特段不自然なものがなく,反対尋問にも何ら動揺していない。さらに,Gは被告人の舎弟として活動していたものであるところ,暴力団組織における下位者が上位者に不利益な内容を供述すればいかなる報復を受けるかもしれないのに,そのような不利益を甘受して公判廷で証言していること,また,Gが本件について被告人の関与を認めるに至った理由として,所属する暴力団幹部から本当のことを話せと言われたことが発端であると述べている点も,それなりに納得できる理由といえることなどをも併せ考慮すれば,その信用性は十分である。
 (3) これに対し,被告人は,当公判廷において,EにHを紹介したことはあるが,平成4年以降覚せい剤を扱ったことはなく,本件犯行は何ら身に覚えがない旨弁解するが,①信用性十分な上記E証言及びG証言に反するばかりか,②捜査段階で覚せい剤取引への関与を認める供述をしたのは,自己が譲渡した偽造ハイウェイカードの客を守るためであったと供述する点も,偽造ハイウェイカードの譲渡より多量の覚せい剤の所持の方が明らかに重罪であるのに,後者について虚偽の事実を安易に認めたというのはにわかに信じ難く,③被告人と覚せい剤取引との結び付きを強く推認させる各事実,すなわち,レールゴーサービスを利用したHとの間における荷物の授受,E宅からの金庫等の持ち出し,E宅にあった覚せい剤の所在についてFを執ように問い詰めていることなどの理由について弁解するところも,その内容自体不自然,不合理なものであり,さらに,④被告人の弁解は,Dをかばうために嘘の供述をしたと述べる一方で,DはHやEと覚せい剤取引をしていたと述べるなど,それ自体矛盾する内容を含んでおり,多分に作り話的なものもあることを併せ考えると,被告人の上記弁解は到底信用できず,上記E証言及びG証言の信用性を何ら動揺させるものではない。
5 結論
  以上のとおり,信用性十分なE証言及びそれを補完するG証言によれば,営利目的の点を含め,判示事実を優に認定することができる。
(累犯前科及び確定判決)
 被告人は,
(1) 平成11年2月19日I地方裁判所J支部で詐欺,窃盗,盗品等有償譲受けの罪により懲役2年10月に処せられ,平成13年8月13日その刑の執行を受け終わり,
(2) 平成15年11月12日K地方裁判所で傷害,恐喝,道路交通法違反,有印私文書偽造及び偽造有印私文書行使の罪により懲役5年に処せられ,その裁判は同月28日確定した
ものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書及び上記各前科に係る各判決書謄本によって認める。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は覚せい剤取締法41条の2第2項(1項。有期懲役刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に該当するところ,情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,懲役刑については前記の前科があるので刑法56条1項,57条により上記改正前の同法14条の制限内で再犯の加重をし,これは前記確定裁判があった傷害,恐喝,道路交通法違反,有印私文書偽造及び偽造有印私文書行使の罪と刑法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示覚せい剤取締法違反の罪について更に処断することとし,その加重した刑期及び所定金額の範囲内で,被告人を懲役7年6月及び罰金200万円に処し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,暴力団幹部である被告人による覚せい剤の営利目的所持の事案である。
 その利欲的な動機には酌量の余地がないのみならず,常習的な犯行であって,所持していた覚せい剤の量も合計170グラムを超える多量に達している。犯情誠に悪質といわざるを得ない。ところが,被告人は,逮捕当初から本件犯行を否認し,公判廷においても供述を度々変遷させるなど,自己の刑責を免れようと不合理な弁解を繰り返しており,真しな反省の態度は見受けられない。しかも,被告人にあっては,覚せい剤取締法違反を含む罪によるもの4犯を含め,いずれも服役した懲役前科11犯を有しており,前記累犯前科の執行終了後2年足らずの間に,しかも,前記確定裁判に係る公判手続中に本件を敢行したものであって,規範意識の鈍麻が著しいのみならず,覚せい剤に対する親和性も根深いといわざるを得ない。
 そうすると,他方で,本件覚せい剤については,幸い社会に広く拡散する前に押収されていること,被告人の妻が今後の監督を誓約していることなど,被告人のために酌むべき事情も認められるが,これらの事情を十分考慮しても,被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。そこで,Eに対する2つの確定判決における量刑との均衡をも考慮して,刑を量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成17年9月14日
神戸地方裁判所第1刑事部

裁判長裁判官 的 場  純 男

   裁判官 西 野  吾 一

   裁判官 三重野  真 人