hanrei @Wiki H17. 9. 1 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第1369号 住居侵入,強盗殺人未遂被告事件



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強盗殺人未遂罪について,行為態様の一部及び殺意の否認


主文
被告人を懲役12年に処する。
未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,金銭に窮し,知り合いのA方に押し入って金員を強取しようと企て,あらかじめ石様のものを準備し,平成16年11月11日午後零時30分ころ,宅配便の配達人を装って,神戸市B区C町a丁目b番c号所在の同女方に侵入し,同女方1階廊下において,被害者が死亡するに至るかもしれないことを認識しながらそれもやむを得ない旨の未必の殺意をもって,いきなり同女(当時82歳)の頚部を手で締め付け,倒れた同女に馬乗りになってその頭部及び顔面を上記石様のもので多数回にわたって強打するなどの暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同女方1階居間兼寝室内から同女所有の現金4万2000円を強取し,さらに,同女が身じろぎしたのを見るや,上記同様の殺意をもって,同女に馬乗りになった上,その頭部及び顔面を多数回にわたって手拳で強打し,その頚部を手で締め付けるなどの暴行を加えたが,同女が失神したのを死亡したものと誤信してその場を立ち去ったため,同女に加療約90日間を要する頭部顔面多発挫創及び右眼窩内側壁骨折等の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らなかったものである。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,被告人が被害者の首を締めたことはないなどと主張して,本件行為態様の一部を争うとともに,被告人には殺意がなく強盗傷人罪が成立するにとどまると主張し,被告人も,公判廷においてこれに沿う供述をしているが,当裁判所は,判示事実が優に認められると判断したので,以下,その理由を補足説明する。
2 関係各証拠によれば,以下の前提的な事実が認められる。
 (1) 被告人は,本件犯行当日,事前に被害者方に赴き,被害者がインターホンに応答したことで同女が在宅していることを確認した上,公衆電話から,宅配便を配送するので玄関の鍵を開けておいてほしいと伝え,同女に鍵を開けさせた。次いで被告人は,凶器となる石様のものを準備し軍手をはめた上,宅配便を装うため段ボール箱にビニール紐をかけたものを持って被害者方に赴き,1階玄関口において,応対に出た被害者に暴行(なお,その具体的態様については後記3で検討する。)を加え,判示のとおり現金を強取した。
 (2) 上記暴行により,被害者は,加療約90日間を要する左側頭部挫創3箇所(うち1箇所は頭蓋骨にまで達している。),前頭部挫傷1箇所,前額部挫創1箇所及び右下眼瞼挫創2箇所などからなる頭部顔面多発挫創並びに右眼窩内側壁骨折及び右眼球陥凹のけがを負ったものであり,左肋骨も2本が骨折した。さらに,右下顎角部と眼窩部には皮下血腫が,頚部には圧迫痕がそれぞれ生じた。
3 被害者は,被告人から暴行を受けた状況等について,失神する前に首を締められ,意識が戻った後も数回にわたって殴打され,首を締められたなどと,判示に沿う態様の暴行を受けた旨を供述しているほか,2度目の失神から意識が回復した際には,顔にカーディガンがかぶせられていた旨を供述している。これらの供述は,知覚又は記憶していることとしていないこととが明確に区別されている上,手袋をはめた手で首を締められた感触があるとか,そのため叫ぼうとしたのに声にならなかったと述べるなど,臨場感にあふれたものであり,その内容面でも,他の客観的証拠や同女の負傷状況との間に矛盾の見受けられない自然なものとなっている。加えて,カーディガンが顔にかぶせられていたとの点については,被告人の実兄であるDの証言により裏付けられていることをも考え合わせると,十分な信用性ありと認められる。
  これに対し,被告人は,公判廷において,右手で被害者の首を持ったことはあるが,首を締め付けたことはなく,左手に握った石で被害者の頭部を数回殴打し,倒れた被害者の上に馬乗りになって,その顔面を手拳で数回殴打したが,被害者の顔にカーディガンをかぶせたことはないなどと弁解している。しかしながら,これらの弁解は,被害者の供述やDの証言に反するばかりか,被告人によれば一連の暴行であるというのに,顔面を殴打する際には石を殊更手放したというのも不自然であること,捜査段階における供述を大きく変更しているのに,その合理的な説明がなされていないことなどからすると,その信用性は乏しいというべきである。
  そして,信用性十分な被害者供述によれば,被害者に対する攻撃の外形的状況は判示のとおりであると認めることができる。
4 以上の事実認定を前提に,被告人に殺意があったか否かを検討すると,被告人と被害者との年齢差及び体格差に加え,被害者が負った傷害の部位・程度に照らすと,被告人は,殺傷能力十分な石様のもので人体の枢要部である頭部や顔面を多数回にわたり相当な力で殴打したものであって,このような行為態様自体が客観的に見て被害者を殺害するに足りる多大な危険性を有するものであったこと,また被告人においてもこの認識に欠けることはなかったと認められること,犯行後には,失神した被害者の顔に衣服を掛けただけで立ち去るなど,被害者の死亡という結果をそのまま容認するような行動をとっていることに加え,捜査段階においては未必の殺意を認める供述をしていたことを総合勘案すると,犯行当時少なくとも被告人に未必的殺意があったことを肯認することができる。
  なお検察官は,上記各事情に加え,被告人が被害者の顔見知りであるのに覆面等をせずに犯行に及んでいることなどを根拠に,被告人には確定的殺意があったと主張する。なるほど,検察官の主張にももっともな面があるものの,他方で,加害行為の際には犯人が顔をそむけるようにしていた旨被害者が供述していること,被害者が失神したため,殺害を完遂することが容易な状況にあったのに,そのような行動をとっていないこと,犯行後に被告人が実兄に対し「(被害者が)死んだんやろか,どうやろか。」と話していることからすると,被害者が確実に死亡したとの認識までは有していなかったと解する余地があることなどの事情もまた認められるのであって,確定的殺意があったとまで認めるのはちゅうちょせざるを得ない。
5 以上のとおり,強盗殺人未遂の事実は,未必的な殺意の限度で,これを優に認定することができる。
(法令の適用)
 被告人の判示所為のうち住居侵入の点は刑法130条前段に,強盗殺人未遂の点は平成16年法律第156号附則3条1項により同法による改正前の刑法240条後段,243条にそれぞれ該当するが,この住居侵入と強盗殺人未遂との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗殺人未遂罪の刑で処断することとし,所定刑中無期懲役刑を選択し,判示の強盗殺人未遂の罪は未遂であるから同法43条本文,68条2号を適用して法律上の減軽をした刑期(その長期は,行為時においては前記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法14条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)の範囲内で被告人を懲役12年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中170日をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
 本件は,金銭に窮した被告人が,自己の営んでいた建築業のかつての顧客で,金銭トラブルで裁判を起こされるなどしたことがある被害者から金員を強取しようと企て,被害者方に侵入した上,未必の殺意をもって石様のもので頭部や顔面を殴打するなどして,その反抗を抑圧し,現金4万2000円を強取したものの,殺害するに至らなかったという住居侵入,強盗殺人未遂の事案である。
 その動機は自己中心的かつ身勝手なものであり,酌量の余地はない。高齢の被害者を標的にして,被害者が自宅にいることを確認した上,宅配便を装って被害者方に侵入した犯行態様及び手口は卑劣かつ計画的であり,石様のもので頭部や顔面を多数回にわたって強打し,気絶して無抵抗になった被害者を更に手拳で殴打するなどした加害態様も,危険性が相当に高い。また,強取した金額も少額とはいえない上,被害者は一命を取り留めはしたものの,理不尽にも重大な傷害,とりわけ右目失明という回復不能な傷害を負わされ,現在もその後遺症に苦しむなど,その肉体的苦痛及び精神的苦痛には甚大なものがある。被害者は「大切な右目までつぶしていったあの手が憎い。」などとその心情を述べており,処罰感情は峻烈であるが,被告人からは何ら慰謝の措置が講じられていない。さらに,本件は閑静な住宅街において敢行されたものであって,付近住民に与えた不安感や衝撃にも大きいものがあり,独居老人をねらった強盗殺人という重大犯罪に対する一般予防の見地も軽視できない。
 以上の事情に加え,被告人は当公判廷においても不自然,不合理な弁解をするなど,本件を真しに省みる姿勢に欠けていることをも併せ考慮すると,被告人の刑事責任は重大である。
 しかしながら他方では,幸いにして被害者が一命を取り留めたこと,被害金について弁償される見込みがあること,被告人は20年以上前の前科以外に前科がなく,強盗の犯行に及んだこと自体については反省の弁を述べていること,扶養が必要な内妻がいることなど被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらの事情も十分考慮して,主文のとおり量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成17年9月1日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 的 場  純 男

   裁判官 西 野  吾 一

   裁判官 三重野  真 人