hanrei @Wiki H17. 7. 4 札幌地方裁判所 平成12年(行ウ)第30号等 国民年金不支給処分取消等



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判示事項の要旨:
大学在学中に疾病・受傷によって障害を負い,障害基礎年金の支給裁定を求めた原告らが,支給要件を認定すべき日において国民年金に任意加入しておらず,被保険者に当たらないとして,障害基礎年金を支給しない旨の決定を受けたため,学生を国民年金の強制適用の対象から除外した国民年金法の規定が憲法に違反する等と主張して,社会保険庁長官を被告として求めた上記各不支給決定の取消請求,及び適切な立法措置を講ずることを怠った立法不作為の違法があるとして,国を被告として求めた国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求が,いずれも棄却された事例。


主       文
    1 原告らの請求をいずれも棄却する。
    2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 原告らの請求
 1 第1事件
北海道知事が,平成10年6月5日に原告Aに対してした障害基礎年金を支給しない旨の決定を取り消す。
 2 第2事件
 (1) 北海道知事が,平成10年12月18日に原告Bに対してした障害基礎年金を支給しない旨の決定を取り消す。
 (2) 北海道知事が,平成10年12月28日に原告Cに対してした障害基礎年金を支給しない旨の決定を取り消す。
 (3) 北海道知事が,平成11年2月1日に原告Dに対してした障害基礎年金を支給しない旨の決定を取り消す。
 (4) 被告国は,原告B,原告C及び原告Dに対し,各2000万円及びこれに対する平成13年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 第3事件
  被告は,原告Aに対し,2000万円及びこれに対する成15年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要・その1(基本的事実等)
   本件は,大学在学中に疾病・受傷によって障害を負った原告らが,北海道知事に対して障害基礎年金の支給裁定を求めたところ,北海道知事から,原告らは,支給要件を認定すべき日において国民年金に任意加入しておらず,被保険者に当たらないとして,障害基礎年金を支給しない旨の決定を受けたため,機関委任事務制度の廃止により障害基礎年金の裁定に関する権限者となった被告社会保険庁長官に対し,学生を国民年金の強制適用の対象から除外した国民年金法の規定が憲法に違反する等と主張して,上記各不支給決定の取消しを求めるとともに,被告国に対し,適切な立法措置を講ずることを怠った違法があるとして,国家賠償法1条1項に基づき,各2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年7月14日(原告Aについては,平成15年5月15日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 1 本件で前提となる国民年金法の規定
 (1) 制定時の国民年金法(以下,原則として昭和60年改正までの同法を「昭和34年法」という。)
国民年金法は,昭和34年法律第141号として制定され,これによって国民年金制度が創設されたが,制定時における被保険者や障害年金に関する定めは次のとおりであった(なお,昭和57年法律第66号による同法改正前は,「障害」及び「障害認定日」について,それぞれ「廃疾」及び「廃疾認定日」との語句が用いられているが,以下,同改正前についても「障害」及び「障害認定日」との語句を用いることとする。)。
ア 被保険者
20歳以上60歳未満の国民は,原則として,法律上当然に国民年金の被保険者となる(以下,このことを「強制適用」という。)こととされたが(昭和34年法7条1項),例外として,①被用者年金各法の被保険者又は組合員やその他の年金の受給権者(同条2項1ないし5号),②既存の公的年金制度適用者の配偶者(同6号),③学校教育法41条に規定する高等学校等,同法52条に規定する大学等及び同法70条の2に規定する専科大学等の学生で,定時制課程にある者や通信教育を受け,夜間の学部等に在学する学生を除くもの(同7号。以下,強制適用から除外された学生を,単に「学生」という。)は,強制適用の対象外とされた。
イ 任意加入制度
国民年金法の強制適用の対象外とされた者の中でも,被用者年金各法の適用を受けず,また,これらの法律に基づく年金給付(遺族給付を除く。)の受給権者でもない者については,本人の希望により,都道府県知事の承認を受けて被保険者となることが認められていた(昭和34年法附則6条1項,以下「任意加入」という)。
学生は,この規定により,国民年金に任意に加入することができた。
ウ 保険料の免除
国民年金の被保険者は保険料を納付する義務を負い,また世帯主はその世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負うとされていた(昭和34年法88条)が,国民年金の障害年金又は母子福祉年金の受給権者,生活保護法による生活扶助を受けている者等は当然に,所得がない者等はその申請に基づいて都道府県知事が決定することによって,保険料の免除を受けることができるものとされていた(同法90条)。
ただし,申請に基づく免除の場合,世帯主又は配偶者が保険料を納付することが著しく困難でないときは,免除は認められず,また,任意加入した学生については,保険料の免除規定は適用されないものとされていた。
エ 障害年金及び障害福祉年金の支給要件
(ア) 障害年金の支給
初診日(疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日)において国民年金の被保険者であった者,又はかつて被保険者であった者で初診日において65歳未満の者が一定の障害の状態にあるときは,一定の保険料を拠出していたことを条件として,障害年金が支給されるものとされていた(昭和34年法30条)。
(イ) 障害福祉年金の支給
初診日において国民年金の被保険者であった者,又はかつて被保険者であった者で初診日において65歳未満の者が一定の障害の状態にあるときは,前記(ア)所定の要件を備えていない場合であっても,一定の要件の下に障害福祉年金が支給されるものとされていた(同法56条)。
また,疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者が,障害認定日以後に20歳に達したときは20歳に達した日において,障害認定日が20歳に達した日の後であるときはその障害認定日において,1級相当の障害の状態にあるときにも,障害福祉年金が支給されることとされていた(同法57条)。
 (2) 昭和60年法律第34号(以下「昭和60年改正法」という。)による改正後の国民年金法(以下「昭和60年法」という。)の規定
    昭和60年改正法による改正は,各種年金制度を統合し,全国民共通の基礎年金制度を創設することを主眼とした改正であり,そのうち,本件に関係する改正部分は次のとおりである。
  ア 被保険者
    被保険者は,次の(ア)ないし(ウ)のいずれかに該当する者とされ,国民年金法の強制適用を受ける被保険者の範囲が拡大された(昭和60年法7条)。
(ア) 日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって次号及び第3号のいずれにも該当しない者。ただし,次のいずれかに該当する者を除く(同条1項1号)。
a 学校教育法41条に規定する高等学校の生徒,同法52条に規定する大学の学生その他の生徒又は学生であって政令で定めるもの(同号イ)
b 被用者年金各法に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金たる給付であって政令で定めるものを受けることができる者(同号ロ)
(イ) 被用者年金各法の被保険者又は組合員(同項2号)
(ウ) 第2号被保険者の配偶者であって主として第2号被保険者の収入によって生計を維持するもの(同項3号)
上記(ア)aのとおり,昭和60年法では,学生等を国民年金法の強制適用の対象とはしないこととされ,「国民年金制度における学生の取扱いについては,学生の保険料負担能力等を考慮して,今後検討が加えられ,必要な措置が講ぜられるものとする。」とされた(昭和60年法附則4条1項)。
イ 任意加入制度
学生等は,従前と同様に,都道府県知事に申し出て,国民年金に任意加入することができるものとされた(同附則5条1項)。
ウ 保険料の免除
学生等が国民年金に任意加入した場合,従前と同様に,保険料の免除規定は適用されないものとされた。
エ 障害基礎年金の支給要件
昭和34年法により定められていた障害年金は,その名称が「障害基礎年金」となり,後記する現行国民年金法30条とほぼ同じ要件で支給されることとなった。
また,障害福祉年金は廃止され,代わりに,20歳未満の間にかかった疾病等によって障害の状態となった者に対しても,障害基礎年金を支給する旨の規定(昭和60年法30条の4。規定の内容は後記する現行国民年金法の規定と同様である。)が設けられ,従前障害福祉年金の支給を受けていた者に対しても,障害基礎年金の支給対象となる程度の障害を負っていれば,障害基礎年金を支給することとされた(昭和60年法附則25条)。
 (3) 平成元年法律第86号による改正後の国民年金法(以下「平成元年法」という。)の規定
    平成元年法律第86号による改正によって,学生等についても国民年金法が強制適用されることとなった。その改正内容は,次のとおりである。
  ア 被保険者
    昭和60年法7条1項1号イ,ロが削除され,その結果,学生等についても国民年金が強制適用されることとなった。
  イ 保険料の免除
    学生等に国民年金法が強制適用されることとなった結果,学生等も保険料納付義務を負うこととなり,所得がない場合等一定の場合に都道府県知事に申請して保険料の免除を受けることができるものとされた(平成元年法90条本文)。
    ただし,世帯主又は配偶者に納付するについて著しい困難がないと認められるときは,保険料は免除されないものとされており(同条ただし書),したがって,学生等の親に保険料を納付する能力がある場合には,保険料納付義務は免除されなかった。
  ウ 障害基礎年金の支給要件
    昭和60年法及び後記する法の規定と同様である。
  エ 施行日
    平成元年法は,平成3年4月1日から施行された。
 (4) 平成12年法律第18号による改正後の国民年金法(以下「平成12年法」という。)の規定
    保険料の免除につき,90条の3が新設され,学生等は,当該学生等に所得がない場合等に該当すれば,社会保険庁長官に申請して保険料の免除を受けることができることとなった(以下「学生納付特例制度」という。)
 (5) 現行国民年金法(以下「現行法」という。)の規定
    以上の改正を経て,現行法は,以下のとおりとなった。
  ア 被保険者
    現行法7条1項は,国民年金の被保険者として,①1号において,日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって次号及び3号のいずれにも該当しないもの(第1号被保険者),②2号において,被用者年金各法の被保険者,組合員又は加入者(第2号被保険者),③3号において,第2号被保険者の配偶者であって主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもの(第2号被保険者である者を除く。)のうち20歳以上60歳未満のもの(第3号被保険者)とそれぞれ定めている。
    すなわち,日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者は,そのすべてが国民年金の被保険者となる。
  イ 保険料の免除
    被保険者は,保険料を納付すべき義務を負う(現行法88条1項)が,一定の事由がある場合(大学生の場合,当該学生自身の前年の所得が政令で定める額以下であるとき等)に該当すれば,社会保険庁長官に申請して保険料の免除を受けることができる(現行法90条の3第1項)。
  ウ 障害基礎年金の支給要件
  (ア) 初診日において,20歳以上の者の場合(現行法30条1項)
   a 疾病にかかり,又は負傷し,その初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内に傷病が治った場合においては,その治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とし,以下「障害認定日」という。)において,その傷病により同条2項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとき。
   b 初診日において,被保険者であること,又は,被保険者であった者であって,日本国内に住所を有し,かつ,60歳以上65歳未満であること。
   c ただし,a及びbの要件を満たした場合であっても,当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たない場合には支給しない。
  (イ) 初診日において,20歳未満の者の場合(現行法30条の4)
     疾病にかかり,又は負傷し,障害認定日以後に20歳に達したときは20歳に達した日において,障害認定日が20歳に達した日後であるときはその障害認定日において,障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとき
 2 前提となる事実(争いのある事実は証拠を併記)
 (1) 原告ら
  ア 原告A
  (ア) 障害の発生等
     原告A(昭和36年1月21日生)は,昭和51年4月にa高校に入学し,以後3年間,b市において下宿生活を送った後,昭和54年4月から1年間の大学受験浪人生活を経て,昭和55年4月に山形大学に入学し,山形市に転居した。原告Aは,同年6月ころ以降,終日,下宿で横になっている生活を送るようになり,下宿の整理整頓も一切不可能となり,20歳に達した後である昭和57年1月11日,札幌医科大学附属病院において,心因反応との診断を受けた。その後,原告Aは,同年3月24日に医療法人社団五稜会病院に入院し,同病院において,精神分裂病(当時の呼称。以下「統合失調症」との語を用いる。)と診断された。
     原告Aは,昭和56年1月21日に20歳に達していたが,学生であったため,昭和34年法7条2項の規定により,国民年金の被保険者とならず,かつ,任意加入の申出をしなかった。
(イ) 裁定請求等
原告Aは,平成10年4月15日,北海道知事に対し,統合失調症により障害の状態にあるとして,障害基礎年金の裁定請求を行ったが,同知事から,同年6月5日付で,初診日は昭和57年3月24日であり,当該傷病の初診日において原告Aは20歳以上の学生であって,任意加入の手続をしていなかったため国民年金の被保険者ではなく,受給資格がないという理由で障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けた。原告Aは,これを不服として,同年9月10日,北海道社会保険審査官に審査請求をしたが,同審査官は,同年10月21日,審査請求を棄却する裁決をした。原告Aは,さらに,同年11月24日,社会保険審査会に再審査請求をしたが,同審査会が平成12年9月29日,再審査請求を棄却する裁決をしたため,同年12月25日,上記不支給処分の取消しを求める訴えを提起した。
  (ウ) 適用法条
     原告Aの統合失調症の発症日及び認定日が,遅くとも昭和61年4月1日前であることに争いのない本件において,同人の障害年金の支給に関して適用されるべき法律は,昭和60年改正法附則23条,国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令(昭和61年政令第54号。以下「昭和61年政令」という。)29条1項の規定により読み替えられた昭和60年改正前の国民年金法30条以下の規定であり,それによると,障害基礎年金は,以下のいずれかの要件に該当しなければ支給されないこととなっている(以下,本件に関係する支給要件のみを掲げる。)。
a 当該傷病の初診日において被保険者であったこと。
b 障害認定日(初診日から起算して1年6か月を経過した日又は症状固定日のいずれか早い日)において,その傷病により,別表に定める程度の障害の状態にあること。
c 初診日の前日において,次のいずれかに該当すること。
(a) 初診日の属する月前における直近の基準月の前月までの被保険者期間が3年以上であり,かつ,その被保険者期間のうち最近の3年間が保険料納付済期間又は保険料免除期間で満たされていること。
     (b) 初診日の属する月前における直近の基準月の前月までの通算年金通則法(昭和36年法律第181号)4条1項各号に掲げる期間を合算した期間が1年以上であり,かつ,同月までの1年間のうちに保険料納付済期間以外の被保険者期間がないこと。
  イ 原告B
  (ア) 障害の発生等(甲ロ1の2及び3,甲ロ42,48,49,証人E,原告B)
     原告B(昭和27年9月7日生)は,北海道大学大学院農学研究科に在籍していた昭和51年9月27日(当時24歳),講師をしていた学習塾へ向かう途中に,突如まっすぐに歩くことができなくなり,同日,北海道大学医学部附属病院神経内科を受診して入院し,多発性硬化症(国が指定する難病の一種であり,中枢神経系の脱髄疾患である。突然の発症や繰り返しの発症,又は1回限りの発症等,個人差が大きく,進行の予測が困難とされている。)と診断された(初診日)。その後,原告Bは,リハビリテーション等の訓練を受けたが,障害認定日に近い昭和53年4月15日においても,四肢体幹の運動麻痺,反射亢進,右同名性半盲等のため,日常の動作を,一人では全くできない,あるいはできてもうまくできないという状態にあった。なお,原告Bは,昭和52年に1種2級の身体障害者手帳の交付を受けていたが,平成15年に1種1級の身体障害者手帳の交付を受けている。
     原告Bは,昭和47年9月7日に20歳に達していたが,学生であったため,昭和34年法7条2項の規定により国民年金の被保険者とならず,かつ,任意加入の申出をしなかった。原告Bが,国民年金の被保険者たる資格を取得した日は,昭和55年4月1日である。
  (イ) 裁定請求等
原告Bは,平成10年10月8日,北海道知事に対し,多発性硬化症により障害の状態にあるとして,障害基礎年金の裁定請求を行ったが,同知事から,同年12月18日付で,初診日は昭和51年9月27日であり,当該傷病の初診日において原告Bは20歳以上の学生であって,任意加入の手続をしていなかったため国民年金の被保険者ではなく,受給資格がないという理由で障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けた。原告Bは,これを不服として,平成11年2月24日,北海道社会保険審査官に審査請求をしたが,同審査官は,同年6月10日,審査請求を棄却する裁決をした。原告Bは,さらに,同年8月3日,社会保険審査会に再審査請求をしたが,同審査会は,平成13年4月27日,再審査請求を棄却する裁決をしたため,同年7月5日,本訴を提起した。
  (ウ) 適用法条
原告Bの初診日が昭和51年9月27日であり,同人が当時24歳の学生であったことから,同人の障害年金の支給に関して適用されるべき法律は,昭和60年改正法附則32条及び昭和51年法律第63号(以下「昭和51年改正法」という。)附則20条の規定により適用される昭和51年改正前の国民年金法30条であり,同条によれば,支給要件は以下のとおりである。
a 当該傷病の初診日において被保険者であったこと。
b 障害認定日(初診日から起算して1年6か月〔昭和51年改正法15条,昭和52年8月施行〕を経過した日又は症状固定日のいずれか早い日)において,その傷病により,別表に定める程度の障害の状態にあること。
c 障害認定日の前日において,次のいずれかに該当すること。
(a) 障害認定日の属する月前における直近の基準月(1月,4月,7月及び10月をいう。以下同じ。)の前月までの被保険者期間が3年以上であり,かつ,その被保険者期間のうち最近の3年間が保険料納付済期間又は保険料免除期間で満たされていること。
     (b) 障害認定日の属する月前における直近の基準月の前月までの被保険者期間が1年以上であり,かつ,その被保険者期間のうち最近の1年間が保険料納付期間で満たされていること。
  ウ 原告C
  (ア) 障害の発生等(甲ロ2の2及び3,甲ロ42,44,45,証人F,原告C)
     原告C(昭和33年4月22日生)は,北海道教育大学函館校教育学部小学校教員養成課程体育専攻課程に在籍していた昭和56年12月17日(当時23歳),バレーボールクラブ活動の打ち上げコンパの帰宅後,アパートの2階外階段より転落して負傷し,同日,亀田郡七飯町に所在する国立療養所北海道第一病院に搬送され,頭部の損傷と頸部骨折に対する緊急手術を受けた(初診日)。その後,原告Cは,昭和58年2月に国立療養所札幌南病院に転院し,市内の脳神経外科への検査入院を経て昭和59年2月に美唄労災病院に転院し,脊髄損傷・頚椎損傷の専門病棟での治療とリハビリを受けるとともに,整形外科での手術を3回,泌尿器科での手術を2回受けた。現在,原告Cは,下半身は全く動かず,支えが無ければ座位は不可能で,自力での起き上がり,体位の交換はできず,食事の摂取以外は全面的な全介助を要する状態にある。なお,原告Cは,昭和57年3月19日付で,身体障害者手帳(1種1級)の交付を受けている。
     原告Cは,昭和53年4月22日に20歳に達していたが,学生であったため,昭和34年法7条2項の規定により国民年金の被保険者とならず,かつ,任意加入の申出をしなかった。原告Cが,国民年金の被保険者たる資格を取得した日は,昭和57年4月1日である。 
  (イ) 裁定請求等
原告Cは,平成10年10月8日,北海道知事に対し,頸椎損傷により障害の状態にあるとして,障害基礎年金の裁定請求を行ったが,同知事から,同年12月28日付で,初診日は昭和56年12月17日であり,当該傷病の初診日において原告Cは20歳以上の学生であって,任意加入の手続をしていなかったため国民年金の被保険者ではなく,受給資格がないという理由で障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けた。原告Cは,これを不服として,平成11年2月24日,北海道社会保険審査官に審査請求をしたが,同審査官は,同年6月10日,審査請求を棄却する裁決をした。原告Cは,さらに,同年8月3日,社会保険審査会に再審査請求をしたが,同審査会は,平成13年4月27日,再審査請求を棄却する裁決をしたため,同年7月5日,本訴を提起した。
  (ウ) 適用法条
原告Cの初診日が昭和56年12月17日であり,同人が当時23歳の学生であったことから,同人の障害年金の支給に関して適用されるべき法律は,昭和60年改正法附則32条の規定により適用される昭和60年改正前の国民年金法30条であり,支給要件は原告Aと同様となる。
  エ 原告D
  (ア) 障害の発生等(甲ロ3の2及び3,42,51,53,証人G,原告D)
     原告D(昭和38年9月30日生)は,東海大学工学部動力機械工学科に在籍していた昭和60年10月30日(当時22歳),卒業実習の研修先にオートバイで向かう途中の横浜市戸塚区内において,交通事故によって負傷し,同日,同市に所在する済生会横浜市南部病院に搬送され,第5頸椎の圧迫骨折に対する緊急手術を受けた(初診日)。その後,原告Dは,昭和61年1月27日に登別厚生年金病院に転院してリハビリテーションの訓練を受け,北広島リハビリセンターに入所していた昭和63年9月ころには,ワープロを打てる程度に回復したものの,現在,下半身はまったく動かず,支えがなければ座位は不可能で,自力での起き上がり,体位の交換はできない。また,握力はなく,手首は少し曲げることができる程度であり,鎖骨下10センチメートルから下の皮膚感覚は全くなく,食事の摂取以外は全面的な介助を要する状態にある。なお,原告Dは,登別厚生年金病院に入院中に,身体障害者手帳(1種1級)の交付を受けている。
     原告Dは,昭和58年9月30日に20歳に達していたが,学生であったため,昭和34年法7条2項の規定により国民年金の被保険者とならず,かつ,任意加入の申出をしなかった。原告Dが,国民年金の被保険者たる資格を取得した日は,昭和61年4月1日である。 
  (イ) 裁定請求等
原告Dは,平成10年10月8日,北海道知事に対し,第4,5頸椎脱臼により障害の状態にあるとして,障害基礎年金の裁定請求を行ったが,同知事から,平成11年2月1日付で,初診日は昭和60年10月30日であり,当該傷病の初診日において原告Dは20歳以上の学生であって,任意加入の手続をしていなかったため国民年金の被保険者ではなく,受給資格がないという理由で障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けた(原告らの受けたこれらの各不支給処分を,以下「本件各不支給処分」という。)。原告Dは,これを不服として,平成11年2月24日,北海道社会保険審査官に審査請求をしたが,同審査官は,同年6月10日,審査請求を棄却する裁決をした。原告Dは,さらに,同年8月3日,社会保険審査会に再審査請求をしたが,同審査会は,平成13年4月27日,再審査請求を棄却する裁決をしたため,同年7月5日,本訴を提起した。
  (ウ) 適用法条
原告Dの初診日が昭和60年10月30日であり(そのため,原告Dは,初診日が昭和61年4月1日前で,障害認定日が同日以後にある者として,後記する経過措置の対象となる。),同人が当時22歳の学生であったことから,同人の障害年金の支給に関して適用されるべき法律は,昭和60年改正法附則23条,昭和61年政令29条の規定により,昭和60年法30条,昭和60年法附則20条,21条であり,同条によれば,支給要件は以下のとおりである。
a 当該傷病の初診日において被保険者であったこと。
b 障害認定日(初診日から起算して1年6か月を経過した日又は症状固定日のいずれか早い日)において,その傷病により,別表に定める程度の障害の状態にあること。
c 初診日の前日において,次のいずれかに該当すること。
(a) 初診日の属する月前における直近の基準月の前月までに被保険者期間があり,かつ,その被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であること。
     (b) 初診日の属する月前における直近の基準月の前月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の被保険者期間がないこと。
 (2) 被告社会保険庁長官
    地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)によって機関委任事務制度が廃止されたことにより,従前,都道府県知事が機関委任事務として行っていた障害基礎年金の裁定に関する事務は,被告社会保険庁長官が行うこととなった。
第3 事案の概要・その2(争点及び当事者の主張)
 1 争点
  ① 原告Aの統合失調症の発症が20歳前であり,統合失調症においては,「発症日」あるいは「医師の診断を受けるべき状態になった日」をもって初診日とみなすべきか否か。
  ② 原告Aの統合失調症の初診日が,同人が20歳に達する前である昭和47年7月ころか否か。
  ③ 20歳以上の学生を強制適用の対象外とする国民年金法の規定(以下「適用除外規定」という。),及び無拠出制の障害基礎年金又は障害福祉年金の支給規定(以下「20歳前受給規定」という。)が初診日において20歳以上の学生であった者を対象としなかったことが,憲法14条,25条に違反するか否か。
  ④ 原告らにつき,国民年金の被保険者たる資格が認められた場合,本件各不支給処分を取り消し得るか否か。
  ⑤ 原告らにつき,20歳前受給規定を類推適用し得るか否か。
  ⑥ 本件各不支給処分が,告知聴聞の機会を保証しなかったものとして,憲法31条,13条に違反するか否か。
  ⑦ 被告国が,適用除外規定を立法し,また,同立法に附随する救済措置を講じなかったことにより,国家賠償責任を負うか否か。
  ⑧ 被告国が,学生の任意加入制度について周知徹底を怠ったとして,国家賠償責任を負うか否か。
  ⑨ 原告らの損害
 2 争点①(原告Aの統合失調症の発症が20歳前であり,統合失調症においては,「発症日」あるいは「医師の診断を受けるべき状態になった日」をもって初診日とみなすべきか否か。)について
  (原告A)
 (1) 原告Aが統合失調症を発症した時期が20歳到達前であることは,主治医の診断及び再審査での判断から明らかであるところ,統合失調症等の精神疾患においては,「初診日」を,「発症日」あるいは「疾病に罹患して医師の診断を受けるべき状態になった日」と解すべきである。
 (2) 初診日の解釈基準
  ア 精神疾患の特殊性
    通常の傷病の場合であれば,患者は,発症とほぼ同時に医療機関を受診することから,「発症日」と「受診日」がほぼ一致することになるのに対し,統合失調症の場合には,以下のaないしdの特殊性から,患者及びその家族は,統合失調症を発症しても,医療機関を受診する機会を失してしまうことが通常である。したがって,「初診日」の解釈としては,「発症日」あるいは「医師の診断を受けるべき状態になった日」をもって「初診日」とすべきである。
   a 統合失調症の特性
   (a) 統合失調症は,10歳代後半から20歳代前半の青年期に発症するため,その初期症状を,青年期特有の行動と区別することが難しいとされる。
   (b) 統合失調症には,陽性症状と陰性症状(外界への無関心,頭痛,自閉,不眠等)とがある。症状の経過としては,前兆期・急性期・消耗期・回復期と進行するが,前兆期においては陰性症状が主であるため,青年期特有の行動と区別がつきにくく,かつ,本人にとって発症を認識することが困難となる。
   b 精神疾患に対する知識の不足
     精神疾患の場合,専門家であっても確定診断が困難とされており,まして,専門家でない患者やその家族が,本人の異常な言動を,精神疾患の前兆であると認識することは不可能である。
   c 精神疾患に対する偏見
     精神疾患という疾病の性質上,仮に,患者の家族が,本人の異常な言動に気づいたとしても,世間での偏見を恐れ,医療機関の診療を受けることを躊躇することが多い。
   d 医療機関の状況
     我が国の現状では,精神疾患に対する医療機関や保健所が,相談機関として,必ずしも機能していない。
  イ 精神疾患における「初診日」の行政解釈
  (ア) 全国障害認定医会議での合意
     全国障害認定医会議において,精神障害者については,前記した精神疾患の特殊性に鑑み,20歳前に医療機関を受診することが困難であり,やむを得ない事情があった場合は,20歳前の発症日を初診日とみなすとの取扱いをすべきとされた。そこでは,受診することが困難な場合として,本人に精神障害の自覚がなく,単身でアパート暮らしをしていた例を挙げているところ,これは原告Aにそのまま当てはまる。
  (イ) 裁決例
     精神障害者の障害基礎年金裁定に関する再審査裁決例には,前記した全国障害認定医会議の結論に従い,医師の診断を受けたのが20歳を過ぎていても,これを形式的に判断することなく,種々の事情を総合考慮した上で,「専門医の診断を受けるべき状態にあった」として,発症日を初診日とみなし,障害基礎年金の支給を認めている例が多々ある。
  (被告社会保険庁長官)
 (1) 初診日の解釈基準について
  ア 「発症日」をもって「初診日」とする解釈を採用することができないことは,「初診日」という文言の意味,受給者間の公平・迅速な支給決定という趣旨から導かれる客観的な基準の必要性,厚生年金保険法における障害年金の支給要件となる「発症日」が昭和60年に「初診日」に改正された経緯(立法者意思)等からして明らかである。被告社会保険庁長官の初診日に対する行政解釈もこれと同様である。
  (ア) 法の定め
 昭和60年法30条1項は,「初診日」について,「疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」と定義している(なお,条文上の構成は異なるものの,昭和34年法30条における定義も,これと同一である。)。かかる文言からすれば,国民年金法上,ある日時が「初診日」であると認められるためには,少なくとも,①当該傷病の負傷又は発病後に,②当該傷病に対する診療行為と評価できる行為が,③医師又は歯科医師によって行われることを要する。
  (イ) 客観的基準の必要性
     初診日において医師ないし歯科医師による診療行為を要するとされる理由は,支給要件について客観的な基準を設けることにより,受給権者間の公平を図り,画一的かつ迅速な支給の決定を可能ならしめることにある。すなわち,昭和60年法改正前の厚生年金保険の被用者のごとく一定の職場において健康管理がおこなわれ,また,医療保険による保障がおこなわれている場合と異なり,国民年金法の適用者については,上記のような健康管理等が行われていないため,傷病がいつ発生したかを把握することは技術的に困難であることから,上記(ア)の①ないし③のとおり,客観的な基準を要件と定めたものである。
     国民年金制度は,生活保護等他の所得保障制度とは異なり,資産の有無や他の親族による扶養の可否等の個別事情を考慮することなく,予め画一的要件(拠出期間や年齢)を定め,これを満たす場合に,一律に定型的な給付を行う制度であり,大量,迅速かつ画一的な処理が要請される制度であり,このような制度趣旨に照らせば,「初診日」のように,国民年金法上,明文で定義されているものについて,「必ずしも現実に医師の診察を受けた日に限定する必要はなく,医学的見地から当該障害と因果関係を有する傷病の発生が証明できる最も前の日」のように,文言を離れたあいまいな解釈をすることは法の趣旨を没却するものであり,到底許されない。
  (ウ) 立法者意思が明らかにされていること
昭和60年改正前の厚生年金保険法47条1項は,基準となるべき日について,「被保険者であった間に疾病にかかり,又は負傷した者」と定め,医学的見地から当該障害と因果関係を有する傷病の発生が証明できる最も前の日を含む発症日における被保険者資格を要するとしていた。しかし,同規定は,昭和60年の年金制度の抜本的改正に際し,昭和60年法30条1項と要件が統一され,初診日における被保険者資格を要するとされ,現行厚生年金保険法47条1項は,昭和60年法30条1項と同じく,「障害厚生年金は,疾病にかかり,又は負傷し,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」を「初診日」とすることとなった。
 このように,障害厚生年金の基準となる日を,法律改正の手続により,「発症日」から,国民年金法と同じ「初診日」に変更し,国民年金と厚生年金等を統合した法改正の経緯を踏まえれば,立法者が,国民年金法においても,発症日と初診日とは明らかに異なるものと位置づけていることは明らかである。
   イ 裁決例等について
     原告Aは,その主張に副う裁決例がある旨主張する。しかし,それらは個別事案における一裁決例にすぎず,この点を措くとしても,それら裁決例は,医療従事者によって統合失調症の発症が疑われ,請求人が,早急な医師の診断を受けるよう勧められていたことや,医師によって請求人の当時の病状や経過が客観的に証明されている等の具体的,客観的な事実の存在を重視したものである。これに対し,原告Aについては,このような具体的,客観的な事実は何ら認められず,前記裁決の事案とは,前提となる事実を異にするというべきである。
     また,原告Aが掲げるその他の裁決例については,「発症日」をもって「初診日」とみなした事例とはいえない。障害認定審査事務は,国民年金法及び各種障害認定基準等に基づいて取り扱われており,これらが原告Aの主張を裏付けることはあり得ない。
 (2) 原告Aの統合失調症の発症日について
    原告Aが,20歳到達前に統合失調症を発症していたか否かは,当時の原告Aの状態を客観的に証明できるものが存在しない以上,不明といわざるを得ない。また,仮に,原告Aが,20歳到達前に統合失調症を発症していたとしても,当時医療機関で受診した事実はないのであるから,いずれにしても20歳未満時に「初診日」があったと認められる余地はない。
 3 争点②(原告Aの統合失調症の初診日が,同人が20歳に達する前である昭和47年7月ころか否か。)について
  (原告A)
    原告Aは,11歳であった昭和47年7月ころから,頻繁に頭痛を訴えるとともにイライラ感に苛まれ,c町立病院や旭川赤十字病院脳神経外科に通院して投薬を受けてきた。これらの症状は,原告Aの統合失調症の初期症状というべきであるから,原告Aの初診日は,統合失調症について,c町立病院の初診を受けた昭和47年7月ころである。
  (被告社会保険庁長官)
 頭痛やイライラ感といった症状は,いずれも統合失調症に特有のものではなく,誰しもが経験する類の症状であるから,何ら統合失調症の発症を確定づけない。統合失調症の発症があったされるためには,上記各症状だけでは足りず,これに加え,それ相応の確たる根拠が必要であることは当然である。しかるに,本件においては,そもそも上記両病院への通院等の事実を裏付ける客観的な資料は一切存在せず,わずかに昭和48年10月15日に旭川赤十字病院小児科外来を受診したことが当事者間に争いのない事実として認められるにすぎないところ,原告Aの母である証人Hは,原告Aが上記両病院に通院した時期について,当初,昭和47年(小学6年生)ころとしていたのを,後になって昭和44年(小学3年生)ころであったと変遷させる等極めて曖昧な証言をしている上,上記両病院で原告Aにどのような診断がなされたのかも不明である。加えて,原告Aは,その後の中学時代,高校時代において,頭痛等の症状はもとより,精神状態の悪化を訴え病院へ通院した事実は全くない。
これらの事実に照らせば,原告Aの統合失調症は,昭和47年7月ころ,ないしそれ以前においては,未だ発症していなかったというべきであり,当時統合失調症が発症していたことを前提に,そのころに「初診日」があったとする原告Aの主張に理由がないことは明らかである。
 4 争点③(適用除外規定,及び20歳前受給規定が初診日において20歳以上の学生であった者を対象としなかったことが,憲法14条,25条に違反するか否か。)
  (原告ら)
 (1) 憲法14条1項違反
ア 適用除外規定(本件において原告らに適用される規定は,昭和36年法律第167号による改正後の国民年金法7条2項8号(同改正前の昭和34年法7条2項7号に相当する。)及び昭和60年法7条1項1号イである。)は,20歳以上の学生を国民年金の強制適用の対象から除外して保険料免除の余地をなくしているという点で他の20歳以上の国民と差別し,かつ,20歳前受給規定(本件において原告らに関する規定は,昭和34年法57条1項及び昭和60年法30条の4である。)は,初診日が20歳以上の学生であった者を無拠出制の障害基礎年金(昭和60年改正前は障害福祉年金)を受給できる対象から除外している点で20歳未満の国民と差別し,その双方の差別の結果,類型的に稼得能力がないために保険料の納付が困難な学生に対して,初診日において20歳以上の学生でなければ受給できたはずの障害基礎年金を一切受給できないという,年齢及び社会的身分による著しく不合理な差別を生じさせているから,憲法14条1項に違反する。その具体的な理由は,以下のとおりである。
イ 合憲性の判断基準について
    憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法律である国民年金法において,受給者の範囲,支給要件,支給金額等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いがなされた場合は憲法14条に違反することになると解すべきところ,ここでいう合理的な理由の有無につき,裁判所は,法律の設けた差別が合理的であるか否かを単純に審査するのではなく,①立法目的が重要なものであるか,②その目的と規制手段(具体的な取扱い上の違い)との間に事実上の実質的関連性があるか否かという「厳格な合理性の基準」に照らして審査すべきである。すなわち,本件において憲法14条への適合性を問題とするにあたっては,20歳以上の学生を被保険者から除外した立法目的の検討,及びその立法目的を実現するための手段として,20歳以上の学生を被保険者から除外し,任意加入制度の下においた手段が,立法目的と実質的な関連を持つのかを審査しなければならない。
  ウ 昭和34年法の適用除外規定の立法事実について
  (ア) 昭和34年法の立法者は,20歳以上の学生を強制適用の対象にしなかったことについて,①学生を強制適用の対象とすることは,稼得活動に従事していない者に保険料納付義務を負わせることになり,稼得活動従事者に対する保障を本質とする国民年金制度の趣旨に反すること,②学生は,卒業後は就職により,被用者年金各制度の適用者になることが通例であったこと,③仮に強制適用とすると,卒業・就職後に被用者年金制度に加入して,国民年金制度の対象者でなくなるから,学生時代に支払わされる保険料が掛け捨てになるおそれがあることの3点をその立法事実としている(以下,各番号に従い「立法事実①」のようにいう。)。
  (イ) 立法事実①について
     学生が一般的に稼得活動に従事していないことは,昭和34年以降においても立法事実として認めることができるが,以下に述べるとおり,国民年金制度は,必ずしも現に稼得活動に従事する者のみを対象とした制度ではないから,20歳以上の学生を強制適用の対象から除外した理由として合理性を有するとは解されない。
すなわち,国民年金制度は,労災保険とは異なり,必ずしも,現に稼得活動に従事する者のみを対象とした制度ではない。確かに,20歳到達をもって国民年金の強制適用の対象としたのは,20歳をもって一般に就労していると考えられる年齢として一律に区分したことによるが,そのことから,現実の就労の有無が適用の対象を画していたことにはならない。例えば,昭和34年当時から,実際に就労をしていない自営業者の配偶者も強制適用の対象とされ,また,失業者等であっても,これを被保険者としたうえで,保険料納付が困難であれば保険料の免除を認められており,さらに,20歳未満の自営業者はいかに稼得活動に従事していても国民年金の対象とはされていない。このように,国民年金法の基本構造は,国民皆年金を実現するために,現実の就労の有無を問うことなく,20歳以上の者は稼得活動に従事して一定の所得をあげ得る者として強制適用の対象とした上で,現実的に就労しておらず保険料を納付できない者に対しては,その実情に応じて保険料免除で対応することにしたものといえる。また,初診日において20歳未満であった者は,障害福祉年金が支給されるという形で国民年金制度の対象とされていたのであって,そのことは国民年金制度が稼得活動従事者に対する保障を本質とするものではないことを裏付ける。
  (ウ) 立法事実②について
実際に稼得活動を開始する際には,別の被用者年金制度に加入する者がほとんどであるという立法事実は必ずしも認められない。
国民年金法制定直後である昭和35年当時の就業構造は,自営業者が1040万人(25.1%),家族従事者が1385万人(31.4%),被傭者が1690万人(43.5%)であり,国民年金対象者である前2者の割合で過半数を占めている。
 なお,昭和56年当時の就業構造は,自営業者が943万人(16.9%),家族従事者が592万人(10.6%),被傭者が4037万人(72.3%)であり,被傭者層が増えてきた傾向が顕著であるが,これらの統計は学生のみを対象としたものではないから,その点の配慮が必要であり,高学歴化に伴って被傭者層が増加した面も一概に否定できない。
いずれにせよ,卒業後の学生が別の被用者年金制度に加入することが通例であるというのは,明らかに根拠を欠く。
  (エ) 立法事実③について
     以下のとおり,掛け捨て問題は既に解決しており,そうでないとしても,掛け捨てとなることに格段の不合理はなかったのであるから,学生時代に支払わされる保険料が掛け捨てになるおそれがあるとの立法事実は認められない。
a 掛け捨て問題は解決していたこと
仮に強制適用とすると,年金保険料が掛け捨てとなるとの点は,昭和34年当時は立法事実として存在したが,昭和36年4月に通算年金通則法が施行されたことにより,基本的に消滅した。
この点,被告らは,通算年金通則法の制定後も通算の対象となる期間や給付が限定されていたことから,昭和60年改正の基礎年金制度の確立によって,初めて掛け捨て問題が解決したと主張する。
しかし,多少の掛け捨て問題が残ったとしても,一応の問題解決がされている以上,この点を除外の理由とすることに合理的な理由はないというべきである。
b 必ずしも掛け捨てにはならないこと
学生を強制適用にした場合,類型的に稼得能力がない学生は,保険料の免除を受ける可能性が高いのであるから,掛け捨て問題が発生するのは,保険料の支払能力がある一部の学生のみである。また,私保険においても,老後の備えである貯蓄型のものと異なって,交通事故や火災に備える保険は掛け捨てのものが多いように,突発の事故に備える障害年金部分を含む国民年金の保険料が結果的に掛け捨てになったとしても格別不合理ではない。
さらに,掛け捨て問題は,老齢年金部分と障害年金部分とを分けて保険料を設定することによって解決が可能な問題でもある。その場合,学生1人当たりの月額保険料の試算が,極めて少額である189円程度となるとの問題があり得るが,そうであるならば,むしろ,老齢年金部分の保険料と障害年金部分の保険料を分けた上で,老齢年金部分を掛け捨てにしないために,学生である期間中は障害年金部分の保険料を一律に免除してもさしたる財政上の不都合はなかったはずである。
  エ 目的と手段との合理的関連性について
(ア) 昭和34年法の適用除外規定の立法事実(立法目的)そのものが不合理であったことは,既に主張したとおりであるが,そうでないとしても,その目的達成のための手段として,学生を被保険者から除外し,任意加入制度の下においたことは著しく不合理である。
(イ)a 前記立法目的を達成するための手段としては,①平成元年の改正で実現したとおり,学生を強制適用としたうえで,一般とは異なる学生用の保険料免除基準(世帯単位)を設けることによって,保険料負担能力のない学生が保険料の免除を受ける余地を残すことや,②平成12年の改正で実現したとおり,学生納付特例制度を設け,学生本人の所得を基準として,届出により保険料の納付を要しないこととする方法で十分であった。にもかかわらず,昭和34年法が学生を適用除外としたことにより,定型的に所得がなく保険料負担能力のない学生は,極めて例外的な者を除いて,任意加入することができず,学生期間中に障害者となった場合にも障害年金を受給することができないこととなったが,このように,保険料負担能力のない者が障害年金を受給する途を閉ざすこととなる手段は,国民年金制度の中核であり,全国民にあまねく年金による所得保障を行おうとする国民皆年金の理念に反するものであって,著しく不合理なものである。
b このことは,昭和34年法制定に至る国会審議において,法案を提出した内閣の立場から,厚生大臣及び政府委員が,生活保護受給者を例にあげ,保険料負担能力のない低所得層の国民にこそ,障害や老齢・生計支持者の死亡等による稼得能力喪失に備えるため,国民年金による所得保障を及ぼすことが必要であり,これこそ国民皆年金の理念に沿うものであることを力説し,保険料負担能力がない者を適用除外とすべしとする見解を強く排斥していることからも明らかである。また,昭和34年法案の国会への提出に先立つ,社会保障制度審議会の答申(昭和33年6月14日提出)や国民年金委員中間発表(「国民年金制度構想上の問題点」,昭和33年7月29日),大蔵省意見(「国民年金制度に関する社会保障制度審議会の答申について」),自由民主党政務調査会国民年金実施対策特別委員会「試算資料」,厚生省(現・厚生労働省)第1次案(昭和33年9月24日発表)等の一連の過程において,学生を適用除外とする案は皆無であったことに照らし,昭和34年法が学生を適用除外としたことは極めて唐突であり,慎重な熟慮に基づくものではないことが強く疑われる。
c また,昭和34年法は,学生を適用除外とする一方で,任意加入の道を開いていた。しかし,この任意加入制度は,昭和34年法が学生を適用除外とすることにより,定型的に稼得能力がなく保険料を負担することのできない学生の中に大量の無年金障害者が発生することを予定するものであって,著しく不合理であった。
  (ウ) 任意加入制度の不合理性
被告らは,学生である間の「障害」に対する保障を求める者,あるいは,卒業後引き続き国民年金の被保険者となることが見込まれる者等に対しては,任意加入という手段を用意し,これによって20歳以上の学生であっても,被保険者資格を得ることができたと主張する。しかし,以下のとおり,任意加入制度の存在は,前記立法目的を実現するための手段として,何ら合理性を有するものではない。
a 資力のない学生にとっては無意味であったこと
 任意加入制度においては,保険料の免除制度がないため,現実に継続して保険料を支払うことができる者のみしか加入することができなかったばかりか,保険料を滞納し,督促を受けたにもかかわらず指定の期限までの保険料を納付しないときは,その指定期限の翌日に被保険者資格を喪失するとされており,強制適用の場合のような保険料の法定免除や申請免除の規定も適用されなかった。学生は類型的に稼得能力がないのであるから,現実に保険料を納付することは困難であり,制度としての実効性を伴わなかったのは当然のことであった。のみならず,このように資力のない学生は,任意加入制度によって被保険者となり得ないところ,これは,資力の有無によって,障害年金の受給権を決することとなる点で,20歳以上の学生を差別的に取り扱うものでもあった。
b 被用者年金各法の被保険者等の配偶者とは前提となる立法事実が異なること
昭和34年法7条2項6号(昭和36年法律第167号による改正後は同項7号)では,被用者年金各法の被保険者等の配偶者(以下「専業主婦」という。)も強制適用対象から除外し,任意加入制度を設けていたが,これら専業主婦は,夫が公的年金に加入していること,夫に所得があるため任意加入制度に加入しやすい実態があったこと等,学生とは異なる社会経済的事実が存在した。
実際,任意加入制度に加入していた学生が約1.25%であったのに対し,専業主婦の場合は,昭和55年の時点で約6割ないし7割が任意加入していた。
c 制度の周知徹底が不十分であり制度の実質を伴っていなかったこと
平成元年改正前において,任意加入制度の周知広報は徹底しておらず,個別の広報による分かりやすい説明が行き届いている状況ではなかった。したがって,学生やその家族の大半の者が,任意加入制度の存在を知らなかったり,存在を知っていても,その多くは老齢年金との関係しか想起されないため,加入していなければ障害年金が受給できないということを理解していた者は少なく,制度としての実効性を伴なっていなかった。
d 社会保険の本質に反すること
社会保険の基本的特徴は,強制保険ということであるが,その趣旨は,危険を分散する保険制度において任意加入とすると,保険事故の危険の高い者,負担の少ない者だけが保険関係に入り,また,逆に民間私保険では排除される高リスク者が排除されることを防止するという技術的な理由のほか,20世紀の福祉国家の理念に基礎を置くものである。すなわち,本来は,全ての人が自らの高齢や障害事故に備えて,貯蓄や私保険によって自らの生活を維持するのが原則ではあるが,それが可能な条件がなかったり,可能であっても必ずしも最悪の事態にまで備えることは期待し難い面があるため,強制的に社会保険