hanrei @Wiki H17.12.27 甲府地方裁判所 平成15年(ワ)第300号,平成16年(ワ)第22号 損害賠償請求,地位確認請求



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山梨県中巨摩郡昭和町教育委員会において期限付き任用の嘱託職員として採用されていた原告X1,X2が,任用期間の終了により職を免ぜられ,再任用をされなかったことに関し,昭和町長である被告Yの発言により名誉を毀損され,また,被告Yの働きかけによって違法不当な免職の処分が行われた等と主張して,被告Y個人に対し,不法行為に基づく損害賠償及び謝罪文の交付等を求め(第1事件),さらに,被告昭和町に対し,嘱託職員としての地位の確認及び国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を求めた(第2事件)事案について,原告両名の被告昭和町に対する国家賠償請求が一部認められた事例


判決
当事者 省 略
主文
 1 被告昭和町は,原告両名に対し,それぞれ金120万円及びこれに対する平成16年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告両名の被告昭和町に対するその余の請求,被告Yに対する請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,原告両名と被告昭和町との間においてはこれを5分し,その2を原告両名の負担,その3を被告昭和町の負担とし,原告両名と被告Yとの間においては全部原告両名の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由 
第1 請求
(第1事件)
 1 被告Yは,原告両名に対し,それぞれ金200万円及びこれに対する平成15年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告Yは,原告両名に対し,原告両名と昭和町議会議員全員が同席する場において別紙謝罪文を交付しかつ朗読して謝罪せよ。
(第2事件)
 1 原告両名と被告昭和町の間において,原告両名が被告昭和町嘱託職員としての地位を有することを確認する。
 2 被告昭和町は,原告両名に対し,それぞれ金200万円及びこれに対する平成16年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,山梨県中巨摩郡昭和町立温水プール(以下「温水プール」という。)において嘱託職員として勤務していた原告両名について,昭和町長である被告Yが,町長室及び町議会議員全員協議会(以下「全員協議会」という。)において,原告両名に対する誹謗中傷を内容とした発言を行ってその名誉を毀損するとともに,町長としての権限を逸脱して教育委員会に働きかけ,原告両名に対する違法不当な免職の処分を行い,原告両名に経済的・精神的苦痛を与えたとして,原告両名が,被告Yに対し,不法行為に基づく損害賠償各200万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成15年7月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求め,合わせて,原告両名の名誉を回復するために謝罪文を交付し謝罪する
ことを求めるという事案(第1事件),並びに,原告両名に対してなされた上記の免職の処分は,正当な根拠なくなされたものであるから,被告昭和町との間で上記処分の違法無効を前提に原告両名の嘱託職員としての地位の確認を求めるとともに,被告昭和町の代表者である被告Yがその職務として行った原告両名に対する名誉毀損及び違法不当な免職処分について,被告昭和町に対して国家賠償法1条1項に基づき損害賠償として慰謝料各200万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成16年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるという事案(第2事件)である。
 2 争いのない事実
  (1) 当事者
   ア 原告X1は,平成5年12月1日,昭和町教育委員会に嘱託職員として採用され,平成12年4月1日以降は,任用期間半年毎の辞令発令を受けながら,平成15年3月31日まで温水プールにおいて勤務していた者である。
   イ 原告X2は,平成5年8月4日,昭和町教育委員会に嘱託職員として採用され,平成12年4月1日以降は,任用期間半年毎の辞令発令を受けながら,平成15年3月31日まで温水プールにおいて勤務していた者である。
   ウ 被告Yは,平成11年2月に昭和町長に就任し,平成15年2月に実施された町長選挙での再選を経て,現在に至るまで町長の職にある者である。
  (2) 原告両名に対する辞令の発令
    昭和町教育委員会は,原告X1及び原告X2に対し,それぞれ平成15年3月31日付けで,雇用期間が終了したことを理由として嘱託職員の職を免ずる旨の辞令を発令した(以下「本件辞令の発令」という。)。
  (3) 被告Yの発言等
   ア 平成15年3月18日,被告Yは,原告両名を順次町長室に呼び出し,その際,原告X1に対し,「3月末をもって退職してもらう。うちの妻が万引きしたと言っているようだ。」旨の発言をし,原告X2に対し,「3月末をもって退職してもらう。理由は自分の胸に手を当てれば分かる。」旨の発言をした。
   イ 平成15年4月11日開催の全員協議会において,被告Yは,原告両名の温水プールにおける金銭管理に関する事項についての発言をした。
  (4) 本件辞令の発令後の経過等
     原告両名は,平成15年4月9日,昭和町教育委員会の教育長及び被告Yに対し,本件辞令の発令の理由の開示,そして処分の撤回と損害賠償を求める書面を送付したところ,同人ら連名による同月18日付けの回答書が送付された。回答書には,原告両名については,平成14年10月1日付けの辞令をもって,平成15年3月31日までの期間を明示して,温水プール業務の嘱託を任命したこと,期間が終了したことを理由として,同年3月31日をもって嘱託を免じたこと,さらに再度の嘱託を依頼しなかった理由として職務怠慢,協調性の欠如等を指摘するとともに,原告X1については,友人に対する不当な優遇,原告X2においては公務員の中立性を害する行為などの問題行動があったことなどの内容が記載されていた。
3 争点
  (1) 被告Yの名誉毀損行為の有無
  (2) 本件辞令の発令の違法性
  (3) 原告両名の勤務状況等
  (4) 損害         
第3 争点に対する当事者の主張
 1 被告Yの名誉毀損行為の有無について
  (1) 原告両名の主張
   ア 平成15年3月18日の町長室における発言
     被告Yは,前記第2の2記載の発言のほか,原告X1に対し,「あんたは,家(うち)のやつが万引きしたことを毎晩毎晩えらい大勢に触れ回ってくれたね。もう4月1日の辞令は絶対書かない。辞めてもらう。嘱託は今日言って,今日退職させてもかまわないんだ。」と発言した。また,原告X2に対し,「3月いっぱいで退職ということで。別に今日でもいいんだけども,代わりはいくらでもいるから。」旨発言し,理由を求める原告X2に対して前記第2の2記載の発言をし,理由を明らかにすることをしなかった。
   イ 平成15年3月20日の議員運営委員会及び同年4月11日開催の全員協議会における説明
     被告Yは,町議会議員の質問に対し,「この問題は裁判になるのでうかつに言えない。言ったりすると罰せられるので,報告程度にしたい。」と断った上で,「(原告両名には)金銭的不正があった。免職の詳細は見せられないが,新聞のとおりである。」などと言明した。
   ウ 被告Yは,上記ア,イのとおり,原告両名を誹謗中傷する発言を繰り返し,原告両名の名誉を毀損した。
  (2) 被告らの主張
   ア 原告両名が主張する被告Yの発言は,いずれも町長としての職務に関して発生した言動である。町長の職務執行に関して発生した損害は,国家賠償法1条1項により,公共団体たる被告昭和町が賠償の責に任ずるべきであって,町長個人に対する責任を問うべきではないのであるから,本件損害賠償請求は不適法であって却下されるべきものである。
   イ 仮に,原告両名の主張が不適法でないとしても,被告Yが行った発言は,前記第2の2において認めたもののみである。
     被告Yが行った各発言は,原告両名の社会的地位を低下させるような誹謗中傷ではなく,原告両名の名誉を毀損するものではない。
     そもそも,平成15年3月20日の議員運営委員会においては,原告両名について発言をしたこともないはずである。
   ウ また,被告Yの発言が,原告両名の名誉を毀損するものであったとしても,平成15年3月18日の町長室における発言は,原告両名の職務態度等に職員として不適当な行動があったことを他の職員らから聞き及んだため,原告両名の再任をしない旨の理由を述べるために必要な発言であったのであるから,何ら違法な発言ではない。
     さらに,平成15年4月11日開催の全員協議会における被告Yの発言についても,議員からの質問に対する町長としての必要な答弁であって,正当な職務行為によるものであるから,何ら違法はない。同年3月20日の議員運営委員会において同趣旨の発言があったとした場合も上記と同様である。
     なお,全員協議会における被告Yの発言は,原告両名の退職後に判明した簿外の現金の保管,管理があったことを受けて,「プールの金銭の保管にルーズな面があった。」旨言ったものである。
 2 本件辞令の発令の違法性について
(1) 原告両名の主張
   ア 原告両名についての雇用形態は,形式的な雇用期限が来ても,新たな辞令は何らの審査もなく,特段の問題がない限り継続されてきたものであり,原告両名は,将来にわたって特段の事由のない限り昭和町嘱託職員としての地位を保障されるという期待権を有していた。
     被告昭和町及び昭和町教育委員会が平成15年3月31日に行った「嘱託職員を免ずる」旨の辞令の発令は,単に任期の満了によるものではなく,「雇い止め」の処分である。
   イ そもそも本件辞令の発令は,形は任命権者である昭和町教育委員会の処分ではあるが,実質は,無権限である被告Yが行った無効な処分である。昭和町教育委員会は,被告Yの不当な圧力に屈し,盲従した違法な処分を行ったのである。
     また,本件辞令の発令は,原告両名に対する不利益処分であるのに,地方公務員法49条以下の規定に基づく「不利益処分に関する説明書の交付」等何らの措置も講じられておらず,やはり違法な処分といわざるを得ない。
   ウ 原告両名の上記の雇用形態に照らしてみれば,被告昭和町及び昭和町教育委員会が原告両名の任期満了雇用継続の判断をするに際しては,まったくの自由裁量権はなく,一定の信義則ないし権利濫用の法理に基づく公正な判断措置が要請されるというべきである。にもかかわらず,被告昭和町及び昭和町教育委員会は,原告両名にとって,身に覚えのない事柄を理由に,本人の弁明を聞くこともなく,町のうわさ程度を基に本件辞令の発令を行った。
     したがって,本件辞令の発令は,原告両名に対する根拠を欠いた違法・無効な処分である。
  (2) 被告らの主張
   ア 原告両名は,昭和町教育委員会の嘱託職員として採用,雇用されていたのであり,昭和町の嘱託職員として採用,雇用されていたものではない。
   イ 原告両名は,競争試験または選考を経た任期の定めのない正規任用の職員ではなく,嘱託期間を平成14年10月1日から平成15年3月31日までとして任用期間を明示の上,任命された昭和町教育委員会の期限付き任用職員である。原告両名の地位が任期の定めのない正規職員の地位に転化することはなく,原告両名は,再任がなければ,任用期限の到来により任期を満了して職員の身分を喪失するにすぎない。原告両名を再任しないことについて何ら処分はなく,本件辞令の発令は,免職の処分をしたものではない。
     また,昭和町教育委員会の教育長は,平成15年3月24日,原告両名に再就職活動期間を与えるため,7月末までの再任について希望の有無を打診したが,原告両名はそれを拒否したため,平成15年3月31日付けで雇用期間が終了したのであって,「雇い止め」をしたのではない。
   ウ 被告Yは,教育長に圧力をかけて原告両名の嘱託の地位を剥奪したことはない。まして,被告Yが町長の権限を濫用して人事を私物化しているようなことは全くない。
     そもそも,地方自治法によれば,町長には,教育委員会の職員の任免に関する意見を述べる権限があると解されるところ,原告両名の公務員としての不適当な行動を再任用を消極的に解する一事由として捉え,任用期限の到来をもって任用を終了する旨の予定を告げることは何ら違法な行為でなく,町長の権限を濫用した行為でもない。
 3 原告両名の勤務状況等について(第3の1(1)イ,1(2)ウ,2(2)ウに関して)
  (1) 被告らの主張
   ア 原告両名の温水プールにおける勤務状況には,公務員たる職員として不適当な行動があった。
    ① 原告両名は,勤務時間中に,アルバイト職員に仕事をさせて,自らは健康器具で体操をしたり,近くのホームセンターに買い物に出かけるなどの勝手な行動をした。 
    ② 原告X1は,平成11年8月ころから退職するまでの間,知り合いの町外者に対して,町内者用の格安の入場券(回数券)を発売,交付してやり,その券を用いて入場するのを黙認していた。また,温水プールでの売上げが合わなかったとき,アルバイト職員を泥棒扱いした。
    ③ 平成15年2月2日施行の昭和町長選挙においては,公務員として公正・中立な行動をすべく注意・指導がなされていたのにもかかわらず,原告X2は,平成15年1月ころ,温水プール受付で,来場した有権者に対し,町長立候補予定者の個票を渡して作成を依頼するなどし,また,原告X1は,「町長(被告Yのこと)の奥さんは以前万引きをしていた。」旨の話を他の人にしていた。
   イ 被告らは,主に原告両名の同僚職員らとの面談あるいは電話を通して,平成14年12月ころから平成15年1月にかけて上記事実を聞き及んだものである。
  (2) 原告両名の主張
    原告両名は,被告らが主張するような不適当な行動はしていない。
    ① 原告両名は,勤務時間中にアルバイト職員に仕事をさせて健康器具を利用した事実はない。前所長時代(平成10年4月から平成12年6月)に,前所長から手が空いているときは使ってよい旨言われたため,一,二回程度利用したことはあるが,平成12年7月以降は一度も利用したことはない。また,原告両名は,勤務時間中に私用で買い物に出かけことはない。買い物は,温水プールにおいて必要な品物が切れた場合に,上司の許可を得て,まとめて買いに行くことにしていたためであり,公務である。原告両名以外の職員も多数行っていたものである。
    ② 原告X1は,町外者を町内者用の格安入場券で入場させたことはなく,アルバイト職員を泥棒扱いしたこともない。
    ③ 平成15年2月2日施行の昭和町長選挙に関して,原告X2が勤務時間中に,立候補予定者の個票を集めたり依頼をしたりしたことはない。原告X1が,被告Yの妻が万引きをしていたとの話をしたこともない。
 4 損害
  (1) 原告両名の主張
    被告Yによる名誉毀損行為によって被った精神的苦痛,及び,被告Yが権限を逸脱して行使した,あるいは町長の職務として行使した違法不当な圧力により,嘱託職員としての地位を奪われたことから生じた経済的,精神的苦痛を金銭的に見積もると,原告各々につき被告らが各自200万円の慰謝料を支払うのが相当である。
  (2) 被告らの主張
    原告両名が主張する損害については争う。
第4 当裁判所の判断
 1 上記争いのない事実に証拠(甲15,16,証人A,同B,同C,同D,同E,原告X1,原告X2及び被告代表者・被告本人Y[ただし,いずれについても下記の認定に反する部分は除く。なお,書証については枝番を含む。]と各項目掲記のもの)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
  (1) 原告X1及び原告X2の勤務関係等
原告X1は,平成5年12月1日,昭和町教育委員会に嘱託職員として採用され,平成12年4月1日以降は,任用期間半年毎の辞令発令を受けながら,平成15年3月31日まで温水プールにおいて勤務していた。
    原告X2は,平成5年8月4日,昭和町教育委員会に嘱託職員として採用され,平成12年4月1日以降は,任用期間半年毎の辞令発令を受けながら,平成15年3月31日まで温水プールにおいて勤務していた。
    原告両名に対しては,「生涯学習課温水プール業務を嘱託する」,「月額15万1000円を給する」「嘱託期間 平成14年10月1日から平成15年3月31日まで」とする平成14年10月1日付け辞令が発令されていた(乙14の1・2)。
    昭和町教育委員会は,原告X1及び原告X2に対し,それぞれ平成15年3月31日付けで,雇用期間が終了したことにより嘱託職員の職を免ずる旨の辞令を発令,交付した(甲1,2)。
  (2) 昭和町の職員採用状況
    昭和町では,昭和町職員定数条例(昭和42年昭和町条例第3号)により正規職員の採用に関して定数に上限が設けられていたところ,人件費等の肥大化を防ぐともに,行政・住民サービス向上のために,職種に応じて嘱託職員,臨時職員(以下両者を合わせて「嘱託職員等」という。)を採用する運用が行われていた。嘱託職員等の採用に際しては,「昭和町嘱託職員及び臨時職員等の給与及び旅費に関する規則」(昭和63年6月28日規則第10号)に基づいて採用し,給与や期末手当等も上記規則に基づき昭和町から支給されるという運用が行われており,概ね,昭和町全体で約170名,そのうち教育委員会において67名の嘱託職員等が採用されていた(平成15年4月1日当時)。
    嘱託職員等の採用については,従来いわゆる縁故採用が行われていたが,平成12年6月ころからは公募を含む登録制度が取り入れられ,そのころから,任期毎に6か月(特別職の場合は1年の場合もある。)の任用期間を明示した辞令を交付するという扱いを行うようになった。
    また,昭和町教育委員会における嘱託職員等の採用においては,教育長が実質的な人事権を有し,教育委員会が辞令を交付することとなるが,実際上増員や異動といった職員配置の変更が必要な場合には,教育委員会として事前に申し入れをし,昭和町長,総務課長と協議をする方法を採っていた。
  (3) 温水プールにおける業務体制及び業務内容
   ア 平成15年3月当時(同年3月31日付け「昭和町教育委員会事務局等の組織に関する規則の一部を改正する規則」〔教委規則第4号〕施行前),温水プールは,教育委員会の所管であり,同委員会事務局生涯学習課が管理・運営を行っていた。同委員会事務局には生涯学習課長とは別に温水プール所長(以下「所長」という。)を置くものとされており,所長は生涯学習課生涯スポーツ係の組織下にあり,所長は施設を掌理し,館員を指揮監督するものとされていた(「昭和町教育委員会事務局等の組織に関する規則」平成11年7月30日教委規則第3号)。
     温水プールは,町の正規職員が務める所長1名のほか,嘱託職員等9名くらいの体制で構成されており,嘱託職員等については,早番,遅番の二交替制が取られていた。
     原告両名が嘱託職員として採用された平成5年ころにはF所長が就任しており,その後,G所長,生涯スポーツ係長であったHが所長を兼務するなどの時期を経て,平成13年4月から平成15年3月31日までE所長が在任していた。
   イ(ア) 原告両名を含む嘱託職員等の業務内容は,主として一般の窓口受付,清掃業務,監視業務などであり,具体的には,施設の清掃,フロントでの利用者応対,町内回数券の販売,委託スポーツ用品の販売,町外者自動販売機の管理,ジュース等の自動販売機の管理,プールの監視,トレーニングルームの受付,売上金,利用者数等の集計作業などであった。
    (イ) 温水プールは,1回の利用毎に,町外者であれば900円,町内者であれば300円を支払うシステムで,町内者が利用する場合,原則として回数券(12枚綴り3000円)を用いることとされていた。ただ,町内者が回数券を忘れたとか,試しに利用したいといった場合には,回数券を1枚ずつ300円でばら売りをすることも行っていた。この場合,1綴りの回数券12枚すべてをばら売りにすると,600円の剰余が生じることとなるが,この剰余金は,売上げには計上せず,別に保管しておき(以下,この方法で保管されていた金員を「簿外金」という。),売上金に何らかの理由で不足が生じた場合に,所長や係長の了承を得て,不足の穴埋めに用いるなどの処理が行われていた。この簿外金の扱いは,原告両名が温水プールに配
属された平成5年ころには既に行われていたもので,平均して数万円程度の簿外金が日常的に存在していた。
      上記のような簿外金の扱いは,平成8年か9年ころいったん見直され,集計表のスタイルが変更されたが,ばら売りによって生じる600円の剰余金を手元に保管しておき,不足が生じた場合にこれに当てる運用は維持された。
      平成12年秋ころ,当時所長を兼務していたH係長は,簿外金の扱いの抜本的な見直しを行い,ばら売りによって生じた600円も売上げとして会計に計上し,以後,売上金の不足が生じた場合などは,担当した職員が自己負担で補うこととされた。
    (ウ) 温水プールでは,町内者と町外者の利用料金に上記のとおり差異があったところ,原告両名が勤務し始めた当初は,町内者に氏名と住所を記載させて確認をする方法が行われたこともあったが,その後,平成6年か7年ころには,口頭申告のみの確認に簡略化され,厳密に町内者か町外者かを区別し,確認をするようなことまでは行われていなかった。
    (エ) 温水プールの清掃用品など消耗品の購入は,不足している物品がある程度の量になると,職員らが交替で近くのスーパーに自家用車を使用して買いに行くことになっていた。原告両名が交替で行くこともあり,特に原告X2が1人で物品の購入に行く回数が多かった。
    (オ) 温水プールには,プールのほかトレーニング機器等の設備も設けられていたところ,職員らの要望もあり,休憩時間には,施設を利用することが許されていた。E所長のころにも同様の扱いが維持されており,勤務終了後である午後5時以降にはプールを利用したりトレーニング機器を利用したりする嘱託職員等がおり,原告X1もその1人であった。
      温水プールの職員らが施設を利用する場合,利用料金を支払わないですることが容認されていた。
    (カ) 原告両名は,約10年間にわたって温水プールで勤務したところ,その間,職務上の問題行動により教育委員会からの不利益処分を受けたことはなく,所長や生涯学習課長等の直属の上司から,勤務態度について個別に注意を受けたこともなかった。
  (4) 本件辞令の発令に至るまでの経過
   ア 被告Yは,平成11年ころから,原告両名の勤務態度が良くないとの話を聞くことがあった。その話の情報源は,温水プールの臨時職員であったDやI,監査委員をしていた町議会議員のJ,匿名の投書などであった。被告Yは,Dとはかねてから親交があったほか,Iとは親戚関係にあった。
     原告両名に関する話のうち,原告X2が選挙の個票(立候補者の後援会入会カード)を取っているらしいとの件については,被告Yは,平成14年11月ころ,E所長に当該事実の確認を求めた。E所長は,当該事実を見たことも聞いたこともなかったことから,原告X2に確認をしたところ,原告X2はこれを否定したため,E所長はその旨を被告Yに報告した。その後,E所長も,被告Yも,改めて原告X2に事実の確認を行うことはなかった。
     被告Yは,Dらから聞いていたその他の原告両名の種々の勤務上の問題行動について,原告両名や温水プールの所長,教育長らに直接事実の確認を行ったことはなく,調査を行うこともなかった。
   イ 町長室におけるやり取り
    (ア) 平成15年3月18日,被告Yは,原告両名を順次町長室に呼び出した。町長室には,被告Yのほか,収入役,総務課長,A教育長,教育委員会のK生涯学習課長,E所長が集まった。
      A教育長は,町長室に何のために集まるのかの理由も事前には聞いておらず,まして,原告両名の任期を今期限りとするということについて,被告Yや総務課長との間で事前に協議をしたこともなかった。
    (イ) 被告Yは,町長室に呼び出した原告X1に対し,「うち(被告Y)の妻が万引きしたとのうわさを触れ回った。4月1日の辞令は書かないから3月末をもって辞めてもらう。」旨の発言をした。
      原告X1は,上記うわさを触れ回った覚えはないこと,誰が言ったことか教えて欲しい旨申し出た。
      A教育長は,その場で,被告Yに対し,急なことであり,生活のこともあるとして取りなしたが,被告Yの返答はなく,原告X1もそれ以上特に発言はしなかった。
    (ウ) 被告Yは,次に,原告X2を町長室に呼び出し,「3月末をもって退職してもらう。理由は自分の胸に手を当てれば分かる。」旨の発言をした。
      原告X2は被告Yに理由は何かを尋ねたが,被告Yはこれを明らかにはしなかった。
   ウ A教育長との電話でのやり取り     
     A教育長は,原告両名が辞めた場合の再就職の事情等を考慮して,3か月から4か月の期間再任用する方針を検討し,被告Yの了承を得た。
     平成15年3月24日,A教育長は原告両名に電話をし,7月までの再任用の意向を伝えたが,原告両名は上記申し出を断った。
   エ 全員協議会等における被告Yの発言
    (ア) 平成15年3月20日,町議会の議長の諮問機関であり,議会の運営に関する諮問を行う議員運営委員会において,議長から職員の人事や選挙人事をしたのではないかとの質問を受けた被告Yは,「(温水)プールの職員に不正があったので辞めてもらった。」旨の答弁をした。
      議員運営委員会は一般に公開はされておらず,その出席者は,議長,町議会の各委員会の代表者,被告Y,助役,総務課長であり,Bは町議会議員としてこれに出席をした。
    (イ) 同年4月11日,町議会の開催に先だって行われる全員協議会において,町議会議員からの質問に対し,被告Yは,「温水プールの嘱託職員2人に金銭的な不正があったので辞めてもらった。裁判になるから詳しいことは言えない。」旨の答弁をした。
      全員協議会は,一般に公開はされていないものの,町議会議員全員,被告Y,収入役,総務課長,A教育長などが出席していた。
   本件辞令の発令後の経過等
    温水プールに勤務する嘱託職員等のうち,平成15年3月31日をもってその職が免ぜられたのは原告両名のみであった。
    原告両名は,同年4月9日,A教育長及び被告Yに対し,本件辞令の発令の理由,処分の撤回と損害賠償を求める書面を送付したところ(甲3),同人らは連名で同月18日付けの回答書を送付した(甲4)。上記回答書には,原告両名については,平成14年10月1日付けで,平成15年3月31日までの期間を明示して,町立温水プール業務の嘱託を任命したが,その期間が終了したので同日をもって嘱託を免じたこと,嘱託を依頼しなかった理由は,原告両名については,「私用による無断外出を初めとする職務怠慢,職場同僚に対する嫌がらせ等にみられる協調性の欠如,他人を犯罪者呼ばわりするような性向」があるとし,さらに原告X1については,「プール料金における町外の知人・友人に対しての不当な優遇」,原告X2においては
,「公務員の中立性を害するような町長選挙における特定候補者への投票依頼」がみられたなど,「嘱託職員として不適当な種々の問題行動を重ねて」いたので,嘱託を終了することとしたなどとの内容が記載されていた。
    原告両名は,平成15年4月24日,昭和町公平委員会に対して地方公務員法49条の2に基づく審査請求を行ったが,同年6月2日,上記委員会は,期間限定付の嘱託職員については,任用期間の終了により嘱託職員の地位は喪失するものであって,教育委員会が行政処分をしたものではないなどとして,原告両名の不服申立ては不適法であるから却下する旨の裁決を行った(甲6)。
 2 そこで,上記認定事実に基づき,各争点につき順次検討する。
  (1) 被告Yの名誉毀損行為について(争点(1))
   ア 被告Yが原告両名に関して町長室及び町の協議会等において発言した内容は上記のとおりと認められる。
     名誉とは,人がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉を指すものであり,人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情は含まれないと解されるところ(最高裁昭和45年12月18日第二小法廷判決民集24巻13号2151頁),名誉毀損に当たるか否かは,客観的にみて,人の社会的評価や信用が低下したかといえるかどうかにより判断すべきである。
   イ そこで,まず,被告Yの平成15年3月18日の町長室における発言につき検討する。
    (ア) 原告X1に対する被告Yの発言としては,原告X1が,被告Yの妻が万引きしたとの話を触れ回ったこと,4月以降の採用はしないといったことが認められる。
      被告Yの発言のうち,万引きの話を触れ回ったとの点は,原告X1が他人の犯罪行為を触れ回ったという事実を摘示することで,その品性に関わるものともいえそうである。しかし,発言の内容は,抽象的なものにとどまっており,原告X1の品性に対する誹謗中傷といったものとまでは認められない。また,発言の場や発言の趣旨に照らせば,上記発言をもって,客観的に原告X1の社会的評価を低下させるものとまでは認め難い。
      被告Yが4月以降の採用をしない旨の発言をした点は,何ら原告X1の社会的評価を低下させるものとは認められない。
    (イ) 原告X2に対する被告Yの発言は,3月末で辞めてもらうこと,自分の胸に手を当てれば分かるといったものであるところ,当該発言が,原告X2の社会的評価を客観的に低下させるものとは認められない。
    (ウ) したがって,町長室における被告Yの発言は,原告両名の名誉を毀損するものとは認められない。
   ウ 次に,被告Yの平成15年3月20日の議員運営委員会及び同年4月11日の全員協議会における発言について検討する。
    (ア) 被告Yの発言は,結局のところ,温水プールの嘱託職員2人に金銭的不正があったから,それを原因として辞めてもらったことを内容とするものである。
      金銭的不正があったという事実の摘示は,人の信用といった人格的価値に関わる事項であり,一般的に人の社会的評価を低下させるものといえる。
      この点,議員運営委員会における被告Yの発言は,プールの職員に不正があったとするもので,いくらか抽象的な内容にとどまっていることが認められるものの,職員に辞めてもらうような不正があったとすることを内容としており,人の社会的評価を低下させるものと認められる。
      そして,議員運営委員会や全員協議会は一般には公開されておらず,その出席者は,町議会議員や昭和町の役職に就く者などに限定されてはいるものの,複数人が集まる公的な場での発言であり,発言された内容が伝播性を有することは容易に認められる。
      また,被告Yの発言では,原告両名の名前が具体的に示されたわけではないものの,温水プールの職員が総勢10名に満たないこと,同時期に温水プールを辞めた嘱託職員は原告両名だけであったことからすれば,上記発言は原告両名を特定し得るに十分なものといわざるを得ない。
      したがって,被告Yの議員運営委員会及び全員協議会における発言は,原告両名の名誉を毀損するものと認められる。
    (イ) これに対し,被告らは,被告Yの上記発言は,町長としての必要な答弁であって,正当な職務行為によるものであるから違法ではないと主張する。
      確かに,被告Yの発言は,町議会議員等からの質問に対する町長の答弁として行われたもので,職務の執行に際して行われたものと認められるし,その内容に照らし,公共の利害に関する事実について述べたものであるとも認められる。
      被告Yの上記発言が専ら公益を図る目的に出たものであり,かつその内容が真実であるか,あるいは,真実でないとしても,真実と誤信したことについて確実な資料・証拠に照らし,相当の理由がある場合であれば,発言の違法性がなく,不法行為にならないものと解される。
      そこで,以下,発言の目的,発言内容の真実性等につき検討する。
    (ウ) 被告Yの発言は,原告両名の退職後に判明した簿外金の保管の事実について,温水プールの金銭の保管にルーズな面,すなわち,金銭的不正があったことを理由として温水プールの職員を辞めさせたという内容であり,その主要な伝達事実は,原告両名に簿外金の保管という金銭的不正があったことを摘示したものと認められる。
      確かに,上記認定のとおり,温水プールにおいて,少なくとも平成5年ころから平成12年ころまで,およそ正当とはいえない方法で簿外金の管理・保管が行われていた事実が認められる。
      被告Yは,温水プールの臨時職員であったDやIらから簿外金の存在や取扱いを聞いたことに加え,原告両名については,被告Yが町長に就任した平成11年ころから良くないうわさを聞いていたところ,原告両名の勤務年数が長く,勤務態度が横柄で,新しい所長の命令に従わないといった問題行動があるとも認識していたため,簿外金についても原告両名の責任を追及することとした旨述べている。
      しかし,上記認定事実によれば,簿外金は,その当時の所長や係長など温水プールにおける管理職の指示によって保管され,その指示によって売上金の不足を充当するなどに当てられていたものであったと認められるほか,平成13年にE所長が就任する前には簿外金は整理されて正規に会計に計上され,適正な処理が行われるようになったことも認められる。そして,簿外金の扱いに関して,被告Yは,原告両名や他の嘱託職員等はおろか,当時の所長や生涯学習課長など直属の管理職に対してすら,簿外金の保管状況,発生した理由や時期,その金額等について事実調査や確認をしたことがなかったというのである。
そして,A教育長は,原告両名に金銭的不正があったとの話は,4月11日の全員協議会における被告Yの発言で初めて聞いたことであって,事前に課内で調査をしたことはなかったし,後になって調べてみても,原告両名に金銭的不正があったという事実は認められなかった旨証言している。
      そうすると,温水プールにおいて簿外金の保管・管理があったことをもって,原告両名に金銭的不正の事実があったということはできないし,原告両名の金銭的不正を疑うに足りるような事実確認や調査が行われた形跡すら認められないというほかない。
    (エ) したがって,被告Yの発言は真実性の立証がなく,また,被告Yが上記発言をするに際して,事実確認や調査を経るなど,確実な資料や証拠に基づいて発言をしたことも認められない。さらに,これらの事情や,下記(2)で詳しく検討する事実関係に照らすと,被告Yの発言が専ら公益を図る目的に出たものと認めることも困難である。
      以上の次第で,議員運営委員会及び全員協議会における被告Yの発言は,原告両名の名誉を毀損するものであり,かつ,違法性を阻却する事由もないから,不法行為に当たるというべきである。
    (オ) なお,原告両名は,被告Y個人に対しても,名誉毀損に基づく損害賠償請求及び謝罪文の交付等を求めるものであるが,その発言内容や発言に及んだ契機,上記発言が町長としての職務執行に当たって行われたものであることにかんがみれば,公務員個人である被告Yが賠償の責を負うものではなく,公務員が職務執行に際して行った行為として,公共団体である被告昭和町が国家賠償法に基づく賠償責任を負うにとどまるというべきであり,被告Yに対する請求は理由がない。
  (2) 本件辞令発令の違法性及び原告らの勤務状況(争点(2)及び(3))
   ア(ア) 被告らは,原告両名は教育委員会から辞令交付を受け,教育委員会に嘱託職員として採用されていたのであり,昭和町の嘱託職員ではないから,被告を昭和町とすることは妥当でないと主張するため,検討する。
      教育委員会は,地方公共団体の教育に関する事務を処理する執行機関(地方自治法180条の8,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)2条)であり,具体的には,教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の設置,管理及び廃止に関することやスポーツに関することについて事務を管理し,執行することとされている(地教行法23条)。
      そして,地方公共団体は,法律で定めるところにより,学校,図書館,博物館,公民館その他の教育機関を設置する旨定められており(同法30条),上記の教育機関には一定の職員を置くこととされている(同法31条)ところ,教育委員会は,当該教育機関の職員の任免その他の人事に関することについても職務権限を有しており(同法23条3号),教育長の推薦により,職員の任命をするとされており(同法34条),職員採用においては教育委員会に人事権が認められている。
      しかしながら,教育委員会はあくまで地方公共団体の執行機関の一つにすぎない。所管の教育機関で働く職員の任免,給与,懲戒,服務その他の身分取扱いに関する事項は,地教行法等に特別の定めがある場合を除き,地方公務員法に基づくとされ(同法35条),さらに,具体的には地方公共団体が定める条例や規則に基づくこととなる。
      昭和町教育委員会においても,嘱託職員等の採用は,昭和町の定める条例や規則によって行っていたものであり,嘱託職員等の実質的な勤務関係は当該地方公共団体との間で生じ,給与も当該地方公共団体から支払われるものである。
      よって,原告両名と被告昭和町との間に勤務関係が存しないとする被告らの主張は失当である。
    (イ) 地方公共団体における期限付き嘱託職員等の採用は,それを必要とする特段の事由が存在し,職員の身分保障の趣旨に反しない場合に許されるところ(最高裁昭和38年4月2日第三小法廷判決民集17巻3号435頁),昭和町においても,条例で定められた正規職員の定数に限りがある中で,充実した行政・住民サービスを提供するため,専門的知識や経験を要したり,習熟を要するといったものではない職務について,規則に基づいて嘱託職員等を採用する運用を行っていた。
      このような状況のもとで,原告両名は,昭和町が設置・運営し,教育委員会が所管する温水プールにおいて,窓口の受付,清掃や監視業務といった一般的事務を行う嘱託職員として採用され,その任期は半年とされ,半年毎に期間が更新されるというものであったが,このような期限付き任用を行うことが許容されることに問題はない。
   イ 期限付き任用の嘱託職員等については,競争試験や選考を受けた期限の定めのない正規職員と異なり,予定任用期間の満了により当然に退職となるというべきであり,その後の再任用は,任命権者の行う一方的行政処分としての新たな任用行為というべきものと解される。
     したがって,任用される職員において,任用予定期間の満了後に再び任用される権利,もしくは任用を要求する権利,または再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない(最高裁平成6年7月14日第一小法廷判決集民172号819頁(判時1519号118頁)参照)。
     原告両名は,平成5年から平成15年までの間,新たな辞令の発令が特に審査を経ることなく継続されてきたことをもって,嘱託職員としての地位確認を求めるものであるが,上記のとおりの期限付き任用職員の任用行為の性質に照らせば,原告両名が主張する事実をもって,将来にわたって嘱託職員の地位を保障するような権利や法的利益が生じていると認めることはできない。
     本件において,原告両名につき任用期間の満了後,再任用がなされていないのであるから,原告両名が期間満了後も引き続き嘱託職員の地位を有しているとは認められない。
   ウ 以上のとおり,期限付き任用の嘱託職員等が,任用期間満了後に再任用されることを求める法的権利や法的利益を有しないことは明らかであるというほかない。
     しかしながら,任期満了後も任用が継続されることを職員が期待することが無理からぬものとみられる行為を任命権者がしたというような特別の事情がある場合には,任期満了により退職した職員に対する国家賠償法に基づく賠償を認める余地があることは上記平成6年最高裁判決も認めるところである。そこで,本件においてそのような特別の事情が存在するかどうかを検討する。
   エ 組織的な運用について
(ア) まず,被告らは,原告両名の再任用をしなかったことについて,長期間にわたり同一の嘱託職員等が任用されることによる事務の低下等を指摘する。
      しかしながら,上記各証拠によるも,昭和町において任用期間が長年にわたる嘱託職員等について,任用期間の更新を一定の採用年数経過後は認めないとか,任用期間を把握して,更新継続をしないとの運用をするなどの措置を講じていたことは認められない。
      被告Yにおいても,長年にわたり任用が更新されている嘱託職員等の人数や勤続年数,その割合や配置状況などを全く把握しておらず,抽象的に事務の低下等のおそれを指摘しているのみである。
      また,A教育長も,E所長も,在任期間であった平成13年から平成15年にかけて,昭和町教育委員会において,再任用を希望した嘱託職員等についてそれを認めず,再任用をしなかったといった例はなく,原告両名の件が初めてのことであったとしている。
    (イ) 以上からすれば,長年嘱託職員として何らの審査を経ることなく再任用が継続されていた原告両名について,組織的な運用として再任用を行わなかったと認めるような事情は認められないというほかない。
   オ 原告両名の勤務上の問題行動について
(ア) 次に,被告らは,原告両名の再任用を消極的に解した事情として,原告両名には「私用による無断外出を初めとする職務怠慢,職場同僚に対する嫌がらせ等にみられる協調性の欠如,他人を犯罪者呼ばわりするような性向」があったこと,さらに,原告X1については,「プール料金における町外の知人・友人に対しての不当な優遇」をしていたこと,原告X2については,「公務員の中立性を害するような町長選挙における特定候補者への投票依頼」がみられたことなどを挙げており,原告両名は「嘱託職員として不適当な種々の問題行動を重ねて」いたとしている。
  そして,上記の事情は,監査委員であった町議会議員,DやIら温水プールの臨時職員,匿名の投書などによって寄せられた情報であり,その内容は信用できるものであったと主張する。
    (イ) 被告Yは,原告両名の問題性について,自分が町長となる前からも,町長に就任した平成11年からも,良くない風評や勤務態度の問題を聞いていた,具体的には,勤務期間が長いため,生意気で接遇態度が悪い,所長の言うことをきかない,勤務中にトレーニング機器を利用したり,自分勝手に買い物に行ったりする,売上金として計上するべき金銭について簿外金として保管し,不足があった場合などに自由に賄っていた,原告X1は町外者について町内者として安い利用料を取るなどの便宜を図っていた,原告X1か原告X2のどちらかが,売上金の勘定が合わなかったときに,アルバイトに来ていた者を頭ごなしに泥棒扱いし,同人が抗議してもそれを聞かなかったり,町長選に際して被告Yの妻が万引きをしたとの話をしていた,そ
して,上記の原告両名の問題行動に対しては,温水プールの利用料については,町内者と町外者を区別して利用料金を取ることは会議で決まったことであるから重視するよう指導していたし,その他の勤務態度の問題について,課長会議などを通じて課長や所長に注意をし,それら直接の上司を通じて注意をしていた,しかし,原告両名は,それにもかかわらず,勤務態度を改めることをしなかったから再任用すべきでないと思った旨述べている。
      また,被告Yが情報源の1人とした臨時職員のDは,原告両名が勤務時間中に買い物に行っていたこと,E所長のころに原告両名が午後3時ころ,温水プールに設備されているトレーニング機器を利用していたのを見たこと,原告X2が温水プールの受付に来ていた人に選挙の個票を書いてもらったというような話をしている状況を見たし,ほかの職員らからも同じような話を聞いたこと,原告両名が,本来900円の入場料を払って入場させるべき町外者にも町内者用の1回300円の回数券で利用させていたこと,温水プールの臨時職員であったCの息子がアルバイトをしたときに,売上金が合わなかったことから泥棒扱いをしたと聞いたことなどを証言している。
    (ウ) しかしながら,上記各証拠,特に,C,E所長の証言を総合すれば,以下のとおりの事実が認められる。
      すなわち,①勤務時間内の買い物は,温水プールの清掃用具等の備品が不足した場合,職員らが交替で所長の許可を得て買い物に出ていたところ,原告両名,特に原告X2がその役割を積極的に担っていたことが認められる(被告Yは,原告両名が私用で買い物に出かけていた旨聞いたが,そのことを確認していないと述べており,Dも原告両名が自分らに必要なものも買ってきたことを聞いていると証言するにとどまり,それらの供述,証言を採用することはできない。)。②トレーニング機器の利用は,E所長が,休憩時間,利用者のいない時間帯には,手の空いている人はトレーニング機器を利用してもよいとの運用を行っていたことが認められ,原告両名に限らず,他の職員も利用することがあったというのである。そして,Dの証言によ
っても,原告両名の利用を見たのは1回きりのことであり,原告両名の休憩時間帯と重なっていた可能性も否定できない。③原告X2について,選挙に関わる個票を依頼していた事実については,Cも1度依頼している様子を見た旨証言しているが,Dは,個票自体を実際に見たことはないと証言しており,証拠不十分である。④簿外金の扱いについては,既に検討したとおり,原告両名にその責任を負わせるような類のものとはいえない。⑤町外者の不当な優遇については,温水プールの当時の運用として,町内者と町外者の区別を厳密に行う方策を採っていたとは認められず,原告両名は,どちらかといえば町内者と町外者の区別を厳しく行っていたとの事実すらうかがわれる。⑥アルバイトの者を泥棒扱いしたとの話についても,Cの息子がアルバイトに
来ていた際に,たまたま1度,売上金の不足があったため,同人に対して原告X1が不足金額の5000円を知らないかと事実の確認をしたことが,Cの息子にとっては悔しく,傷付いた出来事であったというのにすぎない。⑦被告Yの妻に関する万引きのうわさについても,被告Yは,自身で,町議会議員を務めていた10年以上前からそのようなうわさを立てられたことがあるとしているほか,Cは,原告X1ではなく,原告X2が,被告Yの妻の万引きの話を「聞いて知っている。」旨雑談的に述べていたことがあったと証言しているなど,原告X1についてはおろか,原告両名のうちのいずれかが万引きの話を作出したとか,触れ回ったというような事実を認めることもできない。これらの事情をもって,原告X1の性向として,他人を泥棒扱いすると
いった事項が指摘できるとは到底いえない。
(エ) また,被告Yが情報源としたDは,かねてから町内会等で被告Yと親交を有していた者であり,DはIとともに,被告Y宅を訪れた際に原告両名についての上記問題行動等を話したというにすぎない。
    (オ) 被告Yは,DやI,その他の外部者から寄せられた原告両名の勤務上の問題行動等について,課長会議などを通じて原告両名の上司に当たる所長や生涯学習課長に注意をしていたとも述べている。
      しかしながら,E所長は,原告両名は,長い期間にわたって勤務していた嘱託職員であったところ,気が回り,よく仕事をしていたとの評価をしていたこと,原告両名が私的に買い物に出かけたり,健康器具を利用したりといった勤務上の問題行動があったとは認識していなかったことを証言しており,E所長が原告両名の問題行動を注意をしたことも,A教育長に報告をしたことも認められない。
      A教育長も,原告X2について選挙の個票を集めているとのうわさを聞いたことはあったが,本人に確認したことはなかったとしているほか,原告両名についての職務上の問題行動等の報告を受けたことはなく,平成15年3月31日,期間満了による雇用関係の終了を明らかにする辞令を発令する段階においてすら,原告両名に関して被告Yが指摘するような問題行動があったことを認識していなかったとしている。
      そして,被告Yが,独自に原告両名の勤務上の問題行動について,原告両名に事実確認をしたことはなく,DやI以外の温水プールの同僚職員や,E所長など直属の上司に対する事実確認や調査を行ったこともなかった。
    (カ) 以上によれば,被告らが指摘する原告両名の勤務上の問題行動や公務員としての不適切な行動があったとは認められず,被告Yが適切な方法での事実確認や十分な調査をしたとも認められない。したがって,原告両名の再任用を消極的に解すべき事情があったとは認められず,原告両名を再任用をしなかったことにつき合理的理由があったとはいえない。
    (キ) 被告らは,さらに,本件においては,A教育長が平成15年3月24日,原告両名に電話で4か月の再任用の意向を伝えてその希望を確認した上,原告両名らが当該期間での再任用は希望しない旨伝えたという経緯が認められるのであるから,何ら原告両名の法的権利や法的利益を侵害していないとも主張する。
      しかしながら,原告両名の任用期間は,平成12年以降,半年単位で更新されてきたところ,原告両名の勤務上の問題行動を何ら認識していなかったA教育長が,4か月間という短縮された任用期間の提示をしたのは,被告Yによる原告両名の再任用の拒絶という事柄があったことに基づくことが明らかであるし,従来とは異なり,その後の再任用は期待できない異例の任用期間の提示であった。しかも,A教育長は,原告らの電話口で話をしたにすぎず,また,原告らに対して熟慮する余裕を与えたともみられない。このような状況下で原告らがA教育長の提案に応じなかったことを不当視することはできず,A教育長の再任用の意向があったことをもって,原告両名に不利益に斟酌することはできない。
    (ク) なお,原告両名は,昭和町教育委員会の嘱託職員であり,その任命権者は昭和町教育委員会であって,被告Yは人事権を有していないところ,本件における被告Yの行為は昭和町教育委員会の人事に関する不当な介入であって,それ自体が権限の濫用であるから,被告Y個人の不法行為責任を追及するとの主張をしている。
      確かに,地方公共団体の長は,教育委員会の職員について直接の人事権を有するものではない。しかし,教育委員会も地方公共団体の執行機関の一つであり,地方公共団体の長は,教育行政に関し一定の職務権限を有している(地教行法24条)ところ,特に,予算の執行を伴う人事においては,財政運営や財務処理の一体的取扱いの必要から,教育に関するものであっても,契約の締結その他の予算の執行は,地方公共団体の長に専属するものとされており,地方自治行政に関する管理・執行等に関する地方公共団体の長の権限は広範なものに及ぶと解される。
      そして,昭和町においても,教育委員会の嘱託職員等の採用については,人事