hanrei @Wiki H17.12.22 東京地方裁判所 平成17年特(わ)第3838号 関税法違反



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いわゆる差額関税を免れた輸入豚肉であることを知りながら,これを有償で取得した食肉加工会社に対し,求刑の3倍の罰金刑が科された事例



平成17年12月22日宣告 
平成17年特(わ)第3838号
           判       決
本店の所在地 神戸市P区(以下省略)
                     A株式会社
                     (代表者代表取締役 B)
 上記の者に対する関税法違反被告事件について,当裁判所は,検察官伊藤文規並びに弁護人宗像紀夫,同大室征男,同藤原朋奈及び同千明尚史各出席の上審理し,次のとおり判決する。
           主       文
被告人を罰金3000万円に処する。
           理       由
【罪となるべき事実】
 被告人A株式会社(以下「被告会社」という)は,神戸市P区(以下省略)に本店を置き,食肉加工品の製造及び販売,食肉の加工及び販売等の事業を営む株式会社であるが,
第1 食肉加工品の製造原料等を仕入れる業務などを担当するミートパッカー事業本部輸入食肉二部部長等であったC及び同じく生産事業本部調達統括部海外調達部関東加工原料課課長等であったDは,共謀の上,被告会社の業務について,別表1(省略)記載のとおり,平成14年10月1日から平成16年2月9日までの間,前後63回にわたり,大阪市Q区(以下省略)所在のR株式会社南港事業部保税蔵置場ほか3か所において,不正の行為により関税を免れた輸入貨物であることの情を知りながら,株式会社S(以下「S」という)から外国産冷凍豚部分肉合計162万8096.0キログラムを代金合計7億3863万7074円で買い受け,
第2 前記Cは,被告会社の業務について,別表2(省略)記載のとおり,平成14年8月1日から平成15年1月23日までの間,前後4回にわたり,大阪市Q区(以下省略)所在のT株式会社大阪支店新南港営業所保税蔵置場ほか2か所において,前同様の情を知りながら,Sから外国産冷凍豚部分肉合計23万1803.7キログラムを代金合計1億0914万6031円で買い受け,
第3 前記Dは,被告会社の業務について,別表3(省略)記載のとおり,平成14年8月1日から平成15年10月15日までの間,前後47回にわたり,東京都T区(以下省略)所在のU株式会社平和島冷蔵庫保税蔵置場ほか2か所において,前同様の情を知りながら,Sから外国産冷凍豚部分肉合計116万9305.2キログラムを代金合計5億1034万3605円で買い受け,
もって,いずれも関税を免れた輸入貨物を有償で取得したものである。
【証拠の標目】省略
【法令の適用】
罰条   第1・別表1番号1ないし63,第2・別表2番号1ないし4及び第3・別表3番号1ないし47の各行為ごとにいずれも平成16年法律第15号による改正前の関税法117条1項,関税法112条1項(同法110条1項の犯罪に係る貨物の有償取得),第1の各行為についてはいずれも更に刑法60条
併合罪の処理   刑法45条前段,48条2項
【量刑の事情】
1 本件は,食肉加工品の製造,販売等を目的とする被告会社の製造原料等の仕入業務担当者らが,被告会社の業務について,不正の行為により関税を免れた輸入貨物であることの情を知りながら,輸入者である会社(以下「輸入会社」という)から外国産冷凍豚部分肉を有償で取得したという事案である。
2 本件の犯情として,次の各事情が認められる。
 (1) 本件各犯行は,約1年半の間に合計114回も繰り返され,取得した豚肉の合計は300万キログラムを超える。そして,これらに対応して輸入会社も関税のほ脱を重ね,本件に見合うほ脱税額は実に6億7000万円余に上る(なお,輸入会社がほ脱したのは,分岐点価格を下回る価格で豚肉を輸入した場合に,その価格と基準輸入価格との差額を関税とするいわゆる差額関税である)。
(2) 被告会社の仕入業務担当者らは,輸入会社の関係者であるブローカーと接触し,同ブローカーとの間で被告会社が必要とする豚肉の部位,数量,単価などの条件を詰めてこれを発注し,同ブローカーは,外国の食肉製造業者らと交渉してその条件に適合する豚肉を買い付け,次いで,輸入会社が,その豚肉を輸入するに当たり,虚偽の申告をして差額関税を免れ,同担当者らは,差額関税を免れたものであることを十分承知しながら,輸入会社からその輸入に係る豚肉を買い受けて本件各犯行に及んだものである。以上に照らすと,上記関税のほ脱は被告会社が輸入豚肉を買い受けることを前提にして行われたものといえるのであり,それに加え,被告会社が国内で有数の大手食肉加工業者であり,同ブローカーにとっては,関税をほ脱した豚肉を大量にかつ安定して受け入れてくれる上得意の取引先であったことを併せ考えると,本件各犯行は,輸入会社による継続的な関税ほ脱の犯行を,助長し維持していたということができる。
(3) 上記ブローカーらは,輸入豚肉を被告会社に販売する中間の過程に複数のダミー会社を介在させて,関税のほ脱が発覚しないよう画策していたのであり,被告会社の仕入業務担当者らも,具体的な会社名等は知らなくても,そのような過程を経て被告会社に豚肉が到達することを了知していたものである。しかも,同担当者らは,被告会社の直前に実績のある上場会社や被告会社の子会社を介在させ,これらから取得したという形式を装い,自らの犯行の隠蔽を図っていたのであって,巧妙かつ悪質というべきである。
 (4) 被告会社が本件で輸入会社から購入した豚肉の1キログラム当たりの単価は平均して約448円と,基準輸入価格(546.53円又は681.08円)を大きく下回っていたのであるから,このような廉価で豚肉を取得できた被告会社が手にした実質的な利得額は,多大なものであったということができる。
 (5) 被告会社の関係者らは,本件各犯行は仕入業務担当者らの独断によりなされたものであり,被告会社の上層部が関知することはなかったと弁解する。しかし,本件各犯行の内容,期間,規模等に照らせば,この弁解はにわかには信じ難い上,仮にそうであったとしても,代表取締役や担当取締役ら被告会社の上層部には,仕入業務担当者らを指揮,監督するに当たり重大な過失があったものと評価できるのであるから,被告会社の刑責が特に減弱される謂われはない。なお,被告会社には,輸入豚肉の仕入れ先を信頼できる商社や上場企業に限定する旨の内規が存したと認められるが,本件のように簡単にその形式を装うことが可能であるばかりでなく,かえって犯行否認の口実ともなし得ることにかんがみると,そのような内規の存在をもって,上記弁解を理由付ける事情とすることはできない。
3 以上によれば,被告会社の刑事責任は重い(なお,検察官は,被告会社の代表取締役が公判廷に出頭しなかったことまで非難するが,法人である被告人が代理人を出頭させることは刑事訴訟法上当然に認められていることである上,被告会社は総務担当取締役や法務室長という然るべき人物を代理人として出頭させているのであるから,その非難は当たらない)。
4 他方,次のような被告会社のために斟酌すべき事情が認められる。
(1) 被告会社としては,本件事実を認め,反省の意を示している。
 (2) 被告会社において,実行行為者である仕入業務担当者らを2名とも諭旨解雇にしたほか,代表取締役の役員報酬カット,担当取締役の降格及び役員報酬カットなど,関係者に対する処分を行った。
 (3) 農林水産省の指導に基づき,再犯防止策として,取引先から同指導の趣旨を確認した旨の書面を徴するとともに,その取引先企業について更に取締役会の承認を経るという新基準を導入した。また,本件を機に,新たな監査部門を設置して監査の充実を図っているほか,社員全員にコンプライアンス意識を浸透させるべく講習会等の活動を行うなどしている。
5 ところで,弁護人は,本件の背景には差額関税制度が期待された機能を現実には果たしていないなどの問題があり,これは被告会社の量刑を判断する上で度外視することができないと主張する。
  たしかに,差額関税制度については,豚肉の輸入価格をより低くすればするほど基準輸入価格との差が開き,より多額の関税が課されるという点で,輸入業者の経営努力が報われないなどの批判があるほか,現実に流通している外国産豚肉のほとんどが差額関税を免れているものであるため,国内市場価格が基準輸入価格を下回って形成されているとの指摘がされていることは,関係証拠からもうかがわれるところである。しかしながら,差額関税制度は,国内養豚業者の保護育成に加えて,豚肉の供給及び価格の安定化を図るという目的の下に設けられているのであって,上記のような批判や指摘を踏まえて,この制度を維持するのか又は改変するのかは,立法府ひいては広く国民一般の判断に委ねられるべきものである。
  そして,かかる制度が設けられている以上は,一部の者がこれを遵守していないからといって,他の者が遵守しなくてよいといえないのはもちろんである。加えて,被告会社に豚肉を販売した前記ブローカーらは,経営努力をしていた者というよりは,むしろ差額関税制度に巣くって不正な利益を貪っていた者といえるのであり,本件各犯行によりこのようなブローカーらの暗躍を助長,維持し,自らも多大な利得を手にした被告会社には,差額関税制度の是非を論ずる資格などないというべきである。
6 そこで,以上の諸事情を総合考慮し,特に被告会社の責任の重さにかんがみると,検察官の求刑は低きに失するというべきであって,被告会社には主文のとおりの罰金刑を科するのが相当である。
(求刑-罰金1000万円)
 平成17年12月22日
     東京地方裁判所刑事第8部

        裁判長裁判官   飯  田  喜  信


             裁判官   大  川  隆  男


            裁判官   溝  口     優