hanrei @Wiki H17.12.14 名古屋高等裁判所 平成17年(ネ)第714号 否認請求の認容決定に対する異議控訴事件



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民事再生法(平成16年法律第76号による改正前のもの)127条に基づく無償否認について,否認の対象となった行為の有害性の判断に当たっては当該行為の時点において再生債務者の責任財産が絶対的不足を生じていたことまでも要するものではなく,また,否認権を行使された相手方において他の再生債権の不存在等を理由に否認権行使の効果を否定することは民事再生手続の性格と相容れないなどの理由で,否認請求の認容決定及びその認可決定に対する異議を棄却した事案


       主 文
      1 本件控訴を棄却する。
      2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 名古屋地方裁判所平成16年(モ)第50023号について,同裁判所が被控訴人の否認の請求を平成16年7月9日付けで認容した決定を取り消す。
(3) 申立費用及び第1,2審の訴訟費用はいずれも被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人ら
主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,株式会社Aの控訴人に対する借入金債務(5000万円)を連帯保証したBについて,その後6か月以内に名古屋地方裁判所において民事再生手続が開始し,その監督委員として否認の権限を付与された被控訴人が,同裁判所に上記連帯保証のいわゆる無償否認を請求し(同庁平成16年(モ)第50023号事件),平成16年7月9日にこれを認容する旨の決定(以下「本件決定」という。)がされたことから,これを不服とする控訴人が,被控訴人に対し,民事再生法(平成16年法律第76号による改正前のもの。以下同じ。)137条1項に基づき,本件決定の取消しを求めた事案である。
 2 原審は,本件連帯保証契約が,民事再生法127条1項5号の定める期間(本件再生手続の開始申立ての前6か月以内)にされたものであることは明らかであるところ,同保証については何らの対価性を有するものとも認められず,他の再生債権者を害するものであることは明らかであるとして,控訴人の請求を棄却した。
そこで,これを不服とする控訴人が控訴した。
 3 本件の前提となる事実(争いのない事実等),争点,争点に関する当事者双方の主張は,以下のとおり原判決を付加訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁7行目「著しいから,」を次のとおり改める。
「著しい。また,無償否認の恩恵を得る目的で,不正に申立てを行う危険性も存在する。したがって,上記のような保証は,」
(2) 同5頁24行目末尾に行を改め,次のとおり付加する。
 「なお,控訴人は,C銀行との間の上記(引用に係る原判決)連帯保証契約に関し,これを否認する旨の決定の認可判決が確定していることから,Bの資産状態については,上記保証債務の負担がなかったものとして有害性を検討すべきである旨主張する。しかし,否認の対象となる再生債務者の行為の有害性は,同行為がされた時点における再生債務者の財産状態を基準として判断すべき事項であって,その後になされた否認請求認容決定やその認可判決の確定の事実によって結論に変動を来すべきものではない。また,上記C銀行のBに対する連帯保証債権の大部分(4779万5115円)は,代位弁済によってD協会に移転しており,同協会と被控訴人との間で,否認請求認容決定に対する異議訴訟が係属している。」
(3) 同6頁3行目「被告が」から4行目「連帯保証契約は」までを次のとおり改める。
 「被控訴人は,C銀行との間の平成15年1月15日付け連帯保証契約について,否認請求をし,再生裁判所はこれを認容する旨の決定をし,平成17年6月8日には,名古屋地方裁判所がこれを認可する旨の判決をして,同判決は確定している。したがって,C銀行との間の上記連帯保証契約は,」
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却すべきものと判断するが,その理由は,以下のとおり原判決を付加訂正するほかは,原判決「第3 当裁判所の判断」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁24行目「かえって」から26行目末尾までを削除する。
(2) 同10頁3行目冒頭から19行目末尾までを次のとおり改める。
「(1) そこで,次に,本件保証の有害性について判断する。
   控訴人は,Bが本件保証当時に保有していた株式会社Aの株式が,額面金額程度の価値は有していたなどとして,本件保証が債権者を害するものではない旨主張する。
      しかし,民事再生法127条1項5号に定めるいわゆる無償否認は,破産法160条3項と同様,民事再生法127条1項5号に規定する時期,すなわち再生債務者が支払停止等(支払の停止又は再生手続開始,破産手続開始,整理開始若しくは特別清算開始の申立て)があった後,又はその前6月以内にした無償行為またはこれと同旨すべき行為については,債権者の利益を害する危険が特に顕著なものと考えられることから,上記期間内のこれら行為を,専ら行為の時期と無償性とに基づいて取り消し,再生債務者の財産の回復・復元を図ろうとするものであるから,当該行為の時点において再生債務者が債務超過等責任財産の絶対的不足を生じていたことまでを要するものではないというべきである。
      したがって,本件保証契約が,民事再生法127条1項5号の定める期間内に行われた無償行為,すなわちこれに見合う対価を得ることなく一方的に再生債務者が債務を負担した行為と判断される以上,それが社会的に相当な行為である等の特段の事情が認められない限り,再生債務者の責任財産を減少させるものとして,再生債権者にとって有害な行為であると言わざるを得ない。
      なお,証拠(乙6ないし11,13,16)及び弁論の全趣旨によれば,Bが本件保証時に有していた固定資産は,評価額にして4000万円余りであったと推認されるのに対し,負債としては,住宅ローンの債務のほかに,平成15年1月15日付けのC銀行に対する連帯保証債務5000万円を負担していたことが認められることからすれば,Bは当時実質的に債務超過の状態にあったものということができる。
      控訴人は,株式会社Aの平成14年8月31日の純資産は10億7641万4553円で,1株当たりの純資産額は2545円に上っていたこと,事業内容の特性から多額の投資を要し,その回収には時間がかかるにもかかわらず,短期資金に依存した資金調達を行っていたために,資金繰りが苦しい状況にはあったものの,業績自体には問題はなかったこと等を挙げて,Bの保有する株式会社Aの株式が相応の資産的価値を有していた旨主張し,これに沿う証拠(甲10,11)もある。しかしながら,当時,株式会社Aが極めて資金繰りに窮していたことは,控訴人もこれを自認しており,甲12によれば,株式会社Aも平成15年6月30日付けで再生手続開始申立てを行っていること,同申立書には,平成14年10月上旬頃より急激に資金繰りが悪化し,平成15年1月頃には,メインバンクであったC銀行からの融資も打ち切られた旨の記載があることが認められ,控訴人の指摘する上記証拠のみによっては,株式会社Aの株式が,当時控訴人の主張するような計算に基づく資産的価値を有していたものとは考えがたいし,これを本件保証当時に額面額で換価し得たものと認めることもできないと言わざるを得ない。
      よって,いずれにせよ,本件保証が再生債権者にとって有害なものであったことは明らかである。
 (2) 控訴人は,被控訴人がC銀行に対しても控訴人に対するのと同様の連帯保証の否認を請求していることをもって,その保証債務は無いものとして扱うべきである旨主張する。
   しかし,民事再生手続は,債務者に破産の原因たる事実の生ずるおそれがあると認められる場合に,裁判所が再生手続開始決定を行うことによって開始され,経済的窮境にある債務者について,債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,その経済生活の再生を図ることを目的として,債務の減免や期限の猶予その他権利の変更の一般的基準を定めた再生計画を策定し,これについて債権者の多数の同意を得,かつ,裁判所の認可を受けること等により行われるものである。
   そして,否認権の行使は,上記の過程において,再生債権者を害する行為を回復し,再生債務者の責任財産を確保して,債権者間の公平を確保することを目的として,管財人又は裁判所から特定の行為について否認権行使の権限を付与された監督委員のみが,裁判所の監督下において行使する。また,再生手続においては,再生債権の確定と,再生債務者の財産の調査・確保の手続を経て,再生計画案が策定され,これが決議・認可されることになるところ,再生債権の確定は,民事再生法の規定に則った債権調査,再生債権の確定等の手続を経て行われ,この過程で債権査定の裁判が必要となる場合もあり,また債権届出期間経過後も,再生計画案を決議に付する旨の決定がされるまでは,届出の追完の余地もある(民事再生法95条)ため,最終的に再生計画案の付議に至るまでは,これを確定することはできないし,他方,再生債務者の財産の調査・確保についても,財産価額の評定等の手続を経て行われることになるところ,この過程において,否認権の行使や否認の訴え等の裁判のほか,役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判(同法143条等)等が行われる場合もあり,これらがすべて決着するまでは,その内容を確定することはできない。
   これらの事情に鑑みると,結局,民事再生法は,管財人や監督人に,否認権の行使の必要性等の判断について,裁判所の監督の下に,一定の裁量を付与しているものと解さざるを得ないのであって,管財人等がその職務を追行するに当たり,再生債務者の財産の確保のために必要があるとして否認権を行使している以上,その相手方において,他の再生債権者の不存在等を主張して,否認権行使の効果を否定することは,上記手続の性格と相容れないものとして許されないと言わざるを得ない(破産手続に関する最高裁昭和58年11月25日判決(民集第37巻9号1430頁)参照)。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,この点に係る控訴人の主張は理由がない。」
 2 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
       名古屋高等裁判所民事第3部

          裁判長裁判官   青   山   邦   夫


             裁判官   田   邊   浩   典


             裁判官   手   嶋   あ さ み



【参考 原審判決】
平成17年6月23日判決言渡 
平成16年(ワ)第2811号 否認請求の認容決定に対する異議請求事件
主         文
 第1節 名古屋地方裁判所平成16年(モ)第50023号事件について,同裁判所が被告の否認の請求を平成16年7月9日付けで認容した決定を認可する。
第2節 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1章 請求
 名古屋地方裁判所(以下「名古屋地裁」という。)平成16年(モ)第50023号事件について,同裁判所が被告の否認の請求を平成16年7月9日付けで認容した決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。
第2章 事案の概要
 本件は,株式会社Aの原告に対する債務を連帯保証したBについて,その後6か月以内に名古屋地裁において民事再生手続が開始したところ,その監督委員として否認の権限を付与された被告が,同裁判所に上記連帯保証のいわゆる無償否認の請求をしてこれを認容する旨の本件決定がされたため,これを不服とする原告が,被告に対し,民事再生法(平成16年法律第76号による改正前のもの。以下同じ。)137条1項に基づき,本件決定の取消しを求めた事案である。
第1節 争いのない事実等(関係証拠のあるものは各事実の末尾にこれを略記する。)
第1項 原告の株式会社Aに対する貸付けとBの連帯保証
 原告は,平成15年1月31日,株式会社Aに5000万円を貸し付け,Bは,同日,原告に対し,その借入金債務を連帯して保証した(以下「本件保証」という。)。(甲1の1から3)
第2項 株式会社AからBへの金銭の振込み
 Bは,平成15年2月12日,株式会社Aから210万6573円の振込み(以下「本件振込み」という。)を受けた。(甲2)
第3項 Bの民事再生申立てと再生手続開始決定等
 Bは,平成15年6月30日,名古屋地裁に再生手続開始を申し立て,同年7月14日,その旨の決定がされた。同年12月12日,再生債務者Bの監督委員に被告が選任され,名古屋地裁は,平成16年2月3日,被告に対し,本件保証を否認する権限を付与した。
第4項 被告の否認の請求と認容決定
 被告は,平成16年3月25日,本件保証について,名古屋地裁に民事再生法127条1項5号に基づく否認(以下「無償否認」という。)の請求をした(名古屋地裁平成16年(モ)第50023号否認請求申立事件)ところ,原告の審尋を経た上,同年7月9日付けでこれを認容する旨の本件決定がされた。(甲7,8)
第2節 主な争点
第1項 本件保証の無償性の有無
2 保証の無償性の判断基準
3 本件保証と本件振込みとの対価性の有無
第2項 本件保証の有害性の有無
第3節 争点に関する当事者の主張
第1項 保証の無償性の判断基準(争点第1項2)について
(被告の主張)
 破産者が義務なくして他人のためにした保証は,債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であっても,破産者がその行為の対価として経済的利益を受けない限り,破産法(大正11年法律第71号。以下「旧破産法」という。)72条5号に当たり,破産者が取得することのあるべき求償権も当然にはこの行為の対価としての経済的利益に当たるとはいえない(最高裁昭和62年7月3日第二小法廷判決・民集41巻5号1068頁(以下「本件最高裁判決」という。)参照)ところ,民事再生法における無償否認の制度趣旨は,旧破産法におけるそれと同様であって,その解釈は民事再生法における無償否認にも妥当する。
 原告の主張は,受益者が損失を被る場合には無償否認は否定されるべきである旨の主張といえるが,本件最高裁判決の判示するとおり,無償性の判断に際しては,受益者の立場は顧慮せず,専ら行為者についての無償性を検討すべきである。
(原告の主張)
 否認の制度は,再生債権者の債権の保全を図るとともに取引の安全を害する側面を有するところ,無償否認の規定が,詐害の意思等の存在しない場合でもすべて否認を許すことにより取引の安全を全く無視しているのは,贈与を否認する場合のように,受益者に損失を被らせない場合を予定しているためであって,保証のように,否認された場合に出捐をした形が残って損失の発生する場合を予定しているものではない。
 本件最高裁判決の示す旧破産法についての法解釈は,取引の安全を考慮しない不当な解釈であって,それ自体変更されるべきであるが,破産と比べて手続開始要件の緩やかな民事再生手続において,債権者の出捐した場合に保証の無償否認を認めることは,取引の安全を害する程度が著しいから,無償否認の対象にならないと解すべきである。
第2項 本件保証と本件振込みとの対価性の有無(争点第1項3)について
(原告の主張)
 Bは,平成15年1月31日当時,株式会社Aの取締役としての平成14年11月分から平成15年1月分までの役員報酬の支払を受けられず,又は貸付金及び立替金の返還を受けられない状態になっており,これらの支払又は返還資金を調達する目的もあって本件保証をした。そして,株式会社Aは,原告からの貸付けを受けて,役員報酬の支払又は貸付金及び立替金の返還の可能な状態になったことから,Bは,同年2月12日,本件振込みを受け,回収不能の可能性が高かった役員報酬の弁済又は貸付金及び立替金の返還を受けられるという経済的利益を得た。
 保証料のような明確な対価がなくとも,新規融資により債権の回収可能性が高まったことは本件保証の対価であり,Bはそのような経済的利益を理解していたし,Bが将来本件保証債務を履行した場合には,実質的対価としての求償権も取得するから,本件保証は有償と解すべきである。
(被告の主張)
 株式会社AがBに対して平成14年11月分から平成15年1月分までの役員報酬の支払を遅滞した事実はなく,本件振込みは,Bの株式会社Aに対する貸付金及び役員変更登記費用立替金の返還並びに株式会社AのBに対する貸付けの趣旨であった。その際,株式会社Aが銀行借入れすることができたらBに貸付金を返す趣旨の約束とか,本件保証の見返りとしてBから借入れの要求等のされた事実はなかった。さらに,原告からの借入金は,他の金融機関からの借入金の返済に全額費消されており,本件振込みは,株式会社Eから1億円の融資を受けられたことにより,一時的に株式会社Aに支払の余裕ができたため,本件保証と無関係にされたものであった。以上の点から,本件保証と本件振込みとの間に実質的対価関係は認められない。
 保証人の取得する求償権が保証の対価としての経済的利益に該当するものでないことは,本件最高裁判決から明らかである。
第3項 本件保証の有害性の有無(争点第2項)について
(被告の主張)
 Bは,本件保証をした平成15年1月31日当時,現金・預金289万8259円のほか,固定資産として東京都練馬区a所在の自宅不動産の持分(評価額2976万3088円),東京都葛飾区b所在のマンション(評価額920万円),保険解約返戻金計370万5376円及び電話加入権(評価額2万円)の合計4558万6723円の積極財産を有していた(なお,株式会社Aの株式価額は,当時額面金額より低かったと思料される。)。
 他方,Bは,本件保証当時,消極財産として,C銀行に対して住宅ローン借入金債務2949万7778円以上のほか,平成15年1月15日付け連帯保証債務5000万円,F公庫に対して住宅ローン借入金債務1737万8712円の,合計9687万6490円を負担していた。
 したがって,本件保証当時,Bは明らかに債務超過の状況にあった。
(原告の主張)
 被告は,Bの自宅不動産に係る住宅ローン債務と,株式会社Aに対する95万9223円の債務以外のすべての債務について否認の請求を進めたところ,否認がすべて認められれば,民事再生手続の予定する清算価値以上の弁済のされない結果となってしまう。被告が否認請求をしている以上,C銀行との間の平成15年1月15日付け連帯保証契約は原告との関係においても無かったものとして,Bの資産状態が判断されるべきである。
 なお,Bは,本件保証前,株式会社Aに800万円から1000万円ほどを出資しているところ,Bが有していた同社の株式の価値は,その後平成15年3月に発行した新株予約権の行使価格に照らし,額面金額程度であったと考えられる。
第3章 当裁判所の判断
第1節 保証の無償性の判断基準(争点第1項2)について
第1項 旧破産法72条5号にいう無償行為が否認される根拠は,その対象たる破産者の行為が対価を伴わないものであって破産債権者の利益を害する危険が顕著であるため,破産者及び受益者の主観を顧慮することなく,専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあるから,破産者が義務なくして他人のためにした保証は,それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であっても,破産者がその対価として経済的利益を受けない限り,同号にいう無償行為に当たるものというべきであって,その無償性は,専ら破産者について決すれば足り,受益者の立場において無償であるか否かは問わないものである(本件最高裁判決参照)。
 そして,破産者と破産債権者との関係についての以上の理は,再生債務者と再生債権者との関係にも全く同様に当てはまるというべきであって,民事再生法上の無償否認についても,如上の点を別異に解すべき合理的根拠はないと解される。かえってこれを別異に解せば,法的安定性を害し,広く法の下の平等に反する結果にも帰着するのであって,本件最高裁判決が変更されるべき旨の原告の主張は採用することができない。
第2項 もっとも,破産手続と比較して,民事再生手続は債務者の経済的更生を予定しているがゆえにその開始要件も緩やかであるため,再生債務者が無償否認の恩恵を得る目的で不正に再生手続開始の申立てをする等の虞もないではなく,本件決定に対する原告の不服の基底にあるのも,究極的にはその点への懸念であることがうかがわれる。
 しかしながら,もとより無償否認ではあっても,民事再生法127条1項の他号の定める場合と同様に,他の再生債権者にとって有害な行為のみがその対象となるべきことはいうまでもなく(最高裁平成8年3月22日第二小法廷判決・金融法務事情1480号55頁参照),無償行為の相手方にとっての取引の安全は,その限度において担保されていると考えられる。逆に,再生債権者全体にとって有害な無償行為であれば,再生債務者の経済的更生のためにも,再生手続開始の申立て等の6か月前より後にされたものに限って,取引の安全よりも当該行為を否認することによる利益を優先させようとしたのが立法者意思と解されるのであって,その立法趣旨にも一定の合理性は認められるから,立法論としてその点の当不当を論ずるのはともかく,法解釈論として,例えばこの立法措置が違憲である等の結論は,無償否認の趣旨を上記のように捉える限り,軽々には採用し難いというべきである。
第3項 したがって,以下,第1項にみた見地に立って,本件保証の無償性及び有害性の有無について,順に判断する。
第2節 本件保証と本件振込みとの対価性の有無(争点第1項3)について
第1項 証拠(各事実の末尾に掲げる当該事実を認める根拠となるもののほか,全般的なものとして甲9,証人G,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,Bが本件保証をするに至った経緯に関し,以下の各事実が認められ,これらに反する証拠はない。
4 株式会社Aの代表者であるGは,昭和48年ころ,H大学に入学して1年生で空手部に入部した際,4年生で主将を務めていたBと知り合い,爾来両者は大学卒業後も兄弟のように親しく付き合ってきた。
5 株式会社A(平成9年7月1日の商号変更前の旧商号・株式会社I)は,昭和51年2月28日,名古屋市に設立された会社で,かねてGは同社に勤めていたが,Bは,昭和63年春ころ,同社に出資してその株式を保有するとともに,取締役東京支社長として入社して,そこに勤務するようになった。
 Bは,平成14年6月2日,同社の取締役を辞任して,そのいわゆる子会社であるJの社長として転出し,株式会社Aにおいては専務執行役員待遇となったが,俸給は株式会社Aからもらい続けていた。俸給の支払は,基本的には遅れたことがなく,同年12月に遅配した際も2日間程度であった(乙3,4)。
6 Bは,この間の平成14年秋ころから,株式会社Aの代表者であるGが会社の資金繰りに苦しんでいる様子をみて,同年11月ころ,「俺の気持ちだ」と言って,自発的に100万円を株式会社Aに提供した。Bとしては,いつ返してもらうとのつもりもなく提供した金員であったが,Gは恩に感じて,いずれ返す旨を約束した。
7 平成15年1月ころ,株式会社Aは,原告を含む各金融機関から億単位の運転資金を借り受けるについて,従前と同様のGの連帯保証のみではなく,他の連帯保証人を付けることを求められた。
 Gは,保証を委託することのできる人物としてB以外には思い付かず,東京にいたBに電話で保証を依頼したところ,もともと経済的勘定に比較的無頓着であったBは,Gの「会社の資金繰り上必要である」という説明だけで,直ちにこれを応諾した。
 Bは,同月15日,C銀行に対する株式会社Aの5000万円の借入金債務を連帯して保証し(乙14),同月31日には原告に対する5000万円の借入金債務も連帯して保証した(甲1の1から3。本件保証)。
第2項 以上に認められる各事実によれば,Bは,親しい間柄であるGの経営する株式会社Aが資金繰りに窮しているのを見て,特に計算勘定をすることもなく本件保証をしたことが認められ,本件保証は,まさにGとBの個人的関係を基礎に置く無償行為であったというべきである。もともとBは,100万円を株式会社Aに提供する際にも,貸すというよりは贈与するに近い意識でこれを差し出していることがうかがわれるのであって,経験則に照らしても,このようにいわば一種の男気で差し出したような金員の返還等を条件に本件保証が引き受けられたとは,到底考え難い。
 この点,確かに,証拠(甲2,証人G,証人B)によれば,Bは,本件保証後の平成15年2月12日に株式会社Aから210万6573円の振込み(本件振込み)を受け,同年3月17日にも10万円の振込みを受けている事実は認められる。しかしながら,他方,証人Gの証言によれば,株式会社Aの同年1月31日の原告からの借入金及び同月の他の金融機関からの借入金は,すべて従前の他社からの借入金の返済に回された事実も認められ,上記の各振込みが第1項6に認定した貸金や他の立替金の返還の趣旨であるとしても,本件保証によってこれが可能となったという事実関係すら認められない。かえって,証拠(乙5,証人G,証人B)によれば,本件振込みは,同年2月10日付けで改めて株式会社Aが株式会社Eから1億円を借りられることになった際,BからGに対して,株式会社Aの契約社員で路頭に迷っていたKへの援助を頼んだことのついでにされたものにすぎないというのが真相である様子もうかがわれるところであって,いずれにしても,本件保証と本件振込み等との対価関係は,一切存在していなかったというべきである。
第3項 そして,本件保証による求償権は,当然には本件保証の対価としての経済的利益に当たるとはいえないと解される(本件最高裁判決参照)以上,結局,本件保証は無償行為というほかはないものであって,これを否定する原告の主張は採用することができない。
第3節 本件保証の有害性(争点第2項)について
第1項 そこで次に,本件保証の有害性について判断すると,証拠(乙6ないし11,13ないし16)及び弁論の全趣旨によれば,Bが本件保証時に有していた固定資産は,評価額にして4000万円余りであったと推認される(なお,前記第2節第1項の6及び7に認定した株式会社Aの資金繰りの状況に照らして,当時の株式会社Aの株式は既にほとんど無価値であったと解され,その価値を新株予約権行使価格から計ろうとする原告の主張を採用すべきではない。)のに対して,Bは,当時,負債として,住宅ローン債務のほかに,平成15年1月15日付けのC銀行に対する連帯保証債務5000万円を負っていたことが認められ,それのみでも債務超過の状況にあったということができる。
第2項 原告は,被告が,C銀行に対しても,原告に対するのと同様の連帯保証の否認の請求をしていることをもって,その保証債務は無いものとして扱うべきである旨主張するが,否認は,その請求を認容する旨の決定を認可する判決が確定したときに確定判決と同一の効力を有するものである(民事再生法137条4項)ところ,弁論の全趣旨によれば,本件口頭弁論終結時において,C銀行に対する否認は未だ効力を有していないと認められるから,上記原告の主張は理由がない。
第3項 したがって,本件保証は,当時のBの債権者を害する内容のものであったと認められる。
第4節 結論
 以上にみたところによれば,本件保証は,再生債務者であるBが支払の停止等(再生手続開始の申立て)の前6月以内にした有害な無償行為ということができ,民事再生法127条1項5号の要件を満たすものである。
 よって,被告による本件保証の否認の請求を認容した本件決定は相当であって,原告の請求は理由がないから,同法137条3項に基づき本件決定を認可することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。


    名古屋地方裁判所民事第7部



         裁判官    平山 馨