hanrei @Wiki H17. 6.27 神戸地方裁判所 平成16年(わ)第431号 凶器準備集合,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人(変更後の訴因 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)被告事件



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判示事項の要旨:
凶器の準備状況についての認識,共謀の内容(傷害か殺人か),犯行の組織性。暴力団組員である被告人が,組長や他の組員と共謀の上,けん銃を使用して別の暴力団組員を射殺した事件において,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反(いわゆる組織的な殺人の罪)の罪の成立が認められた事例


主       文
被告人を懲役11年に処する。
未決勾留日数中360日をその刑に算入する。
理       由
(罪となるべき事実) ※ 仮名処理を施すに当たり,一部を修正した。
 被告人は,指定暴力団傘下の暴力団A組(以下「A組」という。)相談役の地位にあったものであるが,平成15年11月4日,A組若頭B及び同若中Hにおいて,かねてからA組や同組組員にたびたび因縁を付けて金銭を要求するなどしていた同じ指定暴力団傘下のI組組員であるJらと電話で話をするうち,激しい口論となり,その末に,Jが多数の仲間を引き連れてA組事務所に押し掛け同組組員を襲撃するような気勢を示してきたことから,Jらが危害を加えてきた場合には,A組としてこれを迎撃し,その際の状況によってJらを射殺しようと企て,A組組長A(以下「A組長」という。),同若頭B,同副長VことC,同相談役D,同若頭補佐E,同若中F,同若中G及び同若中Hと共謀の上,
第1 Jらに対し,共同してその生命,身体に危害を加える目的をもって,同日午後8時30分ころから同50分ころまでの間,神戸市a区bc丁目d番e号所在のKビル1階のA組事務所及び同所付近において,A組長及びBにおいて,自動装てん式けん銃2丁を準備し,かつ,被告人,C,D,E,F,G及びHにおいては,前記自動装てん式けん銃2丁及びゴルフクラブ1本等が準備されていることを知って,それぞれ集合した
第2 法定の除外事由がないのに,同日午後8時50分ころ,同区bf丁目g番h号先において,JがHに対し,手拳でその顔面をいきなり殴打するなどの暴行を加えてきたことから,同所から同区bf丁目i番j号先に至るまでの路上において,A組の活動として,殺意をもって,J(当時37歳)を目掛け,A組長の指示,命令に基づくA組内の役割分担により,Hにおいて,所携の自動装てん式けん銃(口径0.25インチ)(神戸地方検察庁平成16年領第680号の1)で弾丸6発(同領号の8ないし11)を発射し,続いて,Dにおいて,同様の役割分担により,所携の自動装てん式けん銃(口径0.45インチ)(同領号の12)で弾丸1発(同領号の16)を発射し,そのうちHの発射した弾丸6発をJの左前胸上部,左上腕部,右臀部等に命中させ,よって,同月5日午後2時53分ころ,同区kl丁目m番地所在のL病院において,Jを左前胸上部射創,左腕頭静脈及び右肺射創による出血性ショックにより死亡させ,もって,不特定若しくは多数の者の用に供される場所においてけん銃を発射するとともに,団体の活動として,組織によりJを殺害した
第3 法定の除外事由がないのに,同月4日午後8時50分ころ,同区bf丁目g番h号先から同区bf丁目i番j号先に至るまでの路上において,Hにおいて,前記自動装てん式けん銃(口径0.25インチ)1丁をこれに適合するけん銃実包6発と共に,Dにおいて,前記自動装てん式けん銃(口径0.45インチ)1丁をこれに適合するけん銃実包5発(うち4発が同領号の13,14。ただし,うち2発は鑑定試射済み。)と共に,それぞれ携帯して所持するとともに,前記けん銃実包合計11発をけん銃に使用することができるものとして所持した
ものである。
(証拠の標目)
 省 略
(事実認定の補足説明)
第1 本件の争点
   弁護人は,判示第1の事実について,①被告人は,ゴルフクラブ1本が凶器として準備されていることは認識していたものの,けん銃が準備されていることについては,未必的な認識しかなく,金づちや刺身包丁が凶器として準備されていることは知らなかったから,被告人が認識していた限度で凶器準備集合罪の責任を負うにとどまる,判示第2の事実のうち,Jを死亡させた点について,被告人には傷害致死罪が成立するにすぎない,すなわち,②被告人には,Jらに対する殺意はなく,未必的な傷害の認識があったにとどまる,③被告人と共犯者らとの間には,Jらを殺害するとの共謀はなく,傷害の共謀しかなかった,④被害者を死亡させた行為は,団体の活動として,組織により行われたものではない,判示第3の事実について,⑤被告人は,けん銃及びけん銃実包の存在を未必的に認識していたにすぎないから,その限度で銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪(けん銃加重所持罪及びけん銃実包所持罪)の責任を負うにとどまる旨主張するので,以下,検討する。
第2 関係証拠の検討
 1 基本的な事実関係
   関係証拠によれば,外形的な事実経過等として,以下の事実が認められる。
(1) 被告人は,熊本県内で出生し,同県内の高校を中途退学した後,神奈川県内で稼働していたものの,その後,暴力団組員として活動するようになり,一時期暴力団組織から離れていたこともあったが,平成7年ころ,指定暴力団傘下のM組組員となり,平成14年6月ころには,M組若頭であるA組長の舎弟となった。
  (2) A組長は,平成15年9月までに,A組を結成して,神戸市a区bc丁目d番e号に所在するKビル1階にA組事務所(以下「事務所」という。)を開設し,被告人も,結成当初から,相談役としてA組に加わっていたが,本件発生時である同年11月4日当時のA組の構成員は,A組長,若頭B,副長C,相談役D,同被告人,若頭補佐E,若中F,同G及び同Hの合計9名であった。
  (3) Jは,同年11月4日当時,I組本部長であり,Jの配下にあった者ないし同人と親交があった者としては,N,O,P,Q,Rらがいた。
  (4) A組長らは,同年9月ころ,その当時A組組員であり,Jと同じ刑務所で服役していたことのあるSが,刑務所でのJの行状を言いふらしているなどとして,Jが因縁を付けてきたことから,同月20日ころ,Sをいったん絶縁処分としたが,その後,Sに対する絶縁処分を解こうとしたところ,これを伝え聞いたJが事務所の組長室に乗り込むなどして,辛抱料名下に金員を要求してきたため,Sの復縁を取りやめることで,その問題を終結させるとともに,Jからの金員の要求を拒否した。
  (5) さらに,Jは,同年10月下旬ころ,HがJの実兄に覚せい剤を譲渡したとして,HをJ方に呼び出した上,配下の者らとともに取り囲み,「殺したろうかい,チャカないんかい。」などと怒鳴りつけたりして,Hを脅すなどしたほか,同年11月3日には,Nを介して,Hの知人であるTがJの出所祝いを支払わなかったなどと申し向けた上,「Tを見つけて連れて来い,連れて来れなかったときには10万円を払え。」などと言いがかりを付け,Hに金員を要求した。
  (6) A組長及びBは,HがJらから因縁を付けられて脅されていること,これに憤激したHがJやNに仕返しをするつもりであることを知るや,Hに対し,事務所に来るよう指示したが,Hはその指示に従わず,携帯電話の電源を切るなどして,事務所とは連絡を取らなかった。
  (7) A組長や被告人らA組組員(HとEを除く。)は,Hと連絡が取れなくなったことから,同日夕方ころ,事務所に集まり,HがJらに拉致されたのではないかなどと話し合ったりして,その身を案じており,Hを探しに行く者もいた。
(8) Hは,同月4日午後2時すぎころ,Dに付き添われて事務所に姿を見せ,Bからいったん破門を言い渡されたものの,A組長やBらに対し,謝罪をした上,Jらとトラブルになった事情を詳しく説明するなどしたことから,同日夕方までに,A組長の指示により,Hは,破門されないことになった。
 なお,Bは,公判において,被告人は,同日午前中から事務所に来ており,BがHに破門を言い渡した際,被告人もその場に居合わせた旨供述しているが,被告人はこれを否定しており,他のA組組員の供述をみても,被告人がそのころ事務所にいた旨を明確に述べている者はいないことからすると,同日の夕方より前に,被告人が事務所に来ていたと認めるには合理的な疑いが残る。
(9) Hは,Jらとの問題を解決するため,TからNに電話をかけさせたが,さらに,同日夕方ころ,Bの指示に従い,事務所において,Nに電話をしたところ,Nから,「この前言われたこと,分かってないな。キョーシン(Tのこと)連れてこいっていうたやろ。」などと言われたため,これに憤慨し,「わしもMの人間や,そんなもん,連れて行けるか。」などと言って,Nの要求を拒絶し,さらに,Nと電話をかわったJから,「おいこら,ウジ虫。」などと罵られたのに対し,「ウジ虫はお互い様や。」などと言い返した。すると,Jは,「よう言うたのう。」などと怒鳴りつけて,電話を切った。
  (10) Bは,HがJらと口論になったことをA組長に報告したところ,問題が大きくなることを懸念したA組長から,被告人を事務所に呼ぶよう指示されたため,電話で,被告人に事務所に来るように伝えると,被告人は間もなく事務所にやって来た。また,そのころ,Cも,知人のUに電話をし,「喧嘩や。出てこい。事務所や,事務所,早よ来い。」などと言って,Uを事務所に呼び出した。
  (11) その後,JからBに電話が入り,Jが,「お宅のHが,鼻くそ呼ばわりした。わし,辛抱できまへんから,Hの頭かち割って,自分の前に連れてきてくれまへんか。詫び入れてくれまへんか。」などと要求してきたことから,Bは,A組長の指示を仰いだ上,電話をかけ直し,Jにその要求を拒否する旨を伝えると,今度は,JとBとの間で激しい口論となり,その末に,Jは,「来えへんのやったら,大勢で押し掛けたるから,サツでも何でも呼んどけ。」などと申し向け,大勢で事務所に押し掛けて,A組組員を襲撃するような気勢を示した。
  (12) 前記のようなBらとJらの激しいやり取りは,事務所にいたA組長や被告人ら他のA組組員にも聞こえていたが,Bが,A組長らに対し,Jがこれから大勢で事務所に押し掛けたるなどと言ってきた旨を伝えると,A組長は激怒し,「あのクソガキ,A組を舐めとうな。来たら,けじめつけなしゃあないやろ。」などと発言した。これを聞いたDが,「Jが押し掛けてくる言うとる以上,絶対押し掛けてくる。必ずチャカ持ってくるやろ。あいつらはいつも道具持っとうからな。」と言った上,A組長から意見を求められたBも,「俺もそう思う。」と答えたことから,事務所内は緊迫した雰囲気となり,被告人らも,Jがけん銃等を持ち,配下の者ら多数人を引き連れて,事務所を襲撃しに来るに違いないなどと思い,一丸となってJらの襲撃に備えることになった。
  (13) そこで,A組長は,携帯電話で知人のVにけん銃と実包を準備するよう依頼するとともに,Bに対し,それらを受け取ってくるよう指示し,Bは,車でA組長から指示された場所まで赴き,Vから判示の自動装てん式けん銃2丁及びけん銃実包11発の入った紙袋を受け取ると,これを事務所に持ち帰り,組長室にいたA組長に手渡した。また,Gは,その間に,Jらが襲撃してきた場合に使おうと考え,ゴルフクラブ1本を事務所出入口付近に立てかけたり,金づち2本(木製柄のものと金属ゴム製柄のもの)が入った道具箱を机の下から出したりして,他の者がいつでもこれらを使えるような状態にしたが,被告人も,ゴルフクラブ1本が元の場所から移されたことを認識していた。
  (14) A組長は,Bから前記紙袋を受け取ると,組長室において,実包5発が装てんされた自動装てん式けん銃1丁(口径0.45インチ)(以下「45口径けん銃」という。)をDに渡し,その後,実包6発が装てんされた自動装てん式けん銃1丁(口径0.25インチ)(以下「25口径けん銃」という。)をHに持たせるなどしたほか,そのころ,組長室の中にいたDやHその他2,3名の者に向かって,「もめたらいわしてしまえ。」,「いわしてしまわなしゃあない。」などと言った。また,そのころ,Cと被告人は,25口径けん銃を持って組長室から出てきたHに対し,「大丈夫か。」などと声をかけた。
  (15) その後,Jと同行していたRから,何度か電話があり,JとHに話合いをさせてくれないかなどと持ちかけてきたことから,Dと被告人が,A組長の指示を受けるなどして,これに対応していたところ,結局,RとBが立会いの上,JとHが事務所の前で話をしてみることになったが,A組長は,Rが来る前に,Uらとともに事務所を出て行き,また,Gも,そのころ,事務所を出て,木製柄の金づちを携帯の上,事務所周辺の警戒に当たった。
  (16) そして,JがN,O,P,Q,Rらとともに,事務所付近まで来たことから,Hは,RとBが立会った上,事務所付近でJとの話合いに臨んだところ,判示のとおり,Jが,Hと2人になるや,手拳でHの顔面をいきなり殴りつけるなどしてきたため,Hは,Jを目掛け,至近距離から25口径けん銃で弾丸6発を発射し,いずれもJの身体に命中させた。
  (17) 一方,事務所に残っていたD,C,被告人,Fらは,Bから,Hが発砲した旨を知らされると,Dにおいては45口径けん銃を手にして,Cにおいてはゴルフクラブを手にして,Fにおいては刺身包丁を手にして,いずれも事務所を飛び出し,さらに,Dにおいては,Jを発見するや,逃げるJの後方から,Jを目掛け,45口径けん銃で弾丸1発を発射したが,Jには命中しなかった。
  (18) その直後,B,被告人,E及びFは,事務所付近の路上で,Qら3名の男と鉢合わせになり,FがQらに刺身包丁を示して,「いてまうぞ。こらあ。」と威嚇するなどしたが,Qと面識のあった被告人が,「Q,帰れ。」と言ったことから,Qらはその場を立ち去った。
  (19) Jは,Hに撃たれた後,ともに自動車で事務所付近まで来ていたNらによって,L病院へ運ばれたが,同月5日午後2時53分ころ,同病院において,左前胸上部射創,左腕頭静脈及び右肺射創による出血性ショックにより死亡した。
  (20) 判示各犯行の後,Bや被告人らは,事務所に戻ったものの,警察官が事務所に来たことから,ほどなくして事務所を離れ,A組長の指示で,A組長,B,C,被告人及びEらが三宮付近の喫茶店に集まり,Bと被告人がHが発砲した際の状況やRが来た後の経過について,A組長に説明した後,さらに,神戸市l区にあるファミリーレストランに移動して,そこで他のA組組員とも合流したが,DとHが判示第2の犯行状況について詳細な報告をすると,A組長は,DとHに対し,「ごくろうやったな。」などと言って,その労をねぎらった。
  (21) その後,A組長は,「11月5日にはM組の本部の定例会があるので,午前11時までには出頭してくれ。」と言って,D及びHに対し,警察に出頭するよう指示するとともに,同月5日朝には,「今回の件は2人だけでやったことにしてくれ。後々まで面倒みてやるから。」と言って,A組長や,DとH以外のA組組員が本件とは無関係である旨の虚偽の供述を警察官にするよう指示した。そして,D及びHは,A組長の前記指示に従い,同日午前9時ころ,それぞれ判示の自動装てん式けん銃を持って,兵庫県W警察署に出頭した上,その後の取調べにおいても,A組長や他のA組組員の関与はなかった旨の虚偽の供述をした。
(22) Uは,平成16年3月中旬ころ,被告人,A組長の知人の女性及びCの内妻と会った際,前記女性から,「あんたが事件の日,事務所に行った時間は,午後5時ころや。そのときには親分はおらへんかったんや。そういうとかなあかんで。居酒屋に行った時間は,午後6時か午後6時30分ころにしとかなあかんで。」などと言われ,口裏合わせを依頼された。そして,Uは,同月28日,兵庫県W警察署で事情聴取を受けたところ,その翌日ころ,前記女性や被告人らと会った際,前記女性から,警察にどこまでしゃべったのかを尋ねられるなどし,その数日後,前記女性や被告人と会った際にも,警察にはこれまでと同じ話をするよう念押しされた。
(23) さらに,Uは,その後,A組長から,電話で,「お前,警察にどこまでしゃべったんや。変なこと言うてないやろな。」,「わしは,お前の調書,見ることができるんやからな。」などと言われた。
 2 Bが組長室にけん銃等を持ち帰った後の被告人らの言動等については,第1記載の各争点に対する判断と密接に関係するところ,被告人の供述と他の関係者の供述に相違がみられるので,以下,検討する。
(1) B供述の概要
Bの捜査段階における供述及び公判供述の要旨は,次のとおりである(以下「B供述」という。)。
   ア BがVから受け取った紙袋を持って,組長室に入ると,A組長,C,D及び被告人がおり,A組長は,Bから紙袋を受け取ると,その中からけん銃2丁と実包を取り出し,Bらのいる前で,自らけん銃に実包を装てんし始めた。当初,A組長は軍手をはめて弾を込めていたところ,その様子を見ていた被告人が,「兄貴,Eがええ手袋持っとる。」などと言って,彫り師をしているEに対し,彫りに使用する薄い手袋を組長室に持ってくるよう指示した。そして,A組長は,被告人あるいはEから,薄い手袋を受け取り,これにはめ替えて,残りの実包を詰めた。
イ A組長は,実包を全部詰め終わったころ,「押し掛けてきたら,やらなしゃあない。」などと言い,続いて,Dに向かって,「どっち持つ。」と言うと,Dがテーブルの上に置かれていた大きい方のけん銃を取った。次いで,A組長が,もう一つのけん銃については,Eに持たせて自分の警護をさせると言ったことから,Bか被告人がEを組長室に呼び,A組長がその旨を告げて,Eに小さい方のけん銃を持たせた。
ウ その後,J側から何度か電話があり,Hを出すよう強く求めてきたことから,A組長は,Hにけん銃を持たせることにし,Bが組長室にHを呼んで,Eの持っていたけん銃をHに持たせた。
エ 一連のけん銃の受け渡しの場には,Cや被告人も居合わせており,けん銃を受け取ったHがおどおどしていたことから,Cと被告人が,Hに向かって,「大丈夫か。」などと声をかけていた。
オ HがJに向けて発砲した後,Bはすぐさま事務所に戻り,「大変や,弾いた。」などと言うと,真っ先にDが事務所を飛び出し,続いて,B,C,被告人,E及びFがその後を追った。Bらは,DやCと分かれて,Hを探していたところ,DがJに向けて発砲した直後,路上で,Qら3名の男と鉢合わせになったが,被告人が「Q,帰れ。」と言ったことから,Qらはそのまま走り去った。その際,Fが刺身包丁を示してQらを威嚇するなどしていたほか,被告人が,釘抜きの付いた金づち(金属ゴム製柄のもの)を,頭の部分を手に載せて,柄の部分は上着の袖に隠すような形で持っているのが見えた。
(2) B供述の信用性
  B供述は,組長室にけん銃等を持ち帰ってから判示各犯行に至る経過について,A組長や被告人らの言動等に触れつつ,詳細かつ具体的に述べられており,臨場感にも富んでいるところ,その内容をみても,A組長が,準備したけん銃を誰に持たせるのか,Jらが危害を加えてきた場合にどう対処するのかなどの重要な事項を決定し,組員らに指示,命令する際,Bや被告人らといった幹部組員もその場に同席していたというものであって,ごく自然なものといえるし,後述するとおり,G及びUの供述によっておおむね裏付けられていて,反対尋問にも動揺していない。
Bは,けん銃等を準備するなど,自己が判示各犯行に深く関与していることを率直に認めており,公判でも,被告人に関する部分については,BがA組長から荷物を取ってくるよう指示された際に,被告人がその場に居合わせたかどうかは分からないと述べており,被告人がEから手袋を受け取ってA組長に渡したのか,EがA組長に直接手袋を渡したのかは断言できないなどと述べているのであって,全体としてみれば,その供述態度は真摯であり,Bがことさらに被告人の関与を誇張しようとしている様子はうかがわれない。
そして,Bにとって,A組長や被告人らは上位の地位にある者ないしほぼ対等の地位にある者であり,特にA組長とは長年にわたって親交があったことからすると,A組長や被告人らに重大な刑事処分が及ぶ可能性がある事柄に関し,あえて虚偽の供述をしてまで,A組長や被告人らを罪に陥れなければならないような事情もうかがえない。
以上によれば,B供述は信用できるというべきである。
(3) G及びUの供述について
 Bが組長室にけん銃等を持ち帰った後の被告人らの言動等について,G及びUは,その検察官調書において,要旨次のとおり供述している。
ア Gの検察官調書
自分が事務所の奥の流し台の付近でスウェットに着替えるなどしているときに,Bが事務所に戻ってきてすぐに組長室に入った。着替えを終えて,事務室の方に戻ると,組長室にはA組長,B,D,被告人及びEが入っていたが,しばらくすると,CとHが呼ばれて,組長室に入った。組長室の中で話合いがされ,20分くらいは組長室のドアは開かなかった。自分やF及びUは,相手がいつ押し掛けてくるか分からないので,事務室で立ったまま警戒していた。その後,Hらが組長室から出てきたが,その際,Cと被告人が,Hに対し,「大丈夫か。」などと気合いを入れており,Cは,「ワシが持ったろか。」とも言っていた。Hの表情や仕草,Cと被告人の言動から,Hがベストのポケットにけん銃を持っているのだと思い,そのことが相手に分からないようにするため,自分のジャンパーをHの肩にかけてやった。
イ Uの検察官調書
Bが事務所に戻ってきて組長室に入った際,組長室にはA組長,B,C,D及び被告人がいたところ,しばらくして,Eが呼ばれて組長室に入り,その後,今度はHが呼ばれて組長室に入って行った。その時,組長室のドアが開いていたところ,A組長が,「もめたら,いわしてしまえ。もめたら,いわしてしまわなしゃあない。」と言うのが聞こえたが,相手方がけん銃を持ってくるというのだから,それに対抗して,もめたら殺してしまえという意味以外には考えられなかった。また,組長室にいた他の6人も,口々に,「来たら,いわしてもたったらええんや。」などと言っていた。その後,Hが組長室から出てきた際,被告人が,「大丈夫か,しっかりせんか。」などと声をかけ,Cも,「しっかりせんかい。いわしてもたらんかい。わしが代わったろうか。」などと言って,気合いを入れており,GがジャンパーをHの肩にかけてやっていた。Hの様子や,Cの言動等から,Hがけん銃を持っていることが分かった。そのころ,被告人は,組長室に入り,A組長の了解を取り,他の者と酒を飲み始めたところ,しばらくすると,Hに対し,「先に足を撃って,それからやってしまうんや。」と言っていた。
ウ G及びUの検察官調書の信用性
 G及びUの検察官調書は,いずれも,A組長や被告人らの言動が詳細かつ具体的に述べられているばかりでなく,自己の心情の推移にも触れられており,臨場感に満ちているといえる。そして,Bがけん銃等を組長室に持ち帰った後のA組組員の組長室への出入り状況についても,Cに関する部分を除けば,ほぼ一致しており,B供述ともよく符合している。
 A組の若中であるGにとって,A組長や被告人らは上位の地位にある者であり,Uにとっても,Cは親交のある知人であり,A組長や被告人らはそのCが所属する暴力団組織の幹部であることからすると,Bと同様に,G及びUが,これらの者に重大な刑事処分が及ぶ可能性がある事柄に関し,あえて虚偽の供述をするとは考え難い。
 G及びUの公判での供述には,A組長や被告人らの言動,A組組員の組長室への出入り状況等について,はっきり覚えていないなどと述べるところが少なからず見受けられるものの,両名とも,検察官の取調べでは記憶に従って正直に供述した旨を明確に述べていること,A組長や被告人ら7名が,15分から20分くらいの間,組長室の中に入っており,その間,F,G及びUの3人だけで事務室にいたと述べる点は,公判でも一貫している。
 以上によれば,G及びUの検察官調書は,いずれも信用することができ,相互に補強し合って,その信用性を高めるとともに,B供述を裏付けているということができる。
3 Bらの供述に対する弁護人の主張について
(1) 弁護人は,Bは,事件当時,暴力団組織に加入してから2か月ほどで,初めて暴力団同士の抗争に直面したものであって,極度に緊張していた余り,周囲の状況を冷静に認識できる状態になかったのであって,その結果,B供述は,他の関係者の供述と矛盾する点が多く,また,不自然な変遷がみられ,これを信用することはできない旨主張する。
 ア B供述とD,H,E及びCの各供述を対比すると,弁護人も指摘するように,組長室でけん銃の受け渡しが行われるなどした際に,被告人が組長室にいたかどうかという点を中心に,食い違いがみられる。
しかし,被告人がその際に組長室にはいなかった旨を述べている前記4名の供述は,以下に述べる理由から,いずれも,B供述に比べると,その信用性は劣るといわざるを得ない。
(ア) D供述及びH供述について
      まず,D及びHの供述についてみると,Dは,Bから組長室に呼ばれてけん銃を受け取ったが,その時,組長室にはBとDしかいなかった,Dが組長室から出ると,今度はHが呼ばれて,Bからけん銃を受け取ったと供述する(以下「D供述」という。)のに対し,Hは,Bに呼ばれて組長室に入り,Eからけん銃を受け取った,その時,組長室にはDとEしかおらず,A組長らは事務室にいたと供述している(以下「H供述」という。)。
前記認定のとおり,DとHは,当初,A組長の指示に従い,A組長や,DとH以外のA組組員が本件とは無関係であると見せかけるため,けん銃の入手経緯等について,虚偽の供述をしていたことからすれば,D供述とH供述の信用性は慎重に吟味する必要があるところ,Dは,当公判廷においても,本件当日の午後3時以降は事務所でA組長の姿を見ていないと述べるなど,他の関係者とは全く異なる供述をしていること,Hは,DがHにけん銃を渡していないと供述していることを知って,前記のように供述を変遷させたものであり,このような変遷の経過に加えて,H供述は,D供述や後述するE供述と大きく齟齬し,G及びUの供述とも整合していないことからすると,D及びHは,できるだけ,A組長や,D及びH以外のA組組員に責任が及ばないようにするため,虚偽の供述をしているとみるのが合理的である。
(イ) E供述について
   次に,Eの供述についてみると,その要旨は,Bに言われて,Bと入れ替わりに組長室に入ると,A組長とDの2人がおり,Dから,小型のけん銃を持ってA組長をガードするよう言われたものの,その返事をためらっていると,A組長がHを呼ぶよう言ったので,Hと入れ替わりに組長室を出たというものである(以下「E供述」という。)。
E供述は,けん銃の受け渡しにA組長が関与していたことを認めるものであるが,その際のA組長の具体的な言動にはほとんど触れられていないばかりでなく,Eがけん銃を持つよう指示された際にBが組長室にいたことすら否定するものであって,G及びUの前記供述と食い違っていることも考慮すると,E供述についても,A組長をはじめとする幹部組員の責任を軽減しようとする意図がないとはいえない。
(ウ) C供述について
  Cの供述の要旨は,Bが事務所に戻ってきて組長室に入った時,組長室には,A組長,B,D及びHの4人がおり,Cや被告人らは事務室にいたが,少ししてから,Eが組長室に入った,組長室でどのような話がされていたのかは分からないが,込み入った話をしているようであり,A組としてもけん銃を用意しているのだろうと思った,A組長とUが出て行った後,間もなくして,H,D及びBが組長室から出てきたところ,Hの顔面が真っ青だったこともあり,Hがけん銃を持たされたに違いないと思い,「大丈夫か。」などと声をかけたというものである(以下「C供述」という。)。
C供述は,Bが事務所に戻ってきて組長室に入ってから,Cが組長室に出入りしたことを否定するものであるところ,その内容は,G及びUの前記供述と反すること,後述するように,Bが組長室に戻ってきた際,Cと被告人がいったん組長室に入ったとする被告人の弁解にも沿わないことからすると,C供述をそのまま信用することはできない。
イ また,弁護人は,Bの供述には,組長室でのけん銃の受け渡し等に関する部分以外にも,他の関係者の供述と矛盾する点がいくつかみられるとか,けん銃に弾を込める際のA組長の発言やBの着席位置について変遷がみられるなどと指摘するけれども,A組長の関与を認めているとしても,重要な場面に関するA組長の発言を公開の法廷で具体的に語ることに心理的な抵抗があったとみて何ら不自然ではないし,その余の点についても,各人の記憶や認識の違いとして説明することができる部分であったり,争点①ないし⑤に対する判断とは直接関係がなく,供述内容の核心部分に影響するとはいえない事項に関する点であることからすると,弁護人が指摘する諸点を考慮しても,B供述の信用性に疑問を差し挟む余地はないというべきである。
ウ なお,弁護人は,Bは,被告人に対する個人的な恨みから,被告人に有利と思われる部分はことごとく否定しているとも主張するけれども,前記のとおり,Bは,公判において,ことさらに被告人の役割を誇張するような供述はしていないし,Bと被告人の間に,Sの処分等をめぐって意見の相違があったことはうかがわれるものの,Bが被告人に恨みを抱いていることを裏付ける的確な証拠は存しないことからすると,Bが被告人を恨んでいるというのは,弁護人ないし被告人の憶測にすぎないものといえる。
エ 以上によれば,B供述が信用できないとする弁護人の主張は,採用の限りでない。
(2) さらに,弁護人は,G及びUが,公判において,Bがけん銃等を組長室に持ち帰った後のA組組員の組長室への出入りの状況,その際のA組長や被告人らの発言等につき,明確な証言ができないのは,もともと両名がその当時の状況を具体的に記憶していないからであり,前記の点につき詳細に述べているG及びUの検察官調書は,検察官の作文といわざるを得ず,いずれも信用できない旨主張する。
 しかし,前記のとおり,GとUは,いずれも,検察官の取調べでは当時の記憶に従って正直に供述した旨を明確に述べていること,GとUの検察官調書を対比すると,Cの組長室への出入りの状況等につき,一部相違点もみられることからすると,GとUの検察官調書は,検察官による作文ないし誘導の産物ではなく,検察官において,GとUが記憶に従って述べるところをそのまま録取したものとみるのが相当である。
 公判において,GとUがはっきり覚えていないなどと述べている点については,時の経過による記憶の減退等の影響ばかりでなく,前記のようなA組長や被告人らと両名の関係のほか,Uにおいては,A組長らから口裏合わせ等を重ねて依頼され,被告人もこれに関わっていたことを考慮すると,G及びUが,公開の法廷で,被告人を前にして(Uにつき,遮へい措置が講じられているとしても),A組長や被告人らの言動等,その刑事責任に関わる事柄につき,具体的な供述をするのに心理的抵抗を感じていたことは想像に難くないから,よく覚えていないなどと述べて,意識的に供述を回避している部分もあるとみるべきである。
 なお,弁護人は,Uにおいては,事務所に来たころからほぼ泥酔状態にあり,事務所にいた際の出来事を詳細に記憶しているはずがない旨主張するけれども,Uは,A組長らと事務所を出た後,立ち寄った居酒屋で飲食するなどした際,A組長の実兄がUにいきなりビール瓶で殴りかかるような仕草をし,A組長らの存在を同店の店員らに印象づけるなどしていたとして,A組長らによるアリバイ工作の模様についても,詳細かつ具体的に供述していることからすると,飲酒の影響はさほど強いものではなく,Uの記憶の正確性には特段問題はないとみることができる。
 以上によれば,G及びUの検察官調書が信用できないとする弁護人の主張も,採用の限りでない。
 4 被告人の弁解について
  (1) 被告人は,捜査及び公判の各段階を通じ,Bが事務所に戻ってきて組長室に入った際,Cとともに組長室に入ったものの,A組長から外に出るよう言われ,組長室から出たので,A組長がDらにけん銃を渡すなどしたところは見ていない旨供述しているところ,A組長から外に出るよう言われた理由につき,公判において,A組長に信用されていなかったからだと思うと述べている。
しかし,被告人の前記供述は,信用できるBらの供述と反するばかりでなく,前記認定のとおり,A組長は,A組の結成に当たり,舎弟であった被告人を相談役の地位に就けていたものであり,また,本件の際には,Jらとの問題が大きくなることを懸念して,被告人を事務所に呼び寄せた上,その後も,Rとの交渉を被告人に行わせたりするなど,被告人のことを相当信頼していたとみられることからすると,A組長が,けん銃の受け渡しをするなどした際だけ,被告人をその場から外したという被告人の説明に,不自然な感を否めない。
(2) また,被告人は,公判において,Hに向かって,「大丈夫か。」などと声をかけたことはあるが,その際,Hがけん銃を持っているとは知らなかったとか,Dが発砲するところは見ていないとして,判示各犯行の際にけん銃を見たことはない旨供述するほか,Hの発砲後に事務所を出た際,金属ゴム製柄の金づちを持っていなかったと述べている。
  しかし,被告人は,検察官調書においては,Hの様子から,Hがけん銃を持たされたことが分かっていたと明確に供述していたのに,公判になって,前記のとおり,供述を変遷させている。また,被告人は,捜査段階の当初には,Dが発砲するところを見た,道具箱の中から金づち(ただし,木製柄のものとされている。)を取り出して事務所を出たと明確に述べていたのに,検察官の取調べにおいて,これらの供述を訂正し,公判においても,前記のとおり,当初の供述を否定している。
前記の諸点は,被告人の刑責に影響を及ぼす重要な事項であるところ,被告人の供述を精査しても,供述が変遷した理由について,被告人から納得しうる合理的な説明はされていない。
(2) 以上のとおり,被告人の供述は,全体としてみると,内容に不自然なところがみられるほか,重要部分がいくつも変遷しており,その点について,合理的な説明がされていないことからすると,被告人供述の信用性は乏しいといわざるを得ない。
 5 小括
   以上を総合すれば,Bがけん銃等を組長室に持ち帰った後の被告人らの言動等については,信用できるB供述,G供述及びU供述に沿って,認定するのが相当である。
第3 争点に対する判断
 1 争点①及び⑤について
前記のとおり,B供述によれば,被告人は,組長室において,判示の自動装てん式けん銃2丁とけん銃実包を直接に目にしていたことが明らかであるから,その存在を確定的に認識していたといえる。
また,関係証拠からは,被告人が,刺身包丁や金づちが凶器として準備されていることを確定的に認識していたとまでは認め難いが,主たる凶器であるけん銃が準備されていることを知って集合し,この点に関し,被告人と他の共犯者との間で共謀が形成されている以上,他にどのようなものが凶器として準備されているかを確定的に認識していなかったとしても,準備された凶器全体について,被告人に凶器準備集合罪の刑責を問い得ると解すべきである。
したがって,争点①及び⑤に関する弁護人の主張は失当である。
 2 争点②ないし④について
(1) 第2で認定した事実によれば,A組長及び被告人らA組組員8名は,Jの言動等から,Jが配下の者を引き連れて多数人で事務所に押し掛け,けん銃等を用いるなどしてA組組員を襲撃してくることが予想されたことから,A組を挙げてこれを迎撃することに決めたものであり,A組長の指示により,Bにおいて,判示の自動装てん式けん銃2丁とこれに適合するけん銃実包を準備するや,A組長は,自らけん銃に実包を装てんした上で,「もめたらいわしてしまえ。」などと発言して,A組組員に対し,Jらが危害を加えてきた場合には,けん銃を使用してJらを殺害するよう指示,命令し,そして,実包が装てんされたけん銃を渡すことにより,D及びHをその実行役に指名したものと認められる。
そして,被告人においても,前記のようなA組長の指示,命令を受けて,何ら異を唱えることなく,むしろ,実包が装てんされたけん銃を持っているHに対し,「先に足を撃って,それからやってしまうんや。」などと具体的な銃撃方法を助言するなどして,積極的に加担していることからすると,Jらが危害を加えてきた場合には,けん銃を使用してJらを死に至らしめることを十分に認識し,これを認容していたものとみるべきである。
(2) これらの事情にかんがみると,被告人は,A組長ら他の共犯者との間で,JらがHらA組組員に危害を加えてきた場合には,けん銃を使用してこれを殺害するとの意思を相通じていたものであり,また,当該殺人の犯行は,A組の活動として,組織により行われたものと認めるのが相当である。
(3) これに対し,弁護人は,Jらと被告人の間にはトラブルがなかった,被告人は,共犯者らがQらと鉢合わせになった際,新たな衝突が起きるのを防いでいる,前記のようなA組長の指示,命令は,「大けがをさせる」という意味に理解すべきであるなどとして,被告人に殺意はなく,共犯者らとの殺人の共謀も認められない旨主張する。
しかし,前記のとおり,当該犯行が,A組長の指示,命令に基づき,A組を挙げて組織的に敢行されたものであることからすると,被害者であるJらと被告人の間に個人的なトラブルがなかったとしても,被告人がA組の一員として殺意を抱く十分な動機があるといえるし,それまでの経緯に照らすと,被告人がQらとの衝突を回避しようとしたのは,偶然にもQが被告人の知人であったからにすぎないものとみることができ,これらの点から,被告人に殺意がなかったとか,共犯者らとの殺人の共謀はなかったものとみることはできない。
また,前記のようなA組長の指示,命令は,実包を装てんしたけん銃の使用を内容としていることが明らかであり,A組長から,けがをさせるだけにしろとか,その使用方法を限定するような指示等はなかったことからすれば,「けん銃を使用して殺害せよ。」との意味に理解するのが自然であるし,逆に,けん銃を持参して事務所を襲撃しに来ると考えていた相手方に対し,けん銃を使って対抗しようとするに際し,相手方に致命傷を与えることなく,大けがを負わせるにとどめるということ自体考え難いことからすれば,弁護人が主張するような意味に理解することはできない。
以上によれば,争点②ないし④に関する弁護人の主張も採用できない。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為につき
  刑法60条,208条の3第1項
判示第2の所為のうち
 けん銃発射の点
  包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条,3条の13(有期懲役刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)
 組織的な殺人の点
  行為時  刑法60条,前記改正前の組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項3号(前記改正前の刑法199条。有期懲役刑の長期は,前同様,刑法6条,10条により前記改正前の刑法12条1項による。)
裁判時  刑法60条,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項3号(刑法199条)
刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。
判示第3の所為のうち
 けん銃加重所持の点
  包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項(1項),3条1項(刑の長期は,前同様,刑法6条,10条により前記改正前の刑法12条1項による。)
けん銃実包所持の点
包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の8,3条の3第1項,同法施行規則3条の2
科刑上一罪の処理
判示第2及び第3の各所為につき
いずれも刑法54条1項前段,10条(いずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,それぞれ一罪として,判示第2の罪については重い組織的な殺人の罪の刑で,判示第3の罪については重いけん銃加重所持の罪の刑でそれぞれ処断)
刑種の選択
判示第1の罪につき
  懲役刑
判示第2の罪につき
有期懲役刑
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重。行為時においては前記改正前の刑法14条によって加重が制限され,裁判時においてはその制限はないが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)
未決勾留日数の算入
 刑法21条
訴訟費用の不負担
 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
判示各犯行に至る経緯は前記のとおりであるが,いずれの犯行も,目的を遂げるためには手段を選ばないという暴力団特有の論理に基づくものであって,その動機に酌量の余地はない。被告人らは,被害者らがA組事務所に押し掛けてくることを予期し,これを迎撃する目的で,A組長の指示,命令の下,Bにおいて殺傷能力の高い真正けん銃2丁を準備し,被告人らその他のA組組員においてはそれと知って,それぞれA組事務所に集合した上,決められた役割分担に従い,H及びDにおいて判示のけん銃等を携帯し,被害者がHの顔面を殴打するなどの暴行を加えるや,Hにおいて,所携のけん銃で続けざまに弾丸6発を発射し,そのすべてを被害者に命中させて被害者を殺害し,Dにおいても,所携のけん銃で弾丸1発を被害者に向けて発射したものであって,判示各犯行はA組を挙げて遂行された凶悪で組織的な犯行である。特に,判示第2の犯行においては,繁華街に近い住宅街の路上でけん銃2丁によって合計7発もの弾丸が発射され,通行人など一般市民が巻き添えになる危険性もあったものであり,本件が地域住民など社会一般に与えた不安感や衝撃は大きい。被告人は,判示各犯行に際し,実行犯に指名されたHに具体的な銃撃方法を助言するなど,幹部組員として重要な役割を果たしている。被害者は,後述のとおり,判示各犯行を誘発した落ち度があったにせよ,至近距離から突然6発もの銃弾を浴びせられ,人生半ばにしてその生命を奪われたものであって,結果は重大であり,その肉体的苦痛や無念の思いは計り知れず,また,遺族らの処罰感情は厳しいところ,被告人はこれまで何ら慰謝の措置を講じておらず,その見込みも乏しい。被告人は,捜査段階から不合理な弁解を繰り返して殺意等を否認しており,その供述態度からは,自己の責任を省みる姿勢が不十分というほかない。加えて,被告人は,前科8犯を有し,そのうち,傷害,暴力行為等処罰に関する法律違反といった粗暴前科は6犯に上るところ,これまでに2度懲役刑の執行を受けて服役していること,本件は平成11年7月に傷害罪により懲役1年6月,4年間刑執行猶予に処せられた前科の執行猶予期間の満了後ほどなくして行われたものであることからすると,被告人の規範意識は鈍麻しているといわざるを得ない。
 以上の諸点に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重い。
他方,被害者も暴力団組織に身を置いていたところ,前記のとおり,配下の者とともに,A組やHに対し,因縁を付けて金銭を要求するなどしていた上,判示各犯行の直前にも,多数人でA組事務所に押し掛ける旨申し向けて,A組組員を襲撃する気勢を示し,現に配下の者らを引き連れてA組事務所付近にまで赴いており,このことが判示各犯行の誘因となっていることは否定できず,被害者にも責められるべき点が少なくないこと,けん銃等は,A組長の指示のもと,Bが準備したものであって,被告人はその準備には関与していないこと,判示各事実のいずれについても,刑事責任を負うこと自体は認めているほか,被害者の冥福を祈る旨を述べるなど,被告人なりに反省の態度を示していること,社会復帰後は暴力団組織とは関わらないようにするとの意向を示していること,内妻が被告人の社会復帰に協力する旨を述べていることなど,酌むべき事情も認められる。
以上の諸事情を総合考慮し,主文の刑に処することとする。
(求刑 懲役15年)
(国選弁護人 X)
  平成17年6月27日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官  佐の哲生
裁判官  川上 宏
裁判官  酒井孝之