hanrei @Wiki H17. 8.18 仙台地方裁判所 平成16年(わ)第405号 強盗殺人等被告事件



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判示事項の要旨:
強盗殺人等被告事件について,未必的な殺意を認定し,被告人を無期懲役に処した事案


主       文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理       由
(犯行に至る経緯等)
1 被告人の身上等
  被告人は,昭和58年に仙台市内で出生し,中学3年のころ,父の借金が原因で父母が離婚したことから,本籍地の母方の実家で母らに養育されて,中学校を卒業し,その後,しばらくして専門学校に進んだが,1年半くらいで中退して,以後,宮城県内で交通誘導の仕事をしたり,長野県飯田市内で派遣工員として稼働するなどしたものの,いずれも長続きせず,その後は仕事をしないで,消費者金融会社から金員を借り入れて遊興費等に充て,平成15年夏ころからは,Aらとパチンコ店で不正行為をしてパチンコ玉を出す,いわゆるゴト行為をして金員を稼いで暮らしていた。そして,平成16年2月ころまでは,消費者金融会社に返済をしていたものの,その後,その返済に困り,このままでは消費者金融会社から督促状が実家に送られてきて,母にその督促状を見られて悲しまれる,悲しむ母の顔を見ることはできないなどと考えて実家を出て,その後,友人宅を転々とし,本件当時は,仙台市a区所在の友人方で寝泊まりしていた。
2 被害者の身上等
  B(以下「被害者」という。)は,昭和30年に秋田県内で出生し,大学中退後,長年にわたり,医療事務職員として病院等に勤務し,平成15年5月以降はタクシー運転手として稼働するようになり,その間の昭和57年に妻と婚姻して3人の子をもうけたが,平成14年5月に離婚し,本件当時は,仙台市内において,内妻と2人で暮らしていた。
3 犯行に至る経緯
(1) 被告人は,前記のとおり,ゴト行為をして金員を稼いでいたところ,これを知った地元の暴力団員に,パチンコ店側にゴト行為が発覚してトラブルになったときには面倒を見るからなどと言われて金員を要求され,平成16年1月ころから,毎月2万円の上納金を支払うようになった。ところが,被告人は,同年4月ころに別の暴力団員に露店を手伝うように命じられ,どうしても嫌であったことから,無断で手伝いに行かなかったことがあったものの,暴力団員らに見付けられて,露店の手伝いをさせられ,同月28日ころからは度々仙台市内や山形県内で露店の手伝いをさせられるようになったが,1日5000円の日当しかもらえない上,暴力団員に呼び出されて連れ回されたりして,思うようにゴト行為で金員を稼ぐこともできないことから,所持金もなくなり,消費者金融会社に返済ができなくなって困ってしまった。その上,被告人は,Aから,前記暴力団員らが被告人を組員にさせようとしているなどと聞き,自分はあくまでもゴト行為で金員を稼ぐために上納金を支払っているのであって,組員になるつもりはない,自分は元来気が弱く,ヤクザがつとまるはずがないし,このままでは組員にされてしまう,そうなってしまえば組から抜け出すのが大変だなどと考えて不安を募らせ,中学を卒業したころから吸引していたシンナーを,度々吸引して不安な気持ちを紛らわせていた。
(2) 被告人は,同年5月22日,その日は休みのはずなのに,露店の準備などをさせられた上,翌23日も露店の手伝いをするように命令されたことから,たいしてお金ももらえないし,暴力団は嫌だし,遊べないのも嫌だ,露店の手伝いなどをもうやめたいなどと思い悩んだ末,露店の手伝いを命じられたその日,無断で待合せ場所に行かなかった。そして,被告人は,無断で露店の手伝いを休んでしまった以上,又必ず暴力団員に探され,見付かれば,暴行を加えられて,又露店の手伝いをさせられる,宮城県外に逃げるしかないと考えたが,逃げてしまえば当分地元にも帰れないなどと考えると寂しくなり,遊び仲間とカラオケをしたり,シンナーを吸引するなどして,5月分の上納金として貯めていた2万円のほとんどを使ってしまった。
  ところが,被告人は,翌24日未明,遊びから帰る途中で,シンナーを吸引しながらAの自動車を運転したことから,自損事故を起こし,同車が走行不能の状態になってしまった。そこで,Aが,被告人をかばい,電話で,上記自動車を足代わりに使っていた暴力団員に,Aが事故を起こしたように装って報告すると,電話でひどく怒られたことから,これを聞いた被告人は,Aにひどく迷惑を掛けてしまった,何とかして車を弁償しなければならないなどと思ったものの,借金できるあてもなく,困りながら上記友人方に戻った。そして,被告人は,翌25日午前10時ころ目を覚ますと,シンナーを吸引するなどしながら,Aに弁償しなければならないがお金がない,暴力団員に見つかれば,暴行されたり,金を要求されたりする,今晩中に逃げなければ見つかってしまう,どこに逃げようかと考えるうち,以前働いたことがある長野県飯田市を思い出し,そこに逃げよう,そこで仕事をして金を稼げば,車の弁償もできるし,暴力団員に捕まらずにすむなどと考えたが,所持金がほとんどなかったことから,旅費をどうして作ろうかと考えた。
(3) 被告人は,遅くとも同日午後8時45分ころまでの間に,タクシー強盗を思いつき,客の振りをしてタクシーに乗り,実家の近くで,夜は人通りがない「b」と呼んでいる少年時代の遊び場であった後記本件犯行現場まで走行させ,運転手に包丁を突きつけて,運転手を後ろ向きにさせて車に押しつけ,包丁で脅しながら金を出させ,金を取ったら,タクシーを運転して逃げるなどの手順や方法などを考え,タクシー強盗のシミュレーションをするとともに,運転手が抵抗したりすれば,包丁で足を刺そうなどとも考え,「b」で強盗を行えば,成功して,逮捕されることもないだろうとの思いを強め,臆病な自分にできるはずないなどと思って怖くなる気持ちを払うため,左手数か所にタバコの火を押しつけて,いわゆる「根性焼き」を行い,タクシー強盗の決意を固めた。そこで,被告人は,指紋を残さないよう露店の手伝いで使っていた軍手を用意し,前記友人方の台所から包丁1本を取り,部屋にあったタオルで巻き,着ていたトレーナーの内側に隠し,友人方を出,同日午後9時15分ころ,前記友人方近くの交差点付近に停車していた被害者運転のタクシーに乗り込み,「cのがんセンターまで。」などと行き先を指示し,被害者に道順を指示して「b」へ誘導し,同日午後9時40分ころ,「b」に着くや,被害者に道を間違えたかもしれないから止まるようにと申し向け,トレーナー内に隠した包丁を右手で持った。
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 タクシーの運転手から売上金等を強取しようと企て,平成16年5月25日午後9時40分ころ,宮城県名取市d字ef番地付近路上において,タクシー運転手である被害者(当時48歳)に対し,右手に持った包丁(刃体の長さ15.85センチメートル,平成16年押第67号の1)を被害者の頚部に突きつけ,「止めろ。降りろ。」などと怒鳴って,被害者に続いて,運転席側前部ドアから降車し,被害者の腰付近に包丁を突きつけながら,「手を後ろにしろ。金出せ。」などと要求し,被害者がズボンの後ろのポケットから取り出した財布及びタクシーの車内から取り出した財布をそれぞれタクシーの前方に投げさせ,被害者をタクシーの後方に五,六歩遠ざけたが,財布を拾う際に被害者に抵抗されるなどと考えて,とっさに,抵抗されないようにするなどのために包丁で被害者を突き刺そうと企て,被害者が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,前記包丁で被害者の右胸部,右臀部及び右大腿部を突き刺し,よって,そのころ,同所において,被害者を胸部刺創に基づく失血により殺害した上,被害者所有又は管理に係る現金合計約2万7000円ほか37点在中の財布2個(時価合計9410円相当)及びタクシー1台(時価45万円相当)を強取し,
第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,前記包丁1本を携帯し
たものである。
(証拠の標目) 省略
(事実認定の補足説明)
1 判示第1の強盗殺人の事実について,被告人は,捜査段階では確定的な殺意があった旨供述していたが,当公判廷において,最初から最後まで被害者を殺害する意思はなかった旨供述し,弁護人も,被告人の公判供述に基づき,被告人には殺意はなく,強盗致死罪が成立するにとどまると主張し,一方,検察官は,被告人の捜査段階の供述などに基づき,被告人はタクシー強盗を計画した段階から確定的殺意を有していたと主張している。
  当裁判所は,判示のとおり,未必的な殺意を認定したので,以下,この点を補足して説明することとする。
2 関係証拠によれば,① 本件包丁(平成16年押第67号の1)は,被告人が判示の友人方の台所から持ち出した刃体の長さ15.85センチメートルのものであり,鋭利で殺傷能力が高いものであること,② 被害者には,右胸部,右臀部及び右大腿部の3箇所に刺創があり,各創洞の深さは,右胸部が10センチメートル以上,右臀部が13センチメートル,右大腿部が11センチメートルであって,これらの刺創は本件包丁が相当深く突き刺さったことにより形成されたものであり,被害者が右胸部の創からの失血により死亡したこと,③ 被告人は,被害者をタクシーから降車させ,同車の後方に歩かせた後,被害者の背後から,短時間のうちに連続して被害者を突き刺し,そのうち最初の刺突部位は右臀部ないし右大腿部であり,次いで残り2か所へ刺突行為に及び,被害者に上記のような刺創を負わせたことが認められる。
  これらの事実によれば,被告人は,殺傷能力十分な本件包丁を用いて,被害者に対し,いずれも相当強度の刺突行為を行ったことは明らかであり,最初の刺突行為が,身体の枢要部ではない右臀部ないし右大腿部になされていても,これを含めた刺突行為が短時間のうちに連続的になされ,しかも,そのうちの1回は,右胸部という身体の枢要部に対するものであり,その刺創が被害者死亡の直接の原因たる失血を招いたことなどを考え併せると,被告人は,刺突行為の当初から,殺意をもって本件犯行に及んだと推認できる。
3 ところで,検察官は,被告人が確定的な殺意があったと認める供述をしている捜査段階の検察官調書を持ち出し,前記2の①ないし③の事実に加えて,これら検察官調書により,被告人には確定的な殺意があった旨主張し,他方,被告人は,当公判廷において,概ね前記の各事実を認めながら,刺突行為の際はパニックに陥り,その場から逃げたいという思いから被害者を包丁で刺したのであり,殺意はなかったなどと供述し,弁護人も,被告人の公判供述に基づき,被告人には殺意がなかったと主張しているので,以下検討する。
 (1) 上記検察官調書のうち,捜査の最終段階に作成された検察官調書を見ると,その要旨は以下のとおりである。すなわち,「私がシミュレーションした内容は,タクシーを拾ってbまで行かせて止める,隠していた包丁の刃を運転手の首に突き付ける,運転手を降ろし,後ろ向きにさせて車に押しつける,包丁で脅しながら金を出させる,金を取ったら,運転手を少し車から離して,追い掛けて来ないように太もも辺りを包丁で刺す,自分でタクシーを運転して逃げる,もし,運転手が抵抗したり,逃げようとした場合には,包丁で刺し殺してしまおう。」,「被害者に金を出させるところまではだいたいシミュレーションどおりだったが,財布を拾うときに被害者に背中を見せたら,間違いなく自分がやられるような気がして,怖くなってしまった。それで,被害者をタクシーから離して,被害者を刺して,絶対自分を追いかけられないようにしてから,財布を拾ってタクシーを奪って逃げようと思った。被害者の背後から包丁を突きつけながら,被害者をタクシーの左後方に10歩くらい歩かせた。少しでも早くお金を拾ってここから逃げたい,この場から離れたいという気持ちでいっぱいだったが,追いかけられたり,捕まったりするのは絶対に嫌だった。被害者は,私の言いなりになって歩いていたが,私は,被害者が反撃したりする前に,被害者を刺してしまおうと決めた。そこで,10歩くらい歩かせた場所で,後ろから,包丁を握った手を思いっきり横に振り上げて,そのまま被害者の体の右側の腰あたりを目がけて,一気に振り下ろした。私は,包丁で人を刺したと思ったら,頭の中は熱くなってしまい,自分の気持ちに抑えが効かなくなり,怖いと思う気持ちと,絶対にこっちに来るなという気持ちで頭がいっぱいになり,自分が逃げるために,どうせなら殺してしまおうと思った。私は,突き刺した包丁を引き抜いて,その勢いで,またその包丁を振りかぶって,その後2回か,3回くらい,続けざまに刺した。刺したときは,全部,自分なりにかなり強い力で刺したので,刃が深く刺さった手応えがあった。2回か3回刺して,後ずさりしながら被害者から離れたが,その際,右手を大きく振って,最後に1回,被害者の上半身のどこかを刺した。被害者の胸の脇にあったという刺し傷は,最後に思いっきり刺したときの傷だと思う。」などというのである。
 (2) これに対し,被告人の公判供述の要旨は,以下のとおりである。すなわち,「平成16年5月25日午後8時45分ころにタクシー強盗を思いついた。私は,頭の中で強盗のシミュレーションをしたが,そのときには,包丁の刃を運転手に突き付けるということは考えていたが,どこに突き付けるかということまでは考えておらず,また,その時点では,抵抗されたり,逆に向かって来られたら,刃物で太ももを刺してしまおうという考えはあったが,包丁で脅せば被害者が逃げないと思っていて,逃げようとした場合に刺そうとは考えていなかったし,殺すということまでは考えていなかった。本件犯行の際,被害者をタクシーの後方に五,六歩移動させ,そこで,被害者の右の太ももあたりを狙って,包丁で刺した。被害者は,抵抗してこなかったし,逃げようとしてもいなかったが,タクシー内で被害者に包丁を突きつけたとき,被害者に手を握られたことなどもあって,頭の中がパニックになってしまった。その場から立ち去りたい,ここから逃げたい,追いかけてくるなという思いで刺してしまった。財布を拾うときに被害者に抵抗される,抵抗される前に刺そうと考えた。しかし,被害者に顔を見られたことから,殺すしかないなどと考えたことはなかった。私は,被害者の太ももあたりに包丁を振り下ろしたが,被害者を包丁で刺した回数は1回だと思っていて,その後に包丁を抜いたこともはっきりとは覚えておらず,逮捕されてから初めて,被害者に3か所の刺創があることを知った。被害者を刺したとき,手加減をしたということはないが,被害者が死んでも構わないという気持ちはなかった。他2か所の刺創については,どういうふうに刺したのか記憶にないが,私が刺したものであることは間違いない。今考えれば,私は,当時パニックのようになっていたので,自分では1回刺したつもりだったが,無意識のうちに2回も3回もやってしまったのだと思う。」などというのである。
 (3) そして,被告人は,当公判廷において,捜査段階で殺意を認める供述調書が作成されたことについては,要旨以下のとおり供述している。すなわち,「同年6月6日の警察での取調べのとき,取調べの警察官に,『最初から殺すつもりはなかったです。』と話すと,『ちゃんと最初から殺してしまったと書いたほうが,いさぎがよい。今更,そんなこと言ったら反省してないと思われるぞ。』などと言われたので,最初から殺して金を奪おうと計画していたという調書に署名指印した。同月7日の検察庁での取調べのときも,警察官に,『検察庁に行ったら,はい,間違いありません,ちゃんと反省しますというふうに言って,指印をしてくるように。』などと言われたことから,そのようにした。その後,取調べ警察官は,私の体のことを気にしてくれるなど,とてもいい人であり,その人が一生懸命考えて作ったものを,私がつべこべ言って困らせるのも悪いと思ったことと,言い辛らかったということもあり,殺すつもりかどうかという部分については,違います,直してくださいなどと言わずに,そのまま調書に署名指印した。その後の検察官の取調べで,最初から殺すつもりはなかったということを話すと,検察官から『あなたはちゃんと反省しているの。そんなこと言ってるけど,どうやって罪を償うつもり。ちゃんと反省してないんじゃないか。』などと言われ,そう言われると何も言えなくなってしまい,また,警察では,最初から殺すつもりだったような内容の調書が取られてる以上,いくら言っても無駄だという気持ちもあって,調書に署名指印した。当時,元々殺す計画で殺してしまうことと,ただ刺したら死んでしまったというのでは,どちらが悪質かということは分かっていたが,私としては,自分が殺してしまった以上,どちらにしろ罪は変わらないと思った。反省していないと思われるのが嫌だった。」などというのである。
4(1) 殺意を認める捜査段階の供述調書の作成に応じたことを述べる前記被告人の公判供述は,それ自体直ちに任意性に疑問を生じさせるものとはいえず,上記検察官調書の任意性に疑問はないから,その該当部分の信用性について検討すると,その内容は,確定的殺意が生じるに至った経緯等を含め,その時々の心情を交えながら,前記のとおり,詳細に述べているのであり,一見すると,迫真性があって,これが被告人の体験しないことを述べたものとは思われず,信用できると考えられないわけではない。
しかしながら,仔細に検討すると,前記のような,最初の刺突行為のときには,傷害の故意で被害者の腰あたりを狙って刺し,その後,その犯意を殺意にまで飛躍させたという供述部分は,途中で犯意を飛躍させたことの説明があるものの,乙19号証の検察官調書で,「右手に持っていた包丁を振りかぶって,いきなり被害者の足や腰や横っ腹の辺りを,自分でも速いなと思うくらいの速さで,3回くらい,続けて思いっきり刺した。」旨述べていることや,被告人が,犯行時,シミュレーションでは想定できなかった興奮状態にあり,相当慌てていたことが証拠上容易に認められることなどに照らせば,その説明を肯認するにはちゅうちょをおぼえるのであり,証拠を検討しても,他に犯意の飛躍を合理的に理由づける事情もうかがわれない。さらに,乙21号証によれば,殺意が生じた後も,直ぐに被害者の上半身を刺さないで,被害者から離れる際に,最後に被害者の上半身を刺したというのであるが,これは,殺意を生じた者の行動としてはやや不自然な感は否めない。加えて,乙21号証は,被告人が被害者を合計で四,五回くらい突き刺し,しかも,その全部が被害者の体に深く刺さったという趣旨であると解されるが,これは,被害者の刺創が3か所であるという事実に明らかに反している。
なお,検察官は,乙21号証は,乙20号証と併せて読めば,被告人が,シミュレーションしたとき,運転手が抵抗したときには,包丁で殺してしまおうと思っていたところ,財布を拾うときに被害者に抵抗されると考え,被害者から抵抗される前に刺し殺してしまおうと考えたのであるから,刺突行為の当初から確定的な殺意があった,これは,最初から殺害の意思で被害者を包丁で突き刺した旨述べている乙19号証と同趣旨である旨主張する。
しかし,検察官が主張するように,乙21号証を乙20号証と併せて見ても,乙21号証は,やはり,最初は傷害の故意で,途中から殺意が生じたと見ざるを得ず,乙21号証を検察官の主張するように読み取ることには疑問があり,乙21号証は,乙19号証から変遷していると考えられる。
 (2) そして,前記のとおり,乙19号証と乙21号証を見ても,殺意に関する供述部分には変遷があり,さらに,この点に関する被告人の捜査段階の供述を見ると,以下のとおり変遷している。すなわち,殺意の発生時期については,被告人は,逮捕当日の同月5日及び翌6日にかけては,「足を刺せば追いかけて来れないだろうと思い,太もものあたりを後ろから刺したが,夢中で刺していると,死んでも構わないという気持ちになった。」などと,一旦は,最初の刺突行為の後に殺意が発生したかのような供述をしていたのに,同日のうちに,「最初から殺すつもりでいたことに間違いない。」などと先の供述を撤回し,当初から殺意を有していたかのように供述を変更させ,その後,同旨の供述を維持していたものの,同月22日に至って,再び,殺意の発生時期が最初の刺突行為の後であるかのように供述を翻している。そして,殺意に密接に関係する被告人が犯行前にしたシミュレーションの内容については,同月5日の逮捕後の弁解録取では,「最初からタクシー運転手を殺して売上金を奪おうと計画を立てた。」などと供述したが,同日及び翌6日にかけて,「刃物で脅かせばすんなりいくかもと考えた。」などと供述を大幅に後退させ,同月7日には,再度,「運転手を車から降ろして,財布などを出させた上で,運転手を包丁で刺して殺す。」などと,運転手の対応如何にかかわらず,運転手の殺害を計画していたかのような供述をし,次いで,同月16日以降には,運転手が抵抗したり,追いかけてこようとしたり,あるいは逃げようとしたりした場合には,殺してしまえばいいと考えた旨供述を変更させている。
   そして,上記のような変遷については,合理的な理由は述べられてはいないし,捜査の初期に現れた確定的な殺意の発生時期についての供述が,合理的な理由もなく変化して,捜査の最終段階には,再び現れるなどしていることなどからすれば,その変遷を,単なる被告人の記憶の混乱等が,捜査の進展に従って整理されたり,明確になったとみることもできない。
   さらに,その供述中には,包丁の用法について,包丁を水平方向に振って刺した旨述べられていたり,包丁を握った手を横に振り上げて,振り下ろして刺した旨述べられていたりと供述が一定していないし,刺突行為の回数についても,最初は,3回くらい,次には,三,四回,さらには,合計で四,五回と変遷していることなどに照らせば,確定的殺意を認めたり,その殺意に関する被告人の検察官調書中の該当部分の供述の信用性には疑問があるといわざるを得ない(なお,犯行状況についても同様に疑問がある。)。
 (3) 他方,被告人の殺意を否認する公判供述は,特に,被害者に対する2回目以降の刺突行為について記憶がないなどとにわかには信用できないと思われる供述を含んではいるが,前記のとおり,被告人の捜査段階における供述のうち,包丁の用法や刺突回数等に関する部分が相当程度変遷していることを考えると,被告人が犯行の詳細を記憶していないなどと述べることも,あながち信用できないとは断言できない。かえって,被告人は,被害者を包丁で刺した際に,手加減をしたことがない旨供述したり,弁護人から,被害者の右胸部の刺創について,被害者が倒れ込んだ結果できたものではないかなどとの誘導尋問を受けても,これを否定するなど,被告人にとって不利な事実についても相当程度供述していることに照らせば,その信用性を排斥することはできず,基本的には信用性を肯定できると考える。
そうすると,公判供述のうちの殺意を否認する供述部分の信用性が問題となり,この点が信用性を備えているかどうかについて更に検討を進めると,被告人は,本件犯行当時に殺意がなかったと供述する理由を,「シミュレーションをしたときには,殺すということは全然考えていなかった。本件の現場では,私は,自分の指が深く切れたことにも気付かないくらいパニックになっていたので,そのときに殺してしまおうとは思っていないはずである。」などと述べているのであるから,記憶がないという2回目以降の刺突行為は別にして,被告人が,1回目の刺突行為についても殺意がないとする理由は,犯行前のシミュレーションで殺意はなかったから,犯行時も殺意がない,パニックになっていたから殺意がないというものであるということができる。
確かに,関係証拠によれば,犯行時,被告人の指が切れていたことがうかがわれ,また,被告人が相当興奮していたことは容易に推測されるところであるが,被告人の公判供述によれば,被害者に財布を出させたが,手をつかまれるなどと考えて,財布を投げさせたこと,その財布を拾うために,被害者を五,六歩移動させていることが認められるのであるから,それなりに考え,注意を払って行動していたことがうかがわれ,被告人は,自己の行動やその場の状況が分からないほどパニックに陥っていたとは認められない。そして,被告人の公判供述によれば,被害者に財布を投げさせたり,被害者を五,六歩移動させたりしたことはシミュレーションしたときには想定しなかったことであるというのであり,また,犯行時には,シミュレーションしたときとの状況が異なっていたことは明らかである。
このように,被告人が,犯行時相当興奮していても,それなりに考え,注意を払って行動したり,また,犯行時は,シミュレーションしたときの状況等と異なり,被告人は,その状況にある程度対応して行動していたことがうかがわれるから,シミュレーションしたときに殺意がなかったことが,犯行時にも殺意がなかったことに直結するわけでなく,被告人の公判供述は,理由がないといわざるを得ない。
(4) 前記2で認定した事実に加え,前記のとおり,被告人が,被害者に対する刺突行為について手加減したことを否定しており,また,少なくとも2回目以降の刺突行為では,被害者の身体の枢要部を避けて刺突する意思はなかったものとうかがわれることなどからすれば,被告人は,刺突行為の当初から,殺意をもって本件犯行に及んだという前記推認は維持できるのであり,被告人の公判供述によっても,この推認を妨げるものは見当たらない。
 (5) そして,基本的に信用性を肯定できる被告人の公判供述によれば,被告人は,相当な興奮状態にありながらも,最初の刺突行為の際には,被害者の右太ももあたりを狙って刺し,その後刺突の順序までは特定できないものの,被害者の右胸部の他に,右臀部を突き刺していること,また,被告人が事前に行った本件犯行のシミュレーションは,それなりに綿密なものではあったことが認められるが,確定的な殺意を認める被告人の検察官調書の該当部分が信用できないことから,検察官の主張するように,シミュレーションの際に被害者の殺害を決意し,その計画の下に被害者に対する刺突行為に及んだことを認めるだけの証拠はなく,かえって,被告人の公判供述によれば,被告人は,本件現場において,興奮状態に陥る中で,とっさに被害者に対する殺意を抱いたものと認められることなどを併せ考慮すると,本件犯行においては,被告人が,被害者の死亡という結果発生を確実に認識していたとまでは認められず,被告人の殺意は未必的なものにとどまると認めるのが相当である。
5 以上検討したとおり,当裁判所は,被告人が,本件犯行において,最初の刺突行為のときから未必的な殺意を有していたと認めるものであり,この認定に反する弁護人及び検察官の主張はいずれも採用できない。
(法令の適用) 省略
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,タクシー強盗を企て,タクシー運転手の被害者に対し,所携の包丁で右胸部等を突き刺し,被害者を殺害した上,現金等の入った被害者の財布2個及び上記タクシー1台を奪った強盗殺人の事案(判示第1)と,その際,業務その他正当な理由による場合でないのに,前記包丁を携帯したとの銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第2)の事案である。
 犯行の動機を見ると,判示のとおり,被告人は,仕事が長続きせず,消費者金融会社から多額の借金を抱えながら,パチンコ店で不正行為をしてパチンコ玉を出す,いわゆるゴト行為をして金員を稼いでいたところ,これを知った暴力団組員から上納金を要求されてこれに応じ,このようなことから組員と関わり合いを持つ中で,組員らの思うように使われたことなどから嫌気がさして,明日も露店を手伝うようになどという組員らの命令を無視して,その手伝いに行かず,そのため,組員らに捕まえられることを恐れて長野県内に逃げようと考え,所持金もなく,金策のあてもなかったことから,旅費等欲しさに,手っ取り早く現金を手に入れようと考えてタクシー強盗をすることを計画し,被害者運転のタクシーに乗り,本件犯行現場において,被害者に包丁を突き付けて金員を要求し,被害者が抵抗することもなく被告人の要求に応じて財布を差し出したのに,被害者が反撃するのではないかなどと疑心暗鬼になって,包丁で被害者を突き刺して本件強盗殺人の犯行に及んだというのである。
 その動機は,誠に安易で,短絡的で,身勝手かつ自己中心的なものであり,悪質である上,そもそも被告人が暴力団組員と関わり合いを持つようになったのは,組員に要求されたとはいえ,ゴト行為という不正行為を継続するために,パチンコ店側とトラブルとなったときには,組員に面倒を見てもらうということから上納金を支払うようになったことによるのであり,しかも,被告人は,組員に上納金を支払えば,組員からの呼出に何時でも応じなければならないことなどが分かっていたというのであるから,組員に思うように使われることなどから嫌気がさし,露店の手伝いをしないで,組員から逃げようとしたものであったとしても,それは自ら招いたものというべきであり,強盗の犯行に至る経緯に酌むべきものはない。まして,本件の直前には所持金がありながら,長野県内に逃げてしまうと,当分地元に戻れないと考えて寂しくなり,仲間と遊んでこれを使ってしまったというのであるから,なおさらその経緯に酌量の余地はない。そして,犯行現場においては,被害者が抵抗することもなく,被告人の要求に応じて財布を出したというのであるから,もとより被害者を包丁で突き刺す必要は何もないのに,被害者に抵抗されるのではないかなどと考えて,勝手に疑心暗鬼に陥り,いきなり,被害者が死亡するかもしれないことを認識しながら,あえて被害者を包丁で突き刺したとうかがわれ,被害者殺害の動機は,誠に短絡的で,場当たり的である。
 犯行の態様を見ると,被告人は,概ね事前の計画に従い,夜間,先端が鋭利で,刃体の長さ15.85センチメートルと殺傷能力十分な凶器をタオルで巻いて隠し持ち,利用客を装って被害者運転のタクシーに乗車し,被害者にタクシーを「b」と呼んでいた人気のない本件犯行現場まで走らせ,道を間違えたように装ってタクシーを停車させるや,後部座席から被害者の頚部に包丁を突きつけ,被害者を降車させて金員を要求し,被害者に財布などをタクシーの前に投げさせ,その後,被害者をタクシーの後方に移動させて,その背後から3回も突き刺したというのである。
 その強盗の点は,殺傷能力十分な凶器を準備し,勝手を知った人気のない場所で,これを被害者の頚部に突き付けるなどしているのであって,計画的で悪質なものであり,被害者殺害の点も,終始被告人の指示に従って無抵抗であった被害者を,包丁で,いきなりその背後から,連続的に3回,手加減なく突き刺し,その右胸部,右臀部及び右大腿部にいずれも深さ10センチメートル以上の刺創を与え,そのうちの右胸部刺創に基づく失血により被害者を殺害したという残忍なものである。
 被害者は,離婚後も,子らの人格を尊重する良き父,実父母の孝行な一人息子,内妻のかけがえのない伴侶であって,周囲の人々から慕われ,評価を受けてきた良き社会人であったとうかがわれるところ,被告人の本件犯行により,48歳の前途ある人生を無惨にも失わされたのであり,その肉体的な苦痛は甚大であり,死に至るまでの精神的苦痛は筆舌に尽くしがたく,被害者の生命が奪われた結果は極めて重大である。
 被害者は,死亡するまでのわずかな間に,最後の力を振り絞り,携帯電話で,長男宛にメールを送信しようと試みたものの,満足なメッセージを作ることもできないままに力尽きたとうかがわれるのであって,親族らはおろか,自らが守り育ててきた子らにすら,一言も告げることもできず,誰にも看取られることのないまま突然人生を終わらざるを得なかった被害者の無念さは察するに余りある。
 そして,遺族らは,大事な被害者を突然失ったとして,いずれも著しい喪失感にさいなまれ,被害者を返して欲しいと強く訴えるとともに,被告人に一生苦しんでもらいたいなどと極めて厳しい処罰感情を表すのも,至極当然のことである。
 また,判示第1の犯行における財産的損害も,タクシーまでも被害にあっていて,この種犯行としては少なくないが,被告人は,現時点では遺族らに対し,その財産的損害の回復はおろか,何ら慰謝措置を講じていない。
 さらに,被告人は,犯行後,凶器の包丁や衣類等を人目につかないよう投棄した後,1人でいわゆるラブホテルへ行き,同所で,飲酒したり,シンナーを吸引した上,女性を呼んで性交し,被害者から奪った現金をこれらに全て費消してしまい,その後も,友人らと一緒に福島県内に移り住み,「嫌なことは全部忘れて,ここでやり直そう。」などと考えていたなどというのであるから,場当たり的で,現実逃避的な被告人の思考・行動傾向には根深いものがあり,自己の責任の重大性に真摯に向き合うことを避けていたというべきであって,犯行後の情状は極めて悪い。
 加えて,本件は,何の落ち度もないタクシー運転手が,客を装って乗車した被告人に包丁で刺し殺され,現金等を奪われるという極めて悪質な犯行であり,被告人が,犯行後10日余り逃走していたこともあって,タクシー業界の関係者のみならず,一般人にも不安を与えたのであり,本件の社会的な影響も大きかったことなどを考慮すると,被告人の刑責は極めて重大である。
 そうすると,被告人が,逮捕当初から本件犯行を実行したこと自体は認めて,反省の情を示していたこと,被害者の冥福を祈るとともに,遺族らに謝罪し,将来の被害弁償の決意を表していること,被告人には,少年時代の非行歴1件のほかには,前科がなく,犯行時まだ21歳の若年であること,被告人の実父母が,被告人の更生を援助する旨誓約していることなど,被告人にとっては有利ないし斟酌すべき事情を十分考慮しても,なお,被告人の刑責には,その生涯をかけて償いをすべき重さがあるというべきであり,被告人を無期懲役に処するのが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑―無期懲役)
平成17年8月18日
仙台地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 本間榮一
裁判官 齊藤啓昭
裁判官菅原暁は海外出張のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 本間榮一