hanrei @Wiki H17. 9.16 甲府地方裁判所 本訴平成14年(ワ)第411号 反訴平成15年(ワ)第172号 本訴損害賠償請求事件 反訴建物明渡等請求事件



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判示事項の要旨:
水道の蛇口を閉め忘れたために水が床にあふれて階下の事務室を水浸しにする被害を与えた事件に関し,被害者の加害者に対する損害賠償請求が全額認容され,かつ,加害者の父親と家主も損害賠償債務を連帯保証したとしてその責任が認められた事例


平成17年9月16日判決言渡
本訴 平成14年(ワ)第411号 損害賠償請求事件
反訴 平成15年(ワ)第172号 建物明渡等請求事件
(口頭弁論の終結の日 平成17年7月28日)
判   決
主   文
1 被告らは原告に対し各自連帯して3940万6092円とこれに対する下記の日からいずれも支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。
被告M,被告Nは平成14年11月30日
被告Oは平成14年12月2日
2 反訴被告は反訴原告に対し別紙物件目録記載の建物部分を明け渡せ。
3 反訴被告は反訴原告に対し140万円とこれに対する平成15年4月4日から支払いずみまで年6%の割合による金員を支払え。
4 反訴被告は反訴原告に対し平成15年5月1日から第2項の明渡しずみまで1か月10万円の割合による金員を支払え。
5 反訴原告のそのほかの請求を棄却する。
6 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,
 (1) 原告(反訴被告)に生じた費用は,2%を原告(反訴被告)の,68%を被告Mと被告Nの,30%を被告(反訴原告)Oの負担とし,
 (2) 被告Mと被告Nに生じた費用は,全部同被告らの負担とし,
 (3) 被告(反訴原告)Oに生じた費用は,4%を原告(反訴被告)の,96%を被告(反訴原告)Oの負担とする。
7 この判決は第1ないし第4項にかぎり仮執行をすることができる。
事実および理由
第1 請求
 1 本訴
 主文第1項と同じ。

 2 反訴
 ア 主文第2項と同じ。
 イ 主文第3項と同じ。
 ウ 反訴被告は反訴原告に対し平成15年4月1日から上記アの明渡しずみまで1か月10万円の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 1 訴訟物
 (1) 本訴
 被告Mに対する請求の訴訟物は下記のa,bであり,両者の関係は選択的併合である。
 a 過失不法行為に基づく損害賠償請求権とこれに対する民法所定の年5%の割合による遅延損害金請求権
 b 土地工作物責任に基づく占有者に対する損害賠償請求権とこれに対する民法所定の年5%の割合による遅延損害金請求権
 被告Nに対する請求の訴訟物は連帯保証契約に基づく被告Mの上記各損害賠償債務を主債務とする保証債務履行請求権であり,2つの保証債務履行請求権の関係は選択的併合である。
 被告Oに対する請求の訴訟物は下記のa,bであり,両者の関係は選択的併合,aの2つの保証債務履行請求権の関係も選択的併合である。
 a 連帯保証契約に基づく被告Mの上記各損害賠償債務を主債務とする保証債務履行請求権
 b 土地工作物責任に基づく占有者ないし所有者に対する損害賠償請求権とこれに対する民法所定の年5%の割合による遅延損害金請求権
 主たる請求の請求額(3940万6092円)は,原告の主張する損害額(3960万6092円)から420万円(原告が被告Oから賃借している建物部分の賃料42か月分)を差し引いた金額に弁護士費用(400万円)を加えたものである。
 附帯請求の起算日は,不法行為ののちである各被告に対する本訴状送達の日の翌日である。

 (2) 反訴
 ア 賃貸借契約の終了に基づく建物部分明渡請求権
 イ 賃貸借契約に基づく賃料請求権(平成14年3月分から平成15年4月分まで14か月分)とこれに対する商事法定利率年6%の割合による遅延損害金請求権
 ウ 賃貸借契約終了後の債務不履行(明渡義務不履行)に基づく損害賠償請求権としての賃料相当損害金請求権

 2 基本的事実関係(証拠を掲げたものはそれにより認め,それ以外は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認める)
  当事者
 原告(反訴被告。以下「原告」という)は,印材,時計,宝石,貴金属の輸入・販売などを目的とする会社である。
 原告は,平成14年2月当時,別紙物件目録記載の建物部分を被告O(反訴原告。以下「被告O」という)から事務室として賃借していた。被告Oは,この建物部分を含む3階建てビル(以下「本件ビル」という)の所有者である。原告の賃借部分は本件ビルの2階A号室である。
 被告Mは,平成14年2月当時,本件ビルの3階A号室を住居として賃借していた。被告Nは被告Mの父親である。

  賃貸借契約の内容
 原告は昭和62年9月以来2階A号室を賃借しており,その契約内容は平成13年9月1日の合意更新により次のようになっていた。
 期  間  平成13年9月1日~平成15年8月31日の2年間
 賃  料  月額10万円
 支払方法  毎月末日までに翌月分を支払う。
 特  約  原告が賃料の支払いを2か月以上怠った場合,被告Oは催告をしないで契約を解除し明渡しを請求することができる。

  水漏れ事故の発生
 被告Mは,平成14年2月26日の夜(証人P,被告M,被告N),3階A号室において,ユニットバスの洗面台の水道の蛇口を閉め忘れたまま,眠りこんだ。蛇口から水が流れ続け,ユニットバスの排水口が水を排出しきれなかったため,床に水がたまり,やがて2階A号室の天井から水漏れがした。
 原告のQ代表取締役(以下「Q社長」という)は,26日の午後11時45分頃(調査嘱託の結果,原告代表者Q),2階A号室を訪れ,その床に水がたまっていて天井から水漏れがしていることを発見した。
 Q社長は110番通報をし,警察官は27日午前0時21分に本件ビルに到着した。警察官は,合い鍵を使って3階A号室の玄関ドアを開け,水漏れの原因をつきとめ,眠りこんでいる被告Mを起こし,あけっぱなしの蛇口を閉めた。(調査嘱託の結果,証人R,原告代表者Q)

  被告Mの不法行為責任
本件水漏れ事故は,水道の蛇口を閉め忘れるという被告Mの過失により発生したので,被告Mは不法行為に基づき原告に生じた損害を賠償する義務がある。

  書面の作成
 Q社長は,本件水漏れ事故によって原告が被った損害について被告Mに対して賠償を求めることができると考え,27日未明,被告Mに直接損害賠償を求めるとともに,現場に来ていた父親の被告Nにその連帯保証をするよう求めた。そして,あらかじめQ社長が文面を書き入れた書面を示してこれに署名を求め,被告Mと被告Nはこれに応じて署名した。Q社長はさらに,現場に来ていた本件ビル所有者の被告Oに対しても,家主として上記損害賠償債務を連帯保証するよう求め,同じ書面への署名を求めた。被告Oはこれに応じて署名した。この書面(以下「本件書面」という)の文面は以下のとおりである(甲4。かっこ内は,被告らが書きこんだ署名の個所であり,それ以外はQ社長が書いた)。

平成14年2月27日
○○会社御中
(被告Mの住所氏名)
保証人 住所,氏名 (被告Nの住所氏名)
私は下記の件に付損害を与えそれに対して保証,弁済する事を確約致します

物件場所  甲府市○○
水害原因  Mの原因による水の止め忘れによる水漏れ
保証内容  水により商品,備品等関係する物品の減価の保証
      それらに関わる一切の経費
以上
上記の件に関し家主として連帯して保証致します
(被告Oの住所氏名)

 (6) 賃料不払いと被告Oからの解除の意思表示
 原告は2階A号室の平成14年3月分以降の賃料を被告Oに支払っていない。
 被告Oは,平成14年9月24日,原告に対し,10日以内に未払賃料8か月分80万円を支払うよう催告した。さらに,平成15年4月4日原告に送達された本件反訴状によって,賃料不払いを理由に2階A号室の賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。

 3 争点
 (1) 土地工作物責任
【原告の主張】
 本件水漏れ事故は,被告Mによる蛇口の閉め忘れのほか,排水口の排水機能の不十分性が原因となって発生した。すなわち,排水口が細かい網目を採用しており,目詰まりしやすかったことが原因である。
 排水口は,排水機能を左右するものである以上,排水パイプの付属物に該当する。取り外し可能であるとしても,水漏れによる安全管理という点において排水パイプ等の本体と一体をなして評価されるから,排水管とともに土地工作物に該当する。
 わずかな髪の毛,ゴミの貯留によって水漏れ事故が生じるのであれば,本件ビルの排水口は,蛇口の長時間にわたる開放状態との関係においては,その設置に瑕疵があったということができる。髪の毛やゴミが付着した場合にすぐに清掃するなどして管理する必要があったという点で,その保存に瑕疵があったということもできる。現状の構成による排水口の採用が正当化されるのであれば,万一ユニットバスにおいて水が貯留し他のスペースにあふれたとしても,階下に水が落ちないような防水構造を採用すべきであるが,本件ビルはそのような防水構造をそなえていなかったから,設置上の瑕疵がある。
 したがって,被告Mは排水口の占有者として,被告Oは排水口の間接占有者ないし排水設備を含む本件ビルの占有者兼所有者として,土地工作物責任をまぬがれない。
【被告Mと被告Nの主張】
 土地工作物責任の成立は否認する。
【被告Oの主張】
 土地工作物責任の成立は否認する。本件水漏れ事故は,被告Mの風呂掃除の怠慢により,排水口に設置してあったゴミネットが目詰まりを起こしたのが原因である。ゴミネットは土地工作物ではない。被告Mが負う責任も土地工作物責任ではなく過失責任である。
 かりに3階A号室ユニットバス排水口を含む排水設備が土地の工作物に該当するとしても,被告Mが排水口の清掃を怠り,髪の毛やゴミをつまらせたままの状態にしておいたことが原因であり,被告Mはともかくとして被告Oが責任を問われる理由はない。

 (2) 被告Nの保証責任
【原告の主張】
 被告Nは,本件書面に署名したことにより被告Mの損害賠償債務を連帯して保証した。
 被告Nの主張に対しては次のとおり反論する。Q社長は,本件書面について,警察に提出する書類であるなどと述べていない。被告Mはもとより,被告Nも,本件書面に署名することが本件水漏れ事故に関連していることは知りえたのであり,原告に一定の損害が生じうることも十分予測できた。署名をした場合に法的な責任を認めることになることも十分理解できる状態にあった。かりに老眼のため被告Nが書面の内容を判読できなかったのであれば,Q社長や被告Mに問いただすことは可能であったが,被告Nはそのような質問はしなかった。したがって,被告Nに保証意思があり錯誤がなかったことは明らかである。
 かりに被告Nに錯誤があったとしても,Q社長にさらなる説明も求めず,内容も点検せず,Q社長や被告Mに質問をすることもなく,本件書面に署名したのであるから,被告Nには重過失がある。
【被告Nの主張】
 被告Nが本件書面に署名した経緯は次のとおりである。被告Nが妻などと一緒に2階A号室の水をかき出す作業をしていたところ,Q社長はそのあとをつけ回し,30分以上も署名を迫った。「あとにしてくれ」と言っても「今夜書かないと困る」「いま書くべきものだ」と言われ,「警察へ提出する書類だ」「警察からも署名するようにと言われている」とも言われた。警察官が来ていたこともあり,被告Nは,事故について警察に提出する報告書もしくは始末書のような書類との認識で署名した。被告Nは老眼であるが,当時,老眼鏡を持っておらず,薄暗い廊下で,何が書いてあるか読むことができず,書面の内容を確認しないまま署名したのである。
 このように,緊急時における署名であること,責任の所在,損害の存否・内容・金額等が確認されていない中での署名であることから,被告Nに具体的な保証の意思はない。また,書面が何であるかわからず,警察への提出書類との認識で署名したのであり,被告Nには錯誤があり保証は無効である。

(3) 被告Oの保証責任
【原告の主張】
 被告Oは,本件書面に署名したことにより被告Mの損害賠償債務を連帯して保証した。
 被告Oの主張に対しては次のとおり反論する。被告Oが本件書面に署名したのは2月27日の明け方であるが,Q社長との間の平穏な協議ののちに行われており,パニック状態など存在しない。本件ビルでは同様の水漏れ事故が平成12年にも発生し,Q社長も被告Oもこのことは十分知っていたから,本件ビルに何らかの構造上の問題があると疑うのはきわめて正当なことであり,被告Oもこれに反論をすることができなかった。したがって被告Oに保証意思があったことは明らかであり,かりになかったとしてもQ社長がそれを知りまたは知るべきであったということはできない。被告Oに錯誤があったことはありえないし,かりにあったとしてもきわめて軽率であって重過失がある。また,Q社長が「署名しなければ夜眠れなくなるぞ」などと述べたこ
ともなく,強迫は存在しない。
【被告Oの主張】
 被告Oが本件書面に署名することにより被告Mの損害賠償債務を連帯保証したことは認める。
 被告Oは,第1に,心裡留保による無効を主張する。すなわち,被告Oは,Q社長から執拗に賃貸人の責任を追及され,いわばパニック状況のもとでその場逃れのために署名したにすぎず,また,その時点では損害賠償額も未定であったから,被告Mの損害賠償債務それ自体についても,損害賠償金額についても,被告Oには具体的な保証意思がなかった。別の賃借人の不始末に関する賠償を賃貸人である被告Oに請求すること自体不当であり,にもかかわらずあたかも賃貸人が責任を負うケースであるかのごとく述べて被告Oを困惑させ,そのどさくさにまぎれて署名させているのだから,Q社長は被告Oに保証意思がないことを当然に知っていたし,知らなかったとすれば過失があった。
 被告Oは,第2に,錯誤による無効を主張する。すなわち,被告Oは,本件ビルの他の賃貸部分も含め現場が水漏れ被害で騒然としている状況の中で家主としてとにかく被害の拡大を防止しなければならないということで右往左往していたところ,Q社長から家主としての管理責任を追及され,「これに署名しなければ夜眠れなくなるぞ」と執拗に署名を要求されたため,やむなくその場逃れのために,また,家主としての管理責任が存在するものと誤信して署名してしまったのである。
 被告Oは,第3に,強迫による取消しを主張する。すなわち,被告Oが本件書面に署名した経緯は上記のとおりであり,Q社長から執拗に強要されたためであるから,保証は強迫によるものである。被告Oは平成15年1月17日の本件口頭弁論期日において原告に対し強迫による取消しの意思表示をした。

 (4) 賃料債務と損害賠償債務の相殺勘定
【原告の主張】
 原告は,平成14年2月27日,平成14年3月分以降の2階A号室の賃料債務と本件損害賠償債務との相殺勘定を行うことについて被告Oの了解を得た。
【被告Oの主張】
 相殺勘定の存在は否認する。相殺の意思表示を受けてもいない。

 (5) 損害額
【原告の主張】
 ア 本件水漏れ事故により,原告が2階A号室に保管していた
a 印材収納用ケース
b シープホーン(羊角)を原材料とする印材
c 仏壇とホワイトボックス
が水浸状況に陥った。この結果,
aについては別表1のとおり合計498万9473円,
bについては別表2のとおり合計3117万8490円,
cについては別表3の合計額を前提に,保険会社による査定結果をふまえた343万8129円,
総額で3960万6092円の損害を被った。
 イ これに加えて弁護士費用400万円も損害となる。
 ウ 上記争点(4)において主張したとおり,原告は被告Oとの間で2階A号室の賃料債務と本件損害賠償債務との相殺勘定を行っているので,本件本訴においては,アの損害額から賃料42か月分(平成14年3月分~平成17年8月分)420万円を差し引いたものにイの弁護士費用400万円を加えた3940万6092円を主たる請求の請求額とする。
【被告Mと被告Nの主張】
 本件ビルの浸水事故は2回目であり,本件ビルの構造上の問題も考えられる。また,浸水発見時にただちに給水バルブを閉めることによって被害の拡大が防げたものと思われる。
 原告の主張するような高価品が浸水したのであれば,原告みずからも損害が広がらないような措置をとるべきであるのに,原告は,被告Mらが水をかき出す作業をしている間,とくにあわてる様子もなくただ被告Mらのことを見ているだけであった。

第3 争点に対する判断
 1 事実経過
 基本的事実関係として摘示した事実に加え,争いのない事実と証拠(甲3の1,18の1~3,23の1・2,25,28の1~8,乙1ないし5,丙1,4,6,7の1~4,証人R,証人P,証人S,証人T,原告代表者Q,被告M,被告N,被告O)により認められる本件水漏れ事故の経緯は以下のとおりである。
 (1) 本件ビルは,1階が店舗,2階が事務室,3階が居室となっている。2階の事務室は2部屋(A号室,B号室)で,いずれも細長い長方形のような形状をしている(別紙図面のとおり)。2階A号室は,玄関ドアを入ると,その右側が応接室仕様,左側が事務室仕様となっており,応接室部分よりも事務室部分のほうが広い。事務室部分は,玄関ドア近くにカウンターがあり,その奥の広いスペースの真ん中あたりに事務机が5脚ほど島状に置かれていた。原告があつかう商品を入れた段ボール箱は,2階A号室に保管しており,事務室部分にも,応接室部分にも,段ボール箱が置かれていた。
 3階の居室は4部屋であり,2階A号室の上に2部屋がある。おおむね,2階A号室の事務室部分の上が3階A号室,応接室部分の上が3階C号室である。

 (2) 本件ビルでは,平成12年頃に3階で水漏れ事故があり,2階A号室が被害を受けたことがあった。その原因は,ユニットバスの排水口にゴミが詰まったことであった。
 3階各居室のユニットバスは,洗面台の蛇口から出る水も,風呂桶やシャワーから流れ出る水も,すべて1個所の排水口を経て排出される構造になっている。排水口には,ヘアーキャッチと呼ばれる取り外しのできる金網がかぶせられている。

 (3) 被告Mは平成14年2月当時25歳でひとり暮らしであったが,実家は本件ビルからさほど遠くないところにあり,食事や入浴などは実家ですますことが多かった。2月26日は,実家で夕食をとったのち,午後9時すぎ頃,3階A号室に戻った。ユニットバスの洗面台で水を使った後,蛇口を閉め忘れたまま,しばらくして,睡眠薬を飲んで眠りこんだ。
 ユニットバスでは,洗面台の蛇口から水が流れ続け,排水口のヘアーキャッチが目詰まりして水を排出しきれなかったため,床に水がたまり,やがて2階A号室の天井から水漏れがした。

 (4) 原告のQ社長は,26日午後11時45分頃,2階A号室を訪れ,その床に水がたまっていて天井から水漏れしていることを発見した。部屋の電灯はつかなかった。
 Q社長は,原因をつきとめて漏水を防ごうとしたが,自力ではできないと判断し,110番通報をした。通報を受け,27日午前0時21分に警察官が本件ビルに到着した。警察官は,まず,3階C号室が水漏れの原因であると考え,玄関ドアを開けようとしたが,応答がないので,現場にいたR(近くにあるスナックの経営者で,本件ビルに様子を見に来ていた)にバールを借り,これを使ってドアをこじ開けた。しかし,3階C号室は原因でないことが判明した。次いで,その頃までに現場に来ていた本件ビルの管理人から合い鍵を受け取り,これを使って3階A号室の玄関ドアを開けた。この時刻は午前1時30分前後である。水漏れの原因が3階A号室であることが判明したため,眠りこんでいる被告Mを起こし,蛇口を閉めた。
 もっとも,3階A号室のユニットバスの蛇口を閉めたあとも,2階A号室の天井からの水漏れは続いた。被害を受けたのはおもに事務室部分である。いちばんひどいときは,蛍光灯など,天井に少しでもすき間が空いているいたるところから水が落ちてくる状態であった。事務室部分に敷いてあったカーペットは水を大量に含んでびしょぬれになり,カーペットの敷いていない床上には,少なくとも2~3㎝ほど水がたまった。反面,カウンターを越えた反対側の応接室部分は,天井から水が漏ることはなく,事務室部分の床上にたまった水が流れていった程度であった。

 (5) 知らせを受けてかけつけた被告Nとその妻のPは,Q社長にもうしわけないという思いから,娘も呼んで,被告Mとともに2階A号室の水をかき出すことにした。その作業中も天井からの水漏れはいっこうにやまず,だんだんひどくなる状況であり,バケツやちりとりを使って水をかき出す作業が続いた。
 Q社長や,あとから来た原告のT取締役は,事務室部分にあった商品入りの段ボール箱の一部を応接室部分に移したが,水のかき出し作業には参加せず,MN親子の作業を見守るなどしていた。
 被告Oも,連絡を受け,たまたま一緒だった仕事場の同僚とともに現場にかけつけていた。午前3時前後には天井からの水漏れがほとんどなくなったので,被告Oの同僚が事務室部分の天井板をはずしたところ,大量の水が落ちてきて,それで水漏れはやんだ。
 警察官が現場を去ったのは午前3時前後であり,その後しばらくしてMN親子と被告Oも帰っていった。

 (6) Q社長は,水漏れの原因が3階A号室であることが判明した後,その住人である被告Mと現場に来ていた父親の被告Nに責任をとってもらおうと考え,本件書面を準備し,まず被告Mに署名を求めた。被告Mは文面を読んでからこれに署名した。次いで,被告Nにも署名を求めたが,被告Nは署名をいやがり,なかなか応じなかった。それでも,Q社長がしつこく署名を求めると,被告Nも根負けし,署名に応じた。署名をしたのは本件ビルの階段の踊り場で,電灯はついていた。署名する際,本件書面の文面について被告NがQ社長に対して説明を求めることはなかった。
 Q社長は,今回の水漏れ事故が2回目であることから,本件ビルには構造上の問題があるのではないかと疑い,そうであれば所有者・賃貸人である被告Oの責任も問えると考えた。MN親子から署名をとったあと,Q社長は,被告Oにも本件書面への署名を求めた。被告Oは署名をすることを躊躇し,すぐには応じなかった。しかし,水漏れ事故が2回目ということは被告Oも知っており,心情的にQ社長に対してもうしわけないという気持ちがあった。それに加えて,Q社長がしつこく署名を求めるので,もめごとにはしたくないという気持ちになったことや,賃借人(被告M)の保険でカバーされるのではないかという期待もあったので,最後には署名に応じた。署名をしたのは本件ビル屋外の駐車場であった。
 MN親子が署名をしたのは2階A号室の水のかき出し作業をしているさなかであり,被告Oが署名をしたのは,そのあとで,2階A号室の天井からの水漏れが止まる前であった。

 2 争点(1)(土地工作物責任)について
 土地工作物責任(民法717条)が成立するためには,「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があること」が必要である。原告は,3階A号室ユニットバスの排水設備に瑕疵があると主張するが,本件全証拠によっても,ユニットバスの排水機能に欠陥があったことを認めることはできない。
 上記認定事実によれば,本件水漏れ事故が発生したのは,排水口にかぶせられた金網状のヘアーキャッチが目詰まりしていたからだといわざるをえない。そして,ヘアーキャッチそのものの機能に欠陥があったと認めることはできないし,そもそもヘアーキャッチは取り外しできるものでそれ自体危険なものではないから,およそ土地工作物とはいえない。
 したがって,被告Mと被告Oに土地工作物責任が成立するという原告の主張を採用することはできない。

 3 争点(2)(被告Nの保証責任)について
 被告Mの原告に対する過失不法行為責任が成立することは当事者間に争いがない。上記認定事実と弁論の全趣旨によれば,被告Nは,本件書面に署名することにより,被告Mの原告に対するこの不法行為に基づく損害賠償債務を連帯保証するとの意思を表示したと認めることができる。
 被告Nは,具体的な保証意思はなかったと主張,供述をする。しかし,上記認定事実によれば,署名をする前に被告Nが本件書面の文面を読んでいなかったとはとうてい考えることができないから,被告Nは本件書面の文面を読んだうえで署名をしたのだと認めざるをえない。また,25歳という若年のひとり暮らしの息子が不始末をしでかした場合,被害者の側がその父親に対して弁償を求めるのは,法律上認められるかどうかは別にして,社会通念上それほどおかしなこととは考えられていないのが実情であるから,被告Nの保証責任を追及するQ社長の意図を被告Nは十分理解していたと認められる。被告Nは2階A号室の状態をよく見ていたのであるから,原告に相当大きな被害が発生することも予想できたはずである。それでもなおかつ本件書面に
署名したのだから,被告Nに具体的な保証意思があったのは明らかである。
 被告Nはまた,警察に提出する文書だと思って署名したので錯誤があると主張し,同趣旨の供述をする。しかし,まわりにいた警察官から被告Nが文書の提出を求められていたという事実も,被告Nが警察官に対して文書提出に関して質問をしたという事実も認められない。そもそも,署名を求めていたのは警察官ではなくQ社長であり,Q社長に対してすら,被告Nは文書の内容・性格について質問していないのである。本件書面の文面からしても,被告Nの上記の言い分はとうてい採用することができない。錯誤の事実は認められない。
 以上より,被告Nは,不法行為に基づく被告Mの原告に対する損害賠償債務について連帯保証責任を負う。

 4 争点(3)(被告Oの保証責任)について
 被告Oが被告Mの原告に対する損害賠償債務を連帯保証する意思を表示したことは当事者間に争いがない。被告Oの主張する心裡留保,錯誤,強迫の各抗弁について順に検討する。
 上記認定事実によれば,Q社長は,本件水漏れ事故について家主である被告Oの責任を追及できると考え,被告Oに対し,被告Mの損害賠償債務を連帯保証するよう強く求め,被告Oは逡巡しながらも最終的にこれに応じたということができる。被告Oは,パニック状態であったと主張するが,本人尋問の結果によれば,そのような事実はなく,むしろ,被告Oは一応冷静にさまざまな考慮を重ねたうえで署名をしたことが認められる。2階A号室の状態も自分自身で見ていたのだから,原告に相当大きな被害が発生することも予想できたはずである。そうであるとすれば,被告Oは,本件書面に署名することにより連帯保証責任を負うことになることを十分承知したうえで署名したのだといわざるをえないから,被告Oに保証意思があったのは明らかである
。心裡留保の事実は認められない。
 次に,錯誤については,「家主としての管理責任があると誤解した」という被告Oの主張を前提にしても,これは動機の錯誤にすぎない。この動機がQ社長に対して表示された事実は認められないから,錯誤無効は成立しない。
 最後に,強迫については,上記認定事実によれば,たしかにQ社長が被告Oの責任を厳しく追及し,時間をかけて署名を迫ったことは認められる。しかし,まわりにいたRや,Tは,Q社長が声を荒げるなどして署名を強要している様子はなかったと証言しており,これをくつがえすだけの証拠はない。Q社長が通常の社会人の範疇に属する人物であり,署名を求める際も脅迫的な言葉を使っていないことは,被告O自身も本人尋問において認めている。したがって,強迫の事実も認定することができない。
 以上より,抗弁にはいずれも理由がないので,被告Oは,不法行為に基づく被告Mの原告に対する損害賠償債務について連帯保証責任を負う。

 5 争点(4)(相殺勘定)について
 原告は,本件水漏れ事故の直後,平成14年2月27日に,Q社長と被告Oの間でその主張する相殺勘定の合意が成立したと主張し,Q社長はこれにそった供述をする。口頭で合意が成立したというのであるが,もう一方の当事者である被告Oはこれを否定する供述をしており,ほかにQ社長の供述を裏づける証拠はない。これでは,原告の主張する相殺勘定の合意の成立は認めることができない。

 6 争点(5)(損害額)について
 (1) ダンボール箱が水にぬれた経緯
 証拠(甲3の1,28の1~8,乙1,証人R,証人P,証人T,原告代表者Q,被告M,被告N,被告O)と弁論の全趣旨によれば,原告の商品を入れてあったダンボール箱は以下のようにして水にぬれたことが認められる。
 ア 原告は,商品として仕入れた印材,印鑑ケースが入ったダンボール箱を,2階A号室の床の上あるいは事務机の上に置いていた。これらのダンボール箱の個数は10個程度であった。重みにより商品に傷がつかないよう,これらは,平積みか,あるいはせいぜい2段程度重ねた状態で置かれていた。
 イ 印材と印鑑ケースは,それぞれ,種類ごとに束にまとめて,新聞紙や包装紙で包み,そのままダンボール箱に入れてあった。
 ウ 本件水漏れ事故により,事務室部分に置かれていたこれらのダンボール箱は,上から水がかかったほか,床にたまった大量の水による被害も受けた。
 エ 応接室部分には,ホワイトボックス等が入ったダンボール箱が置かれており,これらは,床を流れてきた水による被害を受けた。

 (2) 印材収納用ケースについて
 証拠(甲5の1・2,6〔6の5以外の枝番をすべて含む〕,乙1)によれば,本件水漏れ事故時に2階A号室に保管されていたために被害にあった印材収納用ケースは別表1に示すとおりであり,その仕入価格はそこにあるとおり合計498万9473円であることが認められる。
 次に,上記認定の水ぬれの経緯と証拠(甲7の1,10の1~3,16の1~3,19の1~3,20の1~3,22,34,検証の結果,証人U)によれば,これらの印材収納用ケースは,水ぬれの結果,傷,しみ,変色,汚れが生じ,光沢が失われるなど,すべて新品商品としての価値を失っており,かつ,印材収納用ケースについては中古市場が存在しないことが認められる。
 以上によれば,上記合計額498万9473円全額をもって本件水漏れ事故による損害額と認めることができる。

 (3) シープホーン(羊角)を原材料とする印材について
 ア 証拠(甲6の5,乙1)によれば,本件水漏れ事故時に2階A号室に保管されていたために被害にあった印材は別表2に示すとおりであり,その仕入価格はそこにあるとおり合計3117万8490円であることが認められる。
 次に,証拠(甲7の2,10の1・3,12,13,14の1~3,15の1~4,21,26,29,30,31の1~4,32の1~5,33の1・2,36ないし39,検証の結果,証人V)により以下の事実を認める。
 a 上記印材は,新聞紙などにくるまれてダンボール箱に入った状態で水ぬれの被害を受け,そのままの状態で(水分をふきとることなく)放置された。
 b その結果,ほとんどの印材に亀裂が生じ,相当数の印材に曲がりが生じた。
 c 商品としてのシープホーン製の印材は,表面がなめらかでしかも均一な光沢を有していなければならないが,上記印材のうちこの条件を満たすものはきわめてまれで,せいぜい2%程度である。
 d 表面に亀裂が生じた印材は,削ったり切り落とすことによって修繕することができる。しかし,シープホーン製の印材は,原材料の価格に比べて工賃が高いため,修繕すると費用倒れになる可能性が高い。
 以上の事実をもとにして,損害額は次のように考える。第1に,全体の中の2%程度は,そのままでも商品価値が失われていないのだから,この部分は損害にはあたらない。第2に,表面に亀裂が生じた印材は,加工することにより新たな商品とすることができる。原告は,費用倒れになる可能性が高いので加工することはできないと主張する。たしかに,いちばん細い直径10.5㎜の印材についてはそのようにいえるかもしれないが,直径12㎜,13.5㎜,15㎜のものの一部は加工して商品化することが可能であるはずである。この「一部」の比率をどのように考えるかが問題となるが,前掲の証拠にかんがみ,10%程度とする。したがって,直径12㎜,13.5㎜,15㎜の印材の仕入価格のうちの10%は損害にはあたらないと判断する。
第3に,以上のいずれにもあたらない部分は原告の損害である。したがって,別表2の価格をもとに,印材の損害額は次のようにして算出することができる。
{(894,300+5,285,000+9,303,300)×(1-0.12)+14,211,200×(1-0.02)}×1.05≒28,929,247
印材の損害額は2892万9247円である。
 イ 本件では,印材の損害額を明らかにするために鑑定を行った。鑑定事項の要旨は以下のとおりである。
a 鑑定時において,本件印材に,ひび割れ,曲がり等の品質の劣化が認められるか。一定の本数を抽出してサンプル検査を行い,結果は,劣化の状態を具体的に記述するとともに,劣化の程度によりグループ分けをして示されたい。
b 本件印材の品質に劣化が認められる場合,その原因は何か。
c 本件印材の品質の劣化が浸水ないし水ぬれによって生じたと判断される場合,その劣化の機序はどのようなものか。化学的変化である場合,それは可逆的な変化か否か。可逆的であるとすると,どのような条件がそろえばもとに戻せるか。また,浸水ないし水ぬれの時間は,どの程度結果に影響を及ぼすか。
 鑑定結果は以下のとおりであった。
aにつき
 第1区分(被災し劣化した印材)   20%
 第2区分(被災した可能性が高い印材)    9%
 第3区分(元の印材に起因する表面傷又は内部模様がある印材)21%
 第4区分(被災していない印材)   48%
     第5区分(曲り〔一見して曲りがわかるもの〕)        2%
bにつき
 劣化の原因は浸水時間,乾燥条件,印材の品質(等級)である。
 もともと表面状態が悪いもの,潜在亀裂や小亀裂が存在していたものが認められる。このような欠陥があると浸水により被害を受け易い。
cにつき
     劣化の機序はつぎの2通りである。
 イ 印材に潜在亀裂が存在する場合には浸水によって印材表層が膨潤して周方向に膨張し潜在亀裂の位置で剥離して周方向に押出される。乾燥後著しい損傷が認められる。
 ロ 欠点が少なければ浸水によって印材表層が膨潤して周方向の膨張圧がこもり表層部は自身の圧で周方向に押し潰され,乾燥によって収縮し表面亀裂を発生する。
 この鑑定結果をみてもわかるとおり,鑑定人は,鑑定事項に対して客観的,科学的見地に立って正面から答えようとする姿勢が乏しいといわざるをえない。たとえば,鑑定事項については,客観的な劣化の程度による分類が求められているのに,「被災の有無と程度」という客観性の担保があるとは思われない(見方によっては鑑定人の主観的な判断基準であるようにも思われる)基準を持ち出してこれに基づいた分類を行っている一方,第5区分では「曲り」というこれとは別の基準を導入しているのである。鑑定書(鑑定補充書,同を含む)の内容も,晦渋で理解が困難であることに加え,観察結果,実験結果について写真等の資料の添付が不十分であり,鑑定人の判断が正しいかどうかを検証する手がかりがないから,十分な科学的根拠があると認
めることができない。さらに,鑑定人は,鑑定書の随所で,当裁判所から問われていない事項について答えたり,独自の前提条件をもうけたうえで考察を加えるなどしており,その鑑定態度の公正さを疑わざるをえない。このような結果になったことについては,当裁判所と鑑定人との間で事前にコミュニケーションがうまくとれなかったことも原因となっていると考えられ,その点は当裁判所も率直に反省しなければならないが,そのことと鑑定結果の証拠上の評価とは別である。上に述べたような問題がある以上,鑑定の結果は採用することができない。
 ウ 被告Mと被告Nは,本件水漏れ事故後,原告の側で段ボール箱全部を乾燥した場所へ移さなかったことやぬれた印材の水分をふきとらなかったことを問題とするようである。しかし,Q社長やT取締役が2階A号室に到着した時点においては,少なくとも2時間程度は水漏れが続いていたと考えられ,被告Mと被告Nが指摘するような作業をしたとしても,それでどれほどの被害を食い止めることができたかは疑問である。しかも,当時,2階A号室は電灯がつかず真っ暗で,床上に水が大量にたまっている状態であり,警察官や被告O,さらにMN親子が出入りしたり,MN親子が水のかき出し作業に従事したりしていたのだから,とても落ち着いて段ボール箱を動かしたり印材の水分をふきとったりできるような状態ではなかった。印材のふきとりに
ついていえば,3万本以上もの印材の状態をわずかの人数で確認しつつ水分のふきとりをするなどということは,非現実的なことといわざるをえない。したがって,事故後のQ社長その他の原告関係者の行動が損害を拡大させたと評価することはできないから,これを損害額の減額事由として考慮することはできない。

 (4) 仏壇とホワイトボックスについて
 証拠(甲5の1・2,乙1)によれば,本件水漏れ事故時に2階A号室に保管されていたために被害にあった仏壇とホワイトボックスは別表3に示すとおりであり,その仕入価格はそこにあるとおり合計390万9619円であることが認められる。
 次に,上記認定の水ぬれの経緯と証拠(乙1)によれば,これらの商品の損害額は343万8129円であることが認められる。

 (5) 弁護士費用と損害額のまとめ
 ここまでの損害額の合計は3735万6849円である。
4,989,473+28,929,247+3,438,129=37,356,849
 この金額をおもな基準にして,本件訴訟の性格や審理の経過をふまえ,弁護士費用は374万3151円とする。
 弁護士費用を加えた損害額の総合計は4110万円である。
37,356,849+3,743,151=41,100,000

 7 結論
 (1) 本訴
 争点(5)において検討したとおり,原告が被った損害の金額は4110万円である。ところが,原告の主たる請求の金額は3940万6092円であり,この金額より少ない。これは,争点(4)における原告の主張のところでみたとおり,原告は,相殺勘定があることを前提として,賃料42か月分を差し引いて請求しているからである。
 処分権主義(民事訴訟法246条)により,認容額が請求額を超えることは許されないから,結局,原告の請求を全部認容するにとどめるべきであるということになる。
 原告は,被告Mに対しては不法行為に基づき,被告Nと被告Oに対してはいずれもその連帯保証契約に基づき,3940万6092円とこれに対する不法行為後である本訴状送達の日の翌日(被告M,被告Nは平成14年11月30日,被告Oは同年12月2日)以降支払いずみまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう請求することができる。原告の請求は全部正当である。

 (2) 反訴
 基本的事実関係として摘示した事実と争点(4)についての判断を前提にすると,2階A号室の賃貸借契約は原告の賃料不払いにより解除されたということができる。よって被告Oは原告に対し,
2階A号室の明渡し,
未払賃料140万円(平成14年3月分から平成15年4月分まで14か月分)とこれに対する弁済期後の平成15年4月4日から支払いずみまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金
平成15年5月1日以降明渡しずみまで1か月10万円の割合による賃料相当損害金
の支払いを求めることができる。被告Oの請求はこの限度で理由がある。

   甲府地方裁判所民事部

 裁判官  倉 地 康 弘
(別紙)
物  件  目  録

所  在  (省略)
家屋番号  (省略)
種  類  (省略)
構  造  (省略)
床面積  1階 ○○㎡
     2階 ○○㎡
     3階 ○○㎡

のうち,2階A号室56.03㎡(別紙図面の斜線部分)