小説:逃亡者と追跡者 (前編)

    
――キーンコーンカーンコーン・・・・・・
  「いやぁ、授業終わったでしかし!」
オレ、橘 瑩(たちばな あきら)、少し脚力に自信のある高校2年生だ。
  「なぁ、瑩ァ」
長くかったるい授業が終わり、今は放課後。掃除もなく帰ろうとしていたオレを
呼び止めるのは赤島真悟(あかしま しんご)、オレと互角に渡り合ったマヴダチだ。
  「どうした真悟?」
  「今度、犬飼おうと思ってんだけど、名前何がいいかな?」
  「ストライクフリーダム」
  「なんでまたそんなゴツいのを・・・」
かっこいいからいいじゃねーか。文句言うなら聞くなっての。
そもそも、そんなことは家族で決めるべきことだろうよ。
  「じゃあジャスティスだな」
  「いや、お前が飼うんだし、オレはどっちでもいいよ」
  「それじゃめでたく決定だな」
どうやら犬の名前、「ジャスティス」に決まっちゃったらしい。微妙に呼びにくそう・・・。
でもそんなゴツい名前、こいつの姉ちゃんが許さないだろうな・・・・・・。

  さて、ペットの話はともかく、これからヒマになる。
  「あー・・・・・・」
なんかすることねえかな。こう、ハジけるくらいに面白いことが。
そんでオレだけ有利にことを運べる、楽しい楽しいゲーム・・・・・・。
  「なぁ真悟ォ」
  「なんだ?」
  「鬼ごっこしたい」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

思えばあんなこと言っちまったから、こんなことになったんだろうな・・・・・・。
  今オレがいる場所は、海沿いにある、結構大きめの公園だ。
アスレチック系の遊具や、超ロング滑り台など、ガキには受けのいいモノが揃ってる。
それ以外にも、ヒマなバカップルがイチャつくために用意されたであろうと思われる、
シャレたベンチなどもある。オレも使ってみたいものだ。
  「しかし真悟、なにもここまでやらなくても」
  「お前が鬼ごっこしたいって言うから」
  「・・・さいですか」
そう、フィールド条件は完璧に整っている。この点までなら納得がいく。が、
なぜか総勢20人ものヒマそうな人たちが今この場に集まっている。
  「鬼ごっこは多数でやってこそ真価を発揮するからな」
  「よくこんなに人集めたなぁ・・・・・・」

ほんの数分前、オレは「鬼ごっこしたい」と言い放ったあと、フラーッと帰ったんだが、
真悟からいきなり電話がかかってきて、この公園に呼び出されたのだ。
そして来てみたら・・・・・・この有様だった。
  いや、オレのため(?)にここまでしてくれたことには好意を持てるが、
なにもここまでやらなくても・・・
  「そんじゃルール説明だ」
真悟が急にそう言い出す。ルールなんて解説しないでも分かるっての。
  「人数が多いから、鬼にタッチされれば鬼が増えてく・っていうルールにするぞ」
  「つまりは最後まで残ったヤツが勝者ってわけか」
  「そゆこと」
生き残り形式らしい。まるで中学生ロワイアルみたいだな。
  「時間制限は2時間! 勝者が決まらない場合はサドンデスだ!」
あくまで最後の一人まで絞り込む気かよ。体力持つかな?
  「それと鬼になったヤツはこのスカーフを腕に巻いてもらう」
そう言って真悟はごく普通の赤いスカーフを、ここにいる全員に配っていく。
・・・・・・なんでこんなに同じスカーフをいっぱい持ってるのだろう?
いや、そのことには触れてはいけない気がする・・・。
  「鬼になったら、正直にこのスカーフを巻くことだ」
高校生だし、そんなガキみたいなルール違反しないだろうよ。
いい年こいて本格的な鬼ごっこしようっていうオレたちもアレだが・・・・・・。
  「それと公園から出るのも禁止だ。皆の衆、心得たか!」
  「ウーッス!!」
総勢20人もの喊声が公園中に響き渡る。みんななぜかヤル気満々。
  「それと、ルール破ったやつは例の写真渡さねえからな」
オイオイそんな人の集め方してたのかよ真悟・・・・・・。
ていうかここにいる全員、その写真欲しさに駆り立てられたのか。

  「それじゃオレが最初の鬼になる。1分たったら始めるぞ」
真悟がそう言い、20人もの人だかりが散らばっていく。
  「は、早く逃げるブー!」
・・・・・・このデブ絶対最初に捕まるな・・・・・・。
と思ったのが間違いだった。
――ダッ! シュタタタタタタッ!
  「なっ!?」
今、逃げるブーとか言ってたデブは、軽やかな足運びで走り去っていく。
体形からは想像もつかないスピードで、そのデブは逃げてゆく。
  (人は見かけによらんものだな)
正直、走り方がかなり気持ち悪いんだけどな・・・・・・。
タップンタップンって音してる部分が多々あるし。特に、あの腹・・・。
  そしてそのデブのとなりにいたやつ。無駄な肉も無く、走るのに適した体形だ。
キリッとした顔立ちだし、こいつはたぶん運動部なんだろう。かなり速そうだ。
  と、ウワサのそいつが走る体勢をとった。
――ダッ! タッタッタッタッタッ・・・・・・ドテ! 「うぐぅ・・・」
  (えぇ~・・・・・・ええええ~・・・・・・)
走り出してコケたまではまだしも、「うぐぅ」ってオイオイ。
たいやき屋のおっさんにでも追われてんのか?
しかもやけに声が高いな・・・・・・。一部の人たちにはウケがよさそうだが。
  なんにしても、人は見かけによらんものだな。前者も後者も。
  さぁて、そろそろオレも逃げないと。

・・・・・・・・・
鬼ごっこが開始してから、約2分が経過した。
まだ始まったばかりなのか、誰も追ってこない。と、そのとき、
  「ミギャ――――――ッ!!」
前方から奇妙な叫び声が。オレは近くの草むらに隠れ、様子をうかがう。
  見てみると、腕にしぶしぶ赤いスカーフを巻いている少年がいる。
どうやら誰かに捕まったようだな。つーことは、捕まえたやつも近くに・・・・・・
  「あれぇ~? 瑩ァ~?」
やっべ! ほぼ目の前に真悟が!
しかも対峙した状態なので、走り出すには真悟のほうが確実に有利だ!
  状況的にオレが不利だ。まずいな・・・。このまま正面から突破するか、それとも
バックステップからダッシュにつなぐか・・・・・・。
  そう考えてる間にも、真悟はジリジリと距離を詰めてくる。
  考えてる時間は無い。ここは男らしくないが、後者の方法で行くか!
  オレは後方に身体を少し跳ねさせると、素早くきびすを返し、効き足に力を込め、
地面を蹴る! そして、迷い無く走り出す!
  「逃がすか!」
真悟も走り出し、オレを追いかけてくる。後ろから足音が近づいてくる。
が、それもつかの間。10秒ほどして、足音は弱まっていく。
  「ちっくしょう!」
オレの背後から、そんな声が聞こえてくる。どうやら逃げ切ったようだ。
  「50m走・5秒台、ナメんなよ?」
真悟もそこそこ速いほうだが、それでも100m走ではオレと1秒以上差がつく。
  だが、ウチの学年にはまだまだ速いヤツがいる。オレはそいつのことは知らない。
そいつがこの鬼ごっこに紛れ込んでなければいいんだが・・・・・・。
  「もしいるなら、オレピンチだな」
実際、少し走っただけなのに若干息が切れかけている。帰宅部の宿命か?
  「ちょっと休憩しようかな」
オレは近くに座れるような場所があるか探す。お、早速ベンチ見つけ・・・・・・
  「あ、キミ・・・スカーフ巻いてない・・・・・・ね」
  「!!」
声のする方向へ振り返る。そこにいたのは、腕にスカーフを巻いた刺客A(仮)だった!
しゃべり方と容姿からして遅そうだが、さっきからの経験上、油断はできない!
  「っくそ!!」
  「あ、待てぇ~」
  そいつがオレに向かって走り出してきた。オレは再びアクセルを踏む。
微妙に身体が疲れているので、満足なスピードは出ない。
  (ま、逃げ切・・・・・・)
後ろの遅そうな彼は、オレの予想通り(?)、あまり速くない。
  「元気あるねぇ、そこのキミィ!」
突然、目の前にはスカーフを腕に巻いた刺客B(仮)が! しかも地味にゴツい!
  まずい。後ろからも刺客Aが来てるし、挟み撃ち状態だ。今いるこの道自体も狭く、
横方向に脱出しようにも、壁沿いにあるフェンスが邪魔なのでほぼ不可能だ。
  こうなると、逃げる手段は・・・・・・
  「強行突破しかねーだろ!」
  「フン・・・上等だ!」
正面にいるその刺客Bは、オレを捕らえようと体勢を整える。
だが、なぜか分からないが、「避けられる」という確信が、オレの中にあった。
  「ぬんりゃあぁぁああっ!!」
刺客Bが叫び声とともに、右腕を伸ばしてくる。左腕側に避けられてもいいように、
左腕のスタンバイもバッチリだ。
  ならば、ここは裏をかいて右腕側に避けるべきだ! フェンスが障害になるが。 
オレは身体をヤツの魔の手が迫る方へ傾け、頃合をハカり軸足を固定する。
  そして、やつの右腕がオレに襲い掛かってくる!
  「フハハ、橘瑩、討ち取ったナリ!」
その刹那、オレは膝を折り、わざと身体のバランスを崩しガラ空きの部分へ潜り込む。
そして固定した軸足で身体をグルッと回転させ、ヤツの魔の手を掻い潜る。
  「な、なにぃ!?」
その後フェンスにタッチ程度に手をかけ、自由になった効き足で地面を蹴り上げる!
  「・・・ッおのれ!」
瞬間、ヤツは伸ばした右腕をバックブローのように後方へ振り回してくる。
しかしそれも空振りに終わる。もう、遅い。
  オレはある程度距離をとったので、スピードを下げ、後ろを振り返る。
  「チッ、逃がしたか・・・」
間もなくして、さして速くない刺客Aが刺客Bの方へ駆け寄ってくる。
  「そうだね~、逃しちゃったね~」
  「くっそ・・・!」
  「でもぉ~、ボクのせいじゃないからねぇ~?」
  「わーってるよ」
  「えへへ~」
  「・・・・・・ウゼ」
  オレの遥か後方では、そんな微妙な口喧嘩が続いていた。

・・・・・・
  今のところ確認する限り、鬼になっているのは、真悟、ミギャーって叫んだヤツ、
刺客A・Bの4人だ。状況的にはまだまだ逃げる側が有利だ。
  周りを見渡すと、童心に返ってすべりだいやブランコで遊んでるヤツもいる。
いくら有利だからといっても、そこまで気を抜きすぎると危険なんじゃないか?
  「・・・・・・あ」
今しがた、ブランコに乗ってるやつが捕まった。かなりあっさりと。
やはりしぶしぶスカーフを・・・・・・って泣いてるぞ、あいつ!?
  「そこまで本気にならんでも」
ていうか、泣くんならブランコなんか乗ってんなよ。ただのマヌケじゃん・・・。
  しかし、これで鬼は5人になった。若干有利さが落ちた。
時間の問題かも知れんな。今までどおり、油断は禁物だ。
――ガサッ!
  「!!」
  急に背後から草の擦れる音が聞こえる。だが、さっきまで考え事をしてたせいで
レスポンスが遅れる。・・・・・・くっ、間に合わないかもしれない!
  「あー、まてまて。オレ鬼じゃないって」
強張った体勢をとっていたオレに、物陰から出てきたそいつはそう言った。
見たところ、手にスカーフは巻いてない。つまりこっち側の人間だ。
  「キミ、橘瑩くんだろ?」
なぜかオレの名前を知っているそいつは、オレに歩み寄ってくる。
  「オレは原田祐司(はらだ ゆうじ)、瑩くん、オレと組まないか?」
  「・・・・・・何をたくらんでいる?」
  「何もたくらんでないよ。仲間がいる方が、気が楽だからね」
一理ある意見だ。実際オレも一人で逃げ回っていると、なにかと苦しい。
  「じゃあもし、最後までオレたち二人が残った場合は?」
  「そのときは互いに死力を尽くして戦いあう」
  「いいね。気に入ったよ、組もうか」
オレと原田祐司という男は、チームを結成した。これが、勝利の鍵だ。
  「オレのことは祐司でいいよ」
  「じゃぁオレも瑩でいいぜ」
オレと祐司は、果て無き勝利のため走り出した。


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