湯けむりかぐら女子寮 ~トシマイザー3、襲来編~ (その1)

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 かぐら寮の地下からなにやら声がしていた。

「金剛先生、もう一度その位置に弐の石をお願いします」

「わかった。向きはこれでいいかい、御影先生」

「はい、結構です。鳳、七の石の状態は?」

「もう少しで全部取りきる。でも、結構ちっちゃくなっちまったな」

「仕方ありません」

「伍の石の清め、終わったわ。これどこに置く?」

「蘭、ご苦労さま。そうですね……元の参の石の場所に置いてみてくれる?」

「貸しなさい。わしがやろう」

 紗月、鳳、蘭、そして金剛の四人は、夏場、妖貝によってメチャクチャにされたかぐら寮内の結界システムを直していた。

 かぐら学園では、不思議な力を有する大小様々な石を多種多様に配置する事で結界を作り出していた。かつては要所要所に独立した結界を張るようにしていたが、中等部のかぐら女子寮を現在の場所に新設した際、ここを中枢システムとし、各場所に配置した要石を介する事によって集中的な結界制御ネットワークを構築したのだ。その立上げには金剛が関わっていた。その後、結界についての知識と特殊能力を兼ね備えた紗月が加わった事によって、システムは飛躍的に進歩していた。

 今回、かぐら寮を襲った妖貝は、死ぬ間際に自らの体を四散させて結界石に張りつけることで、石の力を大きく狂わせてしまった。

「ふう。しっかし、とってもとっても出てくるな。この染み、相当深くまで侵食してるよ」

 鳳が額の汗をぬぐって一息入れる。しかし、休む間もなく再び慎重に石を削りだす。

 張り付いた死体が結界石の内部に染み込んで、そのままでは使う事が出来なかった。そのため、まず侵食された部分を削り取り、使用できるように整形する必要があった。しかし下手に除去しようものなら侵食を深めたり、石自体を割ってしまいかねない。そこで繊細な作業が得意な鳳がその大事な作業に当たっていた。

「もう少し早く手を打ちたかったわね。まったく、あんな狐なんかが出てくるから」

 蘭は、鳳が削った結界石をもう一度お祓いして清めていた。蘭は、紗月や鳳、金剛に比べてこの手の能力については平凡だったため、補助、雑用の役目を引き受けていた。

「仕方ないだろうな。そいつが九尾の狙いだったんだ。御影先生、こっちには四の石を置いた方が良いと思うのだが」

「六、七との相性を考えるとそうですね……」

 そして、準備の終わった結界石を並べ、調整するのが紗月と金剛の役目だった。金剛はこのシステムの基礎を熟知しているし、紗月は結界の理論についても詳しかった。

「……でも、また壱に影響が出てしまいました」

さらに、紗月には結界についての深い知識だけでなく、自ら結界を張る特殊能力があった。この作業では、その自らの感覚を音叉のように使い、配置された結界石が作り出す結界が上手く機能しているか確かめるという役目も担っていた。

「あ、みんな、時間よ。休憩しましょ。」

 アラームの音に気付いた蘭が三人に声をかける。別に蘭がサボりたいわけではない。蘭はタイムキーパーも兼ねているのだ。紗月の役目は常に感覚を研ぎ澄ましていなければならないので神経に負担がかかる。鳳だってそう長くは集中力が続かない。そこで、最初から二時間ごとに強制的な休憩を入れるように決めたのだった。

「もうそんな時間なの? もう少しやった方がよくないかしら?」

「ダメだよ、紗月。最初からの約束だろ? 倒れちまったら元も子もないんだ」

 どうしても頑張りすぎてしまう傾向のある紗月はこの取り決めにやや不満ではあった。

「鈴置先生の言う通りです。まだまだ先は長いし、最後に大仕事も残ってるんだ。休んだ方が良い、御影先生。がんばりすぎてしまうのは、昔からの悪いくせですぞ」

 金剛に言われ、しぶしぶと持ち場を離れる紗月。四人は上に上がって三十分の休憩に入った。

「お疲れ様です、お姉さま」

 食堂ではささなが飲み物を用意して待っていた。蘭と金剛は椅子に腰掛けて出されたレモン水を飲み干した。しかし、紗月と鳳は食堂まで来ると、緊張の糸が切れたようにしかれたマットの上に倒れこんだ。

「お姉さま、大丈夫ですか?」

 心配そうに覗き込むささな。紗月はゆっくりと上半身を起こしてささなから飲み物を受け取った。

「心配してくれてありがとう。大丈夫よ。こんな大事な時に疲れただの蜂の頭だの言ってらんないわ」

 鳳も半ば朦朧とした意識の中で飲み物を受け取った。

「蜂の頭ってなんだい?」

「あらー、こういうとき、言わない?」

「んー、言わないよな、蘭」

「聞いた事ないわね。っていうか、全然意味わかんないし」

 三人とも寝不足と疲労でボーっとする頭で妙な雑談をかわしていた。

「うちのお母さんとおばあちゃんは言うんだけど。ささなは知ってるわよね」

「いいえ。あ、んー、そういえばママは言ってたかなぁ?」

「そう。もういいわ」

 従姉妹のささなからも同意を得られず、紗月はバッタリと倒れこんで眼を閉じた。怒ったのではなく、面倒くさくなったのだ。

「皆さん、だいぶお疲れですね。そうだ!」

 ささなが少し大きな声を出したが、三人の反応は鈍かった。

「なんだよ、ささな」

「なんか思い出したの?」

 ささなは、満面の笑みで提案した。

「お姉さまたち、もしも作業終わったら、寮のお風呂に入っていってくださいよ。あ、金剛さんは無理だけど……」

「わかっとる」

「すっごく広いんですよ」

「知ってるよ。うちらの住んでた旧寮と風呂だけは同じハズだからね」

「疲れ、とれますよー」

「今のあたしたちには、お風呂にゆっくり入れるってだけで十分だわ」

 紗月たちはここ数日の間、学校も休んで朝早くから夜遅くまで作業に追われていた。結界を不完全な状態にしていると暴走する恐れもあるため長時間放置しておけず、さりとて交代して休もうにもお互いの仕事が高度に専門的だったため思い通りに行かず、結局十分な睡眠も取れていなかった。当然、ゆっくり風呂に入っている時間も体力もなく、軽くシャワーを浴びたらそのまま布団へ直行の毎日だった。この状態で風呂に入っていたらそのまま沈んでしまうだろう。

「さて、そろそろ三十分だな。行こう」

 金剛の言葉に、蘭が大あくびで答えた。

「ふわぁーい。あ、紗月ったら、黙ってるなと思ったらマジ寝してる」

「可哀想だけど起こさなきゃな。おーい、紗月、朝だぞー。お仕事だ」

「うーん。すぐ、行きますぅ……くーくー」

「「起きろー!」」

 紗月の襟首を掴んで強引に起こす蘭と鳳の姿を見て、ささなはそっと涙を拭いた

「こ、こんなに寝起きの悪いお姉さま、初めて見た……。よっぽど疲れてるんですね。うう、かわいそう」


                        
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