第6話 アルカナメイド隊・前編

今回予告

 アルカナの情報を求めてカルカンドへとやってきた一行。しかし、そこで某メイド長ササメさんと出会う。何やら、彼女もアルカナについて探るために動いているらしい。
 カルカンドに存在する商会の裏で動く邪教団、そして未知のアルカナ。ササメに協力を求められるミラ達。まさか、潜入のためにこんな格好をさせられるなんて……。拒否をすれば《オンスロート》により消し炭にされるのは目に見えているため、君達に拒否権は無かった。
 そして――、
 光と闇が運命の力を奪わんと密かに忍び寄り始めていた。
 アリアンロッド・アルカナ第六話『アルカナメイド隊・前編』
 羞恥心が君を待つ!


登場人物

PC



PC関係者

  • ササメ・ユウナギ(エルダナーン、女性、 検閲により削除 )
 シユウの知らせで影の二十二神将(シャドウ・アルカナ)の捜査に来た敏腕メイド長。
 情報収集と、ペルラ商会への潜入を一行へと依頼する。 絶対に怒らせてはならない人。
 OPフェイズにおいて、チンピラの股間を思い切り蹴り上げるというとんでもないことをやらかした。

  • シユウ・セイエン(ヒューリン、男性、27歳)
 みんな大好き 変態 秀才錬金術師。残念なイケメン筆頭。
 巨大ロボを何者かに壊されて嘆いていたり、空気を読まずにぷちいずもたんに連絡しようとしたりと平常運転。
 ただ、ヴェレーナの名を聞いた途端にシビアになるなど、色々と重いものを抱えているらしい。

  • イズモ・ソ=バー(エクスマキナ、女性、稼働7年)
 シユウのサポートを行っているエクスマキナ。そば派。
 今日も元気に《ラッシュ》をぶちこんでいる。うどんは許しマセン。

  • グレイ(ドゥアン(天翼族)、男性、年齢不詳)
 今回は出番はほとんどなし。OPにて、アレックスに事務仕事を依頼する。
 何やら、義理の妹であるリーゼロッテの容体が良くならないらしい。

  • エメラル=アルジュ(ヒューリン、女性、)
 アレックスの妹で、家事能力全般に優れる。兄さんのために頑張りたい、と神殿に通っている。
 《プロテクション》2と《ジョイフルジョイフル》を覚えたようだ。

  • ヴォルト・ウェーバー(ヒューリン、男性、)
 ルクスの父。同業者の間では有名な、凄腕のグラディエーター。
 『剛毅』のアルカナをルクスへと託し、再び何処かへと旅立ってしまった。CVイメージはスネーク。

  • ダイチ・ケルヴィン(ヒューリン、男性、22歳)
 アレックスがかつて所属していた暗殺組織の同僚。昔から影が薄く、空気のような存在。
 全裸で走りだしたり、実は身分が高いといったりするようなことはない。 メイジ/レンジャー

カルカンド

  • アビド・ペルラ(ヒューリン、男性、85歳)
 ディアマンテ商会のライバル組織、ペルラ商会の会長。
 ボケ老人だったが、ヴェレーナによって『コイン4』の力を与えられ、一時的にムキムキに。

  • マイケル(ケルベロス、オス、4歳)
 ペルラ商会に放し飼いになっているケルベロス。向かって左からマイケル1、2、3。
 好きな食べ物はシーチキン。嫌いな食べ物はドッグフード。

  • ボブ(ケルベロス、オス、3歳)
 ペルラ商会に放し飼いになっているケルベロス。向かって左からボブα、β、γ。
 好きな食べ物はコンビーフ。嫌いな食べ物はドッグフード。

  • シェラザード(ヒューリン、女性、16歳)
 カルカンドにて、砂嵐(ハムシーン)メンバーの同人誌を売っていた。
 ミラにグレイ×アレックスのやおい本を売りつける。将来が不安である。

  • ヒアー・スピリア(フィルボル、女性、22歳)
 ディアスロンドからこっそりと買い物に来ていたフィールの姉。フィールと会うことはなかった。
 シェラザードが売っていた同人誌を全巻、保存用、観賞用、布教用と3冊ずつ購入。残念な美人。

  • クシャノ(エルダナーン、男性、37歳)
 カルカンドに滞在中の吟遊詩人。格安でルクスに情報を提供した。
 七色の声の持ち主で、バラードからロックまで何でも歌える。

  • カリーン(フィルボル、女性、34歳)
 公式NPC。蒼い砂漠亭の女将。ルクスに情報を提供するも、対価はしっかりと要求。
 一度失敗して再びチャンスを与えるも、再チャレンジ料をしっかりと貰っていった。

  • ベルターザ(ドゥアン(天翼族)、男性、27歳)
 公式NPC。ベルターザキャラバン隊長。アレックスとは少しばかり面識があった。
 アレックスの実力を認めて、情報を提供してくれた。それなりにイケメン。

  • モハメド(ヒューリン、男性、50歳)
 絨毯に胡坐をかいて空中浮遊している、遊牧地の責任者。ラクダの制限重量を増やしてくれるいい人。
 火をつけると走り出すネズミ型爆弾を売っているなんてことはない。

別行動リア充組

  こいつらを放っておくとR15くらいに進展しそうなんだけどどうしよう
  • レイシャ(ヴァーナ(兎族)、女性、16歳)
 相変わらずのクーデレ担当。アステールとの仲はかなり進展したが、野外でのキスには抵抗がある模様。
 マスターシーンにおいて、咄嗟にアステールへの攻撃を察知して彼を突き飛ばす。でも、半分は恥じらいから。

  • アステール(ヒューリン、男性、20歳)
 レイシャに対していきなりディープキスをするなど、積極的過ぎるところがある熱血水使い。
 何気にレイシャと共にマイナーアルカナを8体(シナリオ終了時にさらに2体)倒している実力者。

敵対者

  • ヴェレーナ(???、女性、年齢不詳)
 邪教団を統べる謎多き女性。『女帝』を司るアルカナのようだが、詳細は不明。
 ペルラ商会に取り入り、マイナーアルカナの性能を試すために会長を利用していた。
 かつてシユウの師匠を殺したことがある。また、毒の使い手のようだが……?

  • ラスヴェート(ヒューリン、男性、28歳)
 『太陽』のアルカナを司る男性。一時期暗殺組織に身を置いており、アレックスにグレイの暗殺を命令した張本人。
 現在はヴェレーナ率いる邪教団に身を置いている。ロリコン疑惑あり。CVイメージは某ネクロマンサー。

  • クリュエ(エルダナーン、女性、年齢不詳)
 『月』のアルカナを司る少女。ミラに対して、「アルカナの力に身を委ねた方が楽」と誘惑しようとする。
 闇系統の魔術の使い手。膨大な魔力の持ち主だが、それによって身体を蝕まれている。
 本当に嫌な奴というより、純粋すぎてエグいタイプ。

セッションまとめ

OPENING PHASE 1

 アレックスはグレイに命じられ、書類整理の仕事にあたっていた。そこで、彼はアルカナに関する資料を目にする。
 未だアルカナについて解らないことが多い。今後の役に立つかもしれないと考えて目を通すのだが――
「さっぱりわからん。なんだこれは」
 現代語によって書かれているそれは、非常に難解なものであった。
「気にしなくていい。何れ解る時が来る」
 グレイは別の書類に目を通しつつ、淡々と答える。
 まだ知らなくていい。それがアレックスへの答えだった。
 それについて知った時、
「それより、リーゼの調子が良くならない。どうしたものか……」
 話題を変えるために、義理の妹のことを口にするグレイ。
 どうやらただの風邪ではないらしい。
「この前汗を掻いていて着替えるようにいったら、「お兄ちゃんの変態」と言われたんだ。まったく、何処でそのような言葉を覚えてくるのだろうか。アレックス、俺の教育は間違っていたのだろうか」
 アレックスは一人悩むグレイを余所に、家で帰りを待つ妹――エメラルのことを想うのだった。

● ● ●

 家ではエメラルが兄の帰りを待っていた。
「お帰りなさい、兄さん。すぐにお茶を淹れるわ」
 いつものように、慣れた手つきでお茶を淹れるエメラル。
「私も兄さんの力になりたいけど、まだ未熟だから……」
「いや、お前は無理をしなくていいんだ」
「ええ。毎日神殿に通ってるけど、まだ 《プロテクションSL2》《ジョイフルジョイフル》 しか使えないから」
※アコライト/バードLv1設定
「…………」
 何気ない雑談をしながら、エメラルは夢の中でアレックスが誰かに出会っていたことを告げる。
「何だか不安だけど、兄さんなら大丈夫よね」
 お気に入りのティーッカップなどが割れるなど不吉なことが起こるが、アレックスは大丈夫大丈夫と輝かしい笑顔をエメラルへと見せた。
 自分が事件へと巻き込まれていくことも知らずに――

OPENING PHASE 2

 ミラは夢を見ていた。
 黒一色に染まった世界で、自分を呼ぶ何者かの声を聞く。
「私の声が聞こえますか?」
 消え入りそうな声とともに、ミラの前に一人の女性の姿が現れる。
 その姿はミラと何処となく似ていた。若干大人びて見える彼女は、まるでミラの数年後の姿を現しているかのようであった。 まあ、バストのサイズは違ったのだが
「貴女が今の《運命の輪》のアルカナの持ち主なのですね……。お願い。あの人を……止めて……」
「あなたは一体?」
 自分と良く似た姿の存在に尋ねようとするミラ。
 しかし、ミラが問いかけた途端に女性の姿が乱れ始める。
「もう……時間切れのようです……。気をつけて。貴女を狙う何者かが……」
 そう言いかけたところで、女性の姿が消滅する。
 アルカナ捜索の旅を始めてから様々なことがあったが、今回の夢は初めて見るものであった。
 今のは一体何だったのだろうか。彼女は何を伝えようとしていたのだろうか。

OPENING PHASE 3

 黄金の街カルカンド。
 キルディア共和国南部、無限の砂漠とエリン山脈の間に位置するこの街は、交易都市として栄えている。
 人の出入りが激しい街で、その分情報も集めやすい。意外な人物との出会いも有り得るだろう。しかし、それは同時に治安も良くないということでもある。
 通りを歩いていると、一人のエルダナーンの女性がガラの悪い男達に囲まれていた。深淵の闇を連想させるかのような美しくも何処か妖しげな黒髪は真っ直ぐと切り揃えられている、いわゆるぱっつん髪だ。
 その身に纏っているのは、ロング丈のワンピースにフリルの施されたエプロン、そしてヘッドドレス。所謂メイドさんの格好である。そして、メイド服の上からでもその確固たる存在感を放つ双つの大きな果実。顔立ちの可愛らしさと身体の色っぽさ、そして服装と、男達が襲うのも無理はない。
「あらあら、困りましたね。私は急いでるのに……」
 ニコニコと微笑みながら、チンピラ達を見渡すメイド。
 そこに、アルカナフォース一行が出くわす。
「あ、ササメさん!」
 チンピラにからまれているメイドの姿を見るや否や、声をあげるフィール。
 そう。絡まれているメイドはフィールの上司で恩人でもあった。
 そして、チンピラ達のこの後の運命を哀れに思うのだった。
「あのお嬢さんが絡まれてる。早く助けないと!」
 何も知らないアレックスは咄嗟にササメを救うために駆け出そうとする。
「良いのよ、あの人強いから放っておいても」

 そして、惨劇は起きた。

 それは一瞬の出来事であった。ササメは男の隙を突くと、渾身の力を込めて男の股間を蹴りあげた。ゴギン、と身の毛もよだつ様な音が鳴る。とても女性から放たれたとは思えない、鋭い蹴りだ。男は絶叫すら上げずに、口から泡を吐きながら地面に倒れ伏した。その後、何度か身体をビクビクと痙攣させた後、動かなくなった。その場にいた男性陣が思わず股間を押さえたのは言うまでもない。
 駆け出そうとしたアレックスは茫然とその様子を見るしかなく、他のチンピラ達も暫く動くことはできなかった。ちなみに、チンピラ達は数秒後、壁や地面に頭からめり込むこととなった。

OPENING PHASE 4

『ディアマンテ商会カルカンド本店』――
 やはりというか、なんというか。商会の中は悪趣味なものばかりであった。
 動くマッスルームの像や、契約を求めてくるカーバンクルなどが蠢いている廊下を進んでいく一行。
 客間へと辿り着くと、早速ササメさんはアルカナについての話を始める。
「アルカナの気配なんだけど、何やらこの町にいくらか数がみられるみたいなの。恐らくは、邪教団がからんでいるわ。困ったものね~」
 にこやかな笑みを浮かべながらも、真面目に話すササメ。この時点で既に一行は嫌な予感を覚えていた。
「あの変態……こほん、じゃなくて秀才錬金術師のシユウ君からの情報よ」
「なんであんたがシユウの奴を知ってるんだ?」
 と、疑問を口にするルクス。
「ちょっと散歩がてら会いに行っただけよ。う~ん、でももう少し手ごたえのあるゴーレムを相手にしたかったわ」
「シユウってのは一体どんな奴なんだ?」
 話だけを聞いており、会ったことは無いアレックスは、変態錬金術師についてミラ達に尋ねる。
「ああ、良い人なんだけど……」
「あいつモノ食べる時キモいのよ!」
「だまってりゃいいんだがな」
「そばは殺すド~ン」
 率直な感想を漏らすミラ達。今までの経験上、無理もない。
 その時、うどんの中に『ぷちいずもたん』に連絡が入る。
「お、繋がった繋がった。おいおい聞いてくれよおおおおおおお! 俺が華麗なる半生をかけて作り上げた巨大ロボ『ぎがんてぃっくいずもちゃん・いーえっくす』が木っ端微塵にされちまったんだ。一体誰がこんなことを……おーいおいおいおいおい」
 聞こえてきたのはこの世の終わりと言わんばかりのシユウの絶叫であった。
 ちなみに、彼の『ぎがんてぃっくいずもちゃん・いーえっくす』を破壊したのはササメさんである。
 そして、聞いてもいないのに『ぷちいずもたん』越しにシユウが突然語り始める。
「よくぞ聞いてくれたッ! 『ぎがんてぃっくいずもちゃん・いーえっくす』とはッ! その可愛らしいボディを本人に似せて忠実に作り上げた巨大ロボのことだッ! ――(中略)――というわけだッ! それだけではないッ! 下着の色と種類から、スリーサイズの比率まですべて本人と(ry」

 この後、『ぷちいずもたん』から物凄い轟音と悲鳴が聞こえてきたのは言うまでもない。


OPENING PHASE 5

 暫くの間別行動を取ることとなった、アステールとレイシャ。二人は死人の沼地での戦いを終えて、一度街へと戻ろうとしていたところだ。
 アステールの手には、8枚のカードがあった。そこにはそれぞれ『ワンド2』『ワンド3』『ソード2』『ソード3』『カップ2』『カップ3』『コイン2』『コイン3』と記されている。
「あいつらと別行動になった途端、コレか。一体どうなってるんだ、アルカナってのは」
 見たこともない、自分達の持っているアルカナとは別の何かを見て疑問を口にする水使い。
「そうね。本来なら二十二しかない筈なのに」
 冷静そうに振舞っているレイシャだが、アステールは彼女が怯えていることを見逃さなかった。
「怖いのか?」
「別に私は……」
「強がるなよ。お前はいつもそうやって抱え込もうとする」
 そっと、アステールはレイシャの背中に手を回す。
「オレは怖いさ……」
「ちょっ、こんなところで――」
 全てを言い切る前に、アステールはレイシャの身体をギュッと抱き寄せる。
 そして、彼は彼女の顎を指で持ち上げ――

(諸事情により中略)

(なんでこんな時に……。嫌な気分ね)
 唇を合わせていたのは、時間にしたらほんの十数秒のことであった。
 レイシャはすぐに異変を察知し、口づけに夢中なアステールを突き飛ばした。
「おわ、いくら恥ずかしいからって突き飛ばすことねえだろ!?」
「莫迦ね。私が突き飛ばしていなかったら……」
 刹那、二人が立っていた場所にいくつもの矢が降り注いだ。
「甘く見られたもんだな。おい、そこにいるのは解ってるんだ。出てきやがれ、不意打ちしかできねえ弱虫野郎!」
 そう言うと、アステールは辺りに溶け込んでいた何者かの姿を一瞬にして捕らえた。
 姿を現したのは黒いフードに身を包んだ、正体不明の人影だ。
「気を付けて。今まで斃してきた相手より、幾段か強いわ」
「大丈夫大丈夫。オレ達の手にかかれば、どんな敵だって怖くないさ」
 ニヤリ、と笑みを浮かべていつでも詠唱に移れるようにアステールは杖を構える。
「おい、あんたらは何なんだ? アルカナの何かを知っているのか?」
 アステールの答えに、黒フードは無言。代わりに、持っていたクロスボウを二人へと向けてきた。
「やれやれ。お楽しみは宿に帰ってからだな」
「莫迦言ってないでやるわよ」

 勝負がつくのに然程時間はかからなかった。
 吹き荒れる氷の嵐と、降り注ぐ矢の雨。
『ソード6』のカードを残して、黒フードは絶命した。


MIDDLE PHASE 1

 手始めにアルカナの情報を集めることとなったミラ達。
 だが、何をすればいいのか解らない。そう悩んでいると、『運命の輪』のカードが淡く光だし、ミラへと語りかけてきた。声こそ発していないものの、それは先日、夢で謎の女性と出会った時と同じような感覚を覚える。
 それは曖昧なものであったが、確かな標でもあった。他に頼るものもないため、ミラ達はアルカナの導きに従い、それぞれが向かうべき場所へと赴いた。

MIDDLE PHASE 2

 ルクスが向かったのは、『蒼い砂漠亭』という、冒険者や隊商の者たちが集う酒場だ。
 中に足を踏み入れると、店の中は饐えたような臭気と喧騒に満ちていた。
 そんな中、ルクスは一人の大男を目にする。恐らくは剣闘士(グラディエーター)だろう。身の丈ほどある巨大な剣と、背中をすっぽりと覆うほどの盾を装備しているが、鎧の類は装備していない。日焼けした褐色の肌に、筋骨隆々とした肉体。そこにはいくつもの古傷が刻まれている。
 ルクスはこの男を知っていた。
 いや、忘れるはずもない。
 自分を置いて、ふらふらと旅立っていった父親のことを忘れるはずがあろうか。
 ヴォルト・ウェーバー。それが、この男の名だ。
「よお、ルクス! ハッハッハ、随分とでかくなったじゃあないか!」
 ルクスに気付くや否や、ヴォルトは豪快に笑い飛ばす。
「何処ほっつき歩いてたんだよ!」
 ルクスは再会を惜しもうとはせず、そのままヴォルトのもとへと歩み寄ると、渾身の力を込めて彼に拳を振り上げた。ヴォルトは避けようとはせずに、ルクスの拳を甘んじて受ける。しかし、まるで痛がっている様子はなく、むしろ息子が成長したことを嬉しく思っているようで、満足そうな笑みを浮かべていた。
「ハッハッハ、なかなか強くなったな! だが、その程度じゃまだまだ俺に傷をつけることはできないなあ!」
 ヴォルトもまた、アルカナを所持する者のうちの一人であった。カルカンドには他のアルカナを探るべく、たまたま立ち寄ったのだという。ヴォルトはルクスに対し、アルカナにはあまり関わらないように忠告する。しかし、彼自身もルクスが忠告には従うとは思っておらず、覚悟を決めているかどうかを確認するためのものであった。
「あんたがどう言おうと、俺はやめる気はない」
「そうか。ま、親としては愛する息子には平凡な生を望んでいるんだがなあ! ハッハッハ――」
 本当にこの親父は心配してんのか? そんな疑問を抱いているルクスに、ヴォルトは一枚のカードを差し出す。
「なんだこれは」
「持っていくか持っていかないか、それはお前次第だ。持って行かなくとも俺はお前を責めたりはしない」
 カードにはライオンを手なずける獣使いの女性の姿が描かれている。そして、刻まれているのは『11』と『STRENGTH』という文字だ。それが示しているのは、アルカナのうちのひとつ、『剛毅』である。『剛毅』が司るものは、純粋な力の他、独立、信念といったものがある。それはルクスにも当て嵌まるのではないか。ヴォルトはそう言った。ルクスは突き返そうとするが、今後の旅がより厳しくなることを考えて、それを受け取る。
「いいか、『剛毅』には無謀や過信といった意味もある。アルカナの力には決して溺れるな」
 「アルカナの力に溺れるな」――その言葉は、グレイがミラに言ったものと同じことであった。
 一体、アルカナとは何なのか――


 父親と暫く駄弁った後、ルクスは邪教団の情報を集めるために店主のカリーンを訪ねる。
 やはりタダと言うワケにはいかない。対価として、豪快な飲みっぷりを見せてみろというカリーン。
「望むところだ」
 しかし、アルカナのことについて悩んでいたのか、それともチンピラ達をのした直後で疲れていたのか、失敗してしまうルクス。それでも、何とか高い対価を払って再チャレンジし、邪教団についての情報を得ることに成功する。


MIDDLE PHASE 3

 ミラが向かったのは、キャラバン広場だ。
 幾頭ものラクダや馬が並び、多くの冒険者達でごった返している中、ミラは一人のエルダナーンの少女を見つける。
 一言で表せば美少女だ。フリルが施されたピンク色のドレスに、同じくフリルが施されたピンクの日傘。右手にはウサギのぬいぐるみが抱かれている。まるで、御伽噺の令嬢が飛び出てきたかのような出で立ちで、その姿は周囲から浮いている。少女はミラをちらりと見ると、可愛らしい笑みを見せて路地裏の方へと歩いていった。
 ミラは手を振って送ろうとするも、内に眠る何かが自身を路地裏の方へと誘い始める。
 気がつくと、ミラは露地裏へと足を踏み入れていた。先程までの喧騒が嘘のように消えており、周囲は不気味なまでの静けさに満ちていた。人の姿は見受けられず、そこには野良猫が数匹うろついているだけだ。そこには、野良猫に餌をやっている甘ロリ少女の姿があった。
「こんにちは♪」
 にぱーっと明るい笑顔を見せてお辞儀をする美少女。その反動で、プラチナブロンドの髪がふわりと揺れる。
「ねえねえ、おねえさんってアルカナの一人なんでしょ♪ クリュエも持ってるんだ♪」
 突然、アルカナについての話題を出す少女。
 この子は一体何者なのか。少なくとも、信用に値する相手ではない。ミラの中の何かがそう告げる。
「あなたは?」
「ごめんなさいまだ名乗って無かった。クリュエはね、クリュエって言うの。よろしくね♪」
「私はミラ。よろしくね」
 それでも平静を保っている辺りが、ミラらしいといったところか。
「ねえ、もしかしてさぁ、グレイって人と何か関係があったりしない? まあ、どっちでもいいけどさ。アルカナの力に溺れるなって考え、バカバカしいと思わない? どうせなら、そのまま身を委ねちゃった方が色々と気持ちが良いかもしれないよ♪」
「駄目よ。アルカナは危険なモノだって解らないの?」
 ミラは今までの旅で、何度かアルカナの力に救われてきた。
 しかし、それの危険性については、グレイから忠告されてきた。
 年端もいかない少女を危険にさらすわけにはいかないと思い、ミラはクリュエへと言うが――
「あはは、おねえさん面白いね。クリュエはね、アルカナ無しでもこんなスゴイ魔法を使えるんだ♪」
 そう言うと、クリュエは可愛らしい笑顔を見せて詠唱を始めた。彼女を中心に風が渦巻き始め、そこにいた野良猫たちは思わず全身の毛を逆立て始める。
 彼女が何をしようとしているのか、すぐにミラは気付いた。
 このままではまずい。そう判断し、すぐさまクリュエの詠唱の妨害に入る。
「ぷー! 邪魔しないでよぉ」
「なんでこんなことするの? 猫が可哀想じゃない」
 クリュエが野良猫に向けて魔術を唱えようとしていたのだ。か弱い野良猫の命など一瞬で奪ってしまうほどのものだ。止めに入るのは、当然のことであった。たとえそれがミラでなくても、そのような行動に入っていただろう。
 だが――
「なんで? なんで猫を殺しちゃいけないの? おねえさんだって、今まで色々と殺してきたんでしょ? 魔物だって、人間だって。それと同じことをしようとしていただけだよ」
 クスクスと笑いながら問いかけるクリュエ。
 その問いは至極単純で難解なものだ。純粋な、穢れを知らない子供が抱く疑問は、しばしば年長者を唸らせる。
「それは……」
「クスクス、まあいいわ。次に遭う時が楽しみ♪ うふふ、いつまでアルカナの衝動に抗えるのかな」

 少女が去った後、ミラの内に沸き上がる感情があった。それは内に眠るもうひとつの人格とは異なる、よりおぞましいものだ。
『コワシタイ。ウバイタイ。クライタイ。コロシタイ――』
「っ……!」


 湧き上がる感情を抑えつけた後、ミラは路地裏から広場へと戻った。
 すると、見知った顔――というより、『砂嵐』の同僚シェラザードが、何やら大量の本を売っているのを見かける。
「あら、ミラじゃない! ねえねえ、この新作買ってってよ! 私が半生をかけて――(中略)――あーんなことやこーんなことも――(中略)――『いいのか、俺で?』『あなたじゃなきゃ駄目なんだ!』――(中略)――ああん、もう妄想しただけで鼻血が――(中略)――というわけよ!」
 ちなみに、売っている本の表紙には、オアシスの中央で白と黒の翼を持つオルニスの男が赤髪のヒューリンの青年にキスをしている、しかもお互い上半身裸という、一部の人間が見たら暴走しそうな絵が描かれている。どちらも非常に身近なところでみたような人物だった。
(まさかとは思うけどね)
 買ったら情報をくれるというので、仕方なく本を手に取るミラ。
 ウチの自警団は大丈夫かしら。そう思いつつ、本を捲りながら広場を後にした。

 ミラが去った後、一人の金髪のフィルボルの少女――ヒアーがこそこそと現れる。
「こ、これは! 私が今までずっと探していた作品ですわ!」
「解る!? 凄いでしょう!!」
「買いよ! あなた達の作品すべて、3冊ずつすべて頂戴!!」
 この後、ヒアーとシェラザードはカップリング談義を始めた。
 彼女達の半径3メートルは、何故か普通の人が寄りつかなかったという。

MIDDLE PHASE 4

 アレックスはベルターザ・キャラバンへと向かった。
 施設に足を踏み入れると、何やら見たことのあるような無いような、そんな微妙な雰囲気の男を見つける。健康的な褐色の肌に夏の空を思わせるかのような爽やかな水色の髪。特徴的な外見ではあるが、どういうわけか周りにすぐに溶け込んでしまう空気のような男だ。背中には大型の弓を背負っており、それが何とか存在感を維持している。
「誰だっけ、あいつ」
 見たことはある。しかし、誰だろうあの空気は。
「おや、アレックスではないか。久しいな」
 相手はアレックスに気付いたようで、声をかけてくる。
「お、おう。久しぶり!(マジで誰だっけなコイツ)」
「はっはっは、変わってないな。まさか、私のことを忘れたワケではないだろうな」
「いやー、そんなはずないさ。ほら、アレだろアレ」
「そうだ、ダイチ・ケルヴィンだ。いやはや、まさかこんなところで再会するとは」
 ダイチはアレックスが暗殺組織に所属していた時の同僚だ。その時も空気みたいな奴で、いつのまにかいなくなってるようなタイプの奴だったことを思い出す。
 組織が壊滅してから離れ離れになっていたが、今はフリーの傭兵として旅をしているのだという。アレックスがグレイのもとについてから、ダイチもまたすぐに組織を抜けだしたのだという。空気みたいな存在のため、誰も気にしなかったのは間違いないだろう。
 世間話をする中、ダイチはある男の名前を口にする。ラスヴェートと言う男だ。アレックスはその名を忘れるはずがなかった。ふと組織に現れて、自分にグレイの暗殺を命じた胡散臭い神官だ。また、邪教団がカルカンド内で何かしら動いているという情報も再度確認することが出来た。

 ダイチに『砂嵐』を紹介した後、アレックスはベルターザのもとへと向かった。
「おや、君は『砂嵐』の者か。いつも世話になっているな」
 親しい間柄ではないが、何度か仕事で彼らに協力したことがあった。
 カルカンド内で怪しい動きが無かったか尋ねるも、やはり部外者に商会などの情報を漏らすわけにはいかないという。しかし、実力があるならば教えても良いということで、ベルターザはアレックスに技を見せるように求める。
 アレックスはこれを難なく成功させて、情報を得ることに成功した。

MIDDLE PHASE 5

 サヌキはディアマンテ商会内で見回りをしていた。
 警備がザルな商会の中の見回りである。歩いていると、不審者を見つける。
 そいつを捕まえれば、何かしら情報を得られるだろう。そう思い不審者を追うも、残念ながら逃げられてしまう。

MIDDLE PHASE 6

 アルカナの導きによると、遊牧地にはたいしたものはなかった。それは事実のようで、特に邪教団に関わるような情報を持っている者は見当たらない。
 絨毯に乗って空中浮遊をする怪しい老人によると、ラクダを連れてくればより荷物を持てるようにしてくれるという。
 それ以外に目ぼしい情報はないかと、フィールは傍らにあった店へと入る。

「チィーッス! ラッシャッセー!(訳:こんにちは! いらっしゃいませ!)」
「何かないの?」
「ッチラノホーイカーッスカ!(訳:こちらの方はいかがですか)」
「ショーモヒントリャツカテャス!(訳:消耗品を取り扱っております)」
「トーテンデャ、ゼンショーヒジパーセンオフッナッチェリマス!(訳:当店では、全商品10%OFFとなっております)」
 こいつら舌どうなってんのよと思うフィール。
「接客態度悪いわね!」
「サーセン!(訳:すみません)」
 特に何も買わずにフィールは店を後にした。
「アリャリャッシター!(訳:ありがとうございました!)」

MIDDLE PHASE 7

 ルクスは再び酒場へと向かった。先程まで飲んでいたはずの父親ヴォルトの姿はなかった。
 あの放蕩親父が……。そう思いながら、ルクスは情報を集めることにする。彼が目にしたのは、一人の吟遊詩人だ。
 吟遊詩人は、同性でも見惚れてしまうような、エルダナーンの美青年だ。凄腕の職人でさえ作り出すことが出来ないような、飴細工のような美麗な金髪。眼鏡越しに見える双眸は、オアシスの如く澄んだ青色をしている。
「何か御用ですか? 私は旅の吟遊詩人、クシャノと申します」
 まるで心の奥に響き渡るかのような、優しい声。
 旅をしてきただけあって、クシャノは多くの情報を持っていた。

MIDDLE PHASE 8

 ミラとアレックスは、治安が悪いという中央市場へと向かった。
 アルカナの示した情報の通り、その場所は他とは異なり、何処か物々しい雰囲気に包まれていた。
 そんな中、ミラは先程購入した同人誌をアレックスに見せつける。
「そう言えばさっき、こんなの見つけたのよ~」
 にこにことしながら、アレな本をアレックスに渡すミラ。
「…………」
 そこに描かれていたのは、あられもない姿にされてしまっているアレックスの姿であった。しかも、どういうわけなのか見覚えのある人物――自分の恩人であるグレイと絡んでいる。色々な意味で。
 アレックスはすぐに本を投げ捨てた。

 投げ捨てた本は、辺りを徘徊していたチンピラへと直撃した。
「いってぇ!? なんだこの本はぁ!? お前か、お前が投げたのか!」
「おいてめー、喧嘩売ってんのかコラァ!」
「こいつら二人ですぜ! 楽勝ですよリーダー」
 それなりの場数を踏んできたため、たいした敵ではない。
 だが、数が多かったために、戦闘は想像以上に苦しいものとなった。
「おい、カルカンドのチンピラ強くないか!?」
「皆がいれば楽勝なんだけど」
 じりじりと体力を削られていく二人。
 それでも何とか、チンピラ達を撃破することに成功する。
 何やら彼らも邪教団と通じており、密かに暗躍しているようだ。

MIDDLE PHASE 9

 ミラとアレックスが奮闘している間、サヌキはスパゲッティミートソースちゃんを連れて遊牧地へと向かった。
「やあ、君。素晴らしいラクダを連れているね」
 絨毯の上で胡坐をかいて空中浮遊をしている中年男性が声をかける。
「暫くの間ラクダを預けてみないかね? 荷物をたくさん持てるようにしてあげよう」
「お願いするドーン」

MIDDLE PHASE 10

 ある意味、ここがアルカナフォースの者にとって一番つらい場所だったのかもしれない。
 ササメは笑顔を浮かべながら、フィールに資料室の掃除を求めてくる。
「うふふ、フィール。資料室の掃除をしてくれないかしら?」
 当然、拒否権はない。
 この人の怖さは自分が一番よく解っているつもりだ。
 湧き上がる恐怖に押し潰されそうになりながらも、フィールは何とか資料室の掃除を終える。
「終わりました、ササメさん!」
「…………」
 無言のまま棚やサッシに指を這わせるササメ。
 その姿はメイド長と言うよりも、嫁をいびらんとする姑そのものであった。
 勿論、そんなことを口にしてはいけない。
「見事ねぇ、流石私のフィールだわ」
 合格を貰って、フィールは胸をなでおろした。

MIDDLE PHASE 11

 無事に情報収集に成功したミラ達。
 情報を整理した結果、邪教団がディアマンテ商会のライバル組織であるペルラ商会と怪しげな取引をしていることが解る。元々はディアマンテ商会と同じく骨董品などを取り扱っていたのだが、何でも最近、黒フードをかぶった怪しい女性が会長に取り入ったのだという。
 正面から乗り込んでも良いが、あまり無駄な血を流すのも好ましくない。そのため、裏口からこっそりと潜入することになった。そして、より詳細な情報――アルカナに関するものを屋敷内で集めることとなった。
「勿論、そのままの格好で入るわけにはいかないわ。そこで、あなたたちにはこの服を着て貰います」
 渡されたのは、ロング丈のワンピースにフリルのエプロンがかけられた――俗に言うメイド服だ。情報収集をしている間に、ササメさんが仕立てたのだという。
 まさか――
「新入りの使用人に扮して、内部での調査を行うのよ。ただし、あまり目立つ行動はしない方がいいわね~。あ、ヘマもやらかさないようにね。ああ見えてあそこの使用人達ってレベルが高いから、バレるわ」
 ルクスの嫌な予感は的中した。
「な、なあササメさん。その、執事服とかって無いのか?」
「無いわ。あそこは女性の使用人しかいないから」
「でも、やっぱり恥ずk」
「着なさい」
「他にもt」
「拒否権はありません」
 笑顔の奥で渦巻くどす黒い波動に押されて、ルクスはしぶしぶとメイド服に腕を通すこととなった。
(はあ、アレックスも大変なんだろうなぁ)
 同じく男性であるアレックスも、恥ずかしい思いをしているだろう。
 ルクスは彼の方に視線を向けるが――
「なあ、化粧とかないか?」
 アレックスはノリノリでメイド服を着ていた。

 斯くして、アルカナメイド隊が結成されたのである。

MIDDLE PHASE 12

 内部へと潜入すると、何やら周りのメイド達が疑うような視線をミラ達へと向けてくる。
「あら、あなた達見掛けない顔ね。此処はペルラ商会本店のお屋敷よ」
「わ、私達最近配属されたばかりなんです」
 怪しまれつつも、何とかやり過ごしていく。何故か、うどんは怪しまれなかった。
 ケルベロスに気付かれそうになったり、無茶な仕事を手伝わされたりするも、しっかりと準備をしていたミラ達にとって屋敷内での情報収集は容易いものであった。もし、正面から突破していた場合は、アルカナに関する情報は一切得られないどころか、屋敷内のメイド達と刃を交えることとなっていた。しかし、それを避けることが出来たため、有力な情報を次々と得ていくことに成功した。
 まず、影の二十二神将とは別に、『マイナーアルカナ』と呼ばれているモノ達が存在すること。メイド達と話していた邪教団の話によると、二十二人の中でも特に強い力を持った者が、他者に力を分け与えることで、その者に一時的に力が備わるのだという。その話と関連するのだが、屋敷を守るゴーレムも強化され、ボケていた会長が最近になって妙に元気になって戦えるようになったのだという。
 次に、アルカナの本能についてだ。アルカナに選ばれた者には、「他のアルカナと奪い合いたい、殺し合いたい」といったものが潜在意識として備わるのだという。これは、ミラがクリュエと名乗った少女が言っていたモノと繋がる。此処で、アルカナの危険性を再認識することとなった。
 そして、会長に取り入ったという怪しい女性の情報だ。その者は一行が予想した通り、ヴェレーナであった。いつかは倒さなければならない相手のため、彼女に関する情報を得られたのは大きいと言えよう。ヴェレーナは強力な毒の使い手であり、それで多くの者を葬ってきた過去があるという。また、邪教団を用いて、望む者に『マイナーアルカナ』を発現させているらしい。

 得ることが出来た情報は実に充実したものであった。恥ずかしい思いをしただけの甲斐はあったと言えよう。


MIDDLE PHASE 13

「どうやらあまり上手く進んでいないようですね。不本意ですが、これも私の目的のため」
「ねえねえ、早く行こうよ。クリュエ退屈なの。いっぱい、いっぱい暴れたいな」
「申し訳ありません、お嬢様。ですが、もうすぐあなたの望みも叶えられましょう……」


CLIMAX PHASE 1

 会長室に入ると、そこには一人の初老の男性と黒いフードをかぶった女の姿があった。
 一人はペルラ商会の会長だ。
 そして、もう一人。こちらはフードを被っているとはいえ、忘れるはずもない女だ。その声から、ミラ達は彼女がヴェレーナであるということに気付く。
「あら、今は大事なお話の最中よ」
「あなたの企みはそこまでよ!」
 計画は完璧の筈だった。自分の玩具となる信者を増やし、殺し合う様を見る。そういった目的もあったのに、すべてが崩れ去ったのだ。それでも、ヴェレーナは特に取り乱した様子はない。むしろ、これから起こることを楽しもうとしているかのように、うっすらと笑みを浮かべる。
 そう。自分はアルカナ達が殺し合う様子を見られればいい。
「まあ、いいわぁ。私のしもべの丁度いい相手がこうして現れてくれたんですもの。さあ行きなさい『コイン4』! 仮初の力とはいえ、あの子達を蹂躙することは容易いわぁ!」
 自分の力の断片である『マイナーアルカナ』を試せればいい。
 全てが自分の思い通りに、駒として動いて滅んでいく様が見たい。それがヴェレーナの望みでもあった。
 去り際にヴェレーナは叫んだ。
「私に見せてぇぇぇ! 苦痛に歪む顔をぉぉぉ!」


 もっともヴェレーナのこの場での企みは容易く潰えることとなった。
 まず、アルカナの力で強化されていたゴーレムだが、探索中に動力を弱めたために普段の力を発揮できずにいた。機動力を失ったゴーレムはミラ達の敵ではなかった。全方位に強力なビームを放とうとするも、それは空しく空中で霧散して失敗に終わる。また、装甲までは強化されておらず、魔法には滅法弱かった。サヌキが放った石の弾丸と魔力を帯びたルクスの剣により、ゴーレムは轟沈する。
 会長の方もアルカナの力を一時的に得ていたとはいえ、所詮は仮初のものであった。己の肉体を強化し、広範囲にわたって攻撃を行おうとするも、結局はそれも不発に終わる。ミラ達はほとんど傷を負うことなく、仮初のアルカナの力を得た二体の敵を撃破したのだった。


CLIMAX PHASE 2

 おかしい。あまりにもあっけない。
 粉々になったゴーレムと、すっかりボケ老人に戻ってしまい伸びている会長を見て、ミラ達は思った。
 床に落ちている二枚のカード、『コイン4』と『ソード4』。これが、マイナーアルカナと呼ばれるものなのだろうか。
 詮索をしていると、戦闘が終わると、部屋に二人の男女が入ってくる。
 一人はヒューリンの男性だ。一言で言えば美青年だ。眼鏡越しに光る深緑の瞳に、落ち着いたダークブラウンの髪は何処か理知的な雰囲気を醸し出している。細身の身体に纏っている白衣が、それをより助長している。だが、紳士的ないでたちの中に見え隠れするのは、狂気ともとれるような残忍さだ。
 そして、もう一人はエルダナーンの少女だ。ピンクを基調としたロリータファッションに身を包んでおり、まるで人形がそのまま動き出したかのようだ容姿だ。右手には数ヶ所から綿が出てしまっているウサギのぬいぐるみが、耳の部分を鷲掴みにする形で握られている。確かに可愛らしい。だが、そこにあるのは無邪気故の残酷さと言ったところだろうか。
「ねえねえ、ラスヴェート。この人達でいいんだよね?」
「はい、その通りでございますお嬢様」
 ミラは少女に見覚えがあった。当然だ。つい先ほど、遭ったばかりなのだから。
「あ、あなたは……」
「何? ミラ姉さんの知り合い?」
 何故このようなところに、この子がいるのだろう。
 一方、アレックスは男――ラスヴェートと面識があった。
 ラスヴェートは眼鏡を直しながら、アレックスを一瞥する。
「おやおや、あの死神の暗殺に失敗してから姿をくらましていたと思っていましたが」
「グレイの奴には世話になったからな。今更お前のところに戻る気はない」
 この男は、かつてアレックスが所属していた暗殺組織に身を置いていた神官だ。
 なるほど、あの空気みたいな男の情報も宛てになる。
「構いませんよ。あの組織も、私の目的のために利用させて頂いただけのこと。捨て駒に過ぎないのです」
 フッと笑みを浮かべるラスヴェート。
「では、早速本題に入りましょう。貴方達の持っているアルカナをこちらに渡しなさい」
 あまりにも無茶な要求だ。
 何故、アルカナを求めているのだろうか。
「目的ですか? それは全て、私の願いを叶えるため、そしてこのお嬢様のためです。邪教団――ヴェレーナ様に協力しているのも、そのためですからね」
「駄目よ。これは大切なものだから。何処の誰かも知らない人になんて渡せないわ」
 毅然とした態度で反論するミラ。
「よく解らない目的のために動いてる奴らには渡せないな」
 ルクスもまた、剣を構えたまま相手を睨みつける。
「やれやれ、手荒な真似はしたくないのですがね。よろしいのですか? 私はともかくお嬢様の機嫌を損ねると、とんでもないことになりますよ」
 それは脅迫でもあった。しかし、ミラ達はラスヴェートの要求には応じようとしなかった。
「交渉決裂ですか。致し方ありませんね」
「交渉もクソもあるか!!」
「アルカナを一網打尽にして奪えると思いましたが、そう上手くはいきませんか」
 物憂げな表情で眼鏡を直すラスヴェート。
「一網打尽!? まさか、ササメさん……」
「ご安心を。先程彼女に襲撃をかけましたが、想像以上に強い。こちらも命が惜しいのでね、『戦車』を奪えなかったのは不本意ですが、退かせて頂きました」
 どうやら、ササメは無事らしい。
 それが本当かどうかは解らないが、ひとまず胸をなでおろすフィール。
 そして、今まで事のやり取りを見ていたクリュエが、無邪気な笑顔を浮かべながら口を開く。
「ラスヴェートのお話長くてつまんなーい。早く遊ぼうよぉ♪ クリュエ、退屈で仕方が無いの♪」
「これはこれは、申し訳ありませんお嬢様。それでは、お望み通り、この者達を始末致しましょう」


 今まで刃を交えてきた敵とは違う。それは、対峙した時から感じていた。
 そう。彼らもアルカナを司っているのだ。司るのは、『太陽』と『月』――
 過去に戦った『女教皇』と『星』や、『悪魔』、『塔』などとは比べ物にならない程だ。
 まともに戦っては勝てない。だが、勝機はあった。
「では、『太陽』の力をお見せしましょう――」
 ラスヴェートは全力で叩き潰すべくアルカナの力を解放せんとする。しかし、
「させるかよ!」
 これを通すわけにはいかない。通したら、殺される――
 ルクスはすぐさま、自身の持っているアルカナ『剛毅』の力でそれを打ち消す。
 ラスヴェートは不満そうな表情を見せるも、すぐに平静を保ち眼鏡を直す。
「なるほど、『剛毅』ですか。いいでしょう、此処で打ち消されるのも想定内ですからね」
「……強がっていられるのも今のうちだ」
 その間、クリュエは魔術の詠唱をしていた。
 辺りに禍々しい気が満ち始める。やがて、彼女を中心に風が渦巻き、それは徐々にどす黒い色に染まり、強さを増していく。《ルインストーム》という、風と闇の魔力を帯びた滅びの烈風を起こす魔術だ。その場にいる者を滅ぼさんとする程まで風が強まったところで、クリュエは一枚の金貨を空中に投げた。
「させない――!」
 アレはいけない。通したら、マズイ。ミラはすぐさま、クリュエの詠唱の妨害に入った。
 ミラの妨害により、《ルインストーム》は不発となり、残留した魔力の塊があらぬ方向へと拡散、その場に遭った調度品やら窓やらを粉砕していく。傷を受けることはなかったものの、その人間離れした魔力を間近で感じることとなった。
 すぐさまミラ達は反撃に移った。クリュエを攻撃すれば、捨て身の反撃が来るに違いない。そう判断し、呪歌と神聖魔術で支援を行うラスヴェートへと狙いを定める。
「常套手段といったところですか……」
 苦痛に顔をゆがめながらも、ラスヴェートは気丈に振舞った。
「受けてみやがれ……!」
 アルカナの力を解放したルクスが斬りかかったところで、ラスヴェートは不敵な笑みを浮かべる。
「お嬢様」
「はーい♪」
 渾身の力を込めた筈だ。だが、何故だろうか。全身の力が抜けていくかのような感覚に見舞われるルクス。
 ふと、クリュエの方に視線を向けると、彼女が一枚のカードを翳していた。そこには、『THE MOON』と『18』の文字が刻まれている。
 やられたか――
 しかし、そう思ったのもつかの間、
「此処は決めて!」
 ミラはすかさず、『月』のアルカナの力を打ち消した。
 その結果、渾身の一撃がラスヴェートへと炸裂することとなる。
「ぐっ、なかなか……やりますね! ですが、まだまだです」
 倒れない。やはり、彼らは相当な力を持っている。
 まずい。何とかならないだろうか。ミラ達は強い焦りを覚え始める。
 だが――
「っ……、あ、が、あああああぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
 突然、胸を押さえてもがき苦しむクリュエ。
「お嬢様!? お嬢様っ……!?」
(そう言えば……)
 ミラはクリュエと出会った時、クリュエがやや苦しげな表情をしていることを見抜いていた。
 もしかしたら、クリュエはあまり身体が強くないのかもしれない。何とか耐え抜けば――
「まさかこれ程まで浸食されているとは」
 平静を保っていたラスヴェートだが、クリュエが苦しみ出したところで焦り始めていた。

 その後、クリュエが苦しみながら放った魔術を受けて一度は壊滅状態に陥るも、その猛攻を耐え抜いたことが勝機へとつながった。己のあまりにも膨大すぎる魔力に蝕まれていたクリュエは、がくりと膝を突く。
「お嬢様――!!」
「ひっ、あ、苦しいよぉ……」
「くっ、お嬢様……。仕方ありません、不本意ですが、撤退させて頂きます」 
 ラスヴェートは苦しむクリュエを抱えると、その場から転移魔術で去っていった。

ENDIND PHASE 1

 『太陽』と『月』は想像以上の力を持っていた。
 特にクリュエの魔術を受けた者達はその場に立っているのがやっとという有様であった。
 暫くすると、ササメが部屋へと入ってきた。
「よかった、みんな無事みたいね~」
 相変わらずニコニコと微笑んでいるササメだが、少し息が上がっていた。
 彼女も、太陽と月と一戦交えたようだ。
「太陽と月まで動いていたなんて。私もメイド長としてのうのうと暮らしているわけにはいかないかしら」
 無事だったようだが、一度に二人を相手にしたためかかなり消耗しているのは目に見えていた。強がっているとはいえ、立っているのもやっとであろう。
「さて、そろそろ仕事に戻ろうかしら。色々と事後処理も大変だから、詳しい話は――」
 そう言おうとしたところで、ササメの足がふらつき、彼女は床に倒れ伏してしまう。
 ミラ達は思わず彼女のもとへと駆けよる。命に別条はないが、相当の力を使い果たしていたのだ。暫くは安静にしていた方が良いだろう。アレックスはボロボロの身体に鞭打ち、ササメを抱きかかえる。
「ひとまず、ディアマンテ商会に戻ろう」

ENDIND PHASE 2

 カルカンドの街を暗躍していたアルカナ達の陰謀は、一先ず落ち着いた。ペルラ商会内でのゴタゴタは、何とか公になることはなかったようだ。邪教団も撤退したようで、これからはまっとうな商売をやっていけるらしい。
「なるほどな、『太陽』と『月』か。妙にデカい反応が出ていたと思ったが」
 ぷちいずもたんから、咀嚼音交じりに聞こえてくるシユウの声。
「ちょっと大変だったのよ! ササメさんも倒れちゃうし! もっとちゃんとした情報をよこしなさいよ! あとモノ食いながら通話してんじゃないわよ!」
「それは悪かったな。んで、他にもいたんだろ?」
 ふと、シユウがいつになく真面目な態度になる。気がつくと、モノを食べる音も聞こえなくなっていた。
 ミラ達は裏で暗躍していたというヴェレーナについて、シユウに伝えた。
「ヴェレーナ……だと!? そうか、ようやく……」
 そこにあったのは、怒りや憎しみといったものだろうか。
 普段のシユウからは想像できないようなものが滲み出ていた。
「ちょっと、アイツについて何か知ってるの?」
「ああ。奴は……、『女帝』は俺の師匠の仇だ」


 通話を終えたシユウは、手製の銃を背負い、立ち上がった。
「お前ら、ちょっと暫く出かけてくるから街のことを頼んだぞ」 
「ご主人サマ、どちらへ向かわれるのデスカ?」
 怪訝そうに尋ねるイズモ。
 今までシユウがでかけることは珍しくなかったが、どうも様子がおかしい。 
「なあに、ちょっと散歩に行くだけさ。俺がいないあいだ頼んだぜ」
「あ、ちょっと……」
 イズモが止める間もなく、部屋から出ていくシユウ。

「ようやく見つけたぜ、あのクソアマ。師匠、仇は必ず……」