2ch野球板 バトルロワイアル 参加者名簿 中日ドラゴンズバトルロワイアル第五章~ENDING~(2)


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05 名前: 書き手A 投稿日: 02/07/01 00:17 ID:T1rlqv1A

ペナント開始直前に話を始めると仮定して、ちょっとイントロを書いてみました。
--

2002年。
日韓共催によるワールドカップ開催の為
プロ野球ペナントレースは大幅な日程変更を余儀なくされていた。
それでなくても人気低下に悩む球界にとって
この事実は打撃である以前に屈辱であった。

――野球がサッカーに劣るというのか。

若い世代ならば、野球とサッカーを
比べるなどという愚挙に出ることはないだろう。
それらは全く質の違うスポーツであったから。
しかし、「野球は日本で最も愛されるスポーツでなくてはならぬ」
と信じる古い人間たちは
この現実を受け入れる事が出来なかったのだ。

そして2002年3月某日、遂に或るプログラムの「開催」が決定される。
「プロ野球再生プロジェクト其の壱」。
それはプロ野球選手達に殺し合いをさせ、
さらにその様子を全国に放送するというものだった。

その対象に選ばれたのは、
程良い人気と選手層を持つ古豪球団「中日ドラゴンズ」であった…

--
…と、こんな感じでどうでしょうか。変な所などあったらご指摘下さい。
あとは参加選手をどうするかですね。全員は多すぎるし。
最初に一覧を作っておいた方が混乱も無いと思うんですが。

112 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/02 10:37 ID:oAERmxq+




2002年3月23日、ナゴヤドーム。
かつての大投手、背番号14今中慎二は、ついに完全復活を遂げることなくそのユニホームを脱いだ。
往年のスピードを取り戻すことの出来ない身体になってしまった彼にとって、延命策として技巧派への転身を図ることなどなど考えられることではなかった。
オープン戦のまばらな観客の前で、彼は、今、マウンドを降りる。
かつて苦しい時代を共に戦った、盟友・山本昌にボールを託して。

報道陣に囲まれコメントを求められながら、今中はグラウンドに振り向き、一言つぶやいたという。
…嫌な予感がするんです。
その言葉は記者達の望むそれではなかったため、どの媒体にも掲載されてはいない。
ただ、彼はその日のドームに流れる空気が、自らの引退セレモニーを終えたという主観を除いても、異様であることを感じ取っていた。
そのことを思い出すたび、今でも時々彼はそのとき何も出来なかった自分を責める。
けれども、自分一人が抗ったとしても、どうなるものではないということも、今中にはわかっていた。
「悔いは、あります。」
その日以来、これが今中の口癖となった。言葉の真意を知る者は、いない。

115 名前: 書き手A 投稿日: 02/07/02 23:18 ID:bRdCb5L4

ひとまず、簡単な参加選手リストを作ってみました。
キャラが立っていそうな選手が中心。

00 柳沢裕一
 1 福留孝介
 2 荒木雅博
 3 立浪和義
 4 レオ・ゴメス
 5 渡辺博幸
 6 久慈照嘉
 7 谷繁元信
 8 波留敏夫
11 川上憲伸
13 岩瀬仁紀
16 森野将彦
17 紀藤真琴
18 エディ・ギャラード
20 川崎憲次郎
21 正津英志
22 山﨑武司
23 関川浩一
24 遠藤政隆
26 落合英二
28 中里篤志
31 井本直樹
33 小山伸一郎
34 山本昌広
37 筒井壮
38 鈴木郁洋
40 森章剛
41 朝倉健太
42 メルビン・バンチ
43 小笠原孝
47 野口茂樹
48 井端弘和
49 スコット・ブレット
54 神野純一
56 藤立次郎
57 蔵本英智
58 大西崇之
59 山北茂利
60 大豊泰昭
99 井上一樹

+αとしてリナレス、バルガス?

118 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/03 12:13 ID:Wp8vIDIL

↑『免除』ってえ言葉がバトルっぽいですね。
ではリナバル(←一人の選手みたいだ)は当初は保留で…話が進んだら出したい人がしかるべき場所で出すということで。
試合開始の場所はどうしますか?という思いを込めて書き始めてみます。↓
続き書いてくれる人、場所決定きぼん。

*********************************

1 運命の出発

オープン戦の最後を飾る本拠地ナゴヤドームでの対オリックス戦は打線が振るわない一方でバンチが派手に打ち込まれて終わった。
様子見のための試合とはいえ最後が黒星とは縁起が悪いな…
スポーツ選手には縁起を担ぐ者が多い。福留孝介も見かけに寄らずまた例外ではなかった。しかし今年は今までと何もかもが違うのだから仕方ないと自分を納得させる。
球界一の投手陣を支えた中村さんがいない。
かつてのエース、今中さんも、昨日でいなくなった。
肝心の野口さんは怪我で出遅れている。
何より、あれだけ慕った星野監督が勇退ののち、いろいろあって阪神の監督になってしまった。
自分こそ佐々木コーチの個人指導で調子を上げてはいるが、チーム全体としては明らかに昨年よりマイナス要因が多い。
立浪さんも、大変だな…
最近になって、十年来尊敬してやまない我らが選手会長の表情に険しさを感じることが多くなった。目の前に立浪の姿を捉えた福留は何か言おうとしたがそれを飲み込み、軽く会釈をして立浪を追い越した。
「すまんが、今日はこれから移動してもらう」
駐車場に待っていたのは仁村ヘッドコーチの姿だった。
その後ろには、青く塗られた移動用のバスが待機している。
ああ確かに今日の試合は散々だったからな。これから練習場でひと汗かくことになるのだろうと誰も疑うことはなく次々とバスへ乗り込む。
「よーし、全員乗ったな」
点呼を終えた仁村が運転手に合図する。
山田監督の姿がないことと、自分が乗ってきたベンツが駐車場から消えていたこと。
福留がそれに気づくのはバスが発車してからのことであった。

120 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/03 14:32 ID:mb7jbS55

2 予兆

バスは順調に名古屋の街中を走っていた。
窓の向こう側に見える景色は活気に溢れ、年度始めの慌しさを感じさせる。
福留は背もたれの上で身じろいだ。
妙な違和感。いつもどおりの風景のはずなのに、何かがおかしい。
気が付けば、バスが普段は通らない筈の道を走っていた。
渋滞を避けてでもいるのだろうか。それにしては…
「なぁ、荒木」
「…うぁ?」
隣、通路側の席に座る荒木雅博に話し掛けると、かなり眠たげな返事が返ってきた。
「変だ」
「んん…何が?」
「外、見てみろよ」
「外ぉ?」
荒木は不承不承といった様子で体を起こしたが、
窓を少し覗き込んだだけで座席に戻ってしまった。
「いつもどおり、人がたくさんいるだけじゃないか…」
「でも…変だ。みんな同じ方向に歩いてないか?
なんか誘導されてるみたいな…ほら、警官がいるし」
「孝介」
「ん?」
「俺、眠い…変だな、凄く眠いんだ…」
がくっ、と荒木の首が倒れた。どうやら完全に眠ってしまったらしい。
どうしたんだ?こいつ。夜更かしでもしたか?
しかし、はたと福留は気付いた。バスの中に流れる不気味な静寂。
立ち上がって見回すと、乗り込んだ選手の殆どが眠ってしまっていた。
おかしい。いくら試合の後とはいえ…
「うっ」
そして遂に福留に対しても、猛烈な睡魔が襲い掛かってきた。
眠ってはいけない、と本能が叫んだが、もはやどうすることもできなかった。
何か、とても良くない事が起こる。急速に意識を失いながら、福留は戦慄していた。

125 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/04 12:19 ID:hu9LZf9R

3 宣告


次に意識を取り戻したときには、福留はまず自分が横たわっていることに気づき、ほどなくして先ほどまで移動用のバスに乗っていたことを思い出した。
おかしい…
ぼんやりとした頭で周囲を見渡すと、はたしてそこは、先ほどまで試合を行っていたはずのナゴヤドーム。違うのは、照明が一切ついていないことと、観客席が無人であること。やがて視覚がはっきりしてくると、同じようにいぶかしげな顔をしている選手達の姿を確認する。
「おい、荒木、起きろ」
荒木はまだ眠っているようで、自分の隣にうつぶせに倒れ込んでいた。肩を揺さぶる。
「ううん…、あー、孝介?」
寝ぼけまなこの荒木はついさっきの福留と同じように辺りを見回している。
「なんだ、ドームじゃないか…。真っ暗だし…、何で俺達、戻ってきてるんだ?」
「俺が知りたいよ…何なんだ、いったい?」
そのとき、選手達が横たわるマウンド一帯に突如スポットライトが向けられた。暗闇に目が慣れていたせいか、誰もが目をしばだたせる。
「中日ドラゴンズの皆さん、こんにちはー、ヤクルトスワ…、やないなぁ、日本プロ野球選手会会長の、古田敦也です」
関西弁訛りの甘い声がスピーカーから流れ、お馴染みの眼鏡を掛けた『球界ナンバーワン捕手』の顔が、スコアボード下のライブビジョンに現れた。

************************************************

「いやあ、なんと申しますか、世間では不況不況と言われてまして、プロ野球の世界も例外ではないみたいですなあ。
 うちは日本一取らしてもらいましたんで、今年くらいはなんとかなる思うてましたけど、ワールドカップもありまして、いやあなんとも言えませんなあ」
何だこりゃ。今時、ドッキリか?金屏風まで立ててるじゃないか。
への字に曲げた口元で不快感を現しながら、それでも仕方なく福留は映像を見やる。
「ドラゴンズさんも、聞きましたわ!地元での人気はなかなかみたいですけど、今年はシーズン席、余ってるそうやないですか。困りましたねえ…」
そして画面の向こうの古田は、一段、声のトーンを上げた。
「そーこーで!です。私どもプロ野球選手会首脳陣は、この不況を打破する対策を検討すべくNPBと緊急会議を設けまして、あるひとつの結論に達したのです。」
誰もが一斉に立浪の姿を見た。ドラゴンズの選手会長である彼は、何も知らぬと激しく首を振る。
「ああ、すみませんねえ、首脳陣ゆうてもNPBに呼ばれたの私だけですわ。
それはさておき、プロ野球人気を復活させるため、皆さんには開幕前にひと仕事してもらうことになりました。
球界の権威復活のための一大プロジェクト。その名も……、『バトル・ロワイヤル』。」
古田が放ったその言葉でドーム内全ての照明が点いた。

127 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/04 13:12 ID:1z5ECx7E

4 流血

「これはですね、プロレスに『バトルロイヤル』ちゅうのがありますけど、
早い話がそれの応用ですわ。
ドラゴンズの皆さんには、最後の一人になるまで――」
そこまで言うと、画面の中で古田は一息ついた。
「――殺し合いをしてもらいます」
一気にざわめきが広がった。
「殺し合いだって!?」
「おい、一体何なんだよ…」
「ゆ、夢見てんのかな、俺」
そんな中、福留は一体自分の身に何が降りかかったのか、
いまひとつ理解できずにいた。
起き抜けで頭が働かないと言うよりは、あまりに非現実的で…
隣で呆然としている荒木も同じ気持ちなのだろう。
しきりに首を振ったり瞬きをしたりしている。
「…古田、悪趣味な冗談はやめろよ」
不意に、ドーム内に山本昌のよく通る声が響いた。
「お前が言ってることは滅茶苦茶じゃないか。
ワールドカップが野球人気を圧迫してるからって、
どうして俺たちが殺し合いをしなきゃならないんだ」
「おお、山本。今からそこを話そうと思ってたとこや。
はい、ええですか皆さん。
その殺し合いの様子は、NHKで全国に生中継されます。
いやー、これは凄い視聴率になりますよ。ワールドカップなんて目じゃない。
フジで中継できないのが残念ですわ」
「…へぇ。そういう事か」
相変わらず明るい古田の声を聞き、山本昌は諦めに満ちた笑みを声に含ませながら呟いた。
「解ってもらえたみたいやな。
んじゃルール説明させてもらいますんで、よく聴いとって下さいねー」

128 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/04 13:13 ID:1z5ECx7E

「えー、皆さんの首にはこっちで首輪を着けさせてもらってますー。
弄くると爆発するんで、触らん方がええですよ」
はっと福留は首に触れた。確かに冷たい金属の感触がある。
周りを見回すと、間違いなく全員の首に銀色の首輪が嵌められていた。
「その首輪は、皆さんの位置をこっちで掴むためのもんです。
要するに逃げようとしても無駄って事ですわ。
変な動きをしている人がいたら容赦なく爆発させますんで。
…んー、一応ここらで見本を見せといた方がええかも解りませんね。
まだ疑ってる人もいると思うんでー」
古田が言い終わるが早いか、ピッ、という電子音が、微かに福留の耳に届いた。
「川崎。お前みたいな奴は生きとってもしゃあないやろ」
ピッ。ピッ。
音のする方を見ると、確かにそこには絶望の表情を浮かべた川崎がいた。
嵌められた首輪の一部が赤く光っている。
「ふ、古田さん…」
「命乞いしても無駄やで、これ、止められへんから。
まぁ最期に人の役に立てると思って笑って死んでくれや」
これは悪夢か?
「孝介、なぁ…変だよ。これ。現実なのか?なぁ」
荒木の声が震えている。
「そんなのわかんねぇよっ」
ピッピッピッピッ。音のテンポが上がっていく。
川崎の周りから自然、人が退いた。
「あー、離れんとっても大丈夫ですよ。爆発って言っても
小さいもんです。ま、首を吹っ飛ばすには充分ですけど」
ピーッ…
「化けて出てやる」
ぽつり、川崎が言った。それが最期だった。
ぱん、と妙な音がして、辺りに血飛沫が広がった。

130 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/04 22:06 ID:D3OsHJPY

5 ルール

福留は頭がガンガンと痛むのを自覚していた。
川崎が死んだ…目の前で。
その死体は、まだ生きた人間と殆ど変わらぬ姿をしていた。
ただ、首だけは皮膚が破れ、剥き出しの肉が焦げ付いて二目と見れない状態だったが。
肉の焦げる匂いと血の匂いに吐き気がする。
奇妙な程周囲は静まり返っていた。
「というわけで、これはドッキリでも冗談でもなんでもありません。
本当の殺し合いです」
わざとらしい程陽気な古田の声。
「はいはい、いつまでも死体なんか見てると聴き逃しますよー。
ええですかー。それでですね、皆さんには一つずつ武器が支給されます。
ただし、これは誰がどれとか決まってるわけじゃないんですね。
銃を手に入れる人もいれば、水鉄砲が当たる人もいます。
そこんとこは運ですわ。もちろん、他人の武器を奪ってもかまいません」
古田がぺらぺらと喋っている間、福留はまだ川崎の死体から目を離せずにいた。
別に親しかったわけではない。しかし…
「孝介、余所見してると危ない…」
「…解ってる」
荒木に咎められ、漸く福留はライブビジョンに視線を戻した。
「えー、ここ、ナゴヤドームを出発したら、
基本的には名古屋から出なければどこへ行っても結構です。
但し、皆さんで一つの所に固まったりするのは駄目ですよー。
二十四時間の間一人も死者が出なかったりすると、
自動的に全員の首輪が爆発してしまうんでね。
それじゃ面白くないんで、はい。
あ、あと全員が出発したらもうドームには近寄らんといて下さいね。
ここはプログラムの本部になってるんで、あんまり近付くと首輪が爆発しますよー」
それだけ一息に言うと、古田はやれやれといった風にまた一つ息をついた。

132 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/05 12:16 ID:G3N5myD+

6 ゲーム開始

「皆さんにお配りするバッグの中には武器と食料、地図、筆記用具一式に、それと名簿が入っとります。
参加者はテレビ的におもろい人を一軍二軍関係なくちょうど40名、あー川崎は死んでもうたので39名ですね、選ばしてもらいました。
死んだ人の名前は一日二回、9時と夕方5時に読み上げますんで、商店街の有線なんかで確認してくださいね」
シーズンオフのチーム対抗番組でルール説明でもしているかのように古田は淡々と話し続けた。
これが勝者と敗者の違いか?画面の向こうでのうのうと高見の見物をしている男を誰もが苦々しく思った。
「それでは、今から順々に名前呼びますんでー、前に出てきてください。」
上ばかり向いていたので気づかなかった。視線を落とすと、センターの守備位置のあたりに『お立ち台』のセッティングが既に終わっており、審判員たちが、大量にバッグを積んだ台車を押してやってくる。
「最初だから私が呼びますわな。番号順ですよ、背番号00番、柳沢裕一君」
「ひッ」
福留は背後で小さく上擦った声を聞いた。

133 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/05 12:17 ID:G3N5myD+

「はーい呼ばれたらさっさと前へ出るー。たらたらしなーい。」
柳沢が一旦つんのめりそうになり、慌てて前へ駆けてゆく姿が見える。
「はーい、いいウォーミングアップになりましたね。で、前に出てきた人は、お立ち台に上って箱の中に入ってるボールを一個、引いてもらいます。
ああ安心してくださいね、人数分より余計に用意してありますから、最後の人、えー凄い番号やな、99やて。井上一樹君が不利になるっちゅうわけやありませんよ」
名前が挙がった井上は普段にも増して顔を引きつらせた。
古田に促され、柳沢が審判員の差し出す箱に手を突っ込む。
「はい、引いたら高々と手を挙げて皆さんに見せましょうー。そう、そうです。高校野球のくじ引きみたいで実にすがすがしいですね」
古田はまるでこども相手のような口調と笑顔でぱんぱんと拍手した。お立ち台を降りた柳沢は、色となにやら文字が付いたボールと引き替えに、同じ印のついたスポーツバッグを受け取る。
そして不安そうな表情でマウンドに待機する面々を一瞬見ると、一気にライト側に開いた出口まで駆けだした。
「わかりましたかー?こんな感じで始めさしてもらいます。
私もいつまでもこんなんやってられませんので、あとは会場のほうにお戻しします。ほな、さいなら。あ、JOCX-TVて言うんやっけ?」
映像は古田が椅子を立ち上がった中途半端なところで途切れ、代わりに渋谷のNHK本社の静止画像を背景にテロップが流れた。『この番組はNHKと民放各社の協力により全国ネットで放送しています』。
目の前にある、あまりに非現実的な現実。それをなんとか飲み込もうと、福留は大きく深呼吸した。
落ち着け、落ち着け。
そして、隣で同じように大きく息をしていた荒木に目を移した。
待ってる。
そう、声に出さずに口を動かして、ウグイス嬢に名前を呼ばれた、背番号1番、福留孝介は、走り出した。

134 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/05 16:56 ID:5O0lNeBX

7 鉄と現実

ドームから出ると、辺りは薄暗くなり始めていた。猫の子一匹居ない。
福留はぞっとした。
本当に、もう逃げられないのだ。これは現実なのだ。
柳沢はどうしたのだろうか。その姿は見当たらない。
疾うに遠くに走り去ってしまったのだろう。
ということは…あの人は、俺を信用してなかったんだな。
仲が良かったわけではないのだから、当然のことかも知れない。
それでも福留は複雑な気分にならずにはいられなかった。
やっぱり、みんなで殺し合うのか、もう逃げられないのか。と。
いや。ともかく、自分だけでもここで待とう。
そこから糸口が掴めるかも知れない。
腹を決めてドームのゲート前に座り込むと、福留はスポーツバッグの中を探ってみた。
入っていたのは先の説明で古田の言っていた物が一通り。
そして最後に、バッグの底から一枚の紙と共に重い鉄の塊が出てきた。
一瞬それが何なのか福留は理解する事にに躊躇した。
それは、どこをどう見ても、拳銃だったのだ。
一緒になっている紙は説明書のようだったが、英語表記の為わけが解らない。
理解できたのは、COLT GOVERNMENT M1911A1、
というのがこの名前の銃らしいという事ぐらいか。
いずれにせよ、冗談じゃない。
福留は銃と説明書をバッグの底に押し込んだ。
狂ってる。何だよ、これ。
どうしてこの平和な日本で、プロ野球選手の俺が実銃を触らなきゃならないんだ。
殺し合いだって?畜生。チームメイト同士が殺し合うなんて。
…いや、落ち着け…落ち着け。今は荒木と合流することが一番だ。出来れば立浪さんとも。
そして、福留の前方、ドームの一番ゲート内から荒木が姿を現した。

【残り39人】

138 名前: 134 投稿日: 02/07/06 08:15 ID:wrX0SCYF

すみません、誤字訂正。

>134の21行目は
×「というのがこの名前の銃らしい~」
○「というのがこの銃の名前らしい~」
でした。

148 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/07 10:32 ID:5tLCXBPN

8 初仕事

ナゴヤドームバックスクリーン側には、ガラス越しに観戦が出来るレストラン席がある。
何しろガラス越しなので臨場感は無いが、のんびり観たいときにはなかなか良い席だ。
そこで男はウェイトレスが運んできた料理をつつきながら、
ぼんやりとグラウンドを見下ろしていた。
下では立浪がスポーツバッグを受け取ろうとしている。流石に声は聞こえない。
「スピーカーをお持ちしましょうか」
「いや…ええよ」
ウェイトレスの申し出を断ると、男は立浪がゲート方向に歩いていくのを目で追いながら
又一口、料理を口に運んだ。
「外はどうなってる」
「は」
「柳沢に、福留、それに荒木はどうなったんや」
「あ、はい。盗聴記録によりますと、柳沢選手は一人で移動中です。
福留選手と荒木選手は、ドーム前で言い争いをしているようです」
「言い争い。あいつらがか」
「立浪選手を信用するかしないかでもめ事になったようですが」
「ははぁ。立浪さんな。ありゃ信用したらあかんわな」
男はくっくっと背を揺らして笑った。
「よお言っとった、山本さんが。「あいつは悪魔のような奴だ」って」
「…お食事の後はどうされますか」
「俺に選択権は無いんやろ。ちゃんと本部の方に行くわ」
「御賢明な判断です。それでは、ごゆっくりどうぞ。
また何かございましたらお申し付け下さい」
ウェイトレスは一礼すると下がっていった。
それを横目で見、男は無理矢理スープを飲み下した。
食欲は無いが、それでも食べなければならない。
このプログラムの「解説」として呼ばれてしまった以上、
何か胃に入れておかなければ恐らく体が持たないだろう。
「初めての解説が…こんな試合とはなぁ…」
酒も料理も少しも美味く感じられない。当然と言えば当然のことだ。
去年までの同僚達の殺し合いを、これから観なければならないのだから。

【残り39人】

******************************************************
9 別離
福留はゲートから現れた立浪の姿に、荒木が止める間もなく声を上げていた。
「立浪さん!!」
瞬時、立浪の応えを待つ福留の頬を、何かがかすめた。
手をやると、ぬるりとした感触。福留は目を疑った。血だ。
カシャンと落下音がした先には、小さな両刃のナイフが落ちていた。
「死にたくなければ、早くここから離れろ」
呆然とする二人に立浪が与えた言葉はそれだけだった。福留には、ただ、急速に小さくなってゆく『3』を背負ったユニホーム姿の男を見送ることしかできなかった。
「孝介…誰か出てくる」
慌てて荒木が腕を引っ張り、売店の陰に姿を隠した。
両肩に荷物を背負った、レオ=ゴメス。
片方には例のスポーツバッグ。もう片方には、……ユニホームを着た人間。
ドサリとその『荷物』を床へ落とすと、ゴメスは呟いた。
「Por fabor, Sr.Watanabe.俺は今年はファーストに就くんだ、生き残ったってあんたの出番はもうないよ、きっと」
そして、胸の前で小さく十字を切り、床に寝かされた人間の腕からバッグを奪い取ると、ゴメスは悠々と、地下鉄の駅まで続く歩道橋へ向かって歩いていった。
あとには、胸の辺りを真っ赤に染めた、既に事切れた渡辺博幸の身体だけが残った。

151 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/07 15:30 ID:z8HMFesH

10 理由と目的

大曽根駅のほど近くまで続く長い歩道橋を渡り終えた背番号6、久慈照嘉は、階段の陰でバッグの中身を検め、その支給された武器を目にし、失笑せざるを得なかった。
デリンジャー。
自分の手の中に納まってしまうほどの銃身、装填可能な銃弾はわずかに二発。
くじ運がいいんだか悪いんだか、小兵の自分には、こんなおもちゃみたいなピストルがお似合いってわけか。
ならばゴメスや山崎は、大砲でも背負ってくるのか?
いや、大砲だったら大豊さんか。
いついかなるときでも笑顔でいること、それが久慈の信念であった。それはときに必死さが伝わらないと受け取られることもあったが、彼を理解する人は皆、彼の存在によって心を和ませていた。
ひととおり中身を確認した久慈は、ペットボトルの水を口に含み、ドーム内での極度の緊張から乾いて仕方なかった喉を潤した。
そして『彼』の向かうであろう場所の心当たりを自分の中でまとめながら、道路標識で歩くべき方向を確かめた。
あの人は、俺がいないとすぐ暴走するんだから…。一人で暴れて死にました、なんてのだけはやめてくれよ?
そしてゆっくりと歩き始める。
己が半身、関川浩一に出会うために。

152 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/07 19:11 ID:jxXkElwD

11 絆

荒木に手を引かれる儘、福留はドーム付近の住宅街を縺れるように歩いていた。
まだ頭が混乱している。非道く気分が悪い。
福留は何においても立浪を先輩と思い、尊敬していた。
いつかあんな男になりたいと思っていた。
しかし、現実には…立浪は自分を攻撃してきた。既に、人を殺す気になっていたのだ。
こんな絶望的状況でチームを纏めてくれるのは立浪しかいないと、
心の何処かでまだ希望を持ちながら考えていたというのに。
「これで解ったか、孝介。立浪さんはああいう人なんだ」
大股で歩きながら荒木が言った。
掴まれた左腕が痛いのに、振り払うことが出来ない。
平生なら力で負ける気はしないが、
今はとてもではないが体が動かなかった。
「解った。解ったから、手ェ離せ。もういい。一人で歩ける」
「性懲りもなく立浪さんを探しに行ったりしないな」
「しない。もう、頼まれてもそんな気しねぇよ…」
団地の前で立ち止まり、その敷地内に入ると荒木は漸く手を離した。
「…お前をドームの前に置き去りにしたくなかったんだ」
言い訳するような荒木の声に、福留はただ頷くしかなかった。
今この状況で、自分に敵意を持っていないのは荒木だ。立浪ではない。
荒木は味方だ。そこを間違えてはいけない。
「ここだと人目に付くから、もっと奥の方まで行ってこれからの事を考えよう」
「…解ったよ」
「そうヘコむなよ。お前らしくもない」
「ヘコまずにいられるかよ」
「…まぁ、気持ちは解るけどな。あ、武器何だったよ、お前」
「銃」
「げ、俺なんかバットだったのに。しかもその辺で売ってるようなやつ」
「へぇ、なんかお前らしいな」
福留は久しぶりに笑った。それを見て荒木も笑った。
まだ人を信じていられる、福留は思った。

【残り38人】

153 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/07 19:12 ID:jxXkElwD

12 それぞれの心

次々とチームメイト達が外に出ていく。
ある者は怯え、ある者は笑い、ある者は無表情の儘。
森野の名前が呼ばれたのを聞き、いよいよか、と紀藤は息を吐いた。
すぐ隣には山本昌が、何やら考えありげに天井を眺めている。
「山本、どうする」
「どうって」
森野がおどおどと前に進み出た。
選択肢は色々ある。結束するか、一人になるか。戦うか、信じるか。その方諸々。
「戦うつもりか、お前も」
「…俺さ、この機会にどうしても欲しいものがあるんだ」
山本はにやりと笑ってみせた。どこか子供じみた笑みだ。
先に古田に食ってかかった時の、冷静で正義感溢れる姿は何処へ行ったのやら。
「へぇ。欲しいものねぇ」
「心配すんな、お前を殺すつもりはないから」
「そりゃありがたいな」
スポーツバッグを持った森野のシルエットが小さくなっていく。そろそろ呼ばれそうだ。
「紀藤、そう言うお前はどうなんだ」
「俺は…まぁ、適当にやってみるわ」
そうとしか言い様がなかった。無理矢理生き残る気もなければ
あっさり殺されるつもりもない。
最後まで生き残れるとは我ながら思えないが、まぁ、なるようになればいい。
そんな心境だった。
「理想が低いな」
「そっちこそ、年寄りの癖にちょっと欲深じゃないのか」
「…俺は「それ」さえ手に入ったら死んでもいいんだ、別に」
「何だよ、さっきから。気になるな」
「こういうのは人に言うと手に入らなくなるって言うからなぁ。秘密にしとく」
「やな性格だな」
そこまで言った時、紀藤の名と背番号が呼ばれた。
「はいはい。今行きますよ」
ま、せいぜいやってみるか。

【残り38人】

159 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/08 10:38 ID:RMRPt+Xg

13 愛する人よ

岩瀬仁紀は、自然、その足を南へ向けて歩いていた。
走るでもなく、ただ、ゆっくりと。
目指すは、名古屋港。
ふと立ち止まり、ハイネックのアンダーシャツの中から、小さなペンダントを取り出す。
蓋を開けると、微笑んだ女性の写真が現れる。
浅子。
彼はその女の名前を呼ぶ。
岩瀬の学生時代からの恋人であり、岩瀬の妻になるはずだった女性の名を呼ぶ。
恐らく彼がその女性に再会することはあり得ないだろう。岩瀬にはわかっていた。
彼が彼女を愛するのと同じように、彼には憲伸やチームメイト達が大切だった。
彼らに対して刃を向けることなど、彼に出来るはずがなかった。
だから、岩瀬はせめて彼女との思い出の場所、名古屋港の水族館を目指して歩いていた。
浅子。
もしも俺がこのまま死んでしまっても、未来永劫、俺だけを愛してくれるかい?
浅子。
寝ても覚めても、俺のことだけを思っていてくれるかい?
浅子。
今、何をしている?
会いたい。
岩瀬はロケットの蓋を閉じ、再び胸にしまった。そしてまた一歩、歩き始めた。

163 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/09 02:29 ID:swTU/vrj

153の10行目は
×「その方諸々。」
○「その他諸々。」
でした。すみません。
---
14 凶暴な男

紫がかってきた空に星が輝き始めている。
谷繁元信は常に自信に満ち溢れたその顔を不機嫌に歪ませ、
頬の返り血をアンダーシャツの袖で拭った。
「お前みたいな、こういう時にもへらへらしているような奴が、俺はこの世で一番嫌いなんだ」
返答は無い。辺りは静まり返っていた。
既にドームからも随分と離れ、ここからその姿は見えなくなっている。
谷繁は名古屋の地理には明るくないので現在地の正確なところはわからなかったが、
ともかく大曽根駅の方角に歩いてきたつもりだった。
「横浜にいた頃から、ずっとお前が気に食わなかったんだよ。思えば変な縁だな。えぇ?波留よ」
谷繁の足元に蹲った波留は、何も言わなかった。
いや、言えないのだ。その首から、胸から、夥しい量の血を流し、
言葉など発することもかなわないのだから。
「何か言ってみろよ。んぁァ?俺を笑わせてみろよ、おら」
右手に持ったサバイバルナイフを弄びながら、谷繁はごつっ、と波留の頭を蹴った。
微かなうめきが上がったが、ごぼこぼと血の泡立つ音に紛れ、
それは谷繁の耳に殆ど届かなかった。
「結局お前には何もできねぇじゃねぇか。世の中、食い合いが全てなんだ。
ムードメーカなんて必要ねぇんだよっ」
ひときわ強く頭を蹴上げられ、波留の上体はふうっと宙に持ち上がり、
それから、仰向けにアスファルトの上に倒れた。血がはねる。
「お前、悔しいだろ?自分のバッグに入ってた武器を俺に分捕られて、
しかもそれで殺されるんだもんな。…ったく、お前は本当にお目出たい奴だよ。
当たった武器がよりによって果物ナイフでいらついてた俺に、ほいほい話し掛けてくるんだから。
俺の性格を知らなかったわけじゃねぇだろうに」
波留はもう殆ど意識が無いのだろう。谷繁の顔を見ることもなく、ただ血溜まりの中に横たわっている。
或いはもう死んでいるのかもしれない。
「…さてと。とどめはささねぇ。せいぜい苦しんで死ねよ。じゃあな」
それだけ言うと、谷繁は自分のバッグと波留のバッグの二つを両の肩にかけ、
再び大曽根に向かって悠々と歩き出した。口笛など吹きながら。
【残り37人】

165 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/09 13:05 ID:90QaIOyc

15 天使と悪魔

金山駅まで一気に走り抜け、朝倉健太は、はあはあと荒く息を上げながらその足を止めた。
ちくしょう、どこ行ったんだ、あいつは…。
朝倉が『尋ね人』を連れて来たことのあるCDショップが入っているビルを覗く。
「なにしてるんですか?朝倉さん」
背後からの声に驚き、朝倉は即座に振り向いた。
連絡通路橋から、こちらを見下ろす中里篤史の姿があった。
「やっぱりここか…。何してるって、お前を捜してたに決まってるだろ?リハビリも済んでないくせに、ほっとけるかよ」
中里は紅潮してまくし立てる朝倉を見て笑った。
「それはそれは…。でも、御心配なく。ボールのコントロールは出来ないけど、ほら、銃だって撃てるし」
中里が手を伸ばすと朝倉の背後のガラスが割れた。
「なッ…、おまッ…、なにやってんだよ!」
「格好いいでしょう?ワルサーP38、ってね。ルパン三世にも出てきた奴ですよ」
ひらりと中里の身体が宙を舞い、そして朝倉の目の前に降り立った。朝倉は一歩、後退する。
「フフ…、殺しはしません、安心してください。こんな馬鹿げたゲームであなたと決着をつけようとは思ってませんから」
まるで子供がおもちゃで遊んでいるかのようだった、くるくると銃身を弄び笑う。
自分が知っている『中里篤史』はこんなにも恐ろしい男だったか?
今まで感じたこともない不気味な雰囲気に朝倉は身震いした。
中里の無邪気に見える笑顔が、あまりに残酷だった。
「ねえ…、朝倉さん。せっかくだから、僕と組みませんか?」
「は?」
思いも寄らない言葉に朝倉は混乱する。
「僕とあなたが最後まで生き残ったら…。そしたら、決着をつけましょうよ。勝つのはもちろん、僕ですけどね」
「ふざけるな、人殺しなんて御免だ」
「朝倉さん」
離れようとする朝倉の腕を掴み、朝倉の肩に拳銃を突きつける。
「ああああはいはい、わかったよ。だからその物騒なものを降ろせ」
負けじと、朝倉も後ろ手に隠していた出刃包丁を中里の鼻先に突きつけた。
「こわぁい、そんなもん持ってたんだー。朝倉さんも、なかなかやりますね?」
「当たり前だ。お前なんかに負けてたまるか」
朝倉は思いきりアカンベエをしてみせた。

166 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/09 13:57 ID:QVD7x00F

16 欲する者

ナゴヤドームに程近い民家の庭に隠れた小笠原は、前方を横切る大きな体に気付いた。
見覚えのある横顔。背番号34。山本昌だ。
良かった。じきに夜だというのに、これ以上一人で震えていたくない。
「山本さん」
小声で呼び掛ける。山本は流石に緊張しているのか、ぎょっとした風に辺りを見回した。
が、
「山本さん、こっちです。…小笠原です」
再びそう声をかけると、すぐに気付いて苦笑いを浮かべながら歩み寄ってきた。
「なんだ、お前か。脅かすなよ」
「すみません。一人でいるのが恐かったんで、つい」
「…ま、無理もないか…いきなり殺し合いをしろ、だもんな」
話しながら、家の裏庭まで移動する。いくらか人目に付きにくくなるだろう。
「お前、武器は?俺を襲わなかったって事は、大した物じゃなかったな?」
俺はこれだったよと、山本は左手に握り隠していたメスを見せた。
明らかに「ハズレ」の部類だ。
「まさか。見て下さいよ…本物の銃」
小笠原は懐に隠していた小さな拳銃を山本に差し出した。
S&W M36チーフス・スペシャル。説明書も付いていたことだし、実銃だろう。
「お、すげえな。本物なのか」
「ええ。多分…」
そう言い終わった瞬間だったろうか。
テレビや映画でしか聞いたことの無かった銃声というものが、
小笠原の鼓膜を激しく揺らした。
「…え」
右脇腹が熱い。
「あれ。ちょっとズレた?もう一発いくか」
再び銃声。
今度は右肩が熱を持った。自分の鼓動がやけに五月蠅い。

167 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/09 13:59 ID:QVD7x00F

何が起こっているのか解らなかった。
「へえ、反動がかなり来るなぁ。漫画みたいにはいかないか」
「や…まもと、さん…?何が…」
「お前さぁ、馬鹿?」
「…は…?」
「撃たれたのに、逃げないのか?まあ…その体じゃ逃げても死ぬだろうけどな」
「え、撃たれた…って…」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
右の脇腹と肩が気を失いそうに痛い。そして、目の前には小さな拳銃を構えた山本の姿。
小笠原は漸く、事態を理解した。山本は自分の見せた銃を奪って…そして発砲したのだ。
「どう…して」
堪えきれず、地面に膝をついた。山本は屈んで頭に銃を押しつけてくる。
「ん?お前が左腕だからだよ」
「そ、そんな…理由、で」
あまりにも理不尽。利き腕は生まれ付いてのものだ。変えようが無いではないか。
「お前に俺の気持ちが分かるかよ。俺は、今中と野口さえいなけりゃ、
中日のエースの一人に数えられてた筈なんだ。
それが、あいつらのお陰で俺はいつも二番手止まり。
エースと呼ばれたことなんかありゃしない…
みんな口を揃えて言ったよ、「山本昌はエースの器じゃない」ってな」
吐き捨てる様に言いながら、山本の口元には笑みさえ浮かんでいる。
「だから、俺、この機会にライバルは全員殺すことにしたよ。…ごめんな」
そして小笠原に向けられたのは、いつも通りの優しい笑顔。
これは何かの冗談ではないのだろうか…
「あ、言っとくけど別に殺しが好きなわけじゃないからな。
お前が右利きか野手なら手は出さなかったんだよ。
残念だな。お前の事、嫌いじゃなかったよ。左腕でさえなければな」
「…ひっ、死にたく…ない…助け…」
「中日の左腕エースはこの俺だ」
そして、三発目の銃声が轟いた。
【残り36人】
--
すみません、163の「ムードメーカ」は「ムードメーカー」の間違いですね。
どうしてこう誤字が多いのか…

170 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/09 22:33 ID:bVmL8Sxa

17 雑草

「藤立さん、どうして俺を信じてくれたんですか?」
夜、錦のバーのカウンター。男が二人、語り合う。
ただし、明かりはない。酒もない。代わりに並ぶのは、水とレーダーと丸い球が数個。何かと聞いたら知らないと答えるので、試しに投げたら煙幕と分かった。
「うーん…、実のところは、誰も信じていないんや」
「え?」
「誰も信じられないのなら、誰を信じようと一緒やろ?だから、たまたまや」
大西崇之は藤立次郎の返す言葉に寂しそうな顔をした。自分だからこそ信じてもらえたのだと言ってほしかったのだろう。本当は同い年なのに敬語を使う、明るくて実に気のいい男だ。
「御免な…、嘘つくの苦手やさかい、正直に言わしてもらった。こんな時やしな」
「そうか…、そうですよね、藤立さん、まだ中日に入ったばっかりですからね…」
名古屋に来て数ヶ月、練習場と自宅周辺のほかは右も左もわからない状態の藤立は、ドームを出てからさてどうしようと頭を抱えていた。そんなとき、後ろから大西が走ってきて彼を呼び止めたのだ。

171 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/09 22:34 ID:bVmL8Sxa

この『試合』が宣言されたとき、藤立は死を覚悟した。チームに十分打ち解けたとはいえない自分を仲間にする人間はまずいないだろう。無視されるか、さもなくば殺されるかのどちらかになる。ならば、流されてみようと考えた。一旦そう決めてしまうと、あとは楽だった。
「信じてもらえてなくても、藤立さんと一緒にいられてよかった。心が休まりますよ。なんでそんなに落ち着いているんですか?」
お前がやかましいだけちゃうか、と目の前の男をほほえましく思いながら。
「まあ…、どうせリストラされて拾われた身やし…いっぺん死んだ気になれば、なーんも怖いものは、あらへん」
大西はそれを聞いて、丸い目をますます大きく見開いた。いい笑顔だ。
「俺もこう見えて結構、修羅場くぐってるんですよ?高校辞めて大学辞めて…、そうそう!オリックスのテスト受かってたんですけど、中退したから入団資格がなくて取り消し…なんてのもありましたよ」
「そうか…、ならお前も、こんなん余裕やな」
「もちろん!あー、なんか、元気になってきたなあ」
巨人の上原がもてはやされていた頃、『雑草魂』なんて言葉があった。けれども、本当の雑草なんて、そのへんにごろごろ生えてるものなんだ。俺も、隣ではしゃぐ男も。
いつもは自分がベンチに戻るときに入れ替わることが多いこの男と、遺言代わりに語り尽くそう。
男達の夜は、まだまだ続く。

173 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/10 09:22 ID:Di6e2x6g

18 晒し者

本部に向かう途中、ドーム内の廊下で男は古田に呼び止められた。
「よ。元気そうやな」
「…どうも」
「まぁそう硬くなんな、解説つっても野球の試合やるわけじゃなし、
適当に言いたいこと言ってりゃうまくいくわ」
「言いたい事なんてありませんよ」
かつての仲間たちの殺し合いに対して、一体何を言えというのだ。
ああ可哀想ですね、と泣き真似でもするのか。
糞面白くもない。
「極端な話、スタジオで座っとるだけでもええよ。
お前が出てるってだけで番組を見る奴はいくらでもおる。
特にこの名古屋の辺りには」
「客寄せパンダをやれってわけですか」
いや、そんないいものじゃない。晒し者だ、自分は。
「ま、そう睨まんでも…ああ、そろそろ八時やな。本部スタジオが待っとるで」
「…じゃ、また」
スタジオか。早足で歩きながら男は思った。
オールスター放送さながらのセットとカメラの群れが自分を待っているのだろう。
これが実際オールスターの解説なら、いくらでも資料を集めて臨むのだが。
現在の状況は大まかに聞いていた。
死者は四人。川崎、渡辺、波留、小笠原。
川崎が開始前に始末されたのは見ていたからまだ信じられる。
しかし、渡辺がゴメスに、波留が谷繁に、小笠原が山本に殺されたと、
それだけ聞いてもまるで実感が湧かない。
ゴメスは試合以外の場では物静かで敬虔なキリスト教徒だったし、
谷繁は、インタビューなどした限りでは…多分に強気ではあるが…気さくな男だった。
山本は温厚で世話好きで、多くの後輩に慕われていた男だ。自分も現役の頃は世話になった。
男は唇を歪めた。このプログラムは人を狂わせるというわけか。
「今中さん」
スタジオから出てきたスタッフらしき人間が男を呼んだ。
ああ、と男――今中慎二は投げやりに言葉を返した。
【残り36人】

174 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/10 13:15 ID:dvBX1LsX

19 俺は悪くない

『伊勢の名匠千子村正による本品はその鋭い斬れ味と徳川家康にまつわる因縁により妖刀との異名を持ち…』
山崎武司はその説明書をひととおり読み流すと丸めてぽいと草むらへ捨てた。暗闇の中、鞘から抜いた刀が月明かりに照らされる。
ぶんと、素振りの要領で真横に振ってみる。薄い刃が横にしなるので、バットよりもコントロールが難しいものなのだとわかった。
帰りたい。怖い、怖い。
恐怖心から彼はナゴヤドームからさほど離れていない母校の敷地に身を寄せた。とは言っても、既に彼の在学中とは様変わりして、随分と立派な校舎がそびえ立っていたのだが。
高校時代の山崎は、休み時間にこうやって(もちろん手にしていたのは今のように日本刀ではなく金属バットであるが)校舎の裏で素振りをするのが好きだった。
誰にも負けたくなかった。寸暇を惜しんで練習した。
愛着のあるナゴヤ球場を離れることになったときは確かに寂しかったが、同時にドーム建設場所が名駅近くの空き地から現在地に変更されたことを知ると、何度も車を飛ばして工事現場に足を運んだ。
ドラゴンズのホームグラウンドが高校のそばに出来ることで、後輩達が奮起してくれることを願った。
いつからだろう。そんな純粋な気持ちを忘れてしまったのは。
結果が出ない。容赦なく罵声が浴びせられる。
俺が何したっていうんだ。こんなに頑張ってるじゃないか。お前達に俺の気持ちが分かるか。
山崎は自分の思いとはうらはらにどんどん傲慢になっていった。挙げ句の果てが、昨年末の無茶苦茶なFA宣言だ。

175 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/10 13:16 ID:dvBX1LsX

山崎は知ってほしかった。頑張っていることを解ってほしかった。けれども彼はあまりに不器用で、それを素直に現す術を知らなかった。ひとり、またひとりとファンは離れてゆくばかり。
どうして誰も俺のことをわかってくれないんだろう。俺はこんなにも野球が好きで、こんなにもドラゴンズが好きなのに。ベイスターズに行きたいはずなんかないのに。どうして止めてくれないんだ。どうして。
ガサッ。
背後の草が揺れる音がした。
一気に血の気が引いた山崎は、刀を闇雲に振り回そうとした…
が、彼の最初の一降りで刀は止まった。
その刃は草陰から現れた井本直樹の首に、ざくりと刺さっていた。
「あ…やま…っさ……」
あああああああああああああああああああああああああ。
震える手で刀を抜いた。鮮血が飛び散った。
「うわあああああああああああああああああ!!!」
俺は知らない。俺は何もしていない。
あいつが悪いんじゃないか。俺の背後から襲おうとしたんだ、そうに決まってるんだ。
俺はちっとも悪くなんかないんだ。俺は悪くない。俺は悪くない。
物凄い勢いで、山崎は駆けていった。
【残り35人】

177 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/10 23:19 ID:Em2YLGfe

20 プログラムの魔力

時計の針は八時を幾分か回っていた。
ここは大須の商店街、街灯のお陰で夜でも明かりには困らない。
どうやら電気は止められていないらしい。
川上憲伸は辺りに人の気配が無い事を確認してから、
オープンカフェの店先に放置されていた椅子の一つに腰を下ろした。
何とか井端や小笠原に会えればと思っていたが、
今のところ手がかりが何も無い。
ドームを出てから、もう二時間ほど経っている。
あれからまた誰か死んだのだろうか…
川上は見てしまっていた。
ドームから少し歩いた地点の路上に放置されていた、
まだ温かい波留の死体を。
誰が殺したのだろう、そいつは俺も見付けたら殺すだろうか、
そんな事ばかりが気になって気分が悪い。
仲間を信じなければと自分を戒めてみても、
あの血塗れの死体のリアルさが脳裡にこびり付いて離れてくれないのだ。
元々オカルト系が苦手な川上にとって、その映像は強烈過ぎた。
自己嫌悪で頭が痛くなりそうだ。恐怖心からチームメイト全員を信じられなくなるとは。
ため息が自然と零れる。
おまけに支給された武器は、その辺で売っていそうな金槌。如何にも心許ない。
問題は山積みな訳だが、さて、これから一体どうしたものか。
せめてここに居並ぶ店が戸締りさえしていなければ、中に侵入して使えそうな物を…
…馬鹿な。何を考えてるんだ、俺は。それじゃ盗みじゃないか。立派な犯罪だ。
慌てて川上は首を振り、良からぬ考えを振り払った。
人を殺してもいい、というこの状況で犯罪云々の話を持ち出すのも滑稽だが、
それにしてもこんな事を考えるなんてどうかしている。
きっと、このプログラムという異常な状況には人の狂気を引き出す力があるのだ。
波留を殺した人間もその例に漏れなかったのだろう。
負けてはいけない。飲み込まれてはいけない。
川上は立ち上がった。やはり、まずは誰かと合流した方が良さそうだ。
【残り35人】

78 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/10 23:27 ID:Em2YLGfe

番外編1 横浜某所にて

NHKで野球に関する特番をやっているらしい、
と聞いてTVの電源を入れたのはつい三十分前のことだ。
しかし、もう五時間もこうして画面を凝視しているような気がする。
今年度から横浜ベイスターズ所属となった中村武志は、
未だに画面の中で起こっていることがよく飲み込めずにいた。
急拵えのセットの真ん中、スーツ姿の今中が、
現役時代そのままのポーカーフェイスでブラウン管越しにこちらを見つめている。
その回りには中村も見知った顔のアナウンサーや芸能人が配され、
何やら場を盛り上げようとつまらないトークを繰り広げていた。
「いやーどうですか今中さん、優勝はどの選手だと思いますか」
「…さぁねえ。僕は野球の解説なら出来ますが、
人殺しに向いてる選手なんて解りませんから」
「ははぁ、ごもっともですねぇ。あ、えー、今また新しく情報が…
山﨑選手が井本投手を殺害したそうで、
はい、これで残り35人という事になりましたね。
いや、なかなかハイペースじゃないですか、これは」
何だこれは。エイプリルフールには少しばかり早い。
中日ドラゴンズ。自分が十六年間所属していた球団。
去年フロントとの諍いで自分はこの横浜に来たわけだが、
それまで長年付き合ってきた仲間達が、今は遠き名古屋の地で殺し合いをしているというのだ。
しかももう五人も死んだという。
「しかしこう、何と申しますか、実に意外な選手が意外な選手をねぇ、
手にかけているわけですね。はい、こちらのフリップですが」
アナウンサーが机の下から一枚のフリップを取り出した。
誰が誰を殺したか、ということが簡単に纏められた表が印刷されているようだ。
中村は気分が悪くなってきた。
この連中、人の死さえ単なる視聴率のタネくらいにしか思っていないらしい。
「解説」に今中を呼ぶあたり、実に周到だ。
「あ、谷繁捕手が波留選手を殺害した場面を纏めたVTRが用意できたようですね。では…」
思わずTVのスイッチを切っていた。
もういい、もう充分だ。これは悪夢ではない、現実だ。よく解った。
身震いをした中村は、自分が冷や汗まみれになっていることに漸く気づき、
額を手の甲で擦った。全身がべた付いている。
今夜は眠れそうにない。

181 名前: 新参者 投稿日: 02/07/11 02:14 ID:5xQk4kfK

21 帰りたい男

カキーン。
青空に打球音が響く。追う。飛びつく。つかむ。投げる。
「まだまだぁ~っ!」
立ち上がりながら叫ぶ。
カキーン。
打球音が響く。追う。飛びつく。つかむ。投げる。
あぁ、オレは帰ってきたんや。またこのチームで野球がやれるんや。
随分回り道をさせられたけど、それも今はいい思い出や。
カキーン。
打球音が響く。追う。飛びつく。もう少しでつかめる…

ピンポーン。
その音で目が覚めた。時計を見る。00:01。
寝ぼけ眼を擦る。誰やこんな時間に…つぶやきながら、意味もなく天井を見る。
ピンポーン。
…無視したら諦めるやろか…
ピンポーン。
はいはいはいはい…しょーもない事やったらしばくぞ、ホンマ…
ベッドから転がるように降り、玄関に向かう。明かりをつける。
ピンポーン。
電気がついたらチャイムは押さんやろ、普通。何を考えとんねん。
だいたい、近所迷惑やろ。
「…誰やねん、こんな時間に」
壁にもたれ掛かりながら、細目の男は明らかに寝起きと分かる低い声でインターホン越しに聞く。
「なんや、こんな時に寝とったんかマイケル。相変わらずマイペースやなぁ」
種田は一瞬にして目が覚めた。聞き覚えのある声だった。いや、忘れられない声だった。
「か、監督!?」
あわてて玄関を開けた。男が見慣れた笑顔で立っていた。開いた口が塞がらなかった。
「おいおい、監督はないやろ?マイケル」
背番号77、真っ白なドラゴンズのユニフォームを着た星野仙一の姿がそこにあった。

184 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/11 15:16 ID:m8zmmHEL

22 NHKからのお知らせです

時間は少し遡り、夜の九時半。
すっかり辺りは闇に包まれている。
身を隠すために忍び込んだ団地の一角、入り口からは見えない建物の影で、
福留は膝を抱えてアスファルトの上に座っていた。
三月の夜はまだまだ寒い。体を動かしたい。
「いつまでもここにいても仕方ないんじゃないか…」
隣に座る荒木に縋るように問い掛けると、
その体が微かに震えているのが見て取れた。
「ん…確かにここに座っているだけじゃ、
誰かに襲われた時とっさに逃げられないだろうしな」
「だろ。さっき決めた通り、人が集まりそうもない千種の方に行って、
それからまた考えよう」
「わかったよ」
バッグを持って立ち上がり、伸びをしてみると、
随分体が強張っているのがわかった。寒い中ずっと座っていたのだから当然だ。
「それにしても寒いなー」
「まぁ、歩けば暖まってくるだろ」
「あれ…孝介」
「んん?」
「何か聞こえないか…」
ばりばりばりばり。
「ん、何だこの音」
荒木に言われて気付いた時には微かだったその音は、
あっという間に膨れ上がり、辺り一帯の空気を揺らす轟音になっていた。
見上げると、上空にはぎらぎらとした金属の固まり。ヘリコプターだ。
「…NHKのヘリか!」
「畜生、今更何の用だっ」
石でも投げてやろうかと睨み付けたが、
そんな事をしても無駄だと自分を落ち着かせる。
反抗したら何があるか解らないのだ。
『みなさーん、元気に殺し合いしてますかー。本部からのお知らせでーす。
会場が名古屋一帯だと広すぎる、退屈だ、と視聴者の方から苦情が来たのでー、
今から二時間後、十一時半ですね、それ以降この東区は立ち入り禁止にしまーす。
二時間たっても居座っている人はー、首輪が爆発してしまいますよー。
速やかに他の区へ退去してくださーい。以上でーす』
アナウンサーらしき男の、はっきりした声が辺りに撒き散らされた。
プログラムを盛り上げるための措置というわけだ。
「…くそっ、これで嫌でも移動しなきゃならなくなった」
荒木が吐き捨てる。福留は唇を噛んだ。
去っていくヘリコプターが堪らなく憎い。
【残り35人】

185 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/11 17:22 ID:dYBlu1wq

23 誰にもわたさん

いつもは人が溢れかえっているはずの街は、不気味に静まり返っていた。
街灯だけが照らし出す町の景色はなんとも言えない威圧感のようなものが漂っていた。
そこで森野将彦はぜえぜえと息を切らしていた。
先程のヘリからの放送を聞いて必至になって走ってきたため、いつもの彼にならわかるはずの道も全然わからなかった。
さっきまでいた東区からは出たつもり、ただなんとなくそれだけはわかった。
―仲間が欲しい…。クソ!こんなだだっ広い街の中じゃ探しようが無いじゃないか!!
実はここまで逃げてくる途中に一度だけ誰かに呼びとめられたような気もしたが、
その時の彼には立ち止まって仲間を見つける事よりも確実に命の期限が迫ってくる東区から出る事が先決だった。
森野は心底後悔した。あのとき立ち止まっていたらこんなに辛い思いをする事は無かったんじゃなかったのかと。
バッグに入っていた武器は護身用などに使うスタンガンだった。
こんなものが武器じゃあ万が一襲われてもまともに応戦すら出来ない…。
これも彼にとって大きな不安要素の一つでもあった。
暫くそこで息を整えているとどこかから小さく足音が聞こえた。
森野は、それに気付いた瞬間ビクリと体を起こし、バッグの中のスタンガンを取り出した。
まともに使い方もわからなかったが、こんなものでもないよりはマシだった。
そして、それを震える右手でしっかりと持ち、聞こえた気がした方向に声を飛ばす。
「誰ですか!?僕は森野です!!居るんなら返事して下さい!!」
足音の主はその姿を彼の前に表した。
「…た・・た、立浪さん…」
足音の主―立浪和義はククッと鼻を鳴らした。

「よう森野ー、探したんよ、お前の事。」
そう言った彼の口の端にはわずかな笑みが貼りつけられていた。
「さっき呼び止めたのにお前走ってってまうからさあ、負いかけんのに必至やったよ。」
どんどん距離が狭まってくる。気付くと立浪はすぐそばに居た。
そして、彼は言った。
「なあ森野、悪いんやけど…死んでくれんか?」
瞬間、左の太もも辺りに激痛が走る。
「ーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない声で叫ぶ。そして足を刺され、バランスを失った森野はその場に倒れこんだ。
「お前等が居るからオレが二塁をやれんのや!!!!」
そう、あの時だって抱いていた敵意は福留にたいしてではない、そのそばに居た荒木に対する敵意だった。
ただあの時の相手は銃を持っていたし人数も二人、そしてこっちは一人。
本気で戦っても体に鉛弾を埋め込まれるだけで終わりになっていたかもしれなかったのだ。
立浪は倒れた森野に馬乗りになって首を締める。
「…や…やめ・・てくださ…い…」
必死にもがきながら腹のそこから力を振り絞って叫ぶ。
「オレが二塁や、誰にも渡さん、誰にもだ!」
止めを刺そうとした瞬間どこかから「やめろ!!!!」という声と共に立浪と森野の顔の間を何かが走り抜けた。
とたんに拘束が解け、森野は酷く咳き込む。
『それ』が飛んでいった方向に顔を向けると街灯の鈍い光に照らされた細長い銀色の物体が落ちていた。

187 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/11 17:37 ID:dYBlu1wq

その物体は、細身の銀の矢だった。悪魔を討つ為の銀の矢だった。
飛ばされてきた方向からは、落合英二が姿を表した。
立浪の手には先程の森野のスタンガンが収められていた。ドサクサに紛れ森野から奪ったのだ。
そして彼は「チッ」舌打ちしてその場から姿を消した。
「森野?!大丈夫か?!」
「な・なんとか大丈夫みたい、です…」
まだ咳き込みながらではあるが、しっかりとした声で返事をした。
「嫌な空気が流れてきた様な気がした。まさかこんな事になっていたとは…」
落合は立浪が消えた方を見つめ、小さく呟く。
「…立浪とはまた顔をあわすことになりそうだな…」
また中心街に静寂が訪れた。

【残り35人】

188 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/11 18:10 ID:HrHHiWJc

24 夢は何マイルか


ぐらぐらと煮立つ鍋の前で額に汗を浮かべる落合の姿があった。
その横で、小山伸一郎はぼんやりと立っている。
手伝うつもりで厨房に入ったのだが、あまりの手際の良さに、入る隙がなかった。
「そこのどんぶり、持ってきてくれ」
「あっ、はい」
チャッ、チャッ、リズミカルに湯を切り、湯気の上がった麺を小山の差し出した丼に開ける。
「具はそこにあるの適当に…でも明日のぶんは残しておくんだぞ。正津ー!メシ。ちょっと休憩だ」
遠くで正津英志が応え、こちらへやってくる。いい匂いが辺りに漂う。
「落合特製宮きしめん、完成ーーー。早く座れ」
逃げ込んだ熱田神宮の売店には、冷蔵庫に保管された食材が山ほど残っていた。普段の参拝客の多さを物語っている。
「では、揃ったところで、頂きます」
「頂きます」
箸を割り、麺を口に運ぶ。落合流は、かつおとこんぶの合わせだし。
「……落合さん………」
泣きそうな顔。
「どうした、小山、口に合わんか?」
「………うまいッス……」
くしゃくしゃな表情に、落合はほっとした。そして再び、麺をゆでているときと同じく真剣な顔つきになり、正津のほうを向いた。

189 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/11 18:11 ID:HrHHiWJc

「どうだ正津、ラジオのほうは」
「難しいですね…なかなかバンドが合わなくて。今誰かのマイクを拾ってるんですけど、一人でいるみたいで息がハアハア言ってるだけなんですよ」
「そうか…俺達以外は単独行動なのかな」
「そうなら寂しいですね」

休憩所の座敷に森野が眠っている。
小山は再び落合ときしめんを作りながら考えていた。
「相当体力消耗してそうだったから、卵も乗せてやってくれ」
ここにいるメンバーで、役に立たないのは俺だけだ。
「わかめはさっき冷蔵庫しまったからな」
落合さんは気が利くし、正津さんは器用だし、
「森野って出身どこだっけ?もっと濃いめのほうがいいかな」
森野は頑張りやだからきっと俺よりかわいがられるに決まってる。
「お盆あっちにあったぞー」
見捨てないで落合さん…もう後輩に追い抜かれるのは嫌だ……
「…やま、こ・や・ま!」
はっと気が付くと、丼を乗せた腕を掴まれていた。汁が波打って盆の上にこぼれた。
「刃物をひとに渡すときは、自分が刃のほうを持つ、だろ?」
小山の手から、盆の下に隠したキッチンバサミが落ちた。
「滅多なことは考えるんじゃないぞ、お前も森野も正津も、みんな俺の可愛い後輩なんだから」
小山がわあと泣き出す声で、森野は目を開けた。

193 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/11 22:54 ID:hvTWA5wL

25 何もいらない

澄んだ静寂の中、野口茂樹は心地よい倦怠感に身を任せていた。
黄味がかった薄明かりと湿った空気。木の長椅子。
ああ、本当に静かでいいな。今にもパイプオルガンの音色が聞こえてきそうじゃないか。
支給品の地図の裏にここのスケッチもしてしまったし、もうする事は何もない。
正面の大きな十字架を何となく眺めながら、野口はスポーツバッグの中を探った。
別にキリスト教を信仰しているわけではない。
ただ、目的も無く昭和区の住宅街を歩いている時、
不意に目に入った「南山教会」の文字に何故か惹かれた。
それにここの静けさは、死に場所には丁度いい。
神様のお膝元からなら迷わず昇天できそうだ。
エースと呼ばれて一年間を戦い抜き、その報いがボロボロになった左腕と殺人ゲーム。
ああ、下らない。もう疲れた。疲れ果てたよ俺は。
せめてこの死を以って反抗の意としておこう。
バッグの中から取り出したのは、ごく一般的なカッターナイフ。
武器としては役立たずだが、手首の動脈を切り裂いて死ぬには充分だろう。
左手にしっかりと握ると、右手首に当てがった。
冷たい刃物の感触に思わず微笑む。
年俸一億円以上貰ってる男が安物カッターでリストカット自殺か。
面白すぎて笑い話にもならない。
でも、仕方がないじゃないか。もう欲しいものなど無い。
金も名誉も命も全てどうでもよくなった。
だから、せめて死に方くらい自分で選んだって罰は当たらないだろう?
エースという称号も一年で手放さなければならない、
野球の神様に見放された自分だけれども。
力を込めると皮膚に鋭い痛みが走り、それから刃の下から血が滲み出した。
もっと奥だ。ああ…さすがに痛いな。
刃がずぶずぶとのめり込んでいくのがまるで作りものの様だ。
鼓動に合わせてどくりどくりと溢れ出す血は、鮮やかな赤色をしていた。
だんだん全身から血からが抜けていく。座っている事ができなくなり、体を横たえた。
カッターを引き抜こうかと思っていたのだが、もうそんな余力は無いようだ。
野口は目を閉じた。この瞼を上げる事は二度とないだろう。
父さん母さん先立つ不孝をお許し下さい、か。やれやれ。金は残していくから勘弁な。
椅子を伝い、床に鮮血が滴り落ちていった。
【残り34人】

194 名前: ?V?Q?O`?u¨?ss???[?t?@?? 投稿日: 02/07/11 23:51 ID:pKhC8LzO

26 燃える男

種田仁は星野仙一がいた空間をぼおっとながめていた。
頭の中では、星野の言葉が繰り返されていた。
「色々、辛い思いをさせたな。すまなかった」
そんな…監督が謝る事やないですって。
あのままドラゴンズにいたら、代打の切り札で満足してしもうたかもしれん。
ベイスターズに来て、もう一回レギュラーを狙う気になったんや。
感謝こそすれ、憎むなんて…
「波留が死んだ。だが、お前のせいじゃない」
…何やて?波留さんが?…
「これから、タケシとダイスケの所にも行く」
中村さん?ダイスケて、益田か?
「もしかしたら、これが最期になるかもしれん」
…え?最後?最後って…何でや?
「これからのドラゴンズを、よろしく頼む」
え?何言うてますの?監督…オレはいまベイスターズの選手なんやで…

195 名前: 新参者改めルーファン 投稿日: 02/07/11 23:53 ID:pKhC8LzO

何が起こったのか分からず、混乱した頭のまま寝室に戻った。
ベッドに腰掛け、もう一度星野の言葉を思い出す。
これは…夢ちゃうやろか。頬を抓る。痛い。夢ではない。
不意にテレビが目に入った。何かに導かれるようにスイッチを入れる。
深夜番組らしく、妙に高いテンションの番組が映し出された。
だが、何かが違う…。
「ゴメスが渡辺を、山本昌が小笠原を、そして未遂に終わりましたが、立浪が森野を…
 やはり、同じポジションでのライバル意識が剥き出しになってますねぇ。
 山崎はちょっとパニックになってますねぇ。井本の武器を奪わなかったのは大きなミスです。
 これが今後、どういう影響を及ぼすのか、ひじょーに注目される所です」
アナウンサーの声と同時に画面に出たのは5人のドラ戦士たちの顔写真。
写真の下に赤い文字が書かれている。
渡辺/ゴメスに刺殺、波留/谷繁に斬殺、川崎/首輪爆破(実験台)、井本/山崎に斬殺、小笠原/山本昌に銃殺…
殺人番組。一瞬、その考えが頭を過った。だが、あり得ない…この日本でそんな…。
だが、カメラがスタジオ内をパーンした時、絶望的な表情を浮かべる今中と、
邪気のない笑顔を浮かべる古田の顔が写った。
「…そういうことでっか…監督…分かりました。」
種田は理解した。
ドラゴンズを出された自分達、いや、少なくとも自分の使命。
それは、この馬鹿げたプログラムの後も、ドラゴンズという球団をこの世に存在させる事。
ならばこの出来事は全て見ておかなければならない。
たとえそれが、拷問より酷い責苦だとしても…

196 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/11 23:55 ID:pKhC8LzO

星野仙一はベンツの後部座席に深く腰掛けていた。
「なぁ、島野。降りるなら今のウチだぞ」
しかし、運転している男は返事をしない。その代わりにアクセルを強く踏み込んだ。
このベンツの他に走っている車はない。おそらく日本中が馬鹿らしい殺人番組のとりこになっているのだろう。
「…まぁ、ええわ。好きにせぇ」
星野は笑いながらそう言った。
おそらく、これから自分が生きて戻れる可能性は万に一つもないだろう。
だが、愛したドラゴンズがむざむざ地上から消されるのを指をくわえて見ているのは性に合わない。
絶望的な状況になるほど燃える。星野は結局、そういう男だった。
「…野口が、死にました。自殺だそうです」
運転席の男はそう言った。イヤホンから情報が入ってくるらしい。
星野はそうか、とだけ言い、目を閉じた。
男2人を乗せたベンツは、夜の横浜を西へと走る…。
【残り34人】

209 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/12 16:53 ID:6nLeWm4/

27 第二日


「キョオーモゲーンキナアーサガキター、シアワセイッパイアーサガーキター」
「---%&☆@◇*ッ!!」
鶴舞公園のスピーカーから大音響で響き渡るラミレスの歌唱と思われる歌声は、常人よりも繊細な部類に入る井端弘和の神経を覚醒させるに十分であった。
起こされなくても、とっくに起きてるっての。いや、ほとんど寝てないっての。この状況で熟睡なんか出来るかよ。
全く、他人の神経逆撫ですることばかりしやがって……、生きて返ったら滅茶苦茶にしてやる。
歯噛みをする井端の耳からあまりに美しすぎた歌声がフェイドアウトし、ほどなくして、あの、ドームで聞いた古田の声が飛び込んできた。
「皆さん、おはようさん…古田ですー。こっちも各局総力あげて中継さしてもろてますから、この調子でどんどんいっちゃってくださいな」
そして古田は至極当たり前のように、これまでに死亡した人間の名前を、それを放映した時点の瞬間最大視聴率をアナウンスした。
「おかげさまでいーい絵を撮らしてもらってますー。今日も一日、頑張ってください。ほな、また」
死亡者の中に『野口茂樹』の名前があったことで井端は脅えていた。昨晩、八事の方向へと歩いてゆく、彼の姿を見かけていたからだ。
確かに井端は声をかけた。
しかし、野口はただ、寂しげな表情(街灯のせいでそう見えただけなのかもしれないが)を返して足を止めることなく去っていったのだ。
もしも力づくで野口さんを引き止めていたなら、あの人は助かっていたかもしれない。あのあと、誰が野口さんを殺したんだ…、誰が!!
もしかしたら犯人はこの近くにまだいるかもしれない。むざむざと殺されてなどやるものか。早くトラップを張らなければ………
木の枝で作った鳴子は着実に増えていた。
支給品のゲイラカイトにセットされていたたこ糸で繋ぐ。
来るな。来るな。誰も来るな。ここへ来るな。
ひとつ、またひとつ、井端は無心に鳴子を繋いだ。

212 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/12 22:35 ID:aOYk0BJt

28 ターゲット

名鉄の線路沿いを南に歩く2人の影。
「…それにしても、腹減ったな」
ナゴヤドームからここまで、飲食店は多くあった。
しかし、どこもかしこもシャッターを下ろしていた。
この殺人ゲームが終わったら、きっと何ごともなかったかのように日常生活が始まるのだ。
オレ達の事も、いずれ忘れ去られる。そう考えて、筒井はふっと笑った。
「どうしたんですか?」
「いや、オレもいずれ死ぬんだよな、と思ってな」
「そんな、止めて下さいよ…」
そうだ。人間の一生なんてたかだか80年。
100年も経てば、今生きている人間は全て死んでいるんだ。
ショーゴー、お前もだ。…尤も、そう簡単に死ぬつもりはないが…

213 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/12 22:36 ID:aOYk0BJt

2人はナゴヤ球場の近くに来ていた。辺りを朝日が包み始めている。
「あ、筒井さん、店が開いてますよ。ひと休みできますね」
森は言うが早いか走り出していた。
「おい、待て」
筒井の制止も森には届かない。あっという間にその姿はシャッターの下りていない喫茶店に消えた。
…バカが。敵がいるかもしれないのに…
筒井は森の後を追った。そして、自分の考えが間違いでない事を知った。
「不用心だなショーゴー、筒井。そんなんだから、いつまでも2軍なんだぞ」
森の視線の先には銃が。そしてその銃を持っているのは…
「昌さん、何で…」
「ここにいれば、誰かが来るだろうと思ってな。リュックを降ろして両手を挙げろ」
「…昌さん、オレ達を殺す気ですか?」筒井が聞く。
「いや、お前らはオレのターゲットじゃない」
「ターゲット?」
「ん?ああ、気にするな…なんだショーゴーは携帯テレビか…貰っておくぞ。…おいおい筒井、お前は石か。貧乏くじだったな」
リュックを調べ終わると、山本昌は銃を腰のベルトに差した。
「朝飯、食うか?モーニングセットだ。セルフサービスだけどな」
食べかけのトーストに山本昌はかぶりついた。
…ここはこの人に従う他ないか…だが…。筒井は後ろポケットに手をやった。
小さなビニールに入った白い粉。自分に与えられた本当の武器はまだ黙っておいた方がよさそうだ。

214 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/13 00:42 ID:hs4os4uz

29 笑み

「お前ら、岩瀬見なかったか?探してるんだよ」
言いながら、山本は立ち上がった。
「え、岩瀬さんですか…って!山本さん!」
自然と山本の姿を目で追い、そして森は気付いた。
山本のユニフォーム、腹部の辺りに広がる赤。
先ほどは銃を向けられた恐ろしさに全く気付かなかったが…
乾いて黒ずんだその色は、明らかに血だ。
「山本さん、怪我してるんじゃないですか…そこ、血が…」
「…これは返り血だ。質問に答えろ」
山本はベルトに挿した銃に手を伸ばして見せた。
思わず背筋が伸びる。
「えっ、あっ、見てないですっ…ねえ、筒井さん」
筒井はコーヒーを啜りながら頷いた。
まだ機嫌が悪いらしく、眉間に皺が刻まれている。
「そうか、ならいいんだ。…俺はもう行くから」
そうですか、それは良かった。森は胸を撫で下ろした。
山本さん、怖いですよ。そんな、返り血なんて。
だってそれって…人を殺したんですか?早くどこか行って下さいよ。
「じゃあな。せいぜい生き延びろよ」
「待って下さい、山本さん」
筒井の声が、山本の背に向かって鋭く飛んだ。
「つ、筒井さん…もういいじゃないですか」
「黙ってろショーゴー。山本さん、一つ教えて下さい。
あなたは人を殺したんですか」
一瞬の間の後、振り返らぬまま山本が答えた。
「殺したよ、小笠原を。岩瀬も山北も殺すつもりだ。
最後の仕上げには、高みの見物をしてるあいつをな」
そこまで言い、振り向いた山本の顔は笑っていた。
狂気の笑み…ではない。しかし…
「じゃあな」
気が付くと、森は腰を抜かしていた。
【残り34人】

215 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/13 00:54 ID:1guOKygv

>>211

折衷で訂正
(誤)
これまでに死亡した人間の名前を、
(正)
これまでに死亡した人間の名前と、
(最新)
これまでに死亡した人間の名前を、そして

218 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/14 00:01 ID:yRLSRhUL

番外編2 所沢にて

「さて、ここで情報が入りました。ナゴヤ球場の方で何か動きがあったみたいです。
 今、現場に中継のへりが飛んでいます。…つながりますか?
 はい、それではカメラを切り替えます」
アナウンサーの声と同時に画面にナゴヤ球場が現れた。
ナゴヤドームが出来て以来、空から見るナゴヤ球場を見る事は少ない。
レフトスタンドも照明灯も取り壊され、以前の面影も失われつつある。

「今度は誰が殺されるんだ?」
「誰が生き残るか賭けないか?」
西武ドームのロッカールームでは、テレビを囲んだ若手からそんな声があがっていた。
そうか、オレがあそこにいたことを、こいつらは知らないのか…
無理もない。清水雅治はあの日の事を思い出していた。
平成8年10月8日。
中日と巨人は130試合目、勝った方が優勝といういわゆる「10.8」
中日の先発は今中、巨人は槙原。
今中は対巨人戦5連勝中。その数字を示すかのように1回の表は三者凡退。
…よし、いける。そう思った。
トップバッターは清水。
快心の打球は右左間を破るツーベース。
どうしても先取点が欲しい。当然、ベンチのサインは送りバント。
槙原の投じたボールはストライクコースへ行く。
清水の足は自然と3塁方向へ進んだ…が。
小森のバットを、ボールはすり抜けて行った。
キャッチャーからの牽制が2塁ベースに向かって飛んでくる。
まずい!そう思った時にはもう遅かった。

多くの人が、オレのせいではないと言ってくれた。
だが、あの試合で負けたのは間違いなくオレのせいだ。
あの日のミスを取り戻すために、オレはプロ野球選手を続けている。
だが…。
あの日、同じグラウンドに立っていた選手が目の前で殺し合いをしている。
…トレードがなければ、オレもあそこに立っていた…
現実は残酷と言うが、これ以上残酷な事があるだろうか。

ナゴヤ球場近くの駅で何かが爆発した様子がテレビに映し出された。

219 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/14 00:05 ID:yRLSRhUL

スマソ、誤記訂正

5行目
×「空から見るナゴヤ球場を見る事は」
○「空からのナゴヤ球場を見る事は」

220 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/14 00:41 ID:3pBenFKY

30 殺るか殺られるか

「マコトさん、隠れるのダメ。出て来い」
…ハゲが、好き勝手言ってくれる。出て行ったら殺すつもりだろうに。
斬り付けられた左手を押さえながら、毒づいた。
ナゴヤ球場前駅構内。
かつては多くのファンが通ったであろう改札の陰に、紀藤真琴は隠れていた。
青龍刀を振りかざしてきた大豊の目を支配していたのは、間違いなく狂気。
誰も殺さず、誰にも殺されず事が終われば良かったが、そうは問屋が下ろしてくれないらしい。
自分の足下に目をやると、左腕を伝った血が点々と落ちていた。傷は浅い。だが、いずれ見つかる。
あの男を殺さなければ、自分が殺される。
…やるしかないか。そう決めると不思議と心が落ち着いた。

「マコトさぁぁん?ドコデスかぁ?」
日本人になって何年になるんだよ?いつまで経っても日本語が下手なヤツだ…。
顔をしかめながら、リュックの中に手をやる。
「ハハハァ、こっちカ」
どうやら血の痕を見つけたらしい。足音が次第に大きくなる。
不意に…紀藤は立ち上がり、振り向きざまに手榴弾を投げた。
その手榴弾が大豊の足下に転がるのを確認すると、
紀藤はリュックをつかんで走り出した。

背後で爆発が起こった。

221 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/14 01:22 ID:hwDmJen4

31 咆哮

爆音に気付き外に駆け出した森の目に映ったのは、黒煙の立ち上る「ナゴヤ球場前」駅の残骸だった。
「こりゃひどい…」
後から追いついた筒井が眉を顰める。
正直、自分達は一軍戦よりも、ナゴヤ球場で行われる二軍戦に出場する機会が多かった。
二軍戦を見に来てくれる人々にとって、この駅はとても重要な存在だったはずだ。それなのに。
そりゃあ、駅なんて作り直せばいいものかもしれない、しかし…
「…おい、ショーゴー。こっち来てみろ」
森が考え込んでいる間に、いつのまにか筒井は瓦礫の中に立っていた。
「そんなとこ危ないですよ、筒井さん」
「いいから。これ…見ろよ」
瓦礫に足をとられないよう恐る恐る筒井の隣まで歩き、それから森は、再び腰を抜かした。
「おい、危ないぞお前…そんなとこに座ってどうする」
「だ、だって、これ!た、大豊さん…が、死んでる…」
筒井の足元には、頭と右腕の無い焼死体がうつ伏せに横たわっていたのだ。
ユニフォームの背番号は辛うじて読み取れる。60、と。
「ん…ユニフォームからして、大豊さんらしいな」
「…さっきの爆発に、巻き込まれたんでしょうかね…?」
「多分。立てるか」
「は、はい」
筒井の差し出した手を掴み、森はふらりと立ち上がった。情けないことにまだ膝が震えている。
「これで7人目か。今朝の放送から誰も死んでなければ」
「…だ、誰がこんな…大豊さんはいい人で…」
二軍でよく一緒になった大豊。未だに少したどたどしい日本語と、
頼もしげな笑顔が印象的だった。まるで父親の様な。
「馬鹿。極限状態なんだぞ。ひょっとしたらこれは正当防衛かもしれないんだ。
大豊さんが温厚な人だったのは俺も知ってるけど、な」
正当防衛だって。襲われて襲い返す、こんな状況でそれをしたら泥沼化するばかりだ。
様々な感情が森の頭を締め付けた。
返り血を浴びていた山本。今ここで死んでいる大豊。そしてこれまでに6人も死んだという事実。
「…狂ってる。みんな狂ってますよ!どうしてこんな事ばかり起こるんですか!
どうしてチームメイトが殺し合わなきゃならないんですか!」
森は叫んだ。天に向かって吼えた。何にもならないと知っていながら。
筒井は何も言わず、大豊の死体を眺めていた。

【残り33人】

225 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/14 11:09 ID:96nuOcT8

32 荒木負傷

「・・・うぅっ」
「起きたか?」
荒木は古田のアナウンスで目が覚めた。
「今メシ作ってやるからもう少し横になってな」
福留は泊まっていた民家の階段を下りてながら昨晩の出来事を思い出していた。

~~~ヘリからの警告を聞き福留と荒木は西へ向かっていた。放送から30分たっただろうか。
2人は歩き続けていた。
東区からは出た。
しかし、ここまで来る間に誰にも会うことは出来なかった。
やっぱり名古屋は広いんだな――
「これからどうする」
荒木はバッグの中に入っている水を飲んだあと言った。
「あぁ・・・」
「とにかく仲間になってくれそうな人を探そう」
「そうだな」
―――仲間になってくれそうな人―――
福留はふと立浪さんのことを思い出した。
彼は必ず仲間になってくれると思っていた。みんなが助かる方法を考えて何とかしてくれるんだろうとも思った。
―――しかし現実は違った。
彼は自分たちに刃を向けた。自分たちを殺す気だった。
今でも信じられない・・・。いや、信じたくない。
あの立浪さんが・・・。
福留と荒木は進み続けると、大きな通りの交差点がある所に出た。
夜であることもあったし、車の行き来が全くないので静まり返っていた。
街灯が数個だけついていた。
十字路の真ん中に誰かが立っている。
2人から見て後ろ向きに立っていて顔はわからなかったが、背番号を見て誰だかわかった。
『57』蔵本英智だ。
「蔵本さんだ」
荒木は蔵本の方へ走っていった。
「蔵本さんはここで何してるんですか」
「ちょっと荒木、待てよ」

226 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/14 11:10 ID:96nuOcT8

荒木と蔵本との距離が5メートルくらいになった時、蔵本は2人の方に向いた。
蔵本は向いたと同時に何かを構えていた。
ボウガンだ。
「荒木、逃げろ!」
福留は荒木の方へ走りながら叫んだ。コイツは殺る気になっている。
ボウガンから矢が発射された。
「うっっ」
矢が荒木のわき腹をかすった。
荒木も必死によけようとしたが、間に合わず、わき腹をおさえながら倒れていった。
血がおさえている指先の間から流れ出ている。
「荒木!・・・くそっ!!」
福留は倒れている荒木の所へ駆け寄った。
荒木が顔中汗だらけになりながら苦しんでいる。
「大丈夫か」
カチャカチャ。蔵本の方から音がする。福留が蔵本の方を見ると、蔵本が次の矢を装填しているのだ。
俺たちを殺す気か――
しかし、使い慣れていないせいか、装填に手間取っている。
やばい。この距離から矢をさけるのはまず不可能だ。
仕方がない・・・。福留は自分のバッグを開け、奥底にしまっているあれを取り出した。
―――使わないと決めていたが
蔵本にあれ・・・COLT GOVERNMENT M1911A1を向けた。
「ここから消えろ。撃つぞ」
声が震えていた。当たり前だが、こんなセリフ今まで言ったことがない。
「・・・・・・」
蔵本は表情を変えず、ボウガンをおろした。そしてそのまま走っていった。
福留の視界からは完全に消えた。
ふぅ~。全身の力が抜けるようだった。
殺されることと、銃を持った緊張感から解放されるようだった。
「荒木、大丈夫か」
「・・あぁ・・」
汗がひかない荒木は弱々しい声で言った。
「とにかく手当てしたほうがいい。民家に行けば何か道具があるはず」
荒木を担ぎ、歩いていった。

~~~~~~
思い出しただけで頭が痛くなる・・・。誰を信じればいいんだろうか。

230 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/14 19:25 ID:UReXi3sN

33 おとうさん


長島温泉・ホテル花水木。
球団から強制避難させられた寮生の一人である前田章宏は、浴衣姿で部屋の窓から庭園を眺めていた。
中継は既に総合テレビに切り替わってしまったらしく、昨晩から付けっぱなしの画面には小学生のリコーダーアンサンブルが写っていた。
お父さんは、大丈夫かな……。
前田には、父と慕う人物がいた。
紀藤真琴。
同じ高校の出身というだけで、一回り以上も年齢の離れた紀藤は入団前から前田にあれこれと世話をしてくれていた。
「今日から俺のことは、父だと思って何でも言いなさい」
「親子と言えども野球の場では他人だ!」
……わけのわからない人だったなあ。
キャンプでは同じ部屋に寝泊まりし、高校のこと、紀藤が広島にいた頃の名古屋のこと、夜毎に語り合った。
親子ほど年齢の離れた二人ではあったが、紀藤が年齢に似合わず若々しく前田がしっかり者であったため、まるで兄弟のようにも見えた。
お父さんは、山本さんと仲が良かったと思うんだけど…
昨日の中継では、山本さんは優勝候補って言ってたからな。
なんで皆、あんなふうに変わってしまうんだろう……。
表情を曇らせた前田の耳に、電子音の『燃えよドラゴンズ』が入った。
慌てて取り上げた携帯電話の画面には、メールの着信記録が表示されていた。

231 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/14 19:25 ID:UReXi3sN

34 ユーガッタ・メイル


臨時閉店中のツクモ電機本店の片隅に、人影があった。
『ブロードバンドを体験しよう!』コーナー。
一心不乱にキーボードを叩く中里と、それを観察するのにもいささか飽きた様子の朝倉。
中里が昨年オフにパソコンを買ったのは知っていたが、いつの間に覚えたんだろう。コンソール画面には朝倉がおよそ目にしたことのない文字が流れていたが、いとも簡単にレスポンスを入力する中里に驚きの念を隠し得なかった。
「やった!!朝倉さん、通じましたよ!!」
腕を引っ張られて画面を覗く。
「何だ?これ」
「何だ、って…、ええとこれはですね、ブラウザから見られるフリーのメールを……、あーもう気にしないで下さい、メールが外の人間と通じたんですよ」
馬鹿にしたような口調に少し腹が立ったが、渋々指を差されたところを見る。

  Date: Mon, 25 Mar 2002 9:32:55 +0900 (JST)
  From: akihiromaeda@******.ne.jp
   To: nakazato_a@*****.co.jp
Subject:中里さん?!

 章宏です!!今どこにいるんですか?他の人達とは
 一緒なんですか?!僕達は村田さんと一緒に長島温
 泉に来ています。


「……これ、章宏?」
中里は満足げに笑みを浮かべた。
「そうですよ。マシンは落としてあったけど、ネットワークの回線は生きていたんで、設定変えたら繋がりましたよ」
「そっかあ長島温泉か……こっちは生きるか死ぬかなのにいいよなあ。
 で、どうするんだ?」
中里が口を開こうとしたそのとき、裏口で物音がした。
「おーーーーい、誰か、いるのか?」
言葉を返す代わりに中里の口をついて出たのは小さな溜め息だった。
厄介なことになったなあ………。

240 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/15 00:40 ID:1cTtByFN

35 ある滅亡の夢

ナゴヤ球場からあまり離れていない小さな公園に紀藤はいた。
ユニフォームの切れ端を巻きつけたお陰か、左腕の傷からの出血は止まっていた。
何故か鉢合わせてしまった山本が隣で拳銃を弄くっている。
小さな滑り台の上に大の男二人は窮屈だ。ぬるい太陽の光が辺りを照らしていた。
「…夕べ一眠りした時に、やな夢を見た」
不意にそんな言葉が零れた。悪夢は人に話すといい、というのは本当だろうか。
「へええ。よくこんな状況で寝られたもんだな。俺は徹夜だよ」
「お前と違って誰も殺してなかったからな。…ああ、さっき一人殺したか」
「やっぱりお前だったのか、あの爆発」
大きな背を丸めて山本が笑った。
「あれは…正当防衛だ、言っとくけど」
「へぇ。左腕の怪我で駅一つ爆破してたんじゃ追いつかないな」
また笑う。紀藤は苛立った。
「茶化すなよ」
「ああ、悪い悪い。で?夢って?」
「…世界が滅亡する夢だよ」
「おいおい、スケールでかいな」
全くだ、我ながらどうしてこんな夢を見たのか。
「俺は瓦礫の山の上に座ってた。夕日が綺麗だったのを憶えてる」
「なんで滅びたんだよ、その世界は」
「知らん。もう滅ぶに任せるしかないと思ってたな、夢の中では。で、俺はそこで人を待ってた」
「誰だよ」
「息子」
「へ、お前息子いたっけ」
そうか、こいつには言ってなかったか。
「…いや…いいんだ。結局そいつは来なかったよ」
「ふうん、専門家に聞かせたら面白く分析してくれるかもな。…さて。そろそろ行くわ」
「小笠原を殺したんだってな、お前。街頭テレビで見たよ」
立ち上がった山本は、そう言われても特に驚いた様子は見せなかった。
「ん。野口と井本が死んだから、あと三人だ」
それどころか、しれっと「犯行予告」だ。とんでもない食わせ者だと思う。
「やれやれ、左腕全員殺す気だったか。…ん、人数が一人多くないか」
残るは岩瀬、山北の二人のはずだが。
「俺も昨日の夜、街でテレビを見たんだよ。今は携帯テレビも持ってるしな」
それだけ言うと、山本は一気に地面に飛び降りた。すぐその背は見えなくなった。
やがて紀藤もゆっくりと立ち上がった。「息子」は元気だろうか、などと考えながら。

【残り33人】

242 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/15 17:32 ID:UEy7o9x7

36 明日、あの海で

海を臨む貨物の廃駅に造られた小さな遊園地。誰もいないはずのその場所で、観覧車が、今、ゆっくりと動き始めた。
岩瀬はそれを確かめると、目の前に降りてきた真っ赤なゴンドラに乗り込む。
一人で乗るそれはやや危なげに傾いたが、やがて安定を取り戻し、遠くに名港トリトンが姿を現す。
何度も訪れたそこは穴場でも何でもない、名古屋の定番デートスポットではあったが、夜の闇に紛れてしまえば誰も自分が著名な野球選手であることなど気づかなかった。
そこを歩く者は恐らく誰も、自分の恋人に夢中で精一杯なのだろう。
それは岩瀬自身もそうであり、将来を誓った恋人といて何が悪いのだと、堂々と歩いた。
海の匂い。
それは恋人と過ごした場所の匂い。
閉め切ったゴンドラの中ではもはやわからない。
一周したら、もっと水際まで行こうと思った。
けれども、岩瀬にとってのささやかな静寂は、終点で待つ男によって破られた。
『中継ぎエース』としての自分を狙うスナイパー。
最期の時くらい、一人にしてくれよ。
俺にはもう手に入れられないものを、貴方は持ってる。
エースの称号なんて、所詮はいっときのものにすぎない。
俺が手に入れたかったのは、そんなものじゃないのに…。
名古屋の上空を巡ったゴンドラは、地面に降りる。
ドアを自らの手で開けて、岩瀬はその男と対面した。
「こんにちは、山本さん」

243 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/15 17:54 ID:hcy+g7R2

37 悪役

『君には悪役になってもらいたい』
蔵本は血まみれで瀕死状態の柳沢裕一を見つめていた。
常にこの言葉が頭から離れない。

ゲームが開始し、名前が呼ばれドームのゲートから外へ出ようとした時
「ちょっと君、来てくれないかな」
40代くらいの男性に呼び止められた。
「君にやってほしいことがある」
やって欲しいこと?何だ??
理由もわからないまま、男性についていった。断る理由もないしな。
男はドーム内の駐車場にあるワゴン車の中へ蔵本を連れて行った。
―――逃してくれるのか?免除か?
そんな期待も一瞬、した。しかし、現実はとても残酷なものだった。
車内には先ほどの男以外に4人いた。
首から何かを下げている。どうやらNHKの関係者らしい。
「さっそくだが、君には悪役になってもらいたい」
意味がわからなかった。悪役??
「いきなり言われてもわけわからんかもしれんが、悪役を演じて欲しいんだよ、君にね」
蔵本は黙ったままでいた。状況がいまいちつかめない。
関係者の1人がニヤニヤしながら言う。
「ほらぁ、中日の選手ってどちらかというと仲良しグループて感じじゃん。だからさぁ、殺し合いをやると言ってもなかなか実行する奴いないと思うんだよねぁ、だったら視聴者も楽しくないじゃん?」
奴らが言っていることが何となくわかった気がした。
「要するに俺にチームメイトを積極的に殺して欲しいって言ってるんだな」
「まっそんな感じ」
冗談じゃない。チームメイトを殺すなんて・・・。
「やめてもらっては困るんだよねぇ。こっちとしては。上の人たちに頼まれたことだし」
他の関係者たちがニヤニヤ笑っている。
腹が立つ。
「本当に出来ません」
「こっちが何回頼んだってそう言うと思ったよ。だからねこっち側もねいろいろ考えたんだよ」

244 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/15 17:55 ID:hcy+g7R2

「君さぁ、子供いるでしょ?」
・・・何言ってるんだ?
「断られたら困るからさぁ、君の家族を人質としてとらせてもらったよ」
「・・・嘘だ」
蔵本は怒りで拳が震えている。
「いやいや、本当さ。別に信じなくてもいいけどさぁ、その代わり君の大切な家族殺しちゃうよ?いいの?」
どうやら本当らしい。俺が従わなければ妻と子供は殺される。俺が従えば妻と子供は助かる。
本当に頭にくる話だ。しかし・・・
「わかりましたよ。やりますよ。その代わり妻と子供は解放してください」
妻と子供が無事でいるんならそれでいいかもしれない。
「OKね。あとこの事は口外しちゃダメだよ。盗聴器があるから丸聞こえなんだからね」
はいはい。用意周到だこと。
関係者たちの話を聞き終え、蔵本はワゴン車から出て歩いた。
「あとー、ボクたちの話は放送されないからさぁ、君は視聴者から見たら本当の悪者にしか見えないんだよー。もちろんテレビで見てるチームメイトにも。誰も同情すらしてくれないよーー」
ワゴン車の窓が開いて男が10メートルくらい離れた蔵本に言った。
悔しい、悔しすぎる!あまりにも無力な自分が。

ドームを出てしばらく歩き続けて夜になった時のことだった。
福留と荒木が現れた。
福留と荒木は歳も近いし、それなりに仲良くやっている。
しかし、荒木の声を聞いた時、あの男の声が聞こえてきた。
『君には悪役になってもらいたい』
無意識にうちにボウガンを構えていた。
そして放っていた。
はっと我に返ると目の前で荒木が倒れていた。
自分がやったのである・・・。
荒木、すまん。これも家族のためなんだ。
このときはそう思っていたかもしれない。
そして今・・・
いきなり襲ってきた柳沢を(この人はずいぶん前から発狂していたんだろう)突き飛ばし、柳沢が持っていた銃(イングラムM10サブマシンガンというらしい)を奪い、突き飛ばされている柳沢に銃口を向けた。
『君には悪役になってもらいたい』

245 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/15 17:55 ID:hcy+g7R2

柳沢に向けて容赦なく撃った。
柳沢の体が何回も跳ねた。そして動かなくなった。
蔵本はただ見つめているだけ。
蔵本自身は気づいていなかったが、彼はもう家族のために殺してはいなかった。
すでにこのプログラムに魅了されていたのかもしれない。
あぁ、悪役も悪くないかもな。

【残り32人】

246 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/15 22:52 ID:c2jerQdi

38 蜘蛛の糸

遠藤政隆は一瞬、「それ」を巨大な蜘蛛の巣かと錯視した。
嫌味なくらい天気のいい午前中の公園に、
「それ」はあまりにも似つかわしくない存在だった。
「井端、お前…」
十重二十重に張り巡らされた凧糸と鳴子の巣の中、
井端はぎらぎらとした目を遠藤に向けたが、何も言わなかった。
「何だよ、これ。変…だろ。
かえって目立つじゃないか、こんなに糸張ってたら」
鳴子と糸を使った罠自体はごく一般的なものだ。
しかし井端が公園の一角に作り出していた「それ」は、
糸の張り過ぎでもはや罠としての役割を果たしているようには見えなかった。
実際、ここ鶴舞公園に入ったほぼその瞬間、
遠藤はこの蜘蛛の巣を見咎めたのだ。完全に周りの景色から浮き上がっている。
「なあ、井端、聞いてるのか…」
「来るな、誰も来るな。ここに来るな…」
「井端っ」
「…俺は生きたい。死にたくない。死にたくない」
「井端、お前どうしたんだよ、なぁ、未来のチームリーダーが」
「来るな、来るな、来るな、来るな…」
会話にならない…遠藤は首を振った。
井端の目はこちらを向いてはいるが、遠藤を見てはいないらしい。
狂ってしまったのだ。井端は。
遠藤は別段、井端が好きだったわけでも嫌いだったわけでもないが、
今は誰か傍に居て欲しいと思っていた。井端はかなり頼りになる部類だと思っていたのだが。
そう、見掛けほど強くないんだ、俺は。
本当は気が弱くて、誰かとつるんでいなきゃ不安で押しつぶされそうなのに。
バッグに入っていたベレッタ92Fには、恐ろしくて触れることすらしていない。
「井端、お前、その巣にいれば自分一人助かるって思ってるのか。
お前がそんな奴だなんて思わなかったよ…」
蜘蛛の糸に縋っても、自分一人助かろうと思った人間は地獄に落ちるんだぜ。
心の中で呟くと、遠藤はその場を後にした。
【残り32人】

247 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/15 23:10 ID:cclML2uq

番外編3 強風のスタジアム

「お前、外野に回れ」
そう言われたのは、まだシーズン中だった。
「キャッチャーが多すぎるんだ。それより、外野で勝機をつかめ」
その時は平野の真意が分からなかった。
だが、今は何となく分かる気がする。
吉鶴憲司は外野から力一杯のボールを投げた。
強風をものともせず、ノーバウンドでホームへ。
受け取ったのは…椎木匠。
ついこの前まで、同じポジションを争っていた相手だ。
「お互い、勝負の年ですね」
2人は同い年だが、プロ入りは椎木の方が先。吉鶴は自然と敬語を使う。
椎木は黙って頷いた。
そう…勝負の年だ…色んな意味で…

考えてみれば、ロッテはドラゴンズにとって縁の深いチームだ。
牛島、上川、平沼、桑田と落合の4対1の超大型トレードが有名だが、
宇野勝、平野謙、仁村徹といったかつてのドラゴンズの一時代を築いた選手達が
ロッテでプレイヤー人生を終えている。
そして現在も、元ドラ戦士の現役プレーヤーは4人いる。
「仁村さんは何をしているんだろう」
ウェイトトレーニングをしながら、酒井忠晴は山本保司に話し掛けた。
「気になりますね…やっぱり」
2人がロッテに来たのは96年。
樋口一紀、平沼定晴、前田幸長投手と酒井忠晴、仁村徹、山本保司との
3対3のトレードだった。
慣れない環境で頼りになったのはベテラン、仁村徹の存在。
広岡GMの元で指導者修行を行うという目的が達成されたのか分からないが、
現在の仁村はドラゴンズのヘッドコーチである。
今回のゲームにどう関わっているのか、気にかかる。
「オレ達が悩んでも仕方ないか…」
誰にいうでも無く、酒井は呟いた。悲しいが、それが現実である。
「あ、昌さん…」
ジムのテレビ画面には背番号34、山本昌の姿があった。
僕がいたから、昌さんは登録名を山本昌にしたんだったな…。
そんな事を思いながら、山本保は画面を見つめていた。

249 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/15 23:21 ID:ZYN/Yq7X

39 砂の城


「よォ」
右手で挨拶、左手に銃。
山本昌はあまりに非現実的な姿で岩瀬の到着を待っていた。
「馬鹿だな。こんな目立つモン動かしたら、一発で誰かいるってことが分かるだろ」
「別にどうも思っていません。死ぬ前に海が見られれば、それでよかったんです」
岩瀬は山本の脇をすり抜ける。その黒く光った拳銃の恐怖をものともせずに。
「俺に殺されることが、わかっていたのか……?」
くるり、岩瀬は振り向いて言った。その手には、いつのまにか背負ったバッグの中に収められていたワルサーPPKが握られている。
「---ええ、昨日の夜に、港の売店でテレビを見ていましたから。小笠原を殺したのが貴方だってことも、知っています」
「ふぅん……、俺と撃ち合う気か?」
目を伏せた岩瀬は首を振る。もう少しだけ時間がほしいのだと答えた。海へ行くための時間を。
無言のまま二人の男は歩き、やがて潮の香りが近くなると、口を開いたのは岩瀬のほうからだった。
「ねえ…、山本さん、貴方……、小笠原に、言ってましたよね。エースの称号がほしいのだと」
海が見えるところへ。一歩、一歩、歩く。
「ああ、言ったさ。中継ぎのエースの名を欲しいままにしたお前にも俺の気持ちはわからないだろうな」
「俺には、貴方の気持ちが…、わかりません」
「そりゃ、分からないだろうな?俺みたいな二番手の人間のことなんてよ」
水際で足が止まる。そして山本の目を見て。
「『エース』の名前なんて、そんなにいいものですか?
所詮俺は球団の看板、そう、よく言えば毎試合のように顔を見せる看板、実際のところは体のいい使い捨てに過ぎないピッチャーだ。
来る日も来る日も、マウンドに上がるかどうかもわからないのに肩を作って、壊れてしまえば『悲劇のヒーロー』として担がれる。
全てを賭けて築き上げても所詮は一瞬で崩れ去ってしまう砂の城だ。
貴方は見てきたんでしょう?あの、今中さんが苦しんだ姿を!!」



250 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/15 23:22 ID:ZYN/Yq7X

今中。
その名前を聞いて山本は唇を噛んだ。
双璧と呼ばれながらも所詮自分は常に二番手だった。あの男がいたからだ。
「…ああ、そうだよ。俺は今中が、恨めしくて仕方がなかったんだよ。
故障から復帰できなくても、何年も過去の栄光だけで球団からはお目こぼしされる。
挙句、引退した今はこの俺を、死と隣り合わせの俺達を、画面の向こうでよそよそしく眺めているんだからな」
ふう。
岩瀬の口から、言葉にならず、溜め息が漏れた。
「---これを、お願いします。貴方が生きて帰ったら」
「綺麗な女性だな、彼女か?」
「結婚するつもりで、婚姻届も用意してました」
手渡されたロケットを、山本はそっとポケットに仕舞った。
「形見の品か…、俺が預かるのもおかしいがな」
「いえ、貴方にこそ、持って帰ってほしいんです。
山本さんには、家族がいるでしょう?」
ふと、頭の中に息子たちと妻の姿が浮かんだ。
血塗られた自分の姿を、恐らく画面の向こうで眺めているに違いない。
果たして、生きて帰ったとしても父と認めてくれるか。
夫として、受け入れてくれるのだろうか。
慌てて首を振った。考えたくもない。
「俺は…、山本さんが、うらやましかった。
誰よりも丈夫な身体を持って、もう…、19年ですか。
人並み以上の年月を、第一線で投げつづけた。
俺も、貴方のように家庭を持って、自分の子供に今の姿を見せておきたかった」
山本は、何も言わない。
ただ、銃口を岩瀬の胸に向けていた。
「でも…、山本さんは、俺が手に入れられなかったものを全て手にしていながら、俺が手にした『エース』の称号を欲しがっていたんですね。
本当に手に入れたいものなんて、きっといつまでたっても手に入らないのかもしれない。
貴方もいつかわかるかもしれない、でも、貴方みたいに屈強な人は、使い減りなんてしないから、俺や今中さんのことは永遠に理解できないかもしれませんね」
銃声が、一度だけ響いた。



251 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/15 23:24 ID:ZYN/Yq7X

山本は、引き金を引かなかった。
いや、引けなかったのだ、正しくは。
なぜなら、彼が引き金に力を込める以前に、岩瀬は自らPPKの銃弾を放ち、こめかみから鮮血を噴出していたからだ。
視界が真っ赤に染まった。
ゆっくりと、スローモーションで、岩瀬の身体が崩れ去る。
ゆらり。
散りゆく中継ぎエースの表情は、笑っているようだった。
そして、その姿は、水面に消えていった。
苦悶の表情を浮かべながら、どす黒い波間に漂う岩瀬の野球帽に弾丸を打ち込む。一発、二発と。
帽子が沈んでいったのを見届けると、山本は踵を返して再び歩き始めた。
そうだ、それでも欲しいのだ。左腕エースのとしての栄光が。
ポケットの中のペンダントには、岩瀬の愛した女性が微笑んでいた。

【残り31人】

260 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/16 01:47 ID:OWrgjvQb

40 虚像

強い照明とセットとカメラに囲まれ、今中は嫌な汗が全身に滲むのを感じていた。
夕べからほとんど眠れず体調は最悪、おまけにまた殺し合いを見せ付けられ、
しかも…なるほど。山本は自分を殺したいと思っているらしい。
仮に山本が生き残ったところで、自分に危害が及ぶことは恐らくないだろうが…
自分が現役だった頃、後輩たちに慕われていた「昌さん」はどこへ行ってしまったのか。
優しくて、面倒見が良くて、ファンからの評判も良かった、あれは誰だったのだろう。
全ては偽りの人格だったというのか。
引退セレモニーのあの日、この手からボールを渡した瞬間も、山本は憎悪に燃えていたのだろうか。
エースの俺が憎かったって?
俺は無条件に愛されるあなたの人格を恨んでいたよ。
左腕を故障して一番に思い知ったのは、人間の冷たさだった。
エースとしてもてはやされていた頃は、擦り寄ってくる人間などいくらでもいたのに、
いざその称号を剥奪されると、皆一様に背を向けた。
…ああ、エースでなくなった俺に惹かれる人間なんて、いないんや。
そして悩みぬいた。金と名誉以外、自分には何の魅力も無かったのか、と。
そんな時、ふと後輩たちに囲まれた山本の姿を見たのだ。
…この人、後輩の中から一人くらい抜けても、他の奴の世話で忙しいからどうでもええんかな。
その時初めて、今中の中に山本への憎しみが生まれた。
もっとも引退する一年前あたりから、そんな憎しみはほとんど消えていたのだが。
けれど、山本は今も名誉欲と周りへの嫉妬にかられている。
「昌さん」はもういない。
このプログラムの狂気に消し飛ばされてしまったのだ。
後に残されたのは山本昌広、という名の人殺しが一人。
…もしかしたら。あの人はずっと、こうして爆発する日を待っていたのかもしれない。
今中は手元に用意されている麦茶を一口飲んだ。
ぬるい液体が喉を通り抜けていく。
アナウンサーがまたしきりに何か言っていたが、聞く気は無かった。
【残り31人】

262 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/16 17:13 ID:WwM57fMp

41 信じられるもの

「6人も死んだのか・・・」
福留が作った朝食(とはいってもちゃんとしたものではなく、おかゆみたいなもの)をほおばりながら言った。
「一体誰がこんなことを・・・」
福留と荒木がいるここ北区は本部からと思われる妨害電波のせいでテレビ、ラジオ、携帯電話といったものが全く使えない状況となっていた。一般電話も通じなく、唯一の情報源といえば1日2回放送される本部からのアナウンスだけだった。
「さぁ・・わからない」
すでに殺る気になっている奴がいるのは十分わかっている。
自分にナイフを放った立浪さん、渡辺さんを殺したレオ、そして荒木を負傷させた蔵本さん。
この3人の誰かが小笠原さんらを殺したのだろうか。それとも3人のうちの1人がまとめて殺したのだろうか。それとも・・・他にもまだ殺す気になっている奴がいて、そいつが4人をころしたのだろうか。
「これからどうする?」
―――これからどうする? 
福留はこの民家に着き、荒木のケガを軽く手当てした後、寝ずにずっと考えていた。
荒木の状態がよくなったら、ここから出て信用できそうな人を集めて何とかこの名古屋から脱出したい。
だが、首についているこれのせいで脱出がバレたら(何たって奴らは自分たちの居場所がわかるんだから)、首が吹っ飛ぶ。
それに信用できる人と言えば、今となってはほとんどいない。
憧れていた先輩には傷つけられ、荒木は殺されそうになった。
この先、信用して着いていった奴にいきなり後ろからドーーンってこともあるかもしれない。
福留は荒木に目をやり、荒木くらいかもしれないな信じられるのは。と思っていた。

【残り31人】

264 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/16 19:09 ID:M6TTBTdM

42 希望を求めて

何重にも張り巡らされたタコ糸を、久慈は1つ1つ切っていった。
1本切るたびに木の枝で作られた鳴子がカラカラと乾いた音を立てた。
巨大な蜘蛛の巣状の砦の中心部には、先ほどまで狂気の瞳でわめいていた井端が、今はピクリとも動かずに地に倒れ伏していた。
足元に溜まっていく糸を踏みつけながら、久慈は途中で手に入れたー誰かが持っていた武器だったのだろうか、それとも一般市民の忘れ物かはわからないがーその小型ナイフで張られた糸を丁寧に切り開いていった。
久慈にとって井端はショートというポジションを奪われた相手である。
しかしそのことに悔しさは感じていなかった。
年を経ればいつかは後輩にポジションを明け渡す日がくるのだ。
井端の守備センスは久慈も認めていた。
それに井端は雑誌のインタビューに答えて久慈のことを「12球団一のショート」と言ってくれたらしい。
自分を認めてくれた者が自分を追い抜かしていくのは、悔しさよりも嬉しいとさえ思った。
だから井端を救いたかった。

久慈はようやく中心の井端のもとにたどり着いた。
体を起こして鼓動を確認する。
・・・生きている。
狂気を越えてのショック死を懸念してはいたが、どうやら気を失っているだけのようだ。
久慈は、小柄な井端より更に小柄な体で、井端を引きずり出すと近くの植え込みの中に隠すように横たえた。
そして久慈は手にしていた小型ナイフをそっと井端の手の下に置いた。
拾った時には自分の護身用にしようと思っていた。
しかし護身のためとはいえそれで誰かを傷つけるつもりはなかった。本来の支給武器である銃でも、である。
井端がいずれ目を覚ました時、狂気に堕ちたままか、それとも正気に戻っていてくれるか、それは分からないが、久慈は井端の命を繋ぎたかった。
井端が正気に戻ってくれることを望み、それに希望を託したかった。
その時に役に立つ武器を手に出来なかった井端が護身用にでも役立ててくれればいいと思った。

久慈は立ち上がり、しばらく井端の姿を見守るようにして、植え込みを出た。
再び関川と合流すべく歩き出した。

【残り31人】

268 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/16 22:31 ID:yQW+RgKZ

43 奇妙な二人

関川浩一は焦っていた。このプログラムが始まってから
ずっと歩き回っているというのに、未だに久慈が見付からない。
今朝の放送でまだ死んではいないと知り安心したが、
それでも、あれからもう数時間経つ。そろそろ昼だ。
どこにいるんだ、久慈よ。
俺たち、二人揃えばきっと生き残ることができる。
そうしたら俺は死ぬ、それでお前は帰れるんだ。頼む、それまで死なないでくれ。
今朝までで6人…自殺した者もいるらしいが、6人全員が自殺という事はないだろう。
ということは、信じたくはないが人殺しがいるのだ。チームメイトの中に。
しかし、怯えていては人探しなどできはしない。
ここは中区と千種区の境界あたりだろうか。もう千種区に入っているかもしれない。
鶴舞公園にでも行って一休みして、それからまた探そう。
そう関川が思ったその時、前方の道路上に人影が現れた。
かなり大柄だ。一目で久慈ではないとわかった。
しかし、もしかしたら目撃くらいはしているかもしれない。
ひょっとして、「あいつは俺が殺したぜ」なんて…
「関川さん!?」
考えているうち、人影もこちらを見付けたらしく、一声叫ぶと一気に駆け寄ってきた。
ずんぐりとした体躯、背番号は24。遠藤だ。
どうも敵意は無いらしい。というか、むしろ怯えているようだ。
でかいなりして、ふてぶてしい顔しといて、こいつ意外と気が弱いんだよな。
有り体に言ってしまえば「チキン」というやつだ。
契約更改でもめて、泣きながら落合に電話をしたこともあったらしいが。
「おい…無用心だな」
「関川さん、俺、俺…」

269 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/16 22:31 ID:yQW+RgKZ

どうも少し動揺しているらしい。
「落ち着けよ。なあ、お前久慈を見かけなかったか?」
「え、いや、見てませんけど…」
「そうか。って…ついて来る気か」
歩き始めると、遠藤はちゃっかりと関川の後ろについていた。
「お願いしますよ。一人は嫌なんですよ…あの、俺の武器使っていいですから」
そう言ってバッグを差し出してくる。
「いや、別にそこまでしなくても」
「どうせ恐くて使えないんで…銃なんです」
「やれやれ…じゃあ預かっておく」
関川は遠藤からベレッタを受け取った。さすがに本物だけあって重い。
ああ、俺は今、殺し合いの中にいるんだな。何となく実感した。
自分に当たった武器がプラスチック製のフリスビーというふざけた物だったことと、
まだ死体も戦いも見ていないことなどが相まって、いまひとつ実感が無かったのだが。
「行くぞ」
何だか変な連れが出来てしまった。
【残り31人】

271 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/16 23:35 ID:X5NtqKeF

44 新しい規則

「一日で6人、二日目開始早々に3名ですね。
 で、残り31名。このペースで何日かかるんでしょうね?」
ナゴヤドーム内に設置されたバトルロワイヤル実行本部。
薄暗い部屋の中で2人の男が向かい合って座っている。
「そうですねぇ…2週間ぐらいで終わるんちゃいます?」
ニヤニヤしながら、眼鏡の男は答えた。
「今の所いい数字は取れています…ですが、ちょっと気になることがあるんですよ」
「何ですのん?」
スーツの男は手元のパソコンを操作する。
スクリーンに円グラフが表れた。

視聴者アンケート
 1日目の結果に満足ですか
  ・充分満足 33.4%
  ・満足 43.5%
  ・やや不満 15.3%
  ・不満 5.2%
  ・無回答 2.6%

「…何や、あれで物足りんのが20パーもおるんか…ぜぇたくやなぁ」
「6人と言っても川崎は開始前の処刑、野口は自殺ですからね」
「…野口もつまらん死に方しよったなぁ…もうちっと視聴者の事を考えろや…」
「もともとが地味な男でしたから」
「それもそうやな…で、どうせぇ言いたいんや?」
「このままでは2日目以降、不安です…もっと過激になる方法を考えて頂きたいんです」
「…分かりました、ちょっと幹部会にかけてみましょ」
そう言うと古田は立ち上がった。
スーツの男はよろしくお願いします、と頭を下げた。
…やっぱ蔵本一人では力不足やったか…ったく、つまらん奴らやのぉ…
呟きながら、古田は部屋を出た。

272 名前: ルーファン 投稿日: 02/07/16 23:38 ID:u0V9w8qT

ピンポンパンポーン
「聞こえとりますかぁ~?古田ですぅ。皆さん、本当に仲がよろしいですなぁ。
 仲よき事は美しき哉…いや~わがヤクルトも見習いたいですわぁ」
…何事だ、一体?定期放送にはまだ時間があるはず…
筒井は訝し気にスピーカーを見た。
「せやけど、あまり仲が良すぎると数字が取れんのですわ。
 もっと過激にせぇってクレームがガンガン来とるんですわぁ」
…ふざけやがって…オレ達に殺し合いをさせておいて、手前は高みの見物かよ…
右手に力が入る。
「そーこーで!です。今から新しいルールを発表します。よぉ聞いて下さいよぉ!」
声のトーンが上がる。
「今から三日、72時間以内に一人も殺せんかった情けな~い方の中から
 抽選で一名の首輪を…爆破しまぁす!」

筒井は森を見た。森も筒井を見ている。
「ちなみに、今までに殺しをしている人は除外するんで安心して下さい。
 抽選の結果は三日後の夕方に発表するさかい、楽しみにしとってな。
 ほな、きばってやぁ!じゃぁラミ、外国人向けに説明したってくれや」
「イエッサー、フルタ!」
声の主はラミレスに変わった。

「…ど、どうします?筒井さん…」
「大丈夫、72時間もあるんだ…何とかなる…」
さすがに声が震える。
…丸腰同然のオレらに何ができる…とにかく誰かを見つけないと…
誰かを見つけたとして、それでどうなる?
殺されるだけじゃないのか?オレに人が殺せるのか?
…いや、いざとなればこいつでショーゴーを…
「筒井さん?」
その声で我に帰った。いけない、何でそんな事を考えてしまったんだ。
…まさか、オレも狂い始めているのか…
「…大丈夫だ、ショーゴー。とにかく誰かと合流しよう」
「…はい…」
72時間誰も殺さなかったとしたら…爆破される確率はどれくらいなんだ?
いや、それはその時に考えればいい事だ。
「グッバーイ、アイーン!HAHAHAHA」
ラミレスの声が消えると、再び静寂が訪れた。
「…行こう…」
…だが、どこへ?
生ぬるい風が2人の間を吹き抜けて行った。

274 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/17 00:59 ID:1HWO4vTr

45 史上最大のスパイ大作戦

「おーーーい?いるのか?入るぞ???」
中里はその間が抜けた声の主を、精一杯の『作り笑顔』で出迎えた。
「川上先輩!!!僕達とっても怖くてずっとここに隠れてましたぁ」
その隣で朝倉が舌を出してみせたが、背中を思いきりつねられてしまった。
「ん?どうした?朝倉」
「いえ…っいタッ…あ、何でもありませんちょっとやめッ」
「朝倉さんさっき拾ったお菓子食べてお腹壊しちゃったみたいなんです」
川上はどこから持ってきたのだろうか正露丸をバッグから取り出して朝倉に飲ませた。
単純な、と言うのが失礼に当たるなら言い換えよう、川上の素直な性格のお陰でうまくこの場は切り抜けた。
いつどこでカメラに収められているのかわからないのだから、あまりことを大きくしたくない。
そう、この店の防犯カメラだってもしかしたらスタジオのモニターに直結しているのかもしれないのだ。
非常に優秀なディレクターならば、今、自分の頭の中にある計画が画面の前で堂々と実行されたとしても、『番組構成上非常に面白い』として妨害はしないだろう。
だって。
『主催者に果敢にも挑む知的な未来のエース』なんて、最高に格好いい絵が取れるじゃないか?
結果的にその主人公が生き残ろうと死のうとも。
しかし、全ての番組制作者がそうとは限らない。
制作サイドに火の粉が飛び散るのであれば、それを水面下でもみ消そうとする奴らもいる。マスコミの悪い癖だ。叩くときだけ好きなだけ叩きやがって。
「朝倉さん!コレ面白いんですよ!川上さんも、ほら見てくださいよ…」
隣のマシンのブラウザを開き、朝倉に目で合図して、自分から川上の注意をそらした。今のうちに早く指示を送ろう。
「へー…なになに」
案の定、インターネットなどやったことのない川上は、朝倉の指差す水色の画面に興味を示した。
『Welcome to Way To Win ようこそ山本昌広ホームページへ』

275 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/07/17 01:00 ID:1HWO4vTr

無茶ですよぉ~。(>_<)

前田章宏は即座に返事を送った。
中里からの二通目のメールには、『今から寮に帰ってほしい』と書かれていた。
なんでも、館長の部屋でやってほしいことがあるのだという。誰にも見られてはならないことなので、部外者にしか出来ないのだとも言っていた。
名古屋へ帰ることに恐怖はなかった。
むしろ今、画面の前で起きている絵空事を、自分の目で直に確かめてみたいとさえ思っていた。
ただ、問題はだ。
いったいここからどうやって名古屋へ向かえというのだろう?
JRも近鉄も桑名で折返し運転とのことだ。
車の免許も持ってないし、昨日着てきたユニホームはクリーニングに出してしまった。


頼む!信頼できる後輩は章
宏しかいないんだ!川上さ
んと朝倉さんも君を頼りに
してるって言ってるよ。fr
om中里


ああ、もう。何時間かかっても知りませんよ!
太陽は出ているがまだ肌寒い。浴衣に半天を羽織ったいでたちの前田は、フロントに借りた従業員用自転車のペダルを踏み出した。

276 名前: 161 投稿日: 02/07/17 02:20 ID:KLBc6x1t

46 リアリスト

吐いても吐いてもこみあげてくる。もう胃の中は空となり、胃液しか出ないがそれ
でも吐き気は収まらない。
既に事切れたメルヴィン・バンチ、その遺骸の横で苦しげに蹲る背番号99、井上
一樹。

名古屋は広い。絶海の孤島では無い。住宅地の星の数程ある民家、その一つに
隠れ潜めば明かりが漏れない限り発見はほぼ不可能に近い。一軒一軒探しに入
るのは現実的゛は無いからだ。名東区で適当な民家で立てこもり、最終状況に近
くなるまでとりあえず事態を静観しようとした井上だったが、保存食を調達しようと
出かけた星が丘三越でバンチと遭遇してしまったのだ。

「OH!イノウーエ!」目を輝かせて駆け寄ってくるバンチの右手に光るナイフを見
た時、彼は支給された武器であるS&W M66を使ったのだ。バンチが何を考えて
いたのかはもはや知る由も無い。ただ単に護身用に持っていただけなのかも知れ
ないが、どの道あんな体格の奴に刃物付きで近寄られる訳にはいかないのだ。い
かに甘言を弄したとしても、いつ不意を突かれるか判ったものでは無い。

やがて、銃声を聞きつけた誰かが来る可能性に思い至った彼はゆっくりと起き上が
り、その場を離れた。吐き気はまだおさまらない。

278 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 02:23 ID:KLBc6x1t

やはり、やるしか無いのか。
チームメイトを殺して回るなど吐き気がする。が、生き残れるのはただ独りだけな
のだ。そして自分はこんなふざけたイベントでむざむざ死ぬなんて御免だ。なら
ば、よろしい。チームメイトでは無くただの標的。そう思うしか無かろう。

彼はリアリストだった。多くの選手の中でまともにやって自分が勝ち抜けると思う
ほど自惚れてはいない。とにかく隠密に行動し、不意を突いての一撃離脱、それ
しかあるまい。

ただしうかつに他の選手を狩り出して回るのは危険すぎる。こちらが奇襲を受け
る恐れがあるからだ。

慎重に、臆病すぎるほど慎重に行動しなければ。確実に殺れるチャンスだけを狙っ
て。

「この世界では臆病者だけが生き残れる。」
昔読んだエスピオナージュ小説のセリフを思い出した。やれやれ、自分がそんな
立場におかれるとは。

「さっきみたいに、殺した奴のそばにいるのは危険だな。倒したらすぐに離脱しなけ
れば。」そう独りごちた彼は、手元の銃に目を落とした。リボルバー式のそれには、
もう3発しか弾が残っていない。バンチを倒すのに半分使ってしまったのだ。これで
は不足も良いところだ。それに拳銃では近距離でしか使えない。

何か有利な武器を入手しなければ。ある可能性に思い至った彼は、慎重に周囲を
警戒しながら、北へと進みだした。

281 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 04:38 ID:A4tp91ds

47 すぐそこにある狂気

『はーい、もうすぐお昼ですねー。ここ名古屋は実に清々しい天気で、えー、
午後の降水確率は0%だそうです。しかし夜頃から次第に雲が出てくると、
そういう天気予報が出ていますねー、はい。
えー、では二回目の「お知らせ」です。これより約二時間後の、午後一時半ですか、
それ以降、西区は立ち入り禁止になります。
今後一日二区ずつ立ち入り禁止になるので、あと七日でタイムアップですね。
まあその前に優勝者は決まると思いますが、時間切れの場合優勝者無しですよ。
先ほど放送した72時間ルールもありますからね、皆さんどんどん殺しあって下さいねー。以上でーす』
くそ、耳障りなヘリコプターめ。でも西区で助かったな、今のところ関係ない。
福留は息をついた。しかし、すぐについ先ほどの放送を思い出し唇を噛む。
72時間以内に誰かを…?できるものか。自分の首輪が必ず爆発するとは限らないのだし。
しかし、だ。この広い名古屋で、あと一週間でケリが付くのだろうか…
もし一週間後、二人以上の生存が確認されれば、優勝者は無し。全員死亡。
ともかく信頼できる仲間が欲しくて荒木と組んだけれども、そして今でも荒木のことは信頼しているけれども、
二人だけ生き残ったとして、その時どうする?

282 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 04:40 ID:A4tp91ds

一瞬、ほんの一瞬だけ、恐ろしい考えが頭に浮かび、福留は己の頭をはたいた。
畜生。馬鹿なことを考えやがって。
「孝介」
居間のソファに横になっていた荒木が、まるで福留の心を見抜いたように言った。
「もし俺たち二人が最後の生き残りになったら、その時は俺を殺してくれ」
「馬鹿、何言ってんだっ!」
「俺より、お前が生き残った方がいい…お前はきっと中日の…」
耐えられず、福留は叫んでいた。
「やめろ、そんな話聴きたくない!」
「…そうか。悪かったよ」
「ともかく、今は目先のことだ。
まずはここから移動して、せめてもう少し情報の入ってくる区に行こう」
行動していなければ狂ってしまいそうだった。
誰もが、心の中に狂気の種のような物は持っているのだ、きっと。
そしてこの、逃げ場が無く、人を殺すしかないという状況は、その種にとっての水となり養分となる。
どんどんルールの締め付けがきつくなっているから、
自分の心はもっと危うくなっていくだろう。
この程度で挫けてはいられない…
【残り30人】

284 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 11:40 ID:gTCsk+J8

48 再出発

「おい!荒木!!」
荒木が負傷した右わき腹をおさえて倒れていた。
近くによってみると、右わき腹からの真っ赤な血が包帯の上ににじみ出ているのがわかった。
昨晩、蔵本が放った矢によってケガをした荒木だが、その後すぐに民家にある出来る限りのもので手当てをし、その時には血が再び出てくるようなことはなかったのだ。
思ってたより傷が深かったらしく、こんなちんけな手当てでは完全に傷口が塞がることはないみたいだ。
とにかく荒木を何とかしなければ。荒木の顔は真っ青である。
もっとまともな治療道具があるところへ行かなければ。
しかし、こんな状態の荒木を外へ出すのはあまりに無防備すぎる。
さっきの放送を聞いた奴が自分たちを目撃したら間違いなく荒木を狙うだろう。
そういえば・・・。
「荒木、外へ出よう」
福留はこの家の車庫に車が一台あるのを思い出した。
これだと誰にも狙われずに遠くまで行くことが出来るだろう。
さすがに名古屋の外までは出られないが・・・・。
右に荒木、左に2人のバッグをかかえて福留は車庫へ向かった。
とにかく大きな病院へ向かおう。
荒木を後部座席に寝かせて、トランクにバッグを押し込め、エンジンをかける。
さぁ、病院に向けて出発だ。

【残り 30人】

288 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 17:46 ID:KkYQ8vvt

49 目覚め

井端の顔を不意の水が襲った。
それが刺激となって、井端はようやく意識を取り戻していた。

ここはどこだ?

目を開けると、木々に遮られてはいるものの、昼の高い日差しが眩しい。
井端は再び目を閉じた。
今までのことを思い出そうとする。
頭がクラクラする。
バトルロワイヤル。チームメイトたちとの殺し合い。
悪夢のような事実をぼんやりと、そして次第にはっきりと思い出した。

あれからどれだけの時間が経ったんだ?
そして俺は何をしていたんだ?

思い出せない。ドームを離れる時に貰ったバッグには何の変哲もないゲイラカイトが入っていた。
それを確認して失望したことは覚えている。
・・・頭が痛い。

再び目を開けて、井端は首を左右に傾けた。
土の上に寝転んでいるのは分かる。木々が取り囲んでいる。
「!?」
井端の顔に再び水が掛かった。飛び起きる。まだ飛び起きるだけの体力はあるようだ。
「・・・公園?」
見覚えのある場所だ。そうだ。鶴舞公園だ。
植え込みから見える芝生の中でスプリンクラーが作動している。さっきから掛かる水はこれだったらしい。
まだすべてが理解できないままぼんやりとスプリンクラーから放たれる水の放物線を見ていた井端は、ふと手に当たる冷たく硬い感触に気付いた。
「ナイフ・・・だ」
こんなものを手に入れた覚えはない。しかし自分の手の中にそれはあった。
「誰が・・・?」
自分の得たゲイラカイトとは違う、立派な武器だ。そんなものをわざわざくれるような相手に覚えはなかった。
考えあぐねてふと近くに視線を落とすと、木の根元に木の枝で書いたような文字があった。

『生き延びろ』

馬鹿げた悪夢のようなこのゲームをどう生き延びろというのか。
しかし、その言葉は井端の心に深く深く染みた。

289 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 17:47 ID:KkYQ8vvt

井端は立ち上がった。
手にした小型ナイフを見やって、それをギュッと握り締めた。
・・・行こう。

どこへ?
分からない。でも行かなければ。
進まなければ。

植え込みを抜けた井端の足元に、散乱したタコ糸の山があった。
井端はそれをジッと見下ろした。
自分がそれで何をしようとしていたのかは分からない。
しかしこれをこんな風に切った人は、きっと自分を救い出してくれたのだろうと思う。
ナイフをくれたのもその人だろう。

『生き延びろ』

心の中で言葉を反芻した。
生きよう。
そして出来るならこんな馬鹿げたゲームを終わらせなければ。

井端の目にはもう狂気のかけらも無かった。
昼の強い日差しを浴びながら、井端はまっすぐ前を向いて歩き出した。

【残り 30人】

290 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 19:08 ID:Kb4GhvKd

50 思わぬ出会い

福留と荒木はやっとのことで名大病院へ着いた。
途中で車がガス欠になってしまい、そこからは歩いて向かうことになってしまったのだ。とは言っても、車が止まってしまったのは病院から100m位の所なのだが、今の荒木にとってはとても遠い距離に感じていただろう。
中へ入ると不気味なほど静かで広く、電気もついていなく廃墟のように思えた。
2人は薬品庫を目指した。
しかし、薬の知識のまったくない自分に何ができるんだろう?
家にあった救急箱のマキロンと塗り薬で何とかすることくらいが自分の出来る限りだった。
薬品庫を見つけ入ると、そこは壁一面全てが棚で埋まっていた。棚の中には何種類くらいあるのだろうと思うほどの瓶。
その瓶からだと思われるアルコールのような酢のような匂いに2人は思わず鼻を手で覆った。
とにかく消毒できるものを探さなければ。
福留は荒木を床に座らせて、棚の中を探し始めた。
何て数なんだ。
あまりの多さに消毒液一つ探すのも一苦労だ。
「おい、何やってるんだ?」
ビクッ、突然の声に福留は飛び跳ねそうになった。
誰だ?振り返るとドアの前に山北茂利が立っていた。
「山北・・・」
荒木もすっかり驚いている様子だ。
こんな所に自分たちの他に人がいるなんて。
「これはこっちのセリフだ。ここになんでいるんだ?」
俺たちを殺しにきたのか。あの放送でお前もやる気になっているのか。
福留はポケットの中で民家で見つけた携帯用のナイフを握っていた。
「俺はドームを出てから今までずっとここにいたんです。福留さんたちは?」
「・・・・・」
まぁ、荒木の状態を見れば明らかだろうが、福留はなぜか黙っていた。
「俺を信用していないのですか?俺は誰かを殺す気なんてありませんし、武器だってほら・・・」
山北は右手に持っていたアイスピックを見せた。
「だけど、信用した俺たちを背後から襲うことはできる」
「孝介!!」
荒木は福留に対し怒った。
「お前もう少し人を信用しろよ。みんなが人を殺すわけじゃないし」

291 名前: 代打名無し 投稿日: 02/07/17 19:09 ID:Kb4GhvKd

荒木の言うことはもっともなことかもしれない。
疑心暗鬼になりすぎたかもしれない。
「・・・山北・・すまねぇ」
福留は素直に謝った。
確かに人に疑われるということは気分が悪いものだ。
「いや、いいんです。で、荒木さんそのケガはどうしたんですか。まさかあの時の蔵本さんの・・・?」
「山北なんで知っているんだ?」
近くから見ていたのか?あの場所には誰もいなかったはずだが。
「ここの待合室で見ていたんですよ。蔵本さんが殺そうとしたところを」
山北は棚の中を払拭しながら淡々と言った。
「テレビで見れるのか・・・」
福留たちが今までいた所は妨害電波のせいで見れなかったうえ、車内でもラジオが聞けなかった。
「えぇ、いろいろなことがありましたよ。いろいろと・・・でも今は妨害電波のせいでみれませんけど」
どうやら妨害電波の範囲が広がったらしい。
山北は棚から瓶2、3本を取り出し、引き出しから包帯を持って、2人の所へやってきた。
「山北?」
「ちょっと痛いかもしれませんが、我慢してください」
荒木のわき腹の傷口に消毒液をつける。
「・・・うっ」
消毒液がしみたらしく、荒木は思わず声を出した。
「山北、おまえ・・・」
「俺にこういう心得があったらおかしいのですか?」
ひたすら手当てしている山北が少々怒りっぽく言った。
「ごめん・・・でも何でここまでしてくれる?」
「"ケガしている人が近くにいるから助ける"じゃダメですか?」
山北は福留を見て笑った。
ははっ、コイツはいい奴かもしれない。がしかし、何かをもう悟っているようにも見える。
自分の死がすぐ近くにあることを。
「テレビで見たことを話して欲しいんだが」
「・・・いいですよ」
手当てしている山北は渋々うなずいた。

【残り 30人】