2ch野球板 バトルロワイアル 参加者名簿 復活!中日ドラゴンズバトルロワイアルその4


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6 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/24 16:42 ID:bFujTLwa

ここはsage進行で?
これまでの人物動向を整理

<監督コーチ陣>

星野、島野→本部
山田→本部&野球関係者の賭け事に関与
仰木→影の黒幕?

7 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/24 16:56 ID:bFujTLwa

現在の参加者(生きて帰るぞ組)本部は診療所。(炎上)
この会場って室内練習場近辺なんだよね?

彦野→謎の使者(前回のドラバトに関与、高木を参加させる)

山本、野口、中村→診療所同盟組、重傷、彦野により保護
井本→岩瀬の遺言により診療所方面へ向かう
井端&荒木→診療所同盟組、待避
川上&小笠原→診療所同盟組、炎上中の診療所周囲

8 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/24 17:06 ID:bFujTLwa

川崎→危険人物。ヤクルトバト優勝者、火薬作成。星野より依頼を受けて参加。
関川→危険人物。マシンガン所持・防弾チョッキ着用、星野と川崎にある何らかの取引を知る
山崎→危険人物。サブマシンガン所持、山本昌との交戦により負傷
蔵本→イングラム所持
鈴木平→忘れ去られていたことに腹を立て勝手に参加。ナイフと拳銃所持
ゴメス→サブマシンガン所持

9 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/24 17:21 ID:bFujTLwa

あ、ゴメス死んでました。関川に撃たれてしぼーん

11 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/24 17:43 ID:bFujTLwa

「ヒイッひああああああああああ!!!!!!」
炎に包まれた診療所に突進する井本の後頭部に強い衝撃が走り、その場に崩れ落ちた。
「危ないところでした、少し眠っててもらいましょう」
姿を目にした小笠原がとっさに投げた手元の石はうまい具合に命中した。
「ああ、あの様子だと俺らがへたに出ていっても暴れられるだけだ」
井本は、岩瀬が探していた男。岩瀬を師と仰いでいた彼ならば、きっと解ってくれるに違いない。
しかしいかにせん状況が状況だ。ただでさえ気が小さい井本なのだから、本当に信頼できる相手でなければ言うことを聞こうとはしないだろう。
「見つけてやってくれよ、岩瀬・・・」
気を失った井本の身体を木陰にそっと横たえ、川上と小笠原は診療所を後にした。
彼らのほんのすぐそばで、すでに岩瀬が息絶えていたことを知る由もなく・・・。

27 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/25 16:36 ID:WnCHP2d0

住民退去により、廃墟と化したナゴヤ球場前駅。
そのホームに停車したままのパノラマカー。
その中に、彼らは、潜んでいた。
呆然とした表情のまま、身体をひきずるようにして戻った野口を、昌や中村が迎える。
「どうだったか?!」
「・・・・・・・・・」
視線を上げることのない野口の様子から、二人もことの次第を悟ったようだった。
「落合亡き今、岩瀬だけが頼みの綱だったのだがな・・・ドラゴンズの、いや、日本を背負って立つ中継ぎだったのに・・・・・」
「岩瀬は、井本に希望を託したんですよ!」
彦野の溜息に対し、野口は笑みをたたえて答えた。
「岩瀬は・・・あいつはね・・・、どのみち自分が死ぬことになると悟っていたんですよ・・・、だから、井本に望みを託して、新生ドラゴンズを託して・・・。はは・・・ははは・・・・・・!」
野口は笑いながら泣いていた。昌も中村も、そして彦野を野口を止めなかった。ただ、涙だけが静かに流れていた。

28 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/25 16:49 ID:WnCHP2d0

どれくらい時間が経っただろう。
沈黙を破ったのは、昌だった。
「どうして、俺たちを助けるなんて危険な真似をしたんですか?退去勧告が出ていたでしょうに」
「・・・・・・責任だよ」
「責任?」
彦野は続けた。
「昌に武志・・・俺もそうだが、高木時代の『プログラム』を覚えているか」
「はい」
「確かに俺たちは、高木監督を殺った。しかし、それは『プログラム』の終わりではなかった。」
事実、翌年なにごともなかったかのように、横浜でも多くの選手たちが命を落とすこととなったことを、昌も中村も知っていた。
「つまり、この『プログラム』を操っているのは、高木監督一人が死んだことくらい何とも思っていない奴らなんだ」
「それは・・・、でも『プログラム』自体を終わらせることなんて」
身震いをする中村を遮り、彦野は立ち上がって窓の向こうを指さした。
「確かに今回のプログラムの総監督、星野仙一はあそこにいる」
彼らが慣れ親しんだかつてのホームグラウンド。ナゴヤ球場、そして屋内練習場。
「しかし、本当の敵は星野ではないのだ」
「では、誰がいったい?」
彦野はゆっくりと腕を右に向けた。
「奴らは向こうにいるのさ、ああ・・・・・・」

30 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/26 18:08 ID:uqS+mJi+

「井端さん、好きな人、いますか?」
「え?いや・・・・・・」
栄地下街の喫茶店厨房の床に座り込んだまま、井端と荒木は夜を迎えていた。
冷蔵庫に残された食材を失敬する。
「俺、ずっとそばにいたい人がいるんです」
「そうか・・・、ならばその人はきっと悲しんでいることだろうな」
「そうだといいんですけど」
「どういう意味だ?」
トマト缶の底にたまったジュースを飲み干して、荒木は宙を見上げた。
「俺、まだその人が俺の気持ちに気づいているのかわからないんです。
 俺がいくらアピールしても、その人はポーカーフェイスで、俺のことをいったいどう思ってくれているのか・・・・・・。だから、」
だから。
「もしも俺が死ななかったら、その人に、気持ちを伝えようと思ってるんです」
「そうか・・・、お前はいいな、それがお前の生きる力になってるんだな」
「だから井端さん、絶対に生きて帰りましょうね!!」
「ああ、帰るさ、絶対に・・・・・・・」
床に転がった空の麻袋の山に潜り、二人はしばし眠りについた。

32 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/26 19:07 ID:uqS+mJi+

「ィたっ・・・荒木?!」
鈍い衝撃に目を覚ました井端が目にしたものは、自分に覆い被さるように倒れた荒木と、その肩越しに見える人影だった。
「井端さんッ!起きたら駄目です!やられます!!!」
「離せ荒木!お前血が・・・」
「ケーーーーーーーーヘヘーッ!死ね死ね死ね!!!!」
荒木の背に幾度もナイフが突き立てられる。
「笑わせるぜチクショウ、なーにが1・2番コンビだ!!ポッと出のくせに生意気だ!!二人まとめて、死ね死ね死ねェ!!」
井端の投げたナイフが、鈴木平の額に命中した。

33 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/26 19:20 ID:uqS+mJi+

「大丈夫か荒木!!!」
「はは・・・井端さん、無事でよかった・・・・・・」
「馬鹿!万が一のときはばらばらに逃げろと言っただろう!ほら!しっかりしろ!!」
「へへ・・・もう駄目ですよ・・・眠くなってきましたもん」
もたれかかる荒木を揺さぶり、意識を取り戻させようとする。
「生きて帰るんだろ!告白するって言ってただろうが!!!」
力の抜けかけた荒木の手が、いま一度、井端の手を握った。
「俺の大事な人は・・・・・・あなたですよ」
「・・・・・・・!!」
若さゆえの甘えだと思っていた。だらしのない弟のようなものだと思っていた。しかしそんな荒木を、井端自身も憎からず思っていた。
「ずっとあなたを見てました・・・同じマンションに呼んでもらえて嬉しかった・・・チャーハン、おいしかったなあ・・・」
「荒木!おい馬鹿!目をつぶったら死ぬぞ!!」
握り返す手が徐々に弱々しくなってゆく。
「今まで俺を、守ってくれてありがとうございました」
「荒木!!俺もお前が大事だよ!!お前がいなきゃバントできないじゃねえかよ!!死ぬな!!!」
「最後にあなたを守れて・・・・・・よかった」
「荒木ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
静まりかえったサカエチカに、井端の絶叫がこだました。

34 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/26 19:57 ID:RgCPkTOv

ポタ… ポタ…。
静まりくる地下の中、井端と横になった荒木の姿があった。
荒木はまだ息をしていた。
しかし治療するすべを知らない井端はとりあえずありあわせの
もので止血を行った。
その後すぐに治療のできるところに移動すればよかったのだが、
そういう訳にはいかなかった。
なぜなら目の前に蔵本が立ちはだかっていたからだ…。

35 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/26 20:12 ID:RgCPkTOv

「ほう、これはこれは…。」
蔵本は低い声でわらった。
「俺が手を下すまでもなくやられてくれたわけだ。」
「うるさい!おまえみたいな野郎にみすみすとやられるか!!」
「しかし現にやられているやつがいるが?」
「うるさい!!」
井端はこの後どうするか考えた。
相手の手には銃。
こちらといえば救急用のナイフだけだ。
ここはいったん引くしかない。
「荒木…。」
その時だった。
蔵本が品詞の荒木に向け銃を向けている。
井端は考えるより先に先ほどの応急処置用の
布を蔵本に投げつけた。
蔵本はもがく。
「こんなもの!!」
蔵本が銃を放ち、その布を振りぬけた瞬間、
井端が投げたナイフが蔵本のつま先に刺さった。
「ぐわっ!!」
蔵元がひるんだその隙に井端は地下を後にして
全速力で走りだした。
「ま、まて!!」
蔵本も必死になって追いかけていく。
そして二人はいつのまにか大曽根駅周辺にやってきていた…。

38 名前: 井端編じゃなくてスマソです 投稿日: 02/04/27 01:43 ID:nfelzn6V

「東京だ」
腕を掲げたまま彦野は言った。
その言葉は半ば予測されていたものだった。
中日とヤクルト、そして横浜という本拠を全く異にする
三つの球団が、次々とこの血塗られた劇に巻き込まれたのだ。
これは名古屋だけの問題ではない。
ああ、と山本は目を伏せた。
こんなことがあるだろうか?少年時代に
あれ程憧れたこのプロ野球界は、今血と金によって動かされているのだ。
中村と野口も何も言わない。言えないのかも知れないが…
「このバトルロワイアルというプログラムは、つまり、
この球界全体の「優良種」を生き残らせるためのものなんだ。
部下に寝首をかかれる間抜けな監督や
チームメイトに情けをかけて闘争本能を失う腑抜け選手は
「劣等種」として粛清される。首謀者が直接手を下さなくとも、
プログラムが進行すれば自然とそうなるわけだ」
彦野が一つ息をついた。誰も何も言わなかった。
「結局俺たちは、ただ奴らの思惑通りに高木監督を「粛清」しただけだったんだ。
殺った瞬間は勝った、と思ったよ。でも、掌の上で踊らされていただけだった」
風が冷たい。山本は足下の埃に目を落とした。
星野監督を殺して帰る。ずっとそのつもりでいた。
それは「奴ら」の思うまま動くということなのだろうか?
「奴ら」を潰せば、このプログラムは無くなるのか?
そうだとしても、そんなことができるのだろうか?
何も俺たちが「奴ら」と戦わなくても、無事帰る事ができれば
それでいいのではないか?
山本の脳裡に愛する家族の顔と、
犠牲になっていった選手たちの顔とが交互に浮かんだ。
星野を殺してただ平和な家に帰るか。「奴ら」と戦い、プログラムそのものを潰すか。
重い沈黙のみがあたりを包んだ。

39 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/27 15:17 ID:sJMZ2S6m

「見えるか?タワーの屋上が」
三人は彦野の指示するとおりに窓の外を仰ぎ見た。
うっすらではあるが、名駅のシンボル・セントラルタワーズを臨むことができる。
「あっ・・・!」
野口は気づく。二本に伸びたタワーの片方には、ヘリが停まっていた。

40 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/27 15:31 ID:sJMZ2S6m

チャラチャチャラ♪
「本日はサンドラ特別編!誰が生きるかバトルロワイアル特集です!!」
ツインタワーの様子をなしたセントラルタワーズ。その一方はビジネスタワーであり、残りの一方は高級ホテルとなっている。
最上階、47階インペリアルスイートの室内では、その豪華な内装にあまりにも似つかわしくない老人が一人、ワイドテレビの画面を眺めていた。
「生き残っているのはこいつとこいつとこいつ・・・、こいつはトシだし、こいつのポジションにはイイのがいるから要らんな。こいつならうちのローテーションに・・・」
「オーナー、お食事をお持ちしました」
ワゴンに乗せられ、数々の名古屋名物が運ばれてくる。みそかつ、手羽先、ひつまぶし・・・。
「ご苦労。これでも持ってけ」
部下の懐に札束をねじ込み、『オーナー』と呼ばれた男はテレビを消した。
「世の中強いモンが勝つ。当たり前のことだ。クソ選手、クソ球団は滅べばいい。そして生き残った者は皆、ワシのところへやってこい!ワシの球団が日本一じゃあ!はーっはっはっは!!」

41 名前: 38書いた奴 投稿日: 02/04/27 18:04 ID:U+9uEv2z

「奴ら」がどういった集団なのか、聞きたくもない。
山本は思った。
いや、改めて聞きたくもなかったというべきか。
予測はつく。それも容易に。
東京にあり、地方球団ばかりでなく在京のヤクルトまで見下す存在…
答えは一つしかないではないか。
この予測がもし間違っているのなら、ツインタワー上に留まる
ヘリコプターの側面にはっきりとペイントされた「読売」の
二文字をどう解釈しろというのだ。
「もう解っただろう」
絶望的な気分だった。解らない方がましだ。
すべては読売の手の内にあるというわけか。
十二分の一に過ぎぬ存在であるはずの一球団が、
いや正しくはその上層が、
人を「粛清」する権利を持っていると?
「「優良種」として生き残った選手は
読売に入団させよう、というのが「奴ら」の魂胆さ」
先程までとは打って変わった吐き捨てるような口調で
彦野は言った。
「そうして読売は強く、他球団は弱く。
最終的には一リーグ制に…
あそこのオーナーが考えそうなことだろう」
「反吐が出ますね」
山本は思わずそう言っていた。

43 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/28 22:35 ID:R6k3oJaC

「ここは…大曽根?」
走り疲れた井端が我に返ると、見覚えのある場所に来ていた。
目の前にナゴヤドームに至るバスや地下鉄の駅がある。
徒歩でも、ここからなら十五分もあればドームに着く。
だが、自分はもう二度とあのドームで野球はできないだろう。
蔵本は何とかまいたらしかく、周囲は全くの無人状態だ。
井端は思わず道路脇に座り込んだ。そのまま呼吸を整える。
「さて、これからどうする…」
もし自分が蔵本だったらどうする?井端は考えてみた。
重傷の荒木を置いてきた以上、井端は必ず栄に戻る。
蔵本は馬鹿ではないから、見失った相手を深追いはしない。
きっと栄に戻り待ち伏せるだろう。
そして、死にかけの荒木は見つかり次第殺される…
「…戻ろう」
もうここにいる必要はないのだ。
激しかった動悸も収まりかけている。
逃げている間は無我夢中だったが、ここから栄まで戻る為には
地下鉄である名城線の路線沿いに移動するのが一番確実だろう。

44 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/28 22:36 ID:R6k3oJaC

大曽根駅内は不気味なほど静かだった。
当然、猫の子一匹居ないし、電車も全て止まっている。
線路の上を移動するしかなさそうだ。井端は走り出した。
長い通路を走り、自動改札が目前に迫ったその時。
突然右足を銃弾が掠めた。
「つくづく俺は運がいいみたいですね?
そっちから来てくれるなんて嬉しいですよ、井端さん」
前方、改札の向こう側に、蔵本が立っていた。
「蔵本!」
井端は舌打ちした。迂闊だった。右足に痛みはないが…
蔵本が笑って銃を向けてくる。井端はとっさに横飛びし、
駅員室のドアに手を伸ばした。鍵はかかっていない。
そのまま中に飛び込んだ。
「その素早さ、流石は一軍のショートですね。
でも隠れても無駄ですよ」
敢えてドアに鍵はかけなかった。
蔵本の嘲り笑いがやけに大きく聞こえる。
井端は低い姿勢をとり、ドア付近の壁に張り付いた。
銃にナイフでは勝てない。接近戦に持ち込むしかない。
「そんなドア、すぐに壊してやる。せいぜい中でびびってろ」
蔵本の乱暴な声が近くなってくる。
息が上がってきた。汗が噴き出す。こんな緊張は初打席の時以来だ。
蔵本の影がぬっとドアのガラス越しに現れた。
今しかない。
ドアを勢い良く開けると、鈍い衝撃と共に
蔵本の驚愕した表情が目に飛び込んでくる。
鍵がかかっているものと思っていたのだろう。
ドアに頭をぶつけ体勢を崩したその腹に思い切り蹴りを入れると、
あっさりと蔵本の躯はバランスを失った。
仰向けに倒れ、藻掻く蔵本の右腕を全体重かけて踏みつける。

45 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/28 22:37 ID:R6k3oJaC

が、と蔵本が声を漏らした。ぼきっという音が後に続く。
蔵本が、今度ははっきりと叫んだ。
「ぐわああああ!う、腕が…お、お、俺の腕…」
「腕の一本や二本でぎゃーぎゃー喚くんじゃねえよ」
力を失った手から銃を奪うと、井端は躊躇せず引き金を引いていた。
「お前は荒木を殺そうとした。だから死ね」
無人の駅内に銃声が響き渡る。
井端が銃を上げると、蔵本の頭右半分が無惨に吹っ飛んでいた。
「ん?眉間を狙ったつもりだったのにな。まあいいか」
蔵本の死体を漁って予備弾倉を一つ手に入れると、
井端は線路に降りて栄に向かい歩き出した。
手にした銃にはまだ蔵本の体温が残っていた。

46 名前: 代打名無し 投稿日: 02/04/28 22:57 ID:3tgSqwhP

死亡者:蔵本英智

生存者:星野仙一、山本昌広、中村武志、荒木雅博、
     井端弘和、川上憲伸、小笠原孝、
     川崎憲次郎、関川浩一、井本直樹
     野口茂樹
  
     残り11人

48 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/29 01:37 ID:ZAtGO2oe

「さあて・・・、これからどうするかだ」
川上と小笠原は、テレビ塔の途中にある売店前で柱に身を隠すようにして座り込んでいた。
「ここなら誰かがやってきてもすぐにわかりますね、非常階段もあるし」
「ああ・・・、攻撃的な奴らは皆、個人行動をしているから、挟みうちになることはないだろう」
別れた奴らはどうなったのだろう。山本、中村、野口に岩瀬、井端、荒木・・・。
皆、無事だろうか。あるいは・・・。
不意に、小笠原の目に涙がにじんだ。
「馬鹿、生きるか死ぬかの瀬戸際で泣くやつがあるか」
「だって先輩・・・、俺、みんな仲間で、でも山崎さんが昌さんを、えっくえっく」
「仕方がないさ、ポジション争いが生死を賭けた争いになったようなものなんだ、俺を信じろ、絶対に生きて帰る。いいな」
「はい・・・」
顔を見合わせた二人の間を、弾丸が走った。
「!!」
驚き、後ずさった二人は、次の瞬間、亀裂の入った窓ガラスを見た。
弾の飛んできた方向は・・・中日ビル!
「やばい!逃げるぞ!!」

「チッ・・・逃がしたか。」
契約更改でしか訪れることがないといってもいい、彼らの所属先『中日ドラゴンズ』本社。
その窓辺に腰掛ける関川の手には、筒井から奪ったライフルが握られていた。

49 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/04/29 12:13 ID:Rb+5hZag

「俺は逃がさないぜ」
背後からの声に振り返ると、やはり山崎の姿であった。
マシンガンを構えながら、静かに近づく。関川も、手にしていたライフルからマシンガンに持ち替える。
「ドラゴンズのスタメンに、外様は要らねえんだよ」
その途端、関川は、ククッ、と小さく笑った。
「何がおかしい!」
「そうやって、いつまでたっても『お山の大将』か?地元だからこそ片目つぶってレギュラーやらせてもらえてるのを自覚したらどうだ。普通だったらとっくに二軍落ちだぜ」
「!うるせえ!ぶっ殺してやる!!!」
銃口が、火を噴いた。
走り去ろうとしている川上と小笠原は、その音に一度だけ、振り向いた。

54 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/01 13:11 ID:MKCTVoGo

星野は目の前の巨大モニターを眺めていた。
緑・・・生存、赤・・・負傷、点滅・・・交戦中。
開始当初は目で追うのもやっとであったが、今はなんとか、全て把握できるほどの人数となっている。
この『プログラム』は、魔物だ。
選手同士の殺戮ももちろんではあるが、その後の生存者たちにも待ち受けるのは地獄である。
権藤や牛島・・・当然発生する過度の負担により、休むことも許されず、その選手生命を絶つこととなっていった。
「よし、そろそろ俺も支度をするかな」
去っていた選手たちへの感傷に浸っている暇はない。星野もまた、今回の『プログラム』参加者の一人なのだ。
椅子から腰を上げて、振り返ろうとしたそのとき、ひやりとした感覚が背中に当たった。
「ここまでですよ、星野監督」
星野の背中に銃を突きつけているのは、紛れもない、彼の腹心、山田久志その人であった。

56 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/01 23:10 ID:+MBk5iRS

関川は跳躍していた。
代わりに背後の窓ガラスが割れ、破片が飛び散る。
「あんたみたいなノロマの動き、見え見えだよ」
山﨑はちっと舌を打ってマシンガンを構えなおした。
慌てずとも、関川が着地した瞬間を狙い打ってやればいい。
しかし、その当ては外れた。
関川が空中で発砲したのだ。
とっさに身を引いたが、左の足に弾丸が数発食い込んだ。
「ッつう…!」
「本当にノロマだな」
着地した関川がせせら笑い、
マシンガンを構える映像が痛みにぼやける。
死ぬのか、俺は?
嫌だ。死ぬのは嫌だ。俺は本塁打王だぞ。俺は強い。
こんな所で殺されるような情けない男じゃないんだ。
俺の妻子はどうなる。俺が死んだと知ったら…
勝って帰って、俺は強いんだと笑って見せてやらなければ。
強いんだぞ。父さんは強いんだぞ。見てろ。
「うおおおあああああ!!」
全身に銃弾が打ち込まれたが、
山﨑にはそれを知覚する余裕もなかった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」
怯えた関川に馬乗りになり、幾度も顔を殴りつけた。
見たか。俺は強いぞ。だから、だから…
だから…
微笑む妻子の顔が、閉じた瞼の裏側に浮かぶ。
山﨑も笑った。
そして崩れた。全身から夥しい量の血が流れていた。

「俺が出るまでもなかったか」
川崎が笑った。
「畜生、こいつのせいで血まみれだ…」
漸く山﨑の下から這い出した関川は、いまいましげにその巨体を蹴った。
「さて、行くか」
山﨑のマシンガンを拾うと、川崎と関川はそのフロアを後にした。

58 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/01 23:17 ID:+MBk5iRS

死亡者:山﨑武司

生存者:星野仙一、山本昌広、中村武志、荒木雅博、
     井端弘和、川上憲伸、小笠原孝、
     川崎憲次郎、関川浩一、井本直樹
     野口茂樹
  
     残り11人

60 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/02 00:46 ID:H2KUDDcO

「山田・・どういうつもりだ?」
背を向けたまま星野は言葉を放った。
「訳は言えません。でも、あなたには、死んでいただかなければならないのです」
感情を押し殺した物言いの山田に、星野は答えなかった。
伊達に長年仕えていたわけではない。無言になるときこそ、星野には何か考えがあるのだ。
「なぜ、なにも言わないのです」
沈黙に耐えられず、山田は続けた。カチリ、と銃の安全ロックを外す音が耳をかすめる。
それに答えるように、星野がポケットから取り出したのは、二つに折りたたまれた封筒であった。
見慣れない切手、ストライプの縁取り。エアメールであるその手紙の差出人は。
I.SUZUKI....
「こんなこともあろうかと、探りを入れておいたよ」
山田の顔が青ざめた。そんなことなどすっかり忘れてしまっていた。
かの天才青年、はるか海の向こうへ消えていったあの男は、元を正せばドラゴンズファンであり、その縁でずいぶん前から星野と通じていたのだ。
いくら策士の仰木であっても、かつての秘蔵っ子が相手であるなら口を割らないはずがない。
焦る手つきで中身を広げる山田に向かい、星野は容赦なく続けた。
「あのジイさんの言うことなんか、マトモに信用したらいかんだろうが」
この『プログラム』に際し課せられた山田の裏の使命……
それは、『これと思う選手をオリックスに連れ帰ること』。
その報酬は、『次期監督』というポスト。
星野の参戦によって、『選手全員死亡、監督勝利』の可能性が見えてしまった。
だから、山田は星野を殺さねばならなかったのだ。
だが………。
山田が開いた『鈴木一朗』からの報告書には、『オリックスブルーウェーブ次期監督には石毛宏典が内定せり』と記されていた。
石毛宏典・次期監督・内定………。
「わかったら、いつまでもつッ立ってないで、元の配置に戻れ」
そう言って、星野は微笑みながら、山田が握り締めていた銃身を掴み、さながら水道管のようにぐにゃりと曲げてやった。

63 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/02 21:37 ID:lNxkHH1/

「やりましょう。俺達の手でこのプログラムを潰しましょう」
そう言ったのは中村だった。
山本ははっと顔を上げた。
「武志、お前」
「生き残っても、読売の選手になるなんてごめんですよ。
このプログラムを転がしている「奴ら」を潰せば、
これ以上死者は出ないわけでしょう」
「そうだな」
彦野は殆ど表情を変えずに答えた。
中村が続ける。
「それに、俺は…そりゃあ生きて帰りたいですけど、
いざ星野さんを目の前にしたら、殺せる自信が無いんです」
俯いた中村の声は少し震えていた。
そうだ、そうだよな。山本は心の中で中村に同意した。
二度もこの手で胴上げした監督だ。恩人と言ってもいい。
このプログラムに一枚噛んでいる者ではあるが、
どうしても憎みきれないのも事実だった。
「だから、星野さんは憲伸達に任せて、俺達…
いや、少なくとも俺は、その「奴ら」と戦うつもりです」
「…俺も武志と行きます」
山本は考える間もなく言っていた。

64 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/02 21:41 ID:lNxkHH1/

「俺達が「奴ら」を倒せば、憲伸達も星野さんも助かる。
俺達が負けても、憲伸達が勝てば憲伸達だけは帰れる。
…俺ももう何年も現役ではいられませんから、
若い奴らに後を任せるのもいいと思います。ただ…」
野口はどうする?
見れば、じっと身動きもせず話を聞いている。
山本や中村と違い、野口はまだ若い。しかもエースだ。
「奴ら」との戦いは恐らく非常に厳しいもので、
せいぜい相打ちできれば御の字のはず。
そんな無茶な戦いにこいつを巻き込んでいいのか?
「あの…俺も行きます。中村さんや山本さんには、ずっとお世話に…」
「野口、もういい。その言葉だけで十分だ」

数分後。
パノラマカーの中、野口は一人で目を覚ました。
何があったのかわからない。
ただ、あの直後気絶させられたのだと予測はついた。
半死半生の山本と、怪我人の中村と、現役を退いて随分になる彦野。
三人で「奴ら」を本当に潰せるのだろうか…
しかし、もう自分は一人になってしまった。
額の傷はもう殆ど固まっている。
それに触れると、何故か岩瀬の死に顔が思い出された。
あいつの為にも、井本を守らなければ。
その為に自分は今、ここにこうしているのだ。きっと。
野口は立ち上がった。

68 名前: ちと短めです 投稿日: 02/05/05 00:28 ID:oIAaQzcF

井端がどうにか栄まで戻ってくると、
冷たい床の上で、荒木はまだ生きていた。
意識は無いようだが辛うじて息をしている。
「荒木、お前を死なせたりしないからな」
こうなってはもう二人だけで行動するわけにはいかない。
川上たちと合流しなければ…
自分より一回り大きい荒木の体を何とか背負うと、
井端はふらふらと歩き出した。
その足は自然、中日ビルの方面へと向かっていた。

70 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/05 00:59 ID:P29knvh3

彦野、中村、山本は、名鉄名古屋本線の高架沿いに歩いていた。
辺りを警戒しながらも、目指すは『マリオットアソシア最上階』。
もはや覚悟を決めた男たちに、後ろを振り返る必要はない。
ただ、目の前にそびえ立つ巨大な城に攻め入ることを考えるのみである。
無言であった。やがて・・・・・・。
「着いたな」
彦野は身震いしていた。過去の過ちを悔いるために。己の命と引き替えに。奴らを。

「オーナー!不審者三名が目撃されております!ID34、39、もう一人はデータ登録されておりません!!」
「騒々しいな・・・これはゲームなのだよ。ハプニングを楽しまんでどうする」
そういって老人は、パチンと指を鳴らした。部屋の奥から、黒ずくめのスーツに身を包んだ黒人が二人、筋肉質な男と巨漢が姿を現した。
「ガル、マル、おまえら行って、お客様の相手をして差し上げろ」

「チクショウ・・・どこも電源落としてあるな」
昌は反応しないエレベーターのボタンをパチパチと叩いていらついた表情を見せる。
「困りましたね・・・このままじゃ相手に見つかるほうが早いですよ」
「もういい!こっちだ!!」
昌はフロアの奥にある扉に体当たりし、強引にこじあけてやった。
非常階段。なま暖かいフロアに外気が一気に流れ込む。
「おい、本気か!いくらなんでも危険だぞ!!」
彦野が止めるのも聞かず、昌はすでに螺旋階段の遙か向こうに消えていった。
「昌さん、元気だ・・・」
呆れ顔を一瞬、見合わせ、中村と彦野があとに続いた。

72 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/05 03:12 ID:oIAaQzcF

中日ビルの外に出ると、川崎は星野が居るであろう
ナゴヤ球場のある方角を仰ぎ見た。
――お前ならわかるはずだ。
星野のメッセージを思い出し、川崎はふんと心の中で笑った。
俺がヤクルトバトロワ優勝者だとわかっていて、
尚且つあんたは俺を採った。
あんたは読売を憎んでいるはずなのに、
読売の支配するこのプログラムに乗った。
そうだな、確かに俺はわかったよ。関川もわかっただろうな。
俺達はこのチーム内のガンを全て取り除く。
未だに誰かと協力しようなんて考えてる
甘ったれどもは全員処刑だ。
闘争本能の強い者だけが生き残ってあんたの下に行き、
あんたと共に読売を倒す戦士になると…
つまり、そういう企みだろう。
プログラムを最大限に利用したいい作戦だよ。
ま、面白いから乗ってやるがな。
「さてと、まだ大分ゴキブリどもが生き残ってるな…
どこから潰しに行くかな」

73 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/05 03:15 ID:oIAaQzcF

「川上さん、あれ…」
ふいに小笠原が声をあげた。
川上と小笠原の二人は今、久屋大通を北上していた。
危険のある中日ビル付近は避け、大回りしてナゴヤ球場の方面まで
行く算段だ。本部においそれとは近付けないのは解っていたが。
「何だ」
「…人が」
小笠原が指差した先には、ふらりふらりと
覚束ない足取りで歩く小柄な人影があった。
中日ビルの方から、ゆっくりこちらに近づいている。
「井端さん…だと思うんですけど」
「みたいだな」
誰かを背負っている。足取りが怪しいのはその為だろう。
「あんな状態じゃ、狙い打ちされちゃいますよ…」
「よし、俺が助けに行く。いざとなったらお前は逃げろ。いいな」
「えっ…ちょっと、川上さん!」
中日ビルから発砲してきた何者かが、
あの状態の井端を発見していないとは考えにくい。
きっと「泳がされて」いるのだ。
みすみす助けに行くのは自殺行為という事になる…
それでも川上は駆け出さずにはいられなかった。
ここで井端を見捨てたら、俺は人殺しだ。

75 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/06 10:42 ID:LgW/3E1b

「さてと。そろそろ行くか」
星野が薄笑いを浮かべたまま席を立つ。
「…行くとは?どちらへ?」
山田は落ち着きを取り戻しつつあった。殺されない限り、チャンスはまた巡ってくる。
「外だよ。ここは禁止エリアになっている。ちゃんと出ていってやらないとフェアじゃないだろう」
「しかし、それでは」
「俺も年を取ったが、あいつらに殺られるほど鈍っちゃいない」
「はぁ…」
山田には星野の考えている事がわからなかった。
自分がもしこのプログラムを任されたら、絶対に参加などしないし
仮に参加したとしても本部から動きはしないだろう。
何もせず本部にいるだけで優勝できる安寧な立場を
星野は返上しようとしている。
山田には、星野が自分から危険な方、危険な方へと
向かっているように見えた。
それとも、全ては深い考えがあっての行動なのだろうか。
「それに、ここにいたんじゃあ川崎達と話もできないからな」
「はっ?」
「いや、お前には関係ない」
星野は銃身のひん曲がった山田の銃をぽいと床の上に棄てると
さっさとその部屋を出て行ってしまった。
「あとはお前がプログラムの監督をしてくれ」
そう山田に言い残して。
断ることは出来なかった。今まで黙って星野の側に控えていた島野が
山田の背筋に銃口を押しつけてきたからだ。
こちらは丸腰だというのに、そこまで信用していないというわけか。
まあ無理もない事だ。自分は星野に銃を向けたのだから。
山田は黙って、星野の座っていた席に腰を下ろした。
「これより、星野監督の代理として本部は私が指揮する」
目の前のモニターに、星野が本部を出たという情報が表示されていた。

77 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/06 23:06 ID:QaeIlbSL

井端は、真っ正面に飛び出してきた人影が川上であることを確認した。
次の瞬間、井端は背に乗せた荒木ごと物凄い力で突き倒された。
もちろん、井端には川上が現れた理由に想像がついたので、受け身の体勢で植え込みに転がり込む。
わずか50cmほどであろうか。目の前の街路樹が煙を上げていた。
「危ないだろッあんな道の真ん中を・・・ったって、その体勢じゃ無理か」
生きるか死ぬかの瀬戸際になっても、自分を慕う後輩というものはかわいいものである。
遠くで植え込みから顔を出してこちらの様子を伺っている小笠原と、息も絶え絶えの荒木を見比べて川上は思った。
自分にとっての小笠原。井端にとっての荒木。
死なせはしない。決して。
川上はうつ伏せた井端に覆い被さったままの荒木を持ち上げると、自分の背に乗せた。
小柄な井端よりも、自分が運んだほうが、体力の消耗が少なくて済むだろう。
次の瞬間、後方で激しい爆発音がした。
中日ビル、炎上・・・・・・。
川崎の置き土産の爆弾が、時限装置のリミットを迎えたのだった。
「行こう・・・来い!小笠原!」
四人は、進路を検討すべく、地下鉄構内へと降りていった。

83 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/08 14:20 ID:ADIKXOBM

ぱちぱちと木の爆ぜる音が聞こえる。
その音に引かれるように、井本の意識は覚醒した。
「…ん…?」
目を開けて一番に見えたのは、木だった。
枝葉がざわ、と風に揺れている。自分は木の下に居るらしい。
体を起こすと、少しだけ後頭部に痛みが走ったが
特に体に別状は無いようだった。
ああ…そうだ、俺、プログラムに巻き込まれたんだ…
じわじわと記憶が蘇ってくる。
岩瀬さんを殺してしまった。
岩瀬さんは俺を認めてくれていたのに…
体が小刻みに震えるのを何とか抑えて立ち上がる。
診療所が燃えていた。
目覚めた時に聞いたのは診療所が燃える音だったらしい。
川上と合流しろ、そう岩瀬は言っていた。
自分にその資格が有るのだろうか?
ふらつく足で、井本はゆっくりと歩き出した。
宛ては無いが、ともかくこの場から離れたかった。

84 名前: 書き手A 投稿日: 02/05/08 14:26 ID:ADIKXOBM

診療所ってどの辺にある設定でしたっけ?
過去ログざっと読んだのですがよくわからなくて…
特に設定が無いなら適当に作っちゃいますけど。

85 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/08 14:53 ID:FsnNCczC

たぶん設定ないのではと思いますよ。
part3まではバトロワ路線というか無人島or隔離された土地のように書かれていましたがpart4では一気に名古屋路線に持っていってますです。

86 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/08 15:11 ID:FsnNCczC

ちくしょう・・・奴らは戦力外の選手を、こうやって使ってたのか。
ビル風が吹き抜ける外階段。山本は今まさに、日本から姿を消したとばかり思っていた『助っ人』たちと睨みあっていた。
暴漢・ガルベス。巨漢・マルティネス。
確かに、こいつらだったら野球選手よりも用心棒のが似合ってるよな。
山本は悔し紛れに薄笑いを浮かべた。
一瞬、互いが相手の様子を伺う。
そして次の瞬間、
「ウオーーーーーーーーーー!!」
という叫び声を上げながら、黒衣に身を包んだ男たちが、山本に襲いかかってきた。
踊り場まで数歩下がり、足場を確保する。
ガルベスの剛腕に胸ぐらを掴み上げられる。
中村が山本の陰から現れ、足払いをする。
彦野も見上げんばかりの巨体に素早い動きで応戦する。
体格の差こそ明らかにあるが、接近戦なら三人がかりのこっちが有利だ。勝てる!
傷跡が開くのも構わず、彼らは目の前の敵を敵とも思わず、前に進むことだけを考えていた。

87 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/08 17:23 ID:ADIKXOBM

「山本!無茶するな!…死ぬぞっ!」
山本が体制を崩したガルベスに飛び掛るのを見、
彦野は思わず叫んでいた。
山本は左足に歩くこともままならぬほどの傷を負った上、
急所は逸れたが胸にも銃弾を受けている。
応急処置を施し、痛み止めを注射しているとはいえ
本来なら絶対安静だ。
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう!」
「痛み止めが切れたらどうするつもりだ!」
「切れてから考えます!」
くそっ。
彦野はマルティネスの体当たりを避けながら毒づいた。
一応、一本だけ痛み止めのストックは有るが、
あんな無茶苦茶に動いていたら、何本有っても足りやしない。
「うわあっ!」
「ぐはっ!」
山本と中村がガルベスの両腕に弾かれた。
それぞれに巻かれた包帯に、じわりと血の染みが広がる。
ガルベスはニヤニヤと笑みを浮かべている…
「くそっ…邪魔だっ!」
彦野は眼前にいるマルティネスの腹に思い切り蹴りを入れたが、
その分厚い皮下脂肪の前にはまるで無力だった。
ここは狭い。しかも高所だ。うかつに暴れられない。
何とか小回りを利かせて有利に持ち込まなければ。
彦野はマルティネスの攻撃を避けながら、必死で考えていた。

88 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/08 21:16 ID:Ex0UdOW7

チャリン、チャリン、チャリン、チャリン……
鈴のような音がかすかに耳に入り、井本は背筋を凍らせた。
自分は一人ではないと思いたかった。だが、敵か味方かわからない相手には見つかりたくなかった。
ビルの陰にしゃがみ込み、息をひそめる。
チャリン、チャリン、チャリン、チャリン……
だんだん近づいてくる。
チャリン、チャリン、チャリン、チャリン……
「私は戦う気はない。誰かね、そこにいるのはわかっているぞ」
血の気が一気に引けた。しかし、おそる、おそる、這い出して顔を覗かせてみる。
そこには、法衣姿の男が現れた。
男は、目深にかぶった編み笠を、ゆっくりと外す。
井本は、現れた顔を見て、あっと声をあげた。
「音さん……」

89 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/08 21:16 ID:Ex0UdOW7

音重鎮。井本にとってドラゴンズが憧れの対象でしかなかった社会人時代、その優勝を陰で支えた立役者である。
「私はただの、坊主ですよ」
音は唖然としている井本に向かい、にっこりと微笑む。
「どうして、ここにいるんですか?あなたは球団職員なのですから、監督のそばにいるのではないのですか」
「私は、寺に生まれた男ですから、人を殺めることはできないのですよ。なのでせめてもの供養に、皆の遺髪を集めているのです」
そう言って音はその懐に手を当てた。
「ああ、あなたにお見せするのは、やめておきましょう。見たら卒倒してしまうかもしれませんからね」
井本はその言葉を聞いても返す言葉が出てこなかった。『遺髪』などと聞いても、それは井本にとってあまりに縁遠い言葉であり、実感が全く湧かなかったのだ。
「音さん、俺、いったいどうしたらいいんでしょう?俺、怖くて、さっきも、怖くて、信じられなくて、岩瀬さんを、怖くて…」
井本は目の前にいる男にすがりたかった。
誰も信じることができず、その結果自分を助けようとした岩瀬を手にかけてしまった。その償いに、この男を信じたかったのだ。たとえ殺されても。
「………いいかい、聞きなさい」
音は、井本の目の前にかがみ、手にしていた錫杖を置いて肩を抱いた。
「私は、あなたがたに手を貸すことはできないし、かといって監督に加勢することもできません。
ただ、これだけはあなたに伝えたいのです。」
そして、音は手のひらで、井本の頭をぽんぽんと叩いた。
「生きなさい。何があっても、生きるのです」
井本はその手を頬に当て、声をあげて泣いた。
そうだ、これが人だ。
このぬくもりが、人の命のあたたかさなのだ。

93 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/09 16:04 ID:nQwPRCCd

別れ際、音は井本に言った。
「ここから北に歩けば、きっと
あなたの助けになってくれる人物が現れるでしょう。
どうか…この無益な戦いを止めて下さい」
共に来てはくれないのかと問うと、音は悲しげな顔をして首を振った。
「私は、彼のような戦士にはなれない。私は僧です」
「彼」が誰なのかわからないながらも、井本はそれで
音を引き留める事をやめた。
そもそも、音は無理をしてこんな所まで来てくれたのだ。
これ以上甘えてどうする…
自分を奮い立たせた井本は、辺りを警戒しながらも北へ向かっていた。
北には――と言っても大分遠いが――ナゴヤ球場がある。
この間まで、一軍に上がる為に必死で練習や試合に励んでいた
あの懐かしい球場だ。
今は、不用意に近付くと首輪が爆発する危険地帯だが。

94 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/09 16:06 ID:nQwPRCCd

どこかおどおどしながら十分程歩いた頃だろうか。
井本は、かすかな物音に気付いた。
足音のようだ。誰の?
頭が沸騰しそうになった。咄嗟に小さな商店の陰に隠れる。
もし足音の主が、自分を殺そうとしている人間だったら…
いや駄目だ、こんな考えを持っていたから俺は岩瀬さんを
殺してしまったんじゃないか。
でも、もし…もし、音さんがでたらめを…
心臓の音が全身をがんがんと揺すぶる。
井本は深呼吸をしようとしたが、体が震えて上手くいかない。
駄目だ、こんな事じゃ駄目だ、見つかったら殺され…
違う!違う!信じるんだ、岩瀬さんを信じられなかった分、
音さんを信じるんだ。そう決めたばかりじゃないか…
自分はどうせ人殺しなんだ、殺されてもいい!
井本は瞬間、物陰から飛び出していた。
さあ、殺すなら殺せ!俺は満足だ!
「…井本?」
間の抜けた声が、己の心音に混じって聞こえた。
「おい、どうした?こんなに汗かいて…逃げてきたのか、誰かから」
目の前に立っていたのは、野口だった。
「違いますよ…」
一気に全身の力が抜ける。一応、死ぬ覚悟はできていたのに…
安堵より先に、何故か一種の落胆があった。
「じゃあ、どうして急に飛び出してきたりしたんだ」
「逃げてなんか…俺、二度と逃げないって決めたんです」
「はぁ…そうか。そりゃあ…よく頑張ったな」
野口の手がぽんぽん、と井本の背中を叩く。
思わず唇を噛んだ。この人は、きっと俺が岩瀬さんを殺した事を知らない。
一番仲の良かった岩瀬さんを…
岩瀬さん。俺、野口さんを守ります。あなたの代わりに守り抜きます。

95 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/09 16:07 ID:nQwPRCCd

「岩瀬の遺言だ、お前は死なせないからな」
「いえ、俺が野口さんを守ります」
「は?ああ、そう…」
野口は一瞬きょとんとしたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻った。
「まあいい。これから俺は中日ビルの方へ行こうと思ってる」
井本は耳を疑った。
「中日ビル?!さっきあっちの方から爆音みたいなのが聞こえてきましたよ?!」
「だから。あれは多分、何か小競り合いがあったんだ。
それで戦っていたどちらかがビルを爆破した…
でも、ここまで来たら戦う勢力なんて決まってる。
憲伸達と、やる気になってる奴等」
「…はあ」
「という事は、憲伸達は中日ビルの方面にいるって事になる。
まあ生きてるかどうかはわからないけどな」
「そ、そんなもんですか」
いくら何でもその結論は強引且つ危険すぎるのではないだろうか。
が、野口はやはりまるで表情を変えていない。
「危険だとかどうとか、今更言っても始まらない。
駄目だったら駄目だった時に考える。行くぞ」
「マジですか…」
この人、何と言うか、スケールが違う。
エースとはこんなにも命知らずなものなのだろうか。
読売相手のマウンドでも飄々とこなす人だから、
かなりの度胸の持ち主だとは思っていたが…
「かなわないな、こりゃ」
さっきまでがたがた震えていた自分が馬鹿のようで、
井本は小さくぼやいた。

96 名前: 書き手A 投稿日: 02/05/09 16:13 ID:nQwPRCCd

一応、診療所は熱田区のどこかにあるという設定で書きました。

99 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/10 12:10 ID:68Ox4iXJ

ああ、誰かがいる…
井端さんだ。
井端さん、あなたを守りましたよね、俺…
あれ、川上さんに小笠原さんもだ…
天国って、名古屋にそっくりなんだなあ…
あ、井端さん、俺のほっぺたつねってる。痛くないや、やっぱり天国…いや、やっぱり痛いかも…あれあれ…
「気が付いたか」
「あ、井端さん。俺、まだ生きてる?…ッ」
「馬鹿、動くな。寝てろ」
ようやく意識を取り戻した荒木は、自分が横たえられている場所を確かめた。地下鉄構内だ。自動改札機が、目に入る。
駅員室から持ち出してきたバケツで布を絞り、井端は丁寧に荒木の顔に付着した血痕を拭ってやった。
「あっ、すみません、それ…」
荒木はその布が、井端のジャージであることに気づく。井端は、真っ青なアンダーシャツ姿だ。
「あんまり綺麗なもんじゃないがな。拭かないよりマシだ」
「しばらくはここで安静にしてもらうかな」
そう言って、川上は立ち上がり、尻ポケットからあるものを取り出した。
「あ、硬球!」
小笠原の顔に赤味が差した。
「ちょっと狭いけど、キャッチボールしないか?なんかさ、こんなことやってると忘れそうなんだよ、俺はプロ野球選手だってこと」
「そうですね…やりましょう!」
ポーン、ポーン…長い駅通路を行ったり来たりするボール。荒木と井端は、その様子を眺めていた。井端の硬い表情が、わずかばかりゆるんだことに荒木は気づいていた。
ポーン…川上があっと言った次の瞬間、ボールは小笠原の頭上を越えてはるか後方へと消えていった。
「悪ぃ!ちょっと滑った!」
「大丈夫ですよ、これくらい…」
走って追いかけていった小笠原の足が、止まった。
男が、ボールを拾い上げ、小笠原の目の前に差し出した。
背番号77、星野仙一だった。

100 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/10 13:32 ID:68Ox4iXJ

「がはァッ!」
小笠原の身体が吹っ飛んだ。ベンチと変わらぬ『鉄拳制裁』である。
川上は飛び出す。井端は、ナイフを構える。
「お前ら…、馬鹿もここに極まれりだな。この期に及んで、友情ごっこか?」
星野はニヤリとして四人の顔を見比べる。
「お前らみたいなお人好しがいるから、日本一どころかリーグ優勝も出来ないんだよ。何だ、今年の成績は。五位って、本気か?」
星野の言葉には誰も反論できなかった。人前で『ローテーションを守りました』などと発言してしまった川上はおのれを恥じた。
「フン…まあいい。せいぜいべたべたと固まっているんだな。」
そう言い放つと星野は踵を返し、地上出口へ向かって歩き出した…が、すぐにその足を止め、背を向けたまま口を開いた。
「俺は今からドームへ向かう。その間、俺から攻撃を仕掛けることはない。いつでもかかってこい。もちろん、反撃はさせてもらうけどな。
 万が一俺が生きてドームへたどり着いたらだ、そのときはお前たちを本気で殺しにかかる。いいな」
星野は振り返りざまに銃を向けた。そして威嚇のため、地下鉄路線図へ向けて弾丸を放った。
「じゃあな。ここからどうするかは、自分たちで考えろ」
『ナゴヤドーム前矢田』の丸印が、煙を上げていた。

106 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/11 13:39 ID:5W4J/vqj

久屋大通公園。
崩壊した中日ビルを惚れ惚れと眺めてから、
川崎はふむ、と唸ってあごに手を当てた。
川上達と井端達が合流する一部始終を見ていた為、
「四匹のゴキブリ」の居場所はわかっている。
その他、居場所がわからないゴキブリは…井本か。
「さっさと駆除しないとな…さて…」
「どっちから行くんだ」
関川はいい加減動きたそうだ。
先ほどから銃を磨いてみたり、軽い体操をしてみたりと落ち着かない。
「まあ、一匹しかいない方から駆除したほうが手っ取り早いさ。
監督があの四匹は駆除するだろうしな」
「井本か…居場所がわからないぞ」
「わからないから燃えるんじゃないか。
じっくり燻り出してやろうぜ…」

107 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/11 13:40 ID:5W4J/vqj

漸く島野の銃が背中から離れ、山田は一息ついた。
本部は全く慌ただしい所だ。
巨大なモニターはちかちかと明滅を繰り返し、
選手の首輪に取り付けた盗聴装置がさまざまな音声を送ってくる。
「なるほど…川崎達は、野口が生きている事までは知らないんだな。
山本と中村も死んだと思っているのか?まあ、こっちは関係ないか」
ポイントは野口の存在が後々どう影響してくるか、だ。
モニターを改めて見上げる。
現在、生きた反応の返ってくる首輪は十個。
星野を入れれば生存者は十一人だ。
山本と中村は彦野の手引きでなにやら面白い事をしている。
野口と井本は音が合流させたようだ。
まさかOB連中が紛れ込むとは思っていなかった。
首輪こそつけていないが、選手の首輪から会話を盗聴されれば
存在は筒抜けだ。それくらいわかっているだろうに。
彦野はどのみち助かりそうにないが、音はどうしてくれようか。
山田の顔には、いつしか酷薄な笑みが浮かんでいた。

112 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/12 22:43 ID:6IU7DvZe

「思ったより足音、響きますね…」
「あ?なにか言ったか?」
「声大きいですよ!野口さん!」
神宮西から栄までは名城線で一本だ。路上よりもわかりやすいという理由で地下鉄の線路を選んだのは野口だった。
「万が一、誰かが来たらバレバレですねどね…」
野口のユニホームの端をつまむようにして井本が続いていた。
一抹の不安は拭えないまでも、一人名古屋の街をさまよっているときの何倍もの安堵感に包まれていた。
「あの、野口さん、中日ビルについたらどうするんですか?」
また大声を出されたらたまったものではない。野口の耳元に顔を寄せて問いかける。
「さあ…どうするかな」
「どうする、って!野口さん!何も考えてないんですか!」
「考えても、考えなくても、動いてみなけりゃ始まらないだろ」
返事のかわりにはあ、とため息をついた。これが『宇宙人』たるゆえんなのか。
「それにな…こうしている間も、中村さんや昌さんは…」
「えっ?中村さん?何かあったんですか?!」
「井本、おまえのが声でかいぞ」
慌てて野口の背中に隠れる。そしてもう一度、辺りを見回して。
「どういうことなんですか!」
野口は振り返ることないまま口を開いた。
「この『プログラム』はな、俺たちにはとうてい及ばない、大きな力が動いてるんだよ」
大きな力…
「じゃあ、中村さんや、昌さんは?!まさか、殺されてる?!」
「バカ、縁起でもないこと言うもんじゃないぞ。あの人達ならきっと大丈夫だ、大丈夫…」
井本には野口が、自分自身に言い聞かせるべく言葉を繰り返しているように思えた。
「さあ…、もうすぐ矢場町だ。そろそろ、地上に出てみるか」

113 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/13 13:31 ID:R6M4QAXE

井端は蔵本から奪ったイングラムに目を落とした。これで後ろから星野を撃ったら?
いや…星野が何を持っているかわからない。
防弾チョッキは間違いなく着ているだろうし、
首輪の位置を感知するレーダーくらいは持っていそうだ。
下手に襲い掛かって返り討ちにあったのでは元も子もない。
「どうする…」
川上は何も言わず、黙って路線図を睨み付けていた。
小笠原はまだ殴られた頬が痛むのか、俯いて顔を押さえている。
「井端さん」
荒木が上体を起こして話し掛けてきた。
「ん?」
「滅多なことを考えないで下さいよ。みんなで生きて帰るんですから」
「わかってる…」
わかってはいるが。井端は考えてしまうのだ。
自分達が星野を殺せばプログラムは終わるが、戦う気になっている連中も生き残ることになる。
その後チームがまともに機能するのだろうか…
自分達と、やる気になっていた奴らと、今回声のかからなかったペーペーの若手ばかりで
「プロ野球」に相応しいプレイができるのだろうか。できまい。
生き残ったとしても、先は果てしなく暗いのだ。
いっそ自分一人犠牲になって星野を倒しでもすれば、格好も付くし後々の不安もなくなる…
「井端さん!」
荒木の声で、はっ、と井端は考えから覚めた。
「井端さん、今は生き残ることだけ考えましょう。
先のことなんて考えても仕方ないですよ」
考えていることをそのまま指摘され、井端は驚いた。
「井端さんの考えてることくらい、大体わかりますよ」
得意げな荒木。こんな時に能天気な奴だ。
井端が思わずため息をつきそうになったその時、
構内に川上の声が響いた。
「みんな聞いてくれ。…俺はドームに向かうつもりだ」

119 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/15 15:32 ID:WXm7sPEu

「監督が動いた以上、もうどこにも逃げ場はない。
ドームに行くしかないと思う」
確かにそうだ。井端は目で頷いて見せた。
星野からは恐らく逃げられない。向かっていかなければやられるだけだ。
勝利の為には覚悟を決めて全員でぶつかるしかない。
四人揃って生きて帰るのは無理かもしれないが
先のことを考えるのはよそう。荒木の言ったとおりだ。
今そんなことを考えても何にもならない。
ともかく、覚悟を決めなければ。
「ここに残りたい奴は、残ってもいい。俺は一人でも行くから」
そう言うと、どちらかと言うと気の弱い後輩を気遣ってだろうか、
川上はちらりと小笠原を見た。
しかし小笠原は首を振った。
「大丈夫です。行きます」
いつも舌足らずな感じの小笠原とは思えないほどしっかりした声だ。
井端は汗のにじむ手でイングラムを握りなおした。
もう、逃げられないのだ。
「荒木」
荒木に目線を移し、無理に来なくてもいい、と井端は言おうとした。
荒木が「行く」と言うのであろう事を予想した上で。
そしてそれを無理に押し留める気も井端にはなかった。
が。
「井端さん…俺、足手まといになるからここに残ります」
井端は瞬間、荒木が何を言ったのか理解できなかった。
ただ、荒木がとても悲しそうな顔をしている事だけはわかった。
「…あらき?」
「本当は、ずっと傍で井端さんを守りたかった。
でも、今はここに残る事が井端さんを守る事だと思うんです」
井端の背筋が、ふっと冷えた。

122 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/15 18:05 ID:sDA7Y1iB

「井端さんにはいつもいつも迷惑かけて…守備のときだって、俺が取り損ねた球、いっつも取ってくれて…感謝してます。
 だから、井端さんにこれ以上余計な心配かけたくない。二人分の命背負ってなんて、もし死なれたら俺、死んでも死にきれない」
「荒木、俺は別に…」
「男にこれ以上恥かかせないで下さい!これじゃいつまでたっても井端さんにはかなわないじゃないですか…」
見かねた川上はそっと、井端の肩を叩いた。
「わかってやれよ」
井端は無言のままうなずくと、荒木の手を取り、その上に自分の手を重ねた。
「監督以外にも荒っぽい奴らがうろついてるはずだ、万が一のことがあったら使え」
そう言って、小さなナイフを手渡した。木で出来た鞘には誰のものだろうかもはやわからないほどの血痕が染みついていた。
「…ありがとう。何から何まで、やっぱ俺井端さんにお世話されっぱなしだな」
「馬鹿、少しは成長しろ。俺がいなくても生きて行かなきゃならないんだぞ」
「…いなくならないで下さいね?」
二人は小さく笑みを交わし、井端はやがてゆっくりと歩き出した。
荒木は笑顔で、小さくなる三人の背中を見守っていた。
涙が頬を伝うのも構わずに、ずっとずっと、見つめていた。
こんなみっともない顔をしたって、振り返る人はもういないのだ。

126 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/16 17:19 ID:MsAuG/a0

ふと、先に立って階段を上ろうとしていた野口の足が止まった。
「野口さん?」
井本はぎくりとして声をかけた。嫌な予感がする…
「静かに…誰か、上にいる」
「えっ」
耳を澄ましてみたが、何の物音もしない。
しかし、静かに目を伏せた野口の顔は真剣そのものだ。
「二人…多分、このまま出て行ったら殺されるな」
「ひっ」
殺される。
抑揚無く放たれたその言葉の重さが脳天をぐらりと揺らす。
それは、何故か疑う余地の無い言葉であるように思えた。
「ヤバいな」
「ど、どうしましょう」
井本は慌てたが野口の顔は相変わらず無表情だ。
「待ち伏せされてるわけだから…宛てを外してやればいい。
別の駅から地上に出よう。奇襲だ」
「や、やっぱり戦うんですか」
「馬鹿、ビビるなよ。逃げてたって仕方ない」
「でも武器が何も」
「ま、それは何とかする」
井本は絶句した。何とかなるものだろうか?
「こういう時は頭使わないとな」
「は、はあ…」
もう諦めるしかない。岩瀬さんのこともある。井本は腹を決めた。

130 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/17 17:09 ID:dfcf6JQR

関川は階下に向けて突如銃弾を放った。
「おい、早まるなよ」
川崎が制止する。関川は、にやにやと笑っている。
「脅しだよ、脅し。ゴキブリはつついてやれば必ずどこからか現れるだろ?一匹見つかれば三十匹、てな…」
血の味をしめた男の顔だった。骨張った細い身体でありながら、目をぎらつかせている。
川崎はこの男が正気を失っているのではないかと考えた。しかしそんなことはどうでもいい。
万が一うかつな行動に出たならば、ただ殺すのみである。
「先行くぞ。さあて…どこの穴から這い出してくるか…」
せわしなくあたりを見回している関川が捉えたのは、生き残った『ゴキブリ』ではなかった。
「…おい。見ろよ、監督だ」

131 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/17 17:20 ID:dfcf6JQR

「アブナカッタデスネ」
野口の言うとおりにしてよかった。遠くから銃声を耳にした井本は、野口にへばりつくようにして歩いていた。
「な。俺の勘は落合の霊感にも負けないんだぞ」
この人が真顔で言うと冗談なのか判断がつかない。井本はハアと軽く受け流すしかなかった。
「栄に行くには上前津で鶴舞線に乗り換えるから…、と」
「詳しいですね、野口さん」
「毎日乗ってりゃ路線図なんてすぐ覚えるだろ」
毎日ってまさかあなた。中日ドラゴンズのエースが地下鉄に?
しかしいつまでたっても寮から出ない倹約家の野口のことだ、何億もらってもきっと染みついた庶民の生活をするのだろう。
「伏見で更に東山線に乗り換えか…タワーが近いな」
「え?タワーになにか、あるんですか?」
「いや…ちょっと、な。あっああ、名駅で売ってる大あん巻き、うまいんだよな」
井本は野口と出会って何度目かの溜息をついた。
これでいい。現役に余計な心配はさせられない。…俺も現役だが。
中村さん、昌さん、彦野さん…、どうか、どうか無事で。

134 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/19 02:33 ID:h5SkWbig

彦野は素早く懐を探った。
麻酔弾を込めた銃と手榴弾がひやりとした感触を返してくる。
銃は下手をすると山本や中村を撃ってしまうかも知れないし、
奪われた時のことを考えると危険だ。
といって、手榴弾はこんな所で無闇に使えば自爆することになりかねない。
一応ナイフもあるが、あの巨体相手では歯が立たないだろう。
他に持っている物といったら、ごく簡単な医療器具のみ。
どれも武器にはなりそうもない。
いや…待てよ。
ふと彦野の頭にある物の存在が浮かんだその時、
業を煮やしたマルティネスが蹴りを繰り出してきた。
しかしその鈍重な動きは衰えた彦野にもよく見える。
さっとその体を翻すと、彦野は右手に持ったそれを
さながらダーツの様に勢い良く投げた。
どつッ。
「ウオオオオオ!!」
倒れた山本に圧し掛かろうとしていたガルベスが咆哮する。
その右目に、細い注射器が刺さっていた。
あれが最後の一本だったのにな、と彦野は思った。
中村がすかさず中腰のガルベスの後頭部を蹴り付け、
山本も起き上がって注射器を掴むと無理やり押し込む。
ガルベスの叫びが辺りの空気を震わせた。

140 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/20 14:26 ID:UrRJTZNg

中村はガルベスに蹴りを見舞うと再びその足を払った。
片目を失い混乱しているガルベスが呆気なく転倒する。
いけるな。確かな手ごたえを感じた。
山本がガルベスに馬乗りになると右目から注射器を引き抜き、左目につき立てる。
みたびガルベスは叫び、激しく床の上に両腕を振り回した。
しかし、中村は恐ろしく冷静にその様を眺めていた。
これはもう安全だと本能が言っていた。
視力を失ってしまうと、大半の情報を眼から得ていた人間は
全くの無力だ。生まれつき視力が無いのならともかく。
山本がちらりとこちらを見た。胸の包帯に広がる血の染みが腰まで達している。
「落とすか」
ここは外階段だ。手摺りの向こう側には落下が待つのみ。
中村は無言で頷いた。
マルティネスの方を窺うと、彦野が素早い動きで足止めしてくれている。
「今しかないでしょう」
相変わらずばたばたと手足を振り回すガルベス。
しかし立ち上がる事さえ考え付かないらしい。
まるでひっくり返された虫がもがいているようだ、と中村は思った。
二人でゆっくりとその体を押した。動いた。
山本は痛み止めが完全には効いていないのか、額に脂汗を浮かべている。
「山本さん」
「俺の事はいいから」
山本は首を振ったが、辛そうだ。
出来るだけ負担を減らせるようにと、中村は渾身の力を込めてその体を押しやった。
「くっ…!」
その瞬間、ガルベスの体がぐらりと揺れて視界から消えた。
断末魔の叫びが糸を引いて下方に消えていく。
落下したのだ。
しかし、殺してしまったとは思わなかった。
この異常な状況で、中村の感覚は半分麻痺していた。

142 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/21 16:30 ID:+4cq9EMJ

「殺すか」
関川が眼を爛々とさせて言った。
この男は狂いかけている。そろそろ捨てた方がいいかもしれない。
頭の中で考えを纏めながら、川崎は関川を手で制した。
「馬鹿言え。もし殺すにしてもゴキブリの駆除が先だ」
「なんでだよ…大体、監督に協力しても助かる確約なんて無いだろう。
ゴキブリの駆除が済んだら俺達も始末されるかもしれない」
「…そうかもな」
「お前はそれでいいのか?!俺は嫌だ。俺は生き残るんだ」
つまらない考えだ。
意地になって生き残っても、そこに何が残る?
川崎は思い出していた。ヤクルトプログラムで優勝したときのあの空しさ。
大切なのは生き残ることではない。
このゲームを最大限に利用し、楽しむことこそが川崎の目的だった。
極端な話、その為には最後に勝者になる必要もない。
ゴキブリを全員殺すのは、星野の思い通りになるということだ。
それじゃあ面白くない。
しかし、まだまだこの名古屋には生きた人間が多すぎる。
最後のお楽しみのための舞台はまだ整っていないのだ。
それまでは星野の為にゴキブリの駆除をしてやろうじゃないか。
「じゃあ、お前一人で行け。俺は俺の為だけに動く。
お前が死んでも、監督が死んでも構わん」
本当は、関川が星野に勝てるわけがないと思っていたが
それは口に出すのはやめておいた。狂人を刺激してもいい事はない。
「フン…いいだろう。俺のお陰でお前も生き残れるんだ、感謝しろよ」
関川はとうとう捨て台詞を残して駆け出した。
いや、お前は死ぬさ。そしてこのゲームはまだ続くだろう。
川崎は心の中で関川の後姿にそう語りかけ、それから徐に懐から爆弾を取り出すと、
地下鉄の駅に続く階段にそれをセットする作業を始めた。
これが俺のやり方だ。一つずつ、確実に出口を潰していく。

143 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/21 17:22 ID:4Ck3phrL

そのとき、俺は故郷の熊本を思い出していた。
阿蘇の山々に囲まれ、野山を駆け回っていた頃のこと。
やがて母に連れられるがままに、地元の野球チームに入ったこと。
暗くなるまで走り回って、泥だらけになって、家路についた。
今思えばたいした距離ではなかったのだが、友と帰る道程の長いこと。
たしか、あのとき俺は、流れ星を見たんだ。
三回願いを唱える時間なんてなかったけれど、そのとき初めて俺は、本気で『野球選手になりたい』と思った。
あの人もいつか、星を見たのだろうか。

地下道の静寂に耳が慣れた頃、かすかに遠くで物音がするのに気づいた。
俺は、手元に置いてあったナイフを握りしめた。
鞘を外し、刃の具合を確かめる。舐めてやると、血の味がした。
ぼんやりとした薄暗い通路をじっと眺める。
きっと今、外に出たなら目がくらんで開けられないだろう。そのかわり暗闇なら任せろ、だ。
足音は、出口じゃない。線路からだ。…一人じゃない?!やばい。
改札の陰に隠れ、ホームからの階段を覗き込む。
姿は依然として見えない、が、かすかに声が聞こえた。
だんだん声は大きくなる。誰の声だ?なんて言ってる?耳に意識を集中させる。
そして…
「野口さん!!」
俺は無意識のうちに声をあげていた。
誰か違う人間の悲鳴が聞こえた。
「おーい、誰だー?あぁ、荒木かぁー!無事かー?」
人影が大きく手を振っているのがはっきりとわかった。
野口さんだ。そして、その背中に見えるのは、ああ、なんだ、井本さんか。
俺は自動改札にもたれかかりながらゆっくりと立ち上がった。
そして、久しく会っていなかったチームメートとの再会を喜び、両手をあげて返事した。
ようやく二人の姿がはっきりと確認できるようになったそのとき、
……背後から爆音とともにもの凄い圧力を受け、俺は体勢を崩した。
大量の砂埃が舞い、それが落ち着いたときにようやく何が起きたのかがわかった。
俺の後ろの出口がひとつ、崩されたのだ。

151 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/23 17:41 ID:rWkoc5SC

関川はコンクリートの壁にぴったりと背中をつけ、
星野が歩く後姿を睨み付けていた。
ビルの谷間を縫って歩く星野。ドームに向かっているらしい。
「へッ…」
乾いた唇をぺろりと舐め、関川は武者震いをした。
マシンガンの弾はまだ充分すぎるほど残っている。
この弾丸で星野の頭を吹き飛ばして、生き残るのだ。
死にたくない、絶対に死にたくない。
生き残る為ならなんだってするのがプロってものだろう。
関川はそう信じていた。
その神話が彼の中に出来たのは、阪神から中日に移籍したその時だった。
阪神時代。関川のチームメイトにも色々居て、
実力でポジションをもぎ取る者もあったが、
監督やコーチの気に入りだというだけで試合に出ていた選手もいた。
関川はというと、そんな奴はプロではないと信じていたので
決して上層に媚びようとはしなかった。
しかし、結局関川は中途半端な捕手でしかなく、
やがて中日への移籍の話をされた。
その時、気付いてしまったのだ。
これが答えなのだ、と。
監督に取り入ってでも試合に出ようとする奴こそプロだったのだ。
自分は監督やコーチに好かれなかったから、今こうして切られるのだ…
何としてでも、どんな罵声を浴びてでも、
生き残る為に手段を選ばない人間が勝者になるのだ。
関川は汗の滲む手で銃を構え直すと、星野の頭に狙いを定めた。
今まで世話になった事への、感謝の心など微塵もない。
踏み台にできるものは全て踏み台にするのが、関川にとっての真実だったのだ。
「死ね…!」
しかし、その手が引き金を引くことは無かった。
ピッ…という電子音が、関川の耳に一瞬だけ響いた。

152 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/23 17:41 ID:rWkoc5SC

星野は手にした小型の機械を弄びながら、屈んで関川の死体を検めた。
「馬鹿が。俺がお前の居場所に気付かないと思ったのか?ん?
全く…眼をかけていてやったのに、とんでもない奴だ」
遺品は、マシンガンが二丁。
星野はそれに手を伸ばすのをやめ、体を起こした。
「この「ゲーム」は俺の主催試合、お前らはビジターだぞ。
多少俺に有利でも、そこは我慢してもらわんとな」
首輪に電波を送るリモコンと、首輪の位置を感知するレーダーの
二つの役割を持ったその小さな機械を、星野は首の吹き飛んだ関川の手に握らせた。
「まあ、ここからは俺もこんな物に頼らずやってみるさ。
あいつらは馬鹿正直だから、お前みたいに後ろから掛かってくることはなさそうだしな」
関川のリモコンを握った右手と、投げ出されていた左手とを
胸の前で組ませてやると、星野はその場を後にした。
「お前が裏切ると、うすうす感付いてはいたが…ショックだったぞ」
誰に言うでもなく、そう言い残して。

153 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/23 17:44 ID:rWkoc5SC

死亡者:関川浩一

生存者:星野仙一、山本昌広、中村武志、荒木雅博、
     井端弘和、川上憲伸、小笠原孝、
     川崎憲次郎、井本直樹、野口茂樹
  
     残り10人

161 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/26 00:56 ID:cdzb6ptT

階下での死闘など知らぬげに、老人は独り悦に入って
いた。

「今回のプログラムは予想以上の収益になりそうだな。
星野の手腕のおかげだ。来年の関西でのプログラムも
奴に任せて見るか。」
部下がおそるおそる声をかける。
「しかし御前様、関西では野村にやらせるのでは?」
「野村では地味すぎて賭け金はそう伸びんよ。スキャ
ンダルで身を引いてもらう事にでもしよう。」

部下に一瞥もくれずにさらりと言ってのけた老人は、
再びモニターに注意を移した。画面に映っていたのは
階下の様子だった。さすがに眉をひそめる老人。

「ガルベスがやられたか・・・久々にお前の出番かも
知れんぞ?」そう部下に話しかける。
ムエタイの修行を積み、特に肘打の破壊力には定評の
あるその部下は静かに、しかし深く頭を下げる。
「御意。私めも血が騒いで参りました。不肖この橘高
にお任せ下さい。」

再び一礼すると彼は静かに、しかし急いで階下に向かっ
た。

164 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/26 16:50 ID:IJPdG4RE

ガルベスの転落に動揺したマルティネスの隙を伺って階下へ突き落とすと、三人はしばしの休息についた。
彦野の手元に残っていた包帯や三角巾で、山本の再び開いた傷口を止血しようと試みるが、巻いても巻いてもその下から血は染みてくる。
「…もういいですよ。いくらやってもきりがないですから、しばらくここで寝ています」
山本は彦野の手を制止して、階段に寄りかかった。
ふうと息をつき、中村と彦野も腰を下ろす。
が、三人の間に静寂が訪れたそのとき、はるか上方から、再び誰かが降りてくる物音が聞こえてきた。
「!…誰だ?」
山本の身を案じ、中村がその前に出る。
螺旋階段から姿を現したのは、紺色のポロシャツのユニホーム。頭には『CL』…セントラル・リーグのイニシャルが入った帽子。
「…そういうことか。これで全て合点がいく」

165 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/26 16:50 ID:IJPdG4RE

セリーグ所属審判員であるはずの橘高。彼がこの場に姿を現したことは、つまり彼が読売の支配下にあるということを紛れもなく現していた。
思えば昨シーズン、彼の判定に対し反論した立浪、大西、そして星野監督までもが退場処分となった。
大西が審判に対し暴行を働いたという事実ばかりが誇張され、それ以来大西には『乱闘要員』という不名誉なレッテルが貼られてしまった。
大西が手を出すに至った経緯には、まぎれもなく橘高審判員が彼に手を出したことがあるというのにである。
「貴様!あちらこちらで揉め事を起こしていると思ったら、やっぱり読売の手先か!!」
中村が浴びせ掛ける罵声をものともせず、橘高は口元をにやりとさせた。
「当たり前よ。お前たち若造は知らんのか、『巨人・大鵬・卵焼き』よ。バカな奴らめ、ほんの少しの手心で、判定なんて簡単に操れるのにな」
「黙れ!貴様…恥を知れ!!」
「フッ…、まあ、俺は金が欲しくてこんなことをやってるわけじゃあないからな。野球とは、格闘技よ…」
そう言った橘高は、胸の前で両腕をクロスさせると、その手に力を込めた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ああああ!!!!!」
腕を左右に開くと同時に、ポロシャツは縦に真っ二つとなり、隆起した筋肉が露わになった。
「すげェ…『北斗の拳』みたいだ」
「昌さん、そんなこと言ってる場合じゃありませんよ」
戦闘態勢になった橘高の前に、中村を押しのけ彦野が進み出た。
「中村、昌を頼む。ここは俺がやる」
「キエェェェェェェ………オワチャアッ!」
強烈な飛び蹴りとともに、橘高の身体が宙に舞った。

168 名前: 161 投稿日: 02/05/26 21:35 ID:fyHzCDXY

「少し頼む。」
島野はゆらりと席を立ち、出口に向かった。
「えっ?こんな大詰めにいったい・・・?」
問いかける仁村に「なに、ちょっとしたヤボ用
さ。すぐ戻る。」とだけ言い残し、ドアを出る。
うろたえる仁村をよそに、山田は何か悟った顔
をしていた。

170 名前: 161 投稿日: 02/05/26 22:00 ID:fyHzCDXY

両腕と数本の肋を折られ、頭部からの激しい出血
で視界を奪われながらも彦野はまだ立っていた。
いや、立たされていた。左右から連続して襲って
くる打撃に倒れる事さえ許されないのだ。

彦野を嬲りながら橘高は、最高の快楽に浸ってい
た。そうだ。この為に俺は審判になったのだ。無
制限に相手を嬲れる絶対的な立場。普段はルール
を盾に、そして今は圧倒的な力量差を盾に。いつ
しか彼は高笑いをあげていた。

「なんだこいつ?狂ってやがる。」介入する隙を伺
っていた中村は背筋に冷たい物を感じる。高笑いし
ながらも彦野への攻撃を緩めず、なおかつ隙も見せ
ないのだからなおの事だ。

強引に介入しようとしても彦野の背が邪魔で出来な
い。奴はそこまで計算した角度で彦野を嬲っている
のだ。

高笑いにまぎれて、下の方ですべり込んで来た車の
音に中村は気付かなかった。

171 名前: 161 投稿日: 02/05/26 23:51 ID:fyHzCDXY

やがて彦野は気を失い、ゆっくりと崩れ落ちた。
橘高はギラギラした目を中村と山本に向ける。

「次はどっちだ?こいつよりは楽しませてくれよ?」
狂気に満ちた視線から山本をかばうように、中村
はズイッと前に出た。

(昌さんはとても戦える状態じゃない。とても勝て
る相手じゃないが、俺だって頑健さには相当の自
信も定評もある。奴の攻撃に耐え抜けば付け入る
隙も出てくるさ。あの鉄拳制裁にも耐え抜いた俺
だぜ)

中村の脳裏に懐かしい日々が蘇った。泥まみれに
なり必死で練習し、殴られ蹴られ、それでも監督
にずっと付いて行った。一人前の捕手になる為に、
そしてそこまで目をかけてくれる恩人、星野に報
いる為に。

(監督・・・)

首を振った。あの男ももはや「敵」となってしまっ
たのだ。今は過去を懐かしんでいる余裕は無い。

「おっさん、そろそろ息があがってるんじゃねぇ
のか?俺は彦野さんとは一味違うぜ!」

ともすれば崩れ落ちそうになる自分を鼓舞する為
につく悪態。だがその背後から、思いがけない言
葉がかけられた。

172 名前: 161 投稿日: 02/05/27 00:19 ID:GRW9PjEm

「悪いなタケシ、そいつは俺の相手だ。ここは引いて
くれや。」
「!」
驚いて振り向く中村と山本。そこには島野がいた。
「島野さん!なんであんたがここに?」「本部で高
見の見物してるんじゃなかったのかよ?!」
「敵」陣営のはずの男の思い掛けぬ登場の仕方に
驚く二人。

「そいつとはカタァつけなきゃなんねぇ因縁て奴
があってな。俺に取っちゃ今の立場たぁ関係無く
やらにゃぁならん相手だ。こんな所に出て来てく
れるとは思わなかったがなぁ」
島野が続ける。
「考えて見りゃ好都合だよなぁ。プログラム中は
エリア内でなら殺人もokなんだからよ。」

橘高は目を細めて「島野か・・・いずれ決着をつ
けなきゃならんとは思っていたぞ」とだけ呟き、
静かに構えを取る。呼応して中村の前に出る島野。

阪神のコーチ時代、橘高のあまりの判定に激昂し
て起してしまった審判暴行事件。あやうく事実上
の球界永久追放になるところだった。もしあのま
ま中日が拾ってくれなかったら・・・・

ある意味逆恨みだと言う事は判っている。だが、
許しておける相手では無いのも事実だった。

「奇遇たぁこの事だな。俺もあの日てめぇに浴
びせた蹴りを磨くためにムエタイの修行してた
んだぜ」

174 名前: 161 投稿日: 02/05/28 01:30 ID:W9RQw41T

「いいんですか?山田さん」仁村がうろたえながら聞いた。

「名古屋市内全域は退避勧告エリアだ。参加選手と本部
職員以外は誰であれ単なる侵入者でしかない。そして侵
入者は------どのような事になっても構わない。
それがこのプログラムのルールだ。」山田が冷徹に答え
る。

選手達の首輪につけた盗聴機、そこからの音声で橘高の
名が聞こえた時、島野の顔色が一瞬変ったのを山田は見
逃さなかった。そして彼もあの因縁を知っていた。

「好きにやらせるしかあるまい。どのみち止める事など不可
能だったんだ。」


いつしか外は雨が降り出していた。北の方では雷鳴も聞こえる。

175 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/28 14:14 ID:vrmfV5ED

降りしきる雨の中、川上達はひとつの死体を呆然と眺めていた。
首のないそれは、縫いつけられた『23』だけがその主を証明している。
「関川…いったい誰が…」
ふと、井端が『関川だったもの』が握りしめている小さな装置に気づいた。
指を一本一本はがし、それらを手に取る。
一つには小さな画面がついており、中心に三つの点滅が見られる。
「これは、もしかしたら、レーダーか…?」
「…そのようだな。こんなものを持っているのは、星野監督以外考えられないな」
では、もうひとつは…
首から上が吹っ飛んだ死体と見比べる。
「こんなもの!」
地面に投げつけようとする川上の手を井端が止める。
「万が一暴発したらどうするんだ!」
「!…そうか、そうだよな」
二つの装置を尻ポケットにしまう。
川上は死体のそばに落ちていた武器を拾い、井端にマシンガンを手渡したが、井端はそれを受け取るなり、小笠原の目の前に突き出した。
「これで、あれを打ってみろ」
転がった死体を指さす。
さっきから川上の背中に貼り付いていた小笠原は、首を激しく左右に振ってますます川上の背後に隠れた。
「井端!なんてこと言うんだよ!怖がってるじゃないか」
井端は川上の言葉に表情も変えることなく口を開いた。
「こいつは今のままでは足手まといだ。確実に死ぬ」
「!なんてこと…」
掴みかかろうとする川上をかわし、井端は小笠原の腕を引っ張ってマシンガンを握らせた。
「守るべきものがあるなら、戦え。俺は荒木を殺そうとした奴らを殺した。お前が生きて帰るつもりなら、戦え」
小笠原はおそるおそる手に取ると、銃口を死体に向けた。
「わああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
泣きじゃくりながら、何発も、何発も、跳ね上がる関川の死体へ向けて、小笠原は銃弾を浴びせた。
雨が全て、血も涙も洗い流してくれる。

176 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/29 00:11 ID:cSOL2iS6

そんな小笠原達を見ながら川上はずっと思っていた。
-今思えば立浪さんやティモンズは幸せだったかもしれない…。
つい最近まで仲間同士だった奴等がこんな醜い争いを繰り広げているなんて知ったら二人はどう思うだろう。
川上は、小笠原と井端、そして関川だった肉の塊を見つめながら涙を堪えていた。
その場に降り注ぐ雨は物悲しく何かを語っていた。

177 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/29 13:28 ID:RRUTZBjn

荒木は床に座り込み、爆破された出口を見遣った。
何とか瓦礫に飲み込まれるのは回避できたものの、
もうこの出口からは外に出られそうもない。
「ど…どうしましょう…こ、こんな事って」
「落ち着けよ。まだ一箇所崩されただけなんだから」
井本がせわしなくぐるぐると歩き回り、野口は俯いて何かを考えている。
荒木は井端のナイフを握り締めた。
また、俺が足手まといになってしまう…
「それにしても、誰がこんな事を」
悔しさから、自然と言葉が口から漏れる。
「…誰が爆破したのかはともかく、これは多分
怪我人が地下にいる事を見越してやったんだと思う。
怪我で満足に動けない人間なら、
先回りして脱出することも出来ないし…
荒木、多分、お前がここにいる事はバレてるんだ、爆破した奴に」
荒木に応えて、野口がゆっくりと言った。

178 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/29 13:28 ID:RRUTZBjn

「地下には僕も居るかもしれないのに、無計画な奴ですね。
事実、ここに居るし」
井本が歩みを止めて言った。
「お前が居たとしても、ビビりだから怪我人の荒木を助けたりしない、
と思って計算に入れなかったのかもな」
にべもない野口。
「そ、そんな」
「井本はともかく、俺は多分死んだと思われてるから
爆破した奴にとってはイレギュラーだな。これをどう決め手にするか…
ああ、まずは移動しないと。荒木、立てるか」
「え、は、はい」
野口がこんなによくしゃべるとは思わなかった。
戸惑いながら、壁に背を持たせかけて何とか立とうとしたが、
あと少しのところで力が入りきらない。
「くそっ…」
ここで一人で立てれば、足手まといから脱出できるのに。
「…わかった。無理しなくていい。おい、井本」
「え?」
「お前、ちょっと荒木を支えてやれ。俺が背負っていくから」
「あ、はい」
見たところ、野口は荒木より少し背が低い。井本は目に見えて小柄だ。
思い出せば、井端も川上も自分より小さかった。
「ウドの大木ですね、俺」
「気にすんな」
コースケの奴でも生きてりゃ良かったのに。
野口に背負われながら、荒木は何となくそんな事を思った。

187 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/30 22:27 ID:x42Rv0gm

ちょっとゴメソ 教えてくださひ。
野口井本荒木川崎がいるのは今どこの駅ですか?

188 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/30 22:38 ID:FgxRN4+c

中日ビルのふもとで関川の威嚇射撃に遭ってそのまま地下に入ったので栄になるかと。
たぶん井端たちと川上たちが合流したのは栄の交差点の、公園みたいになってるところ(バスターミナルの向かい)かなあ…

190 名前: 161 投稿日: 02/05/30 23:09 ID:x42Rv0gm

続いてその隣の出入り口でも爆発が起こった。さらにその向こうでも。

「野口さん、誰だか知らないが敵は俺達を地下に・・」井本が弱気
な声で囁く。だが、井本を背負った野口は走りながらもキョトンと
した顔で何かを考え込んでいる。

「野口さん、野口さんってば」
突然立ち止まる野口。振り向いた彼の顔には笑みが浮かんでいた。
「わかったぞ井本。そうか、そう言う事か・・これで勝機が見え
た。急ぐぞ!」再び走り出す野口。
「え?あ、ちょっと待ってくださいよぉ~」

192 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/30 23:44 ID:EC3qo+c5

「行こう、武志」
山本の声で中村は我に帰った。
「山本さん」
「彦野さんは、俺が、背負っていくから…上に進もう。
橘高と島野さんは、お互いに戦いたがっているんだから…
邪魔しなくても、いいだろ…」
途切れ途切れの声。息も上がっている。
山本の体力はかなり磨り減っているようだった。
しかも、この雨は当分止みそうにない。
このままでは状況は悪くなるばかりだ。
時間がない。
「わかりました。…島野さん、ここは任せます。
あ、山本さん、彦野さんは俺が」
彦野はぐったりとしているが、
素人目には命に関わる怪我はしていないように見える。
じきに目を覚ますだろう。
山本を制止し、中村はそっと彦野の体を己の背に乗せた。
上へ。それしかない。
「山本さん、歩けますか」
「何とか…俺も頑丈さには自信があるからな」
遠雷が、暗くなり始めた空に響き渡る。
「島野さん、この借りはいつか返しますよ」
行きざま、島野の背中に声をかけると、
その武骨な顔が一瞬こちらを振り向き、にやりと笑った。

193 名前: 161 投稿日: 02/05/30 23:46 ID:x42Rv0gm

狂気に目を輝かせ川崎は三越脇の階段に爆弾を投げ込んだ。
急いで退避しながら、次の昇降口ほ探す。そろそろ手持ち
の爆弾も少なくなりつつある。
「へっへっへ・・・そろそろ次で全部かぁ?やたらと出入
り口の多い駅だなここは・・・」爆発音を背に道路を渡り、
丸栄側の出入り口に向かった。雨が全身を濡らしても気に
ならない。



ズンッ
向こうで爆発音が聞こえる。野口と井本は息を潜めなが
ら外を見やる。新たな出入り口を見つけて近寄ってくる
川崎の姿が見えた。
「やはりあいつか・・・。いいな井本、もう少しこっち
に来たらこいつで・・・」

背後では床に横たえられた荒木が不安そうに二人を見つ
めていた。

196 名前: 161 投稿日: 02/05/31 00:19 ID:Dq64jtlU

「あんな方にもありやがる・・・しち面倒くせぇ街だぜ
まったく・・。」
川崎は明治屋の方に歩き出した。周囲への警戒も忘れて
いない。



「来たぞ・・もうすぐだ」「はい」
二人はそれぞれ地下街で見つけた大きなコンクリート
の瓦礫を持ち上げた。



川崎は万が一の反撃に備え、着発信管をつけた爆弾をいつでも
投擲できるように右手に持ちゆっくりと進む。幸いゴキブリは
銃は持っていないようだ。じっくりと楽しませてもらおう。

ふいにガラスの割れる音がした。予想もしない方向から。

頭上?!

驚いて見上げた川崎の目に、丸栄の二階から瓦礫で窓を破り、
そのままガラス片と共に飛び降りてくる野口と井本の姿が映っ
た。

ズギュル

鈍い音がして、野口と井本の持つ瓦礫が川崎に直
撃する。それ自体の重量に加えて野口と井本の体
重がかかり、二階からの落下の速度も加わってそ
れは川崎の体を破壊するのに十分な力を発揮した。

197 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 00:50 ID:Dq64jtlU

左半身を破壊(そう、まさに破壊と言う言葉がふさわしい)
された川崎はゆっくりと崩れ落ちた。背負っていたリュック
は放り出され、中の爆弾ともども街路の植え込みの向こうに
放り出された。


虫の息となっ川崎が、彼を見下ろしている二人に聞いた。
「いったいどういう事だ?おまえら地上に上がって来たとこ
なんざ見てねぇぜ?・・・ゲフッ・・・どっちに俺が向かっ
てるか・・・わからん以上うかつに上がってこ・・れ・・」

「俺もわかんないですよ野口さん。なんで丸栄の地下から上
に上がるのは安全だってわかったんですか?」
野口は川崎を指差しながら答えた。
「考えて見りゃ変だったんだ。こいつのやっている事はまっ
たく無駄だったんだよ。」

栄の駅ってのはそのまま地下街になってて、しかもその地下
街ってのはただだだっ広いだけじゃない。各デパートの地下
食料品売り場ともつながってるんだよ。出入り口を全部潰す
つもりなら・・デパートも全部爆破しなきゃならない。それ
をしないうちに地上に出ている出入り口だけ爆破していって
もデパチカから容易に上に上がられて今みたいな奇襲を食ら
う。」

198 名前: 161 投稿日: 02/05/31 00:58 ID:Dq64jtlU

雨に打たれながら野口は続けた。
「なのにそんな無駄な事をしてるってのはつまり、栄地下街
の事を知らない奴が相手だって事だ。ならその手が使える。
ヒントをくれたのは井本、お前だよ。」
「俺が?」
「お前地下鉄の路線をよく知らなかったろ?こんな無駄な真
似をしておかしいと思ってたところにそれを思い出したんだ。
敵は名古屋の事をよく知らない奴じゃないかって。」
野口は川崎に視線を移す。
「名古屋に来て日が浅い川崎、あんたなら無理も無いな。」

199 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 01:00 ID:OHEj0CXI

血が、ただただ血が、辺りに広がっていく。
やがて雨に紛れてそれらはしゅるしゅると流れ始めた。
「…のぐ…ち…そうか…お前が…入れ知恵しやがったのか…」
川崎はもうすぐに死ぬだろう。
井本はそっとその場を離れながら、川崎と野口の会話を聞いていた。
とてもではないが、正視できない。
しかも二階から飛び降りたショックで腰が抜けていた。
どこかに座りたい。我ながら情けないことだが。
「ええ。死人に殺される気分はどうです?
ま、ともかく。川崎さん、あなたの計算は完璧じゃなかったんですよ。
俺も伊達に名古屋に十年住んでませんから」
ひゅう…と川崎の喉が音を立てた。
どうやら笑っているらしい。
「…嫌味な奴…だ…」
「どうも」
「せっかく…面白い、ゲームの…舞台を…
まあいい…俺の実力不足…だな…」
「…いや、俺の運が良かっただけですよ」
「お前さえ…おとなしく死んでりゃ…うまくいった…のに…
野口…死ぬなよ…」
「さあ。命がけで井本を守るって岩瀬に誓ったし、
最後まで生きてるかどうかはわかりませんよ」
「…食えない…な…」
再び、川崎がひゅうひゅうと笑う。
野口はもう何も言わなかった。
しばらく、ひゅうひゅうという音が雨音に混じって聞こえていたが…
やがて、聞こえなくなった。
「死んだよ」
間を置いて、野口が静かに言った。



200 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 01:07 ID:OHEj0CXI

死亡者:川崎憲次郎

生存者:星野仙一、山本昌広、中村武志、荒木雅博、
     井端弘和、川上憲伸、小笠原孝、
     井本直樹、野口茂樹
  
     残り9人

*************************
川崎はうっすらと片目を開けて、野口の後姿を盗み見た。
もうまともに体は動かない。爆弾入りのリュックは植え
込みの向こうだ。が、幸い右手に持っていた護身用の着
発信管付きだけはまだ無事だ。
右手も何とか動かせる。

「ククク・・騙されたな・・お前らも・・」

「危ない!」井本が野口を突き飛ばそうとするのが見
える。

「お前らも道連れだぁ!」
残されたわずかな力で、右手を地面に叩きつける!


轟音。爆発が起った。


209 名前: 191 投稿日: 02/05/31 02:25 ID:Dq64jtlU

重い。一瞬意識が混乱した野口がまず感じたのは重さ
だった。・・・重さ・・井本!?

井本の体が覆いかぶさっていた。息が荒い。
「おい・・一体?」
「の・・ぐちさん・・・」

混乱から醒めた野口は瞬時に理解した。
井本が彼を爆発からかばった事に。
「おい!井本!大丈夫か?!」
体を入れ替え、井本を抱き起こす。
その手にべったりと血が付いたのに気がいた。

「やりましたよ・・・・俺、ちゃんと野口さ・・んを
ちゃんと・・ま・・守りましたよ・・ね」
「馬鹿野郎!お前は俺が守るはずだったんだよ!岩瀬
さんとも・・・なんで・・なんで・・」
もはや野口の声は嗚咽まじりで言葉にならない。

「や・・だなぁ・・俺、言ったじゃないですか・・・
野口さ・・んを俺が守るって・・・・」
切れ切れに井本は囁く。「こ・・れで・・俺・・岩瀬
さんの所に・・胸、張って・・行けま・・す。」
そこまで言うとガックリと事切れた井本の顔は、満足
げに微笑んでいた。

「井本ぉ・・井本ぉぉぉぉっ!」
号泣する野口の肩に、激しさを増した雨が轟然と降り
注いでいた。

210 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 02:28 ID:Dq64jtlU

死亡者:川崎憲次郎、井本直樹

生存者:星野仙一、山本昌広、中村武志、荒木雅博、
     井端弘和、川上憲伸、小笠原孝、野口茂樹

      
     残り8人

211 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 04:08 ID:OHEj0CXI

ゆっくりと悲しみが頭から引くと、野口はひとつ息をついた。
井本の死体をそっと植え込みの木の下に横たえる。
「ごめんな…井本、ごめんな」
その無残な体を見て、一度引いた涙がまた溢れた。
俺は馬鹿だった。自分の冴えた頭脳と勘に酔っていた。
こんな不注意で井本を死なせてしまうなんて。
ついさっきまで、自分の周りをせわしなく動いていたこいつが、
もう動かない…
ちょっと気の弱いところはあったが、いい奴だった。
自分より遥かに生きる価値のある男だった。
「俺が殺したようなもんだ…」
岩瀬、お前が生き残らせようとした井本を、俺、殺してしまったよ。
「許してくれ…この戦いが済んだら、必ず償うから」
今はまだ、自分の命を損なったりすることは出来ない。
地下に重傷のの荒木がいる。
あれを井端に生きて再会させなければ。
野口はふらりと立ち上がった。
荒木さえ生き延びさせれば、もう俺の命は終わってもいい。
雷が大きく鳴った。近い。
「井本。お前は立派な男だったよ…
俺の十倍も、百倍も、お前は立派だったよ…」
自分はどうして、いつも大切な人間を目の前で死なせてしまうのだろう。
野口は天を仰ぎ、それからまた俯き、
荒木の待つ地下街に向かって歩き始めた。

216 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/31 17:50 ID:i5f7Q9Ds

『ナゴヤドーム前矢田』の看板を見たのはいつのことだろう。
こんなにもドームが遠いとは思わなかった。
今まで寮からの送迎バスや、自分の車で通っていたため、ドーム周辺のことなど三人ともほとんど知ることがなかった。
「どこが『ナゴヤドーム前』なんだよ…」
川上の吐き捨てるような言葉にも、もはや二人は答える気力を失っていた。
駅前にたどり着いたとき、一気に気がゆるんだのだろう。
周辺には公団が立ち並ぶだけの何もない道路は、風景も代わり映えせず距離感がなくなってゆく。
ようやくたどり着いたときには、川上は思わずしゃがみ込んでしまった。
しかし彼らの目的はナゴヤドームではない。この瞬間も生命の危機にさらされているのだ、井端がすかさず腕を掴み、ぐいと川上の身体を起こした。
愛するホームグラウンドよ。
雨に濡れたドムラの旗がゆらめくそこは、今や彼らにとって日本シリーズ以上の決戦の地であるのだ。
「ここで死ぬなら本望だ…」
川上のつぶやきを耳にしてしまった小笠原がユニホームの裾を引っ張る。
「行くぞ」
銃弾を数えた井端が前へ出る。
川上も追い越すように進み、小笠原はとまどいながらもマシンガンを抱きかかえて後を追った。

217 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/05/31 17:50 ID:i5f7Q9Ds

当たり前のように彼らはホームチームの入り口へと向かった。むしろ一般入場者の入り口のことなど頭に浮かばなかったというのが正しいところである。
内部は当然のことながら真っ暗であったが、彼らには慣れたものである。
いつものように通路を辿り、ロッカールームのドアを蹴破る。
そこに人気がないことを感じ取ると、すぐさまベンチへと向かった。
ドアを開け、ベンチの間を進むと、薄明かりの中、彼らのホームグラウンドが姿を現した。
ふと、井端が動きを止めた。
制止された川上と小笠原は、注意深く耳をすます。

パァン…
パァン…

聞き慣れた音が、そう、特に川上と小笠原にとっては非常に聞き覚えのある音がかすかに聞こえた。
「誰かいる」
飛び出した川上が向かったのは…ホームチーム用ブルペン。
いつでも戦闘態勢に入れるように構えながら、男達はそこを覗き込んだ。
薄暗いそこには彼らの予想どおり、一人の男が投球練習をしていた。
ユニホームは白地に青のラインに赤文字。
背番号20、星野仙一。
「よく来たな」
男が、『中日ドラゴンズのエース星野仙一』が振り向いたと同時に、彼らの背後にまぶしい光が走った。
ドームの照明が一斉に点いた。
「本日の先発投手を発表します。中日ドラゴンズ、ピッチャー、星野。背番号20」
ウグイス嬢の声が、あまりにだだっ広いドームの中に響き渡った。

218 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 18:55 ID:Q/Y00rXa

どれほどの時間が経ったのだろう。
地下は随分と気温が下がってきていた。床の冷たさが辛い。
荒木は微かに身を震わせた。
もし、野口も井本も戻ってこなかったら…
そんな不安が一瞬脳裡を過ぎった。
その時。
「荒木」
弱々しい声に、はっと荒木は床に横たわっていた体を起こした。
それとほぼ同時に、すぐ傍の出入り口から
ゆっくりと階段を降りて野口が姿を現した。
「野口さん!無事だったんですね」
安堵感に思わず大きな声が出る。
「無事…?ああ、俺は無事だよ…でも、井本が死んだ」
「え」
野口はそっと荒木の脇に腰を下ろした。
がくりと壁に凭れかかったその顔を見て、
荒木は野口が嘘を言ったわけではない事を悟った。
野口の目元は赤く腫れ、泣いた直後であることが見て取れたのだ。
「野口さん、あの…それで川崎さんは」
「ああ、あいつも死んだ」
さも、どうでもいいことであるかのような口調。
それから一つ間を置いて、吐き出すように野口は喋り出した。

219 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 18:56 ID:Q/Y00rXa

「…なあ。荒木、人間って、馬鹿だよな。
なんでも完璧に計算した気になって…致命的なミスに気付くのは
ミスを犯した後になってからなんだ…」
「野口さん?」
「川崎の計算にも、俺の計算にも、重大な欠陥があったんだよ。
川崎は俺が生きていることを見落としていたし、
俺は、川崎が予備の爆弾を持っていることを見落としていた。
…結果、川崎は俺達に不意をつかれて死んだ。
そして俺は井本をみすみす死なせてしまった…」
荒木には野口が何の事を言っているのかよく飲み込めなかったが、
このエースが酷く疲弊していること、
そして井本が本当に死んでしまったらしいことは充分に理解できた。
正直、荒木はこのプログラムに巻き込まれるまで野口のことを
非常に変わった人間性の持ち主で、
感情を表に出すことなどないのだと思っていた。
いや、感情自体持ち合わせていないのでは、とさえ疑っていた。
しかしこれでよくわかった。
野口は多少変わってはいるが普通の人間で、
こんなに井本の死に責任と悲しみを感じている。
「野口さん…大丈夫ですよ。きっと、大丈夫ですよ」
「何が…」
「井端さん達が、このプログラムを終わらせてくれます。
終わってから、ゆっくり考えましょう。
時間はいくらでもあるじゃないですか。ここで何も考えずに待ちましょう」
「でも…生き残っても、もう岩瀬がいない…
…中村さんも山本さんもいないかも知れない…」
野口がすすり泣き始めた。
「大丈夫ですよ。本当に…生き残れば、全部うまくいきますよ」
ただ、荒木はそう言って野口を慰めるしかなかった。
井端たちの勝利をここで信じるしかない己の無力さを呪いながら…

220 名前: 代打名無し 投稿日: 02/05/31 19:33 ID:Q/Y00rXa

苦しい…苦しい…苦しい…
山本の頭にはその言葉だけが渦巻いていた。
痛み止めが切れ始めているのだろう。
左足はまだ我慢もできるが、胸の傷の痛みは一歩ごとに増していく気がした。
そしてこの豪雨。体温は容赦なく下がっていく。
ここで倒れてしまえたらどんなに楽だろうか。
しかし、彦野を背負って目の前を行く
中村の姿が山本を思いとどまらせていた。
こいつを裏切ることは出来ない…
思えば中村との付き合いは本当に長い。
プロになりたての頃、
その練習のハードさにとてもついていけない気がして、
真剣に就職情報誌を覗き込んだ日もあった。
毎日のように怒鳴られ殴られ、
もう駄目だと思い詰めそうになった日もあった。
でもそんな日々の中、いつも隣に中村がいた。
就職情報を二人で検討し、二人して星野に殴られた。
そして、二人で歓喜した八十八年と九十九年の優勝…
思えば俺達半人前バッテリーが、随分遠いところまで来たもんだ。
「武志」
「何ですか」
「そろそろだな」
「そうですね」
「死ぬかもしれない…な」
「ええ」
「って言うか…絶対死ぬよな」
「…ですね」
「死ぬ時までお前と一緒とは思わなかったよ」
「そりゃこっちのセリフです」
最上階が、目前に迫っている。

242 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/02 13:58 ID:ndKhh8Is

川上たちは後ずさった。
星野が、ブルペンからの階段に歩を進める。
その後に続くのは、星野の球を受けていた、球団ブルペン捕手の長谷部だった。
マスクの向こうのうつろな目と、噛まされた猿轡がこれまでの出来事を想像させる。
「なあ憲伸、ひとつ、勝負をしようじゃないか」
星野から投げつけられたボールとグラブを慌てて受け止める。
「速球対決だ。持ち球は五球」
井端は顔をしかめた。
この、生きるか死ぬかの瀬戸際に、この男は、中日ドラゴンズ監督星野仙一は、いったい何を言っているのだ?
かつてのエースではあるが現役を退いて久しい星野と、ドラゴンズの若きエース(この、『若き』がいつまでも取れないのであるが)川上が競うなどと、勝負は目に見えているではないか。
星野は何を企んでいるのか…必死に思いを巡らせる。
川上は突然の申し出に答える術を無くしたが、我に帰るとともに無言でうなづいた。
「まずは、俺から投げさせてもらう。監督だからこれくらいいいよな」
ニヤリと口元を歪め、星野がマウンドへ向かう。指先で指示された長谷部も無言で構える姿勢を取る。
一回、二回、三回。練習として投げられた球は軽いキャッチボール程度のものだった。
「では、勝負開始だ」
星野の目つきが変わった。
柔和な造りの口元でさえ今日は心なしか引き締まって見える。
そして………。
井端は、信じられないものを見た。
なんだ、この速さは。
慌ててスコアボードに目を移す。
そこには、『147km/h』の文字が光っていた。

243 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/02 13:59 ID:ndKhh8Is

化け物だ。
川上の口から無意識のうちに言葉がこぼれた。
こいつはいったい何者なんだ…。
しかし『CD』のマークが入った帽子の下には紛れもなく彼の見慣れた今現在の星野仙一の顔がある。
川上に向けて不気味なほどの笑顔を送った星野はマウンドを離れる。
「行け」
星野に促されてマウンドへ向かう。小笠原は声援を送るどころか呼吸すら忘れそうになり、井端に背中を叩かれた。
「行きます」
頭上高く、両手を構える。
「……ぁっ!」
134km/h。
「馬鹿!それが中日のエースのやることか!」
星野の怒号が飛んだ。川上の肩をどついて再びマウンドへ立つ。
二球目、星野、143km/h。
二球目、川上、142km/h。
三球目、星野、144km/h。
三球目、川上、145km/h。
「やった!」
小笠原が小さく声をあげる。
「ようやく本気になってきたな…?でも、まだまだだ」
四球目、星野、145km/h。
四球目、川上、144km/h。
五球目、星野、143km/h。
「ああ、最後だ…」
しがみつかれて気づくと井端の横で小笠原が両目をぎゅっと閉じていた。
五球目、川上、……
………
153km/h。
「抜いた!」
川上が振り向く姿を目にした小笠原の視界の端では、星野がポケットに差していた銃を取り上げんと手を回していた。
「憲伸!」
即時、井端は握り締めていた銃を星野に向けた。

246 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/03 00:02 ID:RWl9l+bP

どうにか気が付いたもののぼろぼろの彦野と
彦野に麻酔弾を打ち込まれて怪我をしている中村と
既に立っているのもやっとの山本。
それでも、三人は襲いくる警備員たちをなぎ倒し
ついに「敵」の待つであろう部屋の前に辿り着いていた。
「この扉の向こうだ。黒幕がいるのは」

その頑丈な扉一枚向こうで、老人は未だ椅子にふんぞり返っていた。
その顔には恐怖の表情など微塵も浮かんではいない。
一方、部下たちは青ざめ、あわただしく駆け回っている。
「御前様!ヘリコプターの準備が出来ました、どうぞお逃げ下さいっ」
「何を言う。ゲームで逃げては意味が無いではないか?
我々は逃げも隠れもせんよ。紳士たる大巨人軍の象徴はな」
「しかし、彼奴らはすぐそこに来ております!」
「ならば迎え撃ってやるだけよ」
老人は全く動じた様子も無く、ゆっくりと立ち上がった。
窓の外で雷が鳴っている。
「何なら貴様は逃げるがいい。わしは一人でも、
あんな小僧っ子ども相手に負ける気はせん。
読売の経済力を侮ってもらっては困るな。
ここからでも、いくらでも攻撃の手立てはあるのだよ。
この部屋全体がわしの武器であり、防具でもある…」

253 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/05 22:41 ID:4QgyUvaR

井端の手に衝撃が走った。
星野の弾丸は見事に井端の手にしていた銃を弾き飛ばした。
「俺と憲伸が勝負すると言っただろう?余計な邪魔はしないでもらおうか。次には球を拾えなくしてやるぞ」
「そんなこと監督には出来ません」
遮ったのは川上だった。マウンドへグラブを置き、星野へ向かって歩き出す。
「なに…?」
「監督がこうして俺たちをドームへ呼んだのは、何か意図があってのことでしょう。そうでなければ俺たちとっくに監督に殺されてます。監督が本気を出しているかどうかなんて、俺たちにもわかります」
星野は川上の言葉にも表情を変えなかった。そういうときこそ星野が何かを企んでいるときなのだと井端はわかっていた。
「さあ、どうかな?仮にも今まで手塩にかけて育てたお前たちだ、俺が引導を渡してやらなけりゃ誰がやる」
川上は歩みを止めることなく星野へと向かっていた。
「あなたには、俺は殺せません」
真剣な目をしていた。まっすぐに、星野を見ていた。
「面白い…だが、いいように解釈する癖は直したほうがいいな」
再び星野の腕が川上へと向けられる。
一歩、一歩、…

人の気配を感じて振り向いたそのとき、川上はグランドに叩きつけられていた。
小笠原が飛び掛ってきて倒されたのだと気づく。
「先輩もう説得なんてやめてください…」
か細い声の小笠原の膝下は瞬時に真っ赤に染まっていた。
「どうだ…、これでも俺が慈悲深い奴に見えるのか?」
星野の手にした拳銃からはほの白い煙が上がっていた。

256 名前: 161 投稿日: 02/06/05 23:21 ID:DTDbQsiZ

「この階か」
3人は階段を昇りきった。異様に広い廊下の先に、ドアがひとつ。


ゆっくりと踏み出した、彦野の足が-------灼けた。

声にならない悲鳴を上げてころげる彦野。2人はあわてて彼を階段
に引き摺り降ろした。
「いったいどうしたんです?!」「ぐはっ・・わ、わからん・・
突然、足が・・」

彦野の靴には小さく穴が開き、そしてその中の足にも穴が開いて
いた。出血は無い。

山本が息を呑んだ
「レーザーだ。」

257 名前: 161 投稿日: 02/06/05 23:41 ID:DTDbQsiZ

「そんな、昌さん、光線なんて見えませんでしたよ?レーザー
ってのはこう、青白い光線がパァーッと・・」
山本はあきれたように中村を見やった。
「おまえ、それはテレビの見すぎだよ。レーザーってのは見え
ないのもあるんだよ。俺も良くは知らんが。」
「そんなもんですか・・・。」

山本は苦しむ彦野のポケットを探った。
「確か彦野さんのポケットに・・あ、あった。」
手榴弾を取り出し、中村に囁く。

「いいか、最後の一発だ。」

ゆっくりと頷く中村。

放物線を描いて手榴弾が飛んだ。

258 名前: 161 投稿日: 02/06/06 00:12 ID:RXZ7mblU

階段に伏せた二人を轟音が襲う。
パラパラと建材の欠片が落ちて来る。気にも留めず山本は飛び出した。
「行くぞ!今だ!」
あわてて続く中村。レーザー発振器は健在だがこの爆発で鋭敏なセン
サーはオーバーロードして機能停止している。

ドアにあと数歩と言う所で、老人の狡猾な罠が作動した。
遠隔操作で壁から飛び出た巨大な刃が、胸の高さをなぎ払う!

「!」

鍛えぬいた反射神経のおかげで、致命傷になる事だけは避けた山本
だったが、胸に深々と裂傷を負い、倒れ落ちる。

刃は瞬時に後続の中村に襲い掛かった。
「うおおおぉぉっっっっっっ!」
アウトステップしてかわすと、姿勢をかがめて刃をかいくぐり部屋に転が
りこんだ!

259 名前: 161 投稿日: 02/06/06 00:23 ID:RXZ7mblU


「頼むぞ・・タケシ。」
苦しげにうめきながら、山本は独り呟いた。

後ろから彦野が這いずりながらやって来る。自らも深手を受けながら、
それでも不思議そうに山本に聞いた。
「うっ・・な、なぁ、昌よ、あいつって・・・あんなにフットワーク良かっ
たか?」
彦野の方に顔を向け、苦しげに脂汗を浮かべながらも山本はニヤリと
して見せた。

「忘れたんですか?あいつは昔から・・・外側低めにかわすのだけは得意
なんですよ。」

261 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/06 13:04 ID:dNjN8jR6

仰々しいドアは中村の体当たりでいとも簡単に開いた。
体勢を立て直そうとしたが、激しい痛みが全身に走り再び倒れた。
「騒がしいな」
見上げると、そこにはやはり想像どおりの老人の姿があった。
「せっかくテレビを楽しんでおるのだ、静かにせんか」
ガウンを羽織った老人が手にした漆黒の鞭を振るう。中村の身体はは三度床を転げた。
「中村と言ったかな…お前も見てみるがよい」
老人の指さすテレビ画面の向こうには、ああ、あろうことか中村の見慣れた風景が広がっていた。
そう、彼も山本も慣れ親しんだナゴヤドーム。そして、マウンド上には川上憲伸の姿。
ただ、ただ明らかにおかしかったのは、そこには大昔のドラゴンズのユニホームを着た星野仙一が、エースナンバー20を背負った男が、川上へ向かって拳銃を構えていることであった。
「これだから野球は退屈せんわ。田舎球団が、ホームグラウンドのど真ん中で、その名物監督の手によってその歴史に幕を閉じようとしている。
 長生きはしてみるもんじゃわい、こんなに面白いもの見せてもらうとはな!はっはっは!!!」
中村の耳には老人の高笑いなど入っていかなった。
ただ、画面の向こうの川上の真剣な表情だけも見つめていた。
…よかったよ、憲伸。
お前が星野さんのところへたどり着いて。
これで、俺もこのじいさん道連れに死ぬ決心がついたよ。
どうか、もう過去の人間になろうとしている俺達を乗り越えて新生ドラゴンズを---------

265 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/08 02:16 ID:A75tCOsh

ここは静かだ。
外から雨音と、時折雷鳴が聞こえてくる他は何の物音もしない。
少し前までの戦いが嘘のようだ。
「野口さん」
呼びかけると、蛍光灯に照らされた野口の顔がぴくりと表情を変えた。
「喋るなよ…怪我人」
こちらを見もしない。よほど参っているのだろう。
「いや、どうしても聴きたいことがあるんです。一つだけ教えて下さい」
「何だ」
「さっき、「山本さんや中村さんも」…って言いましたよね。
あの二人は生きているんですか?
生きているなら…今、どこで何をしているんですか」
野口の顔がようやく荒木の方を見た。
大分目の腫れは引いて、不思議なほど静かな表情になっている。
「そうか。話してなかったもんな」
「…何かあったんですね」
野口は黙って頷いた。
「簡単に言うと、あの二人は、「黒幕」を倒しに行ったんだ。
星野監督よりも、もっと大きな「黒幕」をな」
「「黒幕」ですか」
何だか少年漫画めいた名詞が出てきたな、と荒木は思った。
生まれてこのかた、「黒幕」なんて存在にお目にかかったことはない。
けれど、今はただでさえ非現実的な事態に巻き込まれているのだ。
もう怪獣が出てこようが驚くまい。
「ああ。多分…「黒幕」は読売のオーナー、だと思う。
倒せば、この馬鹿げたプログラムは無くなるらしい」

266 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/08 02:18 ID:A75tCOsh

「プログラムが、無くなる…」
一瞬、野口の言葉の意味が理解できなかった。
プログラムが無くなる日のことなど、想像もしていなかったのだ。
この国に生まれた以上、逃れることのできない宿命だと
ずっと諦めていた。
「そう、無くなるんだ」
「あの、それじゃ、井端さん達が監督に殺されそうになっても、
その前に山本さん達がそっちを倒せば…」
「このプログラムは中止になるだろうな」
「す、すごい…」
想像も付かなかった。
荒木にとって、それは全てを解決してくれる万能の策であるように思えた。
「でも、な。荒木。俺はあの人たちは帰ってこないと思うんだ」
「えっ」
「何故だか、嫌な予感がする…相手は、あの読売なんだ。
たとえ「黒幕」に勝っても、山本さんも、中村さんも助からないような…
ともかく、嫌な予感がするんだ」
野口はそれきりまた口を噤むと、下を向いてしまった。
荒木は安易に喜んだ自分を恥じた。考えてみれば野口の言うとおりだ。
ああ。
早く、何もかもが終わればいいのに。
また平穏に野球の出来る日々が戻ってくればいいのに。
いよいよ外は暗く冷え始めていた。背の傷が痛む。

270 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/09 03:53 ID:Eld+taX2

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「荒木ーー」
鼻を霞める香ばしい薫りと、一番親しい人の声で目が覚める。
「飯出来あがったぞ。寝てたのか?人にばっかり作らさせやがって」
そう言って目の前の男―井端弘和がわずかに微笑む。
「荒木、お前は毎日井端に世話焼かせてるのか?
 全くご飯作ってくれる彼女くらい探せよ」
少し冷たいフローリングの床の上で、少しずつ意識を覚醒させる。
「…コースケ、お前だって人の事言えないだろ!俺だって本気になれば彼女くらい――
「ナニ二人ともそんな向きになってるんだよ、早く食わないと覚めちまうぞ」
井端が間に割って入る。
福留は反応を見て複雑な表情を浮かべていた。
図星をつかれたことが頭に引っかかったようだ。口を尖らせながら自分の席につく。
床にずっと横になっていたから?それとも無理な態勢で長い時間居たから?
なぜか凄く背中が痛い。

271 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/09 03:53 ID:Eld+taX2

晩ご飯のチャーハン(先輩の料理では定番なんだよな、かなり美味い)を頬張りながら福留が口を開く。
「井端は彼女いないのか?」
井端はいきなり変な質問をされて驚いた顔をしている。
「…ッ!バカ何聞いてるんだよ!それに口に物入れながら喋るなって」
井端より驚いたのは荒木だった。
「なんでお前が焦ってるんだ?」
「ハハハ、荒木はこの手の話題にはかなり疎いンだよな。前にもあったっけこんな―
「い・言わないでください…」
以前ロッカールームでチームメイトたちの話を聞いていて顔を真っ赤にしていたことがあったのだ。
もう少しでコースケにもあの事件がばれるところだった。
もしばれたら…
そう考えると、荒木は少しひやっとした。
きっと明日からずっとそのことでからかわれるだろう。
そんなどうでもいい(荒木にとっては大問題だが)事を考えていた。
気付くともう皿の上には何も無かった。
「ごちそーさん、井端って料理上手いよなー」
「毎日やってるからな、それこそ彼女が居たらいいのに」
そう言って皿を洗いながら苦笑いを浮かべる井端。
「あ、スミマセン。俺も手伝います」
荒木は急いで台所へと向かった。
「俺もなんか手伝うか?」
「孝介はいいよ、待ってて。―あ、やっぱりそっちにある皿全部持ってきて。」
福留は、おう、と短く返事をしてリビングへ向かった。
「先輩ってホント、料理上手いですよね!男っていうのが勿体無いくらいですよ」
「きっついこと言うなー!でも、男に生まれたからこうしてプロ野球選手になれたわけだし、
 もし違ってたら二人と出会う事も無かったんだよな、運命って不思議だよな…」
「そうですよね、俺は先輩や福留に会えて良かったと思ってます。
 多分きっとずっと変わらない仲間なんだなって。」

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272 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/09 03:57 ID:Eld+taX2


「荒木?背中、大丈夫か?」
目を開くとそこは真っ暗で冷たいコンクリートの上だった。
まだ夢見心地ではあったが徐々に意識を現実に引き戻していく。
―先輩は?コースケは?―――ああ、思い出した…―
井端とは離れ離れ、福留は―もう二度と会えない―。
いつかあった現実はもう夢の中での出来事だった。

―運命―
―ずっと変わらない仲間―

あの時はさほど大した事のない言葉ではあったが、
今の彼にとっては途方も無く重い言葉だった。
こんな自分を見たら井端と福留はきっと自分を笑うだろう。
―強くならなければ。何も出来ないけれど―
ぎゅっ、と拳に力が込められた。

273 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/09 04:26 ID:iejyQdfA

>>270-272
細かいことで申し訳ないが年齢
井端>>荒木=ドメのはずなので
ドメ→井端は敬語のがいいかも

274 名前: 270-272 投稿日: 02/06/09 11:52 ID:hlgCps6z

わわわ、すみませんw
ご指摘有難う御座います。
[…ε…]ってことで大目に見て下さいw

278 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/11 16:11 ID:1zTrNDKL

一歩一歩、銃口を向けた星野が迫りくる。
「どうした、反撃せんのか」
川上は唇を噛みしめながら小笠原の手にしていたマシンガンを奪い取り、星野に向ける。

ズダダダダダダダダダダダダ

星野のユニホームからは白い煙が上がるばかりで、当の本人はびくともしなかった。
点線になって空いた穴の向こうにはカーキ色の防弾チョッキ。
想像はしていたが、やはり手応えのひとつもない。
「俺はお前を、こんな間抜けに育てた覚えはないぞ。それとも少々殴りすぎて頭が弱くなったか…?」
気が付けば星野はわずか1m足らずの距離にまでやってきていた。
「ちくしょう…」
弾切れのマシンガンは用済みだ。動いたらやられる。動かなくてもやられる。身動きの取れない小笠原を担いで逃げてもたかが知れてる。
なすすべを無くした川上に今、出来ることは、にやついた星野の目を、ありったけの力で睨み返すことだけだった。
「先発エースも、これで終わりだな…」
星野が次の一歩を進めた、そのとき。
「憲伸!」
井端が叫んだ。星野にはじかれた拳銃を思い切り蹴りあげる。
その隙に小笠原は最後の力で星野に全体重で体当たりをする。
星野がバランスを崩した瞬間、川上は井端の拳銃を手にした。
「狙え!監督の弱点は首だ!」
二人がかりでのしかかり、川上は星野の首に銃口を押しつける。
「監督失礼します……!」
川上は両の目をぎゅっと強く閉じていた。

280 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/11 16:14 ID:1zTrNDKL

「何か…、強い光がありましたね」
音は、いつしかさまよえる落合の魂に導かれながら命を落とした選手達の弔いを続けていた。
折り重なるようにして倒れた鈴木郁、清水両捕手の遺体に線香の束を備える。
「ドームの方角で光りましたよね、あちらですから」
音はしばし遠くを見やる。
「落合……、これで全てが終わるのでしょうか」
落合は答えない。ただ、ぼんやりと哀しい色の光をたたえているだけだった。
「……行きましょうか」

281 名前: 161 投稿日: 02/06/11 22:43 ID:WvdkZbxd

鞭を自在に操りはしても、相手はただの老人。
満身創痍であっても、こっちは鍛え抜かれたプロスポーツ選手。

その気になれば、瞬時に撲殺できるはずだ。
なのになんだ?この老人の自信と余裕は?

いや、考えている暇は無い。今この瞬間にも、チームメイト
達が・・

中村はゆっくりと立ち上がった。

284 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/12 04:14 ID:zEh63CLb

全身が痛んで、身動きが取れない。
山本は目を閉じた。
もう、瞼を開けていることさえ苦しい。
死ぬまで負けるなよ、武志。俺がついてるからな。
死んだみんなも、きっとお前を守ってくれる。
声は出ない。代わりに心の中で呼びかけた。
左手を握り締めてみたが、
命の次に大切な左腕も、もうボロボロだとわかっただけだった。
そうか。彦野さんも、お前も、俺も…死ぬんだな。今更実感したよ。
だってこんなに苦しいんだよ。
腹も胸も脚も腕も滅茶苦茶に壊れてる。
でもまだ死なないからな。
細く息を吐き出した。生きている。
まだ死ぬわけにはいかない。
この悲劇の終末を、全身で確かに感じ取るまでは。
それに、いっしょに死ぬって言ったもんな。
山本は唇を歪めて笑った。
さっさと死なせてくれよ。もう苦しいのに。
お前、本当にノロマだよな。
ああ…そろそろ耳も聞こえないみたいだ。参ったな。
視覚も聴覚もだんだんと失っていきながら、
それでも山本の旺盛な生命力は、まだ尽きてはいなかった。

285 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/12 15:33 ID:AOLhtXBU

「見ろ、憲伸」
井端が手にとってまじまじと眺めていたのは、星野の手から落ちた拳銃だった。
放り投げられてそれを受け取った川上は、暴発を恐れながらこわごわと覗き込む。
「なに…?!」
「そう。その銃には実弾が入っていない」
小笠原も痛めた足を引きずりながら近寄る。
「俺を撃った一発しかなかったということですか?」
「そのようだな…しかしなぜ…」
川上は静かに横たわる星野の顔と拳銃とを見比べる。
「監督…何故ですか?俺達に、何を言おうとしていたんですか?」
物言わぬ星野の顔に飛んだ血しぶきを、川上はそっと拭った。
ゲーム終了のサイレンは、不思議とまだ聞こえてこない。

286 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/12 19:41 ID:IDyJT5SR

中村の握り締めた掌に汗が滲んだ。
この余裕はおかしい。
何かが仕掛けてあるのだ。間違いない。
「どうしてそんなに堂々としていられるんです。
確かに俺は怪我人だし、丸腰ですけど、
あなたを殴り殺すくらいの余力は残っていますよ」
いちかばちか、脅しをかけてみたが、眼前の老人に全くたじろぐ様子はない。
「それがどうかしたのかね?
君にはわからないだろうな。所詮は田舎球団の選手か…
力で押すことばかり考える」
この世で一番力押しが好きなのはあんただろう、
と言いたくなったが中村は敢えて黙っていた。
ともかく、まずはこの老人が何を考えているのか探らなくては。
「備え有れば憂い無し、とよく言うだろう。
この部屋にも無論のこと「備え」は用意してある…
わしは暴力は好まん。最後に身を助けるのは財力だよ。
金の力は素晴らしい。この部屋もな…随分金をかけたが」
じいい…という機械音が聞こえたのはその時だった。
「つまり、そういうことだ」
部屋の片隅に設置された巨大なテレビから、その音は聞こえてくるのだった。
銃だ、と直感した。
ブラウン管の中央が割れ、中から黒々と銃口が覗いたのを
横目で確認するまでもなく、中村は身を翻していた。
銃声と共に足下の絨毯が撥ねる。
「かわしたか。意外に素早いではないか?ん?」
…遊んでやがる。この部屋には他にもきっといくつもの仕掛けがあるのだ…
中村は戦慄した。
どうやら、やはり相打ちに持ち込むことだけを考えなくてはならないようだ。

292 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/14 18:07 ID:pzNG8zBe

「なぜ…、そこまで『金』にこだわるのですか?」
中村は息があがるのも構わずに老人へ言葉を投げかけた。あからさまな時間稼ぎではあったが、下手に動けば命を落とすのは明らかだ。こいつを道連れにしない限り、死んでも死にきれない。
「たとえば広島のような…、市民の力と信頼関係で成り立つチームも、またひとつのありかたではないのでしょうか」
老人は口に含んだブランデーを中村へいまいましげに吹きかけた。無数の傷口に染み、中村は小さくうめく。
「わしはな、ああいうしみったれなお涙頂戴が一番嫌いなんだよ!」
カタカタと老人の寄りかかるテーブルが震えているのがわかった。動揺している。チャンスだ、と中村は思った。
「どこの球団も、小さくまとまりおって…、プロとしての自覚はないのか!
 金を稼ぎ、人気を集めるためにはどんな手段も惜しまない。それがプロ野球ではないのか?
 地元にへばりついて内輪のようなファンばかり集めているなら高校野球と変わらんではないか。」
「だからあなたは、広島の野球に真っ向から攻撃を仕掛けたんですね」
老人はニヤリと笑った。
「ああ、そうだ。二岡に逆指名させたのは、はした金で『世話をした』と恩着せがましいあの貧乏球団を地獄へ突き落とすためだ」
全部そうだ。こいつは手段を選ばない男なのだ。
主砲の松井に契約更改でド派手なパフォーマンスをさせるのも権力を示すため。
ドラフトで清原を取らなかったのは、そのときとそののちの話題づくりのため。
「金と頭は使いようなのだよ。そして強いものが勝つ…、社会の常識ではないか?」
何度人前で披露したであろう自慢話にひとり悦に入る老人の頭上で豪奢なシャンデリアが揺れているのを、中村の目は見逃さなかった。

299 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/18 16:27 ID:DEOUotKo

身動きを取れずにしゃがみ込んでいた中村が突如、『あるもの』を投げた。
「があっ!」
激しい音と老人の悲鳴。そして淀んだ空気の室内がきらきらと光る。
宙を舞ったスパイクがシャンデリアに激突し、ガラスの雨を降らせた。
「なんだこれは!ああっ!」
刺すような痛みに老人が腕に降った破片を払う。腕と手のひらが赤く染まる。
「血じゃ、血じゃあ!このワシの血じゃあっ!!」
中村は恐怖におののく老人の姿を眺めていた。
あれほど自信に満ちた男が、読売巨人軍のオーナーが、今、中村の目の前で、致命傷にもなりはしないほどの出血で、ただの小男に成り下がっている。
…哀れだな。
そう心の中でつぶやいた中村が再び老人に目をやると、その表情はいつしか薄ら笑いへと変わっていた。

304 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/20 03:31 ID:aKy37gYj

「山田さん、サイレンを鳴らさないんですか」
仁村は、極力静かに言った。
星野の死に動揺しなかったと言えば嘘になる。
しかし今は、職務を果たさなければ…
感傷に浸るのは後だ。
「…もう少し待て」
山田はモニターから視線を動かす事なく言った。
まるで、テレビにかじりつく小学生だ。
「しかし、規則では星野監督が死んだらゲーム終了と…」
「ゲームどころか。今日は記念日だぞ、仁村」
なおも視線はモニターに注いだまま、山田は薄く笑って見せた。
「はあ…?」
仁村は混乱するばかりだった。
山田の言動が理解できない。
「この球界の呪縛が解かれる日だよ。
その時まで、サイレンはもう少し待て」
球界の呪縛…
ようやく仁村ははた、と思い付いた。
山田が見つめているモニターの一点には
中村と山本の現在状況が表示されていた。
それに拠れば、中村は軽症、山本が重態。
二人はツインタワー最上階にいる。
二人(彦野もだが)が読売オーナーを暗殺しようとしているのは
盗聴のログなどから大分前に知っていたが、
てっきり止めに行くものだとばかり思っていた。
「まさか山田さん、中村と山本のしている事を見過ごす気ですか…
本来なら、サイレンを鳴らしてすぐに現場に行って
あの二人を取り押さえるべきなんですよ」
「プログラム内での殺人は合法だ」
背筋を何か冷たいものが登った。山田は本気だ。
「俺はな、仁村。もう二度とこんなプログラムに立ち会うのはごめんだ。
それに、いずれオリックスの監督になれたとしても
プログラムに巻き込まれたら意味が無いだろう。
多少サイレンの時間をずらしたって、進行上問題が無ければ上は何も言わんよ」

305 名前: 書き手A 投稿日: 02/06/20 03:53 ID:aKy37gYj

仁村はもう何も言えなかった。
所詮、自分はしがない二軍監督。
監督代理の山田にこれ以上楯突いても意味がない。
それに、プログラムなど無い方がいいのだ。考えてみれば。
「…わかりました。ところで、スタッフでもないのにプログラム区域に侵入した
音、彦野の両名への処罰はどうしますか」
「彦野はいい。どうせ直に死ぬだろう」
「では、音は」
「そうだな、色々考えてみたんだが」
山田はそこまで言うと、椅子の上に組んでいた足を組みなおした。
「とりあえず情状酌量ということにしておいてやるつもりだ。
ただし、監視は付ける。上に示しが付かないからな」
「は、監視…ですか?」
「これは飽くまでも、俺がこのまま中日の監督になったら、の話だが、
音は二軍の守備走塁コーチ辺りに使おうと思う。
組織の中に組み込んでしまうのが手っ取り早いからな。実績もある」
なかなか周到な人だ、と仁村は素直に感心した。
「なるほど。ところで山田さん、監督になった暁には…」
「お前をヘッドに昇格させろって言うんだろう。わかってるさ」
「どうも、恐れ入ります」
「星野・島野の天下も終わりだな」
プログラムに動きがなくなった為だろう、
本部の空気はだんだんと落ち着き始めていた。

306 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/20 17:57 ID:iZWG+jw0

チャリン。
鈴のような物音がかすかに上方から聞こえ、しばしの休息を取っていた三人は再度戦闘の構えを取って見上げた。
一塁側二階席通路に、光る錫杖を携えた僧侶の姿があった。音重鎮は、ついにナゴヤドームへたどり着いたのであった。
その、もの悲しい表情から、彼を敵だと思う者など一人もいなかった。
音は最前列まで降りると、軽い身のこなしでフェンスを飛び越えグランドへと降り立つ。
そしてすぐさまバッターボックスへ向かうと、小さくうめく長谷部の面を外し、きつく噛まされた猿ぐつわを解いた。
「ウ…ウウ…ウ」
自由の身となった長谷部捕手はそのままゆっくりとホームベースの上へ崩れ去る。
ゆっくりと、音は川上らのもとへと近づいた。
「…なぜ、ここに?」
口を開いたのは最も冷静沈着な井端だった。
音は答えるかわりに、手にした杖を川上の目の前に差し出した。
「…同じポジションのあなたなら、わかるでしょう」
「これは…、落合さん、ですね?」
杖は一段と光を増して点滅した。
「彼が、私をここへ導いたのです」
そしてその光は、ゆっくりと杖を離れ、上空へ浮かぶとそのまままっすぐ外野の方向へ向かい、ライブビジョンの前で、鮮やかに弾けた。
「うわぁ…」
まばゆいその光に誰もが目をしかめる。そしてその光がゆっくりと消えると、ビジョンにはある男の顔が映されていた。
血にまみれ、痣にまみれた、中村武志、その人であった。