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time to say goodbye

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匿名ユーザー

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ある日の放課後、試験勉強でクーは遅くまで学校に残っていた。
勉強の目途がついたのは黄昏時で、もうすでに辺りは暗くなり始めている。
聞こえてくる音は運動部の掛け声と、その後に待っている耳が痛くなる程の静寂。
今日は少し遅くなると皆に伝えているので、自分を待つ人はもういない。今日は一人で下校しなければならないのだ。
その事を少し淋しく感じながらも、筆記用具を片して鞄を担ぐ。
ふと教室を見渡すと紅い夕暮れが教室を照らし、普段とは雰囲気が全く違っている。
そう言えば、放課後の教室には最近『何か』が出ると噂になっていた。
知らない場所のような錯覚に捕らわれそうになりながら、電気を消して施錠の準備を進める。

そしていざ教室を離れようとした瞬間、誰かから話かけられたような気がした。

クー「…気のせいか?」
少し根を詰め過ぎたかも知れん、と軽く頭を振って再び教室のドアに手をかける。
クイクイ、と次は服を引っ張られた。間違い無い。この教室にはまだ誰か居る。
正体不明の何かが居るかもしれないが、躊躇う事無くクーは勢い良く振り返る。
??「………あのぅ…」
クー「!!!!!」
さっきまで誰も居なかった自分の背後に、一人の女の子がちょこんと立っていた。
クー「君は、誰だ?」
??「…私、幽霊なんです」
クー「薄々感づいてはいたが、まさか本当だったとは…。で、私に何か用なのか?」
幽霊「驚かないんですか?」
クー「私は元々霊感が強いらしい。見えない者もたまには見える事もある。
   それに、これが幽霊とやらとの初めての遭遇では無いからな」
幽霊「へぇ…。だから驚かないのかぁ」
その子は柔らかい笑顔でクーを見つめる。
クラスメイトの渡辺のような、見ているこっちが幸せになるような笑い方だなとクーは思った。

クー「で、その幽霊とやらが私になんのようだ。制服が一緒なのを見ると同じ学校の生徒のようだが」
幽霊「えっと、その、あの、ええと………」
幽霊は急にモジモジと体をくねらせて、スカートの裾をギュッと掴んでいる。
多分年代的にはあまり変わらないと思うような外見なのだが、仕草や恥じらいの表情が彼女を少し幼く見せている。
そして上目遣いでクーに語った。
幽霊「あ、あの!!…私と、と、友達になってください!!!!!」
クー「いいぞ。…だが、とりあえず詳しく聞かせてもらおうか」
あまりの即答に幽霊は面食らった顔をして、その場にフリーズした。
そして凍結が溶けた瞬間、彼女は顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。
それは泣きながら笑っているような、不思議な笑顔。不思議ではあるが、不愉快ではない。
クーはよしよし、と頭を撫でようとしたがその手は空を切る。それはそうだ、彼女は幽霊なのだから。
だから口で言ってみた。
クー「よしよし」
幽霊「…?何か良い事でもあったんですかぁ…?」
クー「…やはりアレだけでは伝わらないか。今の気持ちを簡潔に話すと、
   私は君と友達になれて嬉しいぞと言うことなんだ」
幽霊「!!!!!!…私も、凄く嬉しい…よぅ…」

今度こそ本当に幽霊は大声をあげて泣き出した。泣いている間、彼女の顔にはずっと笑顔が浮かんでいた。

泣き止んで少し落ち着いた頃、ポツリと幽霊が語る。
幽霊「私は吉岡さんっていう人くらいしか話せる人いないから、
   皆が下校したり吉岡さんが学校休んだら、一人ぼっちで淋しくなるの…。
   昔は一人で過ごすのが普通だったんだけど、また、人って温かいっていうのを思い出しちゃった…。
   だから、せめて少しだけでも誰かと話をしたくて…」

クーは幽霊になった事などないが、奇妙な既視感を感じていた。
いや、彼女の気持ちを知っている。遠くは無い昔に確かに経験している。
思い出すのは、感じたことは口に出す事無く捻くれていていた、強情な頃の自分の境遇。
誰とも話せず、話そうとせずにクーはずっと一人で過ごしてきた頃がある。
その方が気が楽だったから。人との関わりなんて煩わしいし、面倒くさい。
一人で完成して、一人でこれからも生きていこうと思っていた。
だから知らなかった。それはずっと『独り』で『未完成』なまま生きていかなければいけないと言う事に。
それに気付いたクーは、淋しいという感情を思い出した。独りで生きるのに一番辛い事を、思い出してしまった。

そして席替えで隣になった一人の少年が、独りのクーに話しかけてきたのがきっかけだった。
男 「…お前さ。ずっと一人みたいだけど、淋しくないの?」
ぶっきらぼうに言い放った少年の一言で、忘れようとしていた淋しいという感情を思い出す。
この気持ちをもう隠したくはない。だから、強情な自分から昔の素直な自分へ。これはその第一歩。
クー「ああ、…淋しいぞ。だから、私と友達になってくれないか?」
男 「いいよ。よろしく」
あまりの即答に当時のクーは無表情な顔のまま、その場にフリーズしたのは今となっては良い思い出だ。
昔のような素直な性格には戻れたが、無表情だけは治らなかった。前からクールが素な事もあり、これは矯正不可だろう。
しかし『「結構顔に出る」男談』・『「よく笑っている」誤殺談』とのように、親しい人には一発で分かるらしい。

幽霊は過程は違えど、昔の自分と境遇を共にしていた。
誰も居ない世界で緩慢に消えていく感覚を彼女は今も体験している。
その世界から抜けるのに必要なのは、自分ではない誰かの手を取ること。
彼女は抜けたいと必死で手を伸ばしていた。それが自分の前にあるならば、掴むことに躊躇は要らない。
望んだ一人は尊いが、望まぬ独りは世界に要らない。
だから助ける。幽霊なんて関係なく、この明るい場所へ引っ張り出してやろう。
幽霊の話を聞いて、少しだけ昔を思い出したクーだった。

クー「私にも都合はあるが、出来るだけ君の要望は聞いてあげたい。
   何かしてみたい事とかあるのか?」
幽霊「…友達と一度映画を見てみたかった。もし時間があるなら、あなたと行ってみたいなぁ」
クー「私はクーという。そう呼んで貰えたら嬉しいな。君は何と呼べばいいんだ?」
幽霊「…私は幽霊だから、名前なんてない。B組では幽霊で名簿登録されてるから…」
クー「君はB組だったのか。今度君のクラスに遊びに行ってみるとしよう。
   君が不満でなかったらレイと呼びたいんだが、構わないか?」
レイ「…うん!!ありがとう、クーさん」

レイ「でも、映画を見に行くのに一つだけ重要な問題があるの…」
クー「どんな問題が発生するんだ?」
レイ「私、学校から霊体のままじゃあ出られない…」
クー「ふむ。要するに、君が誰かの体を借りれれば良いんだな」
レイ「鋭いなぁ。確かにそれで解決はするんだけど、私と波長が合わないと体を借りれないの」
クー「私との体の波長は駄目なのか?」
レイ「うん、ちょっとだけ合わないみたい…」
クー「そうか、残念だ…」
レイ「前にD組を覘いた時に気付いたんだけど、ここのクラスに私と凄く波長の合う子がいるの。
   その子がまだ学校にいれば良いんだけどなぁ…」
クー「君と波長の合う子の正体は気になるが、もう日も暮れる時間帯だ。こんな遅くまで残っているのはもう誰も…」
そう言った瞬間、教室のドアが勢い良く開く。
幼い外見をしていつもニコニコと笑っている可愛いクラスメイト。

渡辺「あれれぇ~?クーさんだぁ。こんな遅くまで勉強してるなんて偉いねぇ♪」

渡辺さんが、そこに居た。
レイ「…まさか言ってた矢先に当たりが来るとは思わなかったよぅ」
クー「…渡辺が当たりだったのか。まぁ確かに雰囲気なんかは似てるな」
渡辺「??クーさん、誰と話しているの?」
クー「いや、独り言だ。渡辺はどうしてこんな遅くまで学校にいるんだ?」
渡辺「明日提出の宿題を机の中に入れたままだったんだぁ。
   だから急いで取りに戻ったんだよ~」
そういって力こぶを作る仕草をするが、そんな事をする渡辺は小動物ようで、ただただ可愛らしかった。
ふとクーは渡辺の後ろを見ると、レイが何らかの準備運動を始めていた。これから起こる大体の事は想像に容易い。
だから出来る事といえば、真実を授けるのとささやかな覚悟を持たせてやる事くらいだ。
クー「渡辺、君は今から体の自由が効かなくなるだろう。それすらバネにして強くなってくれ」
渡辺「ふぇ?クーさん、何言って………きゃああぁ~」
何とも間の抜けた声を出して、渡辺は地面に伏した。そして次に起き上がった時、その体はすでに。
レイ「さ~、クーさん。映画館に一緒に行こうね~♪楽しみだなぁ~♪」
クー「その体で無茶だけはしないでほしいな…」

渡辺「(あれれ~~?本当に体が勝手に動いてるよぅ~。何か暗くて、何にも見えないよぅ~
   ふえぇ~~。助けて、佐藤さ~~ん…)」

その頃の佐藤家。
佐藤「…助けを求める声が聞こえた」
そう呟いて、佐藤家食卓から渡辺専用万能戦士が活動を開始した。

それから二時間後、映画館から二人は出てきた。
クーは相変わらずの無表情だが、渡辺(inレイ)はとても満たされた顔で軽快に飛び跳ねている。
クー「面白かったな、『死の落書帳』とやらは。まさか前後編というのは予想外だったが」
レイ「まさか落書帳に似顔絵を描かれたら死んじゃうなんて、怖かったねぇ~」
クー「君が言うと複雑な気分になるな。…でも、楽しかったな」
レイ「うん!!凄く、すっごく楽しかったぁ!!」
そういうと、再びレイはもじもじと始めた。どうやらまだ何かやってみたい事があるようだ。
クー「どうした?何でも良いからやってみたい事があるなら言ってみろ」
レイ「あれ、ちょっとやってみたいなぁ~。…ダメ?」
そうしてレイが指した方向には、プリクラの台がちょこんと立っていた。

クー「…どうやって撮るんだ、この機械は?」
レイ「前に吉岡さんが読んでた本で見たことあるよぅ。確かここをこうすれば…うわ、カウント始まっちゃった!」
クー「証明写真の気分で撮れば良いのか?」
レイ「違うよぅ~。はら、クーさん。笑って笑って。行くよ~~♪」
カシャンと小気味良い音を立てて出てきたのは、幸せ満面の表情でクーに抱きつきながら笑う渡辺(レイ)と、
頬の筋肉が引きつって半眼のクーが16枚写ったシール。
レイ「あははははは!クーさん、変な顔だよぅ~」
クー「仕方ないだろう。この機械はタイミングを合わせるのが難しいんだ」
レイ「あは、あははははは!美人の変顔って面白いねぇ~~」
クー「…美人と言ってくれるのは嬉しいが、私は至極真面目に撮ったんだ。努力は認めてほしいぞ」
そうしてしばらくの間、レイの朗らかな笑い声がプリクラ機の周りに響き渡る。
それはとてもとても楽しそうで、本当に幸せそうな残響だった。

一方その頃の佐藤さんは、街中をもの凄いスピードで駆け回っていた。止まる事無く二時間も。

佐藤「おかしい、普段ならレーダーが働いてすぐに感知出来るのに。
   …もしかすると渡辺レーダーが感知しない何かに巻き込まれているのか?」

佐藤さん、大体正解。しかも実は目標まで五百メートルを切っていた。

そして時間を見れば、もう夜の十時。近場のチャイムから、タイム.トゥ.セイ.グッバイが流れ始める。
レイ「あ~、楽しかった!いつも私の相手をしてくれるのは吉岡さんだけだったから、
   吉岡さん以外の人と話すのがこんなに楽しいなんて知らなかったよぅ」
クー「吉岡さんとやらは本当に良い人なのだろうな。次に遊ぶ時は是非紹介してくれ」
レイ「うん!!…でももうすぐ、さよならを言う時間が来ちゃうね。時間は生者には永劫じゃないから…」
クー「そうだな。もうすぐ、さよならを告げる時間だ。名残惜しいがな…」
立ち尽くす泣きそうな少女と涼しい顔の少女。仕草や表情は違えど、互いに考えていることは同じだった。
クー「別にもう二度と会えないワケではないんだろう。泣かないでくれ。私も少し淋しいんだ」
レイ「泣いてないよぅ。別に泣いてなんかないよぅ。…淋しいだけだよぅ」

クー「もう、会えないワケじゃないんだろう。君は学校のB組にいるんだろう?」
レイ「うん…でも、この楽しい時間が終わっちゃうのが淋しいよぅ。だから、クーさん」
クー「うん。どうした?」
レイ「ずっと、友達でいて下さい。時々でいいから、私を思い出して下さい」
クー「ずっと友達だ。時々こうして一緒に遊ぼう。…渡辺の体には申し訳無いがな」
レイ「ありがとう、クーさん。ありがとう!!!」
そう言ってレイはクーに抱きついた。子どもが迷子になった時に見つけた母にすがりつくように。
元々渡辺の体が華奢な事もあり苦しくもなんともないのだが、不思議と胸が温かくて、少しだけ愛くるしい。
クーは静かに微笑んで、その体を抱きしめ返す。その行動にレイに対する全ての想いを込めて。

渡辺「(はうぅぅ~。何か誰かに抱きしめられてる気がするよぅ~。助けてぇ、佐藤さ~~ん!!
   …でも、何か気持ちいいなぁ。もうちょっとこのままでいいかも~♪)」

レイ「じゃあ、そろそろお別れだね」
クー「ああ、もう流石に帰らなければいけないからな」
儚げに微笑んで、レイはゆっくりと渡辺の体から離れていく。クーは彼女の存在が心なしか朧げで何かしら危うく感じた。

一方その頃の佐藤さん。某所のプリクラ機前にある自販機で缶コーヒーを飲んで休憩していた。
佐藤「…!!!  反応アリ。 …かなり近くに感じる!待ってて、渡辺さん。すぐに行くから」

レイ「よし、学校に帰らなくちゃ。クーさんと遊んだ事を忘れないように、今日は早く寝るんだぁ♪」
クー「またいつでも遊べるさ。今日からこれが当たり前になるんだ」
レイ「…クーさんが男の子だったら、私はきっと恋に落ちてたと思うよぅ」
また少しだけ渡辺の体に入り直して再びクーに抱きつき、何かを確認するかのようにギュッギュと力を入れている。
レイ「えへへぇ。これでクーさんのあったかさを覚えたよぅ。
   吉岡さんには抱きつけなかったから、クーさんのあったかさで私は今日、夢を見るよ」
クー「私は低体温だぞ。うちのクラスのヒートくらいが体温的には良いと思うが?」
レイ「ううん。温かいよう、クーさん」

レイ「…じゃあ、時間だね。バイバイ、クーさん」
クー「…またね、が正しいぞ」
レイ「…そだね、言い直し。またねぇ、クー。大好きだよぅ」
クー「ああ。ありがとう。また学校で会おうな、レイ」
そして夜の帳の中に溶け入るように、レイは静かに霧散した。

残されたのは二人の少女。抱き合いながらも片側が朦朧としているので、妙に扇情的な光景となっている。
どうやら渡辺の足元はおぼつかないらしく、結果的にクーが抱きすくめる形になっていた。

そのタイミングで現場に登場した佐藤の体からは、勝身煙がゆらゆらと噴出していた。

佐藤「クー×渡辺なんて認めない…。クーさん、貴方がそんな人とは思わなかった。少しだけ衝撃…」
渡辺「…ん?んんぅ?や、やった~!やっと体が動くよ~♪…でも、なんで私はクーさんにくっついてるのかなぁ?」
クー「ん、佐藤?お前は何故ココにいるんだ?ちょうど良かった、渡辺を家まで送ってほしいのだが」
佐藤「今だから言えるわ。クーさん、貴方は大切な友達だった…」
そう言って物凄い殺気を放ち、クーへと向かう佐藤。誤解のしようが無いほど本物の威圧だった。
だが、クーは相変わらず冷静な顔のまま告げる。
クー「佐藤、私も君を大切な友達と思っている。だから、何かは知らないが誤解されたまま負けるのは癪だから
   全力で抵抗させてもらうぞ」 そしてクーも佐藤に向けて駆けて行く。

結局、誤解が解けたのはそれから二時間後の事。その間にクーと佐藤の近くにあった物体はほぼ壊滅状態だった。


time to say goodbye アフター

そして数日後。

男 「また今日も友達の所に行くのか?」
クー「ん。そうだ。休み時間を使わないと中々会えないからな」

たまに休み時間に姿を消すクーと、

レイ「クー!!遊ぼうぅ~~♪」
クー「また体を借りたのか…渡辺も大変だな」
渡辺「(ふえぇぇ~~~。また体が動かないよぅ~~。助けて、佐藤さ~~ん…)」
佐藤「…助けを求める声が聞こえた」

たまに情緒不安定になってくクーに抱きつく渡辺、それを引き剥がそうと内心必死になって駆け出す佐藤の姿が
D組の日常になり始めていた。

time to say goodbye(さよならを言う時間)は、life to say hello(挨拶を言う生活)への回帰。
また会いましょうという約束の時間。だから、寂しくなんてないのだ。


クー「そうだろう?レイ」
レイ「うん、そうだねぇ。クー♪」

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