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街角の新ジャンル


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「……はぁ」
意味もなく溜め息をつきながら休日の朝の街中をふらつく。
無意識に携帯でVIPに繋いで、『新ジャンル』で検索をかけた。
間違いなく末期だな、と自嘲気味に微笑んでみた。きめえ。

「……ん」
まだ葉の蒼い並木通りを歩いていると、前方に跳び跳ねる少女…いや、幼女を発見した。
やたらテンションが高い幼女だな、と思ったがそうではなかった。
跳び跳ねる先に視線をやると、並木の半ばくらいの所に風船が引っ掛かっていた。

「風船が引っ掛かっちゃったのか?」
「え?…そ、そうだけど…」
幼女の身長ではあと何百回跳んでも届かないだろう。
「…よっ、と」
俺は風船を枝の間から外すと幼女に差し出した。
「あ…べ、別に私一人でも取れたんだからね!…でも、ありがと」
幼女は顔を赤くして喚いた後にぼそりと礼を言い、去っていった。

…素直じゃない幼女だ。

並木通りを抜け、いつものゲーセンに立ち寄る。
馴染みの格闘ゲームや麻雀で暇を潰す。休日ゆえか人は多めだった。

「あれ?ねえ、このUFOキャッチャー動かないよ?」
「そうね、まずはお金を入れましょうか」
間の抜けた感じの娘と冷めた口調の娘がUFOキャッチャーに興じていた。
友達と呼べるような存在と最後にゲーセンで遊んだのはいつだったか。
思い出せなかった。

麻雀中によそ見と考え事をしていたせいで、思わぬ振り込みを喫してしまった。
……腹が減ってきたな。
惨敗した麻雀を早々と切り上げ、俺はゲーセンを後にした。
あの二人はいつの間にかいなくなっていた。

俺は空腹を満たすべく街をさまよった。
別にマックでも構わなかったが、今日は知らない店に行ってみたい気分であった。

少し裏路地に入ってみると、なんとそこには看板を持った娘さんがいた。
これがホントの看板娘。素晴らしいセンスだ、と思った。
娘さんが持っている看板には、『今日のオススメ:トンカツ定食』と書かれていた。
…トンカツか。悪くないな。
ふと、看板娘さんと目が合った。
一秒後、娘さんがにこっ、と微笑みをくれた。…可愛い。
今日の昼食が決まった。

「いらっしゃい」
店長とおぼしき声がぶっきらぼうに俺を迎えいれた。
トンカツ定食を、と注文すると、あいよ、と気持ちのいい返事が帰ってきた。
トンカツ定食はすぐに出来た。かなり手慣れている様子だ。

「んん~、うまいっ!」
びっくりした。
歓喜の声に反応して振り返ると、女子高生くらいに見える娘さんがご飯をがっついていた。
心から幸せ、という表情を浮かべて銀シャリを頬張る。
娘さんが食べているのはドンブリに山盛りになったご飯と僅かな漬物のみであった。

「親父さん、これは…ソウゴン米だな!?」
「おう、やっぱり気付いたか。たまたま手に入ったんでな…」
「このツヤ、こく、キレ、甘み…流石はソウゴン米…!」

米の種類が判るのか。ソウゴン米…聞いたことのない銘柄だ。
よっぽど米が好きな娘さんなのであろう。
俺も一口食べて納得した。文句なしに旨かった…
トンカツも、ご飯も。

…ご馳走様でした。
『おう、また来なよ』
親父さんのさりげない、そして暖かい言葉が有り難かった。

朝よりも少しだけ軽い足取りで、俺は古本屋に入った。

「…すまない、そこの人」
漫画を立ち読みしていたら、綺麗で少し小柄な女性に話しかけられた。
もしやフラグか?…もちろん違った。
「上の棚にある、あの本を取って欲しいのだが。お願いできるか?」
まるで男のような口調が、この人のクールな美しさを引き立てていた。
「これですか?」
「いや、その右隣りだ…そう、それだ」
はい、とお望みの本を手渡す。
女性は真っ直ぐに俺を見つめ、ありがとう、と礼を述べるとレジへと向かった。

今朝の幼女とは対照的な人だな、と思った。

しばらくの間漫画を読みふけっていたが、ちょっと飽きてきた。
とくに新ジャンルのネタになりそうなものは無かった。まあ人生そんなもんだ。

我が家である安アパートへの帰路の途中、公園に差し掛かった。
10月とはいえまだ暖かな陽差しの下で人々は楽しげなひとときを過ごしていた。

噴水のへりに腰掛け、一息つく。
わあっ、と、噴水から見える広場で喚声が沸き上がった。
何事かと様子を見に行くと、そこではサッカーの試合が行われていた。
どうやら女の選手だけで試合をしているようだ。
ひときわ大きな声が響いた。

「うおおおぉぉっ、いくぞぉぉぉ!!」
ダッ!
その選手はボールを奪うと疾風のように駆けた。
瞬時にシュートの射程に入ると、右足を大きく振りかぶり、
「おりゃああぁぁぁっ!!!」
バシュッ!
容赦ないパワーでボールを蹴った。ゴールネットが激しく揺れた。

熱い女が活躍を続ける公園を後にして、俺は再び並木通りを歩いている。
「……」

…つけられている?
金も容姿も夢も希望もない俺にまさかストーカーがつくとは。
意を決して振り向くと、そこにはイメージしていた黒服の男ではなく幼女がいた。
ぽけ~っとした顔で俺を見ている。
……今日は幼女に縁があるな、と思った。

とことこ、とことこ。
俺が歩く後ろを幼女がついてくる。
はたから見れば兄妹に…いや、親子に見えるかもしれない。
とことこ、とことこ。

程なくして、青年がこちらへと走ってきた。
「ひより!こんなところにいたのか…」
…まずい。このままでは俺は幼女を連れ去ろうとした変態扱いを受けるかもしれない。
弁明をしようとしたが、その前に頭を下げられた。
「すみません…この子、人についていっちゃう癖がありまして…」
危なっかしい癖だ。

妹さんですか、と尋ねると、そんなものです、と曖昧な返事をしてくれた。
幼女は青年の後ろについて去っていった。
とことこ、とことこ。

今日の晩飯と夜食を求め、俺はコンビニを訪れた。
適当に旨そうな弁当とカップ麺、そして欠かせない一品であるピザポテトを買った。が。

……足りない!十二円足りない!
小心者の俺は軽いパニックに陥った。
「あれ?お客さんお金足りないんすかwww」
店員の嘲笑う声が焦りを加速させる。
仕方ない、カップ麺を安いやつに替えて…と思った矢先、十二円がレジに差し出された。
驚いた俺に、十二円を差し出してくれたお姉さんが笑いかける。
「十二円、あげるんだよー」
ほんわかした口調のお姉さんが軽くうなづく。
いや、そんな訳には…と断ろうとしたが、
「困った時はお互い様なんだよー。だからいいんだよー」
グリーンダヨー。
優しいお姉さんに礼を言い、恥ずかしさを隠すように足早にコンビニを出た。

ガチャ。
やっと我が家に帰り着いた俺は、ソファにだらしなく倒れこんだ。
いつもと変わらない休日の過ごしかただったが、何故か今日は楽しかった。
無意識に携帯でVIPに繋いで、『新ジャンル』で検索をかけた。
間違いなく末期だな、と自嘲気味に微笑んでみた。こんなのも悪くない。

学園スレの完スレを見届けたあとで睡魔が襲ってきた。
長編の続きを書かなきゃな、とか、いい短編を書きたいな、とか。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。

(完)


~数年後~
作家になった彼は、その日の出来事を元に
ツンデレ クール ヒート ひよこ 優
など、画期的なキャラを多数生み出し、富と名声を手に入れた。

男は思う。
あの日、あの出会いが俺を変えた。
なんでもない少年少女の振る舞いに、なぜあそこまで心を惹かれたのか。

そりゃあ、俺も男だ。同世代の人間を見て、ふとした仕草や言動に心を奪われることもある。
憧れたり、手を貸してやりたくなったり、萌え苦しんだりもする。
しかし、「ときめき」と言えばいいのだろうか。
そういうものを感じなくなった。

もう一度見たい。
俺を突き動かした、あの瞬間を。

もう一度見たい。
胸の奥を擽られるような、今を生きる彼らの笑顔を。

ずっと見ていたい。
あの日の、少年少女の輝きを。

男は服を売った。
家具を売った。 車を売った。 家を売った。 全てを失った。

そして、そして-----------

                --------試立 新ジャンル学園 始動--------