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朝礼前編


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大会当日。受付。
テーブルの上には広げられた書類。その上に無遠慮に投げ出された軍師の足。
窓から射し込んだ朝日が、徐々に室内の気温を上げていく。
「結局12人参加、か。普通のトーナメントは出来ないな。人数があわん」
参加者一覧を片手にコーヒーを啜り、軍師が呟く。

窓枠。腰掛たシュールの右手には三色団子が四本。なぜかアンデルセン持ち。
左手には緑茶入りの……そうとう冷えているのか、
ぐっしょりと汗をかいたやかんが握られていた。
「うむ。試合数に差は出るが、
 試合ごとに対戦者を抽選しての勝ち抜き戦にするしかないな。
 まぁ運も実力のうちと言うし、回復スタッフの腕は保障する。
 あの一家なら間違いなく完全回復してくれるからな。
 試合数を多くこなした方が有利、という見方も出てくるわけだ。
 参加者の好みにもよるだろうが……まぁこの面子なら問題ないだろう」
言って、団子を真ん中の白だけを食べ、腰に手を当てて緑茶を飲むシュール。

「……汚い食い方を……」
「細かいことは気にするな」
続けて一番下の緑を頬張り、再び緑茶を一気飲みしたシュールが席を立つ。
「軍師。そろそろ朝礼の準備をしたほうがいいんじゃないか?」
「……そうだな。で、お前はどこへ行くんだ?」
「魔王を迎えに行ってくる」

「朝礼は8:30開始予定だ。試合開始は
 魔王の演説には45分から10分間用意しておく。遅れるなよ」
「うむ」
先端に残った赤を串ごといっぺんに咥え、
四本の串を上下にピコピコさせながら、校門に向かっていった。

三年教室。

土曜日にもかかわらず、ほとんどの生徒がが出席していた教室は
普段以上に異様な空気に包まれていた。
「……まぁなんつうか。始まるな。武闘会」
両手を頭の後ろで組み、椅子にだらしなくもたれ、「男」が言う。
「優勝者は望みが叶うんだってな……だれが勝つんだろな」
椅子に逆に腰掛けた友が、ニヤリと笑う。
そうだなぁ、と呟いた男は、視線を教室に走らせた。

「クールぅぅうう!勝とうな!!二人で決勝やろうな! な!!」
「まだ参加者の名も対戦表も出ていない。気が早いぞ。もう少し落ち着いたらどうだ」
相変わらず高らかに吼えるヒートと、それを華麗に流すクール。

ただ眺めているだけの、こちらまでうずうずしてくるほどに挑戦的なヒートの瞳。
ただ眺めているだけで、背筋に寒気が走るほどに威圧的なクールの瞳。
その感情差は、二人の能力によってそのまま温度差となって現れる。
談笑しつつも、薄く立つ陽炎。
爆発と氷。
正反対の、二人の能力。

二人は、本当によく似ている。

クールの忠告を聞いているのかいないのか、叫び、暴れ続けるヒート。
しかしそれは自分の調子を確かめ、また高めるためのもの。
決して興奮して自分を見失うことは無い。
椅子に座ったまま腕を組み、微動だにせず横目でヒートを見つめるクールもまた、
平静を装いつつも戦闘が待ち遠しいらしく、数分前からつま先が静かに8ビートを刻んでいる。
普段のクールなら、こういうことはしない。絶対。

対照な性格。合同の根底。
正直、見てみたい対決だ。

㍉子はというと、「俺」と相変わらず端末を睨んでいた。
二人の間に飛び交う、理解不能な横文字。「俺」のほうも相当詳しいのだろう。
ライフルだのマシンガンだの、断片的に知った単語は聞こえてくるのだが、
パワードスーツに積む銃器の話をしていること以外、全く解らない。
聞いていてもつまらないので、他を観察しようと目を逸らしかけたその時。
「㍉子さん」
その二人に割って入る控えめな声。プロセスだ。

「おーう、おはよ。これ例のブツな」
「ありがとうございます」
㍉子が人の頭ほどの大きさの巾着を鞄から引っ張り出し、プロセスに渡す。そして。
「いい?絶っっっっ対手加減しないからね!」
びしっ! とプロセスを指差し、言う。

「えぇ。私もそのつもりです」
しとやかに微笑み、プロセス。
プロセスの異常な計算能力は、このクラスに留まらず誰もが知ってる。恐れてる。
それにしたって、
……パワードスーツだぞ。
ヒートに、クールに、佐藤さんに、
挙句ヴァル姐だぞ。
計算で何とかなる相手じゃないはずだ。それとも、その巾着の中身がそれほど強力なのか。
そんなものを㍉子が、敵に売ったのか。

「プロセスぅぅ!お前も出るのかぁぁ!」
「……はい。お手柔らかに」
意外な人物の参加が嬉しいのか、満面の笑みでプロセスを抱きしめ、
まぁぁけないぞぉぉぉと吼えながら前後にガクガク揺さぶるヒート。
その揺さぶりを読んで自ら揺れているのか、
プロセスの微笑みから発せられる声が乱れる事はなかった。

意外な参加、といえば荘厳さん。

数日前から腕に、足に、擦り傷や痣が目立つようになった。
口数も減り、休み時間が始まるとすぐに教室を出て格技室に篭り、
なぎなたを振るっていたそうだ。
いつも微笑みを携え、輝きを振りまいていた荘厳さんのその変貌に、
皆驚きを隠せ無かった。

そんな荘厳さんは今日、家から持ってきたのであろう、
本物のなぎなたを背負って登校してきた。

2mを超える長さの布包みを持つ荘厳さん。
驚くべきことに、クラス全体がその異様な存在の出席に気づくまで、
3分もの時間を要した。

荘厳さんから、いつものオーラが全く出ていなかったのだ。

椅子に座る荘厳さんの顔に笑みは無く、
眉間にしわを寄せたまま、何かを考え込んでいるようだった。

一方。

口数が少ない分、クールよりもクールだ、と囁かれることもある佐藤さん。
いつもなら、遅刻ギリギリに息を切らしてやってくる渡辺さんを、
今か今かと目を輝かせて待っているのだが……

今日は机に突っ伏し、何かブツブツと呟いていたり。
制服の袖で顔を拭ったり。鼻を啜る音が聞こえたり。

もともと眼力で話す佐藤さん。
強烈な欝オーラに、誰も近づくことが出来ず、慰めの言葉も掛けられない。

渡辺さんがバイトで来れないのが相当ショックらしい。
数日前に大会にエントリーしたらしいのだが……大丈夫なのだろうか。
今はそっとしておこう。

さて優勝候補、ヴァル姐は、というと。
直径5cmほどの円形の金属板に、ニードルでカリカリと何か書き込んでいた。
「ヴァル姐、なにしてるお?( ^ω^)」
「即席のタリスマンだ。こちらの言葉で言うと護符、とでも言った方が解りやすいかな」
独特のオーラに加え口数が少なく、さらにきついヴァル姐。
転入当日は皆避け気味だったが、そこは流石というべきかこの学園。
3日もすれば打ち解け、その毅然とした振る舞いから「姐さん」の愛称をもらい、
何かあれば頼りにされている。

「魔王がリングの管理らしいからな。恐らくリングは魔界の一部の召還なんだろう。
 向こうの空気はあまり肌に合わん。念のため、な」
「な、何が書いてあるのかさっぱりだお……
 ヴァル姐すごいお!そんなこともできるのかお!!(^ω^)」
話し相手は内藤。
物心ついたときから語尾が「お」だったり、
暇さえあらば両手を広げて走っていたり、となかなか変わった奴だ。

「神界から来た私にとっては、こちらの座学の方が難解だ……
 特になんだあの"ぶつり"だの"すうがく"だのは……さっぱり理解できん」
「でも世界史の成績はすごかった気がするお?( ^ω^)」
今でこそ、ヴァル姐のようなキツい人とも話せているが、
小学校・中学校で相当ひどいいじめにあったらしく、
入学時は誰とも目すら合わさなかった。
……いや、今も。

「暗記はまぁ、苦手ではないからな。……ところで内藤。前から気にはなっていたのだが」
「お?( ^ω^)」
「その"かぶりもの"は何だ?」

内藤は、常に『(^ω^)』の大きなかぶりものを冠っていた。
幼馴染のツン曰く、中3の秋以来、人前では決して外さないそうだ。
いじめの発端が顔にあったらしいが、詳しいことはツンも解らないという。
この学園に入学後、ツンドロが何度か盗もうとしていたが、
いつも走っているだけあって内藤の足はすこぶる速く、一旦校庭に逃げられると誰も追いつけなかった。

「……ひみつだお(;^ω^)))」
「そうか。なにか、こちらの世界の流行なのかと思ってな。悪かった」
「ごめんお……(^ω^ )」
「何、私も兜を外さぬ身だ。気にするな」
「……(^ω^ )」
事実、ゾンビや幽霊までもが平然といるこの学園。かぶりもの・奇行の一つや二つ、大した問題ではない。

「……ヴァル姐は、美人だお(^ω^ )」
「む。なんだいきなり」
「……空も飛べるお。羨ましいお(^ω^ )」
「まぁ、神界人だからな」
「力も強いお。頭もいいお(^ω^ )」
「……神界人だから、な」

「ヴァル姐は……飛べない人間を見て、どう思うお?(^ω^;)」

「我らより下等だ、とは思っていたな。ただ……」
「ごめん。もういいお。お邪魔したお( ^ω^)」
「あっ、おい!」
速かった。内藤は自分の鞄を引っ掴み、走って教室から出て行った。

引きとめ、何かを言おうとヴァル姐の伸ばした手は届かず、
寂しそうに虚空を掴んだ後、静かに作業に戻った。
金属板を削る、カリカリという音が、やけに耳に痛かった。

「……人間って怖いな」
「……な」
男と友のため息と同時に、朝礼放送の開始を告げるチャイムが鳴った。